274 野外活動 4日目 ③
シュリの許に向かおうとする光球は途中に現れた者によって横から掠め取られた。
「2人を始末してくれてありがとう。これでようやくこの力も手に入れる事ができます。」
そう言って火の大精霊は力の塊を口に押し込むと一気に呑み込んでしまった。
するとその姿が変わり始め、赤一色だった髪に青と緑が加わって3色へと変わる。
そして更に肩までしか無かった髪が腰のあたりまで伸び、少し幼かった体が大人らしい妖艶な見た目へと変わって行った。
なんだか最後のは要らなかった気がするけど、ツルペタな体型にコンプレックスでもあったのだろうか。
そして、成長した体(特に胸)を確認するとちょっと嬉しそうに言葉を続けた。
「これで土とオリジンを取り込めば私は完全に成れます。そうすれば私こそが最強の精霊。新たなオリジンとなり全ての精霊を支配できる。そうなればあの方も私の事をもっと認めてくれるに違いありません。」
火の精霊は嬉しそうに笑いながらシュリ達の居る場所へと視線を向けた。
しかし、それも僅かな時間に過ぎず、すぐに俺達へと邪魔者を見る様な顔を向けて来る。
それにしても後ろで大人しく見ていたのは漁夫の利を狙っていたからのようだ。
水と風の大精霊ではアズサに勝てないと分かっていたんだろうけど、それはさて置き次の相手は俺という事で間違いないだろう。
あっちもやる気みたいだし、今回は良い所をまるで見せれていないので頑張らないといけない。
「それなら選手交代して第2ラウンドと行こうか。」
「もしかして1人で私を倒せると思っていますか?」
すると精霊は不機嫌そうに聞いてくるけど、アズサは既にやる気を失っている。
般若の仮面は既に消え去り、刺々しかった鎧も普通に戻ってしまった。
こちらは実行犯を懲らしめたので気が済んだみたいだけど心ここに在らずと言った感じだ。
今の状況では新しい燻製やベーコンも作れないので気分もかなり沈んでいるだろう。
「アズサはどうする?」
「戻って不貞寝するよ。」
一応は聞いてみたけどやっぱりかなり凹んでいるみたいだ。
せめて飛んで行った食材を見つけられれば少しは元気が出るんだけどな。
そう思っているとキャンプ場の方から風を切りながら鳴り響き1本の矢が飛んできた。
俺はそれを受け取り矢を見ると鏃の根元に音が鳴る様に細工が施されている。
確かこういうのを鏑矢と言うのか、戦国時代で戦っている時に何度か見た記憶がある。
そして、それには文が括り付けられているのでどうやら矢文でもあるみたいだ。
その文を解いて開けてみると中々に素敵な事が書かれている。
「アズサ。」
「どうしたの?」
「ハルカが飛んで行った燻製とベーコンを見つけたから綺麗にして夜食にしようって言ってるぞ。」
「・・・本当!すぐに戻るからハルヤも早く戻って来てね!」
「ああ、そのつもりだ。」
そして、この瞬間に勇者の称号が更に強い反応を示して俺の力を底上げしてくれる。
しかしアズサが背中を向けて飛び去ろうとした瞬間に精霊が手を突き出すと隙を突いて攻撃を放った。
「逃げられると思わない事です!」
そして放たれた炎は槍の様に細く収束されてアズサの背後から襲い掛かる。
しかし、それを見過ごす様な俺ではなく、その炎の槍の軌道に手をかざすと躊躇の欠片も無く素手で受け止めた。
すると精霊は炎に包まれ今も燃えている手を見てニヤリとした笑みを浮かべる。
「他人を守る為に片手を犠牲にするなんてアナタは馬鹿なのですか?」
「片手を犠牲?俺が馬鹿ならお前は目に重大な問題があるんじゃないか?」
そう言って炎が纏わり付いている腕を振って炎を払い落とすと、その下から現れた掌を見せてやる。
本気の攻撃では無かったのだろうけど、そこには火傷の痕どころかダメージ受けた形跡もない。
その結果を見て精霊はニヤついていた顔を引き締めると冷たい表情を浮かべて睨みつけて来る。
「どうやら唯の馬鹿ではないようですね。」
「その通り。唯の馬鹿じゃないんだなこれが。」
実際にアケミとユウナが使うダブル・ロスト・インフェルノに比べれば微温湯と変わらない。
もし俺に火傷と言える程の傷を負わせたいなら魔界から黒炎でも呼び出すんだな。
そうすれば俺も気分が乗って熱いフリくらいはするかもしれない。
すると精霊は何かをするつもりなのか足を肩幅に広げて腰を落とし拳を腰の高さに構えると歯を食いしばった。
これでオナラなら遠くでこちらの成り行きを見守っているシュリも大爆笑だろう。
下手をしたら出てはいけない物まで飛び出すかもしれない。
まあ冗談は置いておくとして、次第に精霊の髪が上に逆立ち体の至る所から炎が吹き始めた。
しかもその色はさっき俺が冗談で思っていた黒色をしている。
魔界があるかは別にして、まさかこんなに早くフラグを回収できるとは思わなかった。
「その余裕もここまでです。私の真の姿の前に恐れ戦きながら死んでいきなさい!」
精霊は全身を黒い炎に包まれると黒い竜人へと姿を変えた。
体長は2メートルと特別大きくは感じないけどゴツゴツとした鱗は鉄よりも硬そうに見える。
「人間風情が!我に逆らった報いを受けるがいい!」
「・・・変身すると口調も変わるのか。でもこいつは何処かで見た事がある気がするんだよな。」
「何を訳の分からない事を言っている。下等な人間にこの姿を見せるのはこれが初めてだ。」
とは言ってもなあ~・・・。
そう思っていると精霊は手から炎を吹き出し、それを剣の形へと変えて握り締めた。
それは身の丈ほどもある大剣でそれを構えた時にようやく記憶が蘇ってくる。
そういえばフルメルトで戦った奴に似てるので、もしかしてコイツがそうなのか?
「ちょっと確認だけど、お前はこれから邪神の為にその身を捧げるつもりなのか?」
「フッ!愚かなお前の為に教えてやろう。我はオリジンに成り代わり精霊の頂点に君臨したあかつきには全ての精霊を我が身に取り込みあの方に全てを捧げるのだ。そうすればあの方を捕らえている封印を破壊するのも容易い。」
「そうなると世界はどうなるんだ。もしかして大変な事になるんじゃないか?」
「そんな事は知った事ではないが数年の内には異常気象が多発するだろうな。だが人間の苦しみこそがあの方の喜びとなる。私を完全に取り込むには数年ほど掛かるだろうが、その後はあの方が新たな私を生み出してくださる。そうなればあの方の一部として新たな生が始まるのだ!」
そういえばクオナが邪神に取り込まれた者はダンジョンの中に現れると言っていた。
そこは歴史が変わる前のダンジョンも一緒なので、あの夜に邪神の封印が緩んだのは元を辿るとコイツに原因があったという事だ。
今は雑魚だけどオリジンまで取り込み世界中の精霊も一緒にとなると可能性は十分に考えられる。
そうなると、もしかして俺の知る未来ではシュリはコイツに殺されて取り込まれたのかもしれない。
そう考えると以前に多発していた世界中の異常気象なども含めて幾つかの説明がつく。
なら、極論を言えばあの夜にアケミが死んだのは・・・。
「貴様が原因だったのかーーー!!!」
「な、なんだ!」
俺はあの時の光景を思い出し、怒りを糧にして自分の力でステータスを書き換え始める。
そして目の前にスキルが浮かび、それが次々と変化していった。
獣化→キメラ化
咆哮→轟砲
加速→超加速
飛翔→転移
五感強化→六感強化
サイズ調整→サイズ調整(制限解除)
望遠→千里眼
鑑定→完全鑑定
剛力→怪力
鉄壁→金剛
そして職業にも変化が生まれ『半神』へと変わると、それと同時に何故か称号に神殺しが追加された。
ただ今はそんな事を考えている余裕はない。
目の前にあの時に見た父さんや母さん。
そしてゴブリンに侵されそうになっていたアズサの姿が鮮明に蘇って来る。
「貴様は・・・殺す!!」
「・・・ま・・・魔王!?」
俺は無意識の中で巨大化すると狼、山羊、ライオンの3つの首を生やした半獣の姿へと変わっていた。
しかし制限が解除されたおかげかステータスが低下した様子はなく、竜人となった精霊を手に握り締めるとそのまま力を加えて握り潰していく。
「死ね!」
「ギャーーー!」
最後には全力で握力を加えて握り潰すと精霊は恐怖と断末魔の声を上げて呆気なく消え、掌からは血が噴き出した。
ただ、流れているのは相手の血ではなく俺の血だ。
怒りに任せて握り潰したため指に生えていた鋭い爪が掌に深く突き刺さり血が出てしまった。
そして手を開いて爪を抜くと溜息を吐きながら体を小さくし人間へと戻って行く。
しかし、やっぱり今もあの時の事は俺の中で大きなしこりとなっているようだ。
たとえ俺以外の誰も覚えていないとしてもその現実が変わる訳では無い。
普段は傍にアズサ達が居て今は幸せそうに笑ているから気にはならないけど、こうして1人で戦っている時にこの手の敵が現れると暴走してしまう。
邪神と戦った時はある程度の覚悟があったから良かったけど次からは気を付けないといけない。
「おっと。そう言えばさっき精霊を握り潰したからシュリの力も手に持ったままだったな。でもこの際だからこのまま持って行って直接渡せば良いか。それにしても俺の手はこんなだったかな?」
俺は疑問に感じながらキャンプ場へと戻ろうとしてある事を思い出した。
考えてみるとさっきの連中は後から来た乱入者で本命は別は別に居る。
そっちに関しては怒る理由が無いので穏便に済ませたいと思っているのだけど、戦いが始まる前までは近くに居たはずだ。
「この山の精霊は何処に行ったのかな?」
周りを見回しても姿はなく、空中には居ないようなので地上に降りたのかもしれない。
しかし視界が複数あって左右が別々に見られるのだけど何でだろうか?
そんな事に頭を悩ませていると山頂付近で目的の精霊を発見し、良く見ると地上に降りて何かをしているようだ。
周りへの注意が散漫になっている様なのですぐ後ろに居るのに気付かれた様子はなく、独り言を呟き続けている。
「こうなれば最後の手段だ!火の大精霊様のおかげで地の底に眠る大地の怒りがすぐそこまで来ている!今なら私1人の力でもどうにか出来るはずだ!さあ、奴等を私と一緒に滅ぼそうではないか!」
そういえば土の大精霊が水脈のすぐ下までマグマが上がってきていると言っていたので、それを利用して何かをするつもりなのだろう。
キャンプ場付近は精霊の力で保護されているけど、この山頂まではカバー出来ていない。
そして、さっきから聞こえる不穏な言葉から判断すると、ここで噴火を起こそうと画策しているようだ。
さすがに頭が3つもあると脳が3倍に増えているのでこの程度の推理は簡単に出来る。
「さあ今こそ私の怒りを人間どもに思い知らせるのだ!」
すると山が震え始めると山頂に地割れが生まれ、そこから赤いマグマが溢れ出してきた。
その中で精霊は笑いながら沈んで行くけど、実体が定かではない存在なのであの程度では死なないだろう。
それに通常の噴火と違ってマグマ溜まりがあるとかでは無いのでテレビで見る様な噴き出す物ではなさそうだ。
しかし、まるで浅い切り傷からジワジワと血が滲むように染み出しながら山頂を覆い、止まる様子もなくキャンプ場の方へと流れ始めた。
「多分これはあの精霊を始末するまで止まりそうにないな。」
これが精霊の力によって引き起こされているとすれば、さっきの奴を倒せば噴火もすぐに落ち着くはずだ。
しかし奴はマグマの中に沈んで行ったので何処に居るのか正確な位置が分からない。
仕方ないので被害を最小限に止めるために、ちょっと多めに吹き飛ばしてみる事にした。
「まずは以前に恵比寿を呼び出した時をイメージしてっと。」
この山の精霊は上位精霊程に力が無いのでマグマが流れ出している道筋の近くには居るはずだ。
スキルを使えばそこがどう走っているかはすぐに分かるので、後はその辺を新たに進化した轟砲で吹き飛ばせば良いだろう。
そして狙いを定めると大きく息を吸い込み、山頂の上からマグマに向かい全力で轟砲を放った。
「「「ガァーーー!!!」」」
(あれ・・・・1度に3つ出てるぞ?)
しかし時すでに遅しと言うか3本の轟砲は山頂に突き刺さり地面を抉りながら地中を進んで行く。
そして次の瞬間には御山は巨大な火を噴きだし溶岩が溢れ出した。
「・・・ちょっと戻るか。」
最初からそうすれば良かった気もしないではないけど、判断の誤りは誰にだってある。
まずは戻って報告をしてからシュリにどうにかしてもらおう。
「何をやってるんですか!」
すると俺の頭を誰かが殴りつけた・・様な気がする。
なので声のした方を見るとシュリ、アズサ、アケミ、ユウナが空に浮いていた。
ただシュリ以外の3人は棍棒を構えて素振りをしており、横に見える噴火の炎と相まってかなり怖い。
ならばまずはやるべき事をやってしまうとしよう。
「と~~~う!」
「・・・何ですかそれは?」
「土・下・座・です!」
俺は長年の練習によって習得した100回転スピニング土下座を披露した。
まあ飛べるんだからこの程度は簡単に出来るんだけど次の時にはこれに捻りも加えられるように練習しよう。。
(・・・でもなんだか凄い静かだな。まさか、あまりに華麗過ぎて言葉を失っているのだろうか?)
俺はそっと顔を上げて様子を窺うと、そこには般若の仮面を付けたアズサと笑顔を浮かべているアケミとユウナの姿があった。
しかもその手には何やら鬼が持っている様な棘の付いた金棒が握られている。
さっきまでは木製だったのに何時の間に持ち替えたのだろうか?
そして首を傾げるよりも早く3人は金棒を振り下ろし容赦の無い一撃を放ってきた。
『『『ゴツン!!!』』』
「ギャーーース!」
(何この一撃!?マジで痛いんだけど!!)
アズサはともかくアケミとユウナは魔法使い系でステータスが低いはずなのにこの痛みは想定を遥かに上回っている。
ハッキリ言ってさっきの事で強化されてなかったら即死していたかもしれない。
そして咄嗟に3人が持っている金棒を鑑定するよ獄卒の金棒となっていた。
あれは確か黄泉の鬼たちが使っていた物で俺の場合はアンドウさんが刀に加工した物を持っている。
しかも完全鑑定のおかげで効果もしっかりと分かり、そこには防御貫通と書いてある。
どうやら、どんなにステータスが高くても防御を突破してくる効果があるらしい。
「・・・ねえ、それって何処で手に入れたのかな?」
「スサノオ先生が念の為にってくれたんだよ。」
「お兄ちゃんのお仕置用だって。」
「なんだか快感に目覚めそうです。」
「おのれ~!あの髭オヤジの仕業か~!」
俺は犯人を知ってすぐに歯軋りをしながら拳を握り締め、ここには居ないスサノオの顔を思い描く。
成績の事もだけどアイツに関わると碌でもない事ばかり起ている気がする。
「ハルヤ!」
「はい~!」
しかし、あの髭オヤジに文句を言うのは後でも出来る。
今は目の前の激怒なアズサさん達をどうにかしなければならない。
そしてシュリはその後ろで大精霊たちから取り返した力と権限を使い噴火を沈静化さている真っ最中だ。
そのおかげでマグマの流れも衰え、山頂から少し下った所で止まっている。
しかし目の前のアズサ達の怒りは一向に収まる気配が無い。
「まずは元の姿に戻って!」
「ん?戻ってるだろ。」
火の大精霊を倒した後に元の姿へと戻っているはずだ。
俺は言われた意味が分からずアズサ達を同時に見て首を傾げた。
すると3人は顔を見合わせて鏡を取り出すと、そこに写る俺の姿を見せてくれる。
そこには狼、ライオン、山羊の頭の生えた姿が写っているだけだ。
(・・・ちゃんと戻ってるじゃないか。)
「何処がおかしいんだ?」
「ねえお兄ちゃん。人間に頭は3つ無いよ。」
「鯨みたいな尻尾も無いです。」
するとアケミとユウナが人としておかしな所を指摘して教えてくれる。
そういえば爪もこんなに鋭くないし、体も毛深くない・・・様な気がするな。
「もしかして、元に戻れないの?」
「前がどんなだったかが思い出せないんだ。それと先に言っとくけどさっき殴られたショックじゃないのは確かだ。その前からこの姿にあまり違和感が無かったから。」
すると3人は金棒を収納すると心配そうに顔を寄せて来るので俺の言っている事を疑うという事は無いみたいだ。
でも実際に人間だった頃の事が上手く思い出せない。
(・・・人間だった頃?)
なんだか自分で言っていて凄い違和感を感じ、ステータスの職業が変化した事を思い出した。
どうやらその影響を受けて精神面が再び大きく変化してしまったようだ。
せっかく少しは普通に戻っていた気がするのに、まさか悪化するとは思わなかった
「たぶん職業が『半神』とかいうのに変わったせいだと思う。」
すると噴火を収め終えたシュリもこちらの異常に気が付いて戻って来た。
そして、こちらを覗き込んで来たので今は静かに結果が出るのを待ち続ける。
もしかすると最高位の精霊として何かを知っているかもしれない。
「半神ですか。もしかすると亜神の事かもしれませんね。アナタの魂は既に人ではなくなっています。きっとその時の変化のせいで一時的に記憶が混濁して戻り方が分からなくなっているのでしょう。」
「なら時間が解決してくれるのか?」
「そうですね。ただし神と言われる存在は亜神だとしても人の時間とは既に切り離された存在です。それが明日なのか100年先かも分かりません。」
そうなると俺はこの姿のまま学校に通ったり結婚式に出たりしないといけなくなるのか。
それ以前にこんな外見だとアズサ達だって嫌に決まっている。
いっその事3人の為にもこのまま姿を眩ませてしまった方が良いのではないだろうか。
邪神に関してはクオナ達と協力すれば良いだ事だし、人前に出ない手段も幾らでもある。
それに・・・1人はもう慣れてるからな。
しかし、そう考えていると再びそれぞれの頭に何かが触れる感触がした。
でも今回は痛みはなく、顔を上げるとアズサ達が俺の頭に手を乗せて優しく撫でている。
それぞれに慈愛の籠った笑みを浮かべ、まるで女神と言っても過言ではない。
これだけでも俺の中の黒い感情が浄化されて天にでも昇ってしまいそうだ、
「また馬鹿なこと考えてるでしょ。」
「どんな姿でもお兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから気にしちゃダメだよ。」
「私達はお兄さんに全てを見られているのですから、もう何処にもお嫁に行けないのですよ。」
どうやらまた考えていた事が独り言として漏れてしまったらしい。
しかし自分の名誉の為に言っておくけど、ユウナの言っているのは赤ちゃんの時にオシメを変えた時の話だ。
確かに排泄から何から全て見ていると言われればその通りだけど誤解されるような事は言わないで貰いたい。
既にシュリなんて汚物でも見る様な目で俺を見ているので、後になって変な噂が立たないかが心配だ。
ただ今はそんな事よりも3人の優しさが心を満たしてくれるのでとても暖かい。
俺は3人を同時に抱きしめるとそれぞれの頭で頬を擦り合わせた。
しかし、そんな俺とは違ってアズサ達は少し不満そうだ。
すると揃って俺の顔を手で挟むと自分達の顔の前まで持って来た。
「こういう時は遠慮しないの。」
「私達は今もお兄ちゃんが大好きなんだから。」
「それにそろそろキスは唇でしたいです。」
そう言って3人とも揃って口づけをしてくれる。
すると頭の中の空白が埋まる様に全てを思い出し新たなスキルが追加された。
それと同時に視界が1つに合わさると体が元の人間へと戻って行く。
その様子にアズサ達は笑みを浮かべ、シュリは逃げる様に退散していった。
まあ、あちらは好きでもない異性の裸を見ても嫌なだけだろうから仕方ない。
そして元に戻った俺は新しい服を着ると改めて3人を抱きしめ返した。
「戻れて良かったね。」
「ああ。皆のおかげだよ。」
俺はアズサにキスをすると、続いてアケミとユウナにもキスを返した。
もう遠慮はいらないと言われたのでキスをしたのはもちろん頬ではなく唇だ。
そして互いに笑顔を浮かべると視線が足元へと移動していった。
「そう言えば冷えた溶岩で作ったプレートって焼き肉に適してるそうだな。」
「そうだよね!せっかくだから取って帰ろうよ。」
「さんせ~。これから夜食でお肉を焼くしさっそく試してみようよ。」
「それなら他のお肉も試したいです。」
「「「さんせ~い!」」」
そして俺達は溶岩を冷やして切り取るとそれを持ってキャンプ場へと戻って行った。
なんだかさっきまでの事が嘘の様に気分も晴れやかになっており、どんな姿でも3人がいつも通りに接してくれた事がとても嬉しい。
このメンバーならこれから何があっても変わらない思いを胸に生きて行けそうだ。




