211 決戦 ②
こちら側の準備が整うと町から幾つもの人影が飛び出して来た。
ただし、このタイミングで来るのは殆ど限定されている。
もちろんゲン爺さんとモモカさん。
そして広島で少しだけ世話になった白狼鬼の爺さんとレイも居る。
どうやら祭り見物でも来てたんだろうけど運の良い爺さんだ。
普通は運が悪いって言うんだろうけど、レイはともかく他の3人は今までにない程に顔が楽しそうだ。
まるで初めて巨大アミューズメントパークにやって来て一番人気の施設へ駆け出す子供みたいだ。
顔がちょっと凶暴だけどそこは問題ではない。
そして爺さんたちは俺達の傍を駆け抜けると何も情報を聞かずに蛇たちへと襲い掛かった。
「ワハハハハ、力が漲って来るぞ!そりゃーーー!」
「あまりはしゃいでると怪我をするわよ。『サクサクサク』」
「モモカ殿。そんな顔で言っても説得力が無いぞ。ハーーー!」
ちなみにモモカさん以外はもちろん素手だ。
だからかなり危険なんだけど全く問題なく倒していっている。
その殲滅速度は俺達の中でもトップクラスと言うか上位を総なめだ。
モモカさんなんて牙から滴る体液を鬼喰丸で防いだりしているのに溶けるどころか煙さえ出ない。
いったい、あの包丁は何で出来ているのだろうか?
クオナでさえ溶かすというのに現代で見つけたら何処かの研究所で解析してみたい。
そして蛇を気にしなくて良くなった俺とスサノオは再び邪神と対峙した。
しかし、その直後に邪神の表情に厭らしい笑みが浮かぶ。
「余裕が無さそうではないか。それでは護る者も護れんぞ。」
そう言った瞬間に戦闘に関係ない所に一匹の蛇が地面の下から飛び出して来た。
しかし、あそこにはミズメが寝ていたはずで、その証拠に蛇の口には俺の掛けた毛布が引っ掛かっている。
「愚か者め!こんな所に大事な物を置いておくからこういうことになるのだ!さあ、絶望の中で我が糧と成れ!」
そして俺がミズメを見詰めている背後から邪神は襲い掛かって来る。
その手には6本の剣が黒く輝き、余裕の表情を浮かべている。
「・・・馬鹿め!」
しかし俺は油断なんてしていないし、あそこにミズメを残してなんておらず、これは全てコイツを騙すための布石に過ぎない。
ミズメは既にスーパーくノ一のハルカが影移動を使って回収してくれている。
さっき奴が食らい付いたのはダミーの人形(藁製)だ
最初は縫ぐるみにしようかと思っていたけどお披露目の時にエクレが持って行ってしまった。
俺は罠に掛かった邪神を密かに笑うと合図を送り行動に移す。
「今だスサノオ!」
そして俺は攻撃の半分をSソードで受け止め、残り半分は致命傷にならない体の部分で受け止める。
これで邪神にスサノオの攻撃を防ぐ手段は無い。
これこそ肉を切らせて骨を断つだ!
「貴様!どういうつもりだ!なぜ愛する者が死んで動揺しない!グオーーー!」
するとスサノオは俺の合図と共に邪神の背後に回ると左右にある3対の腕を全て切り取って見せた。
それに追い打ちをかける為に俺は奴が手放した剣を体から引き抜きそれを使って地面へと縫い付ける。
そして、そこからはマウントポジションによる滅多刺しだ。
「今迄の恨みを晴らしてやるから観念しろよ!」
「俺も鬱憤を晴らさせてもらうぜ!」
「なら私も横から失礼。」
するとこの最高の場面でちゃっかりアマテラスまで乱入して来た。
何とも最高のタイミングで完全な漁夫の利としか言えないけど今は人手が欲しい。
俺達は再生する端から切り刻み突き刺し燃やすと絶え間ない攻撃を加える。
しかし、それでも邪神の再生に止まる気配は無く、顔にもまだまだ余裕が見えるので、これでは本当に埒が明かない。
そう言えばコイツは誰がどうやって封印したんだ?
「ハハハ・・・ゴヘ!貴様らの攻撃など・・・ガハ!効かんと言っているだろう・・・ブフォ!」
「本当にタフな奴だな。コイツをあの時に封印したのは誰なんだ?」
「俺じゃねーよ。俺は壊すの専門だ。」
「私は頭脳担当ですがそちらは得意ではありません。」
「そういうのは私が担当です。」
すると俺達の傍にツクヨミがやって来て答えとも言える言葉を口にする
どうやらあの時に誰が封印したのかと思っていれば食われたツクヨミが邪神の弱った隙をついて最後の力を振り絞って封印したみたいだ。
しかし、今はあの時に比べれば邪神にもまだまだ余裕がある。
俺達が必死に攻撃して抑えているけど次第に再生能力が上回ろうとしている。
どうやら、力の方向性を全て回復に向けたみたいだ。
「単純に聞くが封印できそうか!?」
「無理です。今の100倍は弱らせないと私では封印できません。」
今の100倍と言うことはどれだけのダメージを与え続ければ良いのだろうか。
蛇なら本当に億に届くかもしれず、それ以前にこの状態も長くは続かないのが明らかだ。
それにアケとユウの強化にも限界がある。
邪神に対して有効なダメージを与えられる者も少ない状態なのにこのままだとコイツのタフさに押し切られてしまう。
「誰か良いアイデアは無いのか!?」
「私なら邪神の完全封印プログラムをインストールしています。」
そう言って巨大化した時に落としてしまったゴーグルが空中を浮遊しながらこちらへとやって来た。
そう言えば現代でハクレイがそんな事を言っていたけど、あちらも弱らせる必要があると説明していたので大丈夫なのか?
「本当に大丈夫なのか?」
「今の状態では私の持つ封印プログラムも限界を超えています。おそらくは500年以内に限界が来るでしょう。しかし、その間に備えが出来るはずです。神側は激戦の傷を癒し、人は世代を超えて強さを磨く事が出来ます。」
するとそれを聞いていたアマテラスが決断を下して頷いた。
どうやら、これが歴史の修正力という奴かもしれない。
結局は現代でコイツと再びやり合う事になりそうだ。
「それでは封印は任せましたよ!」
「分かりました。」
するとゴーグルはアマテラスに答えるとそのまま邪神に向かい自由落下して行く。
それを見て邪神の顔に明らかな苛立ちと怒りが浮かんだ。
「おのれ卑怯者め!勝負に勝てないからと封印するとは神としての誇りは無いのか!」
「「「お前が言うな!」」」
すると傍に居たアマテラスたちの声がハモり、怒りからか攻撃が激しくなっていく。
そのおかげで一時的にダメージが回復を上回り地面へと磔にして動きを封じてくれる。
それにしてもよっぽど今まで大量の煮え湯を飲まされてきたのだろう。
この最大のチャンスに俺も温存していた傲慢の効果を使うと更に力を増大させる。
ただしこれは最後の最後に使うべき能力で大きな制限のある自滅技だ。
今のレベルである125を活動時間として125秒だけ相手の能力を上回る事が出来る。
ただし、その時間が過ぎれば限界を超えた俺の命は燃え尽き、肉体も完全消滅して死ぬ事になる。
俺は地面を揺るがし大地を砕く程の攻撃を加え続け、邪神の肉体にダメージを積み重ねてく。
その代わり俺も体中から血を噴出させ、既にいたる所が崩れ始めている。
「お、おい。大丈夫なのか!」
「ハルヤ!」
「・・・感謝するぞ。」
どうやら時間を引き延ばしていても関係が無いらしく、限界を超えた力に体の崩壊が始まっている。
恐らくは普通の人から見れば数秒にも満たない出来事に見えているだろう。
これでは皆にお別れも出来そうにないので来世で会えることを期待しよう。
そしてゴーグルが邪神に触れた途端に光の柱が天へと突き刺さった。
それは邪神を包み込み、光の触手がその体を拘束して行く。
「全員離れろ!巻き込まれるぞ!」
「おのれ簡単に封印されてなるものかーーー!」
すると最後の足掻きで邪神が激しく暴れ始めた。
それを見て俺は残った時間とボロボロの体を使い邪神を抑え付ける。
「ここは俺に任せて先に行け!」
「ハルヤ!・・・それは死亡フラグという奴じゃ!」
このツッコミはツクヨミの中に居るユカリだろうけど、アイツも我が家でそれなりに毒されていたみたいだ。
しかし俺の運命は既に決まっているので死亡フラグくらいは甘んじて受けよう。
「おのれ人間め!だが我も簡単には封印されたりはせんぞ!我が配下たちよ!世界に散らばり絶望を広げるのだ!」
すると邪神の腰に居る蛇たちが離れ、まだ閉じていない封印の隙間から逃げ出していく。
外で見ていた皆はそれを始末してくれているけど何匹かはその間を擦り抜けて逃走を果たしてしまった。
もしかするとあの内の1匹がフルメルト王国での事件を起こすのかもしれない。
しかし体の殆どが崩れてしまい頭しか残っていない俺には出来る事は何も無い。
もうこの場所から動けない俺は邪神と共に魂が封印されるしかないのだろうか。
そうなれば俺が転生する時期に狂いが出てアズサとも会えなくなる。
流石のイザナミも元となる魂が無ければ願いを叶えられないだろう。
しかし、それでもミズメを守り切ったので未来でアズサが無事に生まれてくれる事に変わりはない。
もしかしたらかなりの齢の差婚くらいは出来るかも・・・。
「大丈夫。あなたの魂には先約がある。私が連れて行く。」
すると背後から声が聞こえ、そちらに意識を向けるとエクレが俺を抱きしめていた。
ただ、抱きしめているのは俺の体ではなく魂の方なので既に体は完全に滅んでしまったみたいだ。
現代で死んだ時には闇に沈む様な感覚しかなかったけど、今回は意識がハッキリしている。
これもあの七つの大罪シリーズという称号を使ってしまった影響だろうか。
そしてエクレは俺の魂を抱えたまま最後に残っている封印の隙間へと向かって行った。
すると外に出る直前に俺はゴーグルの声を確かに聞いた。
「未来でまた会いましょう。その時は私もアナタの仲間に・・・。」
「お前はもう仲間だよ。次は迎えに来るからな。」
「お待ちしております。」
そして俺達が外に出ると同時に封印の隙間も消えてしまい邪神の叫びも聞こえなくなる。
すると光は次第に消えて行くとその場には黒い宝石が残されていた。
それをアマテラスは拾い上げると丈夫そうな箱に収め異空間へと収納する。
「これは封印石と言うものですね。これが壊れると封印も解けてしまうのです。だからしばらくはこちらで保管しておきます。」
魂だけとなった今の俺には関係の無い事だから任せるしかないだろう。
それに人間は500年も生きられないので安全に封印できる間くらいは管理をしていてもらいたい。
どうせ封印が弱まればこの世界の何処かに置いておくに違いないからな。
「それで、俺はどうすれば良いんだ?」
実はあの称号には死ぬ以外の代償が必要となる。
それは今から7度の転生をして力を得たツケを支払わないといけない。
あれだけの力を得る為には一度の人生では払いきれない程の代償を背負うと言うことだ。
ハッキリ言ってどれ程の年月が必要か分からないので早く転生させてもらいたい。
しかし、こんなに意識がハッキリしているとどうすれば良いのかと考えてしまう。
だって今から何処に行けば良いのかも分からないし、気分的には初めて就職の面接に行くような感じだ。
すると困っている俺に力強い声が掛けられた。
「ハルヤの事は私が案内する。今から一緒に黄泉に行こう。」
「でもイザナミがまだ怒ってないか?」
「・・・2人なら大丈夫?」
少し待て・・・今のは明らかに言い淀んだ上の疑問形だったよな。
もしかして俺が逃げられない事を知っていて一緒に謝りに行かそうなんて考えているんじゃあ・・・。
「私達は一心同体。苦楽を共にした仲。」
「確か俺が昼間に仕事してる時は一度も手伝ってないよな。」
コイツは毎日の様にミズメに付いて来ていたけど、いつも奥の部屋でお昼寝をしていた。
だから苦を共にした記憶が殆ど無い。
「私は夜行性。だから昼間は寝るもの。」
「たしか俺が夜に魔物や妖を狩りに行っていた時も毎日寝てたよな。」
「それは気のせい。私は何時もアナタの背中を守って戦ってた。」
「それって夢の中でって事とか言わないよな。」
「・・・。」
するとエクレは急に背中を向けると空を見上げた。
そして「空が綺麗だね」と現実逃避をしている様な・・・いや、明らかに現実逃避をしているセリフを吐き始める。
ただコイツの事はしばらく放置として別の方向に視線を向ける。
「お前等はどうするんだ?」
「私達はしばらく変わる事はありませんよ。高天原に戻りいつも通りの生活です。」
「俺は黄泉に帰らねーとな。お前等がやらかしちまった後始末が残ってんだ。」
「私はユカリと話をしてから決めようと思います。」
そう言って答えたのはアマテラス、スサノオ、ツクヨミの順だけど、やっぱり黄泉は大変な事になっていそうなので出来れば行きたくない。
どれほどの被害が出たのか見に行くくらいは良いかもしれないけど、俺は関係ないので巻き添えで怒られるのは御免だ。
すると戦いが終わり空の魔物も駆逐された事で皆がここに集まり始め、最初に来たのは強化魔法をかけてくれたアケとユウだ。
ここで一緒に戦闘をしていた爺さ達は逃げた蛇を追いかけているので誰も残っていない。
そして2人は俺の傍に来ると下から両手で支える様に触れてきた。
「お兄ちゃん。もしかしてお別れなの?」
「そうだな。体も残ってないから蘇生薬も使えないな。」
あの状態では何も残っていないだろうから、こういう時のために髪の毛くらいは保管しておけば良かったと思う。
最近は布団や枕にもマメに浄化を使って清潔にしていたから何も残っていないはずだ。
「それなら私達も一緒に行きたいです!」
「それはダメだよユウ。俺は皆を生かすためにこうなったんだ。だから2人にはこれからもしっかり生きて欲しい。」
「兄さん・・・。」
人が泣きそうな顔になってしまったけど今の俺には抱きしめる為の腕もない。
覚悟は出来ていたけど体が無いのがこんなに辛い事だとは思わなかった。
「ハルヤ・・・今の話は本当なの。」
「ああ。」
すると影移動でここに来たハルカと一緒にミズメも現れた。
無事なのは確信していたけどやっぱりこうして無事を確認できるとホッとする。
「もしかして私のせいなの?」
「それは違うよ。今回の事は誰かが死という運命を引き受ける必要があったんだ。だからミズメのせいじゃないから安心しろ。むしろ全ての責任はそこに居るアマテラスにある。」
コイツが俺達を信じてもっと協力的だったならこの未来は回避できたかもしれない。
情報を開示して計画的に動けば土壇場で色々とする必要もなかった。
「心に刺さる事を言うな~。ある意味では私も被害者なんだけど。」
「お前は妹が助かったから良いけどな。未来では少しは反省しろよ。邪神との再戦は確定してるんだからな。」
「そうさせてもらさ。それじゃあ私はこれで。」
そう言ってアマテラスは都合が悪くなったからか逃げる様に消えて行った。
仕方なくここは一番効果がありそうな人物に奴の事を頼んでおくしかない。
「ツクヨミ。アイツにしっかりと言っておいてくれ。」
「分かりました。こちらは任せて下さい。」
そう言ってツクヨミも消えてスサノオも「あばよ」と言って消えて行った。
あれで未来を任せて大丈夫かと不安になって来るけど、500年もあればどうにかすると信じるしかない。
「それじゃあ。俺はそろそろ行かないとな。お前等とは来世で会えるようにしてもらってるからまた会おうな。」
「お兄ちゃん・・・。」
「兄さん。」
「ハルヤ・・・2人の事は任せて。しっかりと面倒を見るからね。」
「ああ、お前にしか頼めないからな。それとハルカも頼んだぞ。」
「うん・・・。」
そして、後ろで静かにしているハルカにも声をかける。
彼女も目元が赤くて今にも泣き出しそうだけど、きっと俺の大事な人を守ってくれるはずだ。
今はそれだけの信頼をハルカには向けているので、そうでなければあの場面でミズメを任せるはずは無い。
「そろそろ行くぞ。まずは黄泉なんだろ。」
するとエクレは珍しく起きている時に笑顔を浮かべると俺の許へと戻って来た。
お別れも終わらせられたのでこの時代に悔いはない・・・と言えば大ウソになるけど、さっきまでに比べれば落ち着いた気分で逝く事が出来る。
「ハルヤは意地悪。最初からそう言えば私の心は平穏だった。」
「どっちみち怒られるのに変わりはないだろ。一緒に怒られてやるから今から向かうぞ。」
「うん。そう思って案内を呼んである。」
すると空から大きな影が舞い降り、そのまま俺とエクレを掴むと空へと上がって行った。
どうやら既に八咫烏を呼んでいたらしく、今ではタクシー代わりに使っているけど良いのだろうか?
「これも八咫烏の仕事の1つ。この子達は何処からでもあちらに行く事が出来る。」
「そうなのか凄いな八咫烏は。」
「しかし、こんな頻繁に人を運ぶのはアナタくらいですよ。きっとイザナミ様も喜ばれるでしょう。」
「そうだと良いけどな。」
俺は運ばれながら若干の不安を胸に・・・胸は無いけど。
感じながら黄泉へと運ばれて行った。




