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266 野外活動 2日目 ②

川辺に行くとそこには既に1人の人外が楽しそうに泳いでいた。

ただし下半身は魚で上には何も身に付けていない。

そして俺が来た事に気が付くと一度水中に潜り勢いをつけて飛び付いて来た。

これでは人魚ではなく、鰐と言った方が良いのではないだろうか。

まあ、久しぶりに広い所で泳ぐからか、いつもの2倍は笑顔が眩しい。

ただ、ここには他にも男性が居るのでその人たちの為にもちゃんとした服装になってもらわないとな。

たとえ人魚であるとしても正式に九十九学園で小学1年生の担任を務めているのだから風紀を乱してはいけない


「トワコ先生、最低でも水着は着て下さい。」

「え~~~!」

「子供みたいに言ってもダメです。それだと映像に記録されて全国にその姿が配信されますよ。」


ここは子供が遊ぶにしても良い所で、もしもに備えて監視カメラも設置されている。

そこに美女の人魚が映っていれば報道目的以外の奴だって映像を欲しがるだろう。

場合によっては人魚捜索の特番が組まれたり珍獣ハンターみたいな連中がここに集まって来るかもしれない。


「それに自分の見た目をもっと考慮しろ。身元がバレたら地獄に逆戻りだぞ。」

「もう、焼餅を焼いちゃって~。仕方ないからこの姿で泳ぐのは止めておくわね。」


そう言って反転宙返りで川底に消えると布面積の少ないセクシー水着で戻って来た。

その姿にソウマさんが目を奪われてしまったけど、カホさんに目潰しをくらって視界を閉ざされてしまう。

後で後遺症が出たら大変なので、後でこっそりと回復魔法を掛けてあげよう。


「だからもう少し大人しくなれ。」

「え~~~!これもダメなの~!」

「ダメだ。」


俺は大人の姿の時に使う大きめなシャツを取り出すとそれを頭から通して着せてやる。

体が濡れていて肌色が透けているけど乾けば大丈夫だろう。


「これってハルヤが使ってる奴なの?」

「綺麗にはしてあるけど嫌だったか?」

「いいえ、アナタに包まれてるみたいで嬉しいの。」


そう言ってトワコは嬉しそうに水から上がるとアズサ達の所へと向かって行った。

アイツが一緒に居れば溺れたとしても大丈夫だろう。

ちょっとお尻のラインが透けてるけど水に入れば見えないので関係ない。


しかし、コイズミさんはこちらに視線すら向けないとは既にココノエ先生にメロメロだな。

少し離れた深い所で手を取り合って一緒に泳いでいるのでしばらくは見守るとしよう。

それと邪魔者が近くまで来ているようだから早めに退治しておかないと別の意味で騒ぎになりそうだ。


「まさか現世で奴らを見る事になるとはな。」


そして俺の言う邪魔者は水面に白く輝く頭だけを出してスーッとココノエ先生達が居る方向へと近づいている。

確か奴らは川で泳いでいる人間を溺れさせたり尻子玉を抜いたりするのだったか。

ちなみに尻子玉とはお尻の中にあると言われており、誰でも知っているとは思うけど人のお尻の穴は手が入る程には大きくない。

そんな事をされたら大惨事なうえに御婿にもお嫁にも行けなくなってしまうだろう。

俺は溜息を吐くと穏やかに流れる川の上を歩いて行き、先回りをしてしゃがみ込んだ。


「おい。ちょっとツラを貸せ!」

「ギョギョ!」

「何処かの助教授みたいな事を言ってないでこっちに来い。」


俺は水面に手を突っ込んでそいつの耳を掴むと岸へと向かって行った。

そして陸に上がると手を離し、肩を掴んで地面に座らせる。

それにしてもまさかここに河童が住んでいるとは知らなかったけど、地獄に居た連中と同じなら人語を理解して喋ることも出来るはずだ。


「それで・・・お前は何をしようとしたのかな?」

『ミシミシ!』

「イタタタタ!イチャイチャしてる奴の足を引っ張ってやろうとしただけです~!」

「ほうほう・・・。」

『ミシミシ!』

「ぎゃ~~~!!」


これが完全にコイズミさんだけをハメるドッキリなら良い考えだと思う。

それにココノエ先生に溺れたフリをさせてコイズミさんに助けてもらい親密度を上げるという計画も出ていた。

しかし危険性もあるので今回の計画には含まれておらず、逆にコイズミさんが責任を感じて身を引いてしまっては取り返しが付かない。


すなわちコイツはもう少しで俺達の計画を邪魔する所だったのだ。

そのため後ろで聞いていたアズサ達に声を掛けると恋を応援している少女たちへと河童を引き渡した。


「そういう事らしいから後は任せた。」

「任せて。しっかりとお仕置しておくから。」


そして河童は地面を引き摺られながら川から離されて連行されて行った。

最初は訳が分からないと言った表情を浮かべてけど、甲羅を掴んでいる手を振り解けないので次第に焦りが浮かび始めている

その横ではサトウ家の面々がちょっと驚いているけど、そちらは大した問題ではないので説明は後回しでも良いだろう。

さて、邪魔者が居なくなったので俺は釣りにでも・・・。


「待てーーー!」


すると川から別の河童が現れると俺を取り囲んで道を塞いだ。

既に居るのは分かっていたけど邪魔をしないならさっきの河童と違って何もせずに見逃してやろうと思っていた。

なのに周りを囲んで道を塞ぐとは如何なる了見なんだろうか。


「俺は今から魚を取って来ないといけないんだ。邪魔をするなら容赦しないぞ。」


特に今回はアズサも川魚を楽しみにしている。

家では食べる事のない味覚なのでそれが無いとなれば確実に落ち込んでしまうだろう。


「ならば我らを倒してから行くが良い!しかし我らは河童の中でも剛力と言われる程の力を持っているのだ!既に100年を生きる我らが貴様のような子供に負けると思うなよ!」


そう言えば河童は見た目はひょろくても大人では太刀打ちできない程の力を持っているんだったな。

それに相撲が好きで川辺で遊ぶ子供相手に挑む事もあると漫画で呼んだことがある。

確か倒す方法は頭の皿を乾かしたり、乗っている水を零してやれば力が出せなくなるのだったか。


しかし、たったの100年で威張るとは情けない。

俺なんて中身だけなら200歳を超えてるので、年齢を出すなら300年以上生きてからにしてもらいたい。

それにコイツ等は肉体言語で会話がしたいらしいので、それなら得意分野という事で少しだけ付き合ってやろうと思う。


「後悔するなよ。」

「ハハハ!それはこちらのセリフ・・・ギャフン!」


おお!

間合いを詰めて投げてやったらリアル・ギャフンを聞く事が出来た。

今のをビデオに撮ってチューブに投稿したら再生回数が稼げるかも。


そう思っていると既にハルカがビデオカメラを構えてこの光景を録画していた。

流石と言うか準備とタイミングの良さはこの中でピカイチと言える。

しかし、この映像を見た人が理解できるようにスピードは抑えめで動かないとダメだ。

だから自分の動きも制限して投げる時は更にゆっくりとした動きを心掛ける。


「こんなもんか。」


そして河原を少し荒らしてしまったけど5分ほどで立ち上がる河童も居なくなった。

これで後は皆に任せれば良いだろう。


「ここも任せるから俺は魚を取りに行って来るよ。」

「期待して待ってるからね~。」


そして倒れている河童たちはみんなの手によって地面を引き摺られ、最初に捕まえた奴の許へと運ばれて行った。

しかも既に満身創痍なのに頭の皿を割るという徹底ぶりだ。

さっきトワコ先生が言っていた事が聞こえたけど、河童は頭の皿を割ると治るまで力が子供並みにまで弱体化するらしい。

彼女は三途の川で河童の同僚と仕事をしていたのでその辺の事にも詳しいのだろう。


そして俺の方は以前にもしていた様に糸の付いていない竹竿を取り出すと空間把握を駆使して魚を釣って行く。

これだと糸が絡まる心配も無いし餌も必要としない。

それに釣るのはオスだけで雌と大きな個体は取らない様に心がける。

何でも日本では大きな魚を好んで食べるけど外国では違うらしく、大きな魚はたくさんの卵を産んだり後に大きな個体になる子供を残すので釣っても逃がすらしい。

それに各場所で取り尽くす事はせずに広範囲で少しずつ取っていく。

出来れば人数も多いので100匹は欲しいけど、川は海と違い魚が住む場所も狭くて数も少ないので気を付けなければ生態系を破壊してしまう。

アズサには悪いけど程々で諦めてもらい後は海の幸やお肉で我慢してもらおう。


そして魚をゲットして戻ると力の弱った河童たちが正座させられ、他の皆は川で泳いだりビーチボールで遊んだりしていた。

とは言っても水の中ではなく、水の上でだけどとても楽しそうだ。

河原と言っても石がゴロゴロしているのであちらの方が足場も良いのだろう。

ちょっと修行ぽいけど本人達はとても楽しそうに笑っている。


「アズサ~魚捕れたよ~。」

「は~い。」


声を掛けるとアズサは待ってましたと言った感じにこちらまで駆けて来ると魚を入れておいたクーラーボックスを受け取り中身を確認する。

そして頷くフリをして涎を飲み込むとさっそく調理を開始した。

ただ調理と言っても腹を開いて内臓を取り出し、竹串に刺していくだけだ。

後はソウマさんが準備してくれたバーベキューコンロの炭でじっくり焼けば完成する。

それと事前に準備しておいたカット野菜やお肉を並べれば完成だ。

最初にサッパリとした川魚を楽しんでもらい、その後に本命のお肉を食べてもらおう。


「みんな~お昼ご飯にしよ~。」


そしてアズサの合図で皆もこちらへとやって来る。

カホさん達も川から上がりココノエ先生たちも戻って来た。


「ねえハルヤ君。何か緑のUMAが居るのだけど彼らはどうしたの?」

「実はカクカクシカジカでして。」


流石に川で意中の相手と遊んでいる所を襲われそうになっていたとは教えない方が良いだろう。

なので冗談を言って誤魔化しておくのが無難な所だ。

それに人には知らない方が良い事もあるので、下手をしたらお尻から手を突っ込まれそうになっていたとは口が裂けても言えない。


「そうなのね。」

「ええ、そうなんです。」

「今回に限って言えばよくやったわハルヤ君。彼らにはしっかりと恐怖を教え込んであげる。」


何も言ってないのにココノエ先生には今ので分かってしまったようだ。

まさかこれが以心伝心という奴だろうか?


「声に出てたよ!」

「なに!それは流石にヤバいかもしれない。」


しかし、そう思った時には既に遅かった。

ココノエ先生は水着の上からミニスカートを履いて眼鏡を掛けると、取り出した鞭で河童たちを一括りにして近くの岩陰へと消えて行った。


「「「・・・ギョエーーー!」」」

「人の『ビシ』恋路を『ビシ』邪魔する『ビシ』奴等は『ビシ』お仕置よ!『ビシ』」


そして魚が焼ける間は鞭の音と悲鳴がなり止む事はなく周囲の山々へと木霊していった。

その間ショウゴの耳はカホさんによって塞がれ、首を傾げて不思議そうな顔をしている。

ただコイズミさんは少し顔が赤いのでもしかして羨ましいのかもしれない。

でも普通の人があの鞭を受けると死んでしまうので遠慮してもらおう。

どうしてもと言う時は特別に作ったダンジョン素材の鞭に何重にも手加減を付与して渡しておこう。

それならきっと凄く喜んでくれるはずだ。


そして魚が焼ける頃になると再び鞭に括られた河童たちと一緒にココノエ先生も戻って来た。

河童たちは無残な姿だけど何とか生きている様で先生も少しは怒りが収まっている様だ。


「そろそろ魚が焼けますよ。」

「お前等は今の後で飯の話が出来る所が本当にスゲーな。」

「すぐに慣れますよ。」


ソウマさんが微妙な表情を浮かべているけどこれくらいは平常運転だ。

誰も死んでいないのでむしろ平和だと言っても過言ではない。

そして久しぶりの川魚を堪能するとメインであるお肉へと突入だ。


特に牛肉に関しては今日の為に神戸の牛さんに登場してもらった。

焼けば油が滴り口に入れれば蕩ける様な甘みが広がる。

その味にはさっきまで表情を歪めていた面々も笑顔に変わり、箸の速度は衰える事を知らない。

それ以外にもスペアリブや九州で有名な地鶏なども並べ、存分に今回のキャンプに参加したことを堪能してもらう。

そして、その味の前では川に遊びに来て河童に遭遇した事や、それが教育的指導(鞭打ち)を受けた事など直ぐにどうでも良くなってしまう。


「いや~今日は参加して正解だったな!」

「そうね。こんなに美味しいお肉はなかなか食べられないわ。」

「フフフ。ちゃんとサーロインも用意してありますぜ。」

「何だと!」

「それって確かグラム単価で5000円はするはずよね!」


さすが一家の台所を預かる女性は肉の価値をちゃんと把握いてらっしゃる。

俺は宣言通りに取り出した肉を台の上へと『ドン!』と置くとその横へとナイフを沿えた。


「さあ、好きなだけ食ってくれ!」

「うおーーー!」

「素敵!ショウゴもたくさん食べるのよ。」

「了解です!」


俺は厚めに肉を切ってもらうと1人1人の前に並べて行く。

こうしておけば個人個人に好きな焼き加減で食べ始めるだろう。

若干1名は肉塊と言えるサイズに火の魔法を使い、オーブンの様に焼いているけどアズサのアレは非常ではなく通常なので気にする者は誰も居ない。

既に皆の予備も含めて切り終わっているので今は頑固一徹な職人のような子供らしくない顔で肉と睨めっこをしている。


そして「ここだ!」という所で俎板に乗せると手に包丁を握り締めて動きを止めた。

アズサはそこで張り詰めた糸の様に真剣な視線を手元に向けると大きく息を吸ってゆっくりと吐き出していく。

するとその手が高速で動き、焼けた肉はまるで寸法を測ったかの様に均等にスライスされて行く。

そして息を吐き終わると同時にカットが終わり、数秒の間を空けてその手が残像を無数に作って動き始めた。

するとスライスされた肉は瞬く間にバラのような形へと変わり、取り出された大皿の上に見事な花畑を作り出す。

既に準備をしていたのか専用の特製ソースまで掛けると朝露に濡れるバラの園を作り出した。


「時々思うけどアズサは料理になるとステータスとかスキルを超越した動きをするよな。」

「美味しく食べる為ならこれくらいは簡単だよ。」


どうやらアズサの言葉をそのまま受け取るならこれよりもまだ上があるみたいだ。

幾らアズサはステータスの面で力が弱いと言っても今の時点で800を超えている。

しかし、今の速度はその1,5倍は軽く出ていただろう。

そうなるとその気になれば1460の俺に匹敵するかそれ以上出ると言う事か。

そこから更にスキルによる強化も考えれば凄い数値になりそうだ。

ただしアズサの場合は戦闘時にそれが発揮される事は無くて料理の時だけという縛りがある。

それらしいスキルは持ってないのにどうやっているのだろうか?


そして俺の疑問を無視してアズサは自分による自分の為だけのローストビーフに箸を付けると満面の笑みで口へと送り込んだ。


「ん~~~ん。し・あ・わ・せ!」


それは恋に恋する乙女といった感じで蕩け切った表情を浮かべている。

俺としては肉に恋人を奪われた気分なので少し悔しい気はするけど、ローストビーフに嫉妬しても仕方がない。

きっと食べ切った後には俺の所へ帰って来てくれるだろう。


そして、その後も肉・肉・遊び・肉・遊びといった感じで野菜さんの出番が無く、美味しく楽しい時間が流れて行った。

ちなみに帰る時には河童たちは解放し、残った野菜を持たせて川に帰した。

断じて残飯の処理に丁度良かったから見逃した訳では無い。

彼らも新鮮なカット野菜を沢山貰えて涙を流しながら喜んで帰って行った・・・はずだ。


そして、その後は適度な運動をした疲労感と満腹なお腹を抱え、俺達はキャンプ場へと戻って行った。

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