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264 野外活動 1日目 ③

輝く銀シャリも手に入ったので美味しいご飯を満喫していた。

するとそんな中で最大の功労者?であるトワコ先生が俺の傍へとやってくる。

そう言えば今食べているご飯は何かのついでだと言っていたので、もしかするとあっちで密かに何かを作っていたのかもしれない。


「ねえ、ハルヤ君。これを食べてくれない?」

「やっぱり何かを作ってたんだ・・・な。」


するとトワコ先生が取り出したのはさっき浄化した地獄の大釜の小型版。

言うなれば地獄の小釜と言った所だろうか。

色はさっきと同様で赤黒く変色しており明らかに闇鍋を通り越した地獄鍋だ。

なんだか風に紛れて「アァ~」と呻き声が聞こえてくる気がするけど、最大の問題はそちらではなく中身の食材にある。

どうやら釜飯のようで色々な材料が入っており鑑定するとメインのお米はコシヒカリを使っている様だ。

後はニンジンにシメジにゴボウと一般的な食材と言える。

ただし、この中の何が問題かと言うとその上に盛られた鯛のような白身の魚肉にある。

これは鑑定すると人魚の肉と出ているのだけど、これを俺に食えと言うのだろうか?


「とっても美味しいわよ。」


それは自画自賛という奴だろうか?

確かに人魚の肉は数々の伝承の中で不老長寿の妙薬と言われている。

食べた者は寿命を失い死ぬ事が出来なくなると聞いているけど・・・。


「これって人間が食べても大丈夫なのか?」

「人間?誰が?」

「いや、俺がだろ。」

「・・・・・・ん?」


なんでそんなに理解に時間が掛かるんだ?

しかもまだ理解に至っていない気がするのは俺だけだろうか?


「俺・・人間・・父さん・・人間・・母さん・・人間。」

「・・・ああ、そういう事なのね。ちゃんと分ってるから大丈夫よ。」


しかし材料は大丈夫でもこの釜はどうにかならないのか?

流石の俺もちょっと食欲が・・・。


「あ、ハルヤが食べないなら私が食べるわよ。」

「私も食べたい。」

「私も頂きます。」


そう言って俺の手から地獄の小釜を素早く奪い取ると聖光で浄化して箸を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待って!ハルヤ以外は死んじゃうかも!?」


しかし途轍もなく不安を掻き立てるセリフが飛び出して来たけど、3人の方が一瞬早く釜飯は口の中に入れてしまった。

その途端に動きが止まってしまい次第に肩が震えはじめる。


「だ、大丈夫か!?」

「「「お・・・」」」

「お?」

「「「美味っし~~~!」」」


すると3人は空に向かい口から光でも吐き出しそうな顔で声をあげた。

しかもアケミとユウナだけならともかく、アズサまでこの反応という事は凄く美味しいのだろう。

俺も釜の問題が無くなったので箸を伸ばして一口食べてみる。

でも確かに美味しいけど、いつもアズサが作る料理と比べれば良い勝負なので、ここまで喜ぶような味だろうか?

するとトワコ先生がキラキラとした期待の籠った瞳を向けてきた。

どうやら他の誰でもない俺の感想を聞きたいようだ。

ただ、アズサの料理と同等という事は俺にとっては世界一と同列でることに等しい。

なので俺が思い浮かぶ言葉はたったの1つだけだ。


「とても美味しいよ。」

「フフ。そう言ってもらえると今迄の人生で一番嬉しいわ。」


トワコの人生は既に1000年を越えているので同じ意味でも俺達とは重みがまるで違う。

それだけ喜んでくれるという事を示しているのだろうけど、使われている食材は公表しない方が良いだろう。

すると俺達の目を盗むようにして更に箸が伸びたので誰かと思えばシュリが真剣な顔で味見をしている。

様子に変化が無いので問題は無さそうだけど意外と危険性は低いのだろうか?


「これは確かに危険ですね。食べるとしてもルリコさん、ハルカさん、ワラビさんくらいにしておいた方が良いです。他の人では体と魂が砕けて死ぬか人ではない何かに変わってしまいます。」

「そうか。シュリは物知りなんだな。」

「え?あの、その・・・精霊が教えてくれましたので。」

「そうなんだな。」


でもそれはお前が人魚の肉を食べられた説明にはなっていない。

それに2人のレベルが出会った当初からどうして高いのかも分かっておらず、俺も今のところは知らないフリをしている。


「それなら私も食べてみる。」

「私も頂いてみます。」

「私も私もー!」


そう言っても大丈夫と言われた面々は釜飯を一口食べると、こちらも天に向かい雄叫びを放った。

どうやらルリコ、ハルカ、ワラビも同じように凄く美味しく感じているみたいだ。

他の者も興味はありそうだけどさっきのシュリが言った言葉と真剣な表情に試したいとは誰も言い出さない。

それ程に子供とは思えない気配をあの時のシュリは放っていた。

俺だけはその時の気配に覚えがあり、今迄の事から神の気紛れかもと可能性の1つに加えておく。

または作為的なものかもしれないので後で確認する必要がありそうだ。


そして料理を食い尽くした俺達は焚火を囲んでのんびりと映画鑑賞をしている。

最初に見たのはタイタニックと言う映画で俺が生まれる少し前に上映されたものだ。

最後に沈みゆく船を鯨が助けるというシーンがあって一時は賛否が分かれたらしい。

そして奇跡の生還を果たした船長が最後に改装するようなシーンへと移り変わった。

俺はこの映画は初めて見るのだけどこれは次回作への繋ぎらしく船長は席に座りパイプで煙を吹かしているようだ。


『お前は何者なんだ?』

『俺は悪魔王の化身だ。今は神によって浄化され世界を旅している。』

『そうか。あの悪魔王さえも改心させるとは神は偉大だな。』

『そういう事だ。お前達は俺が責任を持って送り届けよう。これも全ては神の御意志だ。』


「誰だこんな出鱈目を作った奴は!俺はあの時あんな事を言った記憶は無いぞ。」

「シ~!諦めてハルヤ。こうしないと色々な所から圧力が掛かって上映できなかったんだって。」


今のシーンに関してはヨーロッパ圏からの圧力が強かったのが原因のようだ。

本当はあの船長の祖父が悪魔王に助けられた事があって、それで怪物の姿をした俺の事も信じてくれた。

もしかすると世間に広がる常識とはこうやって少しずつ歪められるものなのかもしれない。


「それじゃあ今日の上映は終わりにして明日に備えてそろそろ眠ろうか。」

「そうですね。私も今日は色々とあって疲れました。」

「明日は近くの川で川遊びをするから水着を忘れない様にな。」

「「「は~い!」」」


よ~し!

これでとうとう皆の水着が見れるぞ。

俺は気持ちを落ち着けながらテントに向かうと寝転がってミミを抱き締めた。

今日はアズサ達は一番大きなテントに集合してパジャマパーティーをするらしく、女の子で加わっていないのはシュリだけだ。

まあ、何かあれば叩き起こさないといけないので丁度良いだろう。


そして焚火も消えて辺りが暗くなり始めると俺は眠りへと落ちて行った。



「ねえ、ハルヤ寝ちゃった?」

「お兄ちゃんは寝てますね~。」

「起きてても寝てもらいますけど。」


そしてハルヤの眠ったテントにアズサ達が戻って来た。

それに気付いたミミは大人のライオンの姿へと戻り頭を上げる。


「お兄ちゃん寝てるよ~。」

「フッフッフ。それでは私達のテントにゴアンナ~イ。」

「ミミの背中に乗せるからね。」

「起こさない様に慎重に運んでください。」

「落としても良いの?」

「お兄ちゃんは落ちたくらいじゃ起きないから大丈夫だよ。」


そして3人はハルヤをミミの背中に乗せると先程まで自分達が使っていた8人用のテントへと戻って行った。

そこでミミは小さくなり子ライオンの姿になると寝かされたハルヤの足元で丸くなり目を瞑る。


「ここは私だよ。」

「なら今日は隣が私だね。」

「ムム、仕方ないです。阿弥陀クジで負けたのですから仕方ありません。」


これは公平に考え抜かれ導き出された勝負法である。

実際にジャンケンではアズサ達にステータスで劣る他のメンバーが勝つ事は出来ない。

そして運の上昇に関係のあるスキルを保有するハルヤがこの事を知れば一方は確実にアズサになってしまうだろう。

それを考慮してハルヤには知らせず、ステータスの発揮できない勝負が阿弥陀クジなのだ。


「でもまさかアズサがこんな事を言い出すとは思いませんでした。」

「以外。」

「皆の気持ちが何となくわかるからね。私達は何時でもハルヤと一緒に寝られるし、お風呂だって入れるから。」

「は、破廉恥よアズサ!」

「「「し~・・・。」」」


すると声が大きくなったミキへと周囲から一斉に声を静めてとジェスチャーが向けられる。

それを見てミキも自分の声が大きかった事に気付いて手で口を押えている。

そんな姉に対して妹であるカナデは1つの暴露話を披露した。


「姉さんも先日買った水着をハルヤ君に見せる為に選んでいたのに何を言ってるんですか?」

「それは秘密だって言ったでしょ!カナデだって最初からそのつもりだったくせに!」


するとそれに反撃を返す様にミキもカナデの事を暴露する。

しかしカナデは少し頬を染めて嬉しそうにハルヤを見ると何でもない様に自然に返した。


「なんだかこの人を一目見た時から運命を感じただけです。姉さんもあまりツンケンしているといつまで経っても近寄れませんよ。」

「ハルヤの鈍感はワールドクラス。私の一族の初代様も苦労したって日記に残してた。」

「それって初代ハルカだよね。日記なんて書いてたんだ。」

「・・・どうして知ってるの?」

「それは秘密だよ~。」


そう言ってアズサはハルカの真似をして笑うと言われた本人は首を傾げた。

その姿にアケミとユウナも笑みを浮かべて声を抑えて笑い声を零す


「そういえば以前にアンも何か言ってなかった。」

「うん。私は人を探していたんだけど、やっと見つける事が出来ました。」

「それってもしかして・・・。」

「うん、私は悪魔王を探していたのです。私の命の恩人で・・その、その時はお兄ちゃんって呼んでた。」

「もしかしてそれって前世の記憶なの?」


アズサがそう問いかけるとアンは首を縦に振った。

どうやらアンにも以前にハルヤが悪魔王として活動した時の記憶があるようだ。


「私は前世で神様と約束しました。一生純潔を守れば今度は人間になった時のお兄ちゃんと合わせてくれると。だから12歳の時に出会って60年以上1人で過ごしました。幸いに姉さんが結婚してて子沢山だったから最後まで寂しくは無かったですけど。」

「そうなんだ。」

「信じるのですか?」

「うん。だって私も一緒だから。でも私はハルヤが頑張ってくれたからこうしてここに居るんだけどね。」

「私もだよ。」

「私もです。」


その言葉に周りからも驚きの視線が注がれるがアズサ達に気にした様子はない。

これが普通の集団なら笑って終わらせるか妄想癖があると見られていただろう。

しかしハルヤが今まで見せてきた物語と同じ姿や数々の言動が否定という言葉を限りなく薄れさせていた。


「この人は本当にたくさんの事を頑張ってこうして帰って来てくれたんだよ。だから私はハルヤの為に生きるって決めた。それに皆もハルヤが好きなら覚悟して欲しいな。ハルヤの、ううん。私達の敵は世界を滅ぼせるだけの力を持った存在なんだって。」

「それにお兄ちゃんは自分の命は軽く見るのに大事な人の命は凄く大事にするからね。」

「1回でも死ぬとお兄さんは泣いちゃいますよ。」


そして話しは数時間にも及び秘密の女子会?が終わると全員がハルヤの方を向いて眠りへと落ちて行った。

その後、穏やかに夜は過ぎると明るい朝日が昇り始める。



「ん?何か周りの気配が多いな?」


そう思って目を開けると天井がやけに高い事に気が付いた。

そして右を向けばアケミが腕に抱き着いて幸せそうな顔で寝息を立てている。

ただ、なぜ左を向くとワラビが居るのだろうか?

まさか俺が寝ている間にテントに忍び込んで・・・。

イヤイヤ、この見知らぬ天井を見ればここは俺が寝ていたテントで無いのは明白だ。

それに3人用のテントでこんな人数は眠れない。

足元には腹を上にして万歳をしながら眠っているミミも居るし、ここはどう見ても女子会が行われていたテントだ。

そうなると俺がトイレにでも行った時に入るテントを間違えたのか?


しかし俺は昨日起きた記憶が全く無くて膀胱の状況からもそれは明らかだ。

それにしても酒も飲んでないのにこんな漫画みたいにお約束な展開が待っているとは朝から驚かされる。


そして状況分析を終えると左右の2人を起こさない様にゆっくりと起き上がりテントから抜け出すと大きく背伸びをした。

どうやら朝日がこのキャンプ場に差し込むにはもう少し時間が掛かりそうだ。

今は朝まずめの時間帯と言う事もあって周辺には朝露も付いており気温もかなり下がっている。

ここはちょっと火でも起こしておいてソーセージでも焼きながらのんびりと待っているのが良いだろう。


「まずは昨日使った割り箸を取り出してそれに普通のソーセージとビックソーセージを刺してっと。」


薪は少し湿っていたけど魔法で少し乾燥させて火を着ければ簡単に燃えてくれた。

そして火の近くで炙っていると焼けた肉と油の匂いが漂い始め、それに釣られてテントからアズサが姿を現した。


「おはよう。昨日はよく寝られたか?」

「うん。ねえ、私のも焼いてる?」

「ああ、ちゃんと焼いてるよ。それとこっちに来て座ったらどうだ。」

「そうする。それと髪をお願い出来るかな。」


そう言ってアズサは俺の横に座ると櫛を取り出して渡して来る。

以前はミズメの髪もこうして毎朝綺麗に梳いていたのはもうかなり前の事だ。

俺はアズサの手から櫛を受け取ると日差しの差し始めた松林の中でゆっくりと髪を整えていった。


「アズサは俺が渡した物は嫌じゃなかったか?」

「大丈夫だよ。思い出もたくさんあるから。」

「そうか。なら壊さない様にしないとな。」

「うん。」


そして髪を整え終る頃になるとソーセージも焼けた様で俺はアズサの横へと座り直すと一緒に食べ始めた。

やっぱり直火で焼くとフライパンと比べて一味違う。

焚火に使っている木の風味がプラスされて適当に焼いても美味しくなった気がする。


「美味しいね。」

「そうだな。こういう時間が一生続けば良いのに。」

「私もそう思ってるけど2人の時間もそろそろ終わりみたいだよ。」


さっきまで寝ていたテントに視線を向けるとその中で動きがあり、アケミ、ユウナ、ミミが姿を現した。

そして2人は少し眠そうに目を擦りながらこちらへと歩み寄り、ミミは元気に駆け出すと俺の前でお座りをしてソーセージを見上げている。

その口からは朝日に輝く涎が滴り、先程までの清々しさをコメディーチックな雰囲気へと変えてくれる。


「ソ~セ~ジ!」

「はいはい。すぐに焼くからこれでも食べてろ。」

「うん!」


食べかけのソーセージをミミに渡すとそれを人の姿になって受け取り美味しそうに食べ始めている。

それを見てアズサは穏やかに微笑むと自分の横に空いている席へと促した。


「ここに座って食べようね。」

「うん!アズサはお母さんみたいだね。」

「そうなの?じゃあ私はミミちゃんのお母さんになろうかな。」

「ホント!」

「うん。」

「やった~!!」


ミミはとても嬉しそうにアズサに飛びつくと頭をグリグリと押し付けて喜びを表現している。

俺の知る限りでミミには今まで母親と呼べる存在は居らず、生まれてすぐに産みの親には見捨てられて俺が兄と親代わりとして育てきた。

もしかしたら父親代わりはなれていたかもしれないけど母親になれるのは基本的に女性だけだ。

大人になってからも神の使いとして各地を周っては崇められ、敬われる事はあっても家族と思ってもらえる相手は俺しか居なかった。


家では父さんと母さんも可愛がっているけどアケミとの時とは少し違う感じがする。

だから、これまでに母親になると言ってくれたのはアズサが初めてだろう。

それにアズサの見た目は小学1年生だけど中身は大人なので、このまましばらく成り行きを見守る事にした。


「良かったなミミ。」

「うん!これで私も群れの一員だね。」

「群れ?」


するとアズサはミミの言葉に首を傾げているけど、こんなだけどライオンなので普通は群れで生活をしている。

本能的にそれを理解して、ここに居る皆を仲間と認識したのかもしれない。


「ミミはライオンだから群れを作る習性があるんだよ。」

「なら、ミミも今日から私達の家族だね。」

「うん!」


そしてミミはアズサの膝の上に座るとそこで手に持っているソーセージを食べている。

ただ、アズサの目がそこに釘付けとなっている事は言わないでおこう。

それにこの群れは獣と違って縦社会ではないはずなので取ったりはしないはずだ。

なのでここにあるのは早い者勝ちという掟のみ。


そして俺の左右にはアケミとユウナが座り、眠たそうに体を預けて来たので昨日はかなり夜更かしをしたみたいだ。

そういえば昨日は朝も早かったみたいなのでそのせいかもしれない。


「お兄ちゃ~ん私にもソーセージ頂戴。」

「はいはい、今焼くからな。」

「お兄さんのソーセージを下さい。」

「はいはい?って何かニュアンスが違わないか?」


流石に俺のソーセージを焼いても美味しくないと思うけど、それとも宦官にでもしたいのか?

でも多分・・・きっと・・・切り落としても生えて来ると思いたい。

俺でも試した事はないけど、そこだけ対象外という事は無いはずだ。

しかし先程まで清々しいと思っていた空間から一変して、まさか暑さとは違う汗で背中を濡らす事になるとは思ってもいなかった。

ただその後はおかしな要求も無く眠たそうにしているので、きっと寝惚けて言葉を間違えたのだろう。

そして2人の髪も綺麗に整えていると皆も起きて来たので朝食となった。


どうやら俺は無事に2日目を始められそうだ・・・。

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