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271 野外活動 3日目 ④

俺は食後にのんびりと休んでいると僅かな振動を足元に感じ視線をシュリへと向けた。

するとそちらも分かっているという様に頷くと土の精霊へと視線を向ける。


「この周辺の地面を掌握しなさい。」

「お任せください。」


そして土の精霊が足で地面を軽く叩くと力が浸透して地震が収まり始める。

しかし、離れた場所には間に合わず、そこから悲鳴が聞こえて来た。


「ギャーーー!」


この声はさっきの男達で間違いないだろう。

タイミングからすると今回狙われたのは俺達ではなくあちらのようだ。


「だからルールを守れと言ったのに。」

「それより助けないの?」

「まあ、仕方ないか。」


既にさっきの男達が地面で直接焚火をしていたのは知っていた。

それにこの山の精霊が火を嫌う事は分かっていて被害を受けた者は山でタバコをポイ捨てした者や不用意な焚火を行った者に集中している。

特にこの周辺はキャンプ場内で起きた火の不始末による山火事で大きな被害を出した過去もある。

山の精霊が暴れ始めたのもその後からなので、そこから考えれば答えを見つけるのも難しくない。

ちょっと囮に使ったのは確かだけど被害者を出すと後の処理が面倒そうだ。


「ちょっと行って来るよ。」

「いってらっしゃ~い。」


そしてアズサに見送られて湯気が上る場所へと歩き出した。

その周囲は視界は悪く狙っているかのように熱泉が襲って来るけど俺には何の問題もない。

浴びても火傷すらしないので唯一の生き残りである男の許へと向かい声を掛けた。


「た、助けてくれーーー!」

「だからルールを守って大人しくしとけって言ったんだ。」


傍に行くと男は手足に火傷を負いながらも何とか生き残っており、周りの者は既に死んでいるので生きているだけ運が良いだろう。

しかし生き残ってはいても仲間の死を目の前にした男は目から涙を流し懺悔する様に声を荒げ自分を攻め始めた。


「コイツ等は俺に付き合ってくれる数少ない仲間だった。いや、そうじゃねえ!友達だったのによー・・・。俺がこんな所に連れてきたせいで死なせちまった!」

「そうか。それは残念だったな。」


人の死が何処で何時やって来るかは神と呼ばれる存在にすら知る事は出来ない。

さっきまで隣の部屋で寝ていようと、安全な家の中で暮らしていようと、突然の死という不幸は残酷に忍び寄って来る。

俺はそれを誰よりもよく知っている。


「クソ!クソ!俺の大馬鹿野郎が!」


そして男は火傷で皮膚の剥けた拳を地面に叩き付けながら大声で叫んでいる。

どうやら、こんな男でも本気で大事に思える友達が傍に居たというのは幸運な事だ。


「でも良かったな。」

「何がだよ!」

「お前等の運は尽きてないって事だ。」


そして周辺に倒れている死体を回収すると松林を出て俺達が遊んでいた広場へと向かって行く。

このキャンプ場の地面は既に土の精霊の管理下にあると言っても足元はお湯でぬかるんでしまっているから場所を移動したい。


「お前も付いて来い。」

「あ、ああ・・・イテ!」


そして男もやく痛みに気が付いたのか立ち上がると同時に大きく顔を歪めた。

これでは歩くのも困難だろうと判断して回復魔法を掛けてやる。


「これが魔法って奴なのか?」

「そうだ。それよりも早く行くぞ。」

「・・・すまねえ。」


そして広場に出て死体を地面に置くと蘇生薬を取り出してこの場で使用した。

死にたてなので強化していない下級で十分に蘇生させることが出来る。

すると輝きの中で火傷が治り始めたのを見て、男は驚愕の表情を浮かべ俺の手元へと視線を向けた。

最近は蘇生薬のおかげで助かった命があるとテレビでも放送されているのでそのおかげだろう。


「お、おい!それはもしかして!」

「お前に渡した四葉のクローバに感謝するんだな。でも幸運はずっとは続かないから今後は気を付けろよ。さっきみたいな事を続けていればいつかはもっと痛い目にあう事になるぞ。」


下手をしたら邪神に取り込まれて今度こそ命を絶たれる事も十分にある。

別に殺しても心が痛む相手ではないけど、ここで改心してくれれば剣を一振りする手間は省ける。


「だけど、それはスゲー高価なはずだろ。俺達にその支払いが出来る筈がねえよ。」

「今回は特別に無料にしといてやるから安心しろ。(囮になってもらったからな。)」

「お、お前はマジで何者なんだ。」

「ただの小学1年生だよ。」


ここで何処かのキャラを真似て名乗るのもありかなと思ったけど、やっぱり個人情報を晒す度胸は無い。

何かの拍子に付き止められるのも厄介なのでなるべく情報は伏せておこうと思う。


「それとそこの管理棟に急患用と仮眠用のベットが幾つかある。後はお前の方で運び込んでやれ。」

「ああ、ありがとう。本当にありがとう!」


俺は最後にそれだけ伝えると感謝の言葉を聞きながらアズサ達の許へと戻って行った。

そして到着すると即座に行動を開始する事にする。


「山の精霊がやってくれたからな。そろそろ報復に動こうと思う。」

「出来れば穏便に終わらせたかったのですが仕方ありませんね。」

「その通りだね。ここはキッチリとやり返さないと気が済まないよ。」


そしてシュリの言葉に続きアズサも道具を出しながら袖をまくり上げた。

それに他の皆もやる気に満ちていていつでも出動可能と言った感じだ。


「それなら今すぐに向かうぞ。土の精霊も付いて来い。」

「仕方ないな。どうやら残り3人の上位精霊も来ている様だ。私で力になれる事なら手を貸そう。」


そして鼻息を荒くしてさっき熱泉が噴き出していた場所へと向かって行った。

しかし途中から向かう方向が違う事に気が付いたシュリが首を傾げている。

もしかしてこれから殴り込みに行くとでも思っていたのだろうか。


「ん?どうしてここに来るのですか?」

「どうしても何もこれから奴らに目にものを見せてやろうと思ったからだけど?」

「ねえ、皆はちゃんと分かってるよね?」

「私は大丈夫。さっきのニオイは明らかに温泉だった。」

「最近はシャワーばかりだったからなやはり日本に来たのだから温泉にも入りたいぞ。」

「おんせーん!」

「私もそうだろうと思っていました。」


するとようやく何をするのかを理解した2人は互いに顔を見合わせてクスリと笑い合った。

どうやら、これからする事に反対はしないらしい。


「それじゃあ始めるぞ!」

「「「お~~~!」」」


そして広場に木材を出すと、他の皆がアズサの指示で荒加工を行い、仕上げをアズサが行っていく。

そして以前の経験から地形を動かし、シュリとダイチは精霊に指示を出して山を整えていく。

最も重要な湯脈関係は土の精霊が一気に担当し、地熱が水脈へと届く様にして地上付近の地面を整えてさっきの様に熱泉が噴き出さない様に調整してもらう。


そしてハイピッチで排水管や水道管を地中に増設し、2階建ての温泉施設が誕生した。

ちなみに湯船は屋久杉をシュリが保管していたので杉風呂となっており、とても良い匂いが浴室を満たしている。

それで、せっかく急いで作って朝までに完成させたのだから皆で朝風呂と洒落込もうではないか。

俺はテントで眠っている皆に声を掛けて起こすと、さっき完成したばかりの施設へと向かって行った。


「ねえ、昨夜まであんなのは無かったわよね?」

「私もそう記憶していますね。」

「ハハハ。ハルヤ君に関して気にした方が負けだよ。」

「そうだな。この際だから皆で入ろうじゃないか。」


確かに今回のプランに温泉は含まれていない。

しかも源泉かけ流しとなるとこの付近には温泉が少ないので入るのも難しい。

土の精霊の話では数百年は涸れる事が無いだろうと言っていたので新たな産業になるのは間違いないだろう。

しかもちゃんと温泉卵も作れる様に釜も何個か作ってあるので、後で皆で作って朝ご飯のオカズにしよう。


「それでは男湯は1階で女湯は2階です。他の皆は昨夜の疲れを癒すためにもう入っているはずですよ。」

「分かりました。」

「それと家族風呂も3つ作ってあるので良ければ使ってください。それと使っている時は扉に札を掛けてあるので使用中にする事を忘れない様に。『チラ!』」

「何ですかユウキ君!?」

「いえ、使用中の時には札をお願いしますね。」

「どうして同じ説明を2度も言うのですか!?」

「ちょっとしたお約束という奴です。」


これで一応はココノエ先生に混浴というフラグは立ったはずだけど、回収するかどうかは本人の自由だ。

水着もあるし川での事を考えればそんなに不思議ではないはずなんだけど。

そして俺達男性陣に関しては1階に風呂があるのでそこへと向かって行った。

ちなみに広さとしては大人の男性だと15人程が手足を伸ばして入る事が出来る。

深さは60センチ程なので子供でも簡単に入れて溺れる心配も少ない。

すると脱衣所で服を脱いでいるとコイズミさんが気になっていたのか昨日の事を聞いて来た。


「それで彼らは大丈夫だったのかい?車に居なかったから管理棟で寝ているんだろうけど。」

「彼らならちょっと驚いて気絶した者が出たので管理棟のベットで休ませました。さっきここを使って良いとは言っておいたので目が覚めれば昨日の事を謝りに来るかもしれませんよ。」

「そうか。意外と礼儀正しい奴等だったんだな。」

「きっと来る前に酒でも飲んで酔っていたのでしょう。」


そしてソウマさんはコイズミさんの意見に納得し頷きを返した。

これで謝罪さえしてくれれば蟠りも少しは薄れるだろう。

それにまさか4人も死んでいて生き返らせたとは言えないからそこは素直に伏せておく。


そして浴室に入るとその光景に感嘆し、掛け湯をしてから揃って湯船に飛び込んだ。

それによって湯が大きく溢れ出し、浴室の足場を一時的にお湯が満たしていく。

しかし、すぐに流れて消えていくと俺達は沈んでいた顔を勢いよく水面に浮上させた。

男はいつでもこういった遊び心を忘れてはいけないのだ。


「いや~良い湯だな!」

「これを一晩で作ったとは驚きだよ。」

「ハルヤ達は凄いんだな!」


すると今までの事から今回の事も俺がやった事になっている様だ。

しかし俺が得意なのは作る事では無く壊す事なので賞賛を受けるべきは俺ではない。


「これに関して凄いのはアズサ達ですよ。感想はあちらへ言ってあげてください。」


それに初めて家を作るメンバーも以前に同じ事をした事が有るかの様に見事な手際だった。

アレが無ければこんな大きな施設を一晩で作り上げるのは不可能だっただろう。

ただ女性はお風呂が好きな人が多いので自然と連携が取れていたのかもしれないな。


そして30分ほど入浴して上がると、そこには昨日の男達がフロアに座り俺達を待っていた。

どうやらちゃんと他の奴等を納得させて謝罪に来た様だ。


「昨日は迷惑を掛けてすまなかった!」


そう言って昨日唯一生き残った男を先頭にして深く頭を下げて来る。

すると薄着のソウマさんとコイズミさんがその前に腕を組んで仁王立ちして視線を下げた。

ちなみに2人は目の前の5人よりも遥かに体つきが良い。

特にソウマさんに関してはボディービルダーの様にムキムキなのでそれだけで潰されそうな重圧感がある。

きっと俺が忠告した時よりも遥かに後悔していることだろう。


「お前達。俺の連れが世話になったな。」

「「「「「も、申し訳ございません!!」」」」」


するとその一言で彼らの頭がさらに下がり、自然と土下座へと変わってしまった。

俺が言うのもなんだけど、相手の戦力情報はしっかりと確認してからちょっかいを掛けるべきだろう。

もし、あの時に俺が行かなければ完全にこの2人の怒りをかっていたはずだ。

それだけでなく、こちらに怪我人が出た時点で熱泉を浴びる前に誰かが殺していた。

その場合は蘇生はさせずに永遠に現世からお別れさせていただろう。


「今回はコイツがお前らを許すと言うから許してやろう。しかし、次に見かけた時に同じ事をしていればタダじゃ置かないからしっかりと覚えておけよ。」

「「「「「はは~!」」」」」


本当は通報するべき案件なので俺をダシに使って許すと言うのも仕方ないだろう。

それに俺が許した事にしておけばメンバーの大半は納得するはずだけど、コイツ等は相手によって態度が変わり過ぎだろ。

元々が長い物には巻かれろ的な考えの奴らなのかもしれないので、この調子なら昨日の事と合わせて少しは真面になりそうだ。


「それとお前らも昨日の事で汚れてるだろ。風呂にでも入ってサッパリして来なさい。」

「はい。それでは失礼させてもらいます。」


そう言って彼らは立ち上がると申し訳なさそうに男湯のある方へと消えて行った。

その時にあまり室内を汚さない様に浄化を掛けて綺麗にしておく事を忘れない。

この場にも浄化を掛けて服などから落ちた砂埃などを綺麗にしておいた。


「ねえ~もう下りても良いかな?」

「話しは終わったから大丈夫だ。」


話が終わって男達が消えると2階に登る階段からアズサ達が顔を出して声を掛けて来た。

なので返事を返すと皆も下りて来たので一旦は全員集合となる。

最初から昨日の事を気にしているメンバーは少ないだろうけど謝りに来ると来ないとでは心象が違うからタイミング的にも丁度良かったかもしれない。

カホさんだけはちょ~とだけ年増扱いされてご機嫌斜めだけど、そこはソウマさんにフォローを任せておく。

きっと夫婦として上手い具合に落ち着かせてくれるはずだ。


「後はここで温泉卵でも作ってからテントに戻ろうか。」

「そうだね。卵もしっかりと準備してあるから、たくさん作ってストックしておこうよ」

「そうしとくか。」


そして今日は予定は昨日捌いた肉で燻製を作ったり保存食を作る予定だったので丁度良い。

そこに温泉卵が加わったとしても大した違いはなく、追加のソーセージを作ったりと色々とする事があるので俺もそれなりに忙しくなりそうだ。

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