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240 日雇い教官 ①

俺はツクモ老、改めゲンさん。

モモカさん、改めトウコさんとお茶を楽しんでいた。

アズサはトウコさんの膝の上でケーキを食べさせて貰いながらご満悦な表情を浮かべている。

ここに来てから普通に食べれる様に少し成長させたのは正解だったようだ。

さっきまでも不機嫌な顔は完全に消え去り、お多福様の様な笑みを浮かべている。

簡単に言えば完全に骨抜きにされている状態だ。


そんな中で不意にゲンさんがちょっとした愚痴を言い始めた。


「実は目覚めたのが最近じゃからリハビリついでに指導でもしようと思ってな。アンドウと話をしたのじゃが断られてしもうての。」


それはきっとアナタが教えるのが下手だからではないでしょうか。

きっと死人が何人かくらいなら許容しただろうけど、俺と一緒で全員になりそうだと判断したのだろう。

しかし困った事にそれに気付いていない人物がもう1人居たようだ。


「そうなのよね。私も久しぶりに鬼喰丸の試しぎ・・・血を吸わせようと思ってたのに断られちゃって。」

(はいアウト~~~!)


言い直してそれなら断られても当然です。

特に2人は相手の回復が超が付く程に苦手なはずだ。

まさに指導させたとしても毒にしかならず、何人が再起不能にされるか分からい。

それだと相手の立場は生徒ではなく生贄と言った方が納得を得られるだろう。

良くて問題児の相手を・・・ああ、そうか。


「それなら少し前に力に呑まれた奴を指導したんですけど、そう言う奴等の相手をさせてもらったらどうですか?」

「おお!ものは言ってみるもんじゃな。それならあちらも喜んで生贄・・・ゴホン。訓練相手を見繕ってくれるに違いない。」

「殺さない練習にしたらいいですよ。俺はその為に手加減のスキルを取得しましたけど。」

「そうじゃな。この時代はちょっと撫でて人が死ねば殺人罪。手足が取れれば傷害罪じゃからな。」


すると2人は揃って朗らかに笑ってるけど、ハッキリ言って一番危険なんだよな。

きっとそれが分かってるからアンドウさんも取り合わないのだろう。

まあ、いざとなれば俺が付き合えば解決するはずだ。

一応は横に座っているアイコさんを肘で突いて「何か言え」と促してみるけど、ケーキを口に放り込みながら視線を逸らすだけだ。

どうやら孫として既に諦めているという事だろう。


ヒョウドウさんを見ても同じ態度で視線を逸らし、アズサも寝たフリをして時々片目だけで様子を窺っている。

これはこの部屋の良心が潰えたと見て良いのかもしれない。

ただ犠牲者は碌で無しだろうからヒョウドウさん以外は誰も心を痛めないのでそこはアンドウさんに苦労してもらおう。

そう言えばその肝心のアンドウさんは何処の学校に通ってるのだろうか?


「2人はアンドウさんが何処に通ってるか知っているんですか?」

「アイツならこの学園に通っておるぞ。」

「ツキミヤとハクレイから聞いてないの?」


そういえばツキミヤさんも今は大学生か。

何であの人かアンドウさんからの手紙や勉強資料を持っているのかと思ってたけど、これで点同士が繋がった。

これだけ近所なら適当な時にでも会いに来るだろう。


「それじゃあ、そろそろ帰ろうかな。」

「あぅ~あ~!」


するとアズサが俺に手を伸ばして来るのでトウコさんも苦笑を浮かべてこちらへと渡してくれる。

そしてアズサを受け取るとアイコさんと一緒に部屋から出て行った。



その後の理事長室では・・・。


「それにしても2人の攻撃を受け止める者が居るとは思いませんでした。」

「あいつはあれで本気を出しておらん。まあ、儂も本気では無かったがな。」


もし2人が本気で衝突すればこの部屋は衝撃波でボロボロになっていただろう。

あの時にハルヤが気の相殺を行い、魔法で衝撃波を抑え込まなければそれでも結果は変わらなかったはずである。


「あの子は抜けてる所が多いからこれからも大変そうね。」

「そうじゃな。しかし、あれなら十分にここへと入学させられそうじゃ。」

「私の娘とも仲良くなってくれると良いのですが。」

「あの子は強敵よ。7年後を期待してしっかりと育てる事ね。」

「そうさせてもらいますよ。彼は我ら新・甲賀の恩人ですから。」


そんな会話が本人達の居ない場所で行われ、新たな運命が動き出すのだった。



「は~・・・。今週から仕事か~。」


俺はスマホの予定表を見ながら溜息を零している。

お金が必要なのは当然で最低でも3人分のプレゼントを買うための金額を貯めないといけない。

送る理由は誕生プレゼントで誕生日ではない。

一生で今の内にしか送る事が出来ないので悩んでいるけど何を送るべきか。


「アイコさんは何を送れば良いと思いますか?」

「それなら可愛い縫ぐるみなんてどう。今は高価な物よりも傍に置ける物が良いと思うわよ。」


流石は現代のママさん歴が長いだけあって良いアドバイスをしてくれる。

それならお金が入ってから買いに行くのが良いだろう。

もう少しすればハクレイからあの時の依頼料が届くはずだ。

まさかツキミヤさんとの大学生活をエンジョイし過ぎて忘れたりはしないだろう。


(・・・なんだか凄い不安になって来たな。)


もしも遅れるような事があればツキミヤさんを通してやんわりと言ってもらおう。



そして週末となり俺は運動施設の1つへとやって来た。

姿が子供だと最初に侮られたり社会的な問題があるので今は18歳くらいに調整してある。

やはり久しぶりでもこの状態が一番動きやすくて精神と肉体のバランスが良い気がする。


そして視線の先には今回の訓練に参加を希望した20人が準備を行っている。

武器は自前の物が殆どなのでもちろん全てが実戦に使用される物だ。

もちろん魔物だけではなく、スーパーで売っているお肉から大根やニンジンなどもしっかりと切る事が出来る。

魔物以外にはほとんど使わないだろうけど、それだけよく切れるということだ。


「それでは皆さん集まってください。」

「「「は~い。」」」


そして集まったメンバーは男女問わず年齢が18歳以上~20代と言ったところだ。

少し気合が足りない気もするけどその辺も含めて鍛えろという事だろう。


「皆さんおはようございます。俺が皆さんの指導を担当するユウキです。それではいきなりですが皆さんの試練を開始しますので逃げずに斬り掛かって来てください。敵前逃亡は容赦しません。」


そう言い終えるとスキルの『恐怖』を軽く発動して全員の精神を圧迫させる。

そして青年の姿から2メートルを超える狼タイプの半獣人へと変身する。


「さあ、死にたい奴から掛かって来い!」

「「「ワアーーー!」」」


すると恐怖に駆られた奴らが武器を手に向かって来る。

その顔には殺さなければ殺されると明確に書いてあり、本気の殺気すら伝わって来る程だ。


「フハハハハ!温いぞ人間ども!お前たちの力はその程度か!?」


腕の一薙ぎで数人を弾き飛ばし、一蹴りは暴風を産んで眼前の相手を弾き飛ばす。

まだまだ動きも拙くて先日の試験会場の連中よりも熟練度も低い。

半分以上が遊びの様な戦いだけど彼らの感じている恐怖は今までの人生では最大と言えるだろう。

それでも諦めないのは死への恐怖が背中を押してくれているからだ。

だから動きは滅茶苦茶でも本気の戦いの中でスキルに目覚め、次第に動きが良くなってくる。

それでも攻撃が通用しなければ更なる力を渇望し、それがスキルの覚醒を促してくれる。

そのおかげでさっきまでは剣を棍棒の様に使っていた連中が刃筋を立てられるようになり、攻撃にフェイントが加わる様になる。

急所への攻撃も増えており連携も生まれ始めた。

今では20人がそれぞれの役目を無意識に判断し、互いを庇い合い補いながら攻撃を仕掛けて来る。


「さて、そろそろレッスン1は終了だな。」


俺はスキルを解除すると全員の攻撃を受け流し、いったん距離を取る。

すると怪物の姿が消えた事と恐怖が薄らいだことで全員の心に余裕が生まれ正常な判断が出来るようになってきた。

そのため殆どの者がその場に座り込んでしまっており、限界以上に動いて力が入らなくなった体を休めている。

そんな彼らに歩み寄ると全員に回復魔法を掛けながら声を掛ける。


「少し休んだら次の訓練に入る。この中で水上歩行、空歩が使える者は居るか。」

「この中に空歩が使える者は居ません。」

「なら水上歩行が使えない者は?」


すると誰も手が上がらないので条件はクリアと言ったところか。

俺は魔法で石壁を作り出し、フィールド全体を覆うと頭上に巨大な水の球を作り出した。


「あの、もしかしてこれから・・・。」

「その通り、水上戦だ。」


俺は頭上の水を落とすと周囲を池にして戦場を作り変えた。

そして鯨の姿となって現れると容赦なく足元から襲い掛かり上空へと突き上げて行く。


「まさかこれって黒鯨!」


今の俺の大きさは30メートルを超えているので、その巨体で襲い掛かれば人なんて木の葉と変わらない。

ステータスも弱体化しているのでコイツ等の相手をするなら丁度良い感じだ。

ただし、完全な鯨ではなく人の様な下半身があるので上手く隠さないと鯨ではなく変態に見られるけど。


「さあ溺れる前に何人が水から離れられるかな!」

「この人滅茶苦茶だー!」

「に、逃げろーーー!」


しかし、逃げ場は何処にも存在しない。

壁は既に遥か高くまで伸ばしてあり、何をしても届く距離では無くなっている。

唯一の脱出手段と言えば空を駆けるか飛ぶだけだ。


「死んでも10秒ルールがあるから幾らでも死んで良いぞ。体力は俺が定期的に回復してやるからな。」


俺がオーストラリアで水上歩行から空歩に至った時にはそんなに時間は掛かっていなかった。

あえて言えば必要性や危機的状況が鍵になるので、一般人の中でも使える人はそれなりに居る。

だから空歩の試験ではあんなに人が集まっていたのだろう。

何でも、あの資格を持っていると就職先が増えたり給料で特別手当が付いたりするらしいので社会人なら多くの人が欲しがるスキルだろう。


逆に言えばその程度の覚悟で覚えられるなら命が掛かればもっと早い筈だ。

俺は何度も何度も足元から跳ね上げ、水を飲ませ溺れさせて彼らを徹底的に苦しめ抜いた。

そのおかげで次第に1人、また1人と空中を歩き、外へと逃げ出していく。

そして最後の1人が壁を超えたのを確認すると水を龍の姿へと変えて傍にある川へと流してやる。

そして服を着てから石壁を適当に砕いてアイテムボックスへと収納すると客席でへばっている連中へと声を掛けた。


「意外と早かったな。」

「あんた・・・俺達を殺す気か!?」

「大丈夫だ。さっきも言ったけど10秒以内なら心臓が止まっても回復が可能だ。それと今日のノルマは終わったから自由に過ごしても良いぞ。飲みに行っても良いし遊んで来ても構わない。でも明日までには戻って来いよ。」


そう言って俺は背中を向けて歩き出した。

すると1人の女性が気になったのか声を掛けてくる


「教官はどちらに行くんですか?」

「ちょっとこの近くに旨いコーヒー牛乳を出す店があるらしいから行ってみようと思ってな。」


すると女性陣は互いに顔を合わせてクスリと笑うと俺の後を追って来た。

そして男性陣もヤレヤレと言った感じで立ち上がると一緒に後を付いて来る。


「奢らないぞ。」

「ケッチーな。大人ならそれくらい気前よく・・・。へ?・・・子供?」


俺は体を小さくしてからニヤリと笑ってやる。

実際には0歳児なのでもっと小さいんだけどそれだと歩行すら面倒になる。


「こう見えても本当は子供なんだ。それよりもお前らも早く飛べる位までスキルを鍛えろよ。飛翔が使えれば旅行も楽になるぞ。」


そして今度は足を止めて周囲を回る様に飛んで見せてやる。

その姿に全員が羨ましそうな目をして視線で追いかけ、決意の籠った表情を浮かべる。

どんなスキルでも強く求めないと発現しないので、良い起爆剤んあるだろう。

きっと俺がなかなか飛翔を覚えられなかったのは思いの強さが足りなかったからだろう。

こういう時は感情の多くが希薄である事がマイナスに働いていると言えるな。


そして全員が着替えを終えるのを待って出発し、今は目的地である喫茶店に到着している。

そこの看板にはゴート・カフェ日本店と書いてあって少し懐かしさを感じる。

もしかするとあの時に飲んだ味がまた味わえるかもしれない。


「さてと入るか。」

「あ、待ってください。」

「な、中を見てから入れ!」


一体何を言っているのか理解に苦しむけど、中に居るのは黒服にサングラスの団体さんだけだ。

変わった客層だけど繁盛していそうで安心した。

しかし中に入ると何故か入口の傍に黒服の男達が立っている。

邪魔だけど避けられない事も無いので横を通り抜けようとすると何故か道を塞がれてしまった。


(これではコーヒー牛乳が飲めないじゃないか。)

「邪魔だ。」

「今は取り込み中だ。子供は帰ってママのオッパイでも吸ってな!」

「2度は言わないぞ。邪魔だ!」


俺は威圧を込めて上目遣いに睨みつけると体を硬直させた男達の隙間を塗ってカウンターへと向かって行く。

するといつも俺が座っていた左端の席が空いていたのでそこへと向かって行った。

しかし、そこには埃の被った予約の札が掛けてあるので、きっと外し忘れか何かだろうだろう。


しかし、やっぱりこの店ではフード付きのマントを付けないと落ち着かないな。

きっとあの時にはこのスタイルじゃないと店に入る事が出来なかったので癖になっているのだろう。

俺はあの時に使っていたマントを取り出して羽織ると頭からすっぽりとフードを被る。

そしてカウンターに居る困った顔の女性へと声を掛けた。


「カフェオレを1つ。ミルクと砂糖多めで。」

「分かりました。」


すると女性は慣れた手つきで準備を始めコーヒーを作り山羊のミルクと合わせて砂糖を入れて出してくれる。

室内にはコーヒーの香りが広がりあの時の事を思い出せるほどだ。

そして俺の前にカップが置かれ女性は穏やかに声を掛けて来た。


「今日もブラックにはしないのね。」


俺は出されたカフェオレを口に含むと軽く笑って答えた。


「上手くなったな。俺の好みはやっぱりこれなんだ。お前だって最初はミルクコーヒーだっただろ。」

「そうね。でも今回はブラックから入れたよ。」


そう言って笑う外見は以前と違って完全に日本人の女性で間違いない。

しかし、それ以外の全てが彼女がカリーナである事を示している。

すると、せっかく久しぶりの再会を楽しんでいるのに無粋な奴らがまだ居座っているようだ。


「それでコイツ等は誰なんだ。せっかくのカリーナと再会できたのに俺の優しさが伝わらないみたいだけど。」


わざわざ気を使って隅で飲んでいるというのに男達は席を立つと俺を取り囲んでいる。

もしかして俺がさっき言った言葉が聞こえなかったのだろうか?


「今の俺は機嫌が良い。だから仏と同じ事をやってやる。邪魔だから帰れ。」

「このガキが舐め口を叩くんじゃねえ!」


すると男の1人が俺のフードを掴むと無理やり剥ぎ取ったけど、その下には既に子供の姿は無い。

頭には捻じれた角が生え、顔は山羊に、手には鋭い爪が生えている。


「お前等はこの場所に手を出したと見なす。俺達に手を出して無事に帰れると思うなよ!」


俺は男達へ向けて威圧に恐怖をブレンドさせて容赦なく浴びせ掛ける。

更に体を巨大化して威圧感を上げ、傍にいる男の胸を突き刺し心臓を抉り取った。

ただこのままでは死んでしまうので傷は魔法で塞ぎ心臓も再生させておく。


「貴様らの心臓を全て抜き取り地獄の業火に晒してくれる!次は誰が心臓を抜かれたいのだ!」

「ヒァーーー!!」

「化物だーーー!」

「た、助けてくれーーー!」

「どうして扉が開かないんだ!」


それはもちろん俺が扉が開かない様にストッパーを作り、クラフトのスキルで周囲の物を全て強化したからだ。

お前ら程度に破壊できると思うなよ。


そして容赦なく全員の心臓を抜き取ると持ち主に見せつける様にして焼き尽くした。

すると男達はそれで自分が死んだと勘違いしたのかその場で意識を失って倒れてしまう。


「コイツ等は邪魔だから外に投げ捨てておこうな。」

「お願いね。それと店のニオイもお願い。」

「アイアイマム。」


後はツキミヤさんに教えてもらったあの人の番号に連絡を入れてっと。

そして男達を店外に投げ捨てるとそこで待って居た生徒たちへと声を掛ける。


「これで良し。席が空いたから入って来ても良いぞ。」

「あ、あの?教官で良いですよね?」

「ああ、すまない。これで良いか?」


ちょっと服が伸びてしまったけど原型はギリギリ保っている。

しかし、外から中の様子を見ていた様で全員の顔が引き攣って青くなっているようだ。


「もしかしてさっきの訓練ってかなりイージーレベル?」

「今頃気付いたのか。明日はもう少し厳しく行くから覚悟しろよ。」

「「「サーイエッサー!!」」」


すると何故か全員から敬礼と共に海兵式の返事が返してきた。

ただ、やる気は出た様なので結果オーライと言った所だろう。

そして中でのんびりとカフェオレを飲みながら話を聞いていると、奴らはこの上に引っ越して来た何処かの組の人達だったらしい。

毎日の様に無銭飲食をしては帰っていくのでとても困っていたそうだ。


すると予想通りにここへと急速に接近してくる反応がある。

そして地響きと共に店の前に着地すると扉を開けて中へと入って来たけど、俺が店の前面を強化して無ければ衝撃波で全壊していただろう。


「カリーナが居ると言うのは本当か!?」

「ああ、アンドウさん。アンタの弟子がピンチらしいぞ。」

「なに!」


するとアンドウさんの目元がピクリと動くと、気配が明らかに臨戦態勢へと入る。

それに、この人には沢山の生徒や部下の様な存在は居るけど、弟子と呼んでいるのは俺の知る限りではカリーナだけだ。

それも自分の大好きなコーヒーの理解者にして大事な弟子となれば、面倒見の良いアンドウさんがどんな行動を取るかは手に取るように分かる。

アンドウさんは何処かへと連絡を入れると席に着きカリーナと向かい合って視線を交わした。


すると無言の中でカリーナは手際よくコーヒーを淹れるとそれをアンドウさんの前に置いて姿勢を正した。

それを見てカップを手に取ると匂いを楽しみ、ゆっくりと味わう様に口の中に流し込むとしっかりと味と風味を堪能してから胃へと送り込む。


「・・・腕は落ちていないな。これなら再びこれを渡しても大丈夫そうだ。」


そう言ってアンドウさんは以前と同じコーヒーメーカーを取り出してカリーナへと送った。

それにはアンドウさんが日本で使っていた家紋が入っていて複製が作られていなければ世界に2つしかない。

1つはアメリカにある本店で大事に保管されているらしく、ここに来る前に少しネットで調べるとそんな事が書かれてあった。

それにしても味を確認する前から準備してあるのだから実力を疑ってはいなかったのだろう。

きっと今のやり取りも、この師弟にとっては挨拶のようなものに違いない。

ただし、その緊張感は紛れもなく本物なので生徒たちが重い溜息を吐き出している。


「それじゃあ、話す事もあるだろうからそろそろ出て行くよ。もう俺の出番は無いだろからな。」

「ありがとう。気が向いたらまた飲みに来てね。」


そして外を見るとさっきまで店先に倒れていた奴等も消えてしまっている。

手際からして忍びかそれに準ずる者の仕業だろう。

きっと遠くない内に上にある事務所とやらも跡形もなく消えてなくなるはずだ。

そこに居た人たちが何処に消えたかは知らない方が幸せに違いない。


「今回は偶然に感謝だな。それじゃあ仕事を頑張ってくれ。」

「そうさせてもらうよ。」


今日の予定は消化してるからのんびりするけどアンドウさんもあの様子ならそんなに俺との違いは無さそうだ。


「お前等もそろそろ行くぞ。嫌な奴は毒料理で耐性訓練だ。」


すると全員が揃って立ち上がると外へと向かい始めた。

俺は1万円を出すとそれをカウンターに置いて外へと向かって行く。


「ねえ、お釣りは?」

「また来るからその時で良い。それと俺の席は無くしてアンドウさん用にでもしておいてくれ。」

「分かったわ。それならまた必ず来てね。」

「ここよりも美味いコーヒー牛乳がないから必ず来るよ。」



その後しばらくするとカリーナは独立して別の喫茶店を開いた。

その時に場所や資金を誰が提供したかはちょっとした秘密だけど、出来た場所は学園の近くで毎日行列が出来ているとだけ言っておこう。

きっと何処かのお節介な足長酋長が裏で手を回したり資金を援助したのだろう。

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