200 再び黄泉へ ②
目の前には殺気立っている鬼の群れが道を塞いでいるので、ここを突破しなければ現世に帰る事は出来ないだろう。
俺はクオナに頼んで追加してもらったSソードの新機能を使用する事にした。
ただそれは別に切り札とかそう言った特別な物ではない。
この武器の特性を生かして相手を殺さない1撃を放てるようにしただけだ。
これなら全力で戦っても相手を殺す心配がなくなるので手加減をして足を掬われる心配がなくなると言う訳だ。
それに魔法を使えるようになって知ったけど、このSソードには魔法を上乗せする事が出来る。
俺には属性剣や魔法剣といったスキルが無いので今回の様に相手が明確な属性を持っている時にはとても助かる。
この機能は相手と実力が拮抗している時なら切り札となってくれるだろう。
「フッフッフ!俺達はアイツ等と違って甘くねえから覚悟しろよ。」
「あの時は邪気を払う桃に後れを取ったが今ではそれも克服済みだからな。」
確かにさっきの奴等は歯応えの良いゼリーで懐柔したと言われれば否定は出来ない。
それにコイツ等は話によるとイザナギが逃げている途中に生っていた桃を投げつけられ、それに怯んだ所を取り逃がしたのだったか。
この周辺は桃の並木道となっているけど、奴等に気にした様子もないので言っている事に嘘は無さそうだ。
「へっへっへ!今では桃は俺達の主食だぜ。」
「そうだ。見てやがれよ。」
そう言って木の近くに居た鬼は桃を無造作に摘み取ると見事な手付きで皮を剥きとった。
更にそこから飾り包丁を入れて見事な蓮の花へと変身させる。
なんだかここでも方向性の間違った努力をしている気がするけど、これはまさに言わぬが花と言う奴だろう。
桃の実も普通に食しているので先程の女性達と同じ様に努力は十分に伺える。
「見たかこん畜生!俺達に恐れるモノはもうねえぜ。」
「ああ、その努力は認めよう。俺も朝までに戻らないといけないからさっさとかかって来い。」
朝に弱いミズメはともかく、起きた時に俺が居なければアケとユウが心配してしまう。
それに今は指輪のおかげで2人をとても近くに感じる気がする。
「ガーハッハ!活きの良い人間だな!これは楽しめそうだぜ。」
すると鬼たちは手に持つ得物を構えると次々に襲い掛かって来る。
互いに攻撃を阻害しない様にある程度の距離を空けているので一度に相手をするのは多くて3人くらいだ。
それでもここに居る鬼たちの実力は北海道で戦った自称山神に引けを取らない。
もちろんそれ以上の奴等もゴロゴロ混ざっているみたいなので、さすが黄泉軍と言われるこの世界の軍隊なだけはある。
俺は1人目の鬼が振り下ろした金棒をギリギリで躱すと体を回転させて後頭部へと攻撃を加える。
するとミシミシと骨と筋肉が奏でる音が伝わり鬼は勢いのままに遠くへと飛ばされて行った。
その方向にはさっきの女性たちの姿があので、ちょっとマズったかと思ったけど彼女たちはハエを払う様な仕草で鬼を別な方向へと弾き飛ばしてしまった。
「もしかするとコイツ等よりも彼女等の方が強いかもしれないな。」
見た目は細身の美人さんなのに凄い力だ。
あれなら1人にゼリーの袋1つで通してもらえたのは幸いだった。
そう言えばアイツ等は凄い怪力と脚力を持っていたんだったな。
しかし、1000を超える鬼たちを相手に余所見をしていられる程の余裕はない。
それにもしこの指輪の効果が無ければ俺は数秒で肉塊に変えられていただろう。
今は避ける暇もない連携された猛攻を受けているので体の至る所に攻撃を受けている。
大半は肉を浅く抉る程度のダメージだけど時々クリーンヒットを受けて骨まで持っていかれるようになってきた。
どうやら相手の強さが次第に強くなっているみたいだ。
俺の後ろには倒し終えた鬼たちが200程は転がっているけど、まだまだ相手をしないといけない数は多い。
このままではいずれ押し切られてしまうだろう。
しかし急に相手の攻撃が緩み、鬼たちが左右に分かれて道を作り始めた。
そして、その道の中央を先程までスサノオの傍に居た女性の1人が歩き、こちらへとやって来る。
ただ、ここで選手交代というよりもあちらが戦いたくてたまらないと言った感じだ。
その顔には好戦的な笑みが浮かび、白く長い髪をなびかせて今にも飛び掛かって来そうな気配を立ち昇らせている。
すると彼女の周囲を付き従う様に漂っている白い布が揺らめき、サイズを無視して襲い掛かって来た。
その1撃は早さと鋭さを併せ持ち、暴風と共に俺の腕を一瞬で切り飛ばして見せる。
どうやら観察に意識を向けた一瞬の隙を突かれてしまったみたいだ。
「あの腕は諦めるしかないか。」
切られた腕は暴風によって何処へとも分からない彼方へと飛ばされてしまった。
今となっては回収するのは不可能になり今は視線すら逸らすのも危うい。
次に隙を見せれば容赦なく首が飛ばされてしまうだろう。
「フフフ。腕を飛ばされて平然としている人間は初めてです。これは切り裂きがいがありそうですね。」
「出て来て早々に厳しい対応だな。」
「御免なさいね。これも仕事なの。あなたの血肉が欲しいって言う人が・・・。」
「オイ!!」
すると女性が口を滑らそうとしたので遠くで仁王立ちしているスサノオから雷が轟いた様な激しく空気を揺るがす声が飛んで来た。
それを聞いて女性は口元に手を当てて微笑み「危ない危ない」と呟いている。
「今のは忘れてちょうだい・・・。あら?もう腕が生えたのね。」
「これで切れる所が増えただろ。」
俺は今の隙に中級ポーション・改を使って腕を再生させた。
スキルでも生やす事は出来るけど腕一本となると時間が掛かり過ぎる。
さっきまで何とかスキルを使って再生を進めていたけど速度的に1分はかかるだろう。
「あなた面白い事を言うのね。少し気に入ったから特別に名乗ってあげるわ。」
「そりゃどうも。俺はハルヤだ。」
「私は風神よ。話好きの噂好きなの。」
それでさっきスサノオに睨まれていたと言う事か。
もう少しで相手の目的も聞けそうだったけど今は気にしても仕方がない。
ここを生き残らなければ俺に未来は無いだろう。
しかしそうなるとあそこに居るもう一人の正体も見当が付く。
彼女はテレビで見た雷神が背負っている様な太鼓を持っているので目の前の風神とセットにすれば間違いないだろう。
しかし、スサノオは分かっていたけど神が出て来るとは思わなかった。
そういえばスサノオはイザナギに母親の許へと行きたいと言って喧嘩した事があるのだったか。
もしかしてコイツ等3人はイザナミの関係者か。
その辺の事を聞いてみると話好きと言うだけはあり簡単に教えてくれた。
「私達の神話を辿れば最初はイザナギ父さんとイザナミ母さんになるわね。私は位置的にはスサノオの妹と言ったところよ。」
そう言って揶揄う様にスサノオへと「お兄ちゃ~ん」と手を振るとぶっきらぼうに声が返って来た。
「うるせー!」
「あれは照れ隠しだな。」
「そうなのよ。本当に照れ屋なんだから。」
そうなると俺の血肉を欲しがったのはイザナミである可能性がある。
それにしてもマザコン・ブラザー&シスターズとは。
こうして見るとなんだかイザナギが禄でもない男に思えて来た。
それは置いておくとして、情報も得られたのでそろそろ戦いを開始しよう。
相手の性格をついてここまで会話を引き延ばしたけどそろそろ限界みたいだしな。
ただ、ここで距離を空けたままというのは愚策と言えるだろう。
風神のリーチは俺よりも遥かに長く1撃の威力は俺を十分に殺し得る程だ。
全身に受けていた傷も完全に回復しポーションで体力も万全なのでそろそろ始めさせてもらおう。
しかし開始の合図なんてここにはない。
さっき俺が腕を切り飛ばされた時もそんなモノは無かったので遠慮なく先手を取らせてもらう。
「容赦の無い踏み込みね。久しぶりにゾクゾクしちゃうわ。邪神の配下はネチネチした陰険な戦法ばっかりだからこういう単純な戦いは大歓迎よ。」
「それは俺も同意見だな。」
奴は何時も何処か別の場所に居て表には出て来ない。
その癖チャンスがあれば横槍を入れてきて失敗するとすぐに逃げる。
ミズメを使って釣ろうとするアマテラスの考えも分からない訳では無いけど今では目的が他にもある気がする。
色々な面で神も信用が出来ないと言えるけど、まずは敵の敵を倒すまでは出来るだけ友好な関係を継続させたいものだ。
それから考えるとブラコンでなく、マザコンなこの風神は少しは信用できそうだ。
ただし、この戦闘狂な性格さえなければの話だけど。
「楽しい!楽しいわ!アナタを殺してこれからは私の玩具にしてあげる!」
「それは御免被りたいな。これでも待たせてる奴が何人も居るんだ。」
俺は布の攻撃を逸らし、それと同時に大きく位置を移動する。
剣と違って変幻自在に形を変えるので逸らしたり防いでも油断が出来ない。
しかも凄い強度で傷すら付かないので破壊も不可能だ。
魔法を放ったとしても全て弾かれているので特殊な布であるのは間違いない。
まさに鉄壁の防御を誇っていると言っても良いだろう。
だからと言って接近すると達人級の拳や蹴りが襲って来る。
しかも攻撃には風が伴い、範囲攻撃に近いので周囲への被害が大きい。
既に巻き込まれた鬼たちの何割かが戦闘不能となり、桃の木が何本も薙ぎ倒されている。
きっと後で鬼たちが直すんだろうけどイザナミに怒られないかが心配だ。
するとそんな中で風神が先に動きを見せた。
このまま力押しでも十分に俺を倒せる筈なのにあちらとしては遊び心が働いたみたいだ。
俺を牽制しながら距離を取ると今度は白い袋を取り出して腰溜めに構えた。
「私の必殺技をくらいなさい。」
そう言って袋の口を開けるとまるで嵐を一点に集中させたような攻撃が放たれた。
それは風による攻撃で目には見えないけど地面を抉り、射線上にあった全ての物が吹き飛ばされていく。
どうやら鬼たちはこの攻撃を既に知っていた様で巻き込まれない様に事前に避難しているようだ。
しかしギリギリの者も多く周囲からブーイングが飛んでいる。
それでも度を超えてのものが無いので意外と余裕なのかもしれない。
流石は黄泉に住まう鬼たちと言う事か。
ちなみに俺も周りの動きに合わせて躱す事に成功している。
ただし既に次のモーションに入っているので連射は出来ない様だけど次弾までの間隔は長くはない。
恐らくは体感的には1秒~2秒で次が飛んでくる。
しかし、ここに居る者ならそれだけの時間があれば十分に対応できる。
「ここは俺も正面からぶつからないといけないな。」
「ハハハ!本当に面白い。でも手加減はしないわよ。」
俺達は互いに足を踏ん張ると互いに攻撃の体勢に入る。
そしてこちらは北海道で手に入れら仮面を装着すると咆哮の威力を増幅し、一気に吐き出した。
すると互いの攻撃が正面から衝突し、同時に周囲へ向けて強烈な衝撃波が拡散していく。
その接触は一般の間隔なら1秒にも満たなくても俺達にとっては長い時間に感じる。
その視点から見て俺の咆哮は風神の攻撃に明らかに競り負けている。
そのため俺の方には風の刃が走り抜け、体中を切り裂いていく。
既に腹は裂かれて内臓が飛び出し、足は片方が切り取られ地面に倒れようとして落ちている。
このままだと首が飛ぶのも時間の問題だろう。
ここは以前に練習して使えるようになった奥の手を使うしかない。
俺は咆哮を放ちながら片足でしっかりと踏ん張ると両手を右腰に持って行って構えを取った。
「か〇は〇波~~~!」
「あ!手からなんて狡いわよ!!」
本当は溜めをしてからカッコ良く放ちたいけど今はそんな時間はない。
どの道、どうやっても威力に変化は無いので次回のお披露目に期待しよう。
ただ、あちらは俺とは違い溜が大きければそれだけ強い攻撃が放てそうだ。
さっき見た時に袋が空気を吸い込んでいるのが見えたので今回の攻撃は手加減してくれているのだろう。
ちなみに俺の手から放ったのは咆哮と風魔法を合成した攻撃だ。
通常の風魔法よりも威力が高まるのでこれでようやく五分五分だろう。
ただ、俺の咆哮は今が最大ではない。風神には悪いけど少し八つ当たりをさせてもらおう。
この時代に来て今日までずっとアケとユウがアケミとユウナの前世である事に気付けなかった自分への怒りを咆哮に込める。
その直後に仮面の効果が真に発揮され、怒りの大きさに比例して威力が数倍に膨れ上がった。
すると仮面も俺の怒りの大きさに驚く様に震え始め限界を知らせて来る。
ただし、これは誰でもない自分自身に向けられる怒りだ。
あんなに近くに居たのに気付けない俺の不甲斐なさにミズメの事を知った時と同様の怒りが湧いてくるのを感じる。
しかし、このままだと仮面が壊れてしまうのでそろそろ抑え込む事にした。
既に俺の攻撃は風神の風を突き破って目前まで迫っており、風神は少し悔しそうな顔で負け惜しみの声を上げた。
「これで勝ったと思うんじゃないわよ~。」
するとその直後に咆哮の直撃を正面から受けるとそのまま遥か彼方の星になって消えて行った。
見た目は派手だけど吹き飛ぶ時には怪我すらしていなかったので時間を掛ければ戻って来るだろう。
それまでにここを突破しないと今度は俺が八つ当たりをされそうだ。
「よし、次の奴はかかって来い!」
しかし鬼たちはこちらへと近づいて来る様子はない。
来るなら風神の様に遠慮なく飛ばしてやろうと思っていたのにちょっと残念だ。
その間に俺は体を回復させると次の戦闘に備えた。
すると鬼たちの代わりに動き出したのが先程まで遠くにいたはずのスサノオだ。
てっきり雷神が先に来るかと思っていたのに既に目の前まで来ていて剣を手にしている。
もしかして雷神は見学にでも来ているだけなのか?
「まさか先にアンタが来るとは思わなかった。」
「アイツはちょっと特別なんだよ。それよりも早くかかって来ねえと時間がねえぞ。」
確かに朝までそんなに時間は無さそうだ。
ここから出口までは遠いので急がないと朝になってしまう。
「それなら遠慮なく行かせてもらうぞ。」
「掛って来やがれ。お前がどれぐらいの力を持っているか試させてもらう。」
そう言って俺達は互いに至近距離まで踏み込むと剣をぶつけ合った。
すると俺は完全に競り負け、剣撃は押し込まれて後方へと吹き飛ばされる。
今まで多くの敵と剣を交えたけどここまで完全に競り負けたのは初めての経験だ。
その衝撃を言い表すならバスにでも跳ね飛ばされたと言った所だろうか。
それに武器が壊れなかったのは幸いと言うか、この感じだと通常の武器なら折れて死んでいたかもしれない。
「本気を出しやがれ!お前の力はその程度じゃなはずだ。」
とは言われても今の攻撃は俺にとって全力全開の1撃で間違いない。
これ以上となると正宗を抜くしか・・・。
「そうじゃねえ!おい、そこのお前。吸ってばかりじゃなくてコイツにどうして戦い方を教えてねーんだ!人間と同じ戦い方をしてたら人間と同じくらいしか力を発揮できねーだろうが!」
きっとその視線と言葉からして怒鳴られているのはクオナの方だろう。
しかし俺は人間なのに既にそうでない様な言われようだな。
「仕方ねーから俺が力の使い方って奴を教えてやるよ。早く覚えねーと殺しちまうからとっとと理解しろよ。」
そう言ってスサノオは容赦の欠片も感じさせない攻撃を再開した。
その荒々しい1撃は俺を木の葉の様に翻弄し、体に傷を刻んでいく。
ただ教えてやると言う割には言葉は無く、飛んでくるのは声ではなく斬撃ばかりだ。
どうやらスサノオという神に教える才能は皆無と言うことなのでヒントだけは既に貰っているのでそこから推測して正解に辿り着くしかない。
しかし、その時間は限られているので早くしないとここに眠る亡者の仲間入りだ。
俺はさっきの会話から恐らく鍵を握るのは精神力だと予想している。
クオナが吸っているのはそれだけだと思われるので、それをどうにかして使うしかない。
そう言えばSソードに精神力を充填する時に感じたのは疲労感ではなく倦怠感だった。
すなわち精神力とは心の力を示しているのではないだろうか。
ただ俺の中にある明確な心で残っているのは特定の人物を好き、愛しているという感情とそこから生まれる怒りだけだ。
それだけでこの男に勝つ事が出来るだろうか。
「いや、俺の愛は世界より広く、瀬戸内海よりも深い!」
「後半が浅すぎだろ!」
咄嗟に言ったセリフなのでマリアナ海溝という言葉が出て来なかった。
そのため身近な海の名前を叫んだのだけど流石に無理があったみたいだ。
まさかスサノオから攻撃を上回る速度のツッコミを入れられるとは思わなかった。
流石にこれは回避不可能な1撃だ。
「さすがだなスサノオ。今のダメージが一番デカかったぜ。」
「何を馬鹿な事を言ってやがる。少しは使えるようになってるみてえだがテメーの気合はこの程度か。」
するとなんだか次は体育会系の様な言葉が飛んで来た。
確かに見た目はそのままで追加の属性を付けるなら毛深くてムサいオッサンだけどそれは口に出さないでおこう。
しかし何故かスサノオの顔に不機嫌さが宿り攻撃が激しくなってきた。
どうやら見事に心を読まれていたようだ。
「声に出てるんだよ!!」
「おっと。最近は独り言が増えてるな。失敗失敗。」
「何が失敗だ。俺はテメーのそう言う所が心配だよ。未来でどんな生活を送ってたんだ!」
もしかして心配と失敗を掛けた駄洒落か?
イヤイヤ、神ともあろう者がそんな低俗な事を言うはずがない。
さっきから少しずつ攻撃が早く強くなってるけどきっと俺の攻撃に合わせてくれているに違いない。
しかしなんだか「ムサくない」とか「駄洒落じゃねえ」とか聞こえる気がするけど気のでいだろう。
ただ、思いを込めるという方向性に間違いは無いみたいだけど、他の感情を込めると上手くいく気がしない。
恐らくは俺が使い慣れていないからだろうけど2つを同時に込めると逆に力が弱まってしまう。
でもこれはもしかすると俺向きな力かもしれない。
局所的に感情が強くてそれ以外は希薄で俺の中には常に怒りという強い感情が渦巻いている。
これをどうにかしないと力を発揮する時には大きな足枷となりそうだ。
「まだまだ感情の制御が甘いな。この戦闘には心技体の心が最も重要なんだぜ!」
「そんな事を言っても20年も生きてない若造にそこまでの制御力を期待するな。」
神には膨大な時間があるので感情の制御にも慣れているんだろうけど人間がそれを制御するのは簡単ではない。
それでなくてもちょっとした事で一喜一憂するのが人間としては当たり前のことだ。
すると、そんな中でちょっとした事故が起きた。
足元に落ちていた桃を俺が踏んでしまいツルリと滑って体勢を崩してしまう。
まさかバナナではなく桃で滑るとは思っていなかったので今は完全に無防備な状態だ。
そこにスサノオの剣が振り下ろされ俺へと直撃した。
ただ、直前で刃を側面に向けてくれたようで俺は後方へと弾き飛ばされていく。
それでも打たれた所の骨は粉砕され内臓が何カ所か破裂してしまった。
口からは血の塊を吐き出し、鈍って感じにくいはずの痛みすら全身に駆け巡って視界を黒く染めていく。
どうやら今の1撃は俺の意識を刈り取るのに十分な威力だったみたいだ。
しかし、それでも意識を取り戻す為の時間はそんなに掛からないだろう。
死んでさえなければ長くても数秒で起きられるはずだ。
そして俺は自分の意思ではどうしようもないこの状況を一時的に受け入れ意識を闇へと沈めて行った。




