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199 再び黄泉へ ①

俺は上級蘇生薬と中級ポーションを取り出すと最低条件となる上級蘇生薬・改を作り出した。

ただ俺の想像が間違っていないのであればイザナミ様の目的は自身を蘇生させる事だ。

しかしそうなるとこの蘇生薬でも役不足に思える。

確かに鑑定をしても期限は書いてないし、イザナミ様には肉体と魂が揃っているので条件としては問題がないのだろう。

しかし神・・・というか、イザナミ様ほどの強大な存在をこれ1本で蘇生させられるのかと聞かれれば否定の言葉しか浮かんでこない

所詮はこれも人間という矮小な存在を生き返らせる効果しか期待できないからだ。


しかし俺の手元にある物で他に可能性のある物は思い付かない。

現代のダンジョンで手に入れた物で有用な物は無く、神に関係する物で所持していた真珠も使い切った。

こんな事なら厳島で倒した白蛇は皮くらい剥いでおくべきだった。

そうすればイザナミ様ならそれを使って更なる力をこの蘇生薬に付与できたかもしれない。


とは言っても過去を嘆いても意味は無いし、この時代で得られた物で特殊な物と言えば土蜘蛛の糸と中級ポーションだけだ。

こんな物では雀の涙どころか羽の毛1本くらいの意味しかない。


「こうなったら神頼みでこの上級蘇生薬・改を更に強化してみるか。」


しかし、それをしようとしても全く手応えを感じない。

どうやらスキルの『強化』が発動していない様でこれ以上は強化出来ないみたいだ。

もしかすると何度も使えば更なる強化も可能になるかもしれないけど今はその時間がない。


「これは諦めてこれだけ渡すしかないか。」


そう思った時に頭の隅へ何かが引っ掛かっている様な気がした。

俺はステータスを開くとアイテムボックスの中を表示させて上から下へとスライドさせていく。

しかし、ピンと来る物がなかなか見当たらず、こうして見ると色々と要らない物も入っているのでそろそろ整理しないといと思考が脱線してしまう。

そして脱線ついでによく見るとステータス上でならフォルダーで分別も出来る様なので後で仕分けをしておこうと思う。


ただ俺が求めている様な物なら、現代で手に入れたとしても後半の方だろう。

この時代では食材以外で入れたのはゴミばかりなので入れた順番通りに並んでいるから見る所は限られる。

そして見ていると俺は2つのアイテムに目が留まった。

しかし、それは俺が持っているはずのない物でどうしてここに入っているのかが分からない。

俺は首を傾げながらその項目に触れると手元に取り出してそれに視線を向けた。


「これは・・・アケミとユウナの御守りじゃないか。」


ここに来る直前に俺に持たせてくれた古そうな御守りだ。

あの時はすぐに収納したので2人の温もりが今も残っている気がする。

今となってはもう手の届かない存在の様で胸を締め付けられるような寂しさを感じる。

しかし問題なのはこの御守りの名前が『アケの神護り』と『ユウの神護り』であることだ。

これは確かツクヨミと九州の支部に現れた時に2人に渡した物のはず。

それをアケミとユウナはどうやって手に入れたのだろうか?


だが、そうなるとこの中にアレが入っている可能性がある。

しかも500年という長い期間をこの中で強化され続けた状態でだ。


しかし袋を開けて中を覗くとそこには闇が広がっていた。

アケとユウに渡す時はこんな感じじゃなかったので長い時間によって何か変化が起きたのかもしれない。

それでも何かが入っているのは確かなので袋をひっくり返して振ってみる。


『ドス!』

「なんでこんなのが出て来るんだ?まあ入れていた真珠が強化されて成長したんだろうな。」


予想していた通り御守りの中には俺が入れておいた真珠が入っていた。

但しその大きさは1メートルを超えていて袋に入りきらないサイズだ。

きっとこの小物入れは異次元収納の効果もあったということだろう。

今は何も入っていないので中を見ても普通の小袋にしか見えなくなっている。


そして、もう一つを開けるとそこには2つの指輪が入っていた。

これは互いに俺が2人に渡したペアリングで金のリングにダイヤモンドとエメラルドが嵌っている。

自惚れでなければ婚約を破棄されたと言う事ではないから、どうしてこれがここに在るのか疑問に感じる。


俺は立ち上がると2つの指輪を持ってアケとユウの元へと向かって行く。

これは2人から送られたペアリングなので他の人が着けても効果を発揮しない。

しかし、もしこれをアケとユウが着けて効果を発揮するなら1つの事が確定する。

身勝手な事で悪いとは思うけど今はどうしても確認をせずにはいられない。


まずはアケの手を取るとその指へとリングを通してみる。

すると大き過ぎたサイズが調整されピッタリと指に巻き付いた。

どうやら今まで入れていた時間で指輪に俺の知らない効果が付いていたようだ。


そして俺も指輪を取り出すとそれを自分の指に通してステータスを確認してみる。

するとそこにはステータスの強化が表示されていて俺に1つの事実を教えてくれた。

更にユウにも指輪を通して確認しても同じ効果が得られている。


そして俺の強化は合わせて40パーセント。

今のステータスから考えると途轍もない効果だ。

それにこれでアケとユウがアケミとユウナと同じ存在。

すなわち前世である事が確定した。

こうして分かった上で考えてみると共通点が幾つも思い付く事が出来る。

しかし、そうなるとアケミとユウナはこの事を知っていた事になる。

それとも唯の御守りのつもりで指輪を入れてくれたのだろうか。


今となっては確認する手段は無いのでこれについては置いておくとして、問題はこの真珠だ。

もしかするとイザナミ様ならこれを使って上級蘇生薬・改に更なる変化をもたらす事が出来るかもしれない。

そう思った俺は真珠を収納すると部屋から出てそこに居る者へと声を掛けた。


「俺をイザナミ様の所へと連れて行ってくれ。」

「生身では死ぬかもしれませんよ。」

「どうしても直接話したい事がある。」


外に出ると既にそこには八咫烏が待機していたので、きっとイザナミ様も今までの様子を見ていて頃合いと判断したのだろう。

そして八咫烏に運ばれて空へと登って行くと速度は次第に早まり、高度も空に浮かぶ雲を超えた。

しかし急に周囲が闇に覆われたかと思うと周りの景色が一変している。

そこは以前に見た黄泉の国で地上には桃の木が等間隔に並び瑞々しい果実を実らせている。

こんな簡単に行き来をしているならタイミングを見計らって俺の所に来させるのも難しくないだろう。


すると空を進みながら八咫烏の方から少し不安そうに声を掛けて来た。


「体に異常はありませんか?」

「俺には状態異常無効化のスキルがあるから今のところは大丈夫だ。」

「そう言えばイザナミ様を前にしても平気だったそうですね。それならこのまま飛んでも大丈夫でしょう。」


ちなみに周囲を鑑定すると目には見えないけど猛毒と瘴気で汚染されているので、八咫烏はこの事を気にしていたのだろう。

臭いを嗅げば腐臭を感じるのでこれは以前と変わらないけど、地上からは以前には無かった視線を複数感じるので注意が必要かもしれない。

すると警戒している事に気が付いたのか再び声が掛かった。


「今は大丈夫です。」

「今はって事はいずれは危険になるって事か。」

「そうですね。以前にイザナギ様を取り逃がしてから彼らも気合が入っていますから。」


もしかして帰りは歩いて帰れとでも言うつもりだろうか。

まあ本物の黄泉平坂を登ってみたかったのでそれはそれで良いかもしれない。

最近は温い戦いも多く、今の自分の力を理解できていない所もある。

ここに住んでいる鬼たちにちょっと揉んでもらうのも良いかもしれない。


「もうじき到着しますよ。」

「ん?ああ、そうだな。」


つい前を見ずに下ばかり見て鬼たちを値踏みしていたので気付かなかった。

やはり八咫烏の速度は戦闘機並みに早いみたいだ。

そして到着すると八咫烏と別れ以前の女性に案内されてイザナミ様の前に立った。

見た目は以前よりもよくなっている様には見えるけど少しずつ以前の状態に戻り始めている。

このまま放置すれば数日中には体中が爛れた以前の姿に戻るだろうから、やっぱり回復薬や万能薬では強化しても焼け石に水と言う事か。


「それで用件は言わないといけないか?」

「その必要はありません。もし成功すれば私の名に懸けて望みを叶えてあげましょう。」


俺が望んでいるのは大した事じゃない。

もし歴史が変化して修正力でも補えず、未来でアズサ達との出会いが無かった事にならない様にして欲しいだけだ。

それ以外は何も望まないので死と魂を管理するイザナミには難しくないだろう。

ただ生まれる事に関してはイザナギの管轄かもしれないのでこうして直接話に来た訳だ。


「それではその代償を受け取りましょう。」

「上手くいくと良いですね。」


俺はそう言って巨大な真珠と蘇生薬を取り出すと受け取りに来た女性へと渡した。

そして、そのまま背を向けその場から立ち去ろうとすると背後から声が掛かる。


「ちょっとだけ訓練に参加する気はありませんか?」

「訓練?まさかそれは・・・。」

「お察しの通りアナタはここから地上まで戻るだけです。もし、黄泉平坂まで辿り着ければ別の褒美を与えましょう。」

「願ってもないチャンスですね。その訓練というのに参加させて頂きます。」


俺はイザナミ様の提案に即答すると外へと向かって歩き出した。

丁度ここの鬼たちを相手にしたいと思っていたので訓練というなら十分な大義名分の上で全力で暴れられる。

恐らくここの鬼たちなら12神将よりも遥かに強いだろう。


「もう開始で良いですか?」

「構いませんよ。既に準備は整っています。ただし、無事に帰れるとは思わない事です。アナタが考えているよりも遥かに過酷な訓練ですよ。」

「それこそ今の俺には有難い。」


それだけ言って再び歩き出すと1人で外へと向かって行った。

すると通路を歩いている途中で肩へと白い八咫烏が舞い降りてくる。


「誰だ?」

「・・・。」


しかし白い八咫烏は何も言わずにそのまま飛び去ってしまった。

そして出口に到着すると今度はさっき別れた八咫烏が俺を待っていた。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない。それよりも八咫烏は多いのか?」

「そうですね。今は色々と飛び回っているのでここには私1人です。・・・いえ、そう言えば少し前に神使になった子が挨拶に来ていましたね。確か八咫烏としては珍しい白い色をしていました。」


きっとそれがさっき俺の肩に止まった奴で間違いないだろう。

今の黄泉で生きている人間は俺だけだろうから珍しくて見に来たのかもしれない。

そして八咫烏の前を素通りすると軽く手を上げて声を掛ける。


「それじゃあ、また会おう。」

「死んだ時は私がしっかりと回収してあげますよ。」

「不吉な事を言うな。」


それを現代ではフラグって言うんだ。

それでなくてもここに来るまでに3桁では足りない程の鬼たちが俺の事を見ていた。

きっとこれから行われる訓練の為に待機していたのだろう。

中には明らかに強力な個体も混ざっていたのであまり余計な事は口にしないで貰いたい。


そして屋敷を出てしばらく歩いているとさっそく鬼たちが集まり始めた。

ただ邪神と関係のある鬼たちと違い邪悪な気配は伝わて来ない。

その代わり感じるのは空気を震わす程の気配と肌を刺す様な殺気だ。


種類に関しても幾つもあるみたいで赤い鬼は炎を纏い、黒い鬼は水を、黄色い鬼は土を纏っている。

それ以外にも白い鬼は鉄に類する武器防具を、青い鬼は木に類する武器防具を纏っているようだ。

そう言えばハルアキラが陰陽道の五行について話していた時に何か言っていた。

確か色がそれぞれの属性を現す事があるんだったか。


ただそいつ等の後ろにはとても強力な3つの気配を感じる。

そちらを見ると風を纏った女と、雷を纏った女が立っていて、その後ろには見覚えのある人物が腕を組んで仁王立ちし、俺へと鋭い視線を向けていた。


「オイオイ。お前はさっきまで居なかっただろうが。何処から湧いて出たんだ。」


一番後ろには真剣な顔のスサノオが待ち構えている。

恐らくは直前に転移で現れたのだろうけどこれは本当に訓練だろうか?

ただ既に命懸けである旨は説明を受けていたので納得するしかない。

まずは目の前にいる奴らを倒してあそこに辿り着くしかなさそうだ。


「さあ掛かって来い。」

「舐めるなよ人間。」

「まずは私達が相手です。」


そう言って出て来たのは天女の様に美しい女性たちだ。

確か日本神話では最初に出て来るのは醜い女性と書いてあった気がするけどあれは間違いだったのだろうか。


「フフフ!驚いている様ね。イザナギが私達から逃げる時に言っていた『醜い女共』と言う言葉で思い知ったのよ。あの時、私達が今の様な姿ならもっと長い時間の足止めが出来たはずだってね。」


もしかして接待でもしながら酒を飲ませて足止めでもするつもりだったのか?

何やらドラマとかで見る様なパブの様な物が準備されているけど、変な方向に勘違いしてるようだ。

命懸けで逃げている奴がそんな事で足を止める筈がないだろう。

こんな事で足を止めるのはイソップ寓話の兎と亀に出て来る兎くらいだ。

残念だけど俺は未成年で酒が飲めないので遠慮させてもらおう。


「それじゃあ俺はこれで。」

「な!まさかの素通りですって!ちょっと待ちなさいよ!」


そう言ってウインクしながらセクシーポーズをしているけど顔が怒っててとても怖い。

ツンデレ属性があればこれでも食い付く奴が居るかもしれないけど、残念ながら俺はそれを持ち合わせていない。

それに接客をするなら笑顔の無料サービスは基本だろう。

それともこういったお店ではスマイル1つでもお金の掛かる事なのだろうか。

仕方ないので劇的ビフォーアフターを果たした彼女達には美味しいデザートを進呈しておこう。


在庫が多いのは美容にも良いコンニャク成分が入ったゼリーだ。

これは何処のスーパーに行っても大量に置いてあるので数を揃えるのは簡単だった。


「これでも食らえ。」

「ふん。こんな物で私達が懐柔されるとでも・・・。」


しかし、そう言いながらもしっかりと受け取り口にした彼女たちの言葉が止まる。

そして自然とその顔には笑顔を浮かべゼリーをゆっくりと噛み締めながら食べている。

そういえばイザナギも食べ物を使って彼女達から逃げ切ったのだったか。

話の中ではブドウやタケノコだった気がするけど、俺が渡したのも丁度ブドウのゼリーだったので物語と同じ事をした訳か。


「あと500年したら売り出しだからその時になったら何時でも食べれる様になるぞ。ああ、でもアンドウさんが甘味に少し力を入れる様な事を言ってたな。」

「「「!」」」


すると今までに無いほどの鋭い視線が俺へと向けられた。

しかし襲ってくる気配はないのでここはゼリーと情報を通行料として通してくれるみたいだ。

これは訓練なのでこれくらいは現場の裁量に任されているのだろう。

きっと本番では通してくれないはずだ・・・多分。


俺はアンドウさんに何かが起きるかもしれないと言う事を完全にスルーして、気付かないふりをしながら先へと進んで行った。

しかしここから出口まではかなりの距離がある。

しかも道と言えるのは今歩いている場所だけなのでここから逸れると帰れなくなるかもしれない。


そして俺の前には暴力的でヤル気に満ちた奴らが待ち構えている。

さっきは前哨戦にすらならなかったのでこれからが本番と言っても良いだろう。

俺はSソードを抜くとクオナが最近になって追加してくれた特殊モードを起動させた。

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