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149 再会

ミズメの信頼を得た俺はモモカさんに冷やかされながらなんとか朝食を終えた。

そして皆で揃って外へ出ると新しい支部に相応しい物件を探して歩き出した。


「どうやって家を探すんだ?」


俺は現代でも高校を卒業してすぐなので家なんて探した事はなく、この時代の土地事情や相場を知っているはずもない。

ここは経験豊富そうなモモカさんに頼るしかないだろう。

なにせ1代で1つの店を立ち上げてあの町で上位の商人へと上り詰めた人だ。

資金は爺さんが準備したと言っていたけど、店を切り盛りしていたのはこの人らしい。

前から宝石店の店長であるトモエさんに似た雰囲気があると思っていたけどやっぱりやり手の商人だったみたいだ。


そして何度か人と話をしながら歩いていると大通りの先から兵を引連れて馬に乗った鎧武者が現れた。

周りの人たちはそれに気付くと道を開けて端へと寄って行くので、恐らくはこの辺りを治める武将でも現れたみたのだろう。

その見た目は朱の鎧を着て髭面の男で綺麗な着物を着せた女の子を前に乗せている。

それに黒い鎧を着た兵士たちを従え、まるで戦いにでも来たみたいだ。

なんだか何処かで見たことがある気がするけど何処だったか。


すると馬に乗った武将は俺と目を合わせるとこちらへと馬首を向け兵士を引連れてやって来る。

ただ立っているだけなのに何か気になる事でもあったのだろうか?

それともその年でアケたちに一目惚れか!

そうなると一緒に乗っている少女はアイツの嫁!?

ゆ、許さん!許さんぞ!!

5歳、10歳の差ならともかく、どう見ても20歳以上の違いがある。

こんなオヤジに可愛い妹を嫁になんてやらんからな!


「おい、そこのシスコン。俺の事を何だと思っている?それとも本気で俺の顔を忘れたのか。先日会ったばかりだと記憶しているのだがな。」


おっと、また心の声が駄々洩れになっていたみたいだ。

もしかしてこれが心の病と言う奴か。

妹成分であるイモニウムはアケとユウから補給していると思っていたけどまだまだ不足気味みたいだ。

俺は2人を抱きしめて頬擦りすると再びイモニウムを急速チャージする。


それにしても言葉の翻訳に初めて横文字が入って来たので俺もかなりこの時代に馴染んで来たと言う事かもしれない。


「おい、そこの変態。話を聞く気はあるのか?」

「ちょっと待て。今は妹成分を補給中だ。あと1時間後くらいしたらもう1度お越しください。」

「長いわ小僧!」


すると武将は俺の言葉に反応し見事なツッコミを入れてきた。

しかし、惜しいな。

俺的には「黙れ小僧」と言って欲しかった。

もう少し引き延ばしたら俺の求める名台詞が聞けるだろうか。


すると横に居る爺さんが凄い冷たい目で睨んでいるのに気が付いた。

その横には微笑んでいるけどまるで抜身の刀の様な目をしたモモカさんも居る。

このままだと後が怖そうなのでイモニウムの補給は後に回して話を聞く事にした。


「2人ともありがとな。また後で頼む。」

「任せて!」

「布団でお待ちしてます。」


すると今度は武将の目がまるでゴミでも見ている様に冷たくなる。

別にこの体の年齢なら妹と寝ててもおかしくないはずだろ。

なんでみんな俺を子供扱いしないのだろうか。

鏡を取り出して覗き込んで見ても、そこには10歳であどけない少年の顔が有るだけなのに。


「それよりも俺と話す気はあるのか?」

「それは俺のセリフだ!お前と話してると異常に疲れるぞ!」


まさか非常を通り越していきなり異常と言われるとはな。

しかし、このまま立ち話をしていてもしょうがないので何処かの店にでも腰を落ち着けてから話しをした方が良いだろう。


「それならあそこに茶屋があるからそこで話を聞こうか。」

「まあ、それなら良かろう。お前達が我らの目的であった海賊を捕えてくれたので時間はあるからな。」


どうやら彼らがここに来た本当の目的は俺ではなく海賊だったみたいだ。

そうなると俺に話しかけて来たのは偶然と言う事になるけど、この時代にもオレオレ詐欺とかあるのだろうか。

まあ、この中に詐欺に騙されそうな高齢者は『ギロリ』・・・居ないよね。

だからそんな怖い顔で睨まないでくださいモモカさん。

ほら兵士たちもなんだか怯えちゃってますよ。


そして俺達は兵士に囲まれた茶屋に入るとお茶と団子を頼んで一息を突いた

すると話を始めて最初に武将は自分達の事も渋々ながら説明してくれた。


そうだそうだ。

コイツは先日お邪魔した屋敷の持ち主とその娘さんだ。

武将の名前は初めて知ったけど直泰ナオヤスと言う名前らしい。

そして少女の名前がアキコで、もう会う事は無いだろうと思って完全に忘れていた。


そんな中でアケとユウはこっそり団子をミズメに任せ、俺の所へとやって来る。

どうやら2人は別のお茶請けを御所望の様だ。

それを見てミズメも一瞬で団子を喰い切るとキラキラした瞳でこちらを見て来る。

まあ、ここには団子しか無さそうだし、少しくらいは良いだろう。


「それならこれでも食べてろ。」

「「「わ~い!」」」


取り出したのはお茶と良く合うスイートポテトだ。

俺は甘い物が好きなのでこういったストックも大量に持っている。

恐らくは基本的な食材よりも多くの甘味を所持しているだろう。

そして一応は人数分出してそれぞれに配っておく事にした。

特に対面に座っているアキコが目を見開いてガン見してるから渡さないと泣かれてしまいそうだ。

さすがに放置して自分達だけで食べるのは気が引けるし、それに甘い物を美味しく食すには味も大事だけどその場の雰囲気も大事なのだ。


「ほら、お前にもやるからゆっくり食べろよ。」

「うん!そう言えば、前にくれた甘い丸いのは無いの?」

「甘い丸いの?・・・もしかして飴の事か?」


あの時の事を思い出して飴を見せるとアキコは大きく頷き、同時に差し出した皿を受け取って目を輝かせる。

しかし受け取るったは良いけど、初めて見るスイートポテトをどうやって食べようかと悩み始めた。

そして、その視線は周囲へと向けられ、そこで美味しそうに食べているアケとユウへと向けられる。

2人はマナーなんて気にしないから素手で食べているけど、このスイートポテトは側面と底がクッキー生地になっている。

なので手で食べたとしてもそれ程は汚れない。

まあ、この時代の人は現代人よりも胃腸は丈夫だろうけど馬から降りて来たばかりだ。

その辺を気にしているのかもしれないのでファミレスなどに置いてあるのと同じ紙ナプキンを取り出してそれを渡してやる。

そして俺は自分のスイートポテトを包み、直接持たない様にして口へと運んで見せた。


「これなら横に居る髭オヤジにも怒られないだろ。」

「うん。ありがとう!」

「髭オヤジ・・・。」


何やら1人ショックを受けているようだけどアキコは俺と同じ様にしてから美味しそうに食べ始めた。

その姿を見てナオヤスはすぐに満足そうな表情を浮かべると髭を弄りながら頷いて見せる。


「うむ、意外と気の利く奴だ。」

「お前もあまり厳しいだけだと嫌われるぞ。それに髭もどうにかしたらどうだ?」

「これは男としての武威を示す大事な物だ。大怪我でもせんかぎり剃ったりはせん!」


するとナオヤスは髭に手をやり自慢げに触り始めた。

しかしその姿に横に居るアキコの表情が少しだけ嫌そうに歪むのが見える。

どうやら、そういう風に思っているのは男だけの様だ。


すると、外の兵士がザワザワと騒ぎ始めると1人の女性が姿を現した。

その顔には覚えがあり確かコイツの奥さんでイヨさんだったか。

以前と比べて明らかに顔色が良くなっており弱々しかった表情も今では凛々しく健康そうだ。

そして、その腕にはあの時に生まれた赤子が抱かれており、静かに寝息を立てている。


「まさか、生まれたての子供を連れて来たのか?」


ここへ来たと言う事はそういう事なんだろうけど新生児は体が発達していなくて首が弱い。

下手をするとここまでの旅で簡単に死んでしまうかもしれない危険を孕んでいる。


「流石に危ないだろ。」

「大丈夫だ。その為に屋敷からここまでの道を完璧に整備させておいたのだ。俺達で歩きながら道の最終確認を行いながら来たから車を使えば安全に旅が出来る。」


この時代の車だから牛車か人力車だろう。

しかしそれでも現代の様に舗装された道を進む訳では無いので危険であるのに変わりはない。


「それに先日アンドウが俺の所に現れてな。イヨが話をすると変わった車を提供してくれたぞ。俺が言っても一切取り合わなかったのにな。」


そう言えば外に何か止まってるな。

そちらを見ると確かにこの時代では変わっているとしか言いようのない車が止まっていた。

どうやら自動車ではないけどトラックに使われている大きなタイヤやクッション用に大きなサスペンションが取り付けられている様だ。

しかもブレーキにはドラム式が使われ、前面に付いている運転席にはブレーキ用のハンドルも付いている。

あの人も何気に相手が子供や女性だと甘くなるみたいだけど、きっと親子で旅行へと行けるように手を貸したのだろう。

するとイヨさんが此方へとやって来ると俺の横が空いているのでそこに腰を下ろした。


「始めましてで良いかしら?」

「そうだな。俺はハルだ。」

「私はイヨよ。知らない間に私もこの子もとてもお世話になってしまったみたいね。」


そう言って彼女はまさに菩薩に似た穏やかな笑みを浮かべて見せる。

しかしこれが子供を産んだ女性が持つという未知の力だろうか。

なんだか優しさの中に海の様に広く力強い何かを感じる。


「その後は問題ないか?」

「ええ、この子は体も丈夫でとても穏やかよ。アキコの時はもっと大変だったもの。」

「お、お母様!」


するとアキコは恥ずかしくなったのかスイートポテトをお茶で流し込むとそれを皿へと戻して椅子から立ち上がり小さく声を荒げた。

恐らくは弟が目を覚まさない様に配慮したのだろ。


「フフ、本当の事でしょう。それにアナタ達だけ美味しそうな物を食べてるのね。」


するとその視線はアキコが食べていたスイートポテトへと向けられ、次に俺へと向けられる。

どうやら出所が俺であると目星をつけた様らしく、形などからこの周辺にはない物と考えたのだろう。

それに1人だけ仲間はずれには出来ないので素直にお皿に入れてイヨさんの前に差し出した。


「変わった物ですね。羊羹の様にも見えますが。」

「え~その辺は良く知らないのですけどこちらの方が馴染み深いですか?」


そして、ついでに出したのは芋羊羹で、それを見て周りの女性陣から肉食獣のような鋭い視線が飛んでくる。

いつの時代も甘い物は女性に人気がありそうだけど、材料からするとこれを食べるのは草食獣ではないだろうか。

そしてイヨさんはスイートポテトを一口齧り、店員が運んできた茶で味を洗い流すと芋羊羹にも手を伸ばした。


「そうですね。私はこちらの方があっさりしていて好みです。これは穀物を使っているのですか?」

「これは甘い芋を使って作られた物ですけど知りませんか。そう言えばアンドウさんが里で栽培していると言っていましたよ。」


あの人は食べ物が手に入らない時の事も考えて現代から野菜各種の種を大量に持ち込んでいる。

そのおかげで早い段階から美しき翼の里の忍び達は食料に困らなくなっていた。

きっとあの人に言えば色々な野菜の種や苗を融通してくれるだろう。

一時的に収入の足しになるだろうし、今は時期が悪いので育てるにしても来年からになるかもしれない。

ちなみにアンドウさんは里で密かにハウス栽培も行って冬の食糧不足にも対応している。

まあ、薄いフィルムを使った簡易式らしいけど、あの人はいったい何処まで準備周到なのだろう・・・。


「それは良い事を聞きました。それにしても甘い芋ですね。」

「確か砂糖も使ってるんだったかな。」


するとイヨさんは少しガッカリした様な表情を浮かべた。

もしかして、この時代には砂糖が無いのか!?


「砂糖は少し高価な物で私達には手が出せません。海の向こうにあるミンから入って来てはいるのですが、もっと力とお金がある人たちの所へ運び込まれますので。『チラリ』」


するとその視線が旦那であるナオヤスへと向けられた。

ようは「この甲斐性無しが!」と目で訴えているのだろう。

これは確かに一旗揚げて奥さんに良い所を見せようと考えるかもしれない。

しかし何も奥さんに良い所を見せる方法は髭を伸ばして戦いに勝つだけではないはずだ。


「それなら、自分達で砂糖を作ってみたらどうだ?」

「それに関してですが製法も元となる植物も分からない状況では手が出せません。大陸に人を送るにも色々と多くの手続きやお金が必要なので。『チラチラ』」


そろそろ、その無言の威圧を止めてあげないと旦那さんも泣いちゃうよ。

その横に座っていたアキコなんて既に逃げ出してアケとユウの2人と一緒に芋羊羹を食べてる始末だ。


「それならアンドウさんと交渉すれば製法と作物は譲ってくれると思うぞ。同盟に参加したんだから協力関係だしな。」

「本当ですか!アナタ、良くやりました!」


すると奥さんは立ち上がってナオヤスの隣に移動するとさっきまでとは一転してベタ褒めしている。

それによってナオヤスは凛々しく凄んだ目元で鼻の下を伸ばし凄く嬉しそそうな表情を浮かべている。

どうやらあの髭は伸びた鼻の下を隠すのに多大な効果を持っているようで普通の人には真剣な顔に見えているのだろう。

確かにあれなら武威はともかくとして威厳はなんとか守れそうだな。


「後で連絡をしておくからそちらで上手く交渉してくれ。素直に理由を言えばきっと協力してくれるはずだ。」

「色々とありがとうございます。ここに来られて本当に良かったです。」


そう言ってイヨさんは旦那の髭を掴むと店から姿を消し、それを見てアキコも羊羹片手に外へと向かって行った。


「そうだ、これをやるから大事に食べろよ。」


俺はフと思い出して飴の詰まった袋を取り出すと、それを投げ渡し軽く手を振ってやる。

アキコもそれを受け取り中身を知ると笑みを浮かべて手を振り返して来た。


「感謝します。それでは色々とありがとうございました。」


そう言って茶屋を出ると両親を追いかけ走り去って行った。

どうやらあの髭には色々な使い道があるらしいので、これからもアレが剃られる事はなさそうだ。


そして俺達も休憩を終えると物件探しを再開するために茶屋から出た。

するとそこには兵士が数人残っており俺達の前にやって来る。


「イヨ様より、あなた方に協力しろと言われております。」

「それなら何か良い物件はないかしら?」

「そういう事ならこちらへどうぞ。既にあなた方には好きに使ってもらっても構わないと言われている屋敷の一つを指示されております。」


なんだか準備が良すぎるけど考えてみればここを統治しているのは先程のナオヤスたちだ。

土地の1つや2つくらいなら簡単に準備が出来るだろ。

ただ指示を出したのが主ではなくその妻のイヨさんであるのが気にかかる。


「モモカさん、それって使っても問題ない奴なのか?」

「きっと今回に限ってはお礼だろうから大丈夫だと思うわよ。彼女は以前から商売っ気が強いから借りはすぐに返す質なの。以前にも何度かお付き合いした事もあるのよ。」


今回に限ると言う所が気にはなるけど、それなら使っても問題なさそうだ。

どうやら、あの家の財政は彼女が取り仕切っていると見て間違いないだろう。

どうりであんな頑丈な蔵を作って護ってるはずだ。

それに出来れば戦争よりも俺達と仲良くしていた方が利益を上げられると理解してもらいたい。

そうすればしばらく裏切る事は無いはずだ。


「それなら後は任せますね。俺はみんなを連れて食べ歩きしながらアンドウさんに連絡を入れておきますから。」

「そうしてちょうだい。しっかりその子達を楽しませてあげるのよ。」


とは言っても俺もここに来たのは初めてなので何が有るか分からない。

まずは旅の醍醐味として手探りで色々と見て回れば良いだろう。

そして、ようやく自由時間となったので俺達は良い匂いのする方向へ歩き出した。

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