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285 修学旅行 1日目 ⑦

1アズサを除いて食事が終了すると次の本題へと移って行った。

先程ツキヤは俺の傍には既に以前に結婚していた皆が集められていると教えてくれた。

そこから考えると残っているのはハルカ、ワラビ、ミキ、カナデの4人だ

ハルカに関しては以前から既視感の様な感覚を感じていたので誰なのかすぐに分かる。

名前が同じなだけではなく、当時を思い出させるような行動や仕草がしばしば見られた。


ただしヤマネに関しては言い難いんだけど特徴が少ない。

俺達の中では唯一と言って良いちょっと強気なだけの普通の女性だったので見つけるとなると一番難しいだろう。

でも簪を渡せばルリコの時と同様に確認は容易い。

しかし本人となると簪を持った途端に昔の記憶が蘇る事になる。

それ自体が悪い事であるかは別にして彼女たちがそれを望むかと言うのが最も重要だ。

何せ記憶の中にはあの頃に体を重ねた時の、あんな事やこんな事も含まれていると言う事になる。

そんな好きでもない男の記憶を受け取ってしまえば今後の人生に悪影響を与える事しか想像できない。

だからこの事はじっくりと話し合って決めなければならないだろう。


「説明した通り試すかどうかは自分で決めてもらいたい。さっきも説明した通り、もし本人だとしても前世の自分になる訳じゃない。それはルリコが証明してくれているから間違いない。それにこの2人の記憶には俺と会う前の辛い記憶も含まれているはずだ。その事もしっかりと考えてから決めてもらいたい。」


するとハルカは俺の顔をじっと見てくると、いつもの様に表情を変えずに口を開いた。


「ハルヤはいつも自分の事を後回しにしてる。それに再覚醒が出来た時点で私の心は決まっていた。アナタにはその責任を取ってもらわないといけない。」

「良いのか。もし違ったら今迄みたいな関係で居られないかもしれないぞ。」


しかし俺の突き放す様な言葉に返って来たのは今までのハルカが浮かべる事の無かった安らいだ微笑みだった。

どうやら今までの事から、もし違っても俺が遠ざけたりしない事は御見通しのようだ。


「ハルヤがハルヤである限りそれは無い。それにそんな事をしたら自分がどうなるかもしっかりと知ってる。」

「ああ、そうだな。」


そして俺達は揃って横で食べ続けているハルカの方に視線を向けた。

今は既に最初に出された料理を完食し追加の料理を食べている所だ。

なんだか最初の頃に比べて手間の掛かった料理が並んでいるので後で俺も食べさせてもらう事にする。


「それに、もう私の心に灯った気持ちは変えられない。だからもし違っても同姓同名の別のハルカとしてハルヤの傍に居たい。」

「分かった。お前がそれで良いなら俺にも異論は無いよ。」


俺はハルカとヤマネが使っていた簪を取り出すと片方をハルカへと渡した。

すると簪は抵抗なくハルカの手の中に納まるとその口元に笑みを浮かべこちらを見詰めて来る。


「・・・お帰りハルヤ。そしてただいまかな。」

「まさかハルカなのか?」


どう見ても先程までとは明らかに雰囲気が違う。

それにまるで俺の知るハルカが過去から戻って来たみたいにも見える。

しかし俺の言葉をハルカ自身が否定する様に首を横へと振った。


「違うよ。私はもともとそんなに強い感情が無かったの。だから毎日がつまらなくて退屈だった。でも5年前にあなたと出会ってからはなんだか毎日が楽しくて次第にあなたと居られる事が凄く嬉しかったの。」


するとハルカは俺に近寄ると豊かな表情で嬉しそうに抱き締めて来る。

俺もそれに応える様に抱き締め返すけど、その変化の大きさに戸惑う事しか出来ない。


「でも5年を掛けても感情はまだまだ未発達でたくさん足りない所があった。それを以前の私が残してくれた思い出が埋めてくれたからこうして普通の心になるまで急成長できたの。だからあなたの知ってる2人のハルカとは違うかもしれないね。もしかして嫌だった?」


すると、まったく心配して無さそうな笑顔を浮かべて問いかけて来た。

確かに前とは違うけど本人がそれを受け止めているのなら俺から言えることは1つしかない。


「そんな事は無いぞ。これは本格的に責任を取らないとな。」

「それならこれからもよろしくね。でもエッチな事はしばらく無しだよ。ハルヤって意外とスケベなんだから。」

「男というのは生まれついての狼なんだよ。」

「フフフ。ハルヤは娘が生まれると皆にそう言ってたよね。後で誤解を解くのが大変だから次からは偏った教育はしないでね。」

「・・・善処します。」

「も~仕方ないなハルヤは。でもこれからはもっと皆と一緒に沢山の事を楽しめるからいっぱい幸せにしてね。」

「ハルカが望むならな。」

「ならハルヤもいっぱい幸せになってね。それも私の・・・私達の望みなんだから。」

「分かったよ。」


そしてハルカが顔を上げて迫って来たので普通にキスをして返しておく。

その時だけはなんだか初々しくて終わると顔を真っ赤にしていたのでとても可愛らしく見える。

やっぱり記憶は記憶でしかないと言う事なのかもしれないな。


「私のファーストキス。今回は初めてを全部ハルヤあげるから楽しみにしてて。」

「そうさせてもらうよ。言っとくけど俺は我儘で独占欲が強いからな。」

「分かってる。」


そして互いに笑い合うと体を離して座り直した。

あまり1人とだけ引っ付いていると周りがヤキモチを焼いてしまうからだ。

でもこうして現代に帰って来て自分を振り返れば何股も掛けてるクズ男に見えて来る。

俺はちゃんと今回も皆を幸せに出来るだろうか?


そして最後に残ったワラビに視線を向けるとやはりと言うか少し悩んでいるみたいだ。

やっぱり普通は今の関係が壊れるかもと思えば簡単には試せないだろうな。


「ごめんハルヤ。」

「気にするな。お前が誰でも俺達には5年も一緒に過ごした思い出がある。これからもずっと友達な事に変わりは無しさ。」

「ううん。そうじゃなくて・・・その、ずっと前から思い出してたんだ。私の前世はヤマネなんだよね。」

「「「え!?」」」


するとこの事に関しては誰も知らなかったみたいで、ハルカですら目を丸くして驚いている。

しかし俺はヤマネの簪をずっと持ったままで一度も見せた事は無い。

いったい何時から記憶が戻っていたのだろうか?


「誰かからヤマネの事を聞いた訳じゃないよな?」

「誰から聞くって言うのよ。なら私しか知らない事を教えてあげる。・・・ゴニョゴニョ~。」

「・・・はい。ワラビはヤマネです。だからその事はアズサに言うなよ。」

「分かってるわよ。あの時に約束したでしょ。」


ワラビが俺の耳元で言ったのは前世の時に2人でやった摘まみ食いの事だ。

コイツは俺と同じでその辺が普通の感覚なので一緒に色々な事をした。

なので記憶がない状態では見分けは付かないけど、思い出してしまうと俺達2人しか知らない事をたくさん知っているので判別は簡単だ。


「ねえ、何を話してるの?」

「「イヤ、ナンニモ。」」

「なんだか怪しいけど確かにこのやり取りはヤマネだね。」


するとヤマネを知る皆も納得してくれたようで呆れながらも頷いている。

ある意味では記憶を取り戻すと一番に弱みを握られている相手とも言える。


「だから・・・ん!」


そしてヤマネはそれを分かっているのか自信満々に両手を俺に向けて来る。

その右手には指輪の入っている箱が握られ、反対の手は自然な形で指を伸ばしている。

どうやら早く指輪を嵌めろと言っているのだろう。


「今日からまた一蓮托生だよ。」

「その通りだな。これからも頼むぞ。」

「任せて。シッシッシ!」


なんだかワラビの性格と合わさる事で前世にも増してお調子者になっているみたいだ。

これはアズサにバレて過去の事を吐かされるのも時間の問題かもしれない。

俺も年貢の納め時と思って覚悟だけはしておこう・・・。

アズサでもミズメでも摘まみ食いに時効は存在しない

きっともう一度その恐怖を味わえば少しは大人しくなるだろう。

その時は俺も一緒に怒られる事になるので、まさにワラビが言う様に一蓮托生と言って間違いない。


「それで何時からなんだ?」

「実は5年前のキャンプの時から。あの時にアズサが持ってた簪を触らせてもらった時に記憶が戻ったの。」

「そういえば皆で生活してたからヤマネ達も触れる様に設定してたんだよな。それで思い出せたって事か。」

「そういうこと。」


そして俺の方は説明を聞いて納得しているけどアズサに関してはそうではなさそうだ。

それどころかちょっと驚いていると言うか怒っているようにも見える。


「え!私知らないよ。」

「エヘへ・・・。寝てる時にそっとね。」


そう言ってワラビはウインクをしてテヘペロをして見せると自分の頭に緩くゲンコツを落とした。

それに対してアズサは悟りを開いた様な笑みを浮かべワラビへと近づいて行く。


「そうなんだ。ウフフフ。」

「そうなんだ。アハハハハ。『ガシ!』へ・・・あの?」


しかしワラビは迫って来る般若には気付けなかったみたいだ。

既にその肩は重機よりも強い力で締め付けられ完全に自由を奪われている。

こう成ってしまうと、もう俺にも助ける事は出来ない。

さらばヤマネ、さらばワラビ。

もう今の君に会う事は無いだろう。

そしてワラビを拘束したアズサはズルズルと引き摺りながら部屋の隅へと移動を開始した。


「ちょ~と色々とお話ししようかな。その屏風の裏を借りるね。」

「あ、ああ。構わんぞ。好きに使うと良い。」

「それではしばらく失礼しますね。」

「ハルヤ~助けて~!」

「諦めろ。」


そして2人が消えて行った屏風の裏からは地獄の鬼よりも恐怖を誘う声と、地獄の亡者を上回る悲痛な叫びが聞こえて来た。

それを聞いて傍に居た護衛達は咄嗟に逃げ出し、天皇は座ったまま気絶している。

俺達はある程度の耐性があるので遠い目をしてお説教が終わるのを待ち、カブトとナミエは感心した様な目を向けていた。

やっぱりアズサのお叱りは閻魔の補佐すら感心させる程の威力があるみたいだ。


しばらくすると話が済んだらしく2人が揃って屏風の裏から姿を現した。

しかしアズサの怒りは静まったようだけどワラビの様子が少しおかしい。

その見開いたままになっている目には光が無く、まるで良く出来た人形のようだ。


「あの・・・アズサ。ワラビは大丈夫なのか?」

「何を言いたいのか分からないけど、ちゃんと目も開いて歩いてるよ。ねえワラビ。」

「私はワラビ。今日から良い子になるの。」

「お、おいワラビ。大丈夫か!?」

「私はワラビ。勝手に人の大切な物には触らない良い子になる・・の・ののの#$&%!」

「お~い!ワラビー!カムバーーーク!」

「私は・・・。」

「ダ、ダメだ。完全に正気を失ってしまっている。」


きっとワラビはキャンプの時にアズサに触らせて欲しいと言ったけど大事な物だからと断られたのだろう。

なのに寝ている間に触り信頼を裏切ってしまい、その怒りがワラビをこんなにしてしまったに違いない。

『ガシ!』


「え!?」

「ワラビが昔の事も含めて色々と教えてくれたよ。今度はハルヤの番だからね。」


そして今度は俺がワラビの時の様に屏風の裏へと姿を消す番だった。

しかし、そこでの事は筆舌に尽くしがたいというか、ぶっちゃけよく覚えていない。

気が付けば夕方になっていてアズサがずっとヤケ食いをしていたと後で教えてもらって知った程だ。

その後、俺とワラビは修学旅行から帰ってしばらくアズサに色々と食べ物をお供えする事にした。

もしかすると、ここで食べ放題をゲットしていなければもっと恐ろしいお叱りがあったかもしれない。

やっぱり悪い事はしてはいけないという事だろう。

特に摘まみ食いという大罪を犯しては地獄に落ちてもおかしくないのだ。

今日はそれをしっかりと刷り込まれるような反省させられる1日だった。

そして夕方と言う事で自由時間を終え、指定されている旅館へと向かう事にした。


「そうだ。安倍家の2人に関してはこちらで処理しておいたからな。」

「ああ、助かるよ。」


帰り際に天皇がさっき勢い余って殺してしまったカツトと近くで死んでいた術者について教えてくれた。

今までその存在を忘れていたけど車で死んでいたのは安倍家の当主だったそうだ。

ただし奥さんナミエさんは既に死んで鬼人になっていおり1人息子は俺が殺している。

次の近親者は当主の兄だと言う事でそちらへと送ったらしい。

もともと荒事には慣れている家系なのでバラバラな状態で送り返しても大丈夫だろうという事だ。

きっと今回の事で俺達に手を出すとどうなるかという戒めも込めているのだろう。


「それではな。機会があればまた会おう。」

「次に会う時は料理人を20人用意してくれよ。」

「・・・善処しておこう。」


実を言うと準備されていた料理人は疲労の末に今はベットの上で寝込んでいる。

一応は回復はさせて来たけど天皇も食べるかもしれない料理に手を抜けず、精神を擦り減らしてしまったようだ。

権力者の家に呼ばれて料理を作るのは名誉な事なのかもしれないけど大きな重責も背負っていたのだろう。

次からはその辺をふまえてもっとラフな料理屋から呼んでもらいたい。

例えばお好み焼きやモンジャ焼きでも俺達は庶民なので十分に満足が出来る。

串焼きでも良いのでその辺は後で伝えておこう。


「それではご馳走様でした。」

「あ、ああ。次はもっと美味しい物を用意させてもらいます。」

「フフ、何で敬語なんですか?でも期待していますね。」

「ま、任せて下さ・・任せておけ。」


もしかすると天皇にも何かのトラウマを植え付けてしまったのかもしれない。

直接叱られたワラビはいまだに戻って来ないので少し心配になって来る。

そして、それぞれにお礼を言うと屋敷を出て旅館へと向かって行った。



そして、その頃の屋敷では・・・。


「カブト様。これからどうしますか?」

「そうですね。もう1人回収が必要ですからしばらく様子を見ましょう。」

「分かりました。それと私も実は料理が得意で先程の味なら再現できますよ。」

「そうですか。なら仕事が片付いたらご馳走になりましょうか。」

「は、はい!頑張ってお作りします!」

「楽しみにしていますよ。」


そして2人はそんな会話をしながら楽しそうに笑い合い町へと消えて行った。

しかし、それを目で追う者は誰も居らず、気付く者さえ居ない。

だが、その向かった先はハルヤたちと同じ方向であり、それはいまだに今回の問題が終わっていない事を暗示していた。

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