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237 試験 ②

試合は一時中断したけど怪我をしていた2人もすぐに目を覚まし体に異常が無いと分かるとそのまま再開される事になった。

ただし限度を超えてしまった2人は主催者側からしっかりと叱られて命を賭ける場所をしっかりと見極める様にと言われている。

流石にあのまま試合をさせて同じようになってはあちらも困るからだろう。


そして俺はその内の1人と試合場で向き合っている。

きっと俺なら怪我をさせても治療してくれるとでも考えているのかもしれない。

それにしても、この時代にしてはしっかりとした殺気を放っており、手には武器を持たずにガントレットを装備した格闘スタイルのようだ。

さっきの怪我から分かってはいたけど、肉体を武器にした接近戦が得意と見て間違いないだろう。

忍びの様な暗器も隠し持っていない所を見ると武器と言えるのは手に装備しているあれだけだな。


「それでは怪我に注意して・・・試合開始!」

「でやーーー!」


すると相手は開始の合図と同時に間合いを詰めると鋭い突きを放って来た。

どうやらこちらはさっきの相手と違いちゃんと縮地も使いこなしている。

しかもその手には気を纏い、これにはとても覚えのある技だ。


「幻殺拳か。『パシ!』」

「なに!」


俺にとっては懐かしい技だ。

さっき治療した相手の体が一部弾けていたのでもしかしてと思っていたけど間違いでは無かったみたいだ。

この拳をまともに受けるには同等以上の気を使って相殺するか、それに耐えられるだけど防御力が必要になる。

今回は相手を上回る気を使って相殺しているので互いに怪我は発生していない。

それでも受け止められるとは思っていなかったのかその顔は驚愕に染まっている。


「お前も同門だったのか!」

「ちょっと違うけど似た様なものだ。」


その技を生み出したゲン爺さんが師だと言っても信じてもらえないだろう。

そのため曖昧に誤魔化して誰に習ったかは言わないでおく。

しかし、あの爺さんがまともに技を教えた事の方が驚きだ。

きっとその人物は俺の想像を絶する苦労をしたに違いない。


「それなら兄弟子として手加減はしないぞ!」

「望むところだ。(きっと俺の上に兄弟子は居ないだろうけどな。)」


俺達は拳や蹴りをぶつけ合い、空歩を駆使した戦闘を繰り広げて行く。

そのおかげで先程まで湧き切れていなかった観客もテンションを上げて行き歓声のボルテージが上がり始めた。


「こうなれば俺の必殺技をくらえ!」

「必殺技?」


次第に相手もテンションが上がり、さっき怒られた事も忘れて必殺技とか言うのを繰り出すと言い出した。

どうやらこの男はあまり反省をしないタイプのようだ。

見ていると溜めが必要な様でその腕には初撃を大きく上回る気が収束されていくのが分かる。

俺はそれを待って地面に降りると試合を止めようとしている審判に声を掛けた。


「問題ない。兄弟子として上には上が要る事をアイツに教えておいてやる。」

「兄弟子?」

(おっと。つい口が滑ってしまったな。)


そして上空では準備が出来たのか拳を引いてこちらへと一気に降下してくる。

恐らくは落下エネルギーと空歩の加速を加えた事と、気を限界まで高めた事で威力を何倍にもする技なのだろう。


「くらえ!幻殺拳奥義・落龍滅殺拳!」


は~・・・俺が言うのもなんだけどネーミングセンスが無いな。

ちなみに俺が爺さんに習った時にはこれと言って技名は無かった。

幻殺拳の神髄は如何に気を体内で収束させ、それを自在に放出させるかにある。

だからツクモ老も一度として技名を言った事は無い。

だからこの流派は結局のところ、その1つを極限まで高めた所にこそ奥義がある。


「まだまだ収束が甘いな。」


俺は一瞬で拳に気を集中させると振り下ろされる拳と正面から衝突させる。

その1撃は容易く相手の拳に宿る気を吹き飛ばし、されに腕を潰して内部から破裂させた。


「ぐあーーー!」

「おっと。これだとまた会場が騒然となってしまうな。」


俺は吹き飛んだ肉片を炎を龍の形にして一瞬で焼き尽くすと観客が目を奪われている間に新しい腕を生やして治療してやる。

これに気付けるのはかなりの実力者か家のメンバーくらいだろう。

ただ相手には痛みと共に右肩から先の服とガントレットが吹き飛んでいるので何が起きたのかは理解できるはずだ。

これで更に向かって来るのなら、もう少し痛い思いをしてもらわないといけなくなる。

そして地面に倒れ呆然としている男へと歩み寄ると拳に気を溜めながら声を掛けた。


「それで。まだ続けるか?」

「ま、参った。」

「・・・試合終了!」

「「「ワアーーー!」」」


すると試合終了と共に歓声が上がり、どうやら俺の目論見が上手く成功した事が分かる。

しかし、それと同時に審判が駆け寄ってきて真面目な顔で声を掛けて来た。


「一応、次から魔法は控えてもらいたい。それに関しては別の試験が準備されているから資格が要るなら後日にそちらで披露してくれ。」

「分かりました。」


ここでは主に接近戦が主体となるので魔法は別枠だ。

それに前衛と後衛でしっかりとした線引きが出来てしまうので試験が別々に準備されている。

だから今の俺みたいに前衛も出来て魔法も使えて治療も出来る奴は通常ではありえない存在だ。

それでこちらを探ろうとするスパイやそれに類する連中が集ってくれば容赦する気は無いので、それに関しては今も昔も変えるつもりは無い。

まあ、いざとなれば絵本にもなっている悪い方の悪魔王にでも登場してもらえば良いだろう。


そして試合が終了すると一旦休憩となった。

時間は既に昼になっている様で1時間のインターバルが挟まれるようだ。

俺はその時間を利用して皆の居る部屋へと向かって行くと途中で俺を待ち構えている様な奴らが何人か潜んでいる。

俺はその連中を上手くやり過ごしながら部屋に到着し中へと入って行った。


「どうだった?」

「面白かったわよ。」


そう言って迎えてくれたのはお弁当を口に頬張っているアイコさんだ。

この人もどうやってその口から普通の声を出しているんだろな。

今迄に200年以上の歳月を生きて来たのにそれだけは解明できていない。

他の皆も試合に関しては概ね同じ様な感想なので退屈はしてなさそうだ。

するとアズサが俺にせがむ様な仕草で手を伸ばして来る。

なのでハルアキさんから受け取ると笑みを浮かべて軽く包み込むように抱っこしてやる。


「やっぱり私の時より嬉しそうよね。」

「僕の時よりもだよ。アズサには困ったものだね。」


言っては何だけど子育てに関しては既にハルアキさんやアイコさんよりも先輩になってしまっている。

仕草や表情から何をして欲しいかがすぐに分かるので今は作り置きしてあるミルクをあげている。

まあ、アズサの場合は催促があると9割は空腹を訴えているので他の赤ん坊に比べたら分かり易い。


そう言えば以前に相談したあの話はどうなったのだろうか?


「ハルアキさん。場所は確保できそうですか?」

「ああ、そっちは大丈夫だよ。施設の予約は出来たからこの後にでも行ってみようか。」

「そうですね。状況的に早い方が良いでしょうからね。」


実はハルアキさんには12神将を呼び出すための札を作成してもらっている。

聞いてみた所によると、この時代でも札の知識が京都の大火で焼失しているらしい。

以前の歴史程には酷くはないらしいけど、その時に多くの文献が焼けて知識を持つ者が死んでしまったそうだ。

なんでも裏の歴史では魔物による暗躍があったらしく、組織が平和に馴染んで腑抜けていた所を突かれたらしい。

その時に失われた物の中に12神将の事も含まれていて今では伝説の術となってしまっているそうだ。

しかし俺が札の画像を持ち帰った事でハルアキさんがその術を復活させてくれている。

後は呼び出してからだけど彼等と面識のある俺が立ち会う事になっているのでそれをこの後に行おうという訳だ。


そして休憩が終わると再び試合場へと向かい午後の部へと参加した。

とは言っても俺の試合はあと1度程度のはずなので次までは時間があり、何か暇潰しはないかと周囲へと視線を向けてみる。

すると救護テントで治療が間に合って居ないらしく、昼を過ぎても怪我人が列を作っていた。

どうやら怪我人の人数に対して治療師の人数が足りていないらしく、苛つきからか文句も聞こえてくる。

このままだと試合が円滑に進められそうにないので少しだけ手伝ってやる事にした。


「すみません。手伝えますよ。」

「それなら頼む。」


すると手が離せないのかこちらを見る事無く声が返って来た。

ただし、了承が貰えたので俺はテントの横に昔から使っている簡易診療所を取り出して置くと看板を取る着ける。


「良し準備完了っと。それじゃあ、こっちでも治療しますよ~。」


すると最初は半信半疑と言った顔で数名が入って来た。

しかし数秒で元気になって出て来るのを見て次第に人の波がこちらへと移って来る。

どうやら、この時代の回復魔法は効果が薄いのか治しきれていない部分もそれなりに多い。

今までの修行で体のいたる所を痛めているようで、これでは全力を出すのも難しそうだ。

それらもついでに治してやると嬉しそうに診療所から出て試合へと向かって行った。

そんな事を続けていると瞬く間に試合の順番が回って来たので他の人には少し待ってもらい、診療所から出ると試合場へと向かって走って行く。


「また何かしていたようだが?」

「医療班に許可を取って治療をちょっと。」

「まあ、許可があるなら良いだろう。」


何やら視線が微妙だけど事前にしっかりと許可を取っておいて正解だった。

向こうは見た目が子供の俺が診ているとは思っていないかもしれないけど許可は許可なので関係ない。

何かあれば碌に見もしなかった奴が悪いだけだ。


そして白線の中に入るとそこには腰に刀を差した男が立っていた。

感じる気配からすると今までで一番の使い手と言えるだろう。


「それでは試合開始!」


すると男は開始と同時に流れる様な動きで瞬動と縮地を使い間合いを詰め、刀で居合を放って来る。

この動きや速度から既に実戦でレベルを上げていると見て間違いなく、恐らくレベルは20前後だろう。

それにしてもこの剣筋は殺気を込め過ぎており、まるで人を斬る事に溺れた人斬りのようだ。


「お前は今までに何人を斬って来たんだ?」

「フフフ。そんなのは数えた事が無いですね。100200程度でしょうか。それに、こうして試験に参加すれば合法的に人が斬れる。死んでも事故として罪にならないので本当に素晴らしい世の中だ。」

「そうか。たったその程度ならまだ大丈夫そうだな。」

「なに?」


俺は居合を躱して更に間合いを詰めると手刀を走らせて両腕を切り離した。

その直後に肩からは血が噴き出し男の顔が驚愕と痛みに歪むけど次の瞬間には俺の方で治癒は終えている。

但し、完全ではなく神経や血管などを繋げ筋肉も落ちない程度にだけだ。

骨は繋げていないので治療するまでは使い物にならない。


「な、何をした!」

「ちょっとした教育だ。知っているか?人は首を折られても10秒以内。心臓を抉られても5秒以内なら回復が可能なんだぞ。」


俺は威圧と恐怖のスキルを同時発動して男の間合いに入ると喋れない様に口を掴んで黙らせる。

それと同時に胸に手を突き刺すと心臓を直接掴んで握り潰した。


「んーーー!!」

「大丈夫だ。痛みはあっても死なせないからな。お前には十分に恐怖や痛みを味わってもらう。早く審判が止めてくれると良いな。」


とは言っても簡単には止められないだろう。

さっきもそれで手遅れになる寸前だったからな。

特に外的な怪我が見当たらなければなおさらだ。

俺は相手の腹を掻きまわしては回復させ、口から手を離すと頭を180度回して圧し折ってやった。

しかし、それでも回復させれば死ぬ事は無い。

俺は京都で生活している時には相手が死んでも問題ないので色々な実験を繰り返した。

その後も平和な時代を壊そうとする奴らをアンドウさんと一緒に掃除し、そこ後には1000では利かない程の屍を築いている。

コイツが斬って来た数なんてたかが知れており、殺した数となるともっと少ないだろう。


「まあ、そろそろ終わりで良いか。」


そして体を完全に回復させると地面に投げ捨てて勝負を終えた。

疑似的にも体が徹底的に破壊され何度も死の恐怖を味わった事で既に返事をする気力も無さそうだ。

こういう奴を再び見つけたら同じように教育してやらないといけないだろうな。

もし手遅れになるとアンドウさんはこういう人間が嫌いなので率先して始末しそうだ。

あの人は容赦が無いから気付いた時には三途の川の前に立っている事になりかねない。


「さて、これで俺の試合は終わりか?」

「し、試合終了!」

「うおーーー!やってくれたぜ!」

「ざまー見やがれ!」

「荒し野郎が思い知ったか!」


すると終了の合図と同時に今度は観客からではなく受験者からの歓声が轟いた。

どうやら、この男はかなり嫌われていたらしく、中には今日の試合で怪我を負わされた者も居るようだ。

その治療が原因で救護テントが混雑してしまったのだろう。


それに、これで今日の試合は終わり、診療所で人も待たせているので早く行って終わらせなければならない。

そして治療を再開していると会場に放送が掛かり周囲へと何かの伝達がされ始めた。


『これから30分の休憩の後に本日のスペシャルショーを行います。皆さまどうか心してお楽しみください。』


なんだか変な放送だな。

まるで心臓に悪いから気を付ける様にと言っているようだ。

しかしスペシャルショーとはとても心惹かれるフレーズなので治療を終わらせて見させてもらうことにした。

そう思っていると受験者の多くが俺の診療所へと押しかけて来たのでどうしたのかと思えば、隣で治療をしていた奴が体力の限界で倒れたらしい。

仕方ないのでより強力な神聖魔法を連発して全員の治療を終えると、診療所を収納してから何処で見れば良いのかと周囲を見回した。

しかし全員が何故か戦場に立つ戦士の様に武器の状態を確認していて顔が何処となく嬉しそうだ。

幻殺拳を使っていた男も新しいガントレットを手に嵌めて準備万端で待機している。

俺は訳が分からないので傍に居るスタッフへと声を掛け、この状況の説明を求めた。


「君は初めての参加だったね。これからここに居る全員とゲストが1対多数で試合をするんだよ。これもちょっとしたパフォーマンスって所かな。」


ん~・・・それは知らなかった。

もしかしてゲリライベントなのか、案内用紙の内容を記憶から掘り起こしても何処にも書いてなかった気がする。

ただ、これだけの人数を一度に相手するとなるとかなりの実力者だろう。

そう考えて俺も準備するかと思っているとさっきのスタッフから焦る様な声が聞こえて来た。


「なに!ゲストが来ていないだと!」


どうやらインカムでやりとりをしている様だけど、向こうの声が不鮮明で上手く聞き取れない。

しかし会場のテンションは既に最高潮になりつつある。

ここで出来ませんではその落胆はかなり大きなものになるだろう。

周りの受験者だってやる気なのにもはや居ませんでは収拾が付かない。

そんな時に俺の携帯がタイミングよく鳴り響き俺の中に嫌な予感が湧いて来た。。


「ハクレイからか。・・・はい、もしもし。」

『実は問題が発生しまして少し頼みを聞いて貰えますか?』

「ゲストが来てない件だな。さっきスタッフが慌ててたのを聞いた。」

『それなら話が早いですね。報酬も出るそうですけどお願いできますか?。』

「引き受けよう。但し、演出は好きにさせてもらうからな。」

『・・・程々でお願いします。』

「これで許可は下りたな。さてとそれじゃあ久しぶりに悪魔王に復活してもらおうか。」


俺は1人で会場から抜け出すと服を着替えてマントを身に付けた。

但し今回はフードの付いていない物で顔が良く見える。

そして人知れず会場の上空で待機するとお呼びが掛かるのを待ち続けた。


「さあ、ゲストの登場です。皆さん拍手で迎えてください。」


すると下の会場からアナウンスが掛かり、割れんばかりの拍手が会場を満たしている。

それに合わせて俺は一気に降下するとその中央へと勢いよく着地して土埃を巻き上げた。

それを風の魔法で上に吹き飛ばすとそれと同時に咆哮を空に放ってそこに浮かぶ雲を消し飛ばすと綺麗な青空を披露する。


「今日はこの悪魔王が相手だ!さあ遠慮なく掛かって来るがいい~人間ども~!」


すると周囲に一瞬の沈黙が流れたかと思えば地面が割れそうな歓声が巻き起こった。

それを受けて驚いている受験者達も動き出し、数人が攻撃を仕掛けて来る。

俺はそれを素手で受け流しながら全力で手加減を加えた蹴りを放つ。

それを受けて飛んでくけど空中で停止して再び向かって来る。

普通ならこれでノックダウンで動けなくなるほどのダメージだけど、攻撃を加えた直後に回復させているので大丈夫だ。

痛みにさえ耐える事が出来れば何度でも向かって来れる。

これくらいしておかないとせっかくのスペシャルショーも1分と経たずに終わってしまう。

そんな中で全員がまさに死力を尽くして向かって来た。

流石この試験を受けようと言うだけはあり、それなりに覚悟が出来ている。

あの時にヨーロッパで戦った戦士たちには劣るけど、目の前の彼らもなかなかに必死だ。


「ハハハ!甘いぞお前たち!実戦では足場が良いとは限らんぞ。」


俺は地形を作り変えて人の身長程の岩を乱立させると、更に雨を降らせて足場を悪くし状況を悪化させる。


「雨の日は水上歩行が威力を発揮するのだ。しっかりと覚えておけよ。」


そう告げると濡れてぬかるんでいる足場を物ともせずに軽快なフットワークで相手に襲い掛かる。

どうも今の彼らは環境適応能力が低い気がするのでこの機会に少しだけレクチャーする事にした。


「さあ武器に気を込めろ!魔刃を発生させて斬りかかって来い!気の運用は格闘を習得すれば覚えるのも容易いぞ!」


するとそれを聞いた奴らが素手でも向かって来るようになり、最初はつたないけどスキルを身に付けた奴から鋭さが増し始める。

やっぱり格上の相手と戦うとスキルの習得も早いみたいだ。

すると自然に攻撃にも気が含まれるようになり、素手で岩を砕く者も現れた。

そこまで来ると今度は魔刃の習得だけど、これは気が使えるようになると覚えやすくなる。

ただし魔法を使う感覚が分からないと難しいので覚えられる奴が何人いるかは微妙な所だ。


「そろそろお前らに良い物をやろう。さあ受け取るが良い!」


そう言って俺は彼らにダンジョン産の剣や槍を投げ渡し、大盤振舞にプレゼントしてやる。

スキルがあれば多少の違い程度ならすぐに修正して使えるようにしてくれるはずだ。

ちなみに、この中で刀を使っていたのは俺がボコボコにしたあの居合使いだけで、このイベントには参加していないようだ。


「さあ、そろそろクライマックスだ。遠慮なく掛かって来い!」

「「「うおーーー!」」」


すると全員が遠慮の欠片も無く斬りかかって来るので、それらを正面から迎え撃って地面へと沈めて行く。

するとその中で魔刃を発動できた者が数人現れたので、これまでの積み重ねが実った連中だろう。


「さあ、これで終わりだ!」


俺は腕を振って風を飛ばすと会場全体を巻き込んだ暴風を発生させる。

そして空に巨大な水龍を打ち上げるとそれを炸裂させて見事な虹を作り出した。


「戦士たちよ。今後も鍛錬を怠るな。戦いの時は迫っているぞ。」


そう言い残して虹の中を突き抜けて空へと姿を消して行った。

これだけやれば少しは喜んでくれるだろう。

その後、俺はコッソリと会場に戻ってみると何故か背後から忍び寄って来たハクレイに捕まってしまった。


「ヤリ過ぎです。」

「いや、でもみんな喜んでるだろ。受験者も少しはスキルが増えて満足してるし。」

「・・・ならせめて会場をもとに戻しなさい。あのままだと次のイベントに使えません!」

「はいはい。すぐに直しますよ~。」

「ハイは一回で結構です!」

「・・・はい。」


なんだか前にも同じような事を言って怒られたような気がする。

俺はそんなどうでも良い事を考えながら地面から水を取り除き元の平たい地面へと戻しておいた。

今日の教訓は『やった事の後始末はしっかりとしよう』と『やり過ぎると後始末が大変』といった所だろうか。

それ以外は周りに怪我も無いし観客も大喜びで帰って行っているので今日のショーは大成功と言って良いだろう。


その後、俺も皆と合流すると次の目的地へと向かって行った。

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