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224 試練その4 ③

この村に来て1週間が経過している。

その間に防壁へ穴を開けてゾウでも通れるような立派な扉を付けた。

以前に旅館を作る時に使った廃材だけど人が通るだけの扉ならこれで十分だ。

クリエイトのスキルで強化もしてあるので簡単には突破も出来ないだろう。


それ以外にも村の形にしていた防壁を移動させて整えたり、増やした敷地に牛や山羊を入れておくスペースや畑を作ったりしている。

ただ彼らは鉄器を持っていない様であるのは石製の石器や木製の木器などだ。

なので地面を耕すのが大変なので最初は俺が魔法で畑を作った。


それで何を植えようかと婆さんに相談すると芋でも良いと言う事になり、ジャガイモとサツマイモを植える事になった。

植えるとなると俺の魔法ではどうにもならないので村の人達に任せる事にしている。


そして家畜の餌は外に草原が広がっているので餌には困る事が無い。

俺がここに来てからは肉食獣も近寄らなくなったので村人が外に出ても安心して歩き回れる。

逆に草食獣が増え始めたそうなので牛と山羊の餌の事も考えて、間引きをしたり追い払う必要がある程だ。

そのおかげで狩りの方もとても順調で衣食住が整い始めている。


それにヤオが言っていた様にこの村の牛と山羊はとても美味しいミルクを出してくれる。

これも毎日の様に回復魔法を掛けたり浄化をしているおかげかもしれない。

ミミも沢山飲んでいてスクスクと成長しながら穏やかに過ごしている。


そんな事が1ヶ月ほど続いた頃にここへ知らない奴等が3人やって来た。

そして村に入ると婆さんを呼び出し、真ん中の男が偉そうに話し始めている。


「貴様の所に精霊を名乗るペテン師が居るそうだな。大人しく差し出せばこの村の事は見逃してやろう。」

「ペテン師?いったい何を仰っているのか分かりませんな。ここに居るのは本物の精霊様です。無碍に扱えばこの村とてただではすみません。」

「黙れ!これ程の発展をさせた者が居るはずだ!そいつをこちらに寄こせと言っているんだ!」

「出来ません。」


すると激昂する男に対して婆さんは穏やかに首を振るだけだ。

しかし、その目と言葉には明確な拒絶と強い意志が見て取れる。

すると男達は我慢の限界を超えたのか肩から下げている銃を婆さんへと向けて構えた。

どうやら、力尽くでも俺の事を連れて行きたいらしい。


「ミャ~?」

「何だあのライオンのガキは?」


すると男の声で目を覚ましたミミが家の中から姿を現し、それに気付いた婆さんは一瞬だけ隙が生まれ驚きの表情を見せる。

しかし男はそれを見逃す事はなく、横で銃を構えた男の肩を叩いた。


「アレを狙え。」

「はい!」


その言葉を聞いた婆さんは手を広げて立ちはだかると男達を睨み付けた。

その必死な行動とは逆に男達の表情には笑みが浮かび、引き金に掛けられている指に力が入る。

すると婆さんは覚悟を決めているのか逃げる事も無く穏やかに目を閉じた。

しかし立ち位置から婆さんの体格ではミミの盾になるには不十分で、1発は防げても次の1発が当たってしまう。

ただしその役割を他人に譲った記憶が俺には無いので既にこちらも動いている。


「婆さんが死に急ぐ必要は無いぞ。」

「精霊様!」


婆さんの前に一瞬で移動すると銃を構えている男達に笑みを浮かべた。

それに用があるのは俺のようなので第一印象は良くしておかないといけない。

しかし男達は俺の姿を見るなり狼狽すると引き金に掛けている指に力を入れ、発砲音を響かせて弾丸を撃ち出した。


「ば、化物ー!」

『ドン!ドン!』

「な、なんだコイツは!?」

『ドン!ドン!』


ただし、無意識での発砲だった事が災いし2人とも照準はそのままで初弾を撃ち出している。

すなわち、飛び出した鉛玉はそのままミミへと向かって飛んでいるため、その弾道へと手を添えると掌で握り締めて跳弾しない様に抑え込んだ。

更に周辺の被害を防ぐために次弾も受け止めると牙を見せて男たちを睨み付けた。


「お前等は何をしたのか分かっているのか?」

「黙れ、化物!たかがライオンのガキが何だというのだ!」


そう言って声を荒げているけどコイツの目は正常なのか疑わしくなってくる。

今の俺は半獣の姿なので化物と言われても仕方がない。

しかし、首から上はライオンの姿をしているのでライオンの子供を守ろうとするのは当然のことだ。

それにあんなに可愛い、可愛い、可愛い、可愛いミミに危害を与えられそうになれば怒って当然!

だからコイツの頭部に付いているのは生物的にも目には見えるけど別の器官なのかもしれない?

ただし何処となくこのやり取りには見覚えがあるので確認の為に1つ試してみる事にした。


「浄化。」

「ぎゃーーー!な、何をしたーーー!」

「グエーーー!ぎぼち悪い・・・。」

「だ、だずげてくれーーー!」


やっぱり邪神に汚染されてしまった人間たちで間違いなさそうだ。

しかし浄化が利かずに苦しんでいるという事は既に手遅れであることを示している。

でも困ったことに今はSソードも正宗も持ってはいない。

それに死んだ後に持っている物がどうなるか分からなかったので全て日本に置いて来てしまった。

なので今の俺ではコイツ等を救う方法を持ち合わせていない。

ここはこの世界の人のため、俺の邪魔を出来ないようにする為に死んでもらうしかないだろう。


「死ね!」

「待ってください!」


すると今度はコイツ等を庇う様に婆さんが俺の前に立ちはだかった。

どうやら今まで手も出さずにいたのには何か理由があるみたいだ。

そういえば、この村には鉄器すら無かったというのにコイツ等は銃を持っているので文明に大きな隔たりを感じる。

目の前の男達を化学文明とするなら、この村の連中は精神文明と言えば良いだろうか。

精霊も信じていない様で俺の姿を見ても化物と言って攻撃し、逆にこの村の連中は俺の姿を恐れずに敬って来る程だ。

でも俺にとっても男達の気持ちは分からないでもなく、現代ならこう言った奴らの方が絶対に多い。

きっと他所の大陸か文化圏と交流があり、精霊への信仰を捨ててしまったのだろう。

そうなるとコイツ等が来たのはどこか大きな町か国という事になるので、こんな小さな村では逆らう事も出来ない程に大きくて危険な相手に違いない。

ただ俺もこの村には世話になっている身なので可能な範囲で方針には従うつもりだ。


「それで、お前はコイツ等をどうするつもりだ?」

「帰すしかありません。そうしなければ村は彼らの国に滅ぼされてしまいます。」

「そうか。それなら好きにしろ。」

「ありがとうございます。」


そして村人によって男達は村の外へと運ばれて行くとその場に放置された。

すると男達は扉の向こうからしばらく罵倒を喚き散らすと怒りながら立ち去っていく。

しかし俺にはこの後にどうなるかが手に取る様に想像できるので準備を怠るつもりは無い。

防壁を徹底的に強化し、戦うための道具を揃え、食料を確保して長期戦に備えておく。

でもその前にまずは事情を聞いておく必要があるだろう。

さっきまでの行動から、この婆さんなら色々な事を知っていそうだ。


「それで、これからどうするつもりだ?俺としてはアイツ等を殺して証拠隠滅を計りたかったんだが。」

「しかし、それでは別の者がここに来るだけです。それにあの者の名前はバーコと言いますが今では他の村々からも恐れられている存在です。」


そう言えば婆さんが危ないというのに誰も動こうとはしなかった。

普段なら全員が婆さんの盾になってもおかしくないというのに。

今も周りの奴等は怯えと不安の表情を浮かべているので言っている事に嘘は無さそうだ。


「もしかして奴の背後には大きな国か軍隊が居るのか?」

「はい。あの者はここから西に行った沿岸部で栄えている国で重責を担っています。年に1度はあのように現れ、村から税と言って人を連れて行き奴隷としているのです。」

「奴隷?でも買い手が居ないだろ。それとも労働力がそんなに必要なのか?」


俺の知っている範囲では奴隷を買っていたのは主にヨーロッパの国々だ。

でも俺が起こした戦争で今では奴隷の人数が激減している。

各地を飛び回るついでに蔓延していた病気を片っ端から消したので人口や寿命がかなり伸びたために人手が足りているのだ。

今では神の恩恵で教会が病気の治療も行えるようになったので信仰も高まり、あの地域の神々も喜んでいるだろう。

それに誰かが直接言った訳では無いけど、見られているという意識から多くの人が法を守り、秩序のある暮らしを始めている。

そんな事を俺が死ぬ少し前になるけどツキヤが話していた。


だから奴隷を集めたとしても買い手が居なければ商売にならない。

そうなると何の目的で集めているのかが気になるところだ。

もしかして奴隷と称して集めた奴らをフルメルトの時と同じように贄として邪神に捧げているのだろうか?


「それに関しては詳しい事は知りませんが以前にここではない西の大陸へと送り働かせているそうです。その為の労働力が必要らしく村によっては全員が消えた所もあるとか。」


言われてみればここから少し離れている場所に幾つか村の跡があったのを思い出した。

てっきり移住したと思っていたんだけど奴隷として連れて行かれた後の可能性もある。

それで、この辺は緑が多いのに村が殆ど無いのかもしれない。

そうなるとアイツが最初に言っていた「見逃してやる」と言っていたのは奴隷にするのを見逃してやろうという意味だったのだろう。

しかし婆さんが話を断り、俺が追い返したので確実に仕返をするために戻って来ることになる。


「それなら俺はやるべき事をやるだけだ。」

「どうするのですか?」

「ここを守る。それだけだ。」


もともとその約束で俺はここに居るので得意な方法で解決させてもらう。

それに村人の話ではライオンは半年ほどは乳を飲んでいるそうだ。

それまでに肉を食う様にはなるらしいけど俺達は生まれて1月半ほどしか経過していないのでミミにはまだまだここのミルクが必要だ。

それを奪ったり無くそうとする奴等には容赦するつもりは無い。


その後の俺は周辺の偵察と動物たちの避難を行い一時的に地形にも手を加えた。

そして準備を終えたのは奴らが村に来てから1ヶ月ほど経過した頃で、更に1ヶ月ほど過ぎた頃に奴らは大軍勢でここに姿を現した。

その先頭には以前にこの村へ来て威張っていたバーコという男の姿もある。

頭には長い鳥の羽を付けた兜を被って堂々としており、その顔はこれからの事を想像しているのか明らかに笑っている。

そして、その横には見せつける様に木で出来た枷がたくさん積まれた台車がある。

あの様子だとここの村人も見逃すつもりは無いらしい。


「婆さん分かってるな。」

「仕方ありません。しかし、最初に対話だけはさせていただきたい。」

「構わないぞ。」


そう言って婆さんは防壁の上から地面に居る兵士たちを見下ろした。

その数は軽く10万は越えていて村一つを襲うためにしてはあまりにも過剰だ。

恐らくは俺の為にここまで出向いてくれたのだろうけど、ここまでの人数を連れて来てくれるとは驚いた。

まさに飛んで火に入る夏の虫という奴だ。

そして婆さんもいつもの様に堂々とした態度で対応し、よく響く声で語り掛けた。


「我らはただ平和に暮らしたいだけだ。そっとしておいてくれないか。」

「黙れ!貴様らの運命は2つに1つだ。死ぬか奴隷になる事しか残されていない!」


するとバーコは婆さんに言葉を返すと手を掲げて振り下ろした。


『『『ダン!ダン!ダン!』』』


そして合図と同時に銃弾の雨が殺到し、さっきまで婆さんの立っていた場所を通り過ぎていく。

ただし直撃する前に俺がちゃんと防壁の陰にしゃがませたので傷一つ付いてはいない。

しかし、その音を合図にして外の奴等も行動を開始した。


「まずは破城槌か。」

「大丈夫でしょうか?」

「あれ位なら問題ない。何のために俺が動物たちを逃がしたと思っている。」


この周辺には既に人よりも力のある動物は残っていない。

居るとすればミーアキャットなどの見た目が可愛らしい小型の動物だけだ。

そのため象やサイなどの力の強い大型の動物は居ないので大きな破城槌を動かす原動力はここに居る兵士たちになる。

しかし、その程度で俺の作った扉が簡単に破壊できると思わない事だ。


「さあ!あの軟弱な扉を破壊し中の奴等を引き摺り出せ!」

「「「オオオーーー!!」」」


そして気合の雄叫びと共に扉へと鋭い破城槌の先端が衝突した。

しかし俺の取り付けた扉はビクともせず、逆にあちらの先端は大きく潰れて弾かれてしまう。


「ハハハ!お前らの力はその程度か~!」

「おのれ化物の分際でー!」


俺は上から姿を見せるとライオンの顔で大笑いしてやる。

それに怒りを感じたバーコは兵士たちに命令を下し何度も扉へと突撃させた。

しかし、それでも僅かに凹むだけで開く気配は一切ない。

すると破城槌を諦めたのか一旦下がらせると兵士に別の命令を下した。


「油を持ってこい!あの忌々し扉を焼き尽くしてやる!」

「畏まりました!」


そして防水の袋に入れられた液体が幾つも運ばれ扉へと投げつけられていく。

兵士たちは扉が油で十分に濡れた事を確認すると、次には事前に準備していた松明を幾つも投げ付け扉に火を着けた。

その火力は次第に増していき扉周りは黒煙に包まれしばらく燃え続ける。


「あれは大丈夫なのですか?」

「う~ん。俺も試した事が無いから分からないな。まあ、様子を見てみよう。」


そして炎が消えるとそこには真黒に変色した扉が今も形を保っていた。

しかし、さすがに炎とは相性が悪いために表面は炭化してしまっているようだ。


「見たか化物め!もうじきその首を切り落としてやるからな。お前達、扉の破壊もあと一息だ!一気に突き破ってしまえ!」

「「「うおーーー!」」」


そして兵士たちは今の間に再び破城槌の先端を尖らせ扉に突進してくる。

その威力は今までで一番と言って良い程の威力が有り、扉の炭化した部分を突き破った。


「「「うあ~~~!」」」


しかし、扉で炭化しているのは表面の数ミリ程度だった様で破城槌は兵士たちを巻き込んで跳ね返って行った。

それを見て俺は奴らを再び笑って挑発してやる。


「ハハハハ!お前らがゴミの様だ!」

「おのれーーー!・・・しかし攻略法は見つけたぞ。時間はかかるが扉は確実に削れている。お前達、後は任せたぞ。」

「は!」


そう言ってバーコは後方へと下がって行った。

しかし俺の仕掛けた罠はこの程度ではないので、これから大軍で来た事をジワジワと後悔させてやる。


既に後方では野営の準備がされている様でテントも立ち始めて煙も上がっている。

ただし、奴等がどれだけ飲み水と食料を持参しているかが問題で、この周りには既に碌に食べられるような物は何も残っていない。

しかも近くを流れていた川に関しては一時的に形状を変えて遠くに蛇行させてある。

アイツ等もこの付近についてはある程度は詳しいと聞いているので必ず現地調達を考えているはずだ。

それなのに以前まであった豊かな恵みが何も無いとなるとどうなるだろうな・・・フッフッフ!


その後も奴らは扉を破る事が出来ずに外で頑張って作業中だ。

そして中に居る俺達はと言うと・・・。


「さあ、外の事は気にせずにしっかりと食ってくれ。」

「ありがとうございます精霊様。」

「まるで狩りたての様に新鮮ですね。」


俺達は皆で幾つもの焚火を囲い焼き肉を食べていた。

ちなみに防壁からここまでは300メートル程はあり、弓矢も届かないのは皆も分かっている。

しかも奴らは銃を過信しているので弓を持って来ていない。

たとえ即席で作ったとしてもここまで届くような物は作れないだろう。

俺達は互いに笑い合い、ついでにアイテムボックスに入れたままになっていた酒なども振舞っておく。

それに人間として一生分は生きたけど結局お酒には興味を持たなかった。

他の皆も同様だったので殆ど残ったままになっている。

ちゃんと保管をしていれば良い感じに熟成する物もあったかもしれないけど、それを楽しむ味覚が俺には備わっていない。

だから笑っていたとしても少なくない不安を抱えているだろうから、ここでお酒の力を借りて少しは楽しんでもらう事にした。


そして夜も遅くなるころには酒宴も終わり見張りを残して眠りについた。

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