247 小学校入学 ②
会場に到着すると掲示板の案内に従って通路を進んでいる。
所々に教師も立って直接誘導を行っていて道に迷う心配も無さそうだ。
それ以前にこの会場はこの7年のハードスケジュールで何度も来た場所でもある。
集まる場所も観客席ではなくその下にあるグラウンドなのでいつも使っている場所だ。
そして通路を抜けて外に出るとそこには既に多くの人が集まり、誘導に従って整列を始めている。
ただし、このグラウンドに降りているのは全て1年生だけだ。
それ以外は全て観客席に居るけど2年生以上の在校生も見に来ていて満員になっている。
何人がここの観客席に入れるのかは知らないけど最低でも3万人は入っているだろう。
グラウンドにも千単位で人が居るので並ばすだけでも大変そうだ。
しかし流石と言うか、係の教師の手を紛らわせる者は少ない。
流石にその程度で減点はしないだろうけど見ている間にも列が整って行く。
それに並ぶと言っても指定されたプラカードに沿って並べばいいだけだ。
特に今年の小学生は2クラスしかないので一番端か先頭と言える位置になり見つけるのも簡単だ。
既にクラス分けも通知が来ているのでそこに行って適当に並べば良い。
しかし数千人も居ればどうしても争いが起こる。
殴り合いにまではなっていないけど、それは主に中学生と高校生に多い。
どうやら彼らの中に選民意識が芽生えている様で途中入学者を下に見る傾向があるようだ。
その態度があからさまな者と来たばかりで血気盛んな奴が衝突している。
今の所は教師が優しく諌めているけど、その動きからして生徒では太刀打ち出来ないだろう。
怒らせて叱られないと良いけどな。
「だからアズサさんや。その木槌は仕舞ってくれないかな。教師に任せておけば大丈夫だから。」
「・・・うん。」
今のアズサは小学1年生で、その外見は美少女ではあるけどまだまだ幼い。
能力的にはこの学園の生徒を全て相手にしたとしても負ける可能性が0だとしても無駄な争いに首を突っ込む必要はないだろう。
しかし、そんな時に誰かが水の魔法を使いその流れ弾がこちらへと飛んで来た。
それは運が悪い事にこちらに飛んでくるとすぐ横の地面へと着弾する。
それによって周囲へと泥を跳ねさえ、俺達を含む多くの生徒たちを泥だらけにしてしまった。
どうやら高校生の誰かが喧嘩の末に魔法を使ったみたいで今は既に教師に捕まり厳しく注意を受けている。
しかし、そこに反省の色は見えずそっぽを向いて不貞腐れているだけだ。
「フッフッフ!どうやらお仕置が必要な奴が居るようだな。」
「行ってらっしゃい。」
「私達でこっちはどうにかしておくね。」
「せっかくの晴れ姿も泥だらけでは可哀相ですから。」
俺達4人に関しては泥が付く前に防いでいるので問題ない。
それでなくてもこの程度の汚れならちょっと体を動かせば落ちてしまう。
しかし他の同級生たちは違い汚れてしまった服を見て泣き出しそうな子達も居る。
でもそちらはアズサ達に任せるとして俺は犯人に物申しに向かうことにした。
「それじゃあ行って来る。」
俺は愛用のフード付きマントを被ると風を巻き上げて一瞬で移動し、そっぽを向いている男子生徒の眼前に姿を現した。
そして、その頭を掴んでそのまま引き摺る様に移動を開始し先程の魔法が着弾した所へと戻って行く。
「な、何しやがる!」
「悪い事をしたら謝らないとな。上が手本を見せないと下の子はそれを見て真似をするものだ。」
そして俺は泥の中に男を放り投げ、まるで子供が玩具のボールで遊んでいるように緩い放物線を描いている。
しかし、その距離は10メートルを軽く超えており周囲には驚きの声が上がる。
「ぺッ!ぺッ!何しやがる!」
「お前がした事と同じだ。それにお前はその何十倍もの被害を出している。もし魔法が他人に当たたらどうするつもりだったんだ。」
「そんな事知るか!避けれないそいつが悪いんだろうが!」
「どうやら、お前には安全面での意識が欠落しているようだな。」
俺は指先に小さな水の球を作り出すとそれを弾丸の様に飛ばして男の肩を貫いた。
「がーーー!な、何しやがる!」
「避けられないお前が悪い。ほら次々行くぞ。」
俺は容赦の欠片も感じさせない動きで魔法を連射し足や腕などを貫いて死なない程度に蜂の巣にしてやる。
ただし、あまり会場を血で汚すのは良くないのでこまめには回復をして傷だけは塞いでいる。
「ここに居る者はエリートだ。それは認めよう。いつかはお前もこの程度は出来るようになるだろう。しかし、その時に今の様な事をすれば受けた相手は確実に死ぬ。それを理解してこれからは心を入れ替えろ。」
問題を起こした生徒は意識があっても既にかなり消耗しているので立つ気力さえも失っている。
しかし、これはこの会場に居る全ての者に対しての警告でもある。
こんな考えの奴が野に放たれたら平和な日本が暴力の支配する世紀末の様な国になってしまう。
「今日はサービスで回復してやるが次は無いと思え。俺はお前の様な奴に容赦しないからな。」
そして俺はサッと空に消えると人の波に紛れて何食わぬ顔で列に戻って来た。
しかしマントを羽織ったのは途中からなので姿を見ていた奴も居るのだろう。
少し変な目で見られているけどこれくらいは仕方ない。
それにこの学園ではこれくらいは日常茶飯事のはずだ。
7年前に学園に来た時には救急車も来ていたし、それをアイコさんとヒョウドウさんは笑って流していた。
既にさっきの生徒も何処かに消えているので先生が連れて行ったか、気力を振り搾って自分で列に戻ったに違いない。
「お帰り。あれからは争いも無くて整列もスムーズになったよ。」
「それは良かった。それならもうじき始まりそうだな。」
周りを見ても泣きそうな顔の子は1人も居らず、ピカピカの服を嬉しそうに眺めている。
どうやらこちらも上手く収まったみたいなので無事に晴れの舞台へ立つ事が出来そうだ。
「なんだかお兄ちゃんは前よりも優しくなったね。」
「以前は私達以外はアウト・オブ・眼中でした。」
「まあ、俺もこれまでの長い人生で少しは丸くなったって所だよ。」
多分だけど以前なら首をねじ切る位はしたかもしれない。
でも相手は15歳の子供でまだまだこれからの人生で、今のも200年生きた経験からの老婆心に近い。
あのまま社会に出れば確実に破滅へと向かって行く事になっただろう。
400年前ならばこんな事は言ってもらえず、下手をしたら首を刎ねられても仕方がないと言われただろう。
そして、しばらくすると放送が掛かり入学式が始まった。
とは言っても並んでいるお偉いさんが順番にマイクを受け取ってお祝いの言葉を言う位だ。
誰もが1分と喋らないので順調に消化されて行く。
そんな中で周りの目を引いているのはトウコさんの首から下がる巨大なサファイヤのネックレスだろう。
マイクを受け取って視線が集中した時に周囲からドヨメキが上がっており、あの時に渡した宝石の加工が間に合ったみたいだ。
その後、ゲンさんも挨拶を済ませると生徒の多くがグラウンドの端の方へと移動を開始した。
それを見て知らない者は後に続き、位置的に後ろになった者は空歩で内側が見られるように浮かび上がる。
どうやらこれからイベントが開始されるようで、中央の方では準備が行われている。
俺達小学生組は端の方と言う事で人に押されて自然と壁際になってしまった。
しかし、空歩を使おうにも幼い彼らには空中に長時間浮いて姿勢を維持する事は出来ない。
これではせっかくのイベントも台無しなので俺は周囲に居る同級生を集める事にした。
「全員集まれ。」
「どうしたの?」
「このままだと皆みたいに見られないよ~。」
確かに空歩では見る事は不可能だけど別に一緒の事をする必要はない。
足場が低いならそこを高くしてやれば良いだけだ。
そういう事でこの周辺に雛壇の様な足場を作り皆をその上に乗せる。
これでのんびりと観戦できる・・・何て事は思っていない。
俺は周りの同級生を上手く隠れ蓑にして壁を作るとスキルを使ってそこから中央の方を見ている。
これで簡単には見つからないだろう。
「きっと無駄だと思うよ。」
「ほら、ゲンさんがこっちを見てるし。」
「トウコさんもこっちを見ながら笑ってますよ。」
確かに既に俺の位置は特定しているみたいだけど、呼ばれるまでは姿を現さないぞ。
そしてマイクが用意されるとゲンさんはそれを受け取ってグラウンドに居る全員へと声を掛けた。
「良かった。まずは名指しで指名される事は無さそうだ。」
「どうなのかな?」
皆もこの数年でゲンさんとトウコさんの性格は良く理解しているので、無理にフラグを立てているのではない。
だってフラグと言えるものは既に乱立しているからだ。
「このグラウンドに居る全員に告げる。儂に勝った者は大学までの卒業資格を与えよう。更に学費は完全免除。支払った金も返そうではないか!」
するとその声に応え周囲からゾロゾロと多くの無謀な学生達が出て来る。
そして、それに合わせて武器も準備されているのでアレを使っても良いみたいだ。
恐らくはゲンさんの実力を知らないか、新しく入学して来た新入生たちだろう。
既に前に出ない何割かの生徒は呆れの表情を浮かべて見ているので、いつの時代にも相手の実力と下調べは重要と言う事だ。
「どうやら今年は豊作なようじゃな。これは楽しめそうじゃ。」
きっとアレは豊作と言ってもその前に色々と言葉が隠れているはずだ。
そして、準備が整い数分後・・・。
「まさに豊作じゃったか。」
「あらあら。その割には顔が苦笑いになっていますよ。」
「お主こそ。それを抜かずに拳だけしか使っておらんじゃろ。」
そして数分後には大量の敗者が地面に横たわっており、その数は300人を軽く超えている。
しかも折れた武器と共に心も折られたのか誰も立ち上がれる者が居ない。
怪我もちょっと骨が折れている程度なのであの2人が相手なら軽傷と言える。
どうやら、この7年の訓練によって手加減を習得して使いこなせるようになっているようだ。
ただし、その陰にはアンドウさんの苦労と大量の犠牲者が潜んでいるのを忘れてはいけない。
俺の所にも時々その関係と思しき患者の回復依頼が来ていたので間違いない。
ちょっと跡形もなく無くなってしまった手足を生やす簡単なお仕事で報酬が高かったので良い稼ぎになってくれた。
するとゲンさん達の視線がこちらに固定されると再びマイクを通して声が響き渡った。
「これで儂らの実力は理解できたじゃろう。ついでじゃからもう1人の実力を見てもらおうかの。」
「隠れてないで出て来なさい。それとも名指しで呼んだ方が良いの?」
ここまで言われると誰の事かは俺にだって想像が出来るのでササッと服を着替えると幼気な獣へと姿を変える。
そして大きく跳躍して人垣を飛び越えるとそのままリズミカルな足取りで2人の許へと向かって行った。
「メ~~~。」
「うむ、そう来たか。まあ、今日の相手は儂らではないからな。」
「そうね。だってアナタは今日から我が校の生徒だもの。・・・いつでもヤリ合えるものね~。」
そう言って2人は嬉しそうに殺気を漏らしてるけど周りが呑まれているので抑えてください。
でもそうなると俺の相手はここに集まっている者の中で名乗りを挙げた挑戦者となる。
それは確かに面白そうだけど、さっきの今でそんな度胸のある奴が居るのか疑問に感じてしまう。
そう思っているとゲンさんはマイクを持って再び周りへと声を発した。
「それではこの山羊と戦いたい者は集まるのだ。勝てば今後の学費を半額まで下げてやるぞ。ちなみにこれはここに居る全員に権利を与えよう。」
これはきっと自分達と同じ条件にすると警戒して誰も出て来ないと思ったからだろう。
現に数万人も居るのに2人が声を掛けた時には400人くらいしか生徒は集まらなかった。
しかし今回は多くの者が動き出すと俺の前には沢山の人集りが出来ている。
主に降りて来たのは高校生から大学生たちで人数は2千人と言った所だろうか。
こんな子山羊が相手なので1万人は来るかと思っていたけど思っていたよりも少ないようだ。
そう言えば半数はその頭脳が認められてこの学校に入学しているので肉体派では無いのだろう。
それに中学生以下に関しては殆ど出て来ていないのでこんなものかもしれない。
「メ~~~。」
「お主はいつまで山羊を演じておるんじゃ?」
「まあ、ドッキリの為に開始してしばらくするまでかな。」
そして怪我人が運び終わり、ここに残っていた生徒たちは教師の指示に従って観客席へと移動して行く。
通路にも並んで少し窮屈そうだけどこれでちょっとは無茶が出来そうだ。
そしてゲンさんとトウコさんはそのまま真直ぐに空に上がるとそこで動きを止めた。
どうやら、あそこで観戦をするようで遠慮のない視線がビシビシと降り注ぎ、ハッキリ言って感覚的な部分で凄く邪魔になっている。
それに、これだけの人数と戦うのは100年ぶりくらいでヨーロッパで悪魔王と名乗っていた時まで遡る。
アフリカでは俺が戦わなくても勝手に全滅したので、あれはカウントしなくても良いだろう。
しかし俺が普通の山羊に見えるからだろうけど、やる気だけはあるのこそこかしこから意気込みが聞こえてくる。
「へっへっへ!まさか山羊が相手とは思わなかったな。これなら楽勝だぜ。」
「でも大丈夫なのかな?この人数にあの条件だと学校が潰れるんじゃないか。」
「ここはあの九十九商会が直接運営している所だから大丈夫よ。」
「それよりも油断し過ぎよ。あの2人がわざわざ呼ぶくらいだから唯の山羊なはずないでしょ。」
「そう言えばここ数年で変な山羊やライオンの噂があるらしいぞ。」
「でもあれは半人半獣みたいな怪物だろ。あれはどう見ても普通の山羊じゃないか。」
「ほら、何か変な草をモリモリ食べてるしな。」
俺は話を聞きながら以前に集めた美味しい草シリーズの1つを摘まみ食いしている。
ただ植物に詳しい者が居れば食べているのが毒草だと気付くかもしれない。
でも毒があると舌にピリリと刺激がきてそのアクセントが良いんだよ。
(さて、そろそろ始まるみたいだな。)
既に全員が槍や剣を構えながら魔法を手の上で待機させている。
複数人での合体魔法を使える者達も居て中々に優秀な人材が揃っているようだ。
「それじゃあ始めるか!」
「しゃ、喋ったぞ!」
「やっぱりさっきまでしていたほのぼのとした姿は擬態だったのね!」
擬態ではなくあちらが素なんだけど今はどうでも良いだろう。
せっかくこれだけ集まってくれているのだからレイド戦を存分に楽しんでくれ。
この時代には巨大な魔物は殆ど現れないそうなので良い経験になるだろう。
ちなみにどれだけ少ないかと言えばアズサが生まれる時に俺が倒した双頭の百足以外は片手で数えられる程だ。
その殆どが組織の予言によって俺が始末しているので一般にはほとんど知られていない。
これも転生するたびに世界規模で魔物を探して狩っていたおかげとも言える。
「さあ子供の時間は一時中断だ!遠慮なくかかって来い!メ~~~・・・。」
俺はスキルを込めていない雄たけびを上げると彼らに攻撃を促した。
しかし、もしかすると変身する動物を間違えてしまったのかもしれない。
この声ではせっかく高めた緊張感が台無しだ。
それに外野からも幾つか呆れを多分に含んだ視線を感じる気がする。
そのおかげもあってか適度に緊張感が消えた相手から雨の様に魔法が降り注いでくる。
それを空中を駆けながら躱し、時に角で弾き、時に蹄で粉砕して見せる。
「やっぱりアイツは唯者じゃねえ。山羊なのに!」
「噂は本当だったのよ。山羊だけど!」
「山羊山羊言ってないで魔法が終わったら山羊に接近戦を仕掛けるぞ!」
「「「テメーが一番山羊って言ってるよ!」」
そんな会話が周囲から次々に聞こえて来るので気にしても仕方がない。
代わりにお尻を向けて腰を左右に振ってやり、ズボンから短い尻尾を覗かせてパタパタと動かし挑発してやる。
すると流石に山羊から挑発された経験が無いのか、目の色を変えて襲い掛かって来た。
「無意識に挑発のスキルを使ってたのか。やっぱり自分よりも下等だと認識されている姿だと効果が高いな。」
さっきまでは明らかに警戒をしていたのに今では後先を考えていない攻撃の連続だ。
だから隣同士で傷つけ合ったり攻撃同士が衝突して妨げ合ったりと情けない醜態を晒している。
仕方ないのでここは俺の方で手を打って落ち着いてもらおう。
「愚か者ども!少しは冷静になるのだ!」
俺は半獣人の姿に変わって高度を取ると襲い掛かって来ていた奴等に恐怖のスキルを使用する。
するとその動きが鈍ると同時に冷静さを取り戻すと周りと声を掛け合っている。
「こ、これは恐怖か!」
「相手が何かのスキルを使ってるぞ!」
コイツ等程度なら震え上がる位に力を込めたにも関わらず、かなり冷静な判断を下している。
ただ何とか持ち直した様なので、もしかすると九十九学園ではこういった恐怖に打ち勝つ訓練を積んでいるのかもしれない。
どうやら俺が思っていた以上に精神的にタフな人材が揃っているようだ。
しかし、その陰では・・・
「あの服装のおかげであんまり怖くないわね。」
「あの服装の奴を怖がるならピエロの方がまだ怖いぜ。」
「誰か知らねーが、あのコディネートは無いな。」
「グフ!おっと戦闘中に笑いが。」
そんな会話がそこかしこからされていたが当の本人が気付く事は最後まで無かった。
ただし、それを聞いていたアズサ、アケミ、ユウナの3人はこの後にあの服は燃やして処分しようと心の中で誓うのだった。
「しかし、戦力差が埋まった訳では無いぞ!」
「数で押し切れ!」
「バフを寄こしてくれ!」
「奴にデバフを浴びせ続けろ。」
すると自分達には強化を行い、俺には弱体化をしようとしてくる。
しかしそれが効果を出す状況はとっくの昔に終わっており、俺にはその手の魔法は効果が無いので無駄な努力だ。
そのため逆にデバフを浴びる代わりに少しずつ体を大きくしてやる。
それにこの服なら伸びやすいのである程度は体を大きく出来る。
デニムだったら今頃は何処かの世紀末主人公の様に弾けていたかもしれない。
「その演出は良いかもしれないな。今度試してみるか。」
するとようやく俺が弱体化を受け付けず巨大化している事に気付いた者が現れた。
その者は声を大きくして周囲へと注意を呼び掛けている。
即席の集団なのにちゃんと中心となって声を出す者も居て、それぞれに周囲へと耳を傾けているのが分かる。
個々の戦闘能力にも見るべき所があるが、集団としても戦い慣れているようだ。
「待て!奴に弱体化を使うな!」
「そんな!さっきよりも大きくなってる!」
「フハハハハ!魔力は存分に頂いたぞ。これはそのお返しだ!」
そう言って腕を振ると同時に風の魔法で竜巻を発生させて彼らを呑み込み、空高くまで打ち上げてやる。
しかし別に鎌鼬を中に潜ませていた訳ではないので誰もが打ち上げられた場所で静止して落ちて来る者は居ない。
この辺の状況判断の早さも流石は九十九学園の生徒と言ったところか。
しかし、そろそろ遊びはこれくらいにして決着を着けてやろう。
これに参加していない学生たちには先輩たちの実力をしっかりと見せられただろうから、そろそろ俺の実力を披露する時だ。
俺は地面に降りると上に向けてクイックイッ!と手を動かして掛かって来いとジェスチャーを送る。
実際に直接対峙した彼らには互いの実力が如何に離れているかを感じているはずだ。
参ったと言う前に俺が華々しい敗北を与えてやろう。
ただし、素手でやるのはとても危険だ。
なので俺は上空に居る爺さんに視線を向けるとSソードを手にして見せる。
「認めよう!」
すると大きく響き渡る声が聞こえSソードの使用が許可された。
以前もこれを使って何度も相手をしたので前世の記憶があるゲンさんには一目で分かったみたいだ。
俺はそれを抜いて刃を出すと動き始めた相手に向けて次々と斬りかかり地面へと沈めて行く。
この鎮圧モードは相手に麻痺の効果を与えるだけで骨が折れたり打撲はせず、ちょっと痛いと痛覚的な刺激があるだけだ。
それにこれは戦国時代になるべく相手を殺さずに制圧する為の物で、対象は合戦時に集まっている数千人の兵士たちだった。
だから今の状況はそれに近いので一振りでも数十人を倒す事が出来る。
相手から見れば反則の様な武器でゲームならマップ兵器に分類されるだろ。
なんだか「卑怯だぞ!」とか色々なヤジが飛んでくるけど、これもある意味では実戦なんだよね。
もし次に挑む時にはその卑怯な手段を封じ込める手段を持参してくるんだな。
ハーハッハッハッハッハ!
そして数分後には数千人の挑戦者は屍を晒しその場に倒れ伏した。
するとこれにて本日の入学式は無事に終了となり解散の放送が掛かる。
「は~~~。やっぱり後始末が一番大変なんだよな。」
山羊の姿で倒れている奴らを回復させて周るという作業を行っており、それはまるで草原を歩きながら足元の草を食べ歩いているようにも見える。
しかし俺が触れると足元に倒れている人という草たちは体が回復し、怯える様に逃げ帰ってしまう。
ちなみにアズサ達も手伝ってもらっているけど3人には女性の治療をお願いしてある。
もし、男共を治療して自由を取り戻し、目の前に幼い天使が居れば年齢の垣根を忘れて一目惚れしてしまうかもしれない。
だから男は俺が全員担当している訳だけど女性の参加者は全体の3割程度なので自然と俺が担当する人数が増えているという訳だ。
まあ、ついでに悪い所も治しているのでしばらくすれば気付く者も居るかもしれない。
こうなれば今日は大盤振る舞いだ!
「・・・でも今後はもっと自重しておこう。」
そして今日もヤリ過ぎた事を後悔しながら治療に専念するのだった・・・。




