219 試練その3 ①
俺は穴に落ちながら次第に意識が薄れて行くのを感じた。
そして眠りから覚めて目を開けるとそこには大きな顔があり、俺の事を舌でペロペロと舐めている。
どうやら目の前の動物が俺の母親の様で周りには俺の兄弟たちが居るみたいだ。
『どうやら転生先はオオカミみたいだな。犬でないのが救いだけどかなりの際どかった。これでリリーと同じ犬だったら俺は立ち直れなかったかもしれない。』
それに俺の口からは人語が出ない様でキュウ~キュウ~と子犬のような声が出ているだけだ。
これで人と会話が出来るか分からないけど試してみればハッキリするだろう。
ただし、ここは何処かも分からない森の中で、地面に掘った巣穴のような所に身を潜めている。
外もかなり寒いようで雪が降っている事から季節は冬か、年間を通して寒い地域なのだろう。
俺以外の兄弟たちは母親に引っ付いて暖を取り、今は目すら開いていないようだ。
近くに他の大人たちの姿は無く、狩りに出かけているようでこの場には俺達しか居ない。
そんな中で母親がスッと立ち上がり入り口に向かって唸り始めたことから、どうやら招かれざる客が来訪したらしい。
外からは以前に聞き慣れた息遣いが聞こえ、俺達と同種の生き物でない事が分かる。
そして、それは次第にこちらへと近づくと穴の入り口からこちらを覗き込んで来た。
「ゴッフ!・・・ゴアーーー!」
「ミ~!ミ~!」
「グルルルル!」
すると幼い兄弟たちは本能的に助けを求める様に鳴き始め、母親は威嚇の唸り声をあげる。
そして覗いている生き物は巨大な熊で、俺達を見つけると声を上げ入り口を広げ始めた。
どうやらこちらを見過ごす気はないらしく、かなりの勢いで土が掻き出されて行く。
このままでは俺達の誰かか、あるいは全てが犠牲になるのも時間の問題だろう。
『仕方ない。流石に生まれて1日目で母親を失うと兄弟姉妹が生き残れそうもないからな。』
まだ生まれたばかりのオオカミなら母親からミルクを貰わないと死んでしまうだろう。
兄弟ならともかく姉妹たちまでそんな事になるのを見過ごす俺ではない。
そのため密かに動いて射線を確保すると熊の顔に向けて手加減を加えた咆哮を放った。
「キュ!」
「ゴハ!」
すると熊は穴から吹き飛ばされて外へと消えて行った。
しかしすぐに戻ってきて同じ事をくり返しているので、どうやらここの熊はかなりしつこい性格の様だ。
「キュ!」
「ゴハ!・・ガアー!」
「キュ!」
「ゴハ!・・・ガアー!」
「キュ!」
「ゴハ!・・・・ガアー!」
「キュ!」
「ゴハ!・・・・。」
しかしそれも5回目で戻って来なくなった。
ようやく諦めた様で熊も木々の間へと姿を消していき、母親も警戒を解いて子供たちを温め直している。
それにしても母親が痺れを切らして飛び出して行かなくて良かった。
流石の俺も今はこの四足歩行に慣れていないし体が成長途中で上手く動けない。
下手をしたら戦いを挑んだ直後に熊の爪に抉られて死んでいたかもしれない。
それに咆哮を放つ度に出る可愛らしい声も早くどうにかしたい。
しかし今のままではどうにもならないので、まずは栄養をしっかりと取るのが先決だ。
その為にはしっかりと母乳を飲んで体を成長させないとダメだ。
そう思っていると母乳の時間になったのか俺以外の3匹も母親に擦り寄ってお腹に口を付けている。
すると母乳の出が悪い様でどの兄弟も困っているようだ。
そのためちょっと鑑定してみると母親は栄養失調となっているので、この群れは狩りがそんなに上手くないらしい。
それとついでに周りも鑑定してみると兄弟と思っていたのは全部が雌なので姉妹のようだ。
そうなると俺のするべき事は一つしかないだろう。
まずはアイテムボックスから肉やモツなどを取り出すとそれを母親の鼻先へと置いてやる。
すると最初は警戒していたけど空腹からかすぐに食べ始めた。
ちなみに戦国時代が終わり、江戸時代になった頃から牧畜も盛んになり肉も手に入りやすくなっている。
だからそれらを購入して手に入れた物なので現代で買った肉程には美味しくない。
それでもオオカミが食べるには十分な味だろう。
しかし、これを食べたからと言ってすぐに母乳の出が良くなる訳ではないので軽く回復魔法を掛けてやり栄養を体に行き渡らせる。
戦いが終わり色々と試した過程でこのやり方が疲労の回復には一番良い事が分かった。
これで母乳の出も良くなるはずなので妹たちも一安心だろう。
ただし母乳は乳房によって出方に違いがある。
俺は出が良い所を見つけると姉妹達を押す様にしてそこへと誘導してやったので慣れて来ればスクスクと成長してくれるはずだ。
ちなみに俺は残った乳房から母乳を飲めば十分だ。
それに俺なら魔法と併用して牛乳でも問題なく飲む事が出来るだろう。
そして飲み終わってのんびりとしていると群れの連中が戻って来た。
周囲には熊の匂いがして警戒をしているようだけど、こちらへと慎重に近づいて来る。
獲物は持っていない様で彼らも体が痩せているので鑑定してみると栄養失調となっていた。
どうやらこの群れは負のスパイラルに陥っているようで、獲物が取れなければ動きが鈍ってしまうため狩りの成果が出難くなっているようだ。
それにオオカミは群れで行動して完全な縦社会を形成している。
そのため獲物を食べるのは上位の個体なのでこちらまで食事が回って来ないかもしれない。
そうなれば乳離れを待たずに切り捨てられる可能性もあり、そうなると餓死してしまう。
だがそれが俺の運命だと言うなら甘んじて受け入れても構わない。
しかし、それが俺の姉妹に及ぶと言うなら許容できる事ではないので、ここはやはり俺が動くしかなさそうだ。
『でもその前に母乳母乳っと。』
俺が宿ったのが狼だからかなんだか凄く成長が早い。
母乳を飲んで1時間程度しか経っていないのに既に周りの倍は大きくなっている。
お腹も早く空くので再び母乳を飲ませてもらうけど、俺の成長に合わせて好き勝手に飲んでいると姉妹の分が出なくなってしまう。
俺はこれを最後にして次からは普通の食事を試してみることにした。
もしまだ早くても、ちょっと吐いたりお腹が痛くなるだけだろう。
そして外では群れの連中が空腹で苛ついているのか吠えたりしていがみ合っている。
これは早くどうにかしないと群れ自体が崩壊してしまうかもしれない。
そして、それから3時間ほど経過して体が60センチを超えたのでちょっと巣穴を抜け出して狩りへと向かった。
既に獲物となる鹿は見つけてあるので俺は飛翔で空へと上がりその場所へと向かって行く。
そして真上に来たところで一気に急降下して爪に魔人を纏わせ首を切り落とした。
『後はこれを巣穴の近くに放置すれば勝手に見つけて食べ始めるかな。』
そして巣穴の近くに適当に落下させると俺は巣穴の中へと戻っていく。
すると起きていた母親が俺を舐めて綺麗にしてくれるので、返り血が残っていたのかもしれない。
すると外が騒がしくなり始めたので群れの連中も鹿に気が付いて動き出したみたいだ。
仕留めた鹿はおそらく500キロ以上はある大物なのでみんなが食べても十分な量が残る。
母親も立ち上がって巣穴から出て行ったので食事に行ったみたいだ。
しかし、それだと姉妹達が凍えてしまうので俺が代わりに温めてやることにした。
お腹に抱き込んで尻尾を布団代わりにしてやると凄い幸せそうだ。
『よし!生まれた順番が分からないからコイツ等は全部俺の妹ということにしよう。その方が俺もこれから頑張れるからな。』
この子達には既に浄化を使って寄生虫やウイルスを完全に除去してある。
後は外の奴等に関しても同様の処理をしておけば伝染病を媒介する事もないだろう。
そして、しばらくすると母親も口周りを血で汚して戻って来たけど、そんな顔で妹たちを舐めると汚れてしまうので魔法で綺麗にしておく。
後は脱水症状を起こさない様に水も準備してあるので、ここが洞窟という環境でなければ至れり尽くせりだ。
後でこの巣穴も再びクマに襲われた時の事を考えて作り直しておかなければならない。
さっき母親が居ない間に下には草を引き詰めて少しでも暖かくしてある。
『そうだ、付与を使って暖房を作るのも良いかもしれない。それに関しては後で考えてみよう。』
そして、そのまま1週間ほど過ごすと俺は大人たちよりも大きく成長していた。
今では巣穴は神殿の様に作り変えられ、襲って来た熊に関しては俺達の腹へと収まっている。
最初は放置していたけど毎日群れが留守の時にやって来るので仕方がない。
殺してしまった以上は無駄なく食べて糧になってもらった。
それと父親であり、この群れのリーダーだった雄オオカミは一睨みすると尻尾を巻いてしまった。
別に問題さえ起こさなければ追い出そうとは思わないのでこれからも群れを束ねてもらう予定だ。
そして他の狼たちも食生活が改善し、俺の回復魔法との併用で健康状態も良好になっている。
なので一月ほど経つと遠くまで足を伸ばして他の狼の群れと交流中だ。
今も俺の前には他のオオカミの群れが居て数匹がこちらに向かって唸り声をあげている。
ただし敵意が無いと分かってもらえば仲良くなるのも簡単だ。
『ギロリ。』
「キュ~ン・・・。」
「ク~ン・・・。」
『これでこの群れとも友達だな。』
オオカミはニオイに敏感だからか一度でも服従・・・ゴホン。
仲間にすると歯向かったりはしない。
今ではリーダー格にはステータスも与えて知能を高め、意思疎通も可能となっている。
そのおかげでスキルとして意思疎通や称号も獲得し、群れのリーダーというものを覚えた。
群れのリーダーの称号はステータスを持っていなくても群れのメンバーを強化できる。
自分以外を自由に強化できる称号は初めてだけど今の状況ではとても有用だ。
こんな感じで俺はこの周辺の群れの最上位者へと成り上がった。
ただし指示を出したのは無駄な諍いをしないと言うことだけで、あまり干渉が過ぎると自然の食物連鎖を壊してしまうかもしれない。
ステータスを得た狼たちに関してもレベルは1のままなので能力的には通常の個体よりも少し強い程度だ。
それでも死に難くはなっているので熊に襲われても仲間を逃がす程度は可能で、もし襲われたとしても俺が駆け付けて始末する事にしている。
しかし今は冬で冬眠の時期でもあるので数は少なく、相手も勝てないと思えば逃げていくので俺が大きく動き始めてからは被害も出ておらず平和な時が過ぎている。
するとそんな生活の中で俺はとうとう人間が暮らす村を発見した。
そして村から一番近くを縄張りとする群れのリーダーを連れて今は偵察に来ている所だ。
「主、この村、襲う?」
「襲うな。もしあちらから襲ってきたら仲間を連れて一時撤退して俺を呼べ。」
「分かった。」
今では俺の群れの数は数百まで膨らんでいる。
それを維持するために食料は必要だけどその為に人間を襲う必要はない。
そんな事をしなくても十分な獲物が居り、縄張り内に獲物が居なくなったとしても他で狩った獲物をシェアできる体制も作り出している。
それにこの時代には海には沢山の食料が居るのでそこまで行けば群れは維持できる。
するとそんな中で村に大きな変化が現れた。
多くの人間が手に松明を持って集まると1つの家を包囲している。
そいつ等の顔はどう見ても正気とは思えず、焦りと恐怖で歪み声を張り上げているようだ。
その声は村の外に居る俺まで聞こえるので少し様子を確認してみる事にした。
「出て来いアン!領主様の所へ行くのはお前に決まったんだ!」
「この周辺全ての村の為だ!観念して出て来い!」
すると扉が開くとそこには15歳くらいと12歳くらいの少女が姿を現した。
もし領主が極度のロリコンでなければアンと言われたのは15歳くらいの方だろう。
しかし俺の予想は悪い方にハズレ、15歳の少女の方が泣き崩れて横に居る少女を抱きしめた。
「ごめんねアン。」
「ううん、良いのお姉ちゃん。私が村の為に領主様の所で頑張るからね。」
「ごめんね。」
そして謝り続ける少女へと村の人の手が伸びて押し退けるとアンの手を取って歩き出した。
その先には馬車が用意してあり、アンはその中へと押し込まれてえいる。
それを見て少女は駆け出して行くけど他の村人に邪魔されて傍に近付く事も出来ない。
「アン!必ず迎えに行くからね!」
「諦めろナディー!領主の城に行って帰って来た娘は居ないんだ。」
そして馬車は走り出すと村からは見えなくなっていく。
するとナディーはその場で泣き崩れ、それを見ていた村人たちも次第に自分の家に戻って行った
すると誰も居なくなった村で彼女は立ち上がるとゆっくりと自分の家に戻っていく。
「主、どうする。」
「お前は群れに戻れ。俺は少し散歩に出て来る。」
「分かった。」
そして連れて来ていたオオカミを先に帰すと、もうしばらく村を観察してみる。
すると家に戻ったナディーは家の中をひっくり返し背嚢に食料を詰め込むと次に包丁やナイフなどを入れたり身につけて行く。
どうやら連れて行かれた妹を助けに行く気の様だけど、周りにそれを止める者は誰も居ない。
それは彼女しか家中には誰も居ないからで両親は既にこの世の人では無くなっているのだろう。
こんな光景を見てしまうと俺としては興味を持たざるを得ないので散歩のついでにそのロリコン領主を確認する必要がありそうだ。
これも俺の群れを危険から守る為の一環であり、決して彼女の妹が攫われたからではないのだ!
でもこのままでは家を見張っている他の連中に止められてしまうだろう。
そうならない為にもちょっとだけ手伝ってやることにした。
俺は村の入り口に向かい大きな遠吠えをしてこちらに注意を惹き付ける。
「ワオ~~~ン!」
すると村に動きがあり、外を歩く者は家の中へと隠れ、ナディーの家を見張っていた奴らは警戒の為に俺の方へと駆けて来る。
これで彼女も無事に村から出られるので、俺はついでなので彼等の武器を確認することにした。
そして、その手には銃が握られており、人種から分かっていたけどここが日本でない事を実感する。
それ以外には鍬やフォークなども持っているので彼女が下手に見つかってしまうと殺されていたかもしれない。
そしてナディーが村から脱出したのを確認すると次に攻撃を受けてみる事にした。
「な、なんだ!この化物オオカミは!」
「こんなの敵う訳がねえ!」
すると武器を持っているくせに俺の姿を恐れて全く襲って来ず、それどころか近くの家に向かい逃げ込む始末だ。
しかし銃を持っていた男だけは威嚇の為に引き金を引いて鉛玉を飛ばして来た。
「これでも喰らいやがれ!『バン!』」
「何かしたか?」
「しゃ、喋った!コイツは悪魔の使いだ!」
そして命中はしたけど俺には全く通用しなかった。
これも何となくは分かっていたけど防御も問題なさそうだ。
ただ、いつもの感じで独り言が漏れてしまい、それを聞いて男が逃げ出してしまった。
人に対して初めて話し掛けたけど、どうやら無事に会話も可能みたいだ。
日本では熊たちと会話が出来なかったけど中身が俺だから違うのかもしれない。
まあ、その辺の事は分からないけど今後は独り言に気を付ける事にしよう。
そして俺はナディーを追って走り出した。
今の体長は頭から尻尾の付け根まででも3メートル以上ある。
それに体が大人となってステータスを使いこなせるようになった今なら追いつくのも簡単だ。
俺は空を駆けてナディーに追いつくとしばらくは観察をする事にした。
彼女はどうやら馬車が走った車輪の跡を追っているようだけど、今の寒さは肌を刺す様に低く馬車に追いつくのは不可能と言える。
それに毛布やテントも持っていない状態でどうやって夜を過ごすのだろうか。
周りは森だけど薪は雪で濡れているし火種があっても簡単に火は着きそうにない。
おそらくは感情的な行動なので計画性はなく、完全な行き当たりバッタリのようだ。
そして、しばらく進むと日が落ち始め周囲は闇と更なる寒さに覆われ始める。
このままでは凍死してしまうんじゃないかと思っていると数時間後にはナディーはバッタリと倒れた。
「まさに死ぬ気で走っていたという訳か。」
見ると手足の指には既に凍傷が始まっている様で色が紫色になっている。
低体温症にも掛かっているのか顔も青白く、口も乾いて裂けてしまい血も流れているようだ。
これが唯の旅なら無謀と思って放置するけど妹の為となれば天晴としか言いようがない。
俺は地面に降りると雪を吹き飛ばし、乾かしてからナディーをそこに寝かせる。
そしてその周りを釜倉のような土のドームで覆うと天井には穴を開け、入り口の前には乾いた薪で焚火を焚いておく。
そして、体には回復魔法を掛けると網の上で肉を焼き、鍋には水と牛乳を入れて御粥を作る。
以前に旅館で外人を迎えた時に主食はパンや麦粥だと話していたからこれで良い筈だ。
それに流石の俺も50年以上も訓練すればこれくらいの料理は作れるようになる。
手が使えれば良いのだけど今は無理なので口に咥えたお玉で掻き混ぜている所だ。
そして完成するとそれらを火から避けて俺はナディーの顔を肉球で優しく擦ってやる。
俺の肉球は柔らかいままなので今では妹たちにも大人気なので魅惑の柔らかさを味わうがいい!
『プニプニ。』
「う、う~ん。」
「おい、起きろ!」
「だ、誰?」
すると目が覚めたようでこちらに質問をしてくる。
これは寝惚けているというよりも俺の体毛は真黒なので夜の闇と背後の焚火の炎で上手く見えないのだろう。
なので少し考えてさっき村人の男に言われた言葉をそのまま使わせてもらう事にした。
「俺は悪魔のハルヤだ。お前が力を欲するなら魂と引き換えに力を与えてやろう。」
「あ、悪魔!・・・分かったわ。私の魂はアナタにあげる。その代わり妹を助ける為に力を貸して!」
すると最初は恐れて後ずさっていたけど、すぐに強い意志を漲らせた目で睨み返して来た。
そして呆気なく俺の言葉を信じて魂を差し出すと口にしている。
「しかし力を手に入れる過程でお前の魂は穢れ痛みを伴うことになる。それでも力を望むか!」
「妹が救えるならこの身が業火に焼かれても構わないわ!」
「そうか。ならば受け取るがいい!」
まあ演出はこんな感じで良いだろう。
俺は仲間になりたいと言う申請を受け取りナディーを覚醒させる。
それと同時に彼女は意識を失ったけど一時的なものですぐに目を覚ました。
「これで私は魔女になったのね。」
「しばらくは力の行使は出来ないが俺に従えば立派な魔女になれる。まずは食事をして戦いに備えるのだ。」
「でも妹が・・・。」
「今は食う事が戦いだ。それが終わればすぐに移動するぞ。」
「分かったわ!」
そしてナディーは味わう事無く料理を平らげてしまい、せっかく作ったのにとは思うけど今は非常事態だ。
もうじきさっきの馬車が目的地である城へと到着してしまう。
そこはとある魔物の巣窟になっていて急がないとアンが危険だ。
「俺の背中に乗れ。それとしっかりと掴まっていないと落ちるから気を付けろよ。」
「はい!」
そして俺は駆け出すと少しずつ速度を増していき空へと飛びあがった。
ナディーはそれを俺が悪魔だからと少し驚いただけで流すと真っ直ぐに正面を向いて表情を強張らせる。
「緊張する必要はない。俺が居れば無事に帰って来れる。」
「あなたはそんなに強い悪魔なの。」
「戦いになればすぐに分かる。それよりも到着するから覚悟を決めろ。」
「そんな!?あの距離をこんな短時間でなんて!」
ここまでの距離は20キロはあっただろうけど落とさない様にゆっくり飛んだとしても数分もあれば十分だ。
「さあ、ハンターの時間だ。」




