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190 プレゼント

目を覚ますと今日もアケとユウが布団に潜り込んでいた。

それによって2人の体温が伝わってとても心地良い気分になる。

しかし今日は何時もよりも長く寝てしまっていた様で既に太陽は顔を出しきってしまい外は明るく多くの人が既に動き始めている。

空気には昨日ミズメ達が作った豚骨スープの匂いが混じり誰かが準備をしてくれているみたいだ。

俺は目を開けると両腕を抱き込むようにしている2人へと声を掛けた。


「おはよう。」

「おはようお兄ちゃん。」

「おはようございます。」


そう言って顔を上げると楽しそうに笑顔を向けてくれるので今の俺ならこれだけでご飯3杯は行けそうだ。

それに笑顔で返すと上半身を起こして背伸びをして体の疲労を確認してみる。

どうやらしっかり寝た事ですっかり回復したみたいだ。

そして同じように起き上がった2人を見て俺はアイテムボックスからリボンを取り出した。


「2人ともよく動くからこれで髪を纏めると良いよ。」


するとアケはリボンを受け取ってニンマリと笑い、ユウは珍しく子供の様に無邪気な笑みを浮かべた。


「ありがとう。大事にするからね。」

「私も毎日使います。」

「喜んでくれて俺も嬉しいよ。」


2人はお礼を言うと同時に俺に抱き着いて額を擦り付けて来る。

こんなに喜んでくれるならもっと早くに何かを送れば良かったかもしれない。

ちなみにこのリボンの強度は俺が引っ張っても破れない程に強いので毎日使っても使えなくなるのは何年も先だろう。

俺は家族との団欒に心に残っていた疲れも消え去り次にミズメの所へと向かった。


「起きろミズメ。」

「あ、おはようハル。」

「今日は目覚めが良いな?」

「そうだね。なんだか気分も良いし体もとても軽いみたい。」


もしかしてミズメに集めた力が体に負担を掛けていたのだろうか。

そうだとしたらイザナミ様には感謝をしておかないといけないな。


「カ~カ~!」

「あ、三本足のカラスだよ。」

「本当ですね。口に手紙を咥えています。」

「食べたらダメな奴かな?」


アケの言葉で声のしている方向に視線を向けると確かにカラスが襖を空けて立っていた。

しかもユウの言う通りその足は3本あり、黄泉で見た奴よりは小さいけど八咫烏で間違いないだろう。

奇形である可能性もあるけど、それだと自分で大きな襖を開けている事に説明が付かない。

しかし、この状況でミズメはいつも通りのマイペースで食べてはダメかと聞いて来る。

どうやら力が封印されたとしてもこの食欲に変わりは無いみたいだ。


八咫烏はトントンと跳ねる様に部屋に入って来るとまるでミズメを避ける様な動きで俺の傍へとやって来る。

どうやらコイツもミズメの危険性に気付いて本能的に避けているみたいだ。

神の使いすら恐れさせるとはその食欲は神がかっているのかもしれない。

そして傍にやって来た八咫烏は口に咥えた手紙をポトリと落とすとミズメを警戒しながら俺に視線を向けて来た。


「イザナミ様からのお手紙よ。早く読んでくれるとありがたいわ。・・・早く読んで!」

「なんで焦りながら2回も言うんだ?」

「誰だって食べられたくはないでしょ。」


そう言って片方の翼を広げるとそれをミズメへと向ける。

そこには獣の目をして腹の虫で唸り声を上げるミズメが八咫烏を真剣に見つめていた。

どうやらコイツが喋っている事は完全にスルーされているようで、寝起きに来てしまったのもタイミングが悪かった。

この時間はミズメが最も空腹を感じているので冬眠明けの熊の様に見境が無くなっている時がある。

仕方ないので鹿煎餅・・・ではなく、ミズメ煎餅を与えて気を逸らす事にした。


「ちょっと話をするからこれでも食って待ってろ。」

「『グルルル~!』・・・。」

「頼むから腹の虫で返事をするなよ。」

「・・・は~い。」


そして、ちょっと残念そうな返事が返って来た所で煎餅を与えて朝食までの繋ぎにさせる。

これでやっと落ち着いて八咫烏と話が出来そうだ。

それにしても声が昨夜の八咫烏と同じなのでサイズは自由に変えられるのだろう。

神使になりたてのリリーですら人に変身できたので当然かもしれない。

そして手紙を開いてその内容を確認すると俺の首は自然と傾いていく。


「これはどういう意味なんだ?」

「書いてある通りよ。」


書いてある通りと言われても内容はとても簡潔で意味を履き違える余地もないものだ。

だからこそ意味が分からないのだけど、逆さまにしても火で炙っても内容に変化は無い。

しかも火に突っ込んでも燃える気配はないので普通の紙でも無いみたいだ。

まさか手紙が燃やされて葬られる事を回避するために特別な紙で書いたわけではないよな。

他にも水は弾くし風で皺も出来ず、石礫を放っても石が砕けるので何気に紙一枚だけど凄いな。


「そろそろ気は済みましたか?あちらも食べ切りそうなので早く話を進めたいのだけど。」

「ああすまない。ミズメ、これは追加だから味わって食えよ。」

「今日は気前が良いのね。」

「ちょっと不思議な手紙を貰ったから気分が良いんだ。」

「それなら有難く頂くわね。」


これでまた少し時間が出来た。

ただ書いてある事はとても単純なのでこの紙の料金分は払っておこう。

書いてある内容もそのまま受け取るなら『感謝をするなら物を寄こせ。』だからな。


「それで、お前が来たって事は渡せば持って行ってくれるんだろ。」

「その通りよ。ただ、敢えて言うならばあの方は万能薬・改を欲しがっているわ。」

「やけに具体的だな。作ったのも昨日が初めてなのに知ってる事に驚きだ。」

「今のあの方の趣味は地上の者を観察する事ですから。」

「見られているのが俺でなければ良さげな趣味だな。」

「・・・。」

「やっぱり見られてるのは俺だよな。そうでないとそんなピンポイントな要求は来ないからな。」


仕方ないから俺は解毒ポーションを出すとそれを強化して万能薬を作りそれに浄化を付与して行く。

ちなみに蘇生薬を強化すると1本で体力の限界近くまで消耗するけど解毒ポーションを強化する事や付与にはそんなに消耗が無い。

きっと強化する物に応じて体力の消費量が変化するのだろう。

なので今の俺でやっとなら他の誰かが同じスキルを覚えたとしても中級ポーションの強化は不可能である可能性が高い。


「良し完成っと。これを持って帰ってくれ。」

「確かに受け取ったわ。それであの方に何か伝言は有る?」

「覗き見は程々にとだけ。」

「黄泉には娯楽が無いのでそれは不可能ね。それに見ている間はあの方も大人しくしてくれているので我々も助かるわ。」

「・・・そうですか。」


きっとあちらからすれば俺の醜態を見てゲラゲラ笑ってるのだろう。

もしかして移動時間を短縮させたのもイザナミの口利きかもしれない。

普通の旅ではないけど移動には数日掛かるので面白味はないからな。


そして八咫烏は俺から10本の万能薬・改を受け取ると半開きの襖を通って外へと飛び出して行った。

その時の動きは一切の無駄がなく飛び去る速度は俺を運んでいた時よりも遥かに早い。

あれはここから急いで離れたかったのか、それともイザナミの許へと急いでいるのか。

どちらにしてもこれで俺もようやく今日が始められそうだ。


「朝飯を食べたら炊き出しをするぞ。」

「「は~い。」」

「食べてるだけじゃない所を見せてあげるわ!・・・あれ?こんなのいつの間に?」


どうやら、やっと手首に結んでおいたリボンに気が付いたみたいだ。

食べカスが落ちても汚れた様子は無いので良いけど、ミズメの場合は汚れた口元をあれで拭いてしまう事も考えられる。

ここでしっかりと言い聞かせておかないと本当に罰が当たりそうだ。


「そのリボンはとても大事な物なんだ。それがあれば力を抑えて普通に暮らせるようになる。絶対に御手拭きにしたり雑巾にしたりするなよ。」

「さ、流石にこんな綺麗な布をそんな事には使わないわよ。」


とは言っているけどさっき手に巻いてあるリボンを見た時に口元を拭おうとしていたのを俺は見逃していない。

その程度で破れたり汚れたりはしないだろうけど、どこかに置き忘れたら大変だ。

最低でも邪神との決着が着くまでは失くさずに持っていてもらわないと困る。


最初は髪を束ねるリボンにしてもらおうと思っていたけど大きさも十分あるのでスカーフにしてもらおうと思う。

それに常人では解けないくらいにしっかりと縛っておけばしばらく無くす事もないだろう。


「失くさない様にここにしっかり結んでおくからな。」

「ちょっと!こんなに硬く結ぶと解けないわよ!」

「しばらく我慢しろ。首輪にもなって丁度良い。」

「く、首輪って!そ・・そんなに私を独占したいの!」

「ああ、したい。だからしばらく着けてろよ。」

「・・・う、うん。えへへ。独占されちゃった。」


すると急にミズメが上機嫌になって顔を赤くしながら笑い出した。

もしかして首輪を着けたいお年頃なのか?

出来ればアケとユウが真似をしたいって言い出すと大変だから程々にしてもらいたい。


「お兄ちゃん。」

「兄さん。」

「ダメです。2人はそれをちゃんとリボンで使いなさい。」

「「ブ~ブ~!」」


2人は何処で覚えたのか口を尖らせてブーイングを送って来る。

きっと力を得た時の知識として含まれていたんだろうけど、どんな基準でこんな事が含まれているのだろうか?

仕方ないので2人のリボンを俺が毎朝結ぶ事で納得してもらった。

まずは今日と言う事で髪をブラシで梳かしてからリボンを結んでやる。

前からそれなりに髪が長かったけど今は朝日の光を反射して輝きを放ちとても綺麗だ。

それにそろそろ長さもバラついて来たので時間がある時にでも切り揃えてやらないといけない。


「良し出来たぞ。」

「ありがとうお兄ちゃん。」

「次は私です。」

「よ~し。それじゃあ髪を整えるからな。」


2人の髪に癖は無いので整えるのは簡単だ。

寝癖も付かないのでブラシを通すのもすぐに終わらせる事が出来る。

そしてユウにもリボンを結んでやると嬉しそうな笑みを浮かべたので、どうやら無事に機嫌は回復したみたいだ。


「そろそろ朝飯を食べて炊き出しを始めるぞ。」

「「「は~い。」」」


そして食事を食べると女中さんの案内で厨房に向かい、そこで五右衛門風呂のような大きな釜で作られた具沢山な野菜スープを受け取った。

その数は5つもあり、これならかなりの人数に配る事が出来るだろう。

足りなければ仕方ないので醤油味の出汁の素でも使って即席の野菜スープを作るしかない。

スキルの手加減を覚えた今ならきっと包丁も使えるはずなので手伝いも出来るはずだ。

まさか野菜にまでこのスキルを使うとは思わなかったけど、台所を壊さないためにも普段から使い慣れる必要がある。


そして今回の名目は天皇からの施しと言う事にしておいた。

そうでなければ俺達みたいにどこの馬の骨とも分からない余所者が無料とは言え炊き出しをしてもなかなか人が集まらない。

後奈良天皇も町でのイメージが上がるとして名前を使う事を快く了承してくれた。


ちなみに今回はそれ以外にも協賛『九十九商店』みたいな文字があったりとモモカさんがちゃっかり宣伝に使っている。

なのであそこのスタッフも手伝ってくれているし、各地を回って人と接する事に慣れているハルアキラも強制参加させてある。


そして準備を整えるとさっそく開始となった。


「後奈良様からの施しだよー!食いたい奴は器を持って並びなー!」


ハルアキラは開始と同時に声を張り上げて周囲へとアピールを始めている。

すると次第に人が集まり始め列を作り始めた。

中には施しを受けなくても良さそうな者も交じっているけど一々注意していると限が無い。

それに1時間もしない内に人の長い列が出来たのでそれの整理なども大変になっている。

すると昼前くらいになると昨日した約束を思い出した。


「ちょっと手伝いを確保してくる。」

「分かったわ。早く戻って来てね。」


ミズメも参加しているけど昨日までの様に特に誰かから意識されている様子はなく、あのリボンはしっかりと効果を発揮しているようだ。

俺は一旦その場を離れると昨日ゴロツキと出会った場所へと向かって行った。

すると居るわ居るわとその総数は100人を超えており、昨日が30人だったので今日はその3倍以上だ。

それ以外に20人以上が少し離れた所でひっそりとその光景を眺めているので、あれは昨日の段階で何もしないで解放してやった奴等だろう。

アイツ等は俺の事をしっかりと覚えているからあの集団に加わっていないようだ。

きっと生き返らせた奴がお友達に声を掛けて集まってくれたのだろう。

俺はまずその離れている20人の奴等の後ろに回ると声を掛けた。


「よく来たな。」

「ヒャ~~!こ、これはですね!」

「俺達は止めたんですが馬鹿な奴らが人を集めちまって!」


すると俺が突然現れた事で多くの奴等が腰を抜かしてその場に座り込んだ。

やっぱりコイツ等には俺に敵対する意思は無いみたいなので、炊き出しをしている所へと行ってもらい手伝ってもらう事にした。


「すぐそこで俺の仲間が炊き出ししてるからすぐに行って手伝って来い。こっちは俺の方でどうにかしておく。」

「わ、分かりやした。」

「ここはお任せしやす。」


そう言って男達は逃げる様に駆け出して行ったので、アイツらが居れば少しは人員不足も解消されるだろう。

後はあそこの奴等をどうするかだけど、そう言えば今の時期なら尾張は小さな地域で人員が不足してるはずだ。

アンドウさん辺りに声を掛ければ良い感じに使ってくれるかもしれない。

そうとなれば天は急げと言うことで、さっそく連絡を入れて話をしてみようと思う。


そして電話を掛けると数秒で通話が繋がった。


「アンドウさん、活きの良いのが100人くらい居るけど要りますか?」

『その言い方だと一般兵だな。適当に反抗心を折ってくれればこちらで引き取ろう。尾張の兵隊は既に翼によって粗方の訓練を終えてるからな。その中に教官の素質がある奴も居るからそいつ等に任せれば大丈夫だ。』


多分だけどアンドウさんが任せられるって人材だから滅茶苦茶厳しい人たちなのだろう。

俺の様に優しい指導官ではないだろうから今度は逆に可哀相に思えて来た。

でも心を折っておく必要があるから今回は俺も厳しく行かないといけない。


「それなら引き取り先が決まった所でちょっと確保しときますね。」

『やり過ぎるなよ。心を折るだけで良いからな。絶対に磨り潰すなよ。』

「当然じゃあないですか。俺はこう見えても優しい教官で通してるんですから。」

『・・・。』


あれ?

なんで返事が返って来ないんだ。

もしかしで電波が悪いって事があるのかな?


『まあ、程々に手を抜けよ。』

「分かってますって。」


どうやら電波は回復したみたいなので返事をしてから通話を切ると集まっている連中に歩み寄って行く。

すると俺の姿を見た奴らは楽しそうな笑みを浮かべると、それぞれの得物を抜いてこちらへとやって来た。

どうやら先に行かせた連中が言っていた様に、ただ友達を集めた訳ではなさそうだ。

しかし昨日あれだけやられたのに学ばないとはワンパターンにも程がある。


俺が3メートルまで距離を詰めてから足を止めると、あちらは周りをグルリと囲むように配置に着いている。

もし俺が唯の人間ならこの時点で負けは確定だろう。

しかし、こうして全員が俺を取り囲んでいるという事は網に掛かった魚も同然で、お誂え向きに左右には高い壁があって前後の道を塞げば逃げ場はなくなる。

ただ、もしかすると俺の勘違いかも知れないのでまずは言葉を交わして確認を取る事にした。


「お前らに就職場所を用意したんだけど話を聞く気は有るか?」


すると男達は互いに顔を見合わせると大きな声でゲラゲラと笑い始め、100人もの男が蛙みたいに合掌すると騒音でしかない。

現代ならご近所さんから通報、あるいわ苦情が来るレベルで明らかな迷惑行為だ。

ただ、ここの周辺はゴロツキの住処になるくらいなので誰も住んでは居ないようで怒鳴り出て来る者も見当たらない。

居るとしてもコイツ等みたいな宿無しな奴等だろうから、列に加わる可能性がある。

そして、ひとしきり笑うと手に持っている武器を向けて来た。


「コイツ何言ってんだ?」

「もしかして頭がおかしいんじゃねえか?」

「おい、コイツは本当に金を持ってんのか?」

「女も見当たらねーし吹かしこいてんじゃねーだろうな!?」


どうやらコイツ等の目的は金と女みたいだけど、俺が奮発して金を配ったからその噂でも聞きつけたのだろう。

それに女とはミズメで間違いないだろうからコイツ等は明らかに俺の敵対者で間違いない。

まさか幼いアケとユウまで対象としてるというなら別の意味においても肉体言語による教育的指導を行っても問題は無さそうだ。

本当にスキルで『威圧』『恐怖』『回復魔法』を覚えておいてよかった。

なので俺は早速逃げ道を塞ぐために前後の道に石壁を作り出して封鎖してやる。

あえて『ゴゴゴゴゴ~!』と音を立てながら作ってやったのでそれを見た男達が驚きと焦りの表情を浮かべている。

そして、慌てた感じに俺に視線を戻すと、震えを必死に抑えながら刃の先が首に触れるほどの距離まで突き付けてきた。


「テメー何しやがった!」

「舐めた真似したらぶっ殺すぞ!」

「は~・・・。もう1度だけ言うぞ。就職して真面目に働く気は有るか?」

「ケッ!何を分かんねー事をほざいてやがる。」

「良いからやっちまって金だけ奪おうぜ!」

「女よりも酒と飯が早く食いてーからな!」


そして男達の何人かがそれに賛同し俺に向けている刀や槍に力を入れ串刺しにしようと動きを見せた。

統制が取れていないのは見るからに分かるけど、そいつ等がどんなに力を入れても刃は進まず、次第に片手で持っていた得物を両手で握る様になった。

それでも刃は動かず、体勢を崩して足の裏を滑らせながら必死になってもビクともしない。

その異様な光景に後ろで見ていた奴らも刀を抜いて斬り掛かって来たりと頑張るけど俺を動かす事すら出来なかった。

すると次第に表情が焦りから恐怖へと変わっていくけど既に退路は塞がれており何処にも逃げる事が出来ない。

中には武器を捨てて身軽になり壁を登ろうと必死になっている奴も居るけど、優しく壁の高さを追加してやるとその顔に絶望が見え始めた。


「お前ら覚悟は良いな?」

「ま、待ってくれ。ちょっとした出来心だったんだ!」

「出来心も100人集まれば立派な犯罪だ。それをしっかりと体で思い知れ。」


軽く『恐怖』のスキルを使っているので全員が必要以上に俺を恐れている。

そこへ更に威圧をブレンドしてやり心と体の両方へと負荷をかけてやる。

そして骨身に染みてもらうためにスキルを強め、手には以前に鹵獲した人では扱えないと一目でわかる棍棒を握り締める。


「こ、こいつ人間じゃねえ!」

「誰か助けてくれー!」

「ここから出してくれー!」


すると男達は恐慌状態となり外に向かって助けを求め始めた。

しかし、この周辺にはそんな事に反応する奴が居ないからコイツ等が人を襲うのに利用しているので声に応える奴が居るはずない。

誰かが居たとしても聞き流され、自業自得か馬鹿に思われるのがオチだ。

それに、もともとそういった輩が居ると分かっているのに真面な奴らが通るはずもないく、真面でない奴等も炊き出しに釣られて居なくなっている。

だからコイツ等はここに集まった時点で既に結果は決まっていたという訳だ。


俺はそんな男達に容赦なく棍棒を振り回して薙ぎ払って行く。

『手加減』のスキルも良い仕事をしてくれているので手足が飛んだり死んでいる者は居ない。

それでも骨が折れたり手足が変な方向に曲がる奴が殆どだ。

俺はそいつ等を魔法で回復させながら5セットほど繰り返してやったところで空からアンドウさんがやって来て声を掛けてきた。

どうやらお迎えが来たみたいだけど、まだゾンビみたいに立ち上がって素手で向かって来る奴らが居る。

でも来たばかりだから時間が無い訳ではないだろうから少しは待ってくれるだろう。


「もう少しで終わると思うから待っててくれ。」

「・・・お前はこの状況でまだ足りないと思うのか?」

「え?だってまだ立って向かって来てるだろ。」


今も回復させるとゾンビみたいに「あ~あ~」言いながら向かって来ている。

きっと100人も居れば現代で出会ったあの不良少年みたいに気合の入っている奴らが混ざっていたのだろう。

それもあと数人なのでもう少しだけ待ってもらいたい。


「いや、あれは既にそういう次元の問題じゃないだろ。どう見ても全員が心を折られているどころか砕かれた上に石臼で粉にまでされているぞ。」

「え?」


言われてみれば確かに向かって来る奴らも立ち上がってもすぐに倒れてしまった。

さっきまでは起きてすぐに殴り倒していたから気付けなかったみたいだ。


「分かったみたいだな。」

「そうみたいだな。」

「・・・まあ、後で薬を使ってその辺の事を曖昧にしておけば大丈夫だろう。忍び用に秘伝の良い薬があるからな。」

「それって危ない薬とか言わないか?」

「危ない奴に比べたら薬の効果は魔法やポーションで消せるから優しいと思うぞ。」


そう言われると返す言葉もないので引き取ってくれるなら何も言わずにお任せしよう。


「それなら俺は炊き出しを手伝って来るからここは任せた。」

「まあ、コイツ等なら昨夜の奴等と違って扱いやすいから任せろ。」


俺はアンドウさんに後の事を任せると作った壁を砂に戻して散らし、皆の許へと戻って行った。

一応ミズメの力は封印してあると言ってもアイツが美人なのには変わりはない。

荒くれを20人程送ったのである程度の奴等には効果があるだろうけどそれを超えると対処できる人間は限られる。

アケとユウだとやり過ぎてしまうかもしれないのでこんな所で時間を無題する訳にはいかない。

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