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277 外来種 ②

俺はここの環境を生かしてある事をお願いするつもりでいる。

その為の準備は既に終わっていてアズサ達が捕獲に向かった溜池をそのまま養殖場として作り変えてもらった。

それにここの人ならカミツキガメの危険性を十分に理解しているので他に依頼をするよりも信頼できる。

世界的には日本人は真面目で勤勉と言われているけど、それは全ての者に当てはまる訳では無い。

しかし、ここにはカミツキガメが育つ環境、その危険性を知る人々という好条件が揃っている。


ちなみに軽く説明すると日本では外来種が入って来る方法が大きく分けて3つある。


1つはお約束と言うか、食料として輸入したは良いけど食べずに捨てたり逃がしたりして定着してしまった場合だ。

これは生産者が無責任な場合が多く環境が元の生息地と違うから放置すれば死に絶えるだろうと勝手に考えで広がった場合が多い。

でも生き物というのは意外としぶとくて環境に適応するために必死に生きようとするものだ。

それは人間も同じなのだから知能が低いからと甘く見てはいけない。


そして2つ目は何らかの形で知らずに入ってきた場合で、最近では蟻や蜘蛛などの小型の生き物が有名だ。

俺の地元でもアルゼンチン蟻やセアカゴケグモなどが居る様でネット上でも注意が呼びかけられている。


そして3つ目がペットとして飼っていた生き物を捨てる場合だ。

これに関しては俺が持っているワニガメや目の前で山になっているカミツキガメもだけど、魚ならブラックバスやブルーギルなどが有名になる。

それ以外だとアメリカザリガニ、アライグマ、ウシガエルなどはテレビでも良く見るだろう。

最近ではソウギョ、ライギョ、メダカなども有名かもしれない。


だから逃げられない環境を作れればここで養殖は可能ということだ。


「それでですけど、これからカミツキガメの養殖をしてみませんか?」

「は?一体何を言っているんだ!?もし逃げ出して広がったら・・・。」

「その時は僕達がまた駆除に来ますよ。それとどちらかと言えば俺達の代わりに養殖をしてもらいたいんです。」

「どう言う事だ?」


実はカミツキガメに関しても既に実食が終了している。

下見も兼ねて来た時に数匹捕まえて持って帰り食べてみたけど、ここに住む天然物も美味しい事が分かった。

しかし言葉だけで説明しても分からないだろうから論より証拠を提示することにする。


そう思って俺は先日作ってもらった亀の串焼きを取り出し、これはトウコさんが経営している飲み屋の料理人が作った物だ。

だから料理スキルは一般人よりも少し高いかな程度で後は本人の実力によって味が左右されている。


「これが皆さんを苦しめていた亀の成れの果てですよ。」

「・・・普通にタレ串になってるな。」


男性はそれを手のすると積年の恨みを晴らすかのように豪快に嚙り付き、口を動かしてしっかりと味を確認し始めた。


「悔しいが美味いなこれ。鳥として出されても気付かずに食べてしまいそうだ。」

「そうでしょ。既にそちらで養殖をしてくれるなら買い手もいますよ。しないなら別の所が人を雇って始めるそうですけど。」

「それは確かに新しい産業になりそうだな。最近は技術が向上して畑の仕事も頻繁に手が空いているから亀の駆除に時間を割いてたくらいだ。ちょっと施設とやらも見せてもらえないか?」

「良いですよ。」


そして俺はここに集まっている住人の半数を連れて養殖場へと向かって行った。

そこは今日の朝までは溜池と言うのも名ばかりの放置されて沼の様になっていた所だ。

しかし今は湖の様に水は澄み渡り、底の砂は砂浜の様にサラサラとしている。

周囲は壁とフェンスに囲まれ、横には既に管理棟としての小屋が作られていた。

ちなみにフェンスはダンジョンで手に入れた剣などの金属を加工した物だ。

アンドウさんに相談すると丁度良く錬成の出来るスキル所持者を集めて練習を行っていたので格安で作ってくれた。

ただし、それだと壊れてしまう可能性があるので俺の方で強化はしてある。

ダンジョン産の素材なのでスキルの効果が高いのでとても助かった。

その光景を見た住民たちは驚きながら周囲を確認して回っている。


「まさか家まで立ってるとは思わなかった。」

「それにここまでの道も整備されてたぞ。」

「水が全然臭くなくなってるわ。」


道に関しては草木が生い茂っていたので刈り取って除去し、地面は草が生えない様に固めて綺麗にしてある。

広さは二車線分で元々あった道を広げて綺麗にしただけなので俺達にとっては簡単な事だ。


それに池の底には枯葉等が堆積してヘドロとなっていた。

そこはアズサ達が魔法で綺麗にして土を作り直してくれたので臭いも消えている。

もともと水が綺麗で底から湧き出ている所だったので、ちゃんと管理する人が居れば長持ちするだろう。


「困った時は専門家も紹介してくれるそうですよ。」

「確かにそれなら今からでも出来そうだな。でも出荷はしばらく先になりそうだな。」

「そこは今日の捕獲したカミツキガメを出荷すれば大丈夫ですよ。我々は今日の半数を持て帰るだけで十分ですから。」


これから亀肉を浸透させていくのにも時間は掛かるだろう。

流石に爆発的に人気が出るなんてことは無いはずだ。


「それなら餌の仕入れからか。それと漁協の奴等とも上手く協力して行かないとな。」

「それと餌に関しても当てがありますよ。」

「お前はどれだけ準備万端なんだ。」


すると男性は苦笑しながらも呆れた様な顔を向けて来る。

でもこちらはサービスではなく、ある意味ではゴミ処理に近いかもしれない。

だからこの餌に関して言うなら使ってくれるならお金を取るつもりは無く、これからしばらくはこちらから供給して行くつもりだ。


「実はコイツなんですよ。」

「これは・・ブラックバスか。そう言えば傍の川にも生息していて鮎が食われて困ってるらしいな。」

「流石に稚魚も含めて1日で駆除とはいかないんですけど既に大量に捕まえてあるんですよね。」


そして、こちらに関しては既に数トンの漁獲量がある。

コイツ等は今では誰がどういった意図で広めたかは分からないけど色々と問題になっている。

駆除に関しても賛否はあるけど、実際にそこで働き被害を受けているのは専門家や釣り人ではない。

なのでまずは大きな個体を潰して行きそれと同時に他の外来種魚も間引いて行くつもりだ。

それにブラックバスを釣るのはスポーツフィッシングで殆どの人が食べずに逃がすのが一番の問題と言える。

それに対して他の魚に関しては人間が捕獲して食べている物も多いのでバランスが悪いのだ。

文句を言うなら毒が無い魚なのだから釣ったならちゃんと食べてもらいたい。

それなら釣り人の増加と合わせて個体数が減るのでこんな事をしなくても良い筈だ。

釣りは元をたどれば遊びではなく食料を得る為の手段なのだから。


「そういう訳で、しばらくはこれをメインに与えてください。困った時にはこの紙に書いてある連絡先に電話すれば相談に乗ってくれるはずです。」

「分かった。俺達の方でも少し頑張ってみるさ。」


その後もこの辺の地図を手にして養殖場となっている場所へと向かって行った。

ついでに近くに居た取り残しも放り込んだり、孵化していない卵を見つけたりなどして自然繁殖の目を潰していく。

ただ、完全に駆除をすると養殖場の亀が全滅した時に困る。

数年単位で動く予定なのでその辺は適当に調節し、自然界にも残しておくつもりだ。

どおせ失敗してもお金は殆ど掛かっていないのだから問題ないだろう。


そして戻ると生徒たちの方は既にお金を受け取ってホクホク顔だ。

臨時収入なのでそれを手にしてこれから飲み会にでも行くのだろう。

ただし、その横では今も集計が行われている。

もちろんそれはアズサ達が捕まえた物で数千匹は居るだろうか。

流石この辺にある群生地を丸々潰して回っただけはある。

その光景にここに残っていた住民の人達も既に呆れ顔だ。

それは俺と戻って来た人たちも一緒の様でこちらは苦笑いを浮かべている。


「アンタの連れは規格外か?」

「まあ、そこは否定しませんけどこれで5000匹は出荷できそうますね。今後もあるので相手と話してしっかりと値段交渉をしてください。」

「ああ、その辺は大丈夫だから任せておけ。」


ここで相手はトウコさんですよとは言わないでおこう。

あの人も自分だけの利益で動く人ではないので常識的な値段を提示してくれるはずだ。

それにしばらくはお金は入って来るだけなので大丈夫だろう。

あの人ならこちらで何かトラブルがあっても解決してくれると思う。

例えばここに居る農協の人と、これから話をする漁協の人の間でトラブルがあった場合だ。

まあ、販路はあの人が完全に抑えているのでしばらくは大丈夫だろう。


「それじゃあ喧嘩をせずに頑張ってください。」

「ああ、折角の話だからそうさせてもらうさ。」


そして全員の支払いも終わり解散しようかなと思っている時にアズサが何かをやっている事に気が付いた。

どうやら亀の解体を実演すると同時に皆に振舞っている様だ。

見ると預けておいたワニガメも解体されてしまい甲羅などの残骸が地面に転がっている。

預けただけなので仕方ないけどあれでは実験に使えそうにない。

まあ養殖が上手くいけばそこで答えが出るだろう。

今は普通の浄化だけでも臭味が取れると分かっただけでも十分だ。


そして今回は少し手を加えて竜田揚げにするみたいで材料が既に置いてある。

酒、醤油、おろし生姜を混ぜ合わせて片栗粉を付け揚げており、香ばしくて言い匂いが漂ってくる。

味の似ている鳥や癖の強い鯨でも良くある調理法なので初めて食べる人でも手が出やすいだろう。

今はまるで料理教室の様になっていて他の皆も鍋に油を入れて一緒に揚げていた。

しかし、その様子から殆どの者が普段から料理をしない事が分かる。

手付きも危なげな者も多くまるで子供が料理をしている様で刃物で怪我をした者も居るようだ。


「火を強め過ぎないようにね。醤油を使ってると焦げやすいから気を付けて。」


焦げたら苦みが出て味が落ちてしまう。

だからと言って火力が弱いとカラッと揚がらずにベチャっとした歯触りになる。

しかし俺だと揚げる所まで辿り着けれないので彼らは十分に頑張っていると言える。


そして調理を終えた者から口に運び、又は分け合いながら笑い合って食べている。

そこに男女の隔たりは無く亀を調理して食べているという事を抜きにすればとても楽しそうだ。


「お前の揚げ過ぎだろ。」

「私のは美味しく出来たわよ。特別に食べさせてあげるわ。」

「ならば俺の失敗作と交換してやろう。」

「要らねえよ。自分で食って処理しやがれ。」


なんだか料理教室が立食パーティーに変わっており、お酒や野菜のフライまで並んでいる。

これならこの後に皆で飲みに行くにしても楽しめるだろうけど、ここだけでお腹がいっぱいになりそうだ。

すると俺の許へとアズサ達も来て串に刺した肉を渡してくれる。

ただ何処からどう見てもそれは亀肉ではなさそうだ。

だって形が手羽先に似ているし、衣が付いていない足先には水掻きの様な被膜が見える。

そういえば空間把握によると、この辺にはもう1種の外来種が居るようだ。


「もしかしてウシガエルかな?」


周りを見回しても亀を食べてる奴は居るけどカエルを食べている奴は1人も居ない。

どうやら流石にこちらを食べたいという奴は誰も居ないらしく、それでさっきからこちらを見ない様にして背中を向けている訳だ。

何とも冷たい生徒たちだけど、いったい誰に似てしまったんだ。

しかしカエルは過去へ行った時に食べた記憶がある。

あの時は焼いただけで美味しくなかったけど今はちゃんと味付けがされている。

それにアズサが作った物が不味いはずは無いので有難く頂く事にした。


「味見第一号だよ。」

「名前に牛が付くんだからきっと美味しいよ。」

「お口を開けてください。」


なんだか可笑しな言葉が聞こえて来るけど不味い事はないはずだ。

それに蛙となるとイメージ的に女の子にはハードルが高いので口にしてはいないようだ。

ミズメなら躊躇なく食べているので逆に今の状況は安心できるけど、ここは男を見せる時なのかもしれない。


「それでは頂きます。」


そして口を開けると皆は一斉にカエルの足を押し込んで来た。

まあ、キメラ化を制御して胃液を狼で強化すれば骨も殆ど残らないだろう。

俺はバリボリと音を立てて咀嚼すると口の中の肉を飲み込んで見せた。

「流石は教官だな。俺にはあそこまでの愛情表現は無理だぜ。」

「私もいつかあそこまでの愛を向けられたいわ。」

「見た目がアレだと危険なロリコンにしか見えないけどね。」

「でも教官って見た目は普通なのにファンも多いのよね。」

「やっぱりあの愛する相手にだけ向ける笑顔や優しさを感じてみたい人も多いのよ。」


すると後ろで見ていた生徒たちがヒソヒソとこちらを見ながら内緒話を始めた。

でもここまで聞こえているのだけど意外な意見も多いみたいだ。

それは置いておくとして、カエルは油が無いのでササミの唐揚げに似た印象を感じる。

淡白なのでそれに合わせてあっさりにしている味付けが良く合っている。


「どうだった?」

「美味しかったよ。臭味が消せるなら天婦羅にして天ツユでも食べられそうだ。」

「ならお肉を削いで蛙丼にしてみようよ。」

「梅肉や紫蘇焼きでも良いかもしれませんね。」


確かにユウナの言う料理は美味しそうだな。

でも流石に蛙の肉が入った親子丼風蛙丼は食べる人を選ぶんじゃないだろうか。

ただ作ってくれたら食べない選択肢は無いので2人の頭を撫でながら「程々に」と声を掛けておく。


「スゲーな。流石に蛙丼は俺には無理だぜ。」

「俺もだ。」

「教官の味覚が広範囲過ぎるだけじゃないのか。」


そして後ろで男性陣が驚いているけど数人の女性陣が蛙をネタアイテムとして捌き始めたぞ。

どうやら彼らにも試練が訪れる時は近そうだ。

そして、その後も手持ちの食材で料理を作ったりしながら楽しく過ごし、近くにあるという酒蔵から酒を取り寄せたりして夜まで過ごす事になってしまった。

しかし彼らも解散後に飲み会をすると言っていたので丁度良かっただろう。

流石に300人の会場となると探すのが大変なので分散する事になっていたはずだ。

それなら野外でこうして集まって珍味と美味い料理を片手に酒を飲むのも一興と言える。


何人も連絡先を交換したり、良い感じになってる組も居たので成功と言えば成功かもしれない。

そして日が沈むと自然と解散となり車に乗り込んで帰って行った。

俺達もそれを見送ると家へと帰って行き、明日の買い物に備えて早めに眠りに着いた。

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