206 診療所 ③
俺は周囲を浄化して子供たちには回復と解毒の魔法をかけながら蒸したサツマイモを取り出した。
「これを食べながら少し待ってろ。」
「は、はい。。」
「き、気を付けてください。」
するとこんな状況なので彼女達は不安そうな表情を浮かべている。
こういう時は何もしないでいるよりも何かをしていた方が気は紛れるだろう。
「すぐに戻るから子供たちを起こしておいてくれ。」
「「はい。」」
俺は2人の女性に指示を出すと出口の方へと向かって行った。
すると扉に突き当たり、手で押しても鍵が掛かっていて開く気配はない。
とは言っても鉄でできている訳では無く、太い木材を使って頑丈に作ってあるだけだ。
普通の人間ならビクともしないだろうけど俺ならデコピンでも開けられる。
ただし1つ目の扉に関してはもしもの時を考えて残しておきたい。
なので扉を大破させない様に鍵の部分だけを刀で切り裂き扉を壊さない様に突破する。
そしてその前に土魔法で段差を作り扉が開け閉めできない様にしておけばあの中は安全地帯になり入れ違いに敵が来ても大丈夫だ。
「ここからは遠慮しなくても良いよな。」
俺は歩き出すと扉を粉砕しながら上に向かって歩いて行く。
ちなみにこの上は大きな家になっていてそこには15人程の男達が待機している。
そこでは数人の女性が乱暴をされているけど俺が扉を破壊する衝撃に気付いて素早く動き始めた。
場合によっては生かしてやろうかとも思っていたけど今の俺は少しだけ機嫌が悪い。
既に奴らの仲間を1人引き込んだので皆殺しにしても良いだろう。
そして最後の扉を粉砕するとそこには武器を持った男達が待ち構えていた。
逃げた者は誰も居らず、逆に音のしない笛を吹いて仲間を呼び集めている。
その数は今の5倍に相当し、もうじきここに到着するだろう。
すると時間稼ぎのつもりなのか男達は刃物をチラつかせながら話しかけて来た
「どうやってここまで上がって来たか知らねえが逃げられると思うなよ!」
「テメーをお頭に届けりゃあ、たんまりと報酬が貰えるんだからな。」
俺の記憶が確かなら伊賀の里はアンドウさんが既に潰しているけど、統領を取り逃がすという大失敗を犯している。
あの人にしては珍しいけど今も行方を捜索中で多額の懸賞金も掛かっているはずだ。
「な、なんだテメー!なぜ笑ってやがる!?」
「この数に勝てると思ってるのか!」
「なら掛かって来い。気が向けば数人くらいは生かしておいてやる。」
「舐めるなよ!」
「俺達は死をも恐れぬ甲賀の忍びだぞ!」
そう言って忍び達は手裏剣や苦無などの飛び道具を投げつけて来る。
俺はそれらを飛んでくる順番に手に取り、そのまま投げた相手へと返してやる。
「グアーーー!」
「ど、毒がー!」
「解毒!解毒剤をくれー!」
どうやらさっき投げ返した飛び道具には致死性の毒が塗ってあったみたいだ。
俺には何の痛痒も与えないものだけど奴等にとってはその効果を熟知しているので余程の猛毒なのだろう。
見ると既に手遅れな者も出ている様で泡を吐きながら死にかけており、そんな物を容赦なく使うとはコイツ等は馬鹿な集団のようだ。
普通の捕獲に使うのは毒でも致死性の低い痺れ薬だろう。
そして次第に地下へ降りる階段の出口へと近付くと奴らの数人が取り囲む様な配置についた。
手に袋を持っているので何かをしてくれるのかも知れない。
「くらえ!火遁の術!」
そう言って袋に入っていた液体を口へ流し込むとそれをプロレスの毒きりの様に吐き出し、そこに火を着けた。
すると俺の周囲は真っ赤な火で覆われ、その向こうから笑い声が聞こえて来る。
「どうよ!統領が作り出した油は良く燃えるだろ!」
「火達磨にでもなりやがれ!」
コイツ等は俺を捕まえる気が無いのだろうか?
それにここは木造の屋内なのに火事にでもなったらどうするつもりだ。
この付近には人もそれなりに住んでいて建物も密集している。
火事になれば広範囲に飛び火するかもしれない。
それに今は秋も終わりに近づき湿度も低くなっている。
これが原因で大火事に発展する可能性は低くはないだろう。
「まさか俺よりも馬鹿な奴が居るとはな。いや、これは馬鹿と言うよりも考え無しという奴か。」
俺は魔法で水柱を作り出すと燃え移っている場所を消火し、ついでに火を着けた奴らを始末する。
これ以上ここを燃やされたら面倒だからだ。
しかし、懲りない性格なのか次の奴等が似た様な袋を持って現れた。
するとそいつ等は腕を振り被るとこちらに向かって袋を投げつけて来る。
「くらえ!水遁の術!」
どうやら名前からしてさっきの奴等とは違う術を使うみたいだ。
そうなると投げた袋には何らかの液体が入っていると言うことだろう。
そう思って見ていると投げ損ねた奴が居て袋に入っていた液体を自分にぶちまけた。
「ギャーーー!み、水をくれ!」
「ハハハ、馬鹿な奴だな~。」
周りの奴等は笑っているけど液体の掛かった奴はそうも言ってられない。
見ると服は焦げたように煙が上がり皮膚に関しては爛れ始めているので、どうやら袋の中身の液体は強い酸性の物みたいだ。
しかし水を持っている者が誰もいない様なので助けてやる事にした。
「水刃。」
「ギャー・・・!」
「どうなってやがる!」
これで袋を持っていた奴らは皆殺しにした。
すると周辺から臭気が漂い臭って見ると卵が腐った様な臭いがしてくる。
「もしかして今度は風遁の術って奴か。」
確か硫化水素がこんな臭いをしていたと思うので、もしかすると甲賀の忍びとは科学部の集まりかもしれない。
それにしても科学部は頭の良い奴らの集まりだと思っていたけど俺の偏見なのかもしれない。
ただ俺は別にしても硫化水素だと仮定するなら空気よりも重い筈だ。
地下にいる連中を死なせる訳にもいかないので空気を入れ替え、家の屋根に上ってせっせと作業をしている連中を始末する。
「後は土遁くらいか・・・。」
そう思って歩いていると見事な落とし穴を発見した。
その下は竹槍が仕掛けてあり、傍にある壁の向こうには忍び達が罠に掛かるのを待ち構えている。
しかし俺はその上を歩く様に浮いて素通りして進んで行くと壁が開き、そこに待機していた忍び達が躍り出て来た。
「待ちやが・・・ぎゃーーー!」
「落とし穴あるじゃねーか!」
「誰だこれを仕掛けた奴はー!」
俺が素通りしたので忍び達は慌てて姿を現したのだろう。
しかし、そこにはちゃんと落とし穴が存在し、出て来る端から落ちて身動きが取れなくなっている。
ちなみに半数以上が竹槍に刺さって即死し、運よく傷が浅くて元気な奴らが叫んでいるだけだ。
こんな奴等なら助けても使い道に悩みそうなので診療所で始末した男も放り込んで火を放ち、上の面を空気の壁で塞いでおいた。
それによって中は高温となり、悲鳴も外に漏らさないまま忍び達は灰になって行く。
「以前にアンドウさんに任せた甲賀の忍び達が迷惑を掛けてないか心配になって来るな。」
「その点は大丈夫だ。こちらで再教育しているからな。」
「やっと来たんだな。」
燃え残りが無いかを確認していると背後から声が掛かり、そちらに振り向くとアンドウさんが到着していた。
途中から追加の忍びが来ないなと思っていたらあちらは既に捕獲を終えているようだ。
「それにしてもこんな所が甲賀のアジトになってるとはな。」
「生き残りを尋問して手早く掃除しておいてくれよ。」
「分かっている。もしかすると甲賀の統領について何か知っているかもしれないからな。」
「一応確認だけど俺が捕まえても金は手に入るのか?」
「狙っているなら好きにしろ。ただし生け捕り限定だぞ。」
そうなると報酬は無しにするか。
ハッキリ言ってアケとユウを狙っている奴らのボスを生かしておく気は全くない。
俺に敵対した程度なら問題ないけど狙った相手が悪かったな。
「どうやら期待はしない方が良さそうだな。」
「そのつもりで居てくれ。それと地下に子供と女性が捕まってるから助けてやってくれ。」
俺はそう言って地下に降りると彼女たちに声をかける。
「尾張の偉い人の知り合いが助けに来てくれたからその人たちに保護してもらえ。俺はもう少し仕事が残ってるからこれで失礼する。」
「あ!ありがとうございました!」
「この恩はいつか返します!」
すると2人は立ち上がると深く頭を下げて来た。
それに合わせて子供たちも食べるのを止めてそれに続く様に頭を下げる。
「今回は俺にも目的が有っただけだ。怪我をした時は診療所に来ると良い。」
「はい。」
「分かりました。」
そして忍びの女を抱えると地上へと上がって行った。
その後すぐに私服姿の忍び達が現れ彼女たちに声を掛けて保護してくれている。
「そいつは戦利品にでもするのか?」
「いや護衛を雇ったんだけどサボリそうであんまり信用できないんだ。だからコイツなら女だし丁度良いかなってな。」
「そう言う事なら好きにしろ。俺の部下も付けてはいるが男ばかりだからな。」
そして互いに幾つかの情報を交換すると俺は家を出て河原へと向かって行った。
そこで抱えていた女を下ろすともう一度回復魔法を使って起こしに掛かる。
「おい起きろ!」
「う・・うぅ~・・は!わ、私は!ここは何処!?」
起きてすぐに起き上がると周囲を見回して俺と目を合わせる。
すると次第に驚いていた顔が恐怖に染まり、地面を這う様に後退りを始めた。
「お、お願いします!何でも言う事を聞くから助けてください!」
「少しは素直になったみたいだな。それなら互いの自己紹介をしよう。俺はハルヤだ。お前の事を教えろ。」
「私は遥・・です。甲賀のくノ一をしていて、その・・人を騙すのが得意です。」
「そうか。まだ俺を騙そうとしてるか?」
『フルフルフル!』
どうやら戦闘向きな人材ではなさそうだけど質問にも素直に答えているのでしばらくはお試しで雇用する事にした。
その前に重要な仕事を片付けないといけないので、その事について聞かなければならない。
「それならお前等の統領という奴は何処にいるんだ?」
「それは・・・その・・・い、言えば私が統領に殺されてしまいます。」
「その心配はない。これから俺がそいつを殺しに行くからな。だから気にせずに言ってみろ。」
「・・・分かりました。言わなくても殺されそうなので言います。」
俺もそこまで鬼ではないけど完全に否定は出来ない。
その為のお試し期間でもあるのでコイツも少しは俺の事を分かって来たみたいだ。
その後、俺はハルカの案内で町から少し離れた山に中へとやって来た。
そこには目立たない様に偽装された洞窟があり、その奥から声と灯りが漏れている。
どうやら攫ってきた女性でお楽しみの最中のようだ。
中に居るのは相手をさせられている女性が3人に男が10人居る。
一番奥で1人の女性を独占している奴が居るのでそいつが統領だろう。
女性の方は誰もが涙を流しながら死んだ魚の様な目をしており、既に精気が感じられない程に疲弊している。
状態から考えると攫われてそんなに時間が経過して無さそうなのに酷い扱いをされているのだろう。
「お前はここで待ってろ。後で確認をさせる。」
「分かりました。」
俺は洞窟に入ると灯りのある奥へと向かって行き、そして視界に入る所まで行くと刀を抜いた。
「お前ら、御祈りは済ませたか?」
「誰だテメーは!」
すると一番奥に居た統領がすぐさま腰の刀を抜いて女性へと突き付ける。
それに続いて他の男達も傍に置いてある得物を引き抜くと女性たちを人質にして立ち上がった。
「誰にここの事を聞いた!」
「ハルカ・・・と言えば分かるか?」
「くそ!あの使えねー女か!ガキの頃からみっちりと教え込んでやったのに裏切りやがって!」
「お頭はそんな事言って楽しんでたじゃないですか。」
「あんたの幼女趣味にも困ったもんですよ。」
すると周りの奴等は人質が居る事で優位性を感じているのか統領へと下卑た笑みを向ける。
どうやら、ここに居る連中で生きる価値がある奴は居ないみたいだ。
「お前らは生きてここから出られると思うなよ。」
「動くな!コイツ等が見えねーのか!」
すると男達は人質の首へと刀を触れさせ薄く切り裂いた。
そこからは僅かに赤い血が浮き上がり首に沿って流れ落ちて行く。
しかし、そんな事をされていても女性たちの反応は薄く、斬られた時の痛みで僅かに表情を動かしたくらいだ。
「やるならスッパリと行けば良いだろう。それともその程度の事も出来ないのか?」
「舐めやがって!俺達を誰だと思ってやがる!」
そう言って5人が駆け出してこちらへと向かって来る。
俺はそれに合わせて歩き出すと首から下に刃を無数に走らせると横を通り過ぎる。
そして、そいつらの足が止まると首から上を残してスライスされたハムの様に崩れて地面に血溜まりを作った。
「テ、テメー!何しやがった!」
「ただ切っただけだ。それよりも早く人質を使わないのか?」
「黙りやがれ!」
すると俺の挑発で男は刀を振り上げると女性へと振り下ろした。
しかし、その瞬間に俺も刀を振るい、男と一緒に女性の首を飛ばしてその命を絶ってやる。
それを見ていた横の女性は僅かに唇を笑みの形に変え首がよく見える様に上げて目を瞑った。
「良い覚悟だな。」
「お頭!コイツは生粋の人斬りだ!」
「構うな!どうせ1人目はハッタリだ!」
しかし俺は2人目の首も一瞬で飛ばし周囲の男共も同時に両断する。
女性はともかく男達に関してはなるべく悔いて死んでほしいと思わないでも無いけど、死んだ後にも地獄という償うための世界が待っている。
ここで時間を使うよりもあちらのプロに任せた方が賢明だろう。
「残りはお前だけだ。」
「ま、待ってくれ!女は渡すからよ助けてくれよ!!」
そう言って統領は仲間を焚きつけたのと同じ口で命乞いをしてくる。
そして捕まえていた女を突き飛ばすとその口に笑みを浮かべた。
「死ねやーーー!」
そして女性を隠れ蓑にして鋭い突きを放って来ると、その攻撃は互いの間に居る女性を背後から串刺しにし、俺の心臓へと向かってくる軌道を取った。
しかし、この女性もこの状況を分かっているのか既に表情に諦めや悲しみは無く、それどころか覚悟すら感じ取る事が出来る。
なので、その女性も苦しまないように一瞬で首を飛ばして刃が俺に届くのを待った。
そして予想通り統領の放った突きは女性の腹部を貫通し斜め下から俺の胸の前で止まる。
すると統領は女性の体を貫いた感触を俺に刃を突き立てたと勘違いし、その口が笑みの形へと変わっていく。
「ハーハハハ!俺は天才だ!俺さえ生きていれば甲賀は幾らでも復興できる!女を攫い金は盗めば良い!10年でも20年でも時間を掛けてやればその時こそ俺の天下だ!」
そう言って統領は高らかに笑うと女性から刃を引き抜いた。
それによりその体は地面へと倒れ統領はゴミを見る様な目を向ける。
「ん?なんでコイツは倒れねーんだ?」
すると顔を下から覗き込んで来るので俺は笑みを浮かべて軽く睨み返してやる。
もちろんスキルで威圧と恐怖をしっかりと含ませてだ。
「な、何で死んでねーんだ!!」
「刃が刺さってないからだよ。」
そして言葉を返した俺は統領の両腕を切断し、腹へと蹴りを放つ。
しかし手加減をしているはずなのに怒りのせいでスキルが上手く発動しなかった様だ。
上半身が爆散してしまってギリギリ頭と両足だけが残っているけど幼女趣味の変態には相応しい末路だろう。
「後はハルカを呼んで確認させるか。」
俺は外に出るとハルカを連れて再び死体の転がる場所へと戻って来る。
そして確認させると無事に全員の素性を知る事が出来た。
どうやらここに居た奴らは甲賀でも幹部クラスの奴等だったらしく、統領をトップとした十頭目と称されていたらしい。
彼らが甲賀の全てを取り仕切って支配していたそうなのでそれが死んだ今となっては里の復興も難しいだろう。
「確認が済んだからお前は外で待ってても良いぞ。」
「どうするの?」
「要らない死体は焼き払う。後で利用されても嫌だからな。」
こんなロリコンに蘇生薬を使わせる訳にはいかない。
もしかするとアンドウさんならここの存在を突き止めて死体を回収するかもしれない。
それを阻止するために徹底的に灰にしてこの洞窟は崩しておく。
「わ、分かったけど・・・その笑い方はちょっと引くわよ。」
「今後は気を付ける・・・かもしれないからお前は外で待ってろ。」
「分かったわよ。はぁ~・・・変な奴に捕まっちゃったわね~。」
ハルカは色々とボヤキながらも笑みを絶やさずに洞窟から出て行った。
そしてこの場で火の魔法を放って全てを灰にすると土の魔法で完全に固めながら外へと向かって行く。
「これで完璧だな。」
「なんだか短時間で私の常識が崩れていくのだけど。」
ハルカは埋まった洞窟を眺めながらポツリと呟くと再び溜息を零した。
それなら早く慣れてもらわないと非常識で胃に穴が開くかもしれない。
まあ、そんな事になったら無理やり治してやれば良いんだけど。
「そんなに溜息をついてると幸せが逃げるぞ。」
「私に幸せなんてないわよ。アナタもそれを分かってるからあの子達を殺したんでしょ。」
「いや、殺したけど少し意味が違うな。後で見せてやるからまずは帰るぞ。」
「え、あ、うん。また抱えられるのね。」
「自分で走って帰っても良いんだぞ。」
『ガサガサ!』
すると近くの茂みが大きく揺れ何かが潜んでいるのを知らせてくれる。
まだ姿を見せないので何かは分からないけどかなり大きいみたいだ。
「よろしくお願いします!」
「最初からそう言えば良いんだよ。」
俺はハルカを脇に抱えると空へと向かって飛びあがった。
すると何故かハルカから不満そうな視線で話しかけられてしまう。
「もう少しましな運び方は無いの?」
「俺の両手は既に先約済みだ。お前はこれで我慢しろ。」
「フン!どうせ私は汚れ物のくノ一ですよ~だ。誰も私を大事に扱ってくれるはずないんだから。」
そう言って頬を膨らませて拗ねているけど、これは冗談ではなく本音が入っているだろう。
さっきも統領達がハルカの過去について少し零していたからな。
「それなら今だけ特別だからな。」
「ちょ!何するのよ!」
俺は今だけ特別に両手で抱えてお姫様抱っこをしてやる事にした。
それによって顔が至近距離へと近付くと互いの顔が間近で見えるようになる。
「い、言っておいてなんだけど恥ずかしいわね。」
「それなら止めるか?」
するとハルカは少し悩むと俺の首に手を回して来る。
そして笑みを浮かべると首を横に振った。
「ううん。これが良い。」
「今だけだからな。」
「わ、分かってるわよ!それにこの方が温かいだけなんだから勘違いしないでよね!」
「はい!天然のツンデレを頂きましたー。」
「何よツンデレって!もしかして馬鹿にする言葉なの!」
どうやらハルカはツンデレに変わる言葉を知らないらしい。
それでも俺の態度から言葉に含まれる一部の意図は感じ取ているようだ。
それにしても意外と感情の浮き沈みが激しい奴のようなので、もう少しだけ揶揄ってみることにした。
「いや、人によってツンデレはご褒美だぞ。」
「そ、そうなの!それで・・ハ、ハルヤはどうなのよ。」
するとハルカは期待する様に俺の顔を見詰めて来る。
これがゲームなら攻略本でチョロインと書き込まれていそうだ。
しかし、残念だけど俺にその手の属性はあまりない。
「相手によっては罰ゲームだ。」
「何なのよそれ~!」
ハルカは空に浮かぶ月に吠えると首に回していた手で俺の首を掴み揺さぶって来る
あまり揺らすと落としてしまいそうだけど今は俺が揶揄ったのが原因なので我慢しておく。
落とせばそれはそれで反応が面白そうだけどそこまで鬼畜ではないつもりだ。
俺はそんなちょっとした心の誘惑に耐えながら空を飛んで行った。




