191 安倍家 ①
ハルヤが戻る少し前には既に問題が発生しようとしていた。
その者は少し離れた横道の陰からミズメの様子を観察しており、声を掛けるタイミングを窺っている様だ。
しかし、その周辺に目を向けた時に1人の男で目を止めると作戦や段取りも投げ捨てて飛び出した。
「我が声に応え現れよ!12神将が1人、南東の凶将『謄蛇』!我が刃となりて全てを焼き尽くせ!」
「その呪文は神将の!まさかカズタカなのか!?」
そこに現れたのは昨夜にハルヤと戦いあっさり負けた安倍カズタカである。
既にその手には炎に包まれた剣が握られ怒りに染まった目をハルアキラに向けている。
「貴様がどうしてここに居るのだ!」
「こ、ここは俺の故郷でもある。帰って来て何が悪いんだ。」
「逃げ出した奴が何を偉そうに言っている。ここにはもうお前の帰る家は無い。」
しかし、そこまで言ってカズタカはミズメに視線を向けるとニヤリと笑った。
「そうか。その女を手土産にして家に戻ろうとしているのか!」
「お前は何を言っているんだ?」
「しらばっくれるつもりか!その女が俺達が捜している贄である事は既に分かっている。大人しく引き渡せば今日だけは大目に見てやるぞ!」
「や、止めろ!そんな事をすれば大変な事になるぞ!」
ハルアキラは既に師であるゲンから少なからずハルヤにとってミズメがどういう存在なのかを聞いて知っている。
それに覚醒した自分に当てはめれば手を出した結果がどうなるかも一瞬で理解が出来る。
しかもつい昨日、その実力も身をもって体験しているのでハルアキラとしては弟を本気で心配していた。
「何を訳の分からない事を言っている。それにお前の意見など元から関係ない!お前も安倍を名乗るなら現当主である俺に従うんだな。」
そう言ってカズタカはスープを配っているミズメへと向かって行った。
そして器にスープを注いで渡そうとしていた手を掴み問答無用で連れて行こうとする。
しかし、そののせいで手に持っていた器が地面に落ちてしまい、それを見たミズメは地面を見詰め次にカズタカへと鋭い視線を向けた。
「あなた何をしたか分かってるの!?」
「黙れ!たかだか器一杯の食い物が何だと言うのだ!?」
しかし次の瞬間にはミズメの手はカズタカの頬を打っていた。
その痛みに呆然とすると次にはミズメの叱責が飛んでくる。
「アナタはこれの大事さが分からない!たった一杯でもそれで助かる命もあるのよ!食べ物の大事さが分からない人ならこの場に来ないで!」
そう言ってミズメは零れた野菜を拾おうとしゃがみ込んだ。
しかし、それを見てカズタカは怒りのゲージが振り切れ手に持った剣を頭上へと掲げた。
「女風情が偉そうに説教するな!」
「待てカズタカ!」
しかし制止の声は届かずに剣は容赦なく炎を吹き出しミズメへと振り下ろされた。
俺は急いで戻ると前方で炎が燃え上がるのが視界に飛び込んで来た。
そして、その下にはミズメが蹲って地面に手を付いているのが見える。
そのため俺は次の1歩で地面を踏み砕きミズメと男の前に滑り込んだ。
そして男の顔を見てそいつがハルアキラの弟である事を認識し持っている武器が神将の変化した物だと断定する。
恐らくはこの攻撃を生身であるミズメが受ければ骨も残さず消えてしまうだろう。
その結論に至った直後に剣を素手で握って受け止め噴き出る炎は咆哮を放って上に散らした。
自分のスキルで剣を受け止めた手にかなりのダメージを受けたけどミズメの安全には変えられない。
俺は剣を握ったまま姿勢を正すと目の前にあるカズタカの顔を睨みつけた。
「おい、俺の大事なミズメに何してるんだ!?それに止めなかったら確実に死んでたぞ!」
「き、貴様は昨日の!もしやお前もそいつの仲間か!?」
「今は俺が質問をしているんだ。お前は聞かれた事にだけ答えろ!」
俺は剣を横に逸らして相手の顔に頭突きを喰らわせる。
その1撃てカズタカの額が割れて血を流すけどそんな事は知った事じゃない。
それよりも問題なのはコイツがどうしてミズメに剣を向けたかだ。
「そ、そいつが俺に口応えしたからに決まっているだろ!俺は安倍家を纏める当主で選ばれた人間だ!その俺に女が説教などして良い筈がない!」
どうやら俺が来る前にここで何かあったみたいだけどコイツとミズメの位置や足元に散らばる器や野菜などからある程度の事は予想できる。
きっとコイツがスープの入った器を落として怒られたのだろう。
ミズメは食べる事に貪欲だけどそれは辛い飢えを経験しているからで、目の前で食べ物を粗末にされれば怒って当然だろう。
たかだかその程度で相手を殺そうとするとはどんな教育を受けていたんだ。
「そうか。お前がお前の価値観で俺の大事な者に手を出すなら。俺も俺の価値観でお前を断罪しても文句はないよな。」
俺はそう言って謄陀の剣を握り潰して圧し折った。
剣から悲鳴のような声が聞こえて来るけど今の俺には関係のない事だ。
そしてギリギリの理性の中でスキルの『手加減』を使用すると顔面に拳を叩きつける。
「ば、馬鹿な・・ハベシ!」
その1撃でカズタカは10メートル以上吹き飛び地面を転がって停止する。
恐らくは謄陀の剣が身体強化をしている為にこれだけの打撃が放てたのだろう。
そうでなければ殴り飛ばされるのも半分以下になっていたはずだが、俺の怒りはこの程度で収まるほど温くはない。
「起きろ弟!」
「お、弟・・と・・・言うな!」
「ならクズ!お前には殴られる痛みがどういうものか、これからしっかり理解してもらうからな。」
俺はカズタカの襟を掴んで持ち上がると顔を回復してやり再び拳を叩きつけた。
「グヘ!・・・ま、待て!お、俺は父上にすら殴られた事が無いんだぞ!」
「ならその分は俺が殴っといてやるよ。」
「ま、待て・・ガハ!」
こう言う痛みを知らない奴が力を手に入れると他人の命を簡単に奪う。
それに自分の常識に囚われて考えを押し付け、周りの意見を聞こうとしない。
特にこの時代は身分差が大きくて命が軽いからこういう奴が幾らでも居る。
ただ、もしかするとコイツの親も叱り方を知らなかっただけかもしれない。
だからここで俺がしっかりと叱ってやって痛いとはどういうことなのかを教えておいてやる。
「まだ寝るには太陽が高いぞ!」
俺は回復しては起こして殴るを繰り返し、人間にとっての痛みがどういう意味を持つのかを徹底的に教え込む。
それに周りも俺を止めないのと、こうして殴っていると列の流れがとてもスムーズなので意外な所で役に立っている。
それにしてもさっき100人程の心を折るのが良い練習になった。
アレを参考にして精神的に限界手前まで追い込んでやり、そこで一旦休憩にする。
「ちょっと休憩にするか。」
「はいお兄ちゃん。タオルをどうぞ。」
「こちらはお茶です。」
「ありがとう。」
アケとユウからそれらを受け取りお礼を言うと満足したようにニコニコしながら戻って行った。
すると入れ替わる様に今度はミズメがこちらにやって来る。
少し頬が赤いけど足元に寝ているクズに叩かれたとかじゃないらろうな。
「大丈夫かミズメ?」
俺はそう言いながらミズメの顔に手を当てて怪我が無いかを確認する。
しかし見える所に目立った傷は無いので念の為に強めに回復魔法をかけておいた。
流石にここで服を脱げと鬼畜な事は言えないからな。
「ハル・・・ありがとう。私は大丈夫だから。」
「それなら良かった。」
俺は安堵で胸を撫で下ろすとミズメの顔から手を離した。
どうやらミズメの顔が赤いのは殴られたからではなかったみたいだ。
「それで、そいつはどうするの?」
「コイツはハルアキラの弟らしいから後でお家訪問で話をしてくるよ。」
「気を付けてね。」
ミズメは微笑むと首元に縛ってあるスカーフを撫でて戻っていった。
それに皆も頑張ってくれているのだから俺も少し頑張らないとな。
俺は気分を一新して再開しようとすると今度はハルアキラが止めに入って来た。
「トラブルを招いた身としては言い難いのだが、そろそろ許してやってくれないか。」
「え?始めたばかりじゃないか。」
「あ~・・・それまでにも徹底的に殴ってただろ。」
「そうだったか?」
・・・ミズメに怪我は無かったみたいだし・・・そろそろ気も済んだから止め時としては丁度良いかもしれない。
もし治せると言ってもアイツが僅かでも傷付いていれば怒られると分かってても何度か死ぬまで止める事は無かっただろう。
カズタカも少しは反省をしているはずなので最後に回復してやってから地面に捨てておいた。
それに人の列も無くなってきたので状況から見て炊き出しも終了と言ったところだ。
そうなると片付けが終わればハルアキラの実家へ家庭訪問に向かわなければならない。
「ハルアキラ、これからお前の実家に案内しろ。」
「え!・・・あ、暴れるなよ。」
「暴れない暴れない。(相手次第だけど。)」
「暴力も無しだからな!」
「もちろんだ。俺は話し合いに行くだけだからな。(これも相手次第だけど。)」
「なら俺もそろそろ顔を出そうとは思ってたんだ。ついでに付いて来てくれると助かる。」
「ああ、大船に乗った気でいてくれ。」
「それは心強いな。(まさか泥船じゃないよな。)」
そして俺達は鍋を洗って片付けを終えてから当事者であるミズメを連れて安倍家の屋敷へと向かって行った。
もちろん俺とミズメが一緒の時点でアケとユウも同行しており、京都に来てからは初めてのお出掛けになる。
なのでとても嬉しそうに俺と手を繋いで歩き、その横にはミズメも居るので途中で露天を見つけては寄り道をしている。
そして、しばらく歩くと目的地へと到着したようだけど、ハルアキラは実家だと言うのに警戒している様な動きで慎重に屋敷の扉を潜って中へと入って行く。
ハッキリ言って何も知らない人が見ると強盗に間違われそうなので止めてもらいたい。
「何やってるんだ?」
「この屋敷には色々な術によって守られているんだ。下手に入ると術にハマって前に進めなくなる。」
しかし、そう言って進むハルアキラはさっきから同じ所をグルグルと回っているだけだ。
どうやら自分で言っておきながらさっそく術に引っ掛かっているらしい。
きっとこれは現代でハルアキさんがよく使う迷いの結界だろう。
何でも幻覚を見せながら方向感覚を狂わせることで先に進めなくさせる術らしい。
でも家には到着したのでハルアキラはもう居なくても困らない。
「アイツは放置して中に入ろうか。」
「うん!」
「そうですね。」
「このままにしても良いのかな~?」
「でも皆は耐性が無いから俺の手を離すなよ。」
この時代に来て状態異常の能力を持っていたのはユリくらいだ。
他には毒を持っていそうな奴はいたけど幻惑系の能力を持っているのはいなかった。
迷子になって泣き出しそうなのはミズメくらいだけど、アケとユウなら俺を探すために屋敷を吹き飛ばす事も躊躇しないだろう。
流石にそれは困るので逸れない様にしないと大変な事になる。
そして両手はアケとユウで埋まっているのでミズメは俺の腰辺りの服を後ろから掴んで付いて来ている。
それにしても廊下を歩くだけで等間隔に高価そうな壺や花瓶が置いてある。
俺には価値がまったく分からないけどこれが術の核であり色々な幻覚を相手に見せるみたいだ。
これを放置すると逸れた時に大変なのでしっかりと処分(回収)しておく必要がある。
例え術の媒介でも収納が出来るのでこれで大丈夫だ。
「ミズメは大丈夫か?」
「うん。なんだか大丈夫そう。」
「そうか。でも念のためにしばらくは離すなよ。」
「うん。話さないよ。」
もしかすると俺が鑑定出来なかったスカーフの効果の中に幻術を無効にするものが含まれているのかもしれない。
ただ、ここで下手に感謝するとまた何かを催促されそうなので深くは考えないようにしておいた。
「カ~カ~・・・。」
「もう来たか!」
そう思って声の方向を見るとただのカラスが飛んでいるだけだったので流石にちょっと神経質になり過ぎかもしれない・・・。
そして、そんな俺を見てミズメは俺の服を引いてくるので後ろへと視線を移した。
「もしかして朝の奴!?」
「いや、ただのカラスだった。だからそんな顔をせずに涎も垂らすな。」
そんなにあの八咫烏に魅力を感じているのか?
これだとミズメの前では合わない方が良さそうなので次に会った時にでもそれとなく注意しておこう。
あちらも会う度に食欲に染まった視線で見られたくないだろう。
「それにしても誰とも会わないね。」
「そうですね。敷地を更地にしてみますか?」
「コラ!そんな悪い事を言うとお仕置するぞ。」
「お仕置ですか!それは即ち1対1での個人授業ですね!」
「あ~ユウだけ狡~い。私も悪い子になるから個人授業してもらいたいな~!」
「・・・。」
こ、これが反抗期と言う奴だろうか!?
少し前までは言えば素直に聞いてくれていたのにそれが通用しない!
ここは2人の希望通りに個人授業・・ではなく、別々にしっかりと話し合う必要があるのかもしれない。
美味しいオヤツとお茶を準備して時間を掛けてじっくりと話し合おう。
それに常識人枠としてミズメに同席してもらった方が良いのだろうか?
そして、そんな事を考えていると背後の通路からドタドタと慌ただしい足音が迫って来た。
どうやらようやくハルアキラが幻術を突破して追いついて来たらしく、廊下の先から向かって来る姿が見える。
その頭には白虎の兜を被っているので12神将の力を借りたらしく、耐性を得たからという訳ではなさそうだ。
それにここまでの間にあった術は力技で解除しているので追いつくのも簡単だっただろう。
「やっと来たか。」
「お前はどうして人の家に来ておきながら一番重要な俺を置いて行くんだ!」
「重要?」
そういえば俺達は付き添いという名目でここに来ていた事を思い出した。
まさか自分の実家に帰って来てから数秒で術に囚われるとは思っていなかったので完全に忘れていた。
「そうだったな。お前が最重要人物だった。」
「完全に忘れてたよな!」
「そんな事は・・・無いぞ。」
「その間はなんだ!?」
「そんな事よりも奥で団体さんがお待ちだ。早く行って挨拶して来い。」
「なんだか話を逸らされた気もするがこっちも目的を優先させるしかなさそうだな。」
そう言ってハルアキラは先頭に立つと先程と違い術に惑わされる事無く進んで行くので、あの調子ならここで迷う事はもうないだろう。
こちらもアケとユウが先程までと違って危なげなく歩いているので耐性を獲得したみたいだ。
そして歩いていると大きな池の中心に建つ離れに到着した。そこは道場のような板張りの作りになっている、
中には白を基調とした服を着た者達が何人も集まって座っており、揃ってこちらへと視線を向けてくる。
その中央には50歳くらいの男女が並んで座っており、きっとこの2人がハルアキラたちの両親で間違いないだろう。
しかし厳しそうに見えるのに子供が2人共こんな感じなので、もしかして見た目だけなのだろうか。
ハルアキラはここに入る前に兜を取って消し去ると、そんな彼らの前に行ってカズタカを下ろし傍に居た者に預けてからその場に腰を下ろした。
ただ雰囲気はそんなに良いとは言えないので茶菓子どころか水すら出そうにない。
仕方ないので俺達は室内に入るとそこに昔懐かしき作りの古ぼけた座卓と自前でお茶とお菓子を用意する。
何か視線が集中しているけど、俺を含めた4人の中で気にする人間は誰も居ない。
ハルアキラに関してはチラリと見て溜息を吐いただけで視線を戻しているので短い付き合いでもこちらの事を少しは理解しているようだ。
「俺達の事は気にしなくても良いから好きなだけ話し合ってくれ。」
「ねえ、久しぶりにプリンが食べたいかな!」
「あ!私も私も~。」
「私はクリームが乗ってるのが良いです。」
「1人だけ抜け駆けなんて狡いわよ!」
「なら私はクリーム増し増が良い~!」
「ハハハ!しょうがないな~。今日は頑張ったから特別だぞ。」
それにしてもなかなか話が始まらないけど何をやっているんだ?
次に俺の話もあるのにこのままだと日が暮れてしまうじゃないか。
「おい、お前ら!ここを何処だと思っている!」
「あ~!!」
横に居る白服の奴がいきなり怒鳴って来たので睨み返して強烈な威圧を叩きこんでおく。
するとそいつは動きを止めて胸を押さえるとその場でバタリと倒れてしまった。
「俺の話は後回しにしてるんだ。良いからハルアキラとの話を終わらせろ。それとも俺と最初に話して無事で居られると思ってるのか?」
すると周囲の視線が倒れている男へと向けられ揃って表情を引き攣らせる。
そんな中でハルアキラだけはいつもよりも畏まった感じに話を切り出した。
「お久しぶりです。」
「久しいな。どうして今頃になって戻って来た。」
「いえ、久しぶりに戻って来たので顔見せとご報告に。」
「報告だと?」
すると父親の眉がピクリと動いた。
もしかするとハルアキラが真っ向から意見するのは珍しのかもしれない。
それとも久しぶりに会った息子の変化にでも気付いたのだろうか。
ハルアキラの方も父親の変化に気付いているだろうに完全に無視をして話を続けた。
「はい。好きな人が出来ました。ただ、その相手が父上の良く知る相手なので。」
「もしや宣戦布告でもしにきたのか?未熟者で家から逃げ出したお前がか?」
「そうなります。彼女は必ず私が娶らせて頂きます。」
すると父親は怒りの表情を浮かべて立ち上がるとハルアキラに向かって腰に差していた扇子を抜いた。
「どうやら旅に出ている間に口の利き方を忘れた様だな。貴様程度の才で私に勝てると思っているのか!」
「私の相手はカズタカだと思っていましたが?」
「黙れ!あの娘は今後の安倍家を更に繁栄させる為には必要不可欠な存在だ!それに12神将との契約も出来ない者にアイツと張り合う資格はない!」
「そうですか。ならば私には既に資格があると言う事ですね。」
「何?・・・まさか!?」
ハルアキラは立ち上がると懐から4枚の札を取り出して頭上に掲げると呪文を唱える。
「我と契約せし12神将よ。我が声に応え顕現せよ。」
すると札は四方へと飛んで空中で停止し、ハルアキラを囲むように朱雀、青龍、白虎、玄武が姿を現した。
その姿は最初に見た時と同様に威厳があり、契約直後の哀れな様子は微塵も感じさせない。
それが功を奏したのか周囲からは驚きと称賛の声が上がっている。
これがあるからここに入る前に白虎の兜を着けずにここに入ったようだ。
「あ、あれは四聖獣の12神将ではないか!」
「さすが安倍家の長男だ!」
「やはり一人旅があの方を成長させたようだ!」
そして冷たい目を向けていた周囲の態度が変わり、それを受けて四聖獣たちも得意そうにポーズを取り始める。
しかし、その様子に父親の方は気に入らなかった様で手に持っていた扇子をハルアキラへと投げ付けた。
すると既に予想していたのかハルアキラはそれを余裕をもって片手で受け取り視線を父親に向ける。
「勝負だハルアキラ!貴様に12神将との契約が出来る筈はない!どうせ偽物か何か仕掛けがあるのだろう。前当主である私がそれを暴いてくれる!。」
どうやら扇子を投げ付けるのがこの家で言う所の決闘のしきたりみたいだ。
ただ誰だって扇子を顔面で受けたら痛いので決闘でなくても喧嘩にはなるだろう。
しかし勝負というけど何をさせようと言うのだろうか?
まさか式神を使ってサーカスみたいにパフォーマンスでもさせるのか。
そう思っていると父親の方も札を取り出して呪文を唱えた。
「我と契約せし炎の霊よ。我に従い眼前の敵を打ち滅ぼせ!」
すると札が燃え上がりそこから炎の蜥蜴が姿を現した。
その大きさは玄武に届くほどでまるでサラマンダーを思わせる姿をしている。
どうやら、あちらは蜥蜴の式神で戦うみたいだ。
「さあ始めるぞ。お前も使う式神を1体選ぶのだ!」
まさかガチでやると負けそうだから1対1で戦える状況を作り出した訳じゃないだろうけど12神将って名前負けしていて弱いのに大丈夫だろうか。
ハッキリ言えばかなり心配だけど勝負を受けた以上は勝算があるんだろう。
なので俺はその場でお茶を啜りながら勝負を観戦する事にした。




