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267 野外活動 2日目 ③

キャンプ場に戻ると皆は服を着替え夜の準備を開始した。

しかし、その中で夕飯の準備を考える者は誰も居ない。

但し唯一の例外であるアズサを除いては。


「ねえ、今夜は何食べようか?」

「「「え!?」」」


すると周囲からは一斉に驚愕の顔が向けられる。

しかし俺とアケミとユウナにとっては既に分かっていた事だ。

なので恋敵(肉)の誘惑(被害妄想)に負ける事無く、食べる量をセーブしていたのだ。

しかしアズサに対する理解の足りない他の皆にはそこまでの事は無理だったらしい。

それはたとえ前世の記憶を持ち、ミズメの食事風景に慣れているルリコだろうと同じ事だ。

アズサは既にミズメには無い四次元胃袋と言う特殊スキルを備えている。

すなわちアズサには満腹と言う概念が存在しない。

まさに食の女王に相応しい存在に超絶進化しているのだ。


「アズサ。皆はお腹いっぱいみたいだぞ。」

「ん~~~・・・そうなの?」


アズサは俺の言葉に10秒を超える時間を掛けて悩むと首を傾げて他のメンバーへと視線を向ける。

それに対して揃って首を縦に振ると膨らんだお腹を擦って言葉以外で自分達の状況を伝えた。

するとアズサも自分のお腹を擦るけど、その見た目には一切の変化は無い。


「なら私達だけで食べようか?」

「そうだな。実はさっき釣りをしてて面白い食材が手に入ったんだ。」

「え、ホント!なら今日はそれを使って何かを作ろうか。」

「それなら私も少しは食べれるよ。」

「私もお供します。」


そしてアケミとユウナもちゃんとセーブして食べていた様で夕食への参加を表明する。

するとその中からもう1人、白い影が飛び出して来た。


「私も食べる~!」

「それならミミも一緒に食べましょ。ハルヤが何を取って来たのか楽しみねだね~。」

「楽しみ~!」


そして俺達は5人で並ぶと炊事場の方へと歩いて行った。


「それで何が居たのかな?」

「実は大きな亀を捕まえたんだ。」

「カメ?スッポンとかかな?」

「噛むのは確かだけどもっと厳つい奴だ。」

「まさかワニガメが居たの!?」

「その通りだ。かなりデカいけど誰かが捨てたのかもな。前にテレビ番組で食べてるのを見てる時にアズサも食べたそうだっただろ。」

「ありがとうハルヤ!」


するとアズサは嬉しそうに俺の首に抱き着いて来たので心の中でガッツポーズを作る。

どうやら俺の機転はさっき出した牛肉を凌駕したようだ。


「でも分類は同じお肉だけどね。」

「本末転倒な気がします。」


確かに王道と珍味の違いはあるけど多くの生き物の場合、男は狩って来た獲物で異性の気を引くのだから間違っていないはず。

そして炊事場に到着すると台の上に巨大なワニガメを逆さまにして取り出した。


「甲羅もゴツゴツしているし、多分ワニガメだと思うんだけどな。」

「そうだね。似てる姿でカミツキガメがいるけど、あっちは甲羅が丸いらしいからこれはワニガメだね。」


ちなみに甲羅のサイズだけで80センチはあり、尻尾と頭を入れると俺達よりも大きいので調理台の上にギリギリ乗っている。

そしてアズサはスキルで素早く血抜きをすると、臭みと消毒を兼ねて浄化を行った。


「準備が出来たから開いてみようか。」


そう言ってアズサは飛翔で浮かぶと自分のアイテムボックスから包丁セットを取り出した。

これはアンドウさんが作った物で、以前にミズメが使っていた物でもある。

切れ味は折り紙付きで形も様々な物があり、ジビエの解体時には良く使っている。

その中から小さいけど先の鋭いナイフを手にするとそれを背中側と腹側にある甲羅の間に入れて甲羅を取り外しに掛かる。

そして表面を切り裂くと刀身が大きく湾曲したナイフに持ち変え、甲羅に沿って肉を切り離し、まずは背中側の甲羅を取り外した。

続いて腹側の甲羅も外すと綺麗に皮を剥ぎ内臓を取り除いて解体を終了する。


「後はこれをどうするかだよね。スキルのおかげで臭いは無いけど何にすれば良いかな?」


ちなみに切り取られた尻尾に関しては炙られた後に味見を行い、残った部分はライオンの姿に戻ったミミがバリボリと食べている最中だ。

ただ、重量はかなりあったけど骨と甲羅と内臓を取り除くと多くは残っていない。

これなら上限は無いと言っても5人で食べるには丁度良いだろう。

それに昼は焼肉だったので夜は汁物が欲しいところだ。


「野菜は揃ってるから鍋に出来るかな?」

「そうだね。テレビでも良い御出汁が出るって言ってたし試してみようか。」


そして家で鍋をする時と同じ野菜を取り出すと昆布で出汁を取ってから具材を入れて行った。

それにしてもスキルや魔法を使えば臭味があっても消す事が出来るのでとても便利だ。

もしかするとそれらを使わなければもっとしっかりとした味付けの料理にしなければ食べられなかったかもしれない。

そして出来た鍋を持って焚火をしている場所へと戻って行った。


すると人数が少ないので遊び疲れて既に寝ている者も居るみたいだ。

ここにはカホさんを除く大人4人と、ハルカ、ルリコの合わせて6人。

他は既にテントへと戻っている。

きっとスキルを使って遊んでいたので体力が尽きたのだろう。


俺はテーブルを新しく取り出すとガスコンロを置いてその上に鍋をセットする。

流石に炭や焚火だと鍋が焦げたり火加減が難しいので料理によってはこちらの方が適している。

それにしても皆がこちらを見ているけどもしかして食べたいのだろうか?


「食べます?」

「いや、流石に無理だ。て、言うかマジで夕飯も食べるんだな。」

「家族が食べるなら無理のない範囲で付き合いますよ。1人で食べるのは味気ないですからね。」


そして話している間にもアズサが取り皿にポン酢やゴマダレを入れて置いてくれる。

アケミは蓋を開けて煮え具合を確認してユウナは箸やお玉を出してくれている。

そして俺の方は入りきらなかった亀肉を置いて準備を整えた。


「よし!初のワニガメ肉を実食といこうか。」


そして全員で揃って肉を取るとまずはゴマダレから試してみる。


「臭みは無いけど野性味のある味だね。」

「鶏肉に似てるって言ってたけど若鳥よりも親鳥に近いかも。」

「噛むと油が出て味が染み渡る感じですね。」


確かに臭味が無いおかげでとても食べやすい。

鹿や猪のような独特の風味も無くて誰でも食べられる味に仕上がっている。


「そういえば最近はワニガメが自然繁殖して大変らしいね。」

「そうだお兄ちゃん。今度捕まえに行こうよ。」

「地域に貢献できて良いかもしれませんね。」


どうやら外来種として日本に訪れているワニガメ達は目を付けられてはイケない相手に目を付けられたみたいだ。


「でもワニガメの生息してる場所ってこんな綺麗な川ばっかりじゃないだろ。そいつ等も今日みたいに臭味が消せるのか?」


海に居る同じ種類の魚でも環境によって味や風味が違って来る。

今日のコイツはたまたま清流に居て臭いが少なかったけど、本当はもっと酷いのかもしれない。

魔法やスキルだって万能ではないので臭味を取るにも限度がある。


「その場合は聖光を使うから大丈夫だよ。」

「それなら次に捕まえた時に1度試してみるか。」


亀の臭いを消すのに浄化系最上位のスキルを使うのはどうかと思うけど普段の生活では魔法やスキルを殆ど使う機会は無い。

この際だからバンバン使って使い慣れて行けば良いだろう。

すると・・・。


「なんだか、そこで変な会議が開かれてるね。」

「来年のミッションにならないと良いけど。」


俺達を見ていたルリコとハルカからフラグっぽいセリフが聞こえて来る。

でもそんな事をしなくてもトウコさんなら地域貢献の学校行事としてやってしまいそうだから大丈夫だ。

その場合は亀は回収されて俺達の所に運び込まれるだろう。

それに少なからず危険があるのでやったとしても中学生以上だ。

しかし俺達が中学生になるまでワニガメが日本の自然界に居る保証はない。

奴等はこの国の自然を荒らす外来種なので川に生息する魚と違って手加減する必要が無いからだ。


「ふ~~、結構美味かったな。」

「そうだね。これは皆にも食べてもらいたいから夏休みの間に行っても良いかな。」

「検索したら駆除作業で報奨金が出る所があるみたいだよ。」

「これは小遣い稼ぎに良さそうですね。あ、あとカミツキガメにも似た様な事が書いてあります。」


どうやら夏休みはそれなりにエンジョイできそうなので各地を周って美味しい危険生物を捕獲して食べよう。


その後は片付けを済ませると明日の予定をコイズミさんへと確認を取った。


「明日は確か解体の体験でしたね。」

「出来る人は一緒に参加してもらっても良いよ。ていうか、そっちのアズサちゃんはさっきしてるの見たから自由にしてくれ。」

「なら私は猪を捌きますね。」

「手本にもなって良いね。明日はジビエを使った料理を作ろうか。」


ちなみにコイズミさんとソウマさんは猟師の資格も持っていて解体も出来るそうだ。

明日は初めての人も居るのでしっかりと学んでもらい、俺に関しては皆の意見が一致して見学と救護担当だ。

どうやら解体すらさせてもらえないようだけど、ワニガメ程度の強度なら甲羅ごとでもハムみたいに薄くスライスできるのに残念だ・・・。


「それにしても、この山に来てから人と会わないな。」

「私も以前に来た事がありますが交通量も多かった気がしますが。」


まあ避難指示が出ているから自動運転ではここに来れないのだけど、交通整理の必要もないから知らないと気付けない。

来れるとしたら徒歩か違法改造車だけなので後者の奴が来たとしたら碌な奴じゃないだろう。


「のんびり出来て良いと思いますよ。都会を離れて静かな場所で夜を過ごすのも良いじゃないですか。」

「そうですよ。こうやって一緒に居られるんですから。」


そう言ってココノエ先生はコイズミさんの横から手を握ると笑顔を向けた。

良い感じに話を逸らしてくれたので深く突っ込まれる事は無さそうだ。

それにしても来て初日に動きが有るかと思っていたのに意外と静かだな。

期間も限られるのでもう少し様子を見て動きが無ければこちらから動く必要があるだろう。

今回のミッションは問題を解決しないと終わらないのでこのまま何も無ければ帰る事も出来ない。

それになるべく早く片付けた方がこの周辺にある施設も助かるはずだ。


「夜も遅くなって来たからそろそろ寝ようか。」

「そうだね。」

「私も寝るね。」

「おやすみなさい。」

「クア~~・・・。」


そして焚火の前に居るメンバーに挨拶をするとテントへと向かって行った。

でも昨日はいつの間にかあっち側のテントに迷い込んでいたから今日は気を付けないといけない。

寝る前にトイレも済ませているので、これで準備万端のはずだ。


そして目を瞑ると皆から漂う甘い匂いに誘われる様に眠りへと落ちて行った。



「・・・眠ったかな?」

「そうだね。これは確実に寝てるね。」

「それでは行きましょうか。」

「ミャ~!」


そしてハルヤは今日も気付かぬ内にテントを移され、他のメンバーが待っているテントで深い眠りにつくのだった。



そしてその夜ダイチとシュリはテントに早めに入り体を横にしていた。


「ねえダイチ。起きてますか?」

「起きてるよ。どうしたんだ。」

「・・・ダイチは私と居て嫌ではないですか?お義父さんもお母さんもとても仲が良いですが私達は元々他人です。それに言っては何ですが私は周りから浮いているので迷惑ではないですか。」


するとダイチからの返事はすぐに返って来なかった。

代わりに体を寄せると優しくシュリを抱きしめてからその頭に軽く手を置いてやる。


「俺の答えは以前と変わらない。お前が誰だろうと俺はお前の傍に居る事を選ぶ。だからそんな質問はもうするな。」

「分かりました。それならそろそろハルヤくらいには秘密を話した方が良いですね。既に私達の事に気付きかけているようですし、それに彼の傍に居ると・・・フフフ。」

「そうだな。アイツが居ればきっと大丈夫だ。ハルヤとはずっと前からの友達だからな。」

「そうですね。それにこの山の精霊も様子見を止めてそろそろ動き始めるようです。生活費と学費を稼ぐためにも働かないといけませんね。」


2人はそう言って笑うと互いに離れる事無く眠りについた。

そしてシュリが予想した通り、次の日から状況は次第に動き始め事となる。

それを知らない他のメンバーたちだが今はまだ穏やかである時間を満喫し、ハルヤを囲んで楽しい夜を過ごしていた。

しかし彼らも次第に増えて行く異常な事態に気付くとそれぞれの能力を発揮して対応に動き始める事になる。

ただし大きな問題があるとすれば、このキャンプに参加している者の多くが意外と図太い事だろう。

その最たるハルヤと周りの3人がどう動くかは今は誰も知らない。



そして、場所は移りここは山頂付近。


「私の怒りもそろそろ限界だ。人間によって山の周囲にはゴミが溢れ、他の精霊たちも苦しんでいる。もう私の目の届く所で人間には好きにさせんぞ。」


この山に宿る精霊は山頂からハルヤたちの居るキャンプ場を睨みつけた。

しかし、その精霊は既に怒りによって周りの精霊の言葉すら届いていない。

そこには止めようとしている多くの精霊が集まっているが怒りのままに腕で振り払っており、行動の制御さえも出来なくなっている。

そして止める事を諦めた精霊たちは自分達の信じる母とも呼べる存在を守る為、助けを求める様に散って行った。



ここは世界の何処か。


「下位の精霊たちがどうやら見つけてくれた様ですね。」

「この400年で何度も見つけ捕らえようとしましたが、その度に逃げられてしまいましたからね。」

「殺しても逃げ足だけは早いですからね。しかし、今度こそ逃がす訳には行きませんよ。」

「あの方の封印も弱まっていますからね。」

「ここであの者の魂を捧げれば大きな力となるはずです。その後に我らの身も捧げれば封印を破るのも可能なはず。」

「私達上位精霊が3人も消えれば世界は自然と崩壊しあの方の望みも叶いましょう。」

「私達はあの方がオリジンを取り込んだ後に産み直してもらえば良いのですから。」

「その通りです。世界を炎で飲み込む日も近いですね。」

「いえいえ、私が陸地を全て水で覆い尽くすのです。」

「何を言っているのですか。私が全てを吹き飛ばして更地へと変えるのですよ。」

「何はともあれ・・・。」

「「「あの方の為にこの身を捧げん。」」」


そして、彼ら上位精霊は動き出すと嵐となって移動を開始した。

その速度はまさに風の様に早く彼らが通った場所は嵐が吹き荒れ、激しい稲光が空と地上を覆い尽くしている。


しかし、その事を何も知らないハルヤたちは穏やかな明日を信じて眠り続けるのだった。

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