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216 1つの終わりと始まり

良質な木材を安定して手に入れられるようになり、家造りは一気に加速した。

とは言っても俺達が住む家は表側だけなのですぐに終了している。

その代わり今しているのは厳島神社の修繕だ。

あれから平和になり皆が暇になった事で何かやる事は無いかと言う事でこうなってしまった。

別にそれだけが目的ではなく、ミズメが大工にハマってしまったのが大きい。

レベルが100となったステータスだと常人を遥かに超える能力もあるので修繕しながらそこに使われている大工としての技も盗んでいる。

何でも神社が終われば次は診療所も作るそうだ。


最近はここを訪れる参拝者を治療していて、その中に混ざっていた商人から口コミで噂が広がり始めているらしい。

なんでも十分に人が増えれば渡し船も考えているそうだ。

そしてミズメの最終目標はここに旅館を作る事らしい。

いつになるか分からないけど今の速度から見て遠い未来の事ではないだろう


俺達は周囲の道を整えたり、桟橋を治したりと今日も元気に仕事をしている。



そして、そんな事をしていると数年は瞬く間に過ぎて行った。


「ミズメのお腹も大きくなったな。」

「そうね。こうして赤ちゃんがお腹に居ると昔が嘘みたい。あの時は辛い事がいっぱいあって大変だったけど、そのおかげでアナタに会えたのよね。」

「そうだな。」


ミズメのお腹の赤ちゃんは俺の最初の子供になる。

他にハルカとクレハも妊娠してるけど、そちらはまだそんなに大きくない。

生まれるとしてもあと半年は先になるだろう。

ミズメはもう少しで生まれそうなので俺が傍に付いてその時を待っている。


ちなみにツバサさんの所は既に子供が生まれている。

一般の初産とそれほど変わらないらしく、かなり痛いそうだ。

回復魔法やポーションは赤ちゃんが生まれるまでは使わない方が良いのでミズメには頑張ってもらわないといけない。


「ねえ、ハルヤ。」

「どうしたんだ。」

「・・・始まったみたい。」


そう言われて下を見ると確かに濡れて破水しているようだ。

ただ、現代でアイコさんと出産に立ち会った時の知識からここからすぐに生まれてくるわけではない。

少しずつ出口が広がり何時間もかけて生まれる。

だから落ち着いて・・・落ち着いて・・・。


「あ~~~緊張する~~~!」

「落ち着いてハルヤ。今はそんなに辛くないから。予定通りに皆を呼んできて。」

「ああ。分かった。」


そして皆に声をかけて決めていた仕事を分担して行く。

妊娠しているハルカとクレハはミズメの近くで見学をしながら見守っていてもらう。

2人とも出産経験が無いのでここでしっかりと見て参考にしてもらわないといけない。


そして数時間するとミズメの力む声が広がり出産が始まった。

赤ちゃんは本当にゆっくりと産道を通って移動し、僅かに頭が見え始める。

こうして見ると赤ちゃんが生まれる瞬間は人体の不思議を感じさせてくれる。

その後、出産は無事に成功して赤ちゃんを産湯で洗いながらミズメにはアケとユウが回復魔法をかけている。

すると体の状態が元に戻り落ち着いて来たのか起き上がって俺の横に並んだ。


「私にも洗わせて。」

「ああ、気を付けてな。」

「うん。」


実際は浄化を使えばこんな手間は掛からないのは分かっている。

でも以前なら無駄に思えた事でも今なら必要な事に思える。

こういった1つ1つの思い出が家族の絆を深めていくんだな実感する。


「私も早く産みたいな。」

「私も早くハルヤさんの赤ちゃんを抱きたいです。」


すると横で見ているハルカとクレハが羨ましそうな顔で言ってきた。

そんな2人にミズメは母親の顔で笑みを返し、洗い終わった赤ちゃんをタオルに包んだ。


「はい。あなた。」

「なんだか自分の子供を抱くってのは不思議な気分だな。」

「これからたくさん生まれて来るんだからしっかりしてね。」

「そうだな。まずは名前を決めないといけないな。」


名前の候補は沢山ある。

今回は女の子が生まれているので考えていた名前から選ぶのだけど、どれにしようか悩んでいる。


「あなたはこういう所が優柔不断なのよね。それなら私が決めてあげるわ。」

「それなら任せようかな。良い名前を頼むよ。」

「それじゃあこの子の名前は・・・アズサにしましょう。私のミズメって言うのはアズサって言う木の別名なの。だから最初の子にはアズサって付けたかったの。ダメかな?」


俺はミズメの急な提案に呆然となりながらもなんとか頷きを返した。

まさかここでアズサの名前が出て来るとは思わなかったからだ。

それでも俺は今も現代に居るアズサの事を忘れた訳では無い。

その前世であるミズメを幸せにしても、その先でも幸せにするつもりだ。

でもアズサという名前は俺にとっては特別で絶対に幸せにしたいと思え相手でもある。

だから現代のアズサには少し悪いかもしれないけど、この子にもその思いを注いでやりたい。


「良いと思うぞ。ならこの子は今日からアズサだ。」

「ええ、この子はアズサよ。これから一緒に幸せにして行きましょ。」

「ああ。」


俺はそう言って強く頷くとこの時代に来て初めて涙を流した。

もう流す事は無いかとも思っていたけど、俺の心も少しずつ治ってきているのかもしれない。


そして俺達はその後もこの地で幸せに暮らした。

子供もたくさん生まれ、俺達の傍から健やかに巣立って行った。

幾人かは残ったけどその子達は一緒にミズメの作った旅館の経営を手伝ってくれている。

後奈良との約束も果たして1人は嫁として迎えてもらい、中には九十九で店長をしている者もいる。

そして俺は最後まで生きて皆を見送った。

最初にハルカが逝き、次にミズメが逝ってしまった。

その後にもルリ、ヤマネと続き、最後にアケとユウが揃って逝ってしまった。

神であるツクヨミとユカリは歳を取らず、クレハは肉体が滅んでも魂は神使としてちゃんと生きている。

だから寂しくないと言えば嘘になるけど最後に俺も3人と子供たちに看取られながら息を引き取った。


これで俺がこの時代で出来る事は全て終わった。

あの戦いでの生き残りも既に残っておらず、あの世へと旅立っている。

だが俺も次の試練を受ける為に向かわないといけない。

この時代に来て80年の時が過ぎているので現代に追いつくまで400年もない。

急がないと間に合わないかもしれないと僅かに心が焦っている。


「ツクヨミ、ユカリ。皆の事は頼んだからな。」

「はい。またあちらで会いましょう。」

「任せるのじゃ。」


2人には既にここ以外にもミズメが社を作っている・・・と言うよりも作ってしまった。

俺も手伝ったので何も言えないけど、現代で言う所の広島市内に一つと、俺の地元に一つ。

市内がツクヨミで俺の地元がユカリの住まいになる。

ちょっと立派に作り過ぎたけど現代になるまで残ってる事を期待している。

どちらも大戦で焼け野原にされた所なので少し心配だ。


「ここはクレハに頼むな。」

「はい。私はここで子孫と一緒にアナタの帰りをお待ちしております。」


ちなみに3人の産んだ子供は神ではなく人間だった。

僅かに影響を受けていて普通よりも少し能力が高かったけど誤差の範囲だ。

ちゃんと歳を取って老化もしていたので俺と同じ様に寿命で死ねるだろう。


そして俺は何かに引き寄せられる感覚を感じるとそこへと向かって行った。

すると目の前に穴が開くと、そこへ魂が吸い込まれて行く。


「これが地獄に落ちるって感覚なのか?」


なんだかウオータースライダーに乗ってる気分になりクネクネしたパイプの中を進んでいるようでちょっと面白い。

そして、それを抜けると川があり、俺はその手前で白い衣を纏って立っていた。

どうやらここが三途の川と言う所のようで周囲では多くの人が川に向かって歩いており、それらを鬼たちが選別し3つの集団へと分けている。


その集団の1つは川に掛かっている橋へと誘導されているので、きっと彼らは生前の行いが良かった者達だろう。


そして残り2つの集団は川の中を歩かされている。

ただ、片方は腰くらいまでの深さしかないので苦もなく渡れているようだ。

もう片方は必至に泳いでいるけど中には溺れて岸にまで戻される者も居るのでかなり大変そうだ。

それにあちらは明らかに何か潜んでいる気配を感じ、溺れているのはそいつ等に進路を妨害された奴らだ。


しかし俺はそこから90度ほど視線を逸らして川の下流へと視線を向ける。

そこでは多くの子供たちの鳴き声が聞こえ、指先をすり減らしながら石を積んでいる。

どうやらあそこがルリの居た賽の河原で間違いなさそうだ。

子供たちの周辺では金棒を持った鬼たちが歩き回り、せっかく積んだ石を押し倒している。

その度に子供たちは泣き声を上げ、それを見て鬼たちも辛そうに顔を歪めているのが見える。


どうやらあれは鬼たちにとっても辛い仕事の様だ。

てっきり楽しそうに仕事をするクズの集まりかとも思っていたけど、やっぱり直に見ると印象が変わる。

それにしても太陽は無いけど空に見える穴のような光は何だろうか?

ちょっと気になるので三途の川で仕事をしている鬼に聞いてみることにした。


「ちょっと聞きたいんだけどあの光りは何なんだ?」

「ん?ああ、あの光りか。あれは天国からの光だよ。時々あそこからお釈迦様が蜘蛛の糸を垂らしてくださる。まあ、登れた奴は居ないけどな。」

「そうなのか。ありがとう。」

「お、おい。お前は川に行かないのか。」


かなり親切な鬼だったみたいで良い事を教えてくれた。

俺は少し体を動かすとスキルが使えるかの確認をしてみる。


「問題なしか。」


俺はスキルが使える事を確認すると『シュワ!』と空へと飛び上がった。

そして簡単に穴へと到着するとそこから頭を半分出して向こう側を覗き込んでみる。

するとそこには満開の花畑があり、確かに天国に繋がっているみたいだ。

しかし俺はここに用は無く、あるのは地獄に居る十王の1人である閻魔大王だ。

俺は顔を引っ込めると再びさっきの鬼の所へと戻って行った。


「ただいま。」

「お前正気か?普通はあそこから上がれれば天国確定なんだぞ。」

「いや、天国に興味ないし。用があるのは閻魔大王だから。」

「あ、ああ。まあ、お前が良いなら良いけどよ。それじゃあお前はあっちの道を行け。」

「分かった。」


そして俺は鬼から一番険しい場所を言い渡された。

どんな理由があろうと他者を自分の都合で殺しているので当然だと思える。

正義の為と言っても殆どが俺のエゴでしかないので、それを贔屓するほど地獄も甘くはないだろう。

逆にそれを許容するなら俺の方から物申さないといけない所だ。


俺は一団から離れると場所の空いている上流へと向かって行った。

さっきまでの所は怖気付いて足踏みしている奴が多くて川に入るのも難しいからだ。

どうせ歩かないといけないのは変わらないので俺は軽い足取りで川へと踏み出した。

ただし歩いているのは水面で足の裏が濡れているだけだ。

一応はこれも罰の1つなのだろうから少しくらいは濡らさないといけないだろう。

もしこれがアトラクションゲームの罰ゲームなら甘んじて全身が濡れても良いかもしれない。


しかし、ここに潜む奴らは俺が水面を歩く事が気に入らないらしい。

奴らの殆どが俺の下に集まり水中を周っているので次第に渦が出来始めている。


「野郎ども!兄貴がアイツ等を引き付けてるうちにとっとと渡りやがれ!」


すると横の方で声を張り上げている奴が居たので気になってちょっと視線を向けてみる。

俺の事だろうけど兄貴と言っているのでもしかしたら知り合いかも知れない。


「ああ、アイツまだ生きてたのか。」


するとそこには青龍の元メンバーであるダイゴが川に入って足踏みしている奴らを鼓舞して誘導をしていた。

それにしても俺とはそれなりに年齢差があったのにアイツは90歳以上は生きいたって事になるので、この時代ならかなりの高齢と言っても良いだろう。

なんだか姿は若返っても貫禄が身に付いているので他の奴等も従って川を渡っている。


「それなら俺の方は少し遊んでやるか。おい、そろそろ出て来たらどうだ。」

「ケッケッケ!ここを素通り出来ると思うなよ。」

「我らはここで働く河童3人衆。」

「誇りにかけてもお前のような奴を通す訳には行かねえ。」


まさか日本でも有名なUMAである河童が見られるとは思わなかった。

もしかして人魚もここでバイトしていないだろうか?

俺はスキルを使って水面下を覗き込み他にどんな奴が居るのかを見てみる。


「・・・居た!マジで人魚が居たよ!」

「おのれ我らを無視するとは生意気な奴め!」

「我らの怖さを知らないと見える!」

「くらえ、緑の三連ガッパ。ジェッ〇ストリー〇アターーーク。」


すると3匹は見事にシンクロした動きで縦一列となって向かって来る。

これならシンクロナイズドスイミングでも上位入賞間違いなしだ。

ただし、これは1匹を躱しても次の奴が襲い掛かって来る陣形だろう。

しかし1つだけ心の中で忠告しておこう。


(俺はマップ兵器を実装しているぞ。)

「咆哮波~~~!」

「た、退避~!」

「ここはビッ〇バ〇アタックで押し返すしか!」

「そんな事よりもこれ逃げないとヤバい奴だろ!」


そして河童たちはそうこうしている内に咆哮に上半身を貫かれその振動で頭の皿が割れてしまった。

するとまるで力が抜けた様にその場に仰向けに浮かぶと川の流れによって流されて行ってしまう。


「峰内だから大丈夫だろう。死んではいないみたいだし途中で誰かが気付いて回収してくれると思おう。」

「ねえねえ、あれって峰内があるの?」


するといつの間にか俺の傍に来ていた人魚が顔を出して声をかけて来た。

下半身は魚だけど上半身は人の体で美しく、地獄には不釣り合いに見える。


「まあ、仕様ってやつだ。それでお前は俺を邪魔するのか?」

「そんな事出来ないわよ。どうせ渡らせないのが仕事じゃないんだから勝手に行けば良いんじゃない。」


確かに渡らせないのが仕事ならここは誰も渡れないよな。

しかし、どうやらもう一匹ヤル気な奴が残っていたみたいだ。


比丘尼ビクニ!なんだその男はー!」

「何よ、しつこいわね。私が誰と話しててもアナタには関係ないでしょ。」

「おのれビクニを誑かしおって!貴様は100回殺すまでここを通さんぞー!」


そう言って水面を突き破って現れたのは大きな海坊主だ。

なんだか地上で見れなかった妖がここでは普通に居るので妖怪ランドかと勘違いしそうになる。

何やら痴情の縺れと言うか態度からして明らかに片思いだろうけど俺を巻き込まないで貰いたい。

それともこれがこの比丘尼と言われた人魚の手法だろうか?


「もう1度確認するけど、お前は敵じゃないんだよな?」

「も、もちろんよ。私はこう見えても地上に居た時は800年も尼をしていたのよ。嘘なんてつかないわ。」


と言うことはコイツが有名な八尾比丘尼か。

実物が見れて良かったけど尼なら服ぐらいは着れば良いのに。


「それなら服くらいは着てから仕事しろ。そんな格好だから変なのに追いかけられるんだよ。ほら、タオルくらいは貸してやるから。」

「あ、ありがとう・・・。」


俺は膝を折ってビクニの肩に大きめのバスタオルを掛けてやる。

水着を渡せれば良かったんだけど流石にそれは持っていない。


「うおーーー!人間の分際でビクニに触れるとは許せーん!」

「よく見ろよ。指先1つ触れてないだろ。周りが誤解するから変な言い掛りを付けるな。」

「許さん、許さんぞーーー!」


どうやらコイツは人の話を聞かない類の妖みたいだ。

しかし、なんでこんなストーカーみたいな奴が賽の河原の傍で働いてるんだ。

どう見ても子供の教育に悪いので閻魔(地蔵菩薩)に会ったら十言ほど物申してやろう。


「そんなに指先が気になるなら俺が本気で触れればどうなるか教えてやろう。」


俺は指を立てると海坊主の直前まで移動しその額に指を突き立てる。


「フォアータタタタタタタ!」


そしてある星座の形になる様に連続で突きを放つとビクニの許へと戻って「フッ」と息を吹きかけた。


「あ、があ・・・あべしーーー!」


そして、その直後に海坊主は額から血を噴出して倒れ巨大な水飛沫を立てる。

すると河童と同様に川に流され次第に遠ざかっていった。

ただ、あちらは水深の浅い所があるので適当な所で引っ掛かれば鬼たちに救助されるだろう。


「さてと。邪魔者も居なくなったから川を渡るか。」

「それなら端まで私が手を引いてあげるわ。」


そう言って手を掴んで来るけど俺には必要ない。

ただ、善意を無駄にするわけにはいかないので俺はスキルを切って水に落ちた。


「何をしてるの?」

「手を引いてくれるんだろ。あの位置は少し高いからな。」

「フフ、どうしてアナタがここに回されたのかしらね。」

「悪い事を沢山したからだろ。」


そして俺は笑顔のビクニに手を引かれて川を渡り切った。

なにやら周囲からの視線が変だけど、もしかすると地獄とはこういう所なのかもしれない。

俺は服から水を飛ばして軽く乾かすと手を振って見送ってくれているビクニに手を振り返した。


「縁があったらまた会おう。」

「その時は私から会いに行くわ。」


きっとストーカーを退治したお礼に次も三途の川を渡る時には手伝ってくれるのだろう。

俺はビクニと三途の川に背を向けると鬼の誘導に従って次へと進んで行った。


後にこの海坊主は今回の事がきっかけで罪に問われ、地獄の1つに落とされたと教えてくれた。

現代ではストーカー法があるけど、どうやらその行為自体はこんな昔から行われていたみたいだ。

悪の芽に早く気付いて被害が出る前に解決できて良かった。

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