192 安倍家 ②
俺はお茶を啜って煎餅を齧りながら戦いが始まるのを待っている。
しかし、すぐに始めるのかと思っていると周りの奴等が札をもって何かを呟いている。
すると周囲が結界で覆われ術者も同じように結界に包まれた。
しかし俺達の周りには結界が張られていないので流れ弾が飛んで来れば自分で防ぐ必要がある。
離れようにも奴らが張っている結界に閉じ込められているので下手に出る訳にもいかなそうだ。
「皆、トイレは大丈夫か?」
「大丈夫よ。」
「だいじょ~ぶ!」
「いざとなれば携帯トイレを・・・。」
「行きたくなったらすぐに言う様に!」
旅用に携帯トイレは作ってあるのでその事だろうけどこんな人前で使わせる訳にはいかないので、もしそれでも使うならここに居る男共の首を刎ねるか目を潰す必要がある。
でもそれなら結界を破壊した方が簡単なのでちゃんと言う様に注意しておいた。
しかし周囲の奴等から笑い声が漏れ聞こえてくるのでそちらへと視線を向けた。
すると口元を袖で隠しながらこちらに侮蔑を含んだ視線を向けている。
「我ら安倍家の秘術であるこの結界から出られると思っているらしいぞ。」
「これだから愚かな平民は困る。」
「どの道あのままでは巻き込まれてタダでは済むまい。」
「あの者達の泣きながら許しを請う姿が見られるのも時間の問題だ。」
どうやら奴らはこの結界に余程の自信があるみたいだ。
きっと複数人で協力して術を使う事で強固な結界を作り上げているのだろう。
しかし現代でハルアキさんが張ってくれていた結界と比べてどれくらい強いのだろうか?
俺は好奇心から結界に近寄ると見た目はシャボン玉の様な薄い膜へと手を添える。
しかしハルアキさんは結界を何重にもして強化していたけど、この結界は1枚だけしか張られていないみたいだ。
「こんなので本当に防げるのか?」
俺はそう思って指を1本立てて結界に軽く突き立ててみる。
あんなに自信満々に言っているのだからちょっと突いただけでは壊れたりしないだろう。
「アッチョウ!」
『バキ!』
「ヤベ。」
すると水面に指を入れるくらいの抵抗を感じたかな、と思うと結界に穴が開いてしまった。
ただ修復能力もあるのか焦って指を抜くと穴は簡単に塞がっていく。
そして、その様子を見ていた周りの奴等から自信に満ちた声が上がった。
「何か変な音がしたが大丈夫かね?」
「貴様程度ではこの結界に傷すら付けれんよ。」
「「「ハハハハハ!」」」
どうやら結界に穴を開けた所は俺が陰になって見えなかったみたいだ。
しかし一時的にでも破られた事にも気付かないとはこいつら大丈夫なのか?
ハルアキさんなら誰かが結界に触れただけでも気が付いていたけどな。
てっきりこの時代の方が優秀な術者が居ると思ってたけど間違いだったみたいだ。
それにしてもさっきまで俺に怯えていたのに結界に入った途端に態度が大きく変わっているので、ここはちょっと自信を粉砕してやろうか。
「ハル。頼むから大人しく座っていてくれないか。」
「分かってるよ。」
どうやらハルアキラには俺が結界に穴を開けた事が分かっているようだ。
そして、この場に居る者の中で1人だけ同じように気付いている者が居る。
そいつに関しては前言を撤回しておく必要があるだろう。
「それでは始めるぞ!」
「先手は譲りますよ。」
ハルアキラは神将の中から玄武を選ぶと他の3体を後方に下がらせた。
微妙に俺と距離を取っているように見えるけど、きっと観戦の邪魔にならないように気を使っているのだろう。
「フン!玄武は確かに五行では水に当たる。俺の呼びだした火蜥蜴では手も足も出んだろう。しかし、お前のそれが本物ならばの話だ!」
父親は火蜥蜴に命令を下すと足を一歩前に出して片手を上げ、ハルアキラを指示した。
その姿はまさに何処かで見たトレーナーにそっくりなので母さんが見たら声に出してツッコミを放ったことだろう。
「火蜥蜴、火炎放射だ!」
「ギャア~~~!」
「あれ?」
俺の耳がおかしくなったおだろうか?
今一瞬、現代用語が聞こえた気がしたけど気のせいだろうか。
そして火蜥蜴は口から炎を吐き出してハルアキラへと襲い掛かった。
てっきり玄武に放つとばかり思っていたのに息子に対して容赦がない奴だ。
「ははは!お前が避ければ後ろの仲間が巻き添えを喰らうぞ。」
「そうみたいですね。」
しかしハルアキラは何の躊躇もなくその場から動いて攻撃を躱すと炎はそのまま俺に向かって一直線に飛んでくる。
すると父親の方もまさかここまで呆気なく躱すとは思ってなかったのか、その顔が驚きに染まっている。
しかし攻撃を止める気はないらしく火蜥蜴に命令をする様子もない。
「仕方ないか。『フッ!』」
俺は向かって来る炎に対して蝋燭を吹き消す様に短く咆哮を放つと炎を粉砕した。
しかし予想以上に相手の攻撃力が低すぎたようで、これでは防御のために放った咆哮が炎を突き破って火蜥蜴まで届いてしまう。
その結果、火蜥蜴は俺の咆哮を飲み込んで腹を破裂させてしまった。
『ボン!』
「うおー!何が起きたのだー!」
その瞬間、父親は爆発に巻き込まれて横へと吹き飛ばされてしまい結界に激突した。
周囲では何が起きたのか理解が出来ておらず、驚きと焦りの声が洩れている。
その中でハルアキラは俺に呆れた視線を向けて来るけど、あれは明らかにお前が避けたのが悪い。
俺はどちらかと言えば被害者になるので文句があるならあの程度の攻撃は正面から対処しろ。
それにしても12神将もヘナチョコだったけど、普通の式神はそれ以上のようだ。
父親は少しして立ち上がり再び懐から札を取り出して呪文を唱えた。
どうやら戦意は失っていない様で次の式神を呼び出すみたいだ。
「我と契約せし水の霊よ。我に従い眼前の敵を打ち滅ぼせ!」
すると今度は水で出来た蛇が姿を現した。
もしかすると蛟とかいう奴かもしれないけど、一度倒された式神はすぐには呼べないようだ。
そして形を整えたミズチは体をくねらせ、口を大きく開けて威嚇する様に牙を剥いた。
「さあ仕切り直しだ!お前も式神を選ぶが良い!」
どうやら火蜥蜴の件は無かった事にするみたいなので図太いと言うか呆れた行動力だ。
その頭の回転をもう少し理解力に回せば今の事態は回避出来る筈なんだけど、きっとあそこまで言ってしまったので意地になっているのだろう。
するとハルアキラは玄武を下げると青龍を前に来させた。
「私は青龍で行きます。仕切り直しなら先手は再び譲りましょう。」
「後悔するなよ!たとえ青龍を模した式を使い五行で木の属性が有利だとしても、術者の力量が無ければ意味がないのだ!その事をこれから教えてやろう!」
確か五行では水は木に力を与えるはずだ。
それを覆し術者の実力で勝って見せると言っているのだろうけど戦う前から勝利宣言とはその自信は何処から来るのだろうか。
「さあミズチよ!水鉄砲を喰らわせてやれ!」
さっきから人気ゲームに出て来るのと同じ技名ばかり出て来るので、もしかして翻訳か何かがおかしな効果を発揮してるのだろうか?
でもこの時代だと鉄砲って言ったら強力な兵器だから名前として付いていてもおかしくは無いか・・・。
しかし攻撃が迫る間にも何だかデジャブを感じるのは気のせいだろうか?
ただしミズチの水鉄砲は今度こそ真直ぐに青龍へと向かって行くので余裕を持って防げるだろう。
どうやら俺の心配は気のせいだったみたいなので、今度は大人しく見守る事が出来そうだ。
「ははは、式神が避ければ後ろの仲間が巻き添えを喰らうぞ。」
ああ、ハルアキラが横に避けたから今はその位置に青龍が陣取ってるんだったな。
だからアイツが避けると俺達に当たるんだけど、あの攻撃を受けても父親の言葉が確かなら力が増すはずだ。
その事から考えればこの攻撃を避ける筈はない。
『ヒョイ。』
「避けるなよ青龍!」
まさか避けるとは考えていなかったので咄嗟にツッコミが飛び出してしまった。
しかし、このままだと俺に直撃してミズメが濡れてしまう。
それを回避するために俺は魔法て小石を作ると石化攻撃のスキルを加える。
そしてミズチに向かってその石を飛ばすと向かって来る水を弾き飛ばし、そのまま本体の頭を吹き飛ばした。
しかし体は水なのでそのまま倒れる事はないけど、その体が急速に石化し見事なオブジェへと変わった。
「な、何が起きたと言うのだ!青龍ならば木の属性だ。弱点である土の属性は使えないはず。おのれハルアキラ!1対1の決闘に2体目を使ったのか!」
すると父親は顔を怒らせてハルアキラに言い掛りを始めた。
しかしハルアキラはそんな父親とは反対に冷静な対応を行う。
「よく見てください。私の呼び出した式神は青龍が木、玄武が水、朱雀が火、白虎が金です。結界内にはこの4体しか居ないのはお分かりでしょう。私には土の属性を操る手段はありません。」
そう言ってハルアキラはこちらにチラリと視線を向けて来る。
その目は先程までよりも更に冷たいけど、今回も巻き込んだのはお前らだろ。
俺は降り掛かる火の粉・・・ではなく水を払っただけだ。
するとハルアキラは諦めた様に視線を前に戻すと1つの提案を口にした。
「申し訳ありませんがそこの4人を結界の外に出してもらえませんか?本音を言えば1人だけ邪魔なので」
(邪魔とか言うな。)
「フン!もしや大口を叩いておきながら、その者等を護りきる自信も無いのか。やはり貴様はその程度の者よなあ。」
きっと挑発のつもりなんだろうけど父親は俺達を弱みとして利用する気でいるみたいだ。
どうやら思っていた以上のクソ親父であるらしく、この時代の両親を思い出してしまう。
しかし先日会ったハルムネが立派な父親だったので碌でも無さが際立ってしまっている。
もしここで、アケとユウが僅かでも不快そうな反応を見せていれば、俺自身が容赦なく踏み潰していた事だろう。
それにしても不可抗力だとしても式神が2体も倒れてしまったので次はどんな奴を出して来るつもりなのか気になる所だ。
「こうなっては仕方ない。あれは使いたくなかったが最後の手段だ。」
そう言って父親は懐から黒い札を取り出した。
その札には血文字のような赤いインクで文字が書かれ他とは違う異様な雰囲気を発している。
どうやらあれが最後の式神で間違いは無さそうだ。
父親は札を手にすると反対の手の指を噛み切って血を出すと札に押し付けた。
その様子にハルアキラは目を見開いているけど父親は構う様子は無く呪文を高らかと唱える。
「蟲毒によりて生み出されし外法の式よ。我が身と引き換えに敵を滅ぼせ!」
「父上!それはかつて晴明様が封じ、使用を禁止した式ではありませんか!もしや封印を解いてしまわれたのですか!」
「ハハハハハ!今はあの時とは大きく違うのだ。術も当時よりも更に発展し今の俺なら確実に使役できる!」
すると札に付いた血が吸われる様に消えて行くとそこから黒い炎が燃え上がった。
そして炎は巨大に膨らむと次第に形を変えていき異形の魔物へと姿を変える。
その姿はまるで不定形のキメラと言えば良いのか、まるでスライムの様に形を自在に変え、所々から他の生き物と思われる腕や足が突き出している。
その手足も虫の様だったり水掻きがあったりと様々なので魔物か妖のものだろう。
どうやら蟲毒という呪法によって複数の存在がごっちゃになって混ざり合っているみたいだ。
そして、その中央に巨大な目を作り出すとギョロリとハルアキラに視線を向ける。
「ハハハ!やったぞ。俺はとうとうあの晴明を越えたーーー!」
父親は上を向いて高らかに笑い凄い嬉しそうだけど、息子相手にガチで殺しに来るような危険な式神を呼び出すとは呆れて言葉もない。
しかし、その肝心の式神だけど呼び出された直後はハルアキラを見ていたのに今は父親へと視線が釘付けになっている。
ここは食に詳しいミズメさんに、あの目が何を意味するのか聞いてみるのが良さそうだ。
「ミズメはあの視線をどう見る?」
「あれは前菜を眺める目だと思うよ。どう見ても物足りなくて不満そうだけどね。」
「ハルアキラを見ていた時は?」
「そちらはメインディッシュを前にした時と同じかな。きっとあの式神は美味しい物を後にするタイプだと思う。・・・て、そんな事言ってるとあの人食べられちゃうよ!」
さすが食に関してだけ言えばここに居る誰よりも上を行くだけはある。
俺からは目が動いただけにしか思えないのに凄い洞察力で考えまで読み取っている。
でもミズメの言う通り、あの式神はスライムの様に地面を這いながらゆっくりと父親の背後へと移動している。
それに体中から触手を生やすとそれが何かの腕に変わり標的へと伸ばして行く。
そして目の下の辺りに横の亀裂が入ったかと思うと、そこが開いて巨大な口となった。
恐らくあのまま放置すれば父親は一飲みにされてしまうだろう。
しかしアイツは「我が身と引き換えに敵を滅ぼせ!」と言っていたので、もし自分の命を代償にして呼び出したのなら当然の事だ。
出会って1時間も経過していないのにその行いは目に余るものがあり、俺から言わせるとまったく助ける気が起きない。
しかしハルアキラは溜息をついて呆れながらも別の気持ちを抱いている様だ。
「危ないですよ父上。」
そう言いながらハルアキラは父親の許へと向かって行く。
その間に4体の12神将はその姿を変えてハルアキラの体に装着され、戦闘態勢へと入っている。
それにしても、ここだけ抜き取ると本当にカッコ良い。
しかし父親の方はいまだに自分の状況に気付けていないのか、ハルアキラの行動に驚愕し声を荒げた。
「術者を狙うとは卑怯だぞ!正々堂々と式神同士で戦え!」
確か最初に術者本人を攻撃したのはアイツの方だと記憶しているけど俺の覚え違いだろうか。
周りの奴等も耳を手で塞いでいるし、母親の方に至っては頭に手を当てて頭痛に耐える様な仕草をしている。
こんなのが父親ならカズタカがあんなに歪んだ育ち方をしてもおかしくない気がしてきた。
しかし、そんな事はあの式神には関係が無い事なので、奴は触手から作り出した手を使って父親の四肢を掴むと指を肉に食い込ませ骨を粉砕する。
「は?・・・ぎゃーーー!!何が起きたのだー!」
「父上、すぐに助けます。」
ハルアキラは腰の刀を抜くと、どうすれば式神に食われる前に助け出せるかを考えている。
既に掴まれている場所は10ヵ所を超え、それらを切り取り助けていては手遅れになる。
それならば既に手遅れな部分を切り取り命を最優先にする決断を下したようだ。
但し術者は印や足運びによって術を使うため指の欠損だけでなく四肢も必要不可欠と言える。
それらを失うという事は力を失うに等しく、これまで積み上げてきた事を失う事に等しい。
しかし、ハルアキラはそれよりも更に命を最優先させ、躊躇なく行動に移した。
「父上、許されよ!」
そう叫ぶと同時に刀を走らせ手足を一瞬で切断すると胸倉を引っ張って食われる直前に救い出した。
そして、そのままの勢いで父親を俺に向かって放り投げてくるので、素早くテーブルを片付けると机の端へと手を掛ける。
「どうか頼む!」
「はいはい。それくらいならこっちでどうにかしておくよ。必殺 ちゃぶ台返し!」
流石に何処かの野球馬鹿な父親の様に座卓を飛ばしてしまうと投擲となって殺してしまうので畳返しの様にして受け止める留めておく。
それに別の方法でミズメ達のプレゼントは準備できたけど相談には乗ってもらったからので借りは返しておく。
ただし、ここではポーションは使わずに止血程度に魔法で回復させるだけだ。
そのため父親は痛みにのた打ち回りながら絶叫を上げているけど、少しは痛い目にあった方が良いだろう。
少し五月蠅いけど反省させるためには意識を刈り取ったり魔法で眠らせる訳にはいかない。
それにこの状況を見ても周りの奴等は結界を解くつもりが無さそうなので助けも来ないだろう。
「こっちはどうにかしておいたからお前は存分に戦え。」
「感謝する。」
とは言っても式神との戦闘は継続中でハルアキラは向かって来る触手を次々に切り落としている。
その間に奴は手に入れた父親の手足を口に放り込んで飲み込むと、次のターゲットをメインディッシュであるハルアキラに移した。
すると式神は切り落とされて床に転がっている自身の肉片へと触手を伸ばした。
そして触れると同時に形が崩れて一体となり、再びハルアキラへと襲い掛かってくる。
このままだといつまで経っても戦いは終わらず、どちらかの体力が尽きるまで同じ事を繰り返す事になる。
しかしハルアキラはレベルが上がって通常の何倍も体力があると言っても回復系のスキルを持っていないので継戦能力には限界がある。
それに手数も足りていないし時々でも攻撃を受けている。
今のところは12神将が護ってはいるけどそれもどこまで継続できるかは分からない。
するとハルアキラはそれに気付いたのか一旦後方へと退避すると懐からそれぞれ違う5枚の札を取り出し印を結んだ。
「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ア・ビ・ラ・ウン・ケン・ソワカ。」
するとその内の1枚が水の鳥に変わり式神へと襲い掛かる。
しかし、その攻撃は複数の腕に阻まれ傷すら付けられず、水の鳥も呆気なく叩き落された。
ハルアキラはそれには頓着せずに印を変え、別々の鳥を作り出すと再び式神へと放つ。
それは木、土、鉄、火とそれぞれに五行を示している様だ。
そして、それに対してもっとも効果があった攻撃は火であり、焼けた所は爛れて動きが悪くなるだけでなく傷の治りも遅い。
どうやら奴の弱点属性は火のようで、それを探る為の攻撃だったみたいだ。
しかし、そうなると朱雀をどうにかして攻撃に使うことになる。
そう思っていると、どうやら違う様でハルアキラは新たな札を取り出した。
「12神将が1人、南東の守護神謄陀よ。我が声に応えてこの場に現れよ!」
すると朱雀を超える激しい熱量を放ち謄陀がその身を顕現させた。
その姿は真っ赤な蛇であり、周囲へと殺気をばら撒いている。
確かにコイツの火力ならあの式神を焼き尽くす事も出来るだろう。
しかし、この土壇場で契約が成功させられるのかが問題になる。
するとハルアキラの体に張り付いている四聖獣が声を上げたので、あの姿でも会話が可能らしく説得を手伝うみたいだ。
「悪い事は言わん。早めに契約をしておくのだ!」
「そ、そうだぜ。そうしないと奴が・・奴が来るー!」
「さあ、あなたも早く契約して友達になりましょう。」
「聞いた話だけど玄武と朱雀は酷い目にあったみたいよ。きっとあなたも契約しないとそうなっちゃうわ。強がるのは止めた方が良いのよ。」
「ハハハハハ!何を言い出すのかと思えば腰抜け共が!」
(お前には腰が無いから抜けないけどな。)
すると謄陀はハルアキラに視線を向けると声を上げて笑って見せた。
その強気な態度からよっぽど自分の強さに自信があるらしい。
そして何らかの方法でその問題の人物の方向を知らせたのか謄陀の視線がこちらへと向けられた。
「・・・。」
「よう、謄陀。また圧し折ってやろうか?」
「・・・ギャーーー!出たーーー!」
すると謄陀は半狂乱になりハルアキラに巻き付いた。
なんだか高温で焼かれながらメキメキ音がしているけど大丈夫なのだろうか。
「や、奴が!奴が来るー!俺はもう折られるのは御免だー!」
「うむ、そうなると話は早いな。奴はこのハルアキラとは知り合いらしいぞ。」
「契約すればアイツは仲間だぜ。」
「お、俺はお前と喜んで契約するぞ。だからとっとと用を済ませて帰らせてくれ!」
「・・・分かった。」
なんだか巻き付かれているからか、ハルアキラの返事が少し不満そうに聞こえる。
この土壇場で無事に契約を成功させたのに一体何が不満だと言うのだろうか?
しかし謄陀は燃え上がるとその姿を刀に変えてハルアキラの手に収まった。
「行くぞ!」
そして気を取り直したのか刀は炎を纏うと、それが蛇の様に伸びて式神に巻き付く様にして襲い掛かる。
「ギイャーーー!!」
すると式神は初めてその口を食べるため以外に使い苦痛の声を上げた。
ただ結界内の気温が上がってしまうのでシールドを重ね掛けして俺達を隔離しておく。
これでミズメも火傷したり脱水症状になったりはしないだろう。
しかし周りの奴等はそういう訳にもいかなかったみたいで、額からは滝の用に汗を流しながら1人また1人と倒れて行く。
どうやら力を使い果たした奴から気を失っている様だ。
まあ、死んでも胸の痛まない奴等だけど一応は助けておくことにする。
そのためシールドを使ってハルアキラと式神を囲み周囲から隔離してやる。
後は放っておいても大丈夫だろう。
しかし、その中で母親だけは涼しい顔で湯気を立てるお茶を飲んでいる。
しかもその姿から見てやっぱり唯者ではないみたいだな。
そしてハルアキラの方もそろそろ決着が着きそうだ。
やっぱり弱点属性が分かれば強力な式神だとしても有利に戦えるということだろう。
それに謄陀の火力は俺も少しは認める程に強いのも確かだ。
恐らくこの式神は幾つもの属性を有しているのだろうけど、さっき父親が言っていた様にそれを上回ってダメージを与えている。
このまま放置したとしても、もうじき燃え尽きて消えるだろう。
そして予想通り謄陀の炎に焼かれて式神は完全に燃え尽き、それと同時に無益な争いが終わり勝者が確定した。




