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170 2人目の贄 ①

俺達は因島を拠点としていた村上水軍を全滅させタケヨシの城がある能島まで戻っていた。

そして、そこでは質素ではあるけど夕飯の準備がされていて全員がそれに手を付けずに俺達の帰りを待っていたようだ。

普通ならこんなに早くは帰って来れないのに律義な人達だとおもうけど、それだけタケヨシが慕われているという事だろう。

そしてタケヨシとコバヤカワと共に料理を囲み明日からの予定を話し合っていた。


「お前らはこれからどうするんだ?」

「明日からは厳島に向かう予定だ。あちらも気になるからちょっと急がないとな。」


コバヤカワからの情報では厳島の近くに支部があるそうだけど今は連絡が取れなくなっているらしい。

また面倒な事になってないと良いけど四国での件もあるので楽観は出来ない。


「それならそこまではまた船頭をやってやろうか?」

「ああ、それは助かる・・・と言いたいけどそっちは当てがある。なあカナエ。」

「え、うん!私が送っていく事になってるからそっちは大丈夫。でもあっちに行くまで何隻か船が沈んじゃったから迎えには行かないと。」

「それなら因島に船が結構残ってたからそれを頂戴すりゃ良いだろう。そっちを先に回収して向かうからお前はしっかりと道案内をしてやれ!」

「うん!」


すると最初は心配そうにしていたカナエだけど、父親であるタケヨシに仕事を正式に任されて嬉しそうに返事を返す。

そう言えばあちらにも怪我人が沢山いたのでアイツ等の治療もしてやらないといけない。

そんなには時間は掛からないだろうけど恩を売っておけば後で色々と役に立つだろう。

そして食事を終えて皆が解散して行くとそこには俺達だけが残されたので、きっと人払いもしてくれたのだろう。


「それでこれから本題に入るがお前らにはやってもらいたい事がある。」

「もしかして魔物に関してですか?」

「そうだ。俺はこの後にここから北上して遠くに行くからもう戻って来られないかもしれない。そうなったらここの魔物の始末を誰かがする必要が有る。」


するとタケヨシは頭を掻きながら仕方なさそうに頷いた。


「まあ、海の安全の為には仕方ねーか。このままじゃ俺達も飯にありつけねーしな。」


タケヨシに関しては生活の基盤がこの周辺の海上にあるので家族や仲間。

そしてそれらを食べさせる仕事を維持するために了承してもらえるとは思っていた。


「私も構いませんよ。既にこちらには上様から話が来ておりますから。」


コバヤカワに関してはアンドウさんから既に毛利家に話が行っていると以前に聞いている。

今は覚醒者と成った2人だからこうして直接話しているけど、そうでなければ俺もこんな事は言いはしなかっただろう。

それに組織が役に立たないのでこの2人にはこの周辺の主力となってもらう必要があるけど仕方がないだろう。


そして2人から無事に了承の返事がもらえたので俺は立ち上がった。


「俺はそろそろ寝るけどしばらくは気を付けろよ。かなり間引いたけど俺もどれくらい魔物が居るのか知らないからな。」

「分かってるぜ。」

「私もです。」


そして俺はミズメたちが眠っている場所の近くまで移動して行った。

3人はここの御姫様?であるカナエやシラベと一緒の部屋で寝ていて、あちらから誘われたのもあるけどこの城の中で一番安全だろうと思ったからだ。

幾ら統制が取れていてもミズメの体質を考えれば当然のことで、アケとユウは形の上では一緒にお泊り状態でも立派な護衛を務めている。

そのため女の園に俺が入る訳にはいかないので部屋の近くで護衛と言う訳だ。

そして壁に背を預け目を閉じ眠りへと落ちていった。


次の日の朝になると俺は周りが動き始めた気配で目が覚めた。

時間まではハッキリと分からないけど空はまだ暗く朝焼けにもなっていない。

しかし、どうやら何かあったとかではなく、これが彼らの日常のようだ。

その証拠に部屋の中でも気配が動きカナエだけでなく幼いシラベも動き出している。

そして妹2人とミズメに関してはまだ動く気配がなく、今ものんびりと眠っているようだ。

これは3人が朝に弱いだけか、それともカナエ達2人が起こさない様に気を使っているのか。


どちらにしても今後が少し心配だけど寝る子は育つと言うので何も言わない事にした。

まずはしっかり食べてしっかり寝て元気に育ってもらえば良い。

若干、微妙なのが居るけどミズメもまだまだ成長期だろうから寝てれば大きくなる・・・かな?

食べても太らないのに上に伸びるのだろうか・・・。

俺は少し心配になって来たけど人の成長は成る様にしか成らないと言う事で深く考えるのを止めた。

俺は二人が出て来る前に立ち上がると、襖を開けて顔を見せると同時に声を掛ける。

そして最初に出て来たのはお姉さんのカナエの方だ。


「おはよう。」

「おはよ。ハルは朝が早いのね。それとも寝てないの?」

「いや、ちゃんと寝たよ。」


そしてカナエに続くように今度はシラベが顔を覗かせる。

昨日は色々とあって目元が腫れていたけど、今日は落ち着いているようだし元気そうだ。

その証拠に俺の顔を見てすぐに子供らしい無邪気な笑顔を向けてくれる。


「おはようございます。昨日はお礼も言えずにすみませんでした。色々と助けて頂いてありがとうございます。」

「気にするな。これからも家族で仲良くな。」

「はい!」


俺はそう言ってシラベの頭を軽く撫でてやり、それと同時にカナエには無言で哀れみの籠った視線を向けてやる。


「・・・。」

「な、何よ!」

「いや、シラベはお姫様だなと思っただけだ。やっぱり姉の悪いところを見て妹はそこからちゃんと学ぶんだな。」

「ちょ、私だってその気になれば・・・。そんな事より今から朝食の準備をするからあの3人を起こすのは任せたからね。」

(ここで話を逸らしちゃうのね。それは見様によっては敗北宣言だぞ。)


そしてカナエはシラベの手を引いて台所の方へと行ってしまった。

しかし去り際にシラベは俺に手を振っていたので、こちらも手を振って返しておく。


(男らしいカナエとお淑やかなシラベか。どっちに嫁の貰い手があるんだろうな。)


そして部屋に入ると俺はその光景を見て溜息が零れた。

ミズメは寝相で服がかなり開けて色々と見えてしまっているうえに鼾までかいている。

それに対してアケとユウの方には乱れはなく、寝息はとても穏やかだ。

やっぱり上が違うとこれだけ違うんだなと自画自賛で嬉しくなる。

ただ、もう少ししたら朝食だと言うのでそろそろ起こさないといけない。


「ミズメ~・・・ミズメ起きろ。」

「ムニャムニャ太陽が昇るまで・・・。」

「これはあと五分のこの時代版か?」


それにしては明らかに数分じゃなくて1時間くらいだよな。

そしてミズメは寝返りを打つとお尻を見せて再び眠りへと落ちていった。


俺はコイツの事は一旦諦めてその横で眠るアケとユウの傍に腰を下ろす。


「2人は良い子だから大丈夫だよな~。」

「私はキッスが良いな~。」

「なら私もお願いします。」


しかし起きてると思って声を掛けるとなんだか変な要望が返って来た。

だが、たとえお風呂、抱っこ、添い寝をしようと今の要望は兄としての領分を逸脱している。

なので俺は冷静に、そして兄として頬っぺたで我慢してもらう事にした。


「これで良いか?」

「「うん!」」


そう言って2人は嬉しそうに起き上がると服を着替え始めたので、これで問題はミズメ1人だけだ。

コイツを置いて行く訳にもいかないし、こんな乱れた格好で連れ出す訳にもいかない。

やっぱりちゃんと目を覚ましてもらう必要があるようだ。


俺はそう結論を出すとその為のアイテムを思い描いて足元に並べていく。

もちろんその中に卑猥な物や虫などの気持ち悪い物は含まれていない。

そして、まず手にしたのは旅の途中で拾った大きな鳥の羽だ。

何の鳥かは知らないけど茶色いので鷹か鳶だろう。

それをアケとユウにも持たせて足裏や首筋を優しく撫でてみる。


「コチョコチョコチョ~・・・。」

「「コチョコチョコチョ~・・・。」」

「ん・・ん~~・・。そこはダメ~。」


そう言ってミズメは足を布団の中へ引っ込め、首筋は襟を立てて隠してしまう。

どうやら思っていたよりも手強いみたいなので仕方なく次のアイテムと交換しそれを二人にも渡した。

今度は旅の途中で手に入れた猫じゃらしで、子熊があんなに大きくなる前はこれが大好きで良く遊んでいた。

今はこんな物で遊んだら俺以外は大惨事になるから処分するつもりだったけど、その前にここで役立ってもらおうと思う。


俺はそれで耳元を擽り、アケとユウは手の甲を攻撃する。


「サワサワサワ~・・・」

「「サワサワサワ~・・・」」

「あ、あぁ~・・にゅう~。」


すると今度は布団の中へと完全に隠れてしまったので本当は起きてるんじゃないかと疑問を感じる?

なんだかこちらが揶揄われているような気がしてくるので、仕方なく最終手段に打って出る事にした。

出来ればこの手段だけは使いたくなかったのだけど、起きないというなら仕方がない。

俺は外の気配から呼びに来るまでにそれ程の時間が無いと予想し、ここで太くて艶のある肉棒を取り出した。

それは所々が黒光りしており、長さだけでも20センチはある。

これなら亀の様に閉じ籠っているミズメもすぐに顔を出して食い付くだろう。


「ほらミズメ。お前の大好きなソーセージだぞ~。」

「ん?んん~・・・ガウ!」


ミズメは匂いに気が付くと布団から飛び出して俺のソーセージ・・・じゃない。

手に持っているソーセージへと飛び付くと見事な間合いで尖端に嚙り付いて牙を突き立てた。

その動きはまさに獣の如く俊敏で起きたばかりとは思えない程に力強い動きをしている。

何時もこれくらい寝起きが良ければ起こす手間も掛からないんだけど、次からは教訓も込めてカラシでも塗っておくか・・・。


「お前はいつから野生児になったんだ。」

「ガルルルル~!」

「ダメだな。言葉が耳に届いていないみたいだ。」


体は匂いに反応して動いているけど肝心の頭は夢と現実の間を彷徨っている。

しかし次第に頭がハッキリして来たのかソーセージを食べながら顔を上げて周りを見回し始めた。


「あれ?どうしたのハル?」

「おはよう。やっと目が覚めたみたいだな。」

「おはよう。それよりも何で肉棒なんて持ってるの?」


そして流石ミズメと言ったところか、挨拶をすると手に持つソーセージを普通に食べ始めた。

しかし現状に疑問を感じたのなら口と手を止めるのが一般的だと思うけど、これではいつか本当に毒キノコでも拾い食いしてしまいそうで心配になる。

それに食べるよりも先に乱れた服を直そうとは思わないのだろうか。


「そろそろ服を直したらどうだ。」

「へ?あ・・・そうだね。」


どうやら時々風呂にも一緒に入るので悲鳴を出さない程度には恥ずかしさが飛んでいるようだ。

頬を赤らめて軽く服を正して立ち上がると部屋の隅にある自分の服へと向かって行く。

このままだと俺が見ていても脱ぎ出しそうなのでここはアケとユウに任せて外に出ると襖を閉めて溜息を零した。

そして少しするとシラベが呼びに来たので全員でその後を付いて朝食へと向かった。


しかし何処で食べるのかと思っていると今日は上に登る必要があるようで今は階段をゆっくりと登っている。

シラベを先頭にしているので仕方がないとはいえ、大人用の階段を上るのは小さな体だと大変そうだ。

今も手を使いながら「うんしょ!うんしょ!」と必死に登っているので後ろに付いていないと転げ落ちて来そうで危なっかしい。

恐らくはタケヨシを救う時にシラベの到着が遅れたのはこれが理由に違いない。

あの時は邪神が馬鹿をやっていたので丁度良かったけど、子供にも使わせるなら改善した方が良いと思える。


そして今日は最上階の天守閣で食事を取るみたいだけど階段を登っている途中でシラベの息が乱れ始めた。

まだ先は長く険しい道程が続くので俺は後ろを向くとアケとユウに視線を送る。

2人ともすぐに俺の意図を理解して頷いてくれたので許可が出たと言う事で行動に移すことにした。


「シラベ。ちょっと抱えるぞ。」

「あ、わあ!」


俺は今にも転んで落ちそうなシラベを抱き上げると片手で抱えて階段を上っていく。

少し恥ずかしそうだけど先日までは顔も知らない他人だったのでこの反応も仕方がなく、もしかしたらタケヨシ以外では初めてなのかもしれない。

そういえば回復して下に降りて来た時も今のように抱えられていたので階段を1人で使わせるのが危ないからだろう


そして最上階に到着すると俺はシラベを床に下ろしてやり彼女を先頭にして進んでいった。

するとそこにはタケヨシやコバヤカワ以外にも何人もの人が座っている。

恐らくはタケヨシの家族く加え、同年代も居るので部下の人達だろう。

そしてシラベは到着するとその列に急いで加わり、それを見たタケヨシが深く頭を下げた。


「この度は助けてもらっただけではなく、俺達の問題も解決してくれて感謝する!」


それと同時に周りの人も続いて深く頭を下げてきた。

どうやら昨日は余裕が無くて何も出来なかったので、俺達がここを出る前に正式な感謝を示しているようだ。

ただ俺にはこういう時の対応が分からないのでいつもの感じで行く事にする。


「感謝は受け取るけど家族を大事にしろよ。その為に助けたんだからな。」


俺はそう伝えると、カナエが話していたタケヨシの初めての実子に視線を向ける。

そして、その母親と思われる人物にも声を掛けた。


「言葉は分かるよな。」

「は、はい!驚きました私の国の言葉が分かるのですね。」


何処の国の人かは分からないけど顔が日本人ではないのですぐに分かった。

周りも驚いているので今の俺は日本語を話していないのだろう。

それよりも何でタケヨシまで驚いてるのか疑問だけど、もしかすると普段はあまり喋らないのかもしれない。


「タケヨシも今はもう分かるよな。ついでにコバヤカワも。」

「え、は、はい。これはいったい?」

「俺も分かるぞ!」

「本当ですか!」


女性の方も驚いているのでやっぱり普段はあまり言葉は話さないのだろう。

これでよく子供まで作ったなと思うけどそこは愛の力って事にしておこう。

そして昨日はこういう事態を想定していなくて言わなかったけど、覚醒してからのオマケとも言える翻訳機能について軽く説明しておくことにした。


「覚醒したら何処の国の言葉でも話せるようになるから、今後は互いの知りたい事を話して仲良く出来るぞ。コバヤカワは外国人との通訳も出来るからな。」

「おー!それは最高じゃねえか!」

「ええ!私も話したい事や伝えたい事がたくさんあるの!」

「は~仕事が増えそうですね・・・。」


まあ、その辺の事は本人たちの今後という事で話を終えて俺達も食事の席に着いた。

そうしないとミズメが再び獣化してしまいそうで鋭過ぎる視線を料理へと受けている。

今は人前なので涎を垂らすのを必死で我慢しているので、お預けをされた犬の様だ


「それで仲睦まじい所を邪魔して悪いけど、俺達は食べたらすぐに出発する。あちらには怪我人も多いから急いだ方が良いだろう。」

「それについてはカナエから話は聞いているぜ。すまないが仲間の事を頼む。運よく犠牲者は少ないらしいがその代わり殆どの者が負傷したそうだからな。」

「任せた仕事の料金ついでにやっとくよ。その代わり昨日の件は任せたからな。」

「ああ任せろ。」


そして俺達は食事を終えるとコバヤカワとカナエを連れて昨日の漁村へと出航して行った。

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