220 試練その3 ②
俺は降下を始めると城の門に入ろうとしている馬車へと向かって行く。
そして、そこに乗る御者に襲い掛かると容赦なく爪で首を飛ばた。
「「ヒヒ~ン!」」
すると馬車を引いていた2頭の馬は驚きで嘶き、駆け出そうとしたので固定してある馬具を破壊して解放してやる。
馬たちはそのまま走り出すと城の敷地を駆け回り奥へと消えて行った。
その間に惰性で進んでいた馬車も停止し、中からアンが顔を出してこちらに視線を向けて来る。
「ヒッ!お、狼・・・と、お姉ちゃん?」
すると俺を見て怯えていたけどナディーを見て首を傾げる。
まあ、村で別れたのに狼に乗って現れれば混乱もするだろう。
ちなみに俺が首を刎ねた男も魔物で既に霞となって消えている。
どうやら、ここに居る奴等は生き残った邪神の手下みたいだ。
もしかすると世界中にこうして魔物が残っているのかも知れない。
そして、ナディーは俺から飛び降りると馬車に駆け寄りアンを強く抱きしめた。
「助けに来たのよアン。」
「え、でも私が領主様の所に行かないと村が・・・。」
「そんな事はどうでも良いのよ。私はアナタに生きて欲しいんだから。一緒に村を出て生きて行きましょ。私がどんな仕事でもしてあなたを幸せにして見せるから。」
「お姉ちゃん・・・。」
姉妹による感動の再会だけどここは敵のアジトである城のすぐ前だ。
のんびりとしている時間は無く、中の奴等も動き始めている。
すると城の入り口からはガチャガチャと音を立てながらプレートアーマーを上半身に纏い、肩にはマントを付けた騎士たちが現れた。
中には軽装の者も居るけどそいつ等は手に銃を持っている。
そして、銃を持っている奴らを前に並べると片膝立ちにさせながらこちらに銃の先端を向けてきた。
まあ、いきなり城の目の前で馬車が襲われれば当然の対応だろう。
但し、奴らは既に人間ではなく、中に入っているのは魔物の類だ。
なのでこちらに対して降伏を呼びかける優しさはないだろう。
「撃てーーー!」
『『『バン!バン!バン!』』』
「「キャー!」」
「大丈夫だ。」
俺が間に居るんだから銃なんて怖くない。
この程度の弾速なら俺にはスローモーションの様に見える。
だから俺に当たりそうな弾は正面から受け止め、ナディー達に当たりそうな弾は尻尾で叩いて方向を逸らす。
「この程度で怯えるな。」
「え、ええ。分かったわ。」
すると俺とナディーのやり取りを見てその胸に庇われているアンが目を丸くしている。
そう言えば自己紹介がまだだったな。
ここはちょっと格好をつけて名乗りを・・・。
「撃てーーー!」
『『『バン!バン!バン!』』』
「あー鬱陶しい!名乗りの時くらいは攻撃してくるなよ。」
しかし、これが実戦なので相手の行動を悠長に待つ奴は居ない。
俺だってチャンスがあれば一言も喋らせずに皆殺しにするだろう。
こうなれば面倒臭いので簡潔に話を進めよう。
「俺は悪魔のハルヤだ。ナディーと契約し力を与えお前を助けに来た。」
「お姉ちゃんと契約!それじゃあお姉ちゃんは私の為に魔女になったの!」
「そうだ。俺の洗礼を受けて地獄の苦しみの果てに魔女になったのだ。お前も力を望むならくれてやろう。」
「待って!アンにまで手を出さないで!」
すると直後にナディーが話に割って入りアンを庇う様にして遠ざける。
しかし、そのアンの目は既に恐怖ではなく決意の色に染まっている。
コイツ等は姉妹揃って似たような目をしているな。
「悪魔さん。私も力が欲しい。お姉ちゃんと生きていくために!」
「アン・・・。で、でも駄目よ!」
「もう遅い。」
俺は既に申請が来ているので容赦なくボタンを押してアンも覚醒させた。
するとアンは痛みに体を強張らせると糸が切れた様にナディーの腕の中で意識を失ってしまう。
流石に幼い子供にあの痛みは辛すぎたかもしれない。
しかし現代では病院理事長の孫であるマキちゃんだって覚醒できたんだ。
この子だってきっと大丈夫なはずだ。
そしてアンを抱きしめているナディーは俺に怒りの視線を向けて来る。
しかし、俺はそれには芽も向けず、視線を敵へと向けて固定している。
「どうしてこの子を巻き込んだのよ!」
「俺が悪魔だからだ。純粋で美しい魂は幾つあっても困らないからな。それにこの状況を普通の人間が生き残れると思うなよ。」
今だって既に4度目の銃撃が行われ、それを凌いだところだ。
このままだと戦闘が激化した時に流れ弾が当たるかもしれない。
そうなると幾ら俺が強くても万能ではないので護り切れないだろう。
「それよりも俺の教えたとおりにパーティに加われ。そして妹を起こして操作を教えろ。ここは俺が片付ける。」
「クッ!分かったわ・・・。」
そして、ナディーは渋面を顔に張付けてアンを起こし始めた。
その間に俺は銃撃の合間を狙って突撃し手加減をした攻撃で蹂躙して行く。
「こ、コイツは唯の狼じゃない!」
「あ、悪魔の化身だ!」
そう言って良いのは人間だけだと思うんだけど、コイツ等は魔物になっている事を自覚してないタイプみたいだ。
全員が兜を被り全身を衣服や防具で覆っているので今まで村の連中にも気付かれなかったんだろう。
こういった奴らは無意識でも正体を隠す傾向があるからな。
そして、全員を行動不能にするとやっとパーティ申請が届いた。
俺はそれを了承するとナディーとアンの傍へと戻っていく。
「それじゃあレッスン1だ。アイツ等を殺せ。」
「殺す!わ、私達が彼らを!」
「そうだ。ただし言っておくけどアイツ等は人間じゃない。傍に行ってよく見てみろ。」
既に兜が外れて顔が露わになっている奴も居る。
そいつの所に2人を連れて行き正体を見せてやる。
そして、それを見た2人は口元に手を当て驚愕の顔で1歩下がり、互いに強く抱きしめあった。
「そんな。それじゃあ、今までここに来た人たちは皆・・・。」
「殺されただろうな。いや、食われたと言った方が良いかもしれない。」
今倒れているのは俺も初めて見るバンパイアという魔物だ。
口からは牙が突き出しているのが特徴的で魔物にしては人間に近い。
ただ、その肌は空よりも青く、人間でない事が一目でわかる。
「コイツ等が大事なアンを!」
「待て。」
「止めないで!私がコイツ等を皆殺しにしてやるんだから!」
「いや、ナイフだと殺しにくいからこれを使え。」
俺はそう言ってアイテムボックスからフルメルト王国で鹵獲したサブマシンガンを持たせる。
これを使えば今の2人でもこの程度の魔物なら簡単に倒す事が出来る。
「これって何なの?」
「今だけはそれを貸し出してやる。そこのツマミを回して引き金を引いてみろ。それと俺には良いけど妹に向けるなよ。間違えて撃ったら即死だからな。」
「分かったわ。」
そして、銃を撃つ時の基本的な体制を教え試射のついでにバンパイアたちに止めを刺していく。
もちろんそれはナディーだけでなく、アンも同じだ。
敵の人数は40人程なので良い練習になっただろう。
あまり使う機会が無かったので弾はまだまだ残っている。
ここで2人には存分に弾を消費してもらおう。
「弾倉の交換も慣れておけよ。それとスキルをすぐに覚えておけ。鉄壁と身体強化だ。」
こうして教えるのも久しぶりだな。
何時もは他の皆に任せていたので懐かしさを感じる。
それに今回の事で彼女達のレベルは既に10まで上昇していた。
これなら奴等の強さはレベルにして10前後といったところなのでこの銃弾の効果範囲と言うこともあって効果も高い。
「それじゃあレッスン2だ。城に入って敵を殲滅するぞ。」
「皆殺しにしてやるわ!」
「お姉ちゃん落ち着いて。」
「・・・ええ、分かったるわ。」
ナディーは感情に流され易い傾向にあるのか注意されて深呼吸をしている。
今はアンが傍に居て上手く静めている感じだけど念のために気にかけておこう。
そして、城に入るとそこには少し狭い通路が続いていた。
目立った窓は無くあったとしても鉄格子が嵌められ外には出られそうにない。
ただ所々に赤黒く変色した手形や爪で引っ掻いたような跡が残っている。
壁として積まれている石の間には人と思われる剥げた爪も挟まっていてきっと犠牲になった少女たちの物だろう。
これだけでも彼女たちがここでどんな事をされていたのかが分かる。
きっと城に閉じ込めそれを恐怖の中で追い回して遊んでいたのだろう
捕まれば命が無い事が分かっていれば必死に逃げ回ったはずだ。
「ここからはお前等が先頭を歩け。そして敵が見えたら容赦なく殺せ。見的必殺!サーチ・アンド・デストロイだ。」
「なんだか凄い気合が入ってるのね。」
今のような状況でなければ「それは当然だ!」と叫びたい。
城、中世、バンパイアと来れば多くの人が知るドラキュラを連想させる。
しかも相手は貴族で背景もバッチリだ。
俺が狼の姿でなければ両手に銃剣を構えて突撃したい。
もしかするとこれも俺に与えられた代償なのかもしれない。
「さあ、バンバン撃って逆らう奴らは皆殺しだー!」
「やっぱりなんだか変。」
しかし、俺が背中を押す事で2人は銃を構えて歩き始めた。
そして、通路の先からまるでガンシューチングの敵の様に迫って来るバンパイア達を蜂の巣にして行く。
この城は通路が狭いので鎧を着て剣を持った大人には狭すぎる。
攻められた時の事でも考えて作られたのかも知れないけど、あちらよりもこちらの方が地の利がある。
まあ、危なそうになれば俺が咆哮で吹き飛ばしてるんだけどね。
後ろから来た奴らに関しても後ろ脚で砂掛けをする要領で石礫を飛ばして始末している。
2人には前の敵だけに集中してもらっているので危険は全くない。
それにさっきステータスを確認した時に面白いスキルが取得可能になっている事に気が付いた。
これは速攻で取っておいて最後に皆を驚かせてやろう・・・フッフッフ。
「なんだか後から変な笑い声が聞こえるよ。」
「気にしちゃダメよ。あれは悪魔の笑い声だから呪われるかもしれないわ。」
「うえ~ん。怖いよ~。」
「でも敵より怖いのが後ろに居ると前から来る奴らが怖くなくなるわね。」
ナディーとアンはそんな話をしながら通路の先から次から次へとやって来る敵を倒し続けた。
そして、それもとうとう終わりを迎え残る敵はこの城の城主である領主一人となった。
「それじゃあ次がラストレッスンだ。」
「なんだか思っていたよりも簡単だったわね。」
「お姉ちゃん。今回はこれが凄いんだよ。慢心はメッ!だからね。」
なんだか妹の方がしっかりしていてお母さんみたいだな。
ナディーはそんなアンの頭を撫でながらデレデレしているけど姉としてそれで良いのかと聞きたい。
「良し、これからは隊列を変更して俺が前に出る。お前達は見学でもしておけ。」
「良いけどどうしたのよ急に。」
「単純な話だ。今から戦う領主にはその銃が通用しない。だからお前らの代わりに俺が始末する。」
「そんなに強いんですか!?」
「いや、その武器が弱いだけだ。それに相性も悪い。」
俺は2人に説明を行いながら前を歩き、扉の前までやって来た。
この先は大きな広間になっていてそこの玉座に領主は座っている。
しかも片肘をついて足を組み、ニヒルに笑っているのであちらも準備万端と言った感じだ。
このまましばらく放置するのも面白いかもと思ったけど、せっかく待ってくれているので早く入るとしよう。
そして、扉を開けて全員が中に入ると領主は見下すような視線をこちらに向けて来た。
「下賤な獣に年老いた女がオマケで付いて来たか。」
「誰が行き遅れよ!私だって村では人気があるんだからね!」
「・・・フ!」
「もう殺す!」
そう言ってナディーは俺の前に出て銃を乱射する。
しかし領主はそれを浴びても少し動くだけだ。
ダメージを受けていない訳では無いけど痣という程でもなく、それも高速で回復している。
やっぱりここのボスクラスでバンパイアとなれば回復系の能力くらいは持っていたな。
あの様子だと渡した弾を全弾命中させても倒す事は出来ないだろう。
「アン、ナディーを下がらせろ。」
「うん。・・・お姉ちゃん戻ってきて~。」
これは自分の傍まで戻って来いと言う意味なのか、それともあちらの世界から戻って来いと言う意味なのかニュアンスが微妙な言い方だな。
もしかして、図星でも突かれたのか?
「『ギロ!』何か言った!」
「ナニモイッテナイヨ。」
どうやら図星の方で間違いなさそうだ。
てっきり妹思いの良いお姉さんなのかと思っていたのにまさかの落とし穴だな。
しかし、弾が切れて煙が晴れるとそこには変わらない体勢で座っている領主の姿が・・・。
いや、殆どの服が破れてしまい殆ど服を着ていない領主の姿がある。
それを見てナディーは今迄にない程の素早い動きでアンの視界を遮った。
「見ちゃダメよアン!アナタの目が汚されちゃうわ!」
「失礼な女だ。この美しい肉体美が分からないとはな。」
そう言って領主は立ち上がると体を見せつける様にポーズを取り始めた。
ちょっと股間の強調が過剰で気持ち悪いけど確かに引き締まった良い肉体をしている。
ここはちょっと対抗するべきだろうか。
俺は二本足で立ち上がるとちょっとフラフラしながら現代のジムでみた様にポージングを取ってみる。
「ねえ、何やってるの?」
「俺の体を見せつけて対抗しようかと。」
するとなんだか呆れた様な冷たい視線を向けて来た。
領主に至っては呆れどころか哀れみさえも感じられ、まるで晒し者にされた気分だ。
こうなれば俺も初めて使うあのスキルを使うしかない!
「フッフッフ!見て驚けよ。これが俺の新たなスキル『半獣化』だ!」
するとスキルの仕様と同時に俺の体はみるみる変わり始める。
下半身の構造は変わらないけど股下が高くなり足も太く安定性が備わる。
そして、狼の顔はそのままに上半身の胴体や腕は人間の様に変わっていく。
とうとう俺も第2形態を手に入れたと言うことだ。
そして、変身が終わると胸を逸らし、天井に向かって咆哮を放った。
「ウオアーーー!」
それだけで天井は木端微塵に消し飛び見晴らしの良くなった事で月と星の光が入って来る。
「良い夜じゃないか。」
空には満月が浮かび俺達を照らしてくれている。
まるでこの姿を月が祝福してくれているようだ。
なんだか月の中でツクヨミが手を振っていた様な気がしたけどきっと気のせいだろう。
「待たせたな。」
「貴様!もしや悪魔の類か!」
「この国の奴等は異形は悪魔にしか見えないのか?」
俺は自分の体の性能を確認するために領主を間合いに収められる位置まで移動する。
そして、鋭い爪を伸ばし、その体を一薙ぎでバラバラにしてやった。
「な、化物・・・か。」
「化物はお前だ。俺はただの狼だからな。」
しかし、俺の反論を聞き終わる前に領主は霞となって消え去っていた。
返ってくる言葉もなく俺は月明かりの中で2人の許へと戻っていく。
「終わったのね。」
「ああ。初討伐おめでとう。それじゃあ次の問題を解決しようか。」
「次の問題?」
俺がそう言った直後に背後の扉を押し開けて武装した兵士たちが雪崩れ込んで来た。
その手には揃って十字架が握られ着ている服や鎧にもいたる所に銀の装飾が散りばめられている。
どうやらコイツ等は教会の関係者みたいだ。
きっとあの領主により被害を受けていた何処かの村が助けを求めたのだろう。
多分だけど日本で言う所の組織と同じ役割をしていると思われる。
しかし、兵士たちは俺達を取り囲むと手に持っている槍を構えて声を荒げた。
「この悪魔と魔女め!」
「女は火炙りにしてやるぞ!」
「神の名の下に悪魔を滅ぼせ!」
「神の名の下に魔女を滅ぼせ!」
どうやら俺と一緒に居る事でやっぱり魔女と思われているようだ。
ただその目は既に正気とは思えず、濁り曇ってしまっている。
きっと今までにも無実である多くの人を火刑にして来たんだろう。
この時代の宗教によっては洗脳に近い事もしているので話は通じなさそうだ。
すると彼らとは別にもう一つの集団が姿を現した。
彼らは目の前の奴等とは違い正常な顔つきをしている。
それに服装こそこの国の物だけど、その腰には見覚えのある武器を差しているようだ。
「待て、教会の異端審問官たち!彼女たちは魔女ではない!」
「何を言ってやがる!お前の目は節穴かよ。あの悪魔が見えないのか!」
そして、何か言い争いが始まったので俺は狼の姿に戻ると話が終わるのを待つ事にした。
ここから逃げるのは簡単だけど今の状況を知る為には後から来た奴等とは話をする必要がある。
それにこの2人を任せるには丁度良い相手だろう。
しかし、会話は次第に言い争いとなり、互いに武器を手にすると睨み合いを始めてしまった。
「テメー等も悪魔に魅入られたな!」
「尋問して吐かせてやるぜ!」
「お前等に任せてたら無駄な犠牲が増えるだけなんだよ。」
「それに尋問と称して拷問したり、女を犯して好き放題しやがって。手前らの神はそんな事を許してるのか!?」
「黙れ、我らは神の名の下に疑わしき者を罰する権限を持っているのだ。」
このままだと互いに殺し合いへと発展してしまいそうだな。
そうなる前にまずは黙ってもらおうか。
「おいお前ら。・・・少し黙れ!」
その瞬間に全員の動きと声がが止まり、その視線がゆっくりとこちらへと向けられる。
特に異端審問官とか言われているクズの集まりには強めに威圧を向けておいた。
「もし相手が欲しいなら俺がしてやろう。嫌なら今すぐにここを去れ。ただし言っておくが俺を倒したいなら全軍を連れて戻って来い。」
「ヒ、ヒィ~~~。」
「お、俺は死にたくねえー!」
「今すぐ協会本部に連絡をするぞ!」
そして、スキルを強めに使っていた異端審問官に関しては一目散に逃げだしてしまった。
なので残っているのは後から来た奴等で警戒しながら刀を構えている。
俺はそいつ等に歩み寄るとアイテムボックスから木札を取り出し、それを男の1人へと見せる。
「こ、これは!」
するとそれを見て男は驚愕し更にひっくり返してそこに書かれている番号を見ると俺に顔を向けて来る。
「まさかお爺様ですか!?」
「ああ、久しぶりだな月也。こんな所で会うとは思っていなかったけどな。」
「私もです。でもまさか本当に戻られるとは思っていませんでした。」
実のところコイツは俺とツクヨミの孫にあたる。
この家系は名前に月が入る事になっていて覚えやすい。
そしてツキヤは新組織であった黄龍を拡大させる為に海外へと渡った1人だ。
こうしてこの場に居ると言うことは海外支部の近くに転生していたと言う事だな。
「それでさっそくだけどこの2人はお前等に任せたい。」
「もしかしてお爺様が居られると言う事はこの2人は覚醒者ですか?」
「ああ、俺が覚醒させた。レベルは10とちょっと位だろう。」
「分かりました。しかし、私達も今はまだ大きな組織ではありません。いつまで守れる事か。」
「それなら状況を知りたい。」
「分かりました。」
そして、俺はツキヤからここがヨーロッパにある国の1つだと教えてもらった。
それと国家の力が弱まり各地の教会が力を付け、魔女狩りや魔女裁判が横行しているそうだ。
それ以外にも各村でもそれを真似た事が何度も行われ、多くの人が犠牲となっているらしい。
「あまり良い状況じゃあ無さそうだな。」
「はい。人手も足りず、教会も十字遠征軍なる軍事行動を起こそうとしています。おそらく、上層部に魔物が関係しているようですが私達では手が出せません。」
「分かった。それは俺の方でどうにかしておく。お前等はこれから言う事をヨーロッパの各地に伝達してくれ。」
「はい。しかし、申し訳ありません。私達が不甲斐ないばかりにお爺様には再び大変な思いをさせてしまいます。」
そう言ってツキヤは悔しそうな表情を浮かべる。
しかし、俺は別に嫌と言う訳では無い。
魔物が、そして邪神が関係しているならこの1つ1つが未来で皆の安全へと繋がることになる。
だから残っている魔物は見つければ全てを狩るつもりで居た。
それには人間よりも今はこの姿の方が都合がいい。
そして、俺はナディーとアンへと振り返って声をかけた。
「これからはコイツ等と一緒に行動しろ。」
「もしかしてあなたは悪魔じゃないの?」
「ああ、あれはちょっと揶揄ってやろうと思っただけだ。だからお前らの魂を食べたりはしない。」
するとナディーは少し困った様に笑うと「そうだと思った。」と呟いた。
どうやら既に薄々気が付いていたみたいだ。
そして、今度は状況判断が冷静なアンが疑問を口にした。
「でも協会が私達を追いかけて来るんじゃないですか?」
「それに関しては問題ない。これからそれどころじゃなくなるからな。だから最初は大変かもしれないけどすぐに外も出歩けるようになる。ナディーを任せたからな。」
「はい!」
「なんでさっきアンの事は任せるって言わなかったのかしら?」
それは自分の胸に手を当てて聞いてみた方が良いだろう。
きっとこれまでの事を思い返せば理由にはすぐに気が付けるはずだ。
そして、俺は2人を任せてからツキヤ達と別れると次の連絡があるまで森で待つ事にした。




