226 試練その4 ⑤
あちらの殺戮は続き、既に半数以上が殺されて地面に哀れな躯を晒している。
魔物達もそれによって強化されたことで体が逞しくなり、元の動物の面影も消え異形の魔物みたいになってしまった。
恐らくは人間を殺し過ぎて自身の容量を超えてしまい、俺で言えばレベル100の壁を超えた状態に近い。
あれでも時間を掛けて取り込んだ力を体に馴染ませながら何年も掛ければ無事に強くなれていたのかもしれない。
しかし既に今では理性の欠片も無く殺戮の権化と化している。
それに体が既に耐えられなくなっているのか崩れている所もあり、放っておいても自滅しそうだ。
そしてバーコはと言うとこちらも立派に成長し、今ではその大きさが5メートルを超えようとしている。
今の俺には見えないけどきっとアイツ等とバーコは繋がっているので、それを使って力を吸い上げていると見るべきだ。
もしかすると奴らがフィルターのような役割をして居るおかげでバーコだけが安全に強くなっているのかも知れない。
そしてバーコは荒れ狂う部下を見ながら空に向かって一際大きな声を上げた。
「これで準備は出来ました!オニャンコポン様!御降臨ください!」
すると部下たちの体が崩れ黒い霞となって空へと登っていく。
そして晴れていた空に黒い雲が広がり始めると地面に倒れている死体が空に向かって吸い上げられ始めた。
「どうやらバーコの言うオニャンコポンとは宇宙人だったみたいだな。」
「そんな訳あるか!『ポコン!』あれは邪神の一部に決まっているだろ。」
そう言えば邪神を封印する時に奴から分離した蛇を何匹か逃がしてたのを思い出した。
それがこの地に来て悪さをしている可能性は十分にある。
「そういえばこの土地で奴隷商売が始まったのはいつぐらいなんだ?」
「ん~・・・確か100年くらい前からだったかな。海から来た奴らが人を買って連れ出し始めたのが始まりよ。」
きっとそこに途中から介入して奴隷商売を加速させたのだろう。
最初から土台が出来ていたならさぞ楽に目的が達成できたはずだ。
「この状態はお前ら神の怠慢だからな。リセットはしてやるからその後は自分達でどうにかしろよ。」
「分かってるからアイツは任せたからね。今の私達には倒す程の力は残ってないんだから。」
「ああ、任せろ。」
そして空から目的の偽オニャンコポンが姿を現し始めた。
その姿は硬い凸凹した皮膚に覆われ、太い足と強靭な尻尾が生えている。
腕はまるで二足歩行の恐竜の様に小さく戦闘にはあまり使えそうにない。
背中にはまるでサンゴのような背ビレがびっしり生えていて口には肉食獣のような鋭い牙が並んでいる。
顔は蛇と言うよりは蜥蜴に近く、どうやら日本から逃げ出してからこの時までにかなりの強化に成功しているようだ。
しかし・・・この姿は・・・。
「ゴジ〇じゃないか!まさか口から熱線も吐けるのか!」
そんな事を言っていると奴は地面に降り立ち、「ギャオーーー!」と叫び声を上げる。
それを見てバーコは目に感動の涙を浮かべ見上げる程に巨大な偽オニャンコポンに跪いた。
「オニャンコポン様。どうか我らの敵を打倒すために力をお貸しください。」
「ギャーーー!」
「ありがとうございます。これからも貴方様に忠誠を誓います。」
「ギャーーー!」
あれは会話になっているのだろうか?
俺には唯の痛い一人芝居にしか見えないけど、ここは本物に聞いてみる事にした。
「オニャンコポン。あれは大丈夫なのか?」
「ダメだと思うわ。だってアイツが言ってる事を翻訳すると「大儀であった下等生物よ。」と「最後に我が糧と成れ。」だから。」
あの唯の叫びからそこまで読み取るとは流石は神と自称する精神生命体だ。
そしてオニャンコポンが通訳してくれたように偽物は地響きと共に歩きはじめるとバーコへと近寄って行く。
そして最後に大きく足を上げると容赦なく振り下ろした。
「お、オニャンコポン様いったい何を!『ベキバキボキ!』ギャーーー!」
「ギャオーーー。」
「しぶとい奴だ。」
するとオニャンコポンが気を利かせて翻訳をしてくれるので言っている事は分かる。
しかし、あの程度の相手を一撃で仕留められないのなら強さもその程度という事だ。
ちなみに偽物の大きさは50メートル程あるけど元が大きかったのであのっサイズなのだろう。
俺の想定では手古摺るかと思っていたけどそうでもなさそうだ。
そして偽物は地団駄を踏むように何度も足を振り下ろしバーコを殺してしまった。
さすが直接邪神から分離しているだけはあり容赦がない。
フルメルトで蜥蜴男が山脈から大蛇を呼び出した時も似たような状況だったので、元が元だけに400年経ってもやる事は変わらないみたいだ。
「それじゃあ俺はあいつを始末してくるからミミを任せたぞ。良いか!ここが吹き飛んだとしても毛程の傷も付けるなよ!」
「わ、分かったけど・・・なら先にアレをどうにしなさいよ。」
オニャンコポンはそう言って偽物を指差すので何かと思い俺もそちらへと視線を移した。
すると奴は背ビレを激しく発光させながら大きく口を開けると、そこから見える喉が次第に強く輝き始める。
「あ、アレを受けたら私には防げないのよ!」
「ああ、大丈夫だ。あの程度なら問題ない。」
俺の咆哮はライオンになってから数倍まで強化されているので、あの程度の攻撃なら跳ね返すのも容易い。
そのため俺は大きく息を吸い込むと奴の攻撃に合わせて咆哮を放った。
「ギャーーー!」
「消し飛べーーー!」
「ウオオオーーー!」
奴は叫び声と同時に黒い輝きを放つ光線を吐き出して来た。
それと同時にオニャンコポンが通訳を入れ、俺も咆哮で迎え撃つ。
その結果、咆哮同士が衝突し、間にある全ての物が薙ぎ払われて吹き飛ばされて行く。
しかし、こちらは防壁があるので大した影響はない。
それに比べてあちらは平原で遮る物が何もないため兵士たちはその尽くが飛ばされて姿を消していった。
恐らくあの状況では生き残りは誰も居ないだろうから、彼等の国というのも大量の兵士を失い大打撃を受けただろう。
元々が奴隷狩りをしに来たよな連中なのでどうなっても良いけど、付いて行く相手を間違えるとどうなるかが良く分かる光景だ。
「だ、大丈夫なのか!攻撃が拮抗している様だぞ!」
確かに今は互いに拮抗していて攻撃が互いの間で押し合っている。
しかし、俺には在って奴に無いものが一つだけ存在しており、それはミミの期待に満ちた輝く瞳だ。
これがある限り俺に負けは許されない!
「お兄ちゃんガンバちゃうよ!」
「うおー!威力が一気に膨れ上がった!しかし、もしかしなくてもコイツはアホな子だったのね!」
「にゃあ~!」
何やらオニャンコポンが言っていた気がするけど俺も力一杯に叫んでいるのであまり聞こえなかった。
きっと俺の妹愛に関心でもしているのだろう。
目がちょっと冷たい様に見えるけど、傍に居るミミの輝く瞳で霞んでいるだけに違いない。
そして偽物は俺の咆哮に呑み込まれて頭部を跡形もなく消し飛ばされてしまった
それを見てオニャンコポンはお約束の「やったか!?」と声を上げて偽物をジッと見詰めている。
しかしそのセリフはフラグだと言いたいけど、最初からこの程度で死なない事は想定済みだ。
俺は剣を抜くと一気に距離を詰めると更なるダメージを与えるために接近して行った。
「やっぱり再生を始めてたか。」
コイツの体を見ると脳が2つある事は現れた直後には分かっていた。
その1つはもちろん頭にあり俺が吹き飛ばしたので無くなっており、もう1つが体の中で一番深い腹の中にある。
今はそちらがメインの脳としての役割を担い頭を再生させているところだ。
俺はそんな偽物の体をブロックの様に切り刻んで分解して行く。
すると次第に胸部が無くなり腹部へと近づき始めた。
それにしてもコイツの外皮に関して言えば想定を上回る強度をしている。
既に何本も剣がダメになっているので出来ればドロップとして確保したい程だ。
それでもとうとう問題の脳へと到着できた。
しかし脳は硬い骨のような殻に包まれているので普段使っている剣でも斬り裂けるだろうか?
「まあ試してみるか。・・・『パキン!』やっぱりダメか。」
すると予想は的中し、最後の切り札なので簡単には壊せない様に硬い作りにしてあるみたいだ。
そして、そいつは剣が折れたのを喜んでいる様にカラカラと音を立てて震えている。
まるで笑っている様な仕草に俺もちょっとイラっと来た。
「まさかここでこれを使う事になるとはな。」
俺は持っている武器の中で最強の得物を取り出した。
これは以前に黄泉に行った時に鬼たちが持っていた金棒を拝借し、それを剣に作り直してもらった物だ。
持ち帰った当初はアンドウさんでもどうにもならなかったけど、寿命で死ぬ直前に完成させて持って来てくれた。
きっとこれなら俺の力にも耐えてこの外殻を切り裂いてくれるだろう。
そして試し切りに再生中の外皮を切り裂くと全く抵抗なく斬り裂ける。
刃毀れもなく、さっきまで使っていた剣とは大違いだ。
これを貰った時は見合う硬度の物が無くて大した試験は出来なかったけど、目の前のコレは良い試し切りに使えそうだな。
「それじゃあさっそく試してみるか。」
俺は剣を振り上げるとそのまま真直ぐに振り下ろした。
するとまるで最初から切れ目が有ったかの様にすんなりと割れてしまい、中から断末魔の悲鳴と血飛沫が噴出してくる。
まさかここまでとは思ってなかったけど流石はアンドウさんの最高傑作だ。
きっと天国に居ればこの光景を嬉しそうに見ているだろう。
そして脳が破壊された事で偽物のオニャンコポンも霞となって消え始めた。
それと同時に足場も消えたので飛翔でその場に留まり、ドロップが無いかを確認する。
すると地面には黒い皮が残っていて俺はそこへと降り立ち拾い上げて確認をしてみる。
「防御力9000か。良い拾い物をしたな。」
これなら良い防具が作れるだろうけど加工できる者が居ないので現代まで時間が進んだらそこで考えるしか無さそうだ。
恐らくはこれを加工するにはアンドウさんくらいにレベルとスキルの熟練者が必要だろう。
そして、これで1つの虚しい戦いが終わりを告げた。
周囲を見れば荒野が広がり数キロ先まで何も残ってはいない。
あるのは咆哮同士の衝突で出来た巨大なクレーターと防壁に護られていた村だけだ。
しかし後は自然に任せて勝手に回復するのを待つしかなく、防壁に戻るとオニャンコポンに声をかけた。
「ここは終了だな。俺はこれから戦後の処理をするから少し待っててくれ。」
「そうか。ならばしばらく待つとしよう。」
とは言っても動物は放っておいても勝手に戻って来るだろう。
毒や罠を仕掛けていた訳では無いので後は川の流れを戻してやるだけだ。
そして、それを終えて戻って来るとそこには白いライオンの子供がゴロゴロと転がりながら俺の帰りを待って居た。
その仕草はまさにこの世の物とは思えない程に俺の心を引き付けている。
しかも・・・。
「あ、お兄ちゃんお帰りなさい。」
「ゴファ~~~!やっぱりミミだったのか!」
俺はあまりの衝撃に危うく地面に倒れそうになったのをギリギリで堪え、この現象を引き起こしたオニャンコポン様を睨みつけた。
「やってくれたなオニャンコポン様!」
「なにやらお主から途轍もない信仰を感じるが気のせいか?」
それは恐らくは間違いではないだろう。
俺の心にはミミが白いライオンになった事と、言葉を喋れるようになった事で大きな信仰が生まれている。
まさかこんな方法で自身の力の回復を図るとは・・・恐ろしい子!
さっきまでは唯の馬鹿だと思っていたのに意外と侮れないようだ。
それに邪神との戦いが終わった直後からクオナは何も言わずに姿を消して帰って来なかったので精神力は十分に余っている。
だから余剰分くらいならライオンとしてこの地に居る間くらいは回復に協力しても構わないだろ。。
「おおお!体が一気に大きくなったな。お前はアホだが力だけは本物のようだ。」
「本人の前でアホとかきっぱり言うな。それよりも確かに大きくなったな。」
さっきまでは掌よりも少し大きいくらいだったのに、今では7歳児位まで大きくなっている。
見た目は変わらないけどさっきのフィギュアみたいな見た目よりかは良さそうだ。
「それで何でミミがこんな事になってるんだ?」
「フッフッフ!よく聞いてくれました。これからこの子が私達の使いとして各地を周り人々を救うのです。そうすれば自然と信仰も戻って来るので私もウハウハ・・・。『ガシ!!』」
「ああ、そう言う事か。凄く納得できたぞ。」
「は?」
俺は丁度握り易くなったオニャンコポンの頭を掴むと口から「フシュ~!」と呼気を吐き出して睨みつけた。
そして、そのまま握力を加えると万力の様にその頭を締め付けてやる。
「ギャーーー!何がイケないのよーーー!しかもさっきまでの信仰が反転して力が吸われているーーー!」
「さっきも言ったよな。お前等が怠惰に過ごしてるからこんな状況になってるんだって!ミミに働かせてお前らが高みの見物だと。そんなのは皆が可愛いミミに夢中になるだけでテメー等に信仰が集まる訳がないだろうが!」
「凄い言い切られた!」
下手をするとミミに信仰が集まって神様に昇進するかもしれない。
そんな事もあるとユカリが言っていたので何の解決にもなっていないだろう。
ただミミを最高神とする宗教を作り出し妹至上主義の宗教国家を作り出すのも悪くない気がしてくる。
しかし、そんな事をしても後でミミが苦労するだけなのでやっぱり止そう。
だから何が言いたいのかと言えば・・・。
「働け!この穀潰し共がーーー!!」
「は、はい!喜んで働かせてもらいます!だからそろそろ手をなさしてください!頭が本当に潰れてしまう!」
「仕方ないな。逃げたらタダで済むと思うなよ。」
「うぅ~!とんでもない奴に捕まってしまった~。」
「諦めろ。それと各地で力のある神には声をかけておけよ。俺はそう言った事は知らないし連絡手段がない。まあ、お前を呼び出した方法を使えば・・・。」
「は!喜んでやらせて頂きますです!」
「それなら任せるからな。」
そして俺達は打ち合わせを終えると村の皆と別れの挨拶を済ませ村を出て行く事にした。
その時に人間の同行者も必要となりそれはヤオに頼む事となった。
覚醒もさせたのでどの地方に言っても言葉の壁は無く、病気の治療などを行いながら各地を周っている。
そして10年もするとこの大陸から大きな病気は消え去り、更には信用の出来るシャーマンに神々が力を与えて治療が可能になった。
そのおかげで彼等も信仰を取り戻し今では豊かではないけど幸せそうな生活を送る様になっている。
その頃になるとヤオはオニャンコポンを崇める地域の司教的な存在となっていた。
それにあの村に関しては防壁を移動させて広大な土地を確保し大きな町に作り変えてある。
変えてあるというのも俺が魔法で石の家を大量に作り人が住めるようにしたからだ。
今では人口が膨れ上がって豊かな町へと変わっている。
簡単な構造の建物しか作っていないけど綺麗に整理して京都の様な作りにしてある。
町の名前がオニャンコと言うらしくオニャンコポンの名から取ったそうで、本人も喜んでいたので問題にする奴は居ないだろう。
そして俺達はというと草原の中でのんびりと暮らしていた。
狩りをして肉を食い、人とはなるべく関わらない様にして生活している。
しかし、それも長くは続かず、数年ほどするとミミは眠る様にして息を引き取った。
既にクレハの時に分かっていたけど神使は寿命が来ると生命活動が急に停止する。
そして苦しむ事無く体から魂が抜けだすと本当の神の使いとしての使命が始まる。
なので今はオニャンコポンの所へ行って挨拶でもしているだろう。
同じ様に生まれた俺もきっと似た様な寿命だからそろそろライオン生も終わりが近づいている。
既に挨拶をする相手も居ないので俺はミミの白い体を焼き尽くすと、その横で自身の終わるのを待ち続けた。
そして次第に抗えない眠気に襲われると眠る様に息を引き取った。
(さて、次はどんな生き物に転生するんだか。)




