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27 鰐男のボス

鰐男達を統率しているボスは、どうやらかなりお怒りの様だ。

部下を尽く倒され、建物の侵入も上手くいっていない様なので当然だろう。

それにこの病院はどうやら思っていたよりも丈夫な施設だったみたいだ。

もしかすると人間同士で争っている時はテロ対策が叫ばれていたのでその対応がされていたのかもしれない。


魔物と言っても何でも破壊できる訳ではなく、自分の力で物理的に破壊できる物しか壊す事は出来ない。

ボスが部下に任せていてくれたおかげでこうして間に合ったのだろう。

もし痺れを切らせて自分から向かっていれば今頃は手遅れになっていたかもしれない。

その場で殺されるなら良いのだけど連れて行かれると連れ戻すのが大変になる。

頭はある程度回るようだけど今の所はこの程度と言ったところなのだろう。


すると奴は声をあげて周りの奴らに指示を出し始めた。


「ギャッギャギャ。」


すると残っている奴らが俺に目掛けて一斉に襲い掛かって来る。

しかし今の俺はレベルアップと魔石による強化で大きく力が増していた。

口に再び中級ポーションを咥えると開いた口の根元から容赦なく頭部を飛ばしていく。

剛力は切り札なのでここでは温存して今まで通りの戦い方を貫いたが、それでも残りの部下を倒し終わるのに3分と掛からなかった。

この程度ではカップラーメンも食べられそうにないな。


「雑魚に任せてないでお前が来いよ。」

「グオアーー!」


更に怒りで頭に血が上ったのだろうけど、それを指示したのはコイツ自身だ。

俺がここに来るまでに半数以上が倒されているのだからしっかり考えて指示を出すべきだろう。


そして向かって来るボスの腕を素早くすり抜けるとその足に剣を走らせた。

しかし鱗の硬さは他の者とは段違いで今の俺でも大きなダメージは与えられない様だ。

するとボスは忌々しそうに俺を見ると体を回して尻尾を俺に振って来た。

俺は即座にバックステップで距離を取ると頬を伝う血を拭う。

どうやら僅かに反応が遅れて交わしそびれたみたいだ。


「少し危なかったな。他の奴らよりも長いあの尻尾は特に気を付けないといけないな。」


コイツの尻尾は他の奴よりも長くて太い。

体つきが大きいので当然だけど、速度もまるで鞭を振った様に風を切る音がする。

今の俺は力に極振りしているので防御が低く、特に気を付ける必要がある。


そして俺は再びボスへと駆け出した。

すると今度は俺を爪で切り裂くのではなく単純に掴もうとしてくる。

恐らく掴まれた場合は俺に奴の手を振り解くだけの力はない。

切り札である剛力を使ってもきっと同じだろう。

そうなれば奴は俺に噛みついて確実に息の根を止めに来る。

ならばと俺は剣を片手にある物を手に握る。


そして3度目の突撃を行い相手は思惑通りに俺の体を掴み上げた。

体には爪が深く食い込み人外の握力が体を締め付けて骨を軋ませる。

そして勝利を確認したようにその目を細めると大きく口を開いた。

その瞬間に奴の目には俺が映らなくなり、完全な無防備な状態になる。

俺は手に持っていた手榴弾を口に放り込むと手で顔を覆った。


『ドゴーーン』

「ギャーーーー。」


すると奴の喉で手榴弾は爆発し、俺はその余波で炎に包まれた。

しかし、顔は守っていたので目は見えるし、体中火傷だらけでもポーションを飲めばすぐに治る。

足元には先程倒した奴らのドロップが散乱しているので俺はそれを1つ拾うと口へと流し込んで体を回復させた。


そして、このチャンスを逃すまいと俺は剛力を発動して一気に間合いを詰めるとその無防備な腹に一閃し、先程の衝撃で口が閉じられなくなったのか、その無防備になっている弱点へと剣を突き上げた。


「ギュアー・・・。」


その最後の一撃が止めとなるとボスは姿を消してドロップアイテムへと変わる。

そして周囲から魔物の気配を感じないのを確認すると建物に向かって声を掛けた。


「クラタさーん居ますかー。」

「・・・。」


聞こえなかったのか俺の呼びかけに返事が無い。

日本の病院でも外の音があまり聞こえないので俺の声が届いていないのかもしれない。

仕方なく俺は足元にある拳大の瓦礫を拾うと先程人が見えた窓へと投げつけた。


『バリ~ン。』

「きゃーーー!」


やっぱり人が居たみたいで魔物はキャーなんて言わないから確定で良いだろう。

俺はこれで声が届くだろうと再び声を掛けた。


「クラタさ~ん。そこに居ますか~。」

「あ、アナタは誰ですか。どうして私の名前を?」

「日本から迎えに来た娘さんの同級生です。良ければ顔を出してください。オメガも会いたがっていますよ~。」

「オメガ・・・。ウチのオメガも来てるの!」


すると中から1人の女性が姿を現しので俺は足元に待機するオメガを持ち上げて下からライトで照らして顔を見せてやる。


「確かにオメガっぽいけど・・・。その角度は怖いから止めて。」


おっと。

怪談話の時みたいにちょっと迫力があり過ぎたか。

チワワって目が大きくて角度によっては怖い印象があるからな。


「それよりも時間が無いので早く下りてきてください。」

「でも、ここには動けない人が10人以上いるの。私一人で逃げられないわ。」


どうも話に聞いてた通り面倒な人のようで、さっきすれ違った人たちが見捨てたのも分かる気がする。


「それならそちらに行きたいんですけど上がれますか?」

「下で待ってて。すぐに行くから。」


そう言って顔が引っ込んだので俺は中に入って上り口を探す。

すると上に昇るための階段前に防火扉があり叩くと硬い感触が伝わってきた。

扉には無数の爪痕があるのでここで魔物は足共をくらっていたようだ。

ここを避難所にした彼女の頭は悪くなさそうだけどかなり頑固そうなので説得は大変かもしれない。

そして扉の後ろで音が鳴ると扉が開いて中年の女性が姿を現した。


「本当に子供なのね。」

「アナタの娘さんと同い年ですよ。それとはいコレ。」


俺はオメガを手渡すと感極まったのか女性の顔を盛大に舐め始めた。

まさに飼い主とペットとの感動?の再開だ。


「ちょ、待ちなさいオメガ。今はそんな時じゃないのよ。」

「今は他人の命にかまけている時でもないですよ。」


すると途端に彼女から冷たい視線が注がれた。

それは怒りというか悲しみというか今の俺には縁のない感情だ。


「あなた本当に娘の友達なの?」

「友達ではなく同級生です。先日病院で初めて話しましたしね。」


すると彼女の表情はあからさまに変わり俺の肩に掴みかかって来る。

最初からこういえば話は早かったのかもしれない。


「娘がどうかしたの!?」

「別に。魔物に捕まっていたので助けただけです。検査の為に入院していますけど、会いたいなら急いで向かいましょう。」

「娘は無事なのね・・・。なら私はここから離れられないわ。」


本当に頑固な人らしく仕方ないのでその原因を取り除いてから移動するしかなさそうだ。

殺して連れて行ったらオメガが怒りそうなので今回は穏便な手段を取る事にした。


「それなら俺が何とかしますよ怪我人は何処ですか?」

「ちょっと、どうにかするってどうするの。まさか殺すなんて言わないわよね。」

「それも可能ですけど、そうするとオメガが怒りそうですから回復させて一緒に連れて行こうと思います。」


すると彼女は呆れた表情を浮かべると俺の手を掴んできた。


「何を言ってるの。あなたにそんな事が出来るわけないでしょ。」

「面倒なので論より証拠です。あなたも怪我をしてますね。これを飲んでください。傷が治りますから。」

「そんなおとぎ話みたいな話・・・。」

「良いから飲め。全員殺して連れ帰っても良いんだぞ。」


俺は声を低くして冷たい視線で本音を伝えた。

ハッキリ言えばこれはあくまで俺の家族の為なので言う事をあまりにも聞かないなら殺して無理やり連れ帰る。

生死関係なく生き返らせれば一緒なので、それくらいなら今のオメガでも分かってくれるはずだ。


彼女は俺の言葉と目に本気を感じ取ったのか素直にポーションを飲み込んだ。

すると彼女の傷は治ったのでそれが証明となてくれる。


「これで信じてくれましたか?」

「え、ええ。これはどうなってるの。」

「その辺は移動しながら話します。まずは怪我人の所に案内してください。」

「分かったわ。」


そして案内を受けて到着するとそこには血塗れの人達が1つの部屋に押し込められていた。

しかし今の状況なら仕方の無い事だろう。

もしかすると死ぬ時は一緒にと思っていたのかもしれない。

それ程までに魔物の侵攻は彼女から見て驚異的だったのだろう。


「それじゃあ。怪我人にこの薬を飲ませてください。」


俺は面倒なので先程手に入れたばかりの中級ポーションを飲ませるように指示を出す。

そして一人一人に飲ませていると数人目で彼女の動きが止まった。


「この子は間に合わなかったみたいね。ここまで頑張って来たのに。」


そこには俺達と同い年位の女の子が傷だらけで息を引き取っていた。

彼女はそれを優しく抱きしめるとその頭を撫で始める。

俺はそんな二人に歩み寄ると蘇生薬を取り出して蓋を開けた。


「時間がもったいないから説明は後でする。」


そして中級蘇生薬をその子に振り掛けると次の怪我人の許に向かって行った。


「ちょっとあなた。死者に向かって・・・。」

「そいつはもう死者じゃない。タダの健康な一人の人間だ。」

「そ、そんな馬鹿な事・・・。」


しかし抱きしめていればすぐにでも呼吸が再開しているのが分かるだろう。

傷も消えて脈を取れば心臓が動いている事も気付けるはずだ。


「そ、そんな。こんな事って。これは神の奇跡なの!?」

「その通りだけどよく分かったな。これは神の奇跡だ。」


すると彼女は目元の涙を拭うと拗ねた様に睨みつけて来た。


「あなた。もしかして私の事が嫌いでバカにしてる?」


本当の事なんだけどいきなり言っても信じられないのは仕方がないが後で説明すれば分かってくれるだろう。

しかし、俺はそこである失敗に気が付いた。


「しまった!」

「どうしたの!?」

「そいつは落として生き返らせれば運ぶ手間がはぶけたのに。」

「ちょっと流石にそろそろ殴っても良いかしら。良いわよね!」


すると今度は拳を作ってブツブツ言い始めてしまったけど、きっと極限状態でストレスが溜まっているのだろう。

早く移動して日本へと脱出させないと精神がイカレてしまうかもしれない。


「それじゃあ治療も終わったから急いで移動しよう。」

「あ、でも。移動手段が無いわよ。ここから海まで何百キロあると思ってるの!」


俺は全員を下ろし終わると彼女は思い出したように声を荒げた。

すると周りの人達もその声に驚いて目を覚まし始めると自分の体を確認して頭を混乱させ始める。

もちろん死にそうな怪我と痛みの記憶はしっかりと刻みつけられているだろう。

それが目を覚ましたら消えているので混乱してしまっても仕方がないことだ。

しかし俺はそれらを放置して傍に来ていたオメガに指示を出した。


「一番デカイのを頼む。」

「ワン。」


そしてオメガが吠えると足元の影が大きく広がり、そこから大型バスが姿を現した。

その様子に周りの人達は顔を引きつらせながら多くの者が二度寝を始めてしまう。

何とも死にかけてたくせに余裕だけはある奴らだ。


「ちょっと皆!これは夢でも幻でも無いのよ!早く起きてバスに乗りなさい!」


そんな彼らを彼女は急いで起こすとバスに乗せて運転席へと座った。

どうやら大型バスの運転ができるらしく、エンジンを掛けるとアクセルを吹かせた。


「よく分からないけどこれでどうにかなるわね。」

「船の出発まであと1日しかない。急いで出発してくれ。」

「任せなさい。なんだか疲れも取れてるしこのまま徹夜でも走れるわよ。」

「ああ、それと俺は仮免だから運転は期待するなよ。」

「ふふ、そんな所だけ子供っぽいのね。でも任せておきなさい!」


そして彼女は苦笑を浮かべるとバスを走らせて船の待つ港へと向かい始めた。

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