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151 プリンは時代を超えて

俺が取り出したのは子供によく食べさせるカッププリンだ。

それを人数分出してテーブルに置くとその上に使い捨てスプーンを乗せる。

するとアケとユウの顔が勢い良く上がり、俺の出したプリンへと視線が注がれた。

そして蓋を開けてスプーンを刺してやると2人に持たせてやる。


「お兄ちゃん食べても良いの?」

「私達、今日だけでもいっぱい食べたよ。」

「そんな事は気にしないで食べたい時はそう言えば良いんだよ。流石にあれは別だけどね。」


そう言って俺はミズメ・・・ではなくスサノオを指差して例に挙げる。

あれはダメな大人の見本みたいな奴だ。

今も白目を剥いてピクピクしているので死んではいないのだろうけど決して真似をしてはいけない。


すると2人はスサノオを見て笑顔で頷きスプーンを使ってプリンを食べ始めた。

きっと箸よりかは使い易いので大丈夫だろう。

もし零しそうなら俺が食べさせてやれば良いだけだ。

そう、兄として2人に「ア~ン」して食べさせてやれば!


しかし残念な事に上手にスプーンを使ってプリンを食べている。

あの調子では俺の出番は無さそうだ・・・。

すると向かいに座るツクヨミが冷たい視線を向けている事に気が付いた。

いったい何か問題が有ったのだろうか?


「どうかしたのか?」

「いえ、何でもありません。それよりもこれはなんだか不思議な食べ物ですね。」

「そうか?俺の時代だと普通のお菓子だぞ。材料も牛乳と砂糖と卵でそれを混ぜてそこの蒸篭みたいなので蒸せば出来上がる。」


まあ、材料は蓋に書いてあるのを大まかに読んでいるだけで、作り方は蒸すやり方と焼くやり方の二通りあるんだったか。

焼く方に関してはあまり知らないけど、焼きプリンも俺は好きだ。


「そういう意味ではなく・・・。前にも食べた事がある様な?」

「もしかするとこの世界に来る前の話じゃないのか。お前も見た目通りの歳じゃないだろ。」

「・・・そこは怒れば良いのでしょうか?それとも見た目よりも若いと喜ぶ所でしょうか?」


もしかして何千年生きてるだろうに齢を気にしてるのか。

まあ、美人で歳を取らなくても女性と言う事だな。


「色々と駄々洩れですが今回は褒めていると受け取りましょう。それにしても本当に不思議です。何処で食べたのでしょうか?」

「ハハハ。俺じゃないんだから物忘れが激しくなるのは老化の始まりだぞ。」

「そろそろ怒っても良いですか?」


するとツクヨミの目が吊り上がったのでどうやら言い過ぎたみたいだ。

それもプリンを食べ進めると次第に霧散していき、誰が見ても分かる様な笑顔へと変わっていく。

それが周囲の客を魅了しているけど店員が上手く会計などに誘導して追い出している。

なんだか手際が良いので、もしかするとこんな事がよくあるのかもしれない。


そして少しすると驚異的な速度でラーメンを完食したミズメも加わり話しに華を咲かせた。

そんな中で時間は瞬く間に進み気が付けば夕方になっていた。


「そろそろ戻らないとな。」

「そうですね。スサノオも復活しているので我々も帰りましょうか。」


俺は約束通り皆の会計を請負い、小判で支払いを済ませてお釣りを受け取っり皆の待つ外へと出て行った。


ちなみに、さっきまで風船のように腹を膨らませていたスサノオだけど、今は少しだけ萎んで動けるようになっている。

しかし、それが普通でいくら食べてもお腹の膨れない女性陣がおかしいのだ。

俺だって・・・あれ?もしかして俺も一緒か?

まあ、俺の事はどうでも良いとしてだ。

アケとユウも・・・可愛さが損なわれないから良しとしよう。

ミズメもアズサの前世だと言うなら問題ない。

きっとコイツも四次元胃袋を標準装備しているんだろう。

しかしツクヨミもかなり食べているのに全く腹が膨れない。

スサノオがアレなので神だからという訳では無いだろう。


「そんなに女性のお腹を凝視するものではありませんよ。」

「ははは、小僧もお前が太らないか『ドゴン!』ウップ!オゲロロロ~~~・・・。」


スサノオが俺のとは少し違う感じにツクヨミへ話しかけた瞬間、女性に対する禁句が含まれていたため見事な拳がそのお腹へと炸裂した。

その直後にスサノオは何処からともなくサンタが背負う様な大きな袋を取り出してその中へと胃の内容物をリバースする。

それはまさに蛇口を全開にしたと表現すれば良いのか。

言葉にするにはあまりにも激しすぎる音と光景が目の前で繰り広げられている。

あれで戦闘向きではないというけど殴った時のインパクトで衝撃波が出ていた。

周りに俺達しか居なかったのが救いだけど、もし居たら巻き込まれて何メートル飛ばされていただろう。

そして煙を上げる拳を自分の顔の横へと持って来てニコリと微笑みを向けて来る。


「何か気になる事でも?」

「ナニモアリマセン。」


どうやら時代や存在が変わっても女性への禁句は同じの様だ。

俺は反射的に今までの思考を放棄、削除して首を横へ振り答える。


「そこで削除までするといつかこの男の様になりますよ。」

「ならどうなってるかその服の下を見せて・・・。」

「な、何を考えているのですか!?」


ちょっと直接見せてもらおうと思っただけなのに先程以上の速さで拳が飛んでくる。

しかし既に一度見ている攻撃なので見切りのスキルを使えば余裕で躱せる。

まあ、急な運動で胃捻転でも起こすと大変なので揶揄うのはそろそろ終わりにしておこう。


「まあ、揶揄うのはこの辺にしておこう。」

「乙女にそんな冗談を使ってはいけません!」

「ああ悪い。・・・乙女だったんだな。」

「そこでどうして哀れんでいる様な顔をするんですか!」


どうやら地雷まで踏み抜いてしまったみたいで怒りからかジャブにコンビネーションが加わり、まるでプロボクサーの様な動きで攻め立てて来る。

でもあまり続けていると人が集まって来そうなのでそろそろ終わりにした方が良さそうだ。


『バシ!バキバキバキ!』

「あ!」


一応は拳を受け止める事は出来たけど俺の掌の骨が壊滅的に破壊されてしまった。

でもこれくらいなら危機的状況でもないので再生のスキルを使えばそのうち治るだろう。


「気は済んだか?」

「あ、あの。ごめんなさい・・・。」

「気にするな。こんなのはほっといても治る。」


ゆっくり治すつもりだったけどツクヨミが気にして落ち込んでしまったのでスキルを意識して数秒で傷を治した。

これだけの怪我をするのは珍しいので良い練習になる。

そして治った手を開いたり閉じたりして問題ない事をツクヨミに見せた。


「ほらな。」

「・・・お、驚かせないでください!本当にあなたという人はいつも無茶をして!」


無茶?

俺はこちらで無茶をした記憶が無いんだけど、さっきみたいに昔の事と混同しているのかもしれないな。


「なら今後は気を付けるよ。それよりもそろそろ帰った方が良くないか?」

「そ、そうでした。早く帰らないと抜け出したことがアマテラスにバレてしまいます!」


もう手遅れの様な気もするけどそこは俺に関係のない事だ。

でも考えてみればツクヨミはアイツの妹になるんだよな。

それなら居なくなった事で心配しているかもしれない。


「最近は門限も厳しくなってきているので急がないと。それではまた機会があれば会いましょう。」

「うう・・・、良いの貰っちまったぜ。それじゃあ、またな小僧。」


そう言って2人は消えて行き俺達も宿へと戻る事にした。

まあ、あの店の常連ならまた会う時もあるだろう。

それにしても門限とは兄ではなく母親みたいな事を言うんので、もしかして腹黒のクセに妹には過保護なのか?


するとアケとユウが手を握って来たので俺達は夕日の町を歩き始めた。

やっぱり俺のやり方では押さえつけるよりも自由にのびのびと過ごして欲しい。

まあ神から見れば短命な人間の考えなのであちらとは根本からして違うのかもしれない。


「今日は満足できたか?」


すると2人は笑顔で俺を見上げて大きく頷いた。


「うん。とっても楽しくて美味しかった。」

「兄さんとこうしてずっと一緒に過ごしていたいです。」

「それは良かった。またこうして一緒に出掛けような。」


俺がこうしてこの時代に居られる内に・・・。

そして後半は心の中だけで呟き、俺は後ろに居るミズメにも声を掛けた。

なんだかさっきから手を出したり引っ込めたりしているからだ。


「お前は楽しめたのか?」

「こんなに食べたのは初めてだけど・・・楽しかったわよ。」


まあ、あれだけ食べれば満足できるだろう。

ただ夕飯まで食べられるのだろうか?


「もうすぐ夕飯だけど大丈夫か?」


すると胃の辺りを擦りながら腹具合を確認し始めた。

もちろん、そのお腹は今朝と全く変わらない見た目だ。


「ん~・・・大丈夫そうかな。」

「そうか。まあ食べれるなら良いか。」


きっと今日の大食い対決を見ていた奴らが聞けば腰を抜かして驚くかもしれない言葉を何でもない様に言い放っている。

でも、これで夕飯を食べれないとなるとちょっと怒られそうだ。

今日の事は爺さんたちに話すとしても一部は伏せておいた方が良いだろう。

そして宿に到着すると、入り口で爺さんが待ち構えていた。


「あれ、俺また何かやらかしたか?」


すると爺さんは俺の許へと歩いてやって来るとすぐさま声を掛けて来た。

どうやら今回は怒っているのとは違うみたいだ。


「本部から緊急の通達が来たぞ。」

「仕事って事か?」


俺は手を握っている2人には分からないくらいに僅かに表情を歪める。

せっかく皆で遊びに来ているのに、これではまるで休日出勤を強制されている様だ。

俺の幼い時に父さんにも同じ様な事が何度かあったけど、きっとこんな気分だったんだろうな。

仕方なく2人を俺の前に立たせるとしゃがんで顔を見上げながら話しかけた。


「悪いけどここで少し待っててくれないか。なるべく早く帰って来るからな。」

「うん。良い子で待ってるから早く帰って来てね。」

「兄さんも気を付けてください。帰りが遅いと嫌いになっちゃいますよ。」


俺の言葉に2人は苦笑いを浮かべて言葉を返してくれる。

この顔を再び笑顔に戻すために早く仕事を終わらせて帰って来よう。


「それで、何処に行けば良いんだ?」

「そうじゃな。以前に見せた地図は覚えておるか?」

「だいたいはな。」


もしかして地図の話が出ると言う事はそんなにも遠い所なのだろうか?

でも流石に馬鹿な俺でも日本の形くらいは覚えている。

ただ県名を全部言えと言われたら無理だけどな。


「それなら地図は手書きでも分かるじゃろう。手紙に書いてあった場所はここじゃ。」

「ここはもしかして!」


そこは四国の愛媛県にある松山市の辺りだ。

ここには日本三古湯の一つと言われている道後温泉があり、現代に居た頃には数年に1度は入りに言っていた旅行先だ。

何気にこの辺の騒動が収まったら皆を連れて入りに行こうと考えていた。

ここからなら船を使えばあっと言う間だから・・・な?


「考えてみると島津から来るのとそんなに変わらないよな?」

「うむ、そうじゃな。」

「これから温泉を梯子するか?」

「お、お主・・・なんて事を言い出すのじゃ!」

「ここも片付きそうだから次は道後温泉に行こうぜ!」


考えてみればここからだと片道2時間程度で到着するだろう。

それなら俺1人ではなく皆で向かい、ついでに道後の温泉に入って帰ろうと提案してみる。

しかし、爺さんの驚きが意外と大きく今も口を開けたり閉めたりしているのでちょっと不謹慎だったかもしれない。

しかし、そんな爺さんの許へアケとユウが駆け寄りその手を握って左右に振り始めた。

現代風に言えば子供の駄々っ子状態だな。


「お爺ちゃん行こ~よ。」

「私も行きたいです~」


すると爺さんは2人の駄々を聞いてキリっとした顔に戻る。

やっぱり大人には2人でも効果が無いみたいだ。


「ははは!儂もそれを言い出そうとしておった所じゃ。さっそく皆で行こうかのう。モモカにも声を掛けて来るから少し待ってなさい。」


そう言ってその場から消えると宿へと入って行った。

おそらく今のは瞬動と縮地を使っているのだろう。

しかも風すら起こさず宿に入って行ったので他にも何らかのスキルを使っていそうだ。


(それにしても凄い掌返しだたな。)


そして、少しすると爺さんとモモカさんが姿を現した。

しかも服装が着物ではなく、俺がアンドウさんから貰った忍び装束に近い。

更にその腰にはナイフ・・・では無くて大きな包丁が革の鞘に入れてぶら下げられている。

どうやら、これがモモカさんの戦闘スタイルの様で、この人以前に戦いは得意ではないと言っていたけど出来ないとは言っていない。

特に今回は危険と分かっている所に行くので装備を整えたのだろう。


「今回は参加するんですか?」

「いやね~念の為よ。念の為。」


・・・きっとこれは社交辞令みたいなものと受け取った方が良いだろう。

下げている包丁もなんだかビシビシと威嚇するような禍々しい気配を放っている。

どう見ても普通の包丁じゃないよねアレは。

恐らくだけど妖刀とか魔剣とか、そう言った類の物に違いない。


「とっても似合ってますね。」

「そう?この子も最近は使う事が無かったから封印してたんだけど、先日の事もあって持って来ておいたの。普通なら娘か孫の嫁入り道具にしようと思っていたのだけど断られちゃって。フフフ・・・こんなに良い子なのにね~。」


それはきっと使う人を選ぶからではないでしょうか。

そんな危険な包丁を使ってると、きっと旦那さんも気になって仕事どころじゃないと思います。

娘であるキキョウさんも孫のハナさんも英断を下したのであって、これは普通の人は触れてはいけない物です。


「それはさておいてそろそろ行きましょうか。仕事の内容もまだ聞いてないので歩きながらでも。」

「そうじゃな。」


そして話を聞くと現天皇が家族で道後へと湯治に出向いているらしく、そこを魔物の群れに襲われたらしい。

ただ組織の各支部からも多くの護衛が出されていたのでなんとか近くの寺に逃げ込む事が出来た。

それでも魔物を相手に寺の壁は脆くて低すぎる。

しかし、たまたま居合わせた陰陽師によって結界が張られ、なんとか持ち堪えている状態の様だ。


ただ問題としてその魔物が何処から湧いて来たかだ。

最も有力なのは腐敗した組織のメンバーが魔物化して天皇を襲っている可能性が高い。

きっと彼が死んでしまうと少なくない混乱が生まれ、権力者である各地の武将も活発な動きを見せるだろう。

そうなれば更なる争いが生まれ邪神にとって都合の良い状況となってしまう。

これは温泉を満喫するためにしっかりと仕事を片付けないといけないな。


そして俺達は日の沈み始めた海に到着すると船を取り出して準備を始めた。


「これはまた変わった船じゃな。」

「翼が生えてるわね。」

「これに意味ってあるの?」

「きっとこれで敵を斬り裂くんだよ!」

「なんだかお空も飛べそうだね。」


俺が取り出したのはアンドウさんが作った船だけど皆の言う様に側面には翼が生えている。

しかも装甲は最低限にして軽量化され、更に動力部にはプロペラが搭載されている。

簡単に言えば船の形に似た飛行機で揚力はどうするのかと言えばそれは飛べば分かる事だ。


「さあ皆乗ってくれ。」

「大丈夫なのか?」

「その辺は見てれば分かるよ。」


俺は皆を乗せると爺さんを先頭に座らせ、俺は一番後ろの定位置へ。

モモカさんとミズメはバランスの関係で俺の少し前に座らせ、翼の付け根近くの壁際にアケとユウを座らせる。

そして幾つかの確認と説明を終えると俺は動力部に座り声を掛けた。


「それじゃあ行くぞ!」

「任せておけ。」

「任せてお兄ちゃん。」

「期待に応えて見せます。」


そして、まずは海の上を通常航行で進み次第に速度を上げていく。

今の時点でもかなり機体は浮き始めているけどやっぱり速度が足りていない。

計量化しているとは言っても機体は重く、翼が小さすぎるからだ。

しかし、それを無視して揚力を増大させて飛ばす方法がある。


「2人は下から上に向かってツバサに風魔法を放つんだ!」

「「うん!」」


すると風魔法が機体を押し上げ、水面から一気に空へと押し上げて行く。

その瞬間に俺は動力部を隣へと移動し、今度はプロペラへと動力を伝達する。


「爺さん、スキルを使って風の抵抗を減らしてくれ。」

「任せろ。」


そして、浮き上がった船は上昇を続け、高度がかなり上がった所で2人には少し休んでもらう。

まだまだ体力が少ないので持続的に魔法を使うのはきついはずだ。

そして魔法が止まるともちろん次第に高度が落ち始め、海面が近づいてくる。

ただしアンドウさんが言うにはこの時は重力に引かれる事で速度が増すそうだ。

その現象を利用し更に速度を加速させ少し不格好な空の旅を続ける。


そう言う事でこの飛行機はスキルなどを利用する事によって現代の常識さえも無視した飛行を可能にしているのだ。

その後、俺達は海を行くよりも遥かに早く1時間ほどで目的地近くの海岸へと到着する事に成功した。

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