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156 アンドウさん、最愛の人との再会

俺は外に出て着信に応答するとすぐさまアンドウさんの声が聞こえて来た。


『ツバサを発見したぞ。』

「その割には声が暗くないですか?」


しかし俺の許に届いたのはとても明るい話題のはずなのに声が沈んでいる。

いったい何が有ったのあろうか。


『いや・・・実は俺自信が歴史を変えてしまったのかもしれないのだ。』

「今更かよ!」

『今更なのか?』

「なんでそこで聞いてくるんだ。アンタの方が歴史に詳しいだろう。」


するとまさかの告白に本人が今まで無自覚だった事を知り、気が付けばツッコミを返してしまった。

もしかして今まで出来る人だと思っていたけどアンドウさんは天然なのだろうか。

やっぱりツバサさんが居ないとこの人はポンコツなのかもしれない。

常にポンコツな俺が言うのも何だけど・・・。

ただ、俺は自覚があるのでそこは置いといて話を聞いてみる事にした。


「それで何をやらかしたんだ?」


そして俺が電話越しに問いかけるとアンドウさんは何が起きたのかを克明に語り始めた。

それは俺と別れて半日ほど経過した頃らしく、アンドウさんは俺の予想を超える驚異的なスピードで織田家のある尾張へと到着していた。



「ここが情報にあった城か。しかし、この状況でよく俺達の所まで手紙を届けられたな。」


部下から話は聞いてはいたが、驚異的な視力でウチの密偵を見つけたそうだ。

そして手紙に石を括り付け、変わったフォームで投げ付けて来たらしい。

先程そいつからどんなものか見せてもらうと、現代のピッチャーが使っているフォームに酷似していた。

ただ片足を頭上にまで真っ直ぐ上げる事に意味があるかは疑問の残る所だ。

しかもその瞬間に差出人となる姫の目が光ったと言うのだから余程の気迫だったのだろう。

人の目が普通に考えて光ったりするはずないからな。


「それにしても、ここは城のはずだがまさか牢獄ではないだろうな。」


ここから見える城の敷地は広く幾つもの門が設置してあるが、内から出さない様に閂は外側に付いている。

これでは外から攻められれば入って来てくださいと言っている様なものだ。

そして、しばらく様子を見ていると馬に乗った武将が城の前に現れ、従えた兵と共に中へと入り始めた。


「あれは今川の奴等か。どうして尾張で織田家よりも堂々と町を歩いているんだ。」


そして仕方なく予定を変更し、夜に侵入するつもりだったのをこれからすぐに城へと入る事にした。

俺は相手に気付かれない様に城へと先回りし、中へと入るための窓へと向かって行く。

それに侵入経路は既に決めており、最上階の窓枠が外れると手紙に書いてある。

どうやら誰にも知られない様にそこだけ細工がされているようだ。


「ここだな。」


上手く偽装してあるがここで間違いない。

俺は木枠の格子を外して中に入るとバレない様に元に戻して奥へと進んで行く。

するとそこには数人の男女が布団に寝かされており、それを看病する1人の姫が動き回っていた。

俺はその姫に無音で近寄ると慎重に声を掛ける。


「ツバサで間違いないのか?」

「マサト!」


するとツバサはこの時代ではハルヤ以外は知らない俺の名前を呼んで振り返った。

そして手に持っている水の入った桶を落としてそこに寝かされている奴の顔に直撃させると、その間に居る奴を踏み付けにして俺の胸に飛び込んでくる。


(あ~俺はやっぱりコイツが居ないとダメみたいだ。)


胸の中に空いていた穴が塞がり、まるでここが湖の畔の様な錯覚を覚える。

常に体に感じていた倦怠感も吹き飛び、今ではどんな敵とでも渡り合える様な充実感が体の芯から湧いてくる。

どうやら10年という期間はツバサの必要性を再確認するのには長すぎたみたいだ。

しかし感動はこれくらいにして意識を切り替えなければいけない。

今もおかしな連中がここに迫っており、そいつ等の対応を考えなければならない。

でもあと10秒・・・いや、1分このままで・・・。

しかし既に1階では入城を終え、こちらに足音を響かせながら上がってくる者が居る。

人生という時間は有限ではあるが、奴等の対処を終えからでも十分に残されているだろう


「ツバサ。愛を囁くのは後にしよう。今の状況を教えてくれ。」

「分かったわ。簡単に言うとこの私が信長なの。父の信秀ノブヒデが女である私を男として育ててしまったのよ。そして父はそのまま私に家督を譲ろうとして母が反発し、私達家族に毒を盛ったの。」

「それならもしかして弟の信行ノブユキも共犯か?」

「いえ、私がここに来たのは5年ほど前なの。だからその間に兄弟は私の配下にしてあるわ。」

「・・・いったい何をしたんだ?」


コイツはやる時はやる女だがやり過ぎる事がよくある。

と言うか、基本的には狙っているかのようにやり過ぎる。

それで現代に居た時に俺や仲間も色々と苦労したのは今では良い思い出だ。

ただ仲間内では密かに鬼軍曹と呼んでいるんだけど・・・。

それともカエル軍曹だったか、その辺の記憶は珍しく曖昧だな。

やはり俺でも10年は長すぎたようだ。

するとツバサは悪役っぽいニヤリと笑みを浮かべ視線を逸らした。


「仲良く遊んだだけよ。仲良く・・・ね。」

「やはり何かをやらかしたか。」


きっといつものノリで碌でもない事を仕出かしたのだろう。

どうやら信長家では遊びという名の教育が施され、母親1人を除いて家族円満となってしまっている様だ。

しかし、それに問題があるとは思えないので俺は納得して頷き次の質問を口にする。


「それで、なんで下に今川が来ているのだ?」

「きっと殺すよりも政略結婚させて今川を後ろ盾にする事で、ノブユキの事を周りに認めさせるつもりなんだと思うわ。私が女って事を以前から知ってるみたいで何度か求婚の話が来てるから。」


すると俺の心に巨大な津波にも似た感情の波が湧き起る。

それは長年を掛けて鍛えて来た自制心という堤防を簡単に決壊させ、俺の全てを際限なく飲み込んで行く。

これではもうハルヤにやり過ぎるなよとは言えそうにない。


「そうか、何やら今になってハルヤの気持ちが理解出来たぞ。これは確かに容赦のヨの字も浮かばないな。」


俺は傍にまで来た足音に対して銃を抜くとそれを構えて襖が開くのを待った。

そして開くと同時に互いの目が合い、相手の鎧武者は声を荒げ激昂と共に周りへと命令を叫んだ。


「忍びが侵入しているぞ!俺の女に手を出させるな!」

「『ブチッ!』誰が誰の女だって!!」


俺は気が付くと銃を大筒に取り換えていた。

そして、それの引き金を一瞬の思考も許さずに引くと巨大な火柱と共に拳大の砲弾が発射され、相手の体を木端微塵の肉片へと変える。

更に現代のサブマシンガンに持ち変えると向かって来る兵士たちの頭をヘッドショットで粉砕し残っている兵士も一人残らず始末して行く。

数にして200人程度だろうが2分と掛けずに始末し、気が付くと周囲には中身の消えた大量の鎧と数人の死体が転がっていた。

どうやら奴らの引連れていた兵士の大半が既に魔物と入れ替わっていたようだ。


「これなら仕方ないか。」

「何が仕方ないんですか!」


するとツバサが何処から取り出したのか、大きなハリセンで俺の後頭部に1撃入れて来る。

このやり取りも10年ぶりとなると自然と笑みが浮かんでくると言うものだ。


「いや、敵を殲滅しても魔物なら良いだろうとな。」

「それなら大将の今川だけは生かしとかないとダメでしょう!」

「うむ・・・。そうかもしれないがアイツはお前を奪おうとした大罪人だ。勢いで殺してしまったが後悔は全くしていないぞ。」

「何をハルヤみたいな事を言ってるんですか。会わない間にどれだけこの時代に染まってるんです!」


しかし、俺は怒っているツバサを優しく抱きしめると耳元で囁くように言葉を呟き思いを伝える。


「俺は変わってなどいないぞ。もし変わったとするなら、以前よりもお前を愛している事くらいだ。これからは俺が絶対に護って見せる。」

「はにゅ~~。その言い方は反則ですよ~~~。」


この時代では口うるさかった上司も、覗き見する部下も居ないので周りの目を気にせずにこうして素直に気持ちを言葉に出来る。

するとツバサの吊り上がっていた目元が呆気なく下がり、顔を赤らめて体を預けて来た。

そして、このままの勢いでキスをしようとすると門の方からヒステリックな叫び声っが聞こえて来た。

どうやら馬に蹴られるべき奴がまだ残っていたようだ。


「そこの忍び!なんて事をしてくれたのです!これでは同盟どころか今川と戦になってしまうではないですか!」

「お母様。やはりアナタがこの計画を・・・。」

「織田を継ぐのは私のノブユキこそ相応しいのです。お前があの子にあんな事をしなければ本人の意思でこれくらいは出来たものをーーー!」


きっと何度もノブユキを唆そうとして失敗し、その為に自分で動いてこの様な事を仕出かしたと言う事だろう。

現代ならこの会話を録音し裁判の時に証拠として提出しただろう。

だがこの時代に公正な裁判など存在しないので自供したと言う事で俺が鉄槌を下すには十分な理由だ。

しかし、そこまで心を折る様な教育を施すとは流石は俺のツバサだな。


「お母様、もう諦めてください。計画は失敗したんです。」

「ええい黙れ。お前のせいで毒を盛った奴等も生きているし、こうなれば私自身の手で全員を殺しこの国を手に入れてやるわ!」


そう言って女は懐剣を取り出すと鞘を投げ捨てて向かって来る。

しかし、その顔は既に人ではなく、山奥に住み旅人を喰らうという山姥の様だ。

黒かった髪も白髪に染まり枯れ草の様に荒れ果て、額からは小さな角が突き出している。

恐らくは誰にも知られない内に邪神に取り込まれ、人として外れてしまったのだろう。

そして、こうなった人間を救う手立てを俺は知らない。

ここは慈悲として1秒でも早く殺してやるのが最善だろう。


「残念だがお前では俺に勝てんよ。」


俺は6発式のマグナムに持ち変えると1発目で懐剣を粉砕し、2発目で頭を粉々にする。

更に心臓に2発打ち込み完全に息の根を止めた。


「マサト・・・流石に容赦なさすぎませんか?」

「いや、これでもまだ足りないみたいだ。」


今のが人間相手なら確実に死んでいる。

しかし、どうやらコイツはハルヤが以前に言っていた様に第2形態を持つ特殊な魔物の様だ。

女は頭が無い状態で立ち上がると胸に空いた傷が瞬く間に塞がっていく。

そして首の部分から肉が盛り上がり新しい頭部を形成し始め、更に着物の背中を突き破り9本の尾が荒々しく姿を現した。


「も、もしかしてコイツはあの有名な九尾の狐ですか!?まさか本物を見られるなんて!」


しかし生えて来た頭が完成し、尻尾が落ち着くとツバサの表情が絶望へと変わった。

確かに尻尾はちゃんと9本あり、フサフサの毛で覆われている。

しかし、問題があるのは生えて来た頭部にあるのだろう。


「まさか、まさか・・・こんなオチがあるなんて。」

「まあ、よくある事だな。」

「なんであそこまで行って顔が狸なんですか。それとも九尾の狸って言えば良いんですか!?狐に比べて怖くありませんよ!」

「そこを俺に言われてもな・・・。」


しかしこうなったツバサは誰にも止められない。

俺は仕方なく銃とナイフを手渡すとツバサは背中を見せて凄い勢いで駆け出して行った。


「乙女の夢を壊す奴は許しません!」

「グルアーーー!」


するとツバサは襲い来る9本の尾を巧みに躱し、銃弾を体にヒットさせ相手に傷を負わせていく。

そして伸びて襲ってくる尾を立体的な動きで躱し、ナイフで斬り裂いて数を減らしていった。


流石は俺に次ぐナンバー2の実力者だけはある。

俺が長距離を得意とするならツバサは銃とナイフを巧みに使い相手を倒す超近接戦タイプだ。

まさに戦う姿は美しい蝶の様であり、気高き蜂の様でもある。

アイツの姿を仲間たちは密かに現代の風林火山と呼んでいる程だ。


新刊が出る直前は静かに店の前に並び(林)、商品の許に行く時は誰よりも早く歩く(風)。

そしてまさに猛る炎のごとく燃える瞳でレジに商品を突き出し(火)、読み始めると絶対に動かない(山)。

これは戦闘には関係なかったか。


それにしても以前よりも遥かに良い動きをしている。

既に半分以上の尾が切り取られ、手や足には銃弾が撃ち込まれてボロボロだ。

これは決着が着いたと言っても良いだろう。

やはり攻撃さえ通用すれば俺達の敵ではないようだ。

所詮は魔物化して能力が上がったとしても元が素人の女では俺達相手に勝てるはずもない。

そして九尾の狸となった女は頭に何発も銃弾を喰らい呆気なく消えて行った。

するとツバサは額に掻いている汗を笑顔で拭いこちらへと戻ってくる。


「ふ~久しぶりに良い運動が出来ました。」

「勘は鈍っていない様だな。」

「もちろんですよ。この国の兵と100人組手をしたりしてましたからね。それに火縄銃の訓練と量産もバッチリですよ。」


どうやら誰も助けに来ない時の事を考慮して歴史の再現も余念がなかった様だ。

しかし信長がこんな若い時から精力的に動いていたのだろうか。

それはさて置き、俺達はそのまま城の中に戻り、まずは病人の治療をする事にした。


「毒ならこの解毒ポーションで問題ないだろう。」

「そうですね。私はここに何も持ち込めなかったので助かります。治療も毒と気付いてすぐに吐き出させて胃洗浄をするくらいしかできませんでしたから。」


きっと水を飲まして何度か吐き出させたのだろう。

それで上手く胃の中の毒が薄まり全員の命が助かったと言う事か。

そして最上階に行くとそこでは1人の男が立ち上がり、窓辺から外を眺めていた。


「父様!まだ起きては体に障りますよ。」

「いや、大丈夫だ・・・。ゴホ!ゴホ!」

「ほら、無理しないでください。」

「フフ何時もすまんな。」

「それは言わない約束ですよ。」


そして2人はどこぞの時代劇を思わせるやり取りをすると互いに清々しい笑みを浮かべる。

どうやらツバサがこの時代に来て5年と言っていたが既に不治の病と呼べるものが織田家に蔓延している様だ。

これに関しては付ける薬が現代にすら存在しないので既に手遅れだろう。


「それよりも信長よ。」

「何ですか?」


すると父親であるノブヒデは真剣な顔でツバサに話しかけた。

その様子にツバサも真剣な顔で返すとノブヒデは話を続ける。


「私もそろそろ歳だ。それにこの機会にお前へ家督を譲ろうと思う。」

「え!要りませんよそんなの。前から言ってるじゃないですか。それは弟のノブユキにあげるって。」

「しかしお前が今まで準備して来たのは何の為だ?天下を取る為ではないのか?」

「え~私は表ではなく裏から支配したい派なんですから家督なんて要りません。それに天下よりも素敵なモノがここにあるんですから。」


ツバサはそう言うと俺の腕を取り、その胸に挟みこん・・・今の体はそれ程ないな。

さっきの戦闘で動きが良かったのもこれが原因か。

しかし掴まれている腕が何故か万力で挟まれている様な感覚が伝わってくる。

ツバサは覚醒者では無いのにどういった原理が働いているんだろうか。

そして顔をこちらに向けると心臓が凍り付く様な笑みを向けて来た。


「何か良からぬ事でも考えましたか?」

「・・・大した事ではない。」


おかしいな。

以前は肩が凝るとか、動きにくいと色々と悪態をついていたのに無いなら無いで気に入らないのか。

それにしてもハルヤの言う様に女とは勘が鋭い。


「少し間が有ったのが気になりますけど今は良しとしましょう。」

「そうだな。大事な話の途中だからな。」

(なんとか追及は免れたみたいだ。)

「後でゆっくり話しますからね。」

「・・・。」


どうやらダメだったみたいなのでここは覚悟を決めて素直に尋問というお説教を受けよう。

男はグダグダと言い訳をせず諦めが肝心だからな。

するとノブヒデは突然フラフラと歩き始め、今川の兵士が持っていた刀を拾い上げた。

そしてスルリと鞘から抜き取ると瞬動に迫る勢いで向かってきた。

スキルも無いだろうに良い動きだ。


「貴様が!貴様が私の可愛い信子ノブコを誑かしたのかー!」

「失礼な。俺とコイツは相思相愛だ。」

「キエ~~~!ならば決闘じゃ~。ノブコが欲しければ私の屍を越えて行け~!」


どうやらツバサから変な影響を受けた上に最初から親バカだったようだ。

そして当事者であるツバサは頬に手を当てて体をクネクネ動かし、何やら独り言を呟いている。


「もう相思相愛とかそんな事を人前で言うなんて照れちゃいますよ~。それに父様もそんな事を言っちゃって~、そんな事を言ったらマサトなら・・・ハイ!ストーップ!」


ツバサの制止は聞こえていたが俺は本人の強い意志と希望に応える為に屍を越えて行く事にした。

その為、初撃を後ろへの跳躍で躱すと苦無を取り出してノブヒデの眉間に投げ付けた。

そして苦無は見事に命中し、頭部を貫通して背後の柱へと深々と突き立つ。


「父上、ツバサを下さい。」

『バシ!』

「それを先に言いなさい!」


するとツバサは再びハリセンを取り出すとそれで俺の後頭部をフルスイングで叩きつけた。

こちらはこちらで中々に良い動きなのできっと父親にでも似たのだろう。

その父親であるノブヒデはそこで無残な屍を晒しているけどな。

これを跨げば超えた事になるのだろうか。


俺はノブヒデに近寄るとその体を大股で跨いでみる。


「条件はコンプリートされた。これでツバサは俺の嫁だ。」

『バシ!』

「死者に鞭を打つような事はやめい!それよりも早く生き返らせて!このままだと冗談じゃ済まないわよ!」

「いや、これは男と男の勝負の結果で・・・。」

「生き返らせなさい!!」

「・・・了解。」


おかしいな。

俺の方が立場的には上司なのに命令されている気がするぞ。

まあ、ツバサだから仕方ないな。

俺は蘇生薬を取り出して倒れているノブヒデへと振り掛ける。

そして、少しすると目を覚ますと俺の顔を見て立ち上がった。


「いざ!尋常に勝負じゃ~~~!」

『バシ!』

「止めなさい!」

「グハー!『バタ!!』」


すると俺と違いノブヒデはその場で倒れると手足をピクピクさせて白目を剥いた。

そして、ツバサの手元を見るとどうやらあれはハリセンではなく鉄扇に変わっている様だ。

確かにあれで後頭部にツッコミを入れられれば生きている人間は少ないだろう。

するとツバサは自分の手元を見て間違いに気付き、額から一筋の汗を流してこちらに視線を向けて来る。


「・・・テヘ。」

「誤魔化したな。」

「ボスケテ~。」


うむ、このタイミングで言われればニュアンスで何処となく何を言っているのかが分かるな。

俺は仕方なく再び蘇生薬を取り出すとノブヒデを蘇生させた。

そして、その後はツバサの肉体言語による優しい説得によって彼女を連れ城を出る事が出来た。

ちなみにその夜に神と名乗る存在が現れ、今日のノブヒデを連続で蘇生させた事で長時間のお叱りを受けたのは言うまでもない。

それに今川の男も適当に生き返らせて領地に投げ捨てておいたので勝手に自分の家に帰るだろう。

今日は心が羽の様に軽いので特別サービスだ。


そして、その事を電話でハルヤに話すと短い溜息と共に言葉が返された。


「まあ、神様と歴史の修正力が何とかしてくれるんじゃないか。」

「そうか。それなら問題ないな。」

「ああ、問題ないだろう。」


そして俺はツバサを連れてハルヤに指定された寺へと向かって行った。

何でもそこに移住をしたい家族が居るそうなのでその回収を頼まれたのだ。

後で本人達も来るそうだが一旦はそこに集合となった。

まあ、奴には色々と試作品を渡しているのでそんなに時間は掛らないだろう。

その後、互いに積もる思い出話をしながらのんびりと空の旅を楽しんだのだった。

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