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253 ダンジョン構築 ①

遠足から数週間の月日が経過している。

そしてあの時の生徒たちは厳重な注意はされたけど精神が正常に戻ったために転校までさせられる事は無かった。

俺としてはどうでも良い事だけどルリコが以前の経験から家族の心配をしていたので調査だけはしておいた。

その結果、家族ぐるみで邪神の影響を受けていて近所に迷惑を掛けている様だったので正宗で切り伏せて邪神から解放だけはしておいた。

ルリコの父親と違って浸食が完全ではなかったので消える事もなく、今では普通の家庭に戻っている。

しかし周囲から失ってしまった信頼を取り戻すのは生半可な事では無いだろう。

彼らが本当に大変なのはこれからのはずだ。


そんな中でとうとう準備が整いその時がやって来た。

俺の前には石の鳥居とそれを囲む様にストーンサークルが設置され、それに機械が接続されている。

ただし、これは唯の入り口であって封印の制御装置ではない。

一番重要なそれはここから遠く離れた地下深くで厳重に管理されている。

ただそれも今は封印のほんの一部を制御するだけに留まっている状態だ。

封印の維持と管理は今も封印内部からゴーグルが行っているのでそれを破壊するか回収する必要がある。


「それにしても準備に時間が掛かったな。」

「仕方ありません。急な事で装置を運び込むのに時間が掛かりました。ですからこれでもかなり急いで対応しているのですよ。」


俺の横にはクオナが並び、その仲間たちは細心の注意を払いながら目の前の装置を調整中だ。

ハクレイとクオナ以外だとその仲間の精神生命体は初めて見たけど、こちらの見た目も人間との違いはない。

町中で擦違っても殆どの者は気付かずに通り過ぎるだろう。

ちなみに、このちょっと代わった装置だけど何なのかと言えばダンジョンを作る為の物だ。

漏れ出た邪神の力を集めてダンジョンという現象に変換し、空間の狭間に作り出すらしい。

原理はウチにある神棚と似ていて、その維持を強制的に邪神にさせるという訳だ。

もし、これに成功すれば世界の至る所にダンジョンを作り出す事が出来て邪神の力を削ぐ事に繋がる。

以前にダンジョンが出来たのは偶然でしかなかったらしいけど仕組みは殆ど一緒らしい。


そして、ここのダンジョンの最下層には封印された邪神が居るそうだ。

そのため危険が最も高いので、ここには俺が1人だけで入る事になる。

何故かと言えば今回の事が失敗し更に封印が弱まる事になれば以前の様に世界中へとダンジョンが出現するからだ。

そうなれば歴史の修正力もあり、依然と同じ所にダンジョンが生まれる可能性が一番高いらしい。

だから念の為に俺の家族やいつものメンバーは家で待機し、それ以外の所もアンドウさんや信頼できるメンバーで固めてある。

それは世界規模で行われていて昼夜を問わず何もない所を監視してもらっている。

そして準備が整うと操作盤の前でクオナがこちらに視線を向けてきた。


「それでは始めますよ。」

「何時でも頼む。」


そしてクオナが操作盤に触れると鳥居に電気が走り、ストーンサークルが輝き始める。


「現在エネルギー充填率50パーセント・・・60パーセント。」


今は周囲へと広がっている邪神の気を集めてエネルギーに変換している所だ。

もし制御が上手く引き継げれば、その後からは邪神の周囲に漏れ出る気を直接吸い取れるようになるらしい。

そうすれば今の状況も少しは改善されて人々が影響され難くなるはずだ。


「70パーセント・・・80パーセント・・・90パーセント。」


すると鳥居とストーンサークルが激しく輝き、鳥居の入り口の空間が歪み渦を作り始める。

これはまさに俺が知るダンジョンと同じ物と言えそうだ。


「エネルギー充填100パーセント。ダンジョン形成完了。安定化に成功です。」

「良し。俺はすぐに突入して・・。」

「待ってください!少し様子がおかしいです!充填率の上昇が止まりません!110パーセント・・・まだ上がっています!」

「どうなっている!?」

「もしかするとバイパスを通して邪神が直接力を流し込んでいるのかも知れません。このままではシステムが暴走して世界中にダンジョンが生成されてしまいます!」


そうなれば以前と同様にダンジョンから魔物が溢れ出す事も考えられる。

上手く対処出来れば良いけど失敗した場合はその国が亡ぶかもしれない。


「それなら俺は急いでダンジョンの最下層を目指す。それまでどうにか持ち堪えろ!」

「分かりました。しかし今の取れる手段では持って5分です。それ以上はシステムが負荷に耐えきれません。」

「それなら急いで何処かにダンジョンを作ってダンジョンアタックさせろ!それなら少しは時間が稼げるだろう。」

「分かりました!しかしアンドウの最終プランをいきなり使う様になるとは思わ想定外です!」

「危機管理の面ではさすがアンドウさんだな。」


どうやらアンドウさんはこういう時の為に幾つものプランを用意してくれていたみたいだ。

信用信頼よりも慎重を優先するあの人らしい。

しかし、それでもどれほどの時間が稼げるかは分からない。

俺は急いでダンジョンに飛び込むと、そのまま一直線に通路を進んでいった。

こういう時に空間把握のスキルは凄く役に立つ。

魔物や階段の位置が丸分かりなので迷う事も不意を突かれる心配も無い。

まるで攻略本のマップを見ながら進んでいる様で数秒で次の階層へと辿り着いている。

しかし、久しぶりのドロップアイテムも拾う暇がないので、もし帰りに残っていれば出来るだけ回収する事にした。

そして大量の魔物を葬り5分後には最下層へと辿り着いた。

するとそこには光りの繭の様な物があり、所々で解れて穴が開いている。

恐らくはこれが封印であり、あの穴から邪神の気が漏れ出して周囲へと影響を与えているのだろう。


「何者だ・・・。」


すると繭の隙間から大きな瞳が姿を現し、こちらをギロリと睨みつけて来る。

どうやらその様子から機嫌はすこぶる悪そうだ。


「よう、久しぶりだな邪神。」

「貴様はあの時の人間モドキ!まさかあの状態で生き残っていたのか!」


人間モドキとは酷い言われようだな。

しかし、あの時の俺なら仕方ないかと思いながらスキルでゴーグルを探す。

すると繭の一番下である邪神の足元へと落ちていた。

ただ、邪神は今も繭玉の中で拘束され身動きまでは取れない様なので、これなら不意を突けば回収は可能だろう。

俺は何食わぬ顔で繭玉へと歩み寄りながら会話を継続させる。

たとえ相手が思考を読めたとしてもそれは表層で会話内容しか読み取れないからだ。

今日までに保健室でハクレイに訓練されたので少しくらいは本心を隠せる。


「お前のせいで上は大変な事になってるんだ。俺がこれからそれを止めさせてやろう。」

「おのれ人間モドキめ!再び我の計画を阻もうと言うのか!」

「阻むも何もここは俺達の世界でお前はお客さんだ。しかし、持て成す必要のない犯罪者なら捕らえて閉じ込めるのが一番だろ。」

「この卑怯者め!動けない我を弄って楽しいか!」

「・・・。」

「フン所詮は人間か!正義心で手が出せまい!」

「何を言ってるんだ?『ブス!』」

「な、貴様それが人のする事か!」


そう言って必死に動こうとするけど今の所は動けない様だ。

しかしコイツは何を馬鹿な事を言っているんだろうか。


「俺はお前から見て人間モドキなんだろ。なら俺は人間じゃない。それに茸にはモドキと付く物もあるけどそういうのは基本的に毒キノコだ!」

「おのれー!貴様はそれでも元人間かー!」

「プライドで実力差が埋まるか!誇りで腹が膨れるか!仁道で大事な物が護れるわけ無いだろうが!それらが邪魔なら俺はそんなの丸めて捨ててやるよ!」

「クソー!まるで自分を鏡で見ている様な外道っぷりだ!」

「だからお前の考えが手に取る様に分かる時があるんだよ。」


俺はそう言って邪神をSソードで滅多刺しにすると最後の1撃が深く邪神を貫いた。

そして、その手を深く結界内に入れるとそのまま伸ばしてゴーグルを掴み取る。


「おのれ本当の目的はそれか!」

「その通りだ。」


俺は足を擦らせて何とか一矢報いようとする邪神から逃げる様に手を引くと、結界内から脱出してそのまま後方に飛んで距離を取る。

そして手の中にあるゴーグルを見ると幾つもの罅が入り、今にも砕けてしまいそうな姿となっていた。

しかし、この姿でも結界を維持していたのだから、コイツは今でもちゃんと生きているに違いない。


「約束通りに迎えに来たぞ。」


俺は浄化を使って500年の汚れを落としてやるとゴーグルに精神力を流し込む。

Sソードを自在に扱えるようになった今なら補助をされなくてもこれぐらいは簡単に出来る。


『ピ・・ピピピ。精神力の供給を確認。セーフモードからノーマルモードへと移行。使用者・・・ハルヤを確認。』

「どうだ?」

『おはようございます。約束は果たされたのですね。』

「ああ。その通りだ。それでどうする。このまま戻るか?」

『いえ、封印を修復します。力を貸してくださいハルヤ様。』

「ああ、分かった。」


俺はSソードを収納すると代わりに正宗を取り出して鞘から抜き、それを俺の手に向けて突き刺した。


『な、何を!』

「グアーーーー!」


今は正宗を突き刺した手には回収したゴーグルが握られている。

そのため俺が手を貫いたと言う事は一緒にゴーグルも貫いたと言う事になる。

そして同時に邪神も痛みに耐える様に雄たけびを上げると空気を激しく振動させた。


「な、何故分かった!」

「お前の事は分かると言っただろう。ここに来る前に既に確認してるんだ。このゴーグルのAIに人間性は存在しないってな。なら最後にコイツと交わした会話はAIでは無かったって事だ。」


すなわち、こいつはあの時に心が・・・精神が芽生え始めていた事になる。

ただ、その精神が邪神と封印された事で汚染されてしまったのだろう。


「それにコイツは俺の名前に様なんて付けないんだよ。」


俺は大事な相手には呼び捨てにしてもらいたいと思っている。

一部は本人の希望で敬称を付けている者は居るけど、様なんて付けてる奴は1人も居ない。

だからもしこのままゴーグルを連れ帰れば、邪神と直接の繋がりのある存在を解き放つ事になる。

だからこうしてムラマサで破壊したのだ。


「悪いなマルチ。無事に戻ったら名前も考えてたんだけどな。」


しかし声を掛けても反応は帰って来ない。


『どうやら唯の屍の様だ・・・ですか?』

「分かってるじゃないか。でもあまり人の心を読まないでくれよ。」

『それは保障できません。』

「は~・・・それよりも邪神の影響は消えたのか?」

『第三者による精密検査を希望します。』

「分かった。戻ったらクオナかハクレイに頼んでみよう。」


色々と言いたい事はあるけど、それはコイツが正気であるのかを確認してからでも良いだろう。

それに思っていた通りアイテムボックスへの収納が出来ないので明確な命が宿っていると見て間違いはなさそうだ。


「おのれ人間モドキめ!我は必ずここから抜け出してお前の大事な物を全て奪ってみせるぞ!」

「やれるならやってみろ。その時は俺とお前でどちらが邪悪か教えてやるよ。」

『そこは正義と悪で競うのでは?』


するとマルチから鋭いツッコミが飛んでくるけど正義とは地獄に落ちる見込みのない奴が掲げて戦うものだ。

それに比べて俺は既に三途の川を渡るときに罪深いことが確定してる。

そんな人物が正義なんて掲げてどうするんだ。


『なんだか少し見ない内に更に残念になったみたいですね。』

「だから心を読むな。それと邪神!何でお前まで可哀相な奴を見る様な目をしてやがる!俺はお前の鏡だぞ。憐れむなら金を寄こせ。」

「お、おのれ~?・・・今回は大人しく引き下がってやるが遠くない未来に必ず復活して見せるからな!」

「だから憐れむなって言ってるだろうがー!」


俺は肩を怒らせながらマルチを頭に引っ掛けるとそのまま外へ向かって走り始めた。

これでなんとかここから無事に出られるので帰りは片っ端から魔物を狩り尽くし、ドロップを回収して外へと向かって行く。


「ハハハハハ!ウマウマ~!」


俺自身がこんな深層まで来たのは初めてで最下層である100階層へ辿り着いた事から今までの記録を大きく塗り替えている。

しかもアイテムの質が良く、上級ポーションに上級蘇生薬。

それだけでなく強力な武器に防具もザックザクだ。

アフリカであのゴ〇ラモドキからドロップした皮には遠く及ばないけど、それでも防御なら5000を超えている。

武器もそれに匹敵し、これを今の技術で加工できればかなりの強化になるはずだ。


ちなみにゴ〇ラモドキを倒した刀はこの時代に来て鑑定すると15000の攻撃力と表示できるようになった。

やはり、あれは破格の攻撃力を宿していたみたいなのですぐに使用者登録を付与しておいた。


ちなみに新しく手に入れたポーションと蘇生薬についてだけど、幾ら入れても中級以下がアイテムボックスから消える現象が起きている。

もしかすると俺が過去に行った影響と言うか未来から持ち込んだ分の辻褄合わせをしているのかも知れない。

これはしばらく下級中級に関しては無駄使いが出来ないようだ。


そして、殆どの魔物を狩り尽くした俺はホクホク顔でダンジョンから外へと戻って来た。


「ただいま~!」

「何やら凄いホクホク顔ですね。」

「良い物がたくさん手に入ったからな。それよりもそちらの方は上手くいったか?」

「はい。何故か途中から相手の方から引き下がる様に抵抗が無くなりました。そのおかげで主導権を完全にこちらが取り戻し無事にシステムを稼働させる事が出来ています。それでそれがあのゴーグルですね。」


そう言ってその視線はマルチへと向けられており若干の警戒があるのは俺と同じ理由だろう。


「一応は正宗で突き刺して邪神の影響は断ち切れているはずだ。可能なら独立している装置を使って検査を頼む。それとコイツの名前は俺の方でマルチにしておいた。お前なら一目見た時から分かってるだろう。」

「ええ・・・それにしてもあなたの周りではどうしてこんなに精神生命体へとなる者が現れるのか。普通なら数百年に1人のペースのはずなのですが。」

「それならマルチがそうなんだろ。500年前には既に精神が芽生え始めていたからな。」

「そんな物ですかね?まあ、しばらくこの子は預かります。」

「ああ、頼む。」


俺はそう言ってマルチをクオナに任せると後ろへと視線を動かした。


「このダンジョンは枯渇させたからしばらく使えないかもな。」

「それに関しては問題ありません」

「どう言う事だ?」


以前のダンジョンなら1日に発生する魔物は50匹が限界で下層から各10匹ずつと優先して補充されていた。

ここの階層が100とするなら1階層に魔物が湧くまで3ヶ月近くかかる。


「その調節が出来るのが今回のシステムです。魔物の強さは階層に依存させますが魔物の湧く数に関してはこちらで調整が可能です。」

「それは便利だな。今までは魔物の発生する数に制限があったから苦労もあったけどそれなら安定してアイテムも回収出来そうだ。」

「それに奴が取り込んでいる大量の魂もサルベージしないといけません。中には私達の同胞も居るはずですので見つけて助け出さないといけません。」

「そうなるとお前らもダンジョンに入るのか?」

「私には別の管理もありますから本国から別の者が来るはずです。」

「そうなのか。まあ仕事を頑張ってくれよ。」

「ええ、ちなみに中学生と高校生は見学や修学旅行で来ていますからその時を楽しみにしていますよ。」


見学?修学旅行?何処かで観光地でも経営してるのか?

まあ、話しは済んだから家に戻るか。


「そういえばダンジョンは何処に作ったんだ?」

「1つ目はユカリの神社に作りました。それはアナタの所に行ってもらっています。」

「それなら俺もそっちに向かうか。他は?」

「2つ目は道後の近くに、3つ目は出雲の近くに作りました。こちらである程度は調整して迷惑の掛からない場所にしてあります。」


以前は町のど真中にダンジョンが発生し、それで何軒も家を潰したりしたのでとても助かる。

それに今は資格試験のおかげでダンジョンに入れる者も限定できる体制が整っている。

こちらで魔物の数を調整できる以上は溢れ出る心配も少ないだろう。

以前の様に厳重過ぎる壁は不要だろうけどゲートは必要になると思う。

その気になれば俺が壁を作れば数分で完成させる事も可能だ。

後はアメリカでアンドウさんがやった様に仕上げをしてもらえば機材の取り付けも可能になる。


「今後の監視についてはアンドウさんと話し合ってくれ。俺の方はこちらで適当に囲っとくから。」

「後で様子を見に行きます。」


そして、その場から飛び立つと以前は第一ダンジョンと言われていた所へと向かって行った。

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