212 邪神が封印された世界で ①
俺は八咫烏に連れられて再び黄泉の空を飛んでいる。
すると以前まであった桃園が姿を消し、広大な荒野が目に飛び込んで来た。
「てっきり地面は消滅していると思ってたけどな。」
あの時の攻撃は月まで届いていたので最低でも地球と同じくらいの面積は消失してると思ってた。
まさに世界を1つ丸々消し去るだけの威力があったと思ったけど、見える範囲で異常は無さそうだ。
「ここは神が完全管理をしている世界なので、どんなに壊しても次の日には元に戻ります。それよりもあの攻撃から逃げる方が大変でした。八咫烏たちが総出で避難を助けてなんとか犠牲者を出さずにすみましたが。」
「それは大変だったな。」
「そうですね。」
分かったから俺の魂に爪を立てるのは止めてもらいたい。
強度は変わらずにあるみたいだけど少し擽ったい感覚が伝わって来る。
「それで桃の木はどうしたんだ?」
「桃は後から鬼たちが植えた物ですから世界が再生しても元には戻りません。ですから最初から少しずつ植え直している所です。」
「そういえばスサノオも後始末がどうとか言ってたな。」
「あの方もここの桃は好物でしたから手伝ってくれていますね。地獄から亡者も貸し出されているので数年で元に戻るでしょう。」
しかし眼下に見える範囲の全てにおいて草木の無い大地が広がっている。
これが本当に数年で元に戻るのかが疑問だけど、ここに住んでいるであろう八咫烏が言うなら問題ないのだろう。
そう言えば今日は良く揺れて捕まれ心地が悪いので、もしかして車検の時期が来ているのか?
「車検とはよく分かりませんが私はカラクリではありません。連行中の雷神様のせいです。」
「エクレが?」
言われてそちらを見てみるとまるでバイブレーションの様に体を震わせていた。
それに両腕を掴まれて運ばれる姿は警察に捕まった犯罪者の様に見えなくもない。
しかし、あの顔だと連行先は牢ではなく絞首台へ直行しているようだ。
ただ、いつかは向き合わないといけない問題なので、今の内から無関係を貫いておく方が最善だろう。
そして屋敷に到着するとここの建物だけはちゃんと修復されている。
壊れた所を見ていた訳では無いけどあの状況なら確実に消し飛んでいるはずだ。
するといつも案内をしてくれる女性ではなく黒い帽子とベールで顔を隠した白髪の少女が現れた。
その少女は俺達に軽くお辞儀をすると八咫烏に解放された俺達の許へとやって来る。
そして俺を両手の掌で掬い上げる様に抱えるといつもの通路を歩き始めた。
「こちらへどうぞ。」
「は、ははは!・・はい!」
まだイザナミ様本人を目の前にしていないのに既にエクレは恐怖から歯が噛み合っていない。
カチカチと硬質な音が静かな廊下に響き、次第に巨大な扉が見え始める。
俺は抱えられている状態から上を覗き顔が見えないか視線を向けてみる。
すると口元が僅かに見えるけど、なんだか笑っている様に見える。
そして到着と同時に扉が自動で開き俺達は中へと入っていった。
そこには以前と変わらず玉座のような立派な椅子があり、イザナミ様が座って頬肘をついている。
その前には椅子と台が置かれ、俺達はそこへと向かって行った。
しかし、こちらの台は木製で光沢もある立派な花台なのに、椅子の方は廃校寸前の教室にある様なボロボロの木の椅子だ。
あれでは座った途端に壊れてしまうんじゃないかと思えて来る。
そして少女は俺を花台の上に置くと魂の側面を優しく一撫でして下がって行った。
誰かは知らないけどとても優しい感じが伝わって来る。
そしてエクレの方を見るとやはり座るかどうかをかなり悩んでいるようだ。
するとその姿にイザナミ様は笑顔を浮かべて首をしゃくってみせる。
「座りなさい。」
「は、はい!」
そしてエクレはイザナミ様の言葉で反射的に椅子へと座った。
・・・かに見えたけど、よく見ると僅かに腰が浮いているのでこれは空気椅子という奴だろうか。
きっと俺には分からないけど、さっきの言葉の前半には「壊さずに」という意味があったに違いない。
そして、その様子にイザナミ様は笑みを深めると軽く手を打って合図を送った。
「『パン!パン!』あの子にアレを。」
「畏まりました。」
そう言って現れたのは何時もの女性だ。
彼女は空気椅子中のエクレに歩み寄ると異空間から石のブロックを取り出し、足の上に積み上げていく。
「グホ!ちょ、ちょっと待って姉さま!」
「問答無用。」
「ゴホ!ガハ!待って!お、重すぎる。」
「言葉が出るとはまだまだ余裕ね。」
そう言いながら100キロはありそうなブロックを10段まで積み上げた。
ただ、エクレの余裕の無さからすると見た目よりも遥かに重いのかも知れない。
既にその顔には余裕は無く、全身がプルプルと震えて今にも下半身が潰れそうな軋みを上げている。
来て早々にこれだと確かに逃げ出したくなるのも分かる。
「それでは話に入りましょうか。」
「そうしてください。」
「まず、この姿を見れば分かると思いますが私はとうとう復活を果たしました。」
『パフパフパフ!ドン!ドン!ドン!』
するといつの間にか現れていた女性たちが太鼓やラッパなどで効果音を付けている。
そう言えばさっきの女性はエクレに姉さまと呼ばれていたけど、彼ら6人も顔立ちが少し似ているので8人姉妹なのだろうか?
まあ、長い時間を生きていれば100人姉妹が居ても驚く事じゃないかもしれないな。
ただ、ここでお祝いの言葉を言わないのも何なのでエクレに変わって俺が言っておこうと思う。
「それはおめでとうございます。それでこれからどうするのですか?」
「まずは夫を殴り倒しに行こうかと思っています。」
そう言って拳を握り締めると血管を浮かび上がらせながら笑顔を向けて来る。
(あ、この話題は触れちゃいけない奴だ。)
俺は咄嗟にそう感じ、話題を別の方向へと逸らす事にした。
「それで、俺はこれからどうすれば良いのでしょうか?」
「そうでしたね。あなたにはその事で来てもらったのでした。アレを持って来なさい。」
そう言ってイザナミが声をかけると姉さまと呼ばれていた女性が黒い木の箱を持って来る。
彼女はその箱の蓋を開けて中を見せるとイザナミが頷くのを確認してからこちらへとやって来た。
「それは邪神封印の報酬です。しっかりと役立てなさい。」
そう言ってすぐ横へと箱が置かれ俺にも見える様に蓋が開けられる。
するとそこには俺の良く知る物が入っていて驚きが思考を駆け抜けた。
「これはもしかしてあの時に落とした俺の足!?」
「そうです。実は私が夫の所に行くにあたり、万全な状態で行きたいと思っています。ですからあなたに貸し与えたその子を返却してもらう必要があるのです。」
「もしかして、あの時のあれは俺にコイツを使わせるための口実ですか?」
「その通りです。少しは役に立ったでしょ。」
「それなら・・・このお仕置は・・・いったい・・・。」
すると何故お仕置を受けているのかとエクレから苦しそうな声が聞こえる。
確かにその通りで最初から計画がされていたのは間違いのない事実だろう。
しかし、それとエクレが禁句を口にしたのは別の話だ。
エクレには俺の思考を読む程の余裕は無いけど、イザナミ様は俺の思考を呼んで頷きを返して来る。
「アナタの言う通りです。ただ、この子が居ないと私も全力の半分も出せません。それだと夫に逃げられるかもしれないので念の為です。」
「あれで本気ではなかったのか!?」
「もちろんですよ。あれだってかなり力を抑えていましたからね。全力でやるとこの空間が崩壊して消えてしまいます。」
本当に恐ろしい女神様だな。
今後も怒らせないように注意しよう。
敬いの心・・・敬いの心・・・。
「それではあなたへの報酬の話は終わりです。今後の話に入ります。」
「お願いします。」
足は手に入れたけどこのまま生き返っても良いのかが分からない。
本音を言えば蘇生してここから逃げてでも地上へ行きたい。
しかし、そうなればエクレはお仕置を終わらせるために嬉々として俺を追って来る。
下手をすればイザナミ様も遊び半分に加わるかもしれない。
今の俺がここから無事に帰る為にはどんな要求にも首を縦に振る以外に道は無いだろう。
それに代償の事も気になるので逃げる訳にもいかない。
「僅かな時間にその子の事を良く分かっているようですね。」
「色々と苦労しましたので。」
「それではあなたに最初の試練を与えます。」
「試練ですか?」
もしかして代償を支払うのはもう始まっているのだろうか?
どんな試練が待っているのか分からないけど、生き返っても皆を巻き込まない様にしないといけない。
「それでは告げます。あなたへの試練は子孫を残す事です。」
「は?・・・子孫?子孫って言ったら子供の事ですか?」
「その通りです。ただし、10人以上残しなさい。それが出来ない場合は代償を払ったとは認めません。」
しかし、ミズメに10人も生んでくれというのは大変だろう。
世話の問題もあるし若いといっても体への負担もある。
1人か2人ならともかく、そんなに苦労は掛けさせたくない。
「それとこちらから指名した者とも結婚してもらいます。これがそのリストです。」
すると紙が渡され追加の指示を言われてしまったけど、今はリストを見れないので悩むのは後にしよう。
それよりも早く皆の所へ帰りたいので話を進める事にする。
どうせ拒否権が無いので何を言っても時間を無駄にするだけだ。
「そういえば結婚するだけでも良いのですか?」
「子供の件は別とします。結婚相手に関しては本人の希望や派閥やらがあって大変なのです。それに知らない相手と急に結婚させる訳では無いので安心しなさい。」
そうなると知り合いか顔見知りの誰かだろうけど、この時代にあんまり知り合いはいないので思い当たるのは・・・ドウコだけは勘弁してください。
俺は恐怖に魂を震わせると心の中で「早く人間になりた~い!」と雄叫びを上げた。
「それとあなたが次に死んだ後になりますが、第2の試練は閻魔大王からのものになります。」
「閻魔・・・もしかして・・・。」
「ええ、地蔵菩薩とも言いますね。彼はアナタが死ぬのを首を長くして待っているそうですよ。」
もしかしてあの時の仕返しでも考えているのだろうか?
でもこちらも用があったので丁度良いので生き返ったら各地にある饅頭を手土産にしてやろう。
それとも各地の閻魔を祀る寺に大量の饅頭を奉納してやるか。
そうすれば俺が饅頭を持って行った時は更に効果が高まるかもしれない・・・クックック!
「何やらおかしな事を考えているようですが楽しそうで何よりです。それでは私からの話は終了です。案内を付けるので現世に戻り皆を安心させてやりなさい。」
「今回は本当に助かりました。」
ただし今の良い方だと俺は蘇生薬があったとしても今生では2度と使えない。
次に死ねば地蔵菩薩の所に直行なので寿命で死ねるように気を付けないといけないだろう。
そして再びやって来た黒いベールを付けた少女に連れられてその場を後にした。
「た・・助けて・・・ハルヤ~~~。」
何か背後から聞こえるけど手足の無い俺にどうしろと言うのだ。
動けたとしても歩く速度の半分以下だし、お前の自業自得に俺を巻き込むなと言いたい。
そして少女は出口に到着するとその姿が次第に変わり始めた。
着ていた服は羽に変わり、体は髪の色と同じ白に染まっていく。
「お前も八咫烏だったのか。」
「はい。それに私はアナタの花嫁さんなのですよ。これからよろしくお願いしますね。」
すると八咫烏の口から驚きの真実が告げられる。
そして俺を足に掴んで羽ばたくと、現世に向かって飛び立った。
それにしてもこの声は何処かで聞いた事がある様な気がするけど、もしかしてアイツか?
「その声はクレハか?」
「はい。もしかして私ではお嫌でしたか?」
するとカラスとなって表情は分からなくても、その声からは不安が伝わって来る。
しかし、まさか神使となってこうして再会するとは思っていなかった。
ただ、別に嫌とかではないけどミズメが何て言うかだ。
「もしかしてミズメ達の事を気にしていますか?」
「ああ、子供の事は別にしても結婚して夫婦になると言えばどうなるか。・・・ん?達って誰の事だ?」
「え、アケちゃんとユウちゃんですよ。」
そう言えば2人にもちゃんと説明しておかないとな。
これから一緒に住む相手が増える事になるかもしれないから喧嘩しない様に言っておかないと。
「それならまずはここを出てリストを見てみよう。細かい事はそれからだ。」
「はい!」
どうやら今のところは俺が否定的な事を言っていないので元気を取り戻したみたいだ。
でも他の皆の意見が分からないので、不安を胸に抱きながら現世に戻って行った。
そして黄泉から出てクレハには人型に戻ってもらい、上級蘇生薬を使ってもらうと無事に蘇ることが出来た。
「なんとか生き返れたな。」
「そ、そうですね!それよりも・・・は、早く隠してください!」
そう言えば生き返ったは良いけど今の状態からだと服を着ていない事を思い出した。
だから裸を正面から見てしまったクレハは顔を真っ赤にして帽子で顔を隠してしまう。
でも微妙にチラ見しているのはバレバレなのでそこは突っ込まないでおこう。
もし、お許しが出たら互いに見る機会があるかもしれないからな。
しかし、考えてみると俺は魂の状態だったから気にはしてなかったけど、裸のまま黄泉との往復をしていた事になる。
変な扉は開いていないけど、ちょっと開放感のようなものを感じていた気がする。
そんな事を考えながら服を身に付けると次にクレハへと視線を向けた。
「あの・・どうかしましたか?」
「いや、その服装は目立つと思ったんだ。」
どう見ても巫女服にしか見えないそれで歩き回るのは目立ち過ぎる。
出来れば着替えて欲しいけど変えの服などは持っているだろうか。
「それなら大丈夫です。これは神から授かった特別な衣装なので色々な形に変えられます。」
するとクレハが服に触れただけで薄い水色の着物へと変わった。
裾の所にピンクの花の刺繍があしらってあるので清楚な感じが良く合っている。
「これで良いでしょうか?」
「ああ、可愛らしいな。それなら一緒に歩いても大丈夫そうだ。」
「は、はい!ありがとうございます!そう言ってもらえると凄く嬉しいです!」
そう言って俺の腕を軽く掴んで来たのでそのまま手を取ってやる。
以前に見た時よりも表情が豊かで活力に満ちているけど、運動は苦手そうなのでコケてしまわないか少し心配だ。
「そのままでも飛べるのか?」
「は、はい!速度は出ませんがゆっくりなら大丈夫です。」
そう言えばこうして誰かと空を一緒に飛んだのは初めてかもしれない。
アンドウさんの時は数に入れないとして、なんだか新鮮な感じだ。
その後、俺達は空を飛び天皇の屋敷へと向かって行った。
そして空から見ると町の中は人で溢れ返り、数日後に行われる祭りが前倒しされているようだ。
そのため屋敷には誰も居ない様で仕方なく向かう先を変更する。
そして診療所の方に視線を向けるとそこにミズメ達が揃って夕食を食べているのでそちらへと向かって行った。
しかし、その様子は町の様子とは正反対で暗く、箸もあまり進んでいない。
やっぱり俺が急に居なくなったのは3人にとってショックが大き過ぎたみたいだ。
「行ってあげてください。私もすぐに到着するので。」
するとクレハが繋いでいた手を離して先に行くように言ってくれる。
俺は「先に行く。」と言って手を離すと周囲に被害が出ない範囲で素早く診療所へと向かって行った。
そして真上で停止すると直角に下に飛び降り地面に足を付くと扉を蹴り破った。
「ただいま!」
すると3人の暗い顔が一斉にこちらへとと向けられる。
そして、その目に大粒の涙を浮かべると俺に向かい駆け出して来た。
「お兄ちゃん!会いたかったよ~!」
「もう何処にも行かないでください!」
「もう!帰って来るならそう言ってよね!!」
「ごめん。あの時は本当にもう会えないつもりだったんだ。でも神様が俺の千切れた足を保管しててそれを使わせてもらえたから帰って来れた。」
「ううん。良いの。ハルヤが帰って来てくれただけで嬉しい。」
そう言ってミズメは顔を上げると唇を押し付けてきた。
そして逃がさないと言う様に首に手を回すと体も密着させてくる。
しかし、それを見たアケとユウから抗議の声が上がった。
「ミズメ狡~い!」
「ドサクサに紛れて何をしているんですか!」
「そういうのはダメって皆で話して決めたのに~!」
「これはどう見ても協定違反ですよ!」
するとアケとユウはプンスカ怒りながらミズメを引き剥がすと同時に俺の服を握り締める。
なんだかさっきまでの暗い雰囲気が嘘のような明るさだ。
「2人もごめんな。かなり心配かけて俺は悪いお兄ちゃんだ。」
「そうだよ。だから悪いお兄ちゃんは今日からクビだよ。」
「そうです。この時点で解雇します。」
「えーーー!?」
そうなると俺は2人から絶縁されるって意味だよな!
それとも、もう1度死んで来いと言っているのだろうか!?
「その代わり今日からは私の恋人です。」
「ユウちゃん狡はダメだよ。私達の恋人なんだからね。」
しかし最悪な状況が幾つも頭を過る中でそれ以上の衝撃が耳を突き抜け脳へと届けられた。
更に2人は俺の頬へと揃ってキスをしてくれる。
それは僅かな時間で互いの顔が見える距離まで離れると頬を赤らめながら嬉しそうに笑って見せた。
「私達は今日からお兄ちゃんの恋人だよ。」
「もう離れないから夫婦でも良いですよ。」
「ユウちゃん、それ良い考えだね。」
「そうでしょ。どうせ兄さんは私達に良い人をって思ってるだろうけど、そんな人は居ない事が確定してますからね。」
「そうだよね。前に独り言で自分より強くないとダメって言ってたけど、そんな人が居るはずないよね。」
なんだか2人だけの間で話が盛り上がっているけど俺ってそんな事言ってたっけ?
そう言えばそんな事もあったかもって気はするけど、そうなると思考が口から洩れてたのか。
しかし可愛い妹を他人に任せると考えただけで確かに胸が粉砕機に掛けられている様な気分になる。
「それなら2人の事は10年後に考えるとして、それまでに良い人を見つけて来なかったらもう1回話し合おうか。」
「それなら確定だね。」
「兄さんが納得する人が居る筈が在りません。」
自信満々に言われたけど俺だって10年もすれば少しは我慢できるようになる・・・かもしれない。
しかし無理だったら本当にお嫁さんにする必要が出て来る可能性がある。
「そう言えばハルヤは手に何を持っているの?」
「ああ、これは助けてくれた神様に渡されたんだ。何でも今回の代償として子供を10人以上は儲ける必要があるみたいで、この人たちとも結婚しないといけないらしい。」
するとミズメは俺に近寄ると俺の手から素早くメモ用紙を奪い取った。
これはミズメにも関係がある事なので知っておく必要があり、下手に浮気と誤解されると大変なので最初から隠すつもりは無かった。。
そして書いてある名前を見ると一番最初にミズメと書いてある。
更にその横にはアケとユウの名前がありクレハの名前もちゃんと書いてあった。
それを見てミズメは嬉しそうな顔をしながらも他の名前で溜息を吐き出した。
「みんな旅で会った子達なのね。」
「メモを読んだのは今が初めてだけど一応はそう言われてた。」
ちなみに他のメンバーはゼクウの妹であるヤマネ。
ハルアキラの妹であるルリ。
そして何故かそこには神であるはずのユカリの名前まである。
なぜその名前があるのか分からないけど全員が妹属性であるのは偶然だろう。
俺がいくら妹を大事に想っていると言っても限度がある。
・・・いや、俺に限度は無いかもしれないけど、否定は出来ないけど優しいのは妹だけじゃないぞ。
そして最後の防波堤と言える人物が到着し診療所へと入って来た。
「クレハ教えてくれ!」
「は、はい。急に何ですか?」
「お前には兄か姉は居るのか!?」
今のところ家族構成を知らないのはクレハだけで他は既に誰かの妹であると判明している。
だから姉か一人っ子ならこのメモに書かれている妹だけという仮説が崩せる。
「実家には妹が1人居ますよ。私と違って体が強くて元気な子です。」
「うおーーー!これで俺は・・・!」
「あと、私を邪魔者扱いしていた兄が1人。」
しかし、俺が喜びに両手を突きだそうとした瞬間に無情な現実が突き付けられる。
だが、それよりも俺の中には妹を虐げたそいつへの怒りが湧いてきた。
「良し、そいつは次に会った時にお仕置しておこう。強制収容、強制労働で良いな。フフフフフ・・・は!」
「どうしたのですか?私の家族に何かありましたか?」
俺は既に反射の領域でクレハの兄に制裁を加えようとしている自分に気が付き息をのんだ。
どうやら悪く言えばシスコン根性と言えば良いのか、DNAだけでなく魂にまで刻まれているようだ。
現代から俺の魂がそのまま来てるんだから当然だけど、そんな姿を見せてしまいクレハは心配そうな表情を向けて来る。
「私は組織に身を委ねた時点で死んだことになってますから家族の事は気にしなくても構いませんよ。それに神使として人を止めた時点でそちらの縁も切れたと思っていますから。」
しかし、そんな不安な顔で言われても説得力が無いのはここで聞いている全員が感じている事だ。
だから今の俺が出来るのは新しい家族として迎える事くらいだろう。
「それなら俺達は今から家族だ。みんなも良いよな。」
すると皆も納得してくれた様で頷きを返してくれる。
特にミズメは境遇が似ているからか一番しっかりと頷いてくれた。
「よし!それなら今から家族が増えた祝いに出るぞ!」
「「「お~~~!」」」
「お、お~。」
そしてクレハだけがテンションに付いて来れずに遅れたけど周りを見て続くように声を上げる。
その後、俺達は祭りの露店を周って売られている料理や小物を見て回ることになった。




