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143 魚を頂きます

俺は元遊郭を後にするとアケとユウの居る支部へと戻って来た。

そして2人を見つけ傍に行くと2振りの刀を取り出して2人の前に置く。

子供の玩具としては危険な代物だけど、それ以上の危険がこの時代には溢れている。

護身用と言うだけでなく戦う力と手段が無くては身を護れない。


「2人にこれを渡しておく。余裕がある時に爺さんに剣での戦い方を習っておいて欲しい。」


するとアケは童子切安綱を手にし、ユウは鬼丸国綱を手にした。

2人とも少し重そうに持っているのでまだ力が足りないみたいだ。

近い内に魔物を一緒に倒して更にレベルを上げておく必要がある。

そして2人が手にした刀を少し抜くと童子切からは赤いオーラが、鬼丸からは白いオーラが立ち上った。

それを見て爺さんが此方へとやって来て手元を覗き込んだ。


「その二刀はお前達を気に入ったようじゃな。強い武器には稀に意思が宿り所有者を選ぶと言われておる。これからは良き相棒となってくれるじゃろう。」


するとアケとユウは刀を鞘に戻すと俺にニコリと笑いかけて来た。

渡した物が子供用包丁ではなく殺傷能力の高い日本刀なので見方によっては猟奇的に見えなくもないけど、俺にとってはエアーズロックの上で叫びたいほどに輝いて見える。


「ありがとうお兄ちゃん。大事にするからね。」

「私もちゃんと使えるように頑張って練習します。」

「俺も強くならないといけないから一緒に頑張ろうな。」

「「うん!」」


俺は頑張る宣言をした2人の頭を撫でてやりながら一緒に訓練をする事を約束した。

それにしても朝に鞘から抜いた時は何も反応をしなかったので俺は刀に選ばれなかったみたいだ。

特にアユジの話では鬼丸に関しては清らかな者が手にしないと力が発揮されないらしい。

2人の心が清らかなのは俺が保証するとして、使用が出来なくなっていた浄化の力が使えるようになっている。

それに両方とも魔物に対して特攻効果があり接近戦でも有利に戦えるので今後の活動で役立つ能力になる。

それにアケの童子切には邪を払う効果が備わっているので邪神除けや魔物除けとしての効果も期待できる。


でも、俺がこんな感じでもアケとユウは嫌がらずに受け入れてくれる。

この辺りも精神面で変化してしまった部分なのかもしれないけど、元々が虐待を受けながら生きて来たので我儘や拒絶する事を知らないだけかもしれない。

俺的にはもう少し我儘や駄々をコネてもらいたいところけど、その辺に関しても少しずつ教えていくつもりだ。


(きっと我儘な2人も可愛いだろうな・・・。)


ゴホン!

思考が脱線してしまったけど頑張った分はしっかりと甘やかしてやるつもりだ。

頭を撫でて・・・抱っこして・・・頬擦りををして・・・。


ゴホン!ゴホン!

そろそろ思考を戻さないとな。


「爺さんも頼んだからな。」

「うむ、それにしてもお前も業が深そうじゃな。」

「何の事だ?」

(いったい何を言ってるんだこの爺さんは?)


まだボケてはいないと思うけど早めにポーションを渡しておくことにした。

以前に渡した物は後で返されてしまったので今は持っていないはずだ。


「そんな事よりも爺さんには訓練中にポックリ逝かれると困るからな。これを渡しとくから飲んでおいてくれ。今回は世話になるからちょっとした授業料と思ってくれたら良い。」

「そういう事なら使っておくか。」

「これは爺さんの言う所の回復薬なのは以前に話したけどギックリ腰から肩コリまで体の不調はこれ一本で良くなるはずだ。予備も十分にあるから必要な時は言ってくれ。」

「うむ。」


そして渡したのは中級ポーションで夕飯の準備のために先に帰ったモモカさんの分と合わせて2本ある。

後で渡しても良いのだけど忘れると怖いので都合の良い相手へ押し付けておく事にする。

すると爺さんは瓶を手にすると1本を飲み干し顔を向けて来たのでどうやら聞きたい事があるらしい。


「何か聞きたい事でもあるのか?」

「前から疑問に思っておったが、どうしてお前はこんなに回復薬を持っておるんじゃ。通常ならこれは数千匹魔物を倒してようやく手に入る物じゃ。しかも、それは人から魔物となった咎人ではなく、純粋な魔物を倒して初めて手に入る。当然その魔物は咎人など比べ物にならんくらい強力じゃ。」


確か組織では人から魔物になった者を咎人と呼ぶとハルアキさんが言っていた。

俺の時代ではドロップ率が高いうえに純粋な魔物の方が多いので手に入りやすい物だけど、この時代だとそんなにドロップしないようだ。

そう言えば昼間にあれだけ魔物を倒しても1つもポーションが出なかった。

俺の場合は称号の効果があるはずなのにそれでも手に入らないという事はそれだけ確率が低いという事だろう。

しかし、この時代に俺の言葉がどう翻訳されるのか分からないので未来から来ましたと下手な事は言えない。

まあ、ここは嘘を言う選択肢もあるけど後で変に拗れたりしても困るし、即席で嘘を思い付くほど俺の頭は優秀じゃない。

なので言えることは1つだけだ。


「そこは秘密という事で頼む。それに俺はこれからいろんな奴を見捨てたり見殺しにする事になる。だからこれに関しては俺をあまり当てにしないでくれ。」

「そうか。まあ、それに関しては心配するな。元々が無いのが普通じゃからな。」

「そうしてくれ。ただ、余程の重傷でなければアケとユウなら治せるようにするからそっちを頼ってくれ。」

「・・・。」

「どうした爺さん?」


何故か急に爺さんが黙ってしまった。

しかも微妙に怒っている様な何とも言い表しにくい表情を浮かべている。


「お前はそれがどれ程の事か分かっておるのか?」

「魔法なら消耗品と違って体力を使うだけだから問題ないだろ。」


すると、その直後に爺さんはアケとユウを笑顔で奥へと連れて行くと少しそこで待つ様に伝える。

そして再び戻って来ると真剣な顔で話を再開した。


「儂はな。お前を見た時から唯者ではないと思っておった。」

「そうなのか?」


流石は支部長をしているだけはあって人を見る目はあるのかもしれない。

でも、なんでそんなに気配が刺々しいんだ?


「あまり頭も良さそうでなかったから今まで言わんかったがな。やはり言わないと分からんようだ。」

「だから何だ?ハッキリ言わないと分からないぞ。」


すると爺さんは目を瞑って息を大きく吸い込むと、まるで風船の様に胸と腹が膨らませる。

それを見て人はこんな事が出来るのかと感心するけど、次の瞬間に爺さんの目がカッと見開かれた。


「この大馬鹿者がーーー!!」

「うお~。」


まさにそれは俺がスキルとして持っている咆哮のように空気を震わせ、気を含んだ声は俺の体を振動させた。

さらに背後にあった壁を粉砕し丸い通路を作り出している。


「あ~あ。支部が壊れたじゃないか。」


これは俺が弁償しなくても良い奴だろう。

そういえば所々に似た様な修繕跡があるのでこれが原因なのかもしれない。

でもこれって生身で受けた奴は死んでいるのではないだろうか


「黙って話を聞けい!お前はあの2人を危険に晒すつもりか!?」

「そんなつもりは無いけどやっぱり回復系の魔法は不味いか?」

「当然じゃ。幾ら組織に所属しておろうと、どれ程の愚か者があの2人を手に入れようと動き出すか分からんぞ!」

「それなら来た奴らは片っ端から始末するだけだ。又は半殺し?いや、4分の3?まあ、日本中が狙って来たとしても俺は容赦しないけどな。」


俺は言い終わると同時に殺気を放ち、どれほど本気で言っているかを爺さんに伝える。

恐らく今ここに一般人が顔を出せば発狂するか心臓が止まるだろう。

しかし、爺さんはそれをサラリと受け流すと大きな溜息を零した。


「どうやら覚悟は十二分以上にある様じゃな。」

「覚悟とか関係なく決定事項なだけだ。」


もしかして俺は試されていたのだろうか?

こんな回りくどい事をしなくても言葉だけでも十分なんだけど、見た目が10歳の子供では仕方が無い。


「それじゃあ2人の修行は任せたからな。出来れば気の使い方も教えておいてくれ。」

「うむ、任せておけ。それにしても、あの回復薬は今まで飲んだ物の中では一番の優れ物じゃな。まるで現役時代に戻った様じゃわい。」


なんだか言われてみると顔の皺も減って少し体つきがガッチリしたような気がする。

まるで成長したように手足が伸びて服が縮んだ様なきもするけど、きっと気のせいだろう。

ツクモ老も体の不調が消えて動き自体は昔に戻ったって言ってたけど若返ったとは聞いた事が無い。


そしてどうやら待ちきれなくなったアケとユウがこちらに来てしまった様だ。

2人とも顔を半分だけ出して心配そうな表情を浮かべて覗き込んでいる。

それに気付いた爺さん?はニコリと笑うと2人へと手招きをした。


「話は済んだからもう来ても良いぞ。」

「「は~い。」」


すると2人とも揃って爺さんの所へ行くとその顔を見て首を傾げている。

やっぱりアケとユウもということは俺の勘違いではなかったみたいだ。


「お爺ちゃん、なんだかさっきと違う?」

「なんだか元気そうです。」

「ホッホッホ。ハルが薬をくれたんじゃよ。これで2人と一緒に沢山遊べるぞ。」

「やった~!」

「なら、明日からさっそく剣の練習ですね!」


ハッキリ言うと遊ばせるためにポーションをあげたのではないんだけど、きっと遊びを取り入れた訓練をしてくれるのだろう。

アケとユウが楽しんで訓練を出来るなら俺としても言う事は無いのでしばらくは任せる事にする。

そして俺達は今日の成果である魚を食べに家に向かう事にした。


「そいえばお兄ちゃんは釣れなかったから私の釣ったの分けてあげるね。」

『クサッ!』

「私だって一番大きいのを分けてあげます。」

『グサッ!グサッ!』

「あ・・・うん、ありがとう2人とも。」


一応魚は取れてるんだけど俺は心にしばらく消える事のないダメージを負った・・・。

まあ、あれは副産物なのでこの中だとボウズは俺だけだけになる。

隣を歩いている爺さんは何かを言いたそうな顔と言うか凄いドヤ顔を浮かべている。

なんだか姿がちょっと変わっただけなのにウザさが3倍になった様な錯覚を感じる。


「爺さん。言いたい事があるならハッキリ言え。」

「いやなに守る者に施される飯はさぞ旨かろうなとな。しっかり味わって食べるのじゃぞ。」

「・・・ウガ~~~~!」

「ハッハッハ!図星を突かれて吠えるとはまさに負け犬よな。今日は楽しい夢が見られそうだ。」

「ならしばらく良い夢が見られるように黄泉に送ってやるよ!」


しかし流石と言うか力があっても素手だと綺麗に受け流される。

俺も本気ではないと言ってもこうしているだけで爺さんの技術が如何に高いのかが伝わってくる。

その後ジャレ合うのもそこそこにして家に到着すると中から香ばしい魚の焼ける匂いが漂ってきた。

どうやら時間的に丁度いいタイミングだったよう中に入ると先に帰っていたミズメが玄関で出迎えてくれる。


「おかえりなさい。ご飯の準備が出来てますよ。モモカさんや皆も待ってますからこちらへどうぞ。」

「おお、すまんなあ。どれ、勝者の特権を楽しむとするか。」

「まだ言うか!」


そしてアケとユウも素早く草鞋を脱ぐと中へと駆け出して行った。

俺はここで飯を食べるのは初めてだけど2人は何度かご馳走になっている。

きっと何処の部屋で食べるのか既に知っているのだろう。

俺は残っているミズメに先導される形でその部屋へと向かって行った。

そして部屋に到着すると大きな座卓があり、その上に料理が置かれている。

どうやらここでは皆で向かい合い、料理を囲んで食べるようだ。

この時代の食事風景がどんな物なのかは知らないけど、俺にとってはいつもと変わらない光景に思える。

あえて言うなら料理が山盛りになっていないのがいつもと違うくらいだろう。

そしてモモカさんは爺さんと違ってちゃんと均等に魚を1匹づつ焼いてくれたみたいだ。

ただ、奥にある囲炉裏では今も大量の魚が焼かれており、透明な油を滴らせている。

前にテレビで見たけど地方によっては鮎などの川魚を乾燥するまで焼いて保存食にするらしい。

もしかするとこれからの冬に備えて備蓄を蓄えるのかもしれない。


「それでは全員揃った所で頂こうかの。」

「そうですね。今日は大漁だからミズメもお腹いっぱいに食べるのよ。」

「は、はい。」


何故か話がミズメに振られて本人も恥ずかしそうにしている。

それによく見ると準備されているご飯の量がアイツだけ少し多い気がする。

きっとあまり食べさせて貰えない時期が長かったので体がそれを補おうとしているに違いない。

肉体的にはポーションで回復しているので急にお腹いっぱいに食べても大丈夫なはずだから気を利かせてくれたのだろう。

そして俺達はこれからの事を話しながら食事を始めた。


「商売の方はどうなんだ?ヒルコも魔物狩りは止めて店に入るんだろ。」

「そうだな。ゲンさんのおかげで店は無事に取り戻せたし従業員もどうにかなりそうだ。それにあのアンドウと言う人のおかげで大口の仕事も幾つか取れそうだしな。」


ヒルコもハナと同じで商家の出身なので元々が組織に所属するような人間ではない。

目的であった回復薬も俺が提供したため続ける理由も無くなっているので今が転職するなら一番良いタイミングだろう。

それに昨日知り合ったヨシヒサからの依頼や石鹸の売り出しだけでなく蜂蜜に関してもこの店で取り扱う事になっているので、これからの事を考えれば十分な利益を上げられるだろう。

それ以外にも色々と考えているようなので、もしかしたら大商家が誕生するかもしれない。


そんな中でミズメはいつの間にか全てのご飯を食べ終え密かに囲炉裏へと向かっていた。

そして焼けている魚を皿に乗せると戻って来て美味しそうに食べ始める。

まさに骨さえも残さない食いっぷりを見て不意に苦笑が浮かんでしまう。


「何か言いたいの?」


そう言えばアズサの時も最初はこんな感じだった事を思い出した。

あの時は記憶を思い出していない状態で互いに少し棘のある状態だったけど、昨日の様に鮮明に思い出せる。


「いや、次は俺も魚を取らないとなと思っただけだ。」


あれは釣るではなく取ると表現した方が良いだろう。

そして、ミズメは少し考えると「ああ!」と声を上げて笑みを浮かべた。


「そういえばアナタだけ魚が取れなかったのよね。」


ミズメはそう言って今度は魚の乗った皿を見て悩み始めたので、どうやら俺に魚を分けてくれるつもりのようだ。

そして、どれを渡そうかと悩んでいる内に今度はアケとユウが立ち上がると囲炉裏に駆け出し、そこから焼けた魚の中で大きい物を手にして俺の所へとやって来た。


「これ約束の魚。」

「私だと思って大事に食べてね。」

「ああ、大事に食べるからな。」


2人は俺に魚を差し出して来るのでその優しさに感動してしまった。

でもユウちゃんや・・・そんな言い方されるとお兄ちゃん食べられないよ。

ここは蘇生薬を使って生き返らせて川にリリースするべきなのだろうか?


そしてこの光景を見てミズメも負けじと魚を選び取ったけど、それは他のに比べれば明らかに小さい。

しかも反対の手に持っている半分以上食べ終わった魚と見比べ、どちらを渡すか悩んでいるようだ。


ミズメさんや・・・お前とは後でしっかりと話し合いをした方を良いのかな。

そんな尻尾しか残ってないのを持ってこられたらいくら俺でも怒っちゃうよ。


そしてミズメはとてもとても悩んだ末に小さな魚を持って来た。


「仕方ないから私も1匹あげる。」

「ああ、ありがとう。ありがたく食べさせて貰うよ。」


それを持って来た時のミズメは凄いドヤ顔だったけど、流石に貰う方としてはサイズに文句も言えないのでお礼を言うしかない。

そして、その顔のまま自分の場所へと戻ると先程よりも美味しそうに食事を再開した。

俺も本人がそれで良いなら良いかと思って3人がくれた魚に口を付ける。

ただ魚の味に関して言えば最初に食べた1匹目よりも美味しく感じたから不思議だ。


その後は食べ終わってからアケとユウを風呂に入れて一緒の部屋で眠りについた。

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