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245 アイコさんの仕事とは

アズサ達の合格祝いから1週間ほどの時が過ぎた。

そして今日はあの時に話に出たアイコさんが仕事に行く日でもある。

ちなみに、あの人が出かけるのは春から秋にかけての月に1度くらいで1泊2日で帰って来るのが基本だ。

アズサも何処に言っているのかは知らず、仕事で出かけている事も知らなかったそうだ。

だから皆の共通認識は食べ歩き旅行だったので俺だけがそう思っていた訳では無い。

しかしこれも全ては出会った頃のアイコさんが原因だ。

オーストラリアに行った理由も表向きはボランティアで裏の事情は食べ歩きだった。

その印象が強過ぎて誰も仕事で出かけているとは思っていなかったのだ。

そしてアイコさんがキャリーケースを持って家を出るのに合わせて俺達も尾行を開始した。


「さて、一応は職場見学が名目だからノートに纏めておかないとな。」

「そうだね。あ、そろそろ空港に到着するみたいだよ。確か飛行機の時間まで2時間はあるね。」


確か搭乗するのは30分前くらいからなので余裕を持って来たにしては少し早い気がする。

すると、その足は搭乗口近くに並んでいる売店へと向かって行った。


「あ、アズサ姉。お土産屋さんに行くみたいだよ。」

「もしかすると仕事先で配る物かもしれませんよ。」


確かに見ているとかなりの量を買い込んでるのが分かる。

ここから見ても竹輪にハゲロールに煎餅などお土産にするような物ばかりだ。

それ以外にもこの近くに製造工場があって有名なクリームパンや地域的に昔から有名な葉っぱの形をした饅頭をバラ買いで各10個ずつ。

どうやらそれで買い物は終わったようで紙袋を幾つも持って別の方向へと歩き始めた。


「仕事で遠出する時にはお土産が大事っと。」

「なんだか普通で安心したね。」

「あ!余った時間を喫茶店で過ごすみたいですよ。」


行った先はお土産屋のすぐ横に併設されているオープンカウンターのお店だ。

店員は初老のナイスミドルな男性が務め、バーテンダーの様な雰囲気をしている。

そして座ると同時に既にコーヒーが出来ていてその様子から常連である事が分かる。

ただし出されたのはコーヒーだけではない。

カウンターから出てきた男性の手にはデザインは良いけど大きなゴミ箱が手にされていて、それがアイコさんの横へとセットされる。


「ありがとう。これだから他の店に行けないのよね。」


そう言っている間にも買っていたクリームパンは食べ尽くされ、ゴミが横にセットされたゴミ箱へと消えていく。

どうやらバラ買いした物はここで食べる為の物だったようだ。

そして饅頭も姿を消すとアイコさんはようやくコーヒーを一口飲んで喉を潤した。


ただちょっと気になるのはカップの中にはまだコーヒーが殆ど残っていることだ。

そして、あれくらいの量のゴミなら買った時にもらったビニール袋でも間に合うだろう。

それにあのカウンターに積まれたお土産の御菓子たちは何だろうか?


「前菜は終わったから次はこれね。飛行機の中だとゴミの処理が大変だからここで食べちゃわないと。」


そう言って20分後には全てが空になり、横に置かれたゴミ箱はいっぱいになっていた。

どうやらあれはお土産ではなく自分で食べる為の物だったみたいだ。


「あれ?何時も家に帰って来る時は葉っぱの御饅頭が1つだけだったよ。」

「その辺の事もしっかりノートにメモっとこうな。」

「うん。」


アズサのノートを見ると何を幾つ買ったかがしっかりと書き込まれている。

しかもそれぞれの値段まで書いてあって消費税を含めた合計金額までしっかりと書いてあった。

これはまるでちょっとした家計簿を見ているようだけど、以前はアズサが買い物をしたりと家計を管理していたのでこれくらいは容易な事なのだろう。


「あ、終わったみたいだよ。」


するとノートと睨めっこしていた俺とアズサの代わりにアケミがアイコさんの動きを知らせてくれた。

どうやら飛行機に乗る前にトイレへと行くみたいだけど、あれだけ食べれば人間としては当然だろう。

あの人にその辺の常識が通用するのかは疑問だけど、飛行機に乗る前のマナーという奴かもしれない。

そしてアイコさんはトイレの方向へと進んで行くとその手前にある階段を上り始めた。

しかし、その先にトイレは無く、あるのはこの飛行場にあるフードコーナーだ。

そこのお好み焼き店のカウンターに座ると、ノータイムで3枚のメガ盛りお好み焼きがアイコさんの前に並べられた。


「はいよ。何時もながらに予約の時間通りだな。」

「当然でしょ。これだから他の店に行けないのよね。」


なんだかさっきも聞いた様なセリフだな。

確かにここにはお好み焼き店は幾つかあるみたいだけど予約を受け付けているのはここだけのようだ。

テイクアウトもしていてそれなりの数のお客さんが来ている。


「お兄さん。搭乗まであと1時間ですよ。」

「大丈夫だ。アイコさんならあれ位は10分もあれば無くなる。」


見ていると店の主人と思われる男と楽しそうに会話をしている。

男の方は作りながらでアイコさんは食べながらだけど両方とも手と口が止まらないのは変わらない。

何とも仲が良さそうな感じだけど後ろに居るスタッフは新人なのか口に食べ物を入れながら普通に喋っているアイコさんの姿に首を傾げているみたいだ。

結局この店では他の客がキャンセルした物と追加を合わせて10枚を食べ尽くすと席を立った。


しかしあと10分で向かわないとイケないというのにその足が次に向いたのは御当地ラーメン屋だ。

そこに入ると笑いながら挨拶をしてラーメンを3杯も注文している。

本当にどれだけ食べるのかと思うけど流石アイコさんと言ったところか、店を梯子する事でスムーズに料理を平らげている。

そして出発まで20分前となった所で手続きを終えると飛行機に乗り込んで飛び立って行った。

でも確か飛行機って重量に合わせて配置を調整する時があるはずだ。

アイコさんはそれでなくてもトラブルに見舞われ易いのに大丈夫だろうか。


「まあ、飛んで追いかけるから大丈夫か。」

「急ごうよハルヤ。」

「そうだな。」


この中で飛行機に匹敵する速度が出せるのは俺だけなのでアケミが背中に抱き着いてユウナとアズサが両手を握っている。

ちなみにこの配置を決めるために、ここに来てから一番時間が掛かったのは言うまでもない。

そして飛び上ると飛行機の下へコバンザメの様にして付いて行く。

ここから東京までは1時間ほどで到着するのでその間に俺達もご飯タイムだ。

事前に開けて収納しておいたパンやオニギリを手に持って口へと運んでいる。

俺は両手が塞がっているので周りの皆が順番に食べさせてくれてるのだけど、ジャムパンの後に昆布のオニギリは勘弁してもらいたかった。

俺以外は笑っているのできっと狙ってやっているに違いない。


そして無事に到着したので俺達は再びロビーからアイコさんを待ち構える。

すると何食わぬ顔でキャリーケースを引いてゲートの向こう側から姿を現した。

しかし、その行く手を遮る様に3人の黒服の男達が姿を現しその周りを囲んでしまう。

アイコさんはそれに表情を歪めると「しまった!」と声を漏らした。


「も、もしかして変な人達かな?」

「いや、武装はしていないみたいだ。もう少し様子を見よう。」


危害を加えようとするなら間に割って入ろうと思っていたけど今の所はその様子が無い。

だからその時が来るまで慎重に観察する事にすると、男達はアイコさんを包囲したまま歩き出してマイクロバスへと乗り込んで行く。

その直後に俺達は車体の下に入り込み裏の部分にしがみ付くと、そのまま目的地まで付いて行くことにした。

これが大人だったらちょっと無理だったかもしれないけど、子供の小さな体なのでなんとかなった感じだ。


そして聞き耳を立てると中から声が聞こえて来る。


「今回ばかりは遅刻は厳禁と言っておいたでしょ!」

「分かってるわよ。だからちゃんと早めに来たでしょ。」

「アナタの場合は早めに来たらその時間で食べ歩くだけでしょ。事前に調べた限りでも5店舗で予約を入れてましたよね。」


どうやらコイツ等は敵ではなくアイコさんを迎えに来た人たちのようだ。

しかもアイコさんの事を良く分かっているので今回が初めてという訳では無いのだろう。

それにしてもこちらでも予約を入れているとは流石はフードファイターだな。


「チッ!気付かれてたか。」

「頼みますよ。それでなくてもメイクやらなんやらで色々あるんですからね。」


もしかして○○女子みたいにホームランを打った人に縫ぐるみを渡したり、フィールドからボールを撃ち出す仕事でもしているんだろうか?

それにしては一度も見た事が無い気がするんだけど、CMとかでカットされている時にでも出ているのかもしれない。

まあ、このまま付いて行けば知る事も出来るだろう。


そしてマイクロバスが到着したのは試合が行われるドーム球場近くのホテルだ。

アイコさんは降りてすぐに男達に連れられて部屋の1つへと入っていくので、あそこで準備が行われるようだ。

俺は空間把握で監視を続けると、どうやら服を着替えたりメイクをされている。

そして1時間ほどで出て来るとパっと見では本人と分からない姿でロビーへと降りて来た。

俺達はその間を使って1階にあるレストランで食事をしている最中でパンやオニギリ程度ではアズサの胃は満足できなかったらしい。

なので今はここでステーキを椀子そばの様にお代わりしながら胃を満たしている。

最初に店員からは支払いが大丈夫かという視線を向けられたけど事前に準備しておいた札束をテーブルに置いているので問題ない。

子供だけで行動するとこういった事もしばしばなので今後は俺が大人の姿で皆を連れて来た方が良いだろう。


「あ、アズサ。口元が汚れてるぞ。」

「ん。」


するとアズサは顔を突き出して来るのでナプキンで軽く拭いてやる。

以前の時は反対だったのでとても新鮮な気分だけど、10年もすればカップルに見られるかもしれない。


「「ん。」」


するとそれを見てアケミとユウナも顔を突き出して来た。

その口元はあまり汚れてはいないけど女の子に恥は掻かせるわけにはいかないので同じように拭いてやり食事を再開した。

アイコさんはここからでもスキルで十分な監視が出来る。

チケットも先程ゲットしたので球場内へ追いかける事も簡単だ。

どうせ席に座らずに監視するのだから中に入る事が出来ればどの席でも関係ない。


そして今日はちょっと奮発したとは言っても久しぶりに30万越えの支払いをして店を出て行った。

ただ今までの教官としてもらっていた給料が殆どそのまま残っている。

それに骨董品を売ったお金が億単位で凄い金額になっているのでこの程度は大丈夫だ。

家では俺がこれまでに捕まえた魚や動物を食べているので今はそんなにお金も使わないので問題もない。


余談だけどアズサは料理のスキルを持っていて味を向上させられる。

それに俺が狩って持て余しているジビエに関しても適切に処理して美味しい料理に作り変える事が出来るので大助かりだ。

普段のセーブしたアズサならバッファローを1頭食べるのに5日は掛けるので俺達が成人するくらいまでは十分な在庫がある。

魚だけを見れば一生分は有るかもしれない。


そして球場に入り試合が開始されるとまずは俺達の地元にある球団の攻撃からだ。

アイコさんはファールとホームランを分けるポールの傍に座っていて弁当を食べながら気楽に観戦している。

すると1番がアウトになり、2番が出塁、3番がアウトになって4番に回って来たので、ここでホームランを打てば2点の先制となる。

しかし、そんな簡単に行くとは思えな・・・!


『カン!』


すると4番バッターは甘く入って来たボールを上手く掬い上げた。

耐性が悪くて勢いは無いけどそれは確実に伸びてある人物に向かって行っている。

するとその人物は持っていたバックからグローブを取り出すと頭の前に構えた。

普通ならボールが飛んで来ているのに視線を遮るような事をすれば危険でしかない。

しかし、ボールはグローブに吸い込まれる様に入ってしまった。


「あれってお母さんだよね。」

「ああ、なんでシークレットなのかが分かった気がする。」

「これってルールとして良いのかな?」

「たしかスポーツの試合にスキルとや称号は使っちゃダメってなってますよ。」


しかし、あれはステータス上には何も書かれていない能力だ。

アズサには文字化けして書いてあったけど、アイコさんのには何も書いていない。

だからアレはあの人の生まれついての特性か何かだ。

だからホームランを打たせ易くするからと言って入場を断る事は出来ない。

それは極端に言えば観客に試合中は息をするなという程に無謀な事だ。


それできっと仕事の内容もシークレット扱いなのだろう。

あの能力があれば他の球団からのスカウトがあってもおかしくない。

でもこのままだと相手選手もホームランを打ってしまうのではないだろうか?

そう思っているとアイコさんは席を立ち、別の場所へと移動を開始した。

そこには先程と同じ弁当が置いてあって痛まない様に上に冷やすためのアイスが置かれている。

但しそこはファールゾーンの席なのでそれ以降はホームランも出ず、相手の攻撃も終わってしまった。

そして再び立ち上がると元の席へと戻って行った。

その繰り返しでホームランを調整しながらチームを勝利へと導いていく。

アレをある意味では勝利の女神と言って良いのかもしれない。


すると最後の方で立ち上がると今迄と違う行動を取り始めた。

スマホを手にして他の場所へと向かい銀行が出している看板の前で足を止める。


「カン!!」


するとバッターが見事にホームラン性の打球を打つと微妙な回転の中でボールの軌道が変化し、それがアイコさんへと襲い掛かる。

しかし、それを分かっていたかのように見事な動きで前転をして躱すとボールは看板へと直撃した。

そう言えばホームランが看板に当たると賞金が出るんだよな。

まさか今のはそっち関係からの依頼だったのか。


そしてゲームの流れは終始一方のチームが握る事になり大勝利で幕を閉じた。

それにしても確かにこれは他人には言えない仕事なのは間違いない。

ある意味では明かされたとしても返答に困る内容だ。

ただしアズサのノートには色々な事がビッシリ書き込まれ、弁当に入っていたオカズまで網羅されている。

これは帰ってから何か起きそうな予感がするので、内容は見なかった事にしておこう。


「よし。職業見学を終わりにして今日は帰るか。ついでに先日テレビでしてたパンでも買って帰ろう。」

「あ、そうだね。それをお母さんと一緒に朝食で食べるよ。」


どうやら既にアズサの中で何らかの計画が立案されているようだ。

俺としては高級食パンというのに興味があるだけなんだけど・・・。


その後、御上りさんに見られない程度に観光をして夜までには家に帰って行った。

ちなみに帰りは飛行機に速度を合わせていないのと、車の移動時間が無かったので30分ほどで帰宅できた。


その2日後にアイコさんが家に帰って来てから食べた朝食の食パンはさぞ苦かっただろう。

アズサの話では今回のお土産はいつもと違って6本入っているお手軽スティック羊羹だったらしい。

しかしアイコさんがそれまでに買い食いした量に比べれば雀の涙にもならない量だ。

せめて一番大きな30本詰め合わせなら穏便に話が済んだだろうに。


そして何気に今回のアイコさんの稼いだお金は100万円に届く程らしい。

ホームラン1本で10万円出てそれが5本。

銀行からの報酬が50万円だったそうだ。

後者は滅多に依頼が無いらしいけど、それを抜いても凄い稼ぎだと思う。

なにせ座って弁当を食べていただけなので、これでは世の働くママさんからクレームが来てしまうだろう

しかし、それも本人の特性や特技だと言ってしまえば終了だ。

いつまでも出来る様な事では無いし、毎月の給料が固定されている訳でもない。

アイコさんの能力でちょっとホームランが出やすくなっているだけなので他球団も大目に見ているのだろう。

そうでなければ打った打球は全てがホームランになり、チームは今頃優勝しているはずだ。


それに月に一度という事は年間を通しても10試合も無いのでそんなには影響しない。

それに戦い方を変えれば勝つ事も可能だ。

ホームランを捨てて繋ぐ事を優先し地道に点数を重ねれば良い。

ピッチャーの調子が良ければホームランを打たれないのでアイコさんの能力を封じる手もある。


ただ今の俺には一生縁のない世界なのでどうするかは監督や選手次第だろう。

俺のステータスだとスキルを使わなくてもボールはゆっくりに見えるし、打った球は殆どがホームランか隕石の様に地面でも壁でも奥深くまでめり込むことになる。

人に直撃すれば確実に相手の命を奪う事になるはずだ。

それ以前に打ったボールが原型を留めているかも心配になる。

遊びなら手加減を使ってどうにかなるけど、スキル使用禁止だとどうしてもそうなってしまう。

まあ、その前に邪神をどうにかしておかないと今のような事も出来なくなるかもしれない。

スポーツが楽しめるのも平和な証とも言うのでこの状態を維持して行きたいものだ。

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