176 伊達家 ②
しばらくすると今度はこの町の兵士がこの屋敷を取り囲み1人の凛々しいオッサンが声を上げた。
「私が伊達家の当主であるハルムネだ!お前の言う通り来てやったぞ!話があるなら聞こうではないか!」
それにしても迎えが来る程度と思っていたのに当主自らがここまでやって来たようだ。
しかも急いでここに来たのか馬には乗っているけど武器や鎧は身に付けていない。
周りの兵士も装備は身に付けていると言っても完全ではなく、胴体を守る鎧だけで手や足には何も身に着けていないようだ。
きっと最低限の装備だけを整えて急いで駆け付けて来たのだろう。
聞いていた通りかなり好感が持てる人物のようだ。
しかしこの状況なら魔物の方が一歩早かったのは逆に都合が良かったかもしれない。
ここで当主に死なれると確実に蘇生薬を使う事になり、再びお叱りが飛んでくるところだった。
そして、まずは穏便に接触するために、ここに居る兵士には外へ行って話をして来るように指示を出す事にした。
「ちょっと外に出てさっきの事をお偉いさんに報告して来い。その辺に幾つか死体が転がってるけど、それが何なのかもしっかりと説明しておけよ。」
「分かった。全員でも良いのか?」
「お前らは人質じゃないから好きにしろ。」
死体の処理はここの兵士たちがしてくれていたので、倒れているのが人間の姿をしていない事は分かっている。
そして彼らは互いに頷き合うと外に向かって駆け出して行き、しばらくすると兵士が中へと雪崩込み、続いて馬に乗ったハルムネも入って来た。
「どうやら今のところは敵ではないようだな。」
「出来ればこれから先も敵対はしたくないんだけどな。それで組織から用件は聞いてるか?」
「いや、何も聞いていない。ただ、最近になって私の娘を差し出せと言う組織の声が大きくなったくらいだな。」
そう言って鋭く冷たい視線が俺にだけ飛んでくる。
なんだかちょっと自分に似ているのでとても良い目に思えるのは気のせいだろうか。
ただ、そんな馬鹿な事を考えている内に視線の温度が更に下がって絶対零度を突破しそうなので俺は真剣な顔で返事を返す。
「そいつらは咎人と言われる人間を裏切った連中だ。さっき団体さんで訪ねてきたから俺の方で掃除しておいた。これでここもしばらくは静かになると思うぞ。」
「それは関しては既に報告を受けている。お前は組織の者の様だがこの日の本で何が起きているのか答えろ。今回の事も死体の様子から唯の仲間割れでは無いのだろう。」
どうやら組織に対して良い感情は持っていなくても見る所と聞く所はしっかりとしているようだ。
そのおかげで視線は冷たくても殺気や威圧は放っていおらず、俺は座れる所へ適当に腰を下ろすとまずは情報の共有から始める事にした。
「話が色々と長くなるから降りて座った方が良いぞ。」
「そうか。ならばそうさせてもらおう。」
そう言って馬から降りると俺の横に堂々と腰を下ろした。
兵士たちは今も警戒はしているけどハルムネにはそれ程の変化は無い。
ただ、俺に対しての評価が上に向いた訳では無いのでまずはそこからどうにかしようと思う。
「甘いのと塩辛いのはどっちがいい?」
「辛い方を貰おう。お前ら、酒を持て!」
「は!」
そう言ってハルムネは酒を用意さたので俺はサヨリやイワシの味醂干し、それと豆腐などを取り出した。
「お前は何処からそんなに出しておるのだ?」
「術だ。」
この時代はこれで通るから簡単で助かる。
そして出した物をすぐには食べずに兵士がそれぞれに毒見をしている。
ただ毒見をした兵士がハルムネが飲んでいる酒を物欲しそうに見ているけどそちらは飲ませる気が微塵もなさそうだ。
ちなみにツマミは酒だけじゃなくてお茶と飲んでも美味しいのでストックが沢山ある。
ミズメたちが欲しそうな顔をしているのでこちらには別に渡してのんびりとしてもらう事にした。
「お前は今までの組織の者とは大きく違う様だな。」
「組織って言っても殆どの奴等は魔物になってるからな。今は日本を周るついでに大掃除の最中だよ。」
全部は無理だけど支部に居る大元を潰せば数も減って増加を抑える事が出来る。
後の細かな残党はこの時代の者にお任せするしかないけど、それも邪神を封印すればある程度は落ち着くだろう。
それに現代で聞いた話では今がピークと言っても良いらしいのでこの状況も、もう少し耐えれば終わりが見えてくるはずだ。
そして、大まかに話した内容からハルムネが疑問に思った事に答えていく。
どうやら弁財天のおかげでこの辺の受け答えが楽になってるみたいだ。
その後、1時間ほどの話を終えてようやく問題の姫に合わせてくれる事となった。
「ならば付いて来い。特別に城へと案内してやろう。」
「なんとか今回は楽に終わりそうだな。」
ただハルムネは偉そうに言っているけど、その腕には俺の渡した酒のツマミが大量に抱えられている。
交渉の結果で色々と渡す事になってしまったけど、ここでも胃を掴んだ者が勝つと言う事だ。
別にそれだけが理由では無いのだけど半分以上の信頼は食べ物のおかげだと思う。
もしかすると遠くない未来にこの地が乾物の生産日本一になる日も遠くないのかもしれない。
気候的にも向いているので伊達家には代々末永く頑張ってもらいたいものだ。
そして熊も含めて城に入ると俺達は城の奥深くへと案内されて行った。
外からは見えないけど壁も厚くてとても頑丈な作りになっている。
所々で増築した所もあるので自分の娘の為に城をそのまま強固な要塞として強化したのだろう。
これなら大きな魔物に攻撃されても簡単に壁を抜かれる心配はなさそうだ。
そして、しばらく進むと更に座敷牢の様な場所に出たのでこの中に問題の姫が匿われているらしい。
「ここに組織の者を入れるのは初めてだ。」
「それが正解だろうな。と、言いたいけど。」
座敷牢に近づくとそこには時代劇で見る様な大きな南京錠が置いてある。
ただし問題は置いてあると言う事で鍵が掛かっていないと言う事なので何者かが侵入したという事だろう。
それに気付いたハルムネは慌てて駆け出すと扉を潜って中へと飛び込んで行った。
「クボヒメ!緋姫!何処に居るのだ!」
ハルムネが叫んでいる2人の内、クボヒメが奥さんなのでアケヒメが目的の贄の女性で間違いないだろう。
しかしハルムネが叫んでも返事はなく、代わりに1人の女性が部屋の奥で血を流し倒れていた。
「クボヒメーーー!!」
ハルムネは一目でそれが誰かに気が付くと急いで駆け寄りその体を抱き起こした。
しかし既に呼吸も止まっており、流れ出した血も畳に吸われて染みとなっている。
どうやら俺の所へ兵を引連れて来たために薄くなった警備の隙を突かれた様だ。
「アアアーーー!!何故だ!何故こんな事になっているのだーーー!私らはただ平穏な日々を求めていただけだというのにーーー!!許さん!許さんぞーーー!!」
ハルムネの顔は先程までの落ち着きが消し飛び、憎しみに染まって天を睨んでいる。
それにあまりの怒りに目は充血し、既にそこからは血涙が流れ出していた。
まるであの夜の自分を後ろから見ているようで記憶と感情が湧き上がってくる。
「ハルムネ。」
「殺す!俺から大事な家族を奪った奴を殺し尽くしてやるぞ!」
どうやら既に俺の声は届いていないようで反応が返って来ない。
きっと今のハルムネの心を鎮められるのは目の前で死んでいる彼女だけだろう。
俺は中級蘇生薬を取り出すと胸を抉られて息絶えているクボヒメへと振り掛けた。
ここまで見事に抉られていると心臓が体内に残っていない可能性が高い。
そして蘇生が成功したようで、クボヒメはハルムネの叫びで目を覚ますとその瞼をゆっくりと開けて視線を向ける。
そして目の前で泣き叫ぶハルムネの顔へと手を伸ばしその頬に優しく添えた。
「どうしたのアナタ?」
「クボヒメ!!ど、どうして!?」
「私は大丈夫だから泣き止んで。それよりも娘を・・・痛!!」
「どうしたクボヒメ!」
クボヒメが生き返った事でハルムネはどうにか正気に戻ってくれた。
しかし彼女は急に胸を押さえ痛みに苦しみ始めると額から汗を流し床に蹲っている
中級蘇生薬で完全に復活しているはずなのにこれは明かに異常のな状態で、例え何らかの疾患があったとしても完全に治癒しているはずだ。
「痛い!胸を何かに掴まれてるみたい・・・!」
「しっかりするんだ。すぐに医者を呼ぶからな。」
そう言ってハルムネは声を上げると集まっていた兵士の1人に医者を呼びに行かせた。
その間に俺は何かがおかしいと感じ、ゴーグルを下ろしクボヒメを観察してみる。
(これは何だと思う。)
『恐らくはこの世界でいう所の呪いではないかと推測します。心臓はその者の命と直結していますからそれを媒介にして遠隔攻撃を仕掛けているんでしょう。』
俺の視界にはクボヒメの心臓を鷲掴みにしている腕が見え、その腕には糸が繋がっていて何処かに伸びているようだ。
おそらくこれは俺へ宛てたメッセージで、これを辿って俺にそこまで来いと言っているのだろう。
邪神の奴は俺がこれを見える事を知っているし、贄の女性から力を集めている事にも気付いているはずだ。
「これに乗った場合は敵のド真ん中だよな。」
『戦略的に考えれば見捨てるのが最良でしょうね。』
しかし、それは俺にとって絶対いあり得ない事だ。
ここで他人とは言え家族を見捨てられるなら俺はあの日にYesを選んで覚醒はしなかった。
なら、ここは限られた選択肢から最良を選ぶしかなさそうだ。
「ハルムネ。」
「今は立て込んでいるから後にしてくれ!」
「そいつを助けたいなら俺の仲間になれ。」
するとハルムネの視線が俺へと向けられ、一瞬の停滞があったけどすぐにその首が縦へと振られた。
『ハルムネが仲間になりたそうにこちらを見ている。』
どうやら無事に選択肢が現れたので、これでコイツを覚醒させる事が出来る。
「お前を今から覚醒させる。かなり痛いが我慢しろ。」
「どんな痛みも今の俺には微温湯も同然だ。」
「覚悟だけしろよ。」
俺はYesを選択してハルムネを覚醒させると宣言した通り表情を僅かに崩すだけで覚醒時の痛みに耐えきって見せた。
この時代の奴等は本当に痛みに対する耐性が高い。
「ここは任せた。もうじきこの場は魔物が襲撃してくる。その撃退は可能だな。」
「お前は何処に行く!?」
「俺はアケヒメを連れ戻して来る。」
そしてこちらは更に保険を掛ける事にした。
(クオナの方は準備が出来てるか?)
『万全とは言えないですね。それでもこれくらいは凌いで見せますよ。』
(頼むぞ。)
俺はSソードを腰から抜くとそれをミズメへと差し出した。
これがあれば御守りくらいにはなるだろう。
「俺はこれからちょっと出かけて来る。これは御守りだから持っててくれ。」
「分かったわ。早く帰って来てね。」
ここで引き留めないのがミズメの優しさであり強い所だ。
自己犠牲が過ぎる所があるけど、そこは俺がフォローしてやれば良い。
「大丈夫だ。すぐに帰って来る。」
俺はその場から飛び出すと城から出て呪いの糸を辿って走り出した。
恐らくはさっき逃げて行った魔物はここから離れた後に二手に分かれている。
それで、さっき魔物に繋がっていた糸の方向が違っていたのだろう。
俺が向かっている方は明らかに囮で全てが俺を誘き寄せる餌だ。
きっと城の方にはミズメを奪うために本隊が向かっているので、なるべく早く片付けて戻らないといけない。
そして糸を辿って進んでいると山の中に小さな小屋があるのを発見した。
ここまでに15分は走っているので今から折り返しても戻るまでは時間が掛かりそうだ。
しかし俺は慎重に地面に降りるとそこで足を止めた。
「隠れてないで出て来たらどうだ。」
「ケッケッケ!聞いていた通り生意気な人間だ。それにこちらには人質があるのを忘れてるんじゃないだろうな!」
すると目の前の小屋が弾け飛び、中から黒いニワトリが現れた。
ただ、その尾羽は複数の蛇になっていて、牙からは毒と思われる紫色の液体が滴っている。
しかもそこには着物を着た中学生くらいの少女が捕らえられ、その体に数匹の蛇が巻き付いて拘束しているのであれがアケヒメだろう。
更に別の1匹が口に心臓を咥えており、そこから俺の追っていた糸が伸びている。
明らかにあの心臓はクボヒメから抜き取られた物で、クオナが言っていた呪いの核と言う奴らしい。
しかし俺が状況を確認しているとニワトリが再び喋り始めた。
「ヒャッハ~!動くんじゃね~ぞ!動いたらコイツを絞め殺~す!」
「きゃーーー!」
ニワトリはアケヒメを締め上げて悲鳴を上げさせ高笑いを上げている。
ただ、ここから見た感じでは性的な乱暴はまだされていないようだ。
しかし、ここで俺が何もせずに負ければ待っているのは悲惨な死だけだろう。
それにしてもコイツはもしかしてあの有名なコカトリスとかいう魔物なのだろうか。
なんだか三下臭がする喋り方だけどニワトリよろしく3歩で全てを忘れてくれると対処が簡単なんだけど。
すると俺が指示通り動かないのでニワトリは良い気になって命令をしてきた。
「どうやら理解できたみて~だな!それじゃあ、あと3歩こっちに来やがれ!」
「動くなって言ったり動けって言ったり面倒なニワトリだな。」
「俺は面倒なニワトリ頭じゃね~!」
「きゃーーー!」
すると俺の言葉が気に入らなかったのかニワトリは激昂して翼を広げアケヒメを再び締め上げた。
どうやら不意を突いて奴の心を抉ってしまったらしく頭に付いているトサカを真っ赤にしてこちらを睨みつけている。
もしかすると日頃から周に馬鹿と言われているのかもしれない。
まあ、俺は言われ過ぎてもう何も感じなくなっているけど。
「おい、あんまり絞めると人質が死ぬぞ。」
「おっとそうだった。コイツはこれから地獄の苦しみを味合わせて穢し尽くしてから殺さね~とな。」
するとニワトリの言葉を聞いたアケヒメは恐怖に顔を青くして助けを求める様にこちらを見て来る。
ただアイツが言っていた事が本当なら苦しみを味わうまでは殺される心配が無いと言う事だ。
普通なら敵の前で言ってはいけないセリフだろうけど三下臭は伊達ではないということだろう。
しかし、あまり時間を掛けると残して来たミズメたちも心配になってくる。
それに、そろそろ頃合いと言った所なので俺はニワトリの指示に従って3歩前に前進してみる。
すると奴は大きく息を吸うと風船の様にその胸を膨らませ、まるで咆哮の前準備をするような動きを見せた。
「コケ~コッコ~!俺の間合いに入ったのが運の尽きだぜ!俺様の力で石になりやがれ~!石化のブレ~ス!」
するとその口からグレーの煙が吐き出され、俺に向かって襲い掛かり全身を覆い尽くしてしまう。
その瞬間に服の端々が石化していき、気が付けば体は石に覆われてしまった。
そして石化のブレスが晴れる前から奴の嬉しそうな高笑いが聞こえてくる。
「コケ~ケッケ!これで俺はあの方から更なる力を頂けるぜ!コイツの石像も献上品としてお渡ししちまうか~!」
どうやら俺を倒せたと思って大興奮してるみたいなので、この間に俺の方も全ての準備が完全に整った。
ただゴーグルに届いたクオナからの連絡によって城が襲撃されていると連絡を受けている。
そのため、あまり時間を取るとあちらも手が離せなくなるかもしれないので、クオナにGOサインを出して行動に移らせた。
すると蛇が咥えている心臓から伸びている糸が消失したので作戦は成功したようだ。
これで人質が一人減ったのでこちらとしても動き易くなった。
しかし、もしコイツが呪いを掛けた張本人なら再び呪いを掛けられるかもしれないので時間を与えるつもりはない。
そしてニワトリは呪いが解けた事に気付いた様で視線が背後にある心臓へと向けられた。
「な!呪いが一瞬で解かれだと!」
その直後にニワトリは呪いが解けた事に驚愕して俺から完全に意識が逸れた。
その瞬間を狙って俺は刀を抜き間合いを詰めると奴へと斬撃を放ち攻撃を加える。
「な!テメーは石になったはずじゃあ・・・!なんだ足が動かねえ!」
「残念だけど石化は効かないんでね。それとお前の動きは縛らせてもらった。」
どうやらこのニワトリはやはり三下だったらしく不動の魔眼が効果を発揮して奴の下半身を束縛するのに成功している。
それと同時に蛇もその動きを停止させ、首から上だけが必死に暴れて動いているだけだ。
「まずは人質を返してもらうぞ。」
俺は奴に生えている蛇たちをその付け根から斬り取りアケヒメを救出する。
そして、そのまま次のスキルを使用して奴へと更なる攻撃を放った。
「ギャーーー!!・・・な、どうなってやがる。俺の方が何で石化してるんだ!」
「お前は石になってから反省してろ。後で適切な奴に突き出してやるからな。」
「クソがー!俺様が人間風情にーー!コケーー・・・!」
ちなみに俺が使ったのは今まで出番の無かった石化攻撃のスキルだ。
これは経験値が入らないので普段は使う機会は無いけどコイツ程度の奴から得られる経験値なんて誤差の範囲でしかない。
それにハルムネもコイツには用があるだろうからアイツへと突き出してやれば少しは満足するだろう。
今回は伊達家が一番の被害者になるから怒りをぶつける相手が欲しいはずだ。
きっと家族を攫われただけではなく殺されているので大喜びしてくれるに違いない。
「それにしても石化のブレスを吐くのに耐性が無かったのか?」
『恐らく呪いが返された為に耐性を上回る効果が出たのではないかと推測します。』
「人を呪えば穴二つか。まあ、コイツは持って帰るとするか。石化すると何でか収納できるしな。」
そして俺はアケヒメの許へと向かうとその場に膝を付いた
そう言えばコイツは姫が無ければアケと同じ名前なんだよな。
それでちょっと助ける気にもなったんだけど俺って単純なのかもしれない。
そしてアケヒメの肩に触れると軽く揺らして声を掛けてみる。
これで起きなければ適当に抱えて戻るしかないだろうな。
「おい起きろ。」
「う、う~ん・・・魔物!私をどうするつもりですか!?」
そう叫ぶと同時に俺の顔面に拳が飛んで来たので、想像していたよりも活発なお姫様のようだ
俺は拳をヒョイッと軽く躱すとアケヒメの背後を指差して声を掛ける。
「落ち着け。奴はあそこで石になってる。」
ニワトリのクセに雄々しく翼を広げて石化しているのでツバサくらいは捥いでやりたけど、アレを見れば戦いが終わっている事が分かるだろう。
するとアケヒメは僅かに息を吐いて安心すると、次にはその目に涙を溜め表情を歪めた。
「お、お母様が・・・お母様がコイツのせいで・・・。」
そして怒りに染まった目でニワトリを睨み付け、呪詛のような声を漏らす。
その姿はハルムネといっしょなので親子で似てるなと軽い感想を抱いた。
きっとハンマーを渡せば疲れ果てるまでアイツを殴り続けるだろう。
ただ怒りをここで晴らす時間は無いのでニワトリにはしばらくアイテムボックス入っていてもらい、怒りに染まるアケヒメには1つの事実を伝えてやる。
「一応言っとくけどお前の母親は生きてるからな。後は自分の目で確認しろ。」
「え!でもあの時にコイツはお母様の心臓を引き抜いて・・・。」
「説明は後回しだ。城の方も襲われてるから急いで帰らないといけないんだ。」
するとアケヒメはすぐに俺の言葉を理解してハッキリと頷いた。
どうやら弱いだけの御姫様と言う訳ではなさそうでこの状況でも判断を下せるようだ。
「それじゃあ、空から行くから捕まってろよ。」
「空から?てっ、きゃーーー不埒物ーーー!」
俺はアケヒメを抱えるとビンタを浴びながら城へと向かって行った。
途中に何度か掌ではなく拳で殴られたけど攫われた割には中々に活きが良い。
これなら戻って力を回収すれば今まで以上に楽しく過ごせるだろう。
そして時間を無駄にしない為に俺は全速力で進み始めた。




