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24 再度の遠征

あれから数日が経過し俺達の許に再び依頼がやって来た。

ただし前回はツキミヤさんが持って来たけど今回は国のお役人が持って来てくれた。


「今回もツキミヤさんが持って来てくれるものだと思ていました。」

「前回の彼はこちら側でしたからね。今回はそちら側で参加するという事で私が担当となりました。あ、これが名刺です。」


そう言って名刺を渡してくれたので見てみると名前と連絡先である携帯番号しか書かれていない。

身分を明かしたくないのか明かせない所に所属しているのか。

名前は安藤アンドウ 正人マサトとなっているけど見た目は眼光が鋭く普通にデスクワークが仕事なだけの人とは思えない。

感じる気配は元スナイパーのハジメさん達に近いので恐らくは戦闘面でも一般人ではないだろう。


「それで、何かあればこちらに連絡をすれば良いんですね?」

「はい。何か飲み物を買って来いとかつまらない内容でなければ構いませんよ。」


今のは遠回しな冗句だろうか?

言っては悪いけど1ミリも笑っていない顔で凄まれながら言われても全く笑えない。

どうやらこの人には人を笑わせる才能は無さそうだ。


「そう言う事はお願いしないので大丈夫です。それといきなり質問ですが良いですか?」

「構いませんよ。」

「どうして依頼書が2つあるんですか?」


以前の時はみんな纏めて1枚の依頼書だった。

しかし、今回は2枚に分けられ片方の依頼書は総額になるけどゼロが1つ多くて5回は見直したので間違いはないだろう。

しかも説明文には海外派遣の文字が太字で書かれているので、これではどう見ても依頼が2つ同時に来ている事になる。

するとアンドウさんは表情筋を一切動かさずに何でもない風に答えた。


「読めば分かる様に書いてあると思いますけど?」

「いや、どう見てもおかしいでしょ。これだとチームを2つに分けないといけませんよね。」

「上は前回の手際も考慮してチームの半数が居れば問題ないと判断したようです。それに状況はかなり逼迫していますので。」

「それはそちらの対応の遅れでしょ。それを俺達に言われても困ります。それを挽回しろと言うなら依頼料の上乗せを要求します。」


責任をただ押し付けられたら大きな迷惑だ。

更にそれがナアナアで常態化してしまうのはもっと良くない。

相手が応じないならこちらもどちらかしか選べないと片方を突っぱねれば良いのだ。

するとアンドウさんは溜息をつくと鞄を手にして中身を漁り始めた。


「仕方ありませんね。一応そう言われるだろうと言われて、もう1枚契約書を持ってきましたよ。」


どうやら最初から先程の金額で色よい返事が返って来ない事は想定していたみたいだ。

それなら最初からそちらを出せと言いたいところだけどこれが駆け引きなのだろう。

大金が動く時の値切りは国も庶民も変わらないみたいだ。


「それではこちらをどうぞ。」


すると今度は金額が倍にまで上がって2千万円と書かれているので値切るにも程があるだろう。


「ならそちらはもう良いとしてこの海外派遣っていうのは何だ?」

「あれ?敬語は終了ですか?」

「アンタを相手にしていると面倒臭くなった。それよりもこれは何処に行けと言ってるんだ?」

「それはアナタが行きたがっている所ですよ。」

「もしかして海外派遣の行き先はクラタの母親の所か?」

「はい。ただし行きは飛行機ですが帰りは船になります。そして、名簿はありますが安否の確認は完全ではありません。ちなみに、目的の人物も安否不明です。」


やっぱり状況はあまり良くなさそうだ。

行って連れて帰るだけじゃなく探すとなると難易度はかなり高くなる。


「それで、ここには船の護衛と書いてあるけど飛行機は使わないのか?」

「空港は既に使える状況ではありません。あるのは船での脱出のみになります。国によっては空母などを使えばヘリなどによる救出も可能でしょうが我が国には残念ながらそう言った物は無いのが現状です。」

「それと護衛の期間は本当に出航までで良いのか?」

「構いませんよ。ただし出航に遅れたら日本から新たな迎えは来ないと思って頂きたい。これが最初で最後の便になります。」


まあ、その場合はどうにかするしかないだろうな。

そこは現地の状況が分からない以上は臨機応変に対処する以外に方法はない。


「それで目的地の状況はどうなってるんだ?」

「観光が盛んな都市部はほぼ壊滅と言って良いでしょう。生き残った人々は唯一ダンジョンが出現しなかった北側の都市へと避難しています。我々はそこで日本人を中心とした人々を回収する事となっています。」

「他の奴らは見捨てるのか?」


俺としてはたった一人を救えれば良いので言える立場ではないけど、現地に行っても状況によっては考える必要がある。


「可能な限り乗せる事になっています。あくまでも優先順位は日本人であると言う事です。既に一部の国では魔物の駆除に乗り出している所もあります。上手くすれば避難自体は一時的な物となるでしょう。」


その後にどうやって復興させるかはその国の人間が考える事なので、こちらは救出を最優先にすれば良いと言う事か。


「分かった。みんなで話し合うから少し待っててくれ。そう言えば先日のダンジョンでは何人の確保ができたんだ?」

「・・・。」


すると珍しくアンドウさんの視線が泳いで窓から見える空を見詰めた。

これはよっぽど聞かれたくない事だったみたいだけど戦力の把握は必要と言える。

3つ目のダンジョンが沈静化できていない事であちらの戦力が壊滅的なのは分かる。

それにダンジョンという物にはいまだに分からない事が多いので、ここに人を残さないという選択肢も取れない。

もしもの時に備えて間引きと最低限の人材は残しておかないとならないからだ。


「まさかとは思うけど、また1人も確保できなかったんじゃないだろうな。」

「いえ、今回に関してはゼロではないですよ。」

「だから何人だ。」

「・・・3人です。」


本人としても不本意な部分が大きいのか表情を歪めての言葉だった。

しかし今回は頑張った結果なら仕方ないだろう。


「まあ、あんな体験した奴らが好んで前線に立ちたいと思う訳ないか。選択は完全に自由意志だし強制は出来ないだろう。」

「理解があって助かります。ですのであちらからの人員は裂けません。」


やっぱり今の俺達には絶対的に数が不足している。

どんな基準で選ばれているかがいまだに分からないと言ってもこの状況で他人に任せておけば良いと考える奴は平和ボケが過ぎると言うものだ。

恐らく力を受け入れたのは4階層での誰かだろう。

あの階層で助けた人の中には明確に守りたい存在がいる者が数名はいたので、その中の誰かなら3人でも大丈夫そうだ。

そして俺達は更に理事長であるオオサワさんにも電話で参加してもらい今回の事を話し合った。


「まず最初に俺は海外の方へ行こうと思う。」

「それなら親組は日本を担当しよう。ツキミヤさんもこっちで構わないよな?」

「ええ構いませんよ。フランチェスカを預けたままですから。」


今の段階ではまだ所有権は移っていないんだけど既に貰った気でいるみたいだ。


『ならば今回は儂がユウキくんに同行しよう。』

「え~私が行きたかった~。」

「私もです。」


そう言って二人が拗ねているけど後方支援の出来る人材が二人も居なくなるのはキツイ。

先日もそこがしっかりしていたからこそ自衛隊のミスを帳消しにできた場面もある。

それに出来ればリリーも皆について行ってもらいたいと思っている。

リリーは犬だけど後方の要なのでコイツが居るだけで安全性がかなり違って来るからだ。


「お前らは今回、父さん達を助けてくれ。リリーは・・・。」

「ウ~ワウ。」


そして俺が言葉を言い終わる前にリリーは父さんの足の上に飛び乗ったので、どうやら元々あちらに行く気でいたみたいだな。


「お前も任せたからな。」

「ワウ。」


これで日本に関しては問題なさそうだ。

ただ、俺の方が手薄なので出来ればサポートを出来る奴が一人欲しい所だ。

出来れば捜索とかが出来そうな奴が良いけどそんな奴は簡単には見つからない。

まさか都合よくそんな人材が湧いてくる分けも無いだろう。


「ワウワウ。」

「ん?どうしたリリー?」

「ク~ン?」

「あれ、リリーじゃない。じゃあ誰だ?」

「ワウワウ。」


リリーでないとすると家にいる居候犬のオメガだな。

俺は足元を確認するとオメガは大きな目でまっすぐに俺を見上げていた。

もしかして連れて行けと言うのだろうか。

まさかこんな唯の小型犬を連れて行って役に立つのかと言われると悩む所だ。

もしかすると相手が死んでいた場合、ニオイくらいは探せるかもしれない。

でも普通の犬だからな~


「ワンワン。」


俺が悩んでいるとオメガが再び吠えて来る。

なので再び視線を向けるとそこには何かの幻覚が映し出されていた。


「おかしいな。また最近疲れてるのかもしれない。」


俺はそう思って目元を擦ってもう一度オメガに視線を移した。

しかし、そこにはやはり俺がよく見るステータスが浮かんでいる気がする。

それにレベルが8まで上がっており確実に誰かこの中でオメガを育成した奴が居る事を示していた。

俺は視線を巡らせるとあからさまに視線を逸らした奴を発見する。


「リリーお前か?」

「ワフゥ~?」


なんだか知りませんよと言った感じに視線を逸らし尻尾をリズミカルに振っているけどこの態度はあからさまに怪しいだろう。

ただ、やってしまったものは仕方がない事で情報共有はされているのからリリーもその気になれば育成は十分に出来る。

それに最近オメガが老成したように大人しくなったのも力を手に入れて精神面が平坦になったとすれば説明がつく。

それにしても犬でも戦おうと頑張っているのに人間は本当に情けない。

アンドウさんを見ると驚きながらも溜息を零して肩を落としているので彼には彼なりに思う所があるのだろう。

俺はオメガをテーブルに乗せるとステータスを覗き込んだ。


オメガ

レベル8

力  41

防御 39

魔力 8


スキル

格闘 捜索 直感 アイテムボックス 


するとステータスだけ見るとまさかの前衛タイプだった。

もしかしてこんな可愛らしい小さな体で魔物を殴り殺すのだろうか。

それにしても、持っているスキルは有用な物が多く今回の件ではピッタリと言えるだろう。


きっと格闘は素手で魔物を倒して手に入れたのだろうけど、リリーならそれくらいまで敵を弱らせる事も出来てしまいそうだ。

ちなみに俺に頼まれてもそんな事は出来るはずもない。


そして捜索は探している相手がどの方向にいるのかが漠然と分かるので人探しには向いている。


それに直感は捜索などの感覚的なスキルを強化してくれる。

俺で言えばこれがあると索敵の精度を上げる事が可能だ。

そして、なんと俺達の中で最初にアイテムボックスを手に入れたのはオメガとなる。

今まで最前線で生き残る事を優先してこのスキルを後回しにしていた。

スキルも本人が頑張れば覚える事が可能とは言ってもファンタジー要素の強いスキルはどうすれば良いのか分からない。

このスキルは魔法と同じく努力だけでは覚えられないスキルの一つと言える。


今回の事だけでなく今後の事も考えれば有用な存在となっている。

そして確かに人材は出て来なかったけどこうして優れた犬材を手に入れる事が出来た。

それにレベルをあと2つ上げて身体強化を取らせれば体も強くなって嗅覚も強化できる。

サポート要員としてコイツなら連れて行っても問題ない。


「よし。お前を採用する。」

「ワン。」


なんだか今のオメガは普段よりも胸を張った姿がとても凛々しく見える。

足が震えているけど、これはきっと武者震いという奴だろう。


(俺の知らない間にカッコ良くなりやがって。)

「これでメンバーは決定だな。」


周りを見回しても異論の声は上がないので後はいつからここを発つかだろうな。

前回と同じ流れなら今からと言う事になりそうなんだけど。


「それでは話が纏まった所で出発していただきます。」

「やっぱりそうなんだな。」

「オオサワさんも良いですね。」

『構わんよ。ぃぃょ』


なんか電話の向こうから小さな声が続いた気がする。

まあ、それは幻聴として俺達は準備を整えて玄関前に集合した。


「お兄ちゃん絶対に帰って来てね。」

「死んでも帰って来るよ。」

「その時は私!が手に入れた蘇生薬を使ってください。」

「狡いわよユウナ。お兄ちゃんは私が生き返らせるんだから。」


どうして死んで帰って来るのが前提なんだ?

出来れば最初の流れでちゃんと生きて帰って来たいのだけど変なフラグは立てないで欲しいな。


「必ず生きて帰って来るから蘇生薬じゃなくてポーションで頼むよ。」

「「は~い。」」


これでさっきのフラグが折れてれば良いけど不安が募る。


「それじゃあ行って来るよ。」

「「行ってらっしゃ~い。」」


そして俺達は別々の方向へと向かって移動を開始した。

オオサワさんは既に目的の場所へと向かっているそうで空港で合流する事になっている。

そして俺の方はチワワを連れた締まらないパーティで飛行機が待機する空港へと向かって行った。

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