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188 黄泉の女王 ②

俺はイザナミ様の依頼を受けて3人の魂と一緒に町の中を進んでいる。

屋敷には結界が張られているので最初は通り抜けられるかと思ったけど出入りが出来る様で安心した。

そして魂は同じ方向へと進み、次第に周囲の人の数が減り始め、もともとあまり人は出歩いていないけど今では本当に疎らになっている。

しかし完全に日が沈んで夜になっているとは言っても通り過ぎる人の表情が必死過ぎる。

まるで何かから逃げているかの様で純粋な疑問が湧いてくる。

すると少し進んだ先に立札があり、そこに何かが書いてあるのを見つけた。


「ん~と・・・。何とか読めそうだな。」


何でもこの先に橋があり、夜になるとそこに3人の鬼女が出るらしい。

そして通りかかった男を誘惑して何処かに連れ去ってしまうそうだ。

連れ去られた男で帰って来た者は居らず、被害もそれなりに出ていると書いてある。

しかしこういう時こそ組織の出番だろうと思っているとこの立札を立てたのが組織の人間の様だ。

しかし各地で魔物の被害が続出しているのでこの町には組織の戦闘員が殆ど居ないらしい。

そのため陰陽師が代わりに問題の解決に当たっているみたいだけど、既にそちらも何人か犠牲を出しているみたいだ。

これは組織が各地の魔物を相手にしている事で他の勢力が衰退してしまっていると見て良いだろう。


「でも鬼女が3人にこちらの魂が3人分か。何か関係があるかもしれないな。」


この状況で3という数字が多いのか少ないのかは分からないけど、今のところ手掛かりはこれだけだ。

魂が向かう先も同じなのでまずはここから調べてみようと思う。


そして関係性を調べる為に再び魂の案内に従って橋がある方向へと進み始める。

すると100メートルほど進んだ先に川があり、等間隔で柳が植えられていた。

既に全ての葉が黄色く色づき風が吹いてサラサラと軽い音をさせながら落葉している。

そのため地面は葉の絨毯で覆われ、少し歩くだけで足音が出てしまう。

そして橋へと近付くとその中央に3人の女が集まり、両手を広げて道を塞いでいた。

ただ服装はこの時期にしては薄く、白い衣に体のラインがハッキリと見えている。


すると魂たちは彼女たちの頭上に飛んで行くとそこでユラユラと旋回を始めた。

どうやら魂たちが求める頭蓋骨はこの3人の女が持っているようだ。

しかし、体のラインやシルエットから女と思っていたけどよく見ると全然違い、その顔は人ではなく般若の様な姿をしている。

でも現代でアズサの背後に幻視した般若に比べれば怖さは無いに等しい。

そして一番気になる所はその首から下げられている人の物と思われる頭蓋骨だ。

アクセサリーにしては悪趣味なので明らかに本物だろう。

状況から考えてあれは魂となって飛んでいる彼女達の頭部で間違いなさそうだ。

それにコイツ等もさっき倒した蜘蛛と一緒で邪神の手下ではないみたいだ。


「さて、どうやって取り戻すか。用があるのは骨だけでコイツ等には用がないんだよな。でもここは俺達が世話になっている屋敷から近いし手っ取り早く始末するか。」

「おい、お前!ここで何をやっている!!」


しかし、どうするか考えていると背後から強い口調で声が掛けられた。

てっきり唯の通行人かと思っていたけど、考えてみるとここは危険な場所に指定されているので用もなく来るはずがない。

俺はそう思いながら振り向くとそこにはテレビで見た事のある服装をした男が、険しい表情で俺を睨んでいた。

あの服はこの時代の貴族が着る狩衣とか言うんだったか。

色は黒くて白い袴の様なズボンを履いている。


それにしても初対面のはずなのに好戦的な奴だ。

その体からは殺気とも取れる気配が漏れていて返答によっては俺を敵と認識しそうな雰囲気をしている。

とは言っても危機感知に反応はなく、もしこの男が陰陽師だとしても大した奴ではなさそうだ。

俺は鬼女たちを後回しにしてそちらに体ごと振り向くと聞かれた事に答える。


「俺はそこの3人が首から下げている物に用があるだけだ。それが終われば好きにすれば良い。」

「・・・何を言っている!そんな物が何処にあると言うのだ!俺が来たからにはその女性たちには手を出させんぞ!」


男は俺が言った事の真偽を確認する様に鬼女に視線を向けたけど、どうやらその目には首から下げている頭蓋骨は見えていないみたいだ。

しかもハッキリ見ても人間の女性と認識しているという事は予想していた通り幻術を使って幻を見せていると言う事になる。

俺が見ている鬼女の姿だと誰も捕まらないだろうから、普段は美女にでも化けていて相手を騙しているに違いない。

そうでなければコイツ等の事を知りながら捕まる男も居ないので犠牲者はもっと少ないはずだ。


「お前はコイツ等に騙されてるぞ。」

「そいつ等は外見的特徴からこの辺を騒がしている妖で間違いない。お前の目的が何であれ、そいつ等は俺の獲物だ!」


どうやら俺が勘違いをしていたらしく、女性を守るナイトとしてではなくコイツもちゃんと仕事としてここに現れたようだ。

幻術には騙されて入るけど、聞き込みによる証言を集めてコイツ等が化けた姿を割り出して犯人を特定したのだろう。

そして男は懐から札を取り出して胸の前で構えると呪文を口にし始めた。


「我が声に応え現れよ。12神将が1人、南東の凶星『謄蛇トウダ』。我が刃となりて全てを焼き尽くせ。」


札が炎に包まれると1本の剣が姿を現し、その剣を手にすると刃は炎を纏い周囲を赤く照らし出した。

それにしても、こうして12神将を呼び出せるという事はコイツがハルアキラの弟なのかもしれない。

名前は聞いていないけど聞けば名乗るくらいはしてくれるだろうか。


「俺はハルアキラの知り合いだ。弟であるお前の事は少しは聞いているが名前を教えてくれないか。」

「お前はあの放蕩者を知っているようだな。だが俺を奴の弟と呼ぶな汚らわしい。俺の名前は和鳳カズタカだ!」


まさか兄の事を躊躇なく放蕩者と言うとは思っていた以上の嫌われているようだ。

しかし勝手に家を飛び出して旅に出れば仕方がないだろう。

それにアイツが当主になる予定だったのにそれを放り出して弟に押し付けたとも聞いている。

たとえそれで当主の地位が転がり込んだからと言ってそれを本人が望んでいたかは分からない。

俺だったらそんな面倒な事は絶対にお断りして他の誰かに譲っていただろう。


そしてカズタカの怒りに呼応するように剣の火力が上がり炎が大きく燃え上がった。

もしあの剣で鬼女を斬ると身に付けている物は例外なく燃え尽きて灰になってしまうだろう。

そうなれば頭蓋骨も手に入らず、蘇生にも不可能になるかもしれない。

今回の件は邪神が絡んでいるので上級蘇生薬を使えば可能かもしれないけど、それは最後の手段として出来る限り使いたくないのでここはまず対話から入る事にした。

肉体言語の方が遥かに楽で簡単だけど知り合いの弟なら少しは穏便に終わらせたい。


「まあ、落ち着け。」

「黙れ!俺に命令するな!」


別に命令ではないのに頭に血が上って冷静さを失っているらしく、こちらに剣を向けて構えを取っている。

そして、その場で剣を横へ振り切ると灼熱の炎を飛ばして来た。

どうやら直接斬るだけではなく、纏う炎を飛ばして遠距離攻撃も可能みたいだ。

しかし火力は下がっているみたいだけど、これでも半分は燃え尽きてしまうだろう。

避けるとアイツ等に直撃してしまうので正面から受け止めるしかなさそうだ。


「やれやれ、仕方ないな。」


俺は右手を前に出すと更に親指で中指を抑える。

そして、衝突の直前で力を溜めた中指を弾き、デコピンを炎に向けて放った。

炎はそこを中心にして弾け飛び周囲へと飛び散って花吹雪の様に広がっていく。


「馬鹿な!」


しかし、その光景に驚愕の表情を浮かべたカズタカに余波で発生した空気の塊が襲い掛かり後ろへと弾き飛ばしてしまった。

そして衝撃で意識を失うと謄陀の剣は炎に包まれ消えてしまう。

どうやら12神将は契約者が気絶すると形が保てずに消えるみたいだ。


「さてと。俺も用件を済ませるか。」


後ろへ振り向くと3人の鬼女は逃げる事無くその場で立ち尽くしている。

ただし殺気はなく、顔から受ける印象とは違い穏やかにすら感じる。

これは何か理由があるのかもしれないのでもう少しだけ付き合う事にした。


「俺を連れて行け。」

「お願い。」

「あの子達を。」

「助けて。」


すると3人は俺を囲むと腕を掴んで空へと浮かび上がった。

そして、そのまま空を飛んで町から出ると山奥にある火事で荒れ果てた寺へと向かって行く。

何処の寺かと思い入り口にある寺の看板を見ると名前が削り取られて最初に書いてある『大』という漢字しか読む事が出来ない。

恐らくは他の寺と同様に何者かによって燃やされたのだろう。


神は皆で協力して邪神と戦っているというのに人間はそれらの名の下に無益な争いをくり返している。

仏教や密教のどちらでも良いけど、何処に他人の信仰を認めず妨げて良いと書いてあるのだろうか。

そんな事をしても喜ぶのは邪神だけなので止めてもらいたいものだ。


そして中に入るとそこでは焚火が焚かれ、その横には修繕された建物がある。

それに焚火の傍には数人の男達が炎を眺め穏やかな表情を浮かべてい座っている。

どうやら攫われた人達の様でこの様子なら危害を加えられてはいないみたいだ。

そして俺が鬼女たちと一緒に近寄ると彼らは立ち上がり俺達を笑顔で迎えてくれる。

やはり予想していた通り俺の知らない何らかの理由がありそうだ。


「お前達はなんでこんな所に居るんだ?拘束もされえないし何時だって逃げられるだろう。」

「俺達は体を患ってあの橋の所を彷徨っている所をそこの3人に拾われたんだ。」

「それでここに連れて来られて生活してるって訳だけどよ。なんだかここの水を飲んでると体が元気になってくる気がするんだ。」


そう言って男の1人が鍋に入っている水を汲んで差し出して来る。

俺はそれを受け取り鑑定してみると確かにそこには『治癒の水』と出ている。

飲むと僅かにだけどポーションの様な効果を感じ、こんな物が湧き出る場所があるんだなと初めて知った。

ただ、ポーションに比べると効果はとても小さい。

もし病を治そうとするならこの水をしばらく飲み続ける必要が有るだろう。

それが何ヶ月になるかは分からないけど、これが理由で攫われた人間が誰も帰って来なかったと言う訳か。


そう言えば陰陽師も数人攫われたと聞いたけど何処に居るのだろうか?

そいつらに関してはここに居る男達と違って病に侵されてはいないだろう。

街まで歩いても1時間くらいの距離なので戻っていないのが不自然だ。

それとも戻っている途中で運悪く獣にでも襲われたのだろうか。


「それと陰陽師が数人ここに来ているはずだけど、そいつ等は何処に居るんだ?」

「は?そんな奴等は来てねえぞ。あとここに居るのは小さな子供たちくれえだ。」


どうやら彼らの様子から嘘はついていないようなので俺は鬼女たちにも視線を向ける。

もしかしたら途中で投げ落として殺してしまったという可能性も捨てきれない。

別に知らない相手なので殺したからと言って気にはしないのだけどハルアキラの知り合いかもしれないので確認は取っておく。


「知らない。」

「ここに居る人だけ。」

「野盗だけ殺した。」


鬼の顔で言われると完全なポーカーフェイスなので表情から何かを読み取る事は出来そうにない。

でも嘘は言っていない様な気がするので信じる事にした。

もしかすると体裁を整える為にああやって書いてあっただけかもしれない。

夜になれば誰もあそこへは寄り付かないので嘘をついていようと誰にも分からないだろう。


「それで、皆はあの3人が鬼だって知ってるんだよな?」

「まあ、最初は怖かったがここに連れて来てくれたからな。」

「それに子供の前だとあの顔でも菩薩に思える程に穏やかなんだぜ。」


そう言えば子供を助けてくれと言っていたけど、この男達をここに連れて来たのもそれが目的だろう。

見れば狩った獣や山に自生していそうな茸や木の実などが置いてある。

ここで生活するとなると自給自足となるので今の時期ならともかく子供が冬を生き抜くのは難しいかもしれない。

この時代の俺も冬は食べれる物は何でも口に入れて飢えを凌いでいた記憶がある。

アケとユウには他の家から恵んでもらった食べ物をこっそりと食べさせていたけど1年で一番辛い時期だ。


「それで子供たちは何処に居るんだ?」

「そこの家の中で寝てるよ。もしかして助けるつもりなのか?」

「頼まれたからな。」

「ああ、そうか・・・。」


すると周囲の反応が悪く、灯りが焚火だけというのもあって余計に表情が沈んでいるのが分かる。

それだけである程度の事は理解できたので俺は扉を開けて家の中へと入って行った。

するとそこには床に干し草が敷かれ3人の幼い子供が寝かされている。

ただその体には大きな切り傷があり、状態から息を引き取って長い時間が経過している様だ。

俺は一旦外に出ると男達の元へと戻り状況を確認する事にした。


「子供は3人だけか?」

「ああ、俺達が来た時にはもうあの状態だった。傍には野盗の死体が幾つもあってそれに関しては穴を掘って埋めておいたんだが、あの子らはアイツ等が離さなくて埋葬できてねえ。」

「今もここに居る時は毎日抱いてあやしてるんだ。見てるだけで痛々しいぜ。」


もしかすると彼女たちは野盗に攫われた被害者なのかもしれない。

人の売り買いが密かに行われているので一緒に攫われてここに囚われていてとも考えられる。

それと子供たちに関しては試しに生き返るかを確認してみよう。


俺は再び建物に入るとそこに寝かされている子供たちへと中級蘇生薬を振り掛けてみる。


「・・・やっぱり無理みたいだな。」


しかし助けてと言われているのでここまで来れば見過ごす事は出来ない。

それともあの3人を斬り殺して同じ黄泉に送ってやるのが一番の救いなのだろうか。

子供が生き返ったとしても彼女たちが救われる訳では無い。

もしあの姿を見た子供たちが怖がって泣きだせば傷付くのは彼女達だ

せめて両方を救う手段があればどうにか出来るんだけど・・・。


「あ!そう言えば神聖魔法の効果にアイテムブーストがあったな。」


神聖魔法を取得した時に派生で回復系のアイテムを強化するスキルがあった。

新しく取得する必要はあるけどあと4つはすぐに覚えられるのでここで試すのも良いかもしれない。

出来れば戦闘に役立つスキルを取りたかったけど、これはこれで役に立ちそうだから良いだろう。


俺はアイテムブーストを取ると中級蘇生薬を取り出してスキルを使用してみる。

すると眩暈が襲って来る程の体力を消費し蘇生薬を強化する事ができた。


「これは想像以上に消耗が激しいスキルだな。」


このスキルを蘇生薬の強化に使用するならポーションで体力を回復させる必要があるみたいだ。

ただ、最近は下級だと完全に体力が回復しないので今は中級ポーションを飲んで体力を回復させる。

きっとステータス的に体力が高まったために下級の回復量をオーバーしているからだろう。

ゲームでもよくある事なので何時かはこうなると思っていた。

特にこの辺は恵比寿が手掛けていそうなので、あのゲームオタクなら絶対にこうなる確信もある。


そして強化が終わった蘇生薬を鑑定してみると蘇生が可能な期間が半年に伸びていた。

今迄が1ヶ月と短かった事を考えると6倍となっているのでこれなら使い勝手も良さそうだ。

後はこれをあと2つ作り使用すれば大丈夫だろう。


そして何とか蘇生を終えると建物から外に出て鬼女たちの許へと向かう。


「後はコイツ等だな。」


恐らくは何らかの原因で彼女たちは鬼へと変貌してしまったのだろう。

しかし、子供たちは人間だった頃の彼女達しか知らない。

今後このままでは一緒に暮らすどころか傍に寄る事すら出来ないのでどうにかする必要がある。

それに既に子供たちを生き返らせてしまったので後戻りは出来ない。

俺はこの時になってこちらをどうにか出来ないかを試してからあちらを生き返らせればよかったと間違いに気が付いた。

でも今は上級ポーションは無いのでそれ以外の方法を探すしかない。

俺はステータスを開いて考えながら同時に実験も行った。


「まずは中級ポーションと解毒ポーションを強化してみるか。」


すると中級ポーションでも部位欠損が回復できるようになり、解毒ポーションは万能薬と変わった。

しかし万能薬で回復するのは麻痺や魅了などの一般的な状態異常だけだ。

試しに強化したポーションを一緒に服用してもらったけど効果が無い。

きっと魔物から人に戻そうとするなら効果が足りていないのだろう。

もしかするとポーションとしての効果に加え、浄化の効果も必要なのかもしれない。

だからと言って俺が浄化をしながら飲んでもらっても効果が見られなかった。

ここは失敗覚悟で付与も試してみるべきだろう。

まずは解毒ポーションを強化して万能薬にしてから浄化を付与してみる。

今日は大量の布を犠牲にして付与を練習しているのでやり方自体は慣れたものだ。


「お!成功したな。」


万能薬を鑑定すると無事に浄化の効果が追加されている。

これを万能薬・改とでも名付けておこう。

続いて中級ポーションにも付与をしてみる。


『パリン!』

「こっちは付与を受け付けないな。」


しかし仕方ないかと思いながらまずは万能薬を鬼女の1人に飲んでもらう。

先程から何度も繰り返しているのでこちらも疑わずに小瓶へと口を付ける。


「う・・あーーー!!」


すると顔や体がまるでアイスの様に溶け出してしまった。

俺は急いでその鬼女を拘束し口から強化した中級ポーションを流し込む。

すると溶けていた皮膚や筋肉が回復し、数秒後には人の姿へと戻っていた。


「ちょっと危なかったけど何とか成功だな。でもまさか溶けるとは思わなかった。」


あと少し行動が遅ければ死んでいたのは間違いない。

その場合は骨が残っていれば良いけど全てが溶けていれば蘇生も出来なかった可能性がある。

出来れば自分の体で実験してから試したいけど、こればかりはそうはいかない。

ちなみに人に戻った女性は気を失って倒れている。

この時代では珍しく胸の大きな美人さんなので旦那が生きていれば必死に探しているだろう。

そして残りの2人もさっきの光景を目の前で見ていたにも関わらず、なんだか期待の籠った目を向けている。


「少し待ってろ。次からは2つを同時に飲めば酷い事にはならないはずだからな。」


その後2人も無事に人に戻り子供の居る建物に悲しそうな視線を向けた。

どうやら自分の子供が死んでいる事を理解してしまったのだろう。

しかし、その直後に建物の中から1人の幼い女の子が姿を現した。


「お母さん・・・。」

「あ・・ああ!」


すると女性の1人が目から涙を流しながらその女の子へ向かって走り出した。

どうやらあの子の母親はあの女性の様だ。

それに続いてその横に居た女性も駆け出すと建物の中へと飛び込んで行った。

そして中からは嬉しそうな声と子供の声が聞こえてくる。


そんな中でもう一人の男の子が姿を現し、周囲を見回しながらこちらへとやって来る。


「母上・・・。」


そう言って男の子は俺の横に居る女性の体に手を当てて揺り動かしている。

それに気が付いた女性も目を覚ましゆっくりと瞼を開けた。

そして次第にはっきりと見え始めた瞳に我が子を映し出すとその顔に笑みと涙が浮かび上がる。


「ああ・・私とあの人の愛しい子。これは奇跡なの?」

「母上、悲しいの?」

「うぅん・・・嬉しいのよ。」


男の子はその意味が分からずに首を傾げ、母親はそんな我が子を抱きしめて笑顔でこの奇跡を噛み締めている。

これで万事解決なので、そろそろ本題に入らせてもらっても良いだろう。

もう彼女達にはその首に下げている頭蓋骨は必要がないはずだ。


「そろそろ首にある髑髏を譲って貰っても良いか?」

「え、は・・はい。こちらをどうぞ。」


さっきまでは言葉も短めでハッキリしていなかったけど、今はしっかりと喋れる様になっている。

これなら私生活に戻るのも大丈夫そうだ。


そして他の2人からも無事に回収を終えると収納して男達の許へと向かって行く。


「俺はこれから町に戻るけどお前らはどうするんだ?」

「俺達はここに残ってこの寺の修復と補強をしながら冬を越す事にするさ。」

「さっきは驚いたけどな。どの道、体が治らねーと帰ってもお陀仏だからな。」


どうやら男衆は今の間に食料を蓄えて冬を越すみたいだ。

周りには木も多いし修繕には木を切る必要もあるだろうけど、ある程度の道具は揃っている様なので大丈夫だろう。

お金を渡しても良いけど今は何も無いから結束できているのかもしれない。

下手に渡して諍いの元になってはイケないので適当に芋などの保存に適した食料だけを渡す事にした。


「これは選別だ。代わりにあそこの台車を貰っても良いか?」

「ああ、台車は他にも幾つかあるからな。それよりも食料をありがとよ。」

「気にするな。」


そして話を終えると今度は建物へと向かって行き中を覗き込んでみる。

するとそこには先程の親子が肩を寄せ合い、置いてきた毛布に包まっている。

ただ、このままでは凍えてしまうかもしれないのでカイロくらいは渡しておくべきだろう。


「これを持ってると温かくなるからもう少し頑張れ。今から町に戻れば暖かい部屋を準備してもらえる。」

「でも夜も遅いですし夜道は子供には危険ですよ。」

「大丈夫だ。手は考えてある。」


そう言って全員を外に出すと荷車に乗せていく。


「子供の事は二度と離さない様にしっかり抱えておけよ。」


すると3人の女性からは強い頷きが返って来る。

そして子供たちはそんな母親に笑顔で抱き着き、その温かさに笑みを零した。


「それじゃあ行くからな。落ちないように気を付けろよ。」


俺は荷車を持ち上げるとそのまま木よりも少しだけ高い所を町へ向かって駆けて行く。

それ程速度は出せなくても真直ぐに進めば30分も掛からない。

その後は上の様子を確認しながら誰も落とす事無く天皇の屋敷へと到着する事が出来た。

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