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154 贄の許へ ①

俺は寺から出ると空から目の前に広がる森に視線を移すと軽く睨みつける。

そして次なる邪魔者を排除するためにそこに向かい不機嫌な態度で声を掛けた。


「そろそろ出てきたらどうだ。」

「ゲヘヘ!やっと門が開いたと思ったらガキが気付きやがったか。」

「まあ、たかがガキ1匹じゃねえか。追加だと思って連れて行こうぜ。」


すると森の中から刀や槍を持った男達が姿を現し下卑た笑みを向けて来る。

ただ、コイツ等は魔物ではなく恐らくは野党の類で、この寺の財産か食料を求めてやって来たみたいだ。

ただし追加というのが少し気になるので奴らの背後に視線を向けると望遠のスキルを使い、そこに居る数名の子供と女性を発見した。


「お前らはさっきまで何をしていたんだ?」

「何をしてようとテメーには関係ねえだろう。」


そう言って男達は態度によって答えを示す様に血に濡れた刃を俺に見せつけて来る。

どうやら既に野党らしい仕事を1つ終わらせてからここに来たみたいだ。

ならば俺が更にコイツ等から奪っても問題はないだろう。


「そうか。もう少し真面目に働けばこんな事にはならなかったのにな。」

「今頃になって後悔しても遅せーんだよ。テメーも大人しく俺等の商品になりやがれ!」

「遅いな。」


俺は相手が1歩を踏み出すよりも早く懐へ入り、既にその胴を2つに斬り裂いている。

男が喋っていた最後の方では既に2つに分かれた後で、それに気付いた時には激しく叫びながら地面に倒れていた。

その後ろに居る野党たちも容赦なく斬り殺し、物言わぬ躯へと変えて行く。

そして何人かは勝ち目のない事に気が付くと森の中へと向かって走り出した。

しかしその背後から襲い掛かり、首を飛ばし誰も生かして森へは返さない。


「助けてくれーーー!」

「お前らはそれで何人を助けたんだ?」


そして森の入口へと足を踏み入れた最後の1人を周囲の大木ごと斬り裂き始末を終えた。

それによって2本ほど木が倒れたけど気にする事ではないだろう。

俺はそのまま森を進み、その先に居る囚われた人達の所へと向かった。

そこには見張りとして2人の野党が残っており、周囲を警戒しているようだ。

恐らくはさっきの木が倒れ大きな音を立てたのが原因だろう。

警戒されているのは面倒だけど、その意識と視線は寺がある方に集中している。

これなら背後から奇襲を掛ければ簡単に片が付きそうだ。

俺は頭上を見上げると枝の切れ目を通っり上空を移動し、相手の背後に回ると地面に足を着けずにそのまま男達へと飛び付いた

そして首を掴んでその場から離れて行き、ついでに首の骨を折って始末しておく。

こんな所で子供や女性に人死にを見せる必要はないので、コイツ等は寺の前の仲間たちと一緒に放り投げておけば僧たちが勝手に掃除してくれるはずだ。

曲がりなりにも釈迦如来がどうとか言う連中なので経くらいは上げるだろう。


そして男達を森の外へと捨てると俺は先程の人達が居る所へと戻って行った。

するとそこにいる人たちは何が起きたのか分からず、身を寄せて逃げずに震えている。

俺はそんな彼らの前にゆっくりと姿を現すと怪しまれない様に声を掛けた。


「助けに来たんだけど大丈夫か。」

「・・・。」


しかし、暗くて俺が見えないからか怯えて声も返って来ない。

このままだと時間ばかりが経過するので困っていると背後から1人の人物が接近してきた。


「お困りの様ですね。」

「困ってます。」


そこに居たのはあの寺の和尚で、この状況を予想して俺を追って来てくれたみたいだ。

それならここは任せて俺は次の場所に向かう事にした。


「コイツ等は誰か分かるか?」

「恐らくは近くの村の子達でしょう。村に托鉢に行った時に何度か見た事があります。」

「それはここから近いのか?」

「山を下りてすぐの所です。様子を見て来て貰えますか?」


この和尚は話が早くて本当に助かる。


「そのつもりだ。コイツ等の事は任せた。」

「任されましょう。それにしてもあなたは変わった人の様だ。慈悲を見せたり容赦なく相手を滅ぼしたり。まるで阿修羅の様な方です。」


阿修羅って確か仏教では守護神か何かだったはずだ。

でも修羅とも言われて無慈悲な印象もあるんだけど俺はそこまで酷くはないはず・・・ないよね多分。


「阿修羅が何か知らないけど俺は行くからな。しばらくコイツ等は寺で預かっていてくれ。」

「分かりました。」


俺は和尚を信じてこの場を任せ、そのまま上空へと飛び上った。

野党に襲われた後なら村でも誰か起きているだろう。


そして村が見えて来ると予想した通りに幾つもの松明が動き回っているのが見える。

恐らくは被害のあった場所を調べ犠牲者の確認でもしているのだろう。

秋とは言っても夜は冷えるので既に村の広場では焚火の火が灯され、その横には犠牲になったと思われる村人が並べられている。

数にして10人くらいなので犠牲者はそんなに多くは居ないみたいだ。

俺は少し離れた場所に着地すると歩いて焚火の許へと向かって行く。

そして、そこで悲しみに暮れる人々に向かい声を掛けた。


「話がしたいんだけど大丈夫か?」

「見ねー顔だがお前は誰だ?」

「そこの寺から遣いで来た者だ。あちらも野党に襲われたので心配になってこちらの被害の確認に来た。犠牲者はそれで全員か?」

「ああ、死んだのはこれで全員だ。攫われたのも何人か居るが全員がコイツ等の家族だ。」

「分かった。」


俺はサッと後ろに下がり姿を隠すと一気に上空へと飛び上り遺体の傍に勢いよく着地する。

それにより風と土を巻き上げて村人の視界を塞ぐと死体を収納して空へと消え去った。


そして混乱の声を背中に聞きながら寺へと戻ると和尚を見つけて声を掛ける。


「無事に森から連れ出せたみたいだな。」

「お帰りなさい。彼らは両親が殺されてしまいショックを受けています。少しは落ち着きましたがこのまま村に帰しても、しばらくは普通の生活も困難でしょう。」

「そうか・・・。ならコイツ等は俺が貰って行くけど良いな。」

「こちらで面倒を見ても構わないのですよ。」

「いや、大丈夫だ。少し待ってろ。」


俺は和尚にそう伝えてから傍にある森へと入って行く。

そして先程の死体を取り出すとそれに蘇生薬を振り掛けて生き返らせ、適当に揺すって起こしていった。


「ここは何処だ?」

「なんで森に居るんだ?」


恐らくコイツ等は自分が殺された事を忘れているだろう。

それでも他の村人は死体を運んだ事で彼らの死を知っているので、もうあの村に彼らの帰る場所は無くなっている。

傷が消えて生き返ったと説明しても今の時代で誰が信じてくれるだろうか。

もし信じたとしても鬼や怪物として疎まれながら生活する事になるだろう。


「まずは事実を伝えるけど、お前らはさっきまで死んでたんだ。」

「どう言う事だ?俺達そんな怪我なんてしてねえぞ。」

「痛い所とかもねえし、それともここはあの世ってやつなのか?」

「いや、お前らは確かに死んでたんだ。自分の服をよく見て見ろ。傷から溢れた血でベットリ濡れてるだろ。」


すると彼らは自分達の衣服を見て驚きの声を上げる。

暗くて見えにくいけど俺が取り出した蛍光灯のランタンを点けるとよくわかる。

それによって少しパニックになりかけたけど10人も知り合いが居るので何とか声を掛け合って静まってくれた。


「理解が出来た所で次の話だ。村の奴等はお前らが死んだことを知っている。それでも受け入れてくれると思うか?」

「・・・無理だろうな。きっと気味悪がられるのがオチだ。下手をしたら村から追い出されるかもしれねえ。」

「それならお前らの子供たちは寺で保護してある。今から渡す服に着替えて一緒に別の地に移り住む気は無いか?」

「そ、そう言えば娘が居ねえ!」

「俺の所もだ!」

「家族で移り住めば安心だろう。ちょっと遠いけど後で迎えに来てやる。その間はそこの寺で世話になってろ。」


すると彼らは顔を見合わせて頷き合うと決意の籠った顔を向けて来る。

これが家族を置いてとなると踏ん切りが付かない者も居たかもしれないけど偶然にも全員で移動なので決断は早かった。

俺は彼らに以前に兵士たちから鹵獲した服を渡し、血塗れの服から着替えてもらう。

体には乾いた血が残っているだろうけど、それは後で行水でもして落としてもらおう。


「準備が出来たな。こっちが寺だから付いて来てくれ。」

「分かった。」

「色々とすまねえな。」


そして森を抜けると彼らは子供たちを見つけ元気が無いのに気が付くと急いで駆け出して行った。

すると最初は驚き怯えていた子供や女性たちも両親が生きているのを実感し涙を流して喜んでいる。

それを見て和尚はその場を離れ俺の傍へとやって来て笑みを浮かべた。


「彼らの両親は死んだと聞きましたが?」

「生きてたんだろ。気になるならそちらの信じる神にでも感謝の念を存分に送っておいてくれ。俺が叱られる量が少なくなるように。」

「アナタはもしかして神の使いか何か・・・。いえ、分かりました。明日からしばらくは感謝を込めて経を上げておきましょう。そうれで彼らを連れて行くのですか?」

「ああ、九州に良い所があるからな。あそこなら受け入れてくれるだろう。」

「あそこも争いが絶えない地だと聞きますが?」


それは少し前の事で今では戦をすると容赦なくアンドウさんが制裁を加えるので平和な地になっている。

それにそろそろ残っている2割もどうにかするだろうから日本では一番安全な土地になるだろう。

もうじきツバサさんを連れて来ると思うので危険の目は全て排除する為に手加減はしないはずだ。

きっと早めに恭順を示した奴らはそれを見て自分の判断が正しかった事に安堵するだろう。


「それに関しては大丈夫だ。あそこは組織と美しき翼の里の支配下にあるからな。もし隠居して移り住むならお勧めだぞ。」

「ハハハ。まさかそんな事になっているとは思いませんでした。しかし私は生涯ここで坊主をすると決めているのです。ですから今日の事を胸に刻んで更なる徳を積む事にしますよ。」


和尚は笑いながら言うと俺に背を向け僧たちの許へと歩き出した。

その迷いのない歩みから本気で言っている事が伝わってくる。

彼ならきっとこの寺に居る来る多くの人々を導いて行けるだろう。


「それとこれはしばらくの生活費だ。後で迎えに来るから彼らをしばらく預かっていてくれ。」


そう言って俺は小判の入った袋を投げ渡したので、これだけあれば数日は大丈夫だろう。

和尚はそれを受け取るとまるで砲丸でも受け取った様な勢いで地面へと落としてしまう。

そう言えば砲丸ではないけど小判も金属である事を思い出し、30枚ほど入っているのでかなりの重量のはずだ。

俺が軽く投げ渡したので相手もそこまで重いとは思ってなかったのだろう。


「悪い。痛めてたら悪いからこれもやるよ。飲んで元気出せよ。」


俺は追加で下級ポーションを1つ渡しておいたので、あれを飲めば体の痛いところは全部治るはずだ。


「良いのですか?生活費の他にこんな物まで頂いて。」

「気にするな。これも神の思し召しってやつだ。今まで積んだ徳が実を結んだと思ったら良いじゃないか。」

「それだと死ぬまでに徳を積み直さないといけませんね。それではこれは有難く頂いておきます。」


そう言ってポーションを飲み干すと動きやすくなった体で再び歩き始めたのでしばらくはこの寺も安泰だろう。


俺はその背を見送るとその場から離れて次の目的地へと向かって行った。


次はここから3キロ離れているらしい極楽寺だけど、ほぼ一直線に行くのでもう少し近いかもしれない。

どちらかと言えば探す方が大変なので、こんな時にオメガが居れば目的地まで迷わず行けただろう。


ちなみにお遍路の場所はあまり内陸の方には無く一部を除き四国の外周寄りを一周する様に回る事になる。

本では50日~60日かかり、道のりは1220キロとなっている。

現代でこれならこの時代ではもっとかかるかもしれないけど、道を使わず空から行くので問題ない。

ただし正確な場所は分からないのでそこが問題になる。

現代ならスマホの地図アプリを使えば迷わずに目的地まで行けるので科学の便利さが実感できる。


「そう言えばこの便利機能が付いているゴーグルは役に立たないのか?お遍路の道順を知ってるか!」


するとゴーグルが起動して四国の地図を表示してくれる。

そして、視界に矢印が表示され、次に行くべき方向を指し示してくれた。

どうやら、このゴーグルには既に日本の情報が色々とインストールされ、衛星が無くても自分がどの位置に居るのかを把握しているみたいだ。

異世界の技術はホントにハンパないな。

そのおかげで俺は迷う事無く寺に到着し手順を踏んで進んで行く。

3番は金泉寺、4番は大日寺、5番は地蔵寺、6番は安楽寺、7番は十楽寺、8番は熊谷寺、9番は法輪寺、10番は切幡寺と迷う事がない分、速度もあげられる。

ただここまでに30キロ程しか進んでいないので各寺がかなり近い事が分かる。


ただ、その後は少し遠く11番の藤井寺までが12キロあり12番の焼山寺まで43キロ、13番の大日寺まで30キロとかなり距離が開いている。

まあ全長で1220キロとなると東京からなら日本の最北端である北海道の宗谷岬くらいまでとなる。

そう考えればかなりの距離があるのが理解できるので、これは明らかに今夜中には回れないだろう。

道後の天皇が逃げ込んでいる寺も目的地の一つだけど距離にして800キロ以上ある様なので到着する頃には朝になっているはずだ。

以前に言った冗談の様に本当に音速を越えられれば多分朝には間に合うだろうけど到着時には必ず減速が必要だし、もし減速しなければ寺の一部か全てを破壊する事になる。

その方が神々の怒りに触れそうなので早めのブレーキと減速は必須だ。


俺はそんなつまらない事を考えながら1人で移動と着地を繰り返し、朝になってようやく皆の許へと到着した。

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