186 12神将 ②
玄武を呼ぶためにハルアキラは筆で紙に何やら書き込むとそれを地面において血を垂らした。
「12神将が1人北の守護神玄武。我が声に応えてこの場に現れよ!」
すると札が光を放ちその上に大きな水柱が上がると、そこを突き破る様にして2メートルを超える亀がゆっくりと姿を現した。
そして、最後に姿を現した尾の部分が蛇になっており、俺達を見るなり鋭い声で威嚇して牙を剥いてくる。
しかしハルアキラは怖気た様子もなく力強い声で玄武に話しかけた。
「お願いだ玄武!俺と契約してくれ!」
「・・・良かろう。ただし条件がある。我に力を示せ。」
すると玄武からは重たい声で条件を突き付けて来た。
まあ言葉だけで契約できるなら誰だって12神将と契約出来ているだろう。
俺達にとってこれは想定の範囲内なのでハルアキラにも慌てた様子はない。
「何をすれば認めてくれる!?」
「我が防御は12神将の中でも最硬に位置しておる。それを突破してみせよ。」
「分かった!」
すると玄武は一瞬顔を伏せ口元をニヤリと歪めたけど俺はそれを見逃さなかった。
温厚で情に厚いと聞いていたが、それは万人に対してという訳ではなさそうだ。
そして玄武は顔を上げると再び元の表情へと戻り自身の前にシールドを作り上げた。
(な、なんだと!あれはもしやA〇フィールドか!!)
正六角形の光る盾が作り出されハルアキラを拒絶する様に浮いており、これは俺も壊せるか試してみたい。
恐らくはツバサさんでも同じ事を考えて現代なら赤か白の特殊スーツに着替えているだろう。
そしてハルアキラは真剣な顔で腰から剣を抜くと鋭い踏み込みで攻撃を開始した。
すると金属同士がぶつかる様な甲高い音が響き渡りシールドが僅かに削れる。
しかし、その跡も2撃目を入れる頃には修復され何度続けても一向に壊せる気配がない。
それを見て玄武の尾である蛇が楽しそうに笑って体をくねらせている。
どうやら本性はかなり陰険な神将みたいだな。
「ハルアキラ。」
「なんだ今取り込み中だ!」
「ちょっと代われ。」
「お、おい!」
俺はハルアキラの肩を掴んで下がらせると玄武の前に立つ。
すると奴は隠す事無くニヤリと笑みを零した。
「まあ、儂は誰でも構わんよ。」
「そうか。その言葉を忘れるなよ。」
俺はシールドの前に立つとその中心へと両手を伸ばす。
そして、ゆっくりと指を差し込むと左右へ広げていった。
「な、何じゃと!」
「ハルアキラの斬撃に傷がつく程度のシールドで威張るなよ。」
本当は少し離れて助走をつけてからシールドを破りに行きたかった。
でもそれをすると勢いだけで破壊してしまうだけでなく玄武まで弾き飛ばしてしまう。
ここはその衝動をグッと我慢してシールドの破壊だけで我慢しておいた。
「ウオォ~~~!」
「ぎゃ~~~~!」
最後に雄叫びだけでもと思って叫んだら玄武が驚いて失神してしまった。
ちょっと楽しくなってスキルが発動してしまい真横を咆哮が通過して地面を抉ったからかもしれない。
それにしてもこんなので最強硬度の盾なのか?
「コイツ使えるのか?」
「いや、ハルが規格外なだけだと思うぞ。」
「でもこれで玄武はゲットだな。コイツは邪魔だからひっくり返して横に避けておこう。」
俺は玄武を持ち上げると空中でクルリと回して少し離れた所に置いておく。
これで次の奴を呼べるだろう。
「次はどうするんだ?」
「そうだな。四神を集めるなら次は白虎か。」
そう言って先程と同じ手順で白虎を呼び出した。
見た目は名前の通りに白い虎で大きさは3メートルはあり体からは雷が迸っている。
「どうやらあの爺さんは呆気なく負けちまったみたいだな。しかし俺はそうはいかねーぜ。俺は1対1での素手の勝負を挑ましてもらう。」
コイツは話が早くて助かるな。
喧嘩っ早いと言うか何と言うか。
しかし、体にはスタンガンみたいな電気を纏っており、しかも爪や牙があるのに素手とは面白い事を言う奴だ。
「なら試しに俺がやっても良いか?」
「試しなら構わねえぞ。死なねえように注意しな。」
すなわち雷も牙も爪も使うんだな。
俺は軽く頷くと白虎と正面から向かい合った。
「それじゃあ行くぜ!」
そして白虎は自らが開始の合図を出すと全身から雷を放ち鋭い爪を振り下ろして来た。
しかし、その攻撃は俺には何の効果も発揮せず、既に麻痺に対する対策は万全だし、この程度の攻撃はたかが知れている。
まあ、お試しと言う事でちょっとだけ手入れをしてやろう。
「爪が伸びすぎてるな。」
そう言って白虎の腕を掴むと長い爪を指先に発動した魔刃で切り取って行く。
コイツだって体に纏う雷で攻撃して来たのだからこれくらいはセーフだろう。
「あ、深く斬り過ぎた。」
「ギャーー!」
ちょっと根元まで斬り過ぎて血が噴き出してしまった。
リリーの爪切りは父さんの役目だから慣れない事は難しいな。
しかし、ここで止めたら意味が無いので容赦なく爪を切って短くしていく。
「牙も邪魔だよな。」
「ま、待て!ガーーー!」
犬歯みたいな牙だけどどうせ何か食べる訳じゃないから良いよな。
「ハルアキラの式神になりたくなったら何時でも言ってくれ。」
「はふ!はふから・・・ギャーーー!」
「何を言ってるんだ?しっかり喋れ。」
「少し待ってやってくれないか。あまりにも哀れに見て来た。」
すると後ろからハルアキラが肩に手を置いて来たのでそちらを振り向いて首を傾げてみる。
まだお仕置の途中なんだけどコイツが言うなら仕方なしと手を止めてやる。
それにしてもコイツ等は召喚した相手を舐め過ぎだと思うのだけど安倍晴明はいったいどんな教育をしていたのやら。
まさに親の顔が見て見たい気分だ。
すると解放された白虎はまるで帰って来た飼い主に寄り添う猫の様にハルアキラの後ろに回って体を寄せた。
「それじゃあ答えを聞こうか。」
「お、俺はお前に従う位ならこの者の僕になるぞ。」
「良い答えだ。しっかりと言う事を聞かないと今度は尻尾を抜くからな。」
『コクコクコク!』
すると必死な感じに白虎は頷きを返して来たのでしばらくは様子を見る事にした。
その様子にどことなくハルアキラが呆れているけど、どうしてそんな表情を浮かべているのだろうか?
でもこれでやっと2匹目で後は青龍と朱雀だけど、なんだかこの流れだと予想もつきそうだ。
「後はどちらを呼び出すんだ?」
「青龍にしようと思う。どちらも好戦的と聞いてるが火と水なら水の方が安全だろう。」
「それなら呼び出してみてくれ。次こそはまともな奴だと良いけどな。」
「・・・。」
そして木の葉を巻き上げて青龍が現れる。
見た目はそのまま青緑色をした龍で全長は6メートル位ある。
最近は大きな魔物を見る事も多かったので迫力は微妙で可愛げは皆無と言えるだろう。
さて、コイツはどんな勝負を挑んでくるのかな。
「私を呼び出したのはあなた達ですね。それでは願いを1つ叶えてあげましょう。」
「あんな事を言ってるけど良いのか?俺達は7つのボールを集めてないのに簡単に契約出来そうだぞ。」
「ハルの言っている事は良くわからないが、もしかすると伝承に何か間違いがあるのかも知れないな。」
しかもこの見た目で声は女性だからギャップが凄い。
アニメとかだと何度か見てるけど厳つい顔で女性の声だとオカマ臭までしてくる。
これは願いを使って女か男かの確認をするべきか。
しかし、そう考えているとハルアキラが慌てた様に願いを口にした。
どうやら俺が余計な事を考えていると勘付いたようだ。
もしかすると、また無意識に声に出していたのかもしれない。
「それなら俺と契約してくれ!」
「その程度なら容易い事です。いつでも呼び出しに応じましょう。何処だろうとどんな時でも!」
・・・もしかしてヤンデレと言う奴だろうか。
顔の凄味以上に言動に対する危機感を感じる。
もし俺が契約しないといけないとすればお断りする相手だ。
しかし、これで目標まであと1匹なので終わりが見えて来た。
「最後の朱雀を呼び出すぞ!」
「そうしてくれ。そろそろ家に帰りたくなってきた。」
なんだか期待外れな感じがしてきたので最後くらいは放置でも良いかなと思えて来たけど、この際だから最後の朱雀も見て行こうとは思っている。
もしかするとクジ運が悪かっただけで凄い神将が現れるかもしれない。
そして、炎を噴き上げ真っ赤に燃える鳥が姿を現し、見た目は期待を裏切らないくらいに美しく幻想的だ。
後は中身が残念でない事を祈ろう。
「朱雀、俺と契約してくれ!」
「どっしよっかな~。別に暇だから良いんだけどやっぱり勝負とかした方が良いのかな?それとも条件を出そうかな?あなたはどっちが良いと思う。私はどちらでも良いの。お喋りって楽しいから呼んでくれるのをずっと待ってたんだよ。今まで私を呼んだ人の殆どは何も言わずに私を送り返しちゃうんだもん。ホント失礼しちゃうよね。」
もしかするとコイツは朱雀でなくて九官鳥の間違いではないだろうか。
まるでマシンガントークの様に1人で勝手に喋り続けてこちらの話を聞こうとしない。
それに話を聞いていると何度か呼び出された事はあるみたいだけど、コイツの話に付いて行けなかったみたいだ。
まさかここに来て最後が一番残念な奴が待っているとはな半分しか予想していなかった。
これなら1番手の玄武と2番手の白虎の方が遥かにマシだった気がする。
そして朱雀は時々ハルアキラが話し相手になると言う約束をして無事に契約できた。
なんでこれで今まで誰も12神将をコンプリート出来なかったのかと疑問が湧いてくる。
もしかすると残りの8匹が凄く大変なのかもしれないけど今回の目標は達成された。
今後は今回契約した4匹の神将と一緒に頑張れば自分の力で契約をして行けるだろう。
「そういえば神将はどうやって戦うんだ?」
「ああ、それならついでだから見せておこう。」
そう言ってハルアキラが神将に視線を向けると頷きと共にその姿が崩れ始める。
そして玄武は盾に、白虎は兜に、青龍は鎧に、朱雀は脚甲に姿を変えるとハルアキラの体へと張り付いた。
その様子はまさに聖戦士がクロスを纏うシーンに似ていてオタク心をくすぐると言うか、デザインもちょっとカッコ良い。
元が残念な奴らだと知らなければコンプリートしてコレクションにしたいくらいだ。
「こんな感じだな。玄武の盾は大きさをかなり自由に変えられる。鎧は鉄よりも硬い龍の鱗で白虎の兜は感覚を強化してくれるんだ。そして、朱雀はハルみたいに空を移動する能力を与えてくれる。」
そう言ってハルアキラは空を駆けて見せ、以前よりも早く刀を振って見せた。
どうやら体の強化も同時に行い、俺のスキルにある思考加速も得ているようだ。
これなら覚醒者でなくても魔物と戦う事が出来るだろう。
「それならちょっと俺と模擬戦でもするか。」
「「「「「え!?」」」」」
なんだか沢山の声がハモって聞こえたな。
しかし力とは手に入れても体に馴染むまでに時間が掛かる。
それは俺も同じでちょうど体を動かしたいと思っていた所だ。
全力を出すと一瞬でミンチにしてしまうかもしれないので俺の方は準備運動くらいで留めておく。
手加減のスキルもあるから死ぬ事は無いだろう。
「じゃあ始めるからな。」
俺が掛け声をかけて軽く斬撃を放つとハルアキラは盾を構えてそれを防いで見せた。
恐らくはさっきよりもシールドの強度が増しているので神将の能力も契約者に依存する部分もあるみたいだ。
この調子ならレベルを上げればもっと強くなるだろう。
「これくらいは受け止められるな。それならもう少し強くするぞ。」
「ま、待て!」
俺は言葉を掛けられる直前に5回の攻撃を放つ。
それでシールドが砕けてしまったけどこれだけの強度があれば余程の敵でない限りは戦えるだろう。
するとハルアキラは脚甲の能力で飛び上がると俺から距離を取ろうとした。
しかし、それはスピードで負けている相手には悪手だ。
こちらも後を追って空に上がると鎧に斬撃を放ってみる。
ただし貫通まではさせない様に気を付けて性能を確認する。
「鎧の方は自動修復が付いてるな。」
傷が付くとそこが水に覆われ傷の無い状態へと戻っていく。
ただ、鉄よりも硬いというのは俺にとっては関係ないので、そちらに関しては判断が出来そうにない。
「それじゃあ今度は斬りかかって来い。」
「ハァ~・・・本当に模擬戦だったんだな。」
何を言っているのか分からないけどハルアキラ自身の体には一撃も浴びせていない。
これが実戦なら今頃はバラバラになって地面に転がっているだろう。
そしてハルアキラの方はこちらに本気の斬撃を放って来た。
「ハア!」
「かなり早いな。このまましばらく受けてやるから立体的な動きに頭と体を慣らせ。今までは平面で戦っていたのが全方位360度に変わってるんだ。白虎、しっかりサポートしろよ。」
もしかするとその辺の感覚や能力的なものをサポートしてくれる神将も居るのかもしれない。
しかし今の段階でも力を持て余している様なのでステータスと一緒でいきなり大きな力を得ても宝の持ち腐れにしかならない。
それにこれだけ強くなっていれば術者だとしても相手と十分に渡り合えるだろう。
その後、夕方まで訓練を行い、後は爺さんに任せる事にした。
きっと今のハルアキラなら爺さんも喜んで(狂喜して)鍛えてくれるだろう。
「さてと。そろそろ帰るか。」
「・・・ああ、そうだな。」
ちょっと訓練しただけなのに疲れ果ててるみたいだけど後半は息もつかせぬ攻防を繰り返したからだろう。
目立った怪我もさせていないので寝れば治るはずだ。
「そう言えば今は何処に住んでるんだ?」
「ゲン師と一緒にお世話になっているんだ。俺は家出してて実家には簡単に帰れないからな。」
「そうか。いつか帰れるようになると良いな。」
「だが家は弟が継いでるから見込みは薄いだろう。家族仲は良かったんだが煙たがられるに決まっているさ。」
そんな話をしながら屋敷に戻ると敷地の中から肉の焼ける香ばしい匂いが漂って来た。
しかもこれは明らかに豚が焼ける匂いなので俺は首を傾げながら匂いの元へと向かうと、そこでは大きな鍋で骨を煮ながら多くの人が焼き肉を楽しんでいた。
殆どの人の顔に覚えがあるので天皇一家で間違いないだろう。
みんなラフな服を着て箸と皿を持っているので、その姿は現代人とあまり変わらない。
そして、その中に2人の人物を発見したので声を掛けた。
「アンドウさんとツバサさんも来てたのか。」
「ご馳走になってるぞ。」
「やっぱり豚は良いわね。あ、出来れば牛も頂戴。」
俺はツバサさんの遠慮のないセリフに溜息をつきながら追加で牛肉も並べておく。
それと野菜も大事なので傍に居る女中さんに渡しておいて並べてもらうようにお願いしておいた。
「キャンプで使うような焼き肉グリルが置いてある時点で分かってたけど今日は何をしに来たんだ?まさか肉を食いに来たって訳じゃないだろ。」
「ちょっと幕府に顔を出しに来たの。皆がどうしてもって言うから仕方ないけど本当は弟に来させるつもりだったのに。」
「俺はちょっと脅迫・・・ゴホン!色々やっているからな。話をしておこうと思っただけだ。」
何気に幕府まで脅迫するつもりだったのか。
でもこの時代の何処の大名でも日本統一を夢見ているなら最終的にはそうなるのだろう。
滅ぼされないだけ良しとしてもらうしかないけど、下手にやり過ぎると不穏分子を纏めて攻めて来そうだ。
または幕府側が馬鹿な要求をしなければ良いのだけど、その時は各方面から圧力を掛けてもらえば良いだろう。
「そう言えば、そちらの進捗状況はどうなんだ?」
「まず、到着してその日に今川を滅ぼしたな。何やら変な逆恨みを買ってしまった様で周囲の大名と同盟を結び尾張を攻め滅ぼそうと考えていたみたいだ。」
(ああ、幕府が動く前に今川が動いてしまった感じか。)
でもアンドウさんとしては力を示すのに丁度良いタイミングだっただろうな。
今川ならアンドウさん的にもツバサさんの件で良い印象は持っていなかっただろうし、主犯格なら見せしめにもし易かっただろう。
「周りの奴等もそれに協力しようとしてたからちょっと痛い目を見てもらった。これで少しは話が楽に進められるだろう。」
きっと幾つか城が消えたんじゃないかと思っている。
アンドウさんならそれくらいはやりかねないけど、まさか爆破とかしてないよね・・・。
「まあ、この時代を代表する奴らだ。利用価値と統治力があるから適当に飼い慣らすさ。ダメなら・・まあ、こちらでどうにかしておく。」
「それなら血の雨は降りそうにないな。適当な所で上手くやってくれ。」
「そのつもりだ。歴史上だと信長は大量虐殺をしているが、そんな事をしなくても心を折る手段がある事を教えてやる。」
どうやらアンドウさんも歴史が変わる事を気にしてはいないようだ。
まあ、こんな昔の歴史なんて文章や絵でしか残せないのだから、後世に対してはいくらでも捏造が出来る。
俺は肉を持ってミズメたちの所へと向かうと、そこには一番肉が積み上げられ、時間と正比例して量が減っていっている。
その原因はミズメが食べ続けているからなんだけど他にも天皇家の子女が数人混ざっている。
それなりに仲良くやっている様なので後奈良天皇は約束を守ってくれているみたいだ。
「追加を持って来たぞ。」
「あ・・・ハル。これはちゃんとした理由があるのよ。」
「そんなに焦らなくても分かってるから気にするな。この際だからしっかり食べて体力を付けとけよ。」
「ええ、ありがとう。」
すると焦っていた顔から一転して嬉しそうな笑顔へと変わる。
俺はミズメに肉を渡すとその場を後にして爺さんの元へと向かって行った。




