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142 ちょっと休憩 ②

俺は皆を追って川へと向かって行った。

すると既に釣りが始まっており中にはお婆さんも加わっている。

どうやら俺がモタモタしている間に加わっていたみたいだ。

しかし何だろうな?

釣りって普通は竿に糸を付けてその先に結んだ針で魚を釣り上げる物だと理解していた。

しかし、それをしているのはアケとユウとミズメだけだ。

爺さんとお婆さんは糸もなく、竿だけで魚を取っている。

そう、あれは釣りでは明らかにない。

あれを釣りと言うにはあまりにも釣りと言う行為に失礼で、あえて言うならば・・・漁?


「2人とも何をしているんだ?」

「何と言われても魚を取ってるのよ。」


それはさっきから見ているから分かる。

確かに釣りとは言ってないけど一応は魚を取っているようだ。

ただ方法がとても独特でどう表現すれば良いのか分からない。


2人は糸の付いていない竿を使い、水面へと素早く叩きつけている。

しかし音も鳴らず更には水すら跳ねない。

そして竿が水面から跳ね上がる時には魚も一緒に飛び出し、手元へと飛んでくるという異色の光景が繰り広げられている。

どうもこの2人は色々な意味で一般の人とは別枠で認識した方が良さそうだ。


「もしかして婆さんも強いのか?」

「私は戦いは全く駄目ね。こうした事は得意なのだけど。」


そう言って頬に手を当てて苦笑すると再び魚が飛んで来たのでそれを視線すら向けずにキャッチする。

確かに先日倒した支部長程度に殺されているので言っている事は間違いないのかもしれない。

でも、その言葉を鵜呑みにして素直に信じない方が良さそうだ。

さっき婆さんと口が滑った時に感じた一瞬の殺気はまさに瀑布に打たれている様な錯覚を覚える程だった。

きっと人質を取られたとか、不意を突かれたとか、歳には勝てなかったとかそんな感じだろう。

今後この人を婆さん呼びするのは少し怖いのでなるべく気を付けておこう。


「それじゃあ、俺も参加するかな。爺さん竿は何処にあるんだ?」

「それならそこの木に立て掛けてある。自由に使うと良いぞ。」


俺は言われた方向に顔を向けるとそこには確かに竹竿が置いてあり、長さは4メートル程で爺さん達と同じ物だ。

すなわち糸らしき物はまったく付いておらず、もちろん針なんて物も付いていない。

縄文人ですら動物の骨を削った釣り針を作って使っていたというのにこの人達は今がいつだと思っているのだろうか


「爺さん。俺は漁どころか釣りも初心者だぞ。」

「ならば都合が良かろう。さっそく真似をしてみろ。」


どうやら、修業とはそう言う事だったらしく、爺さんは気に関する達人なのでそれを伝授するつもりのようだ。

しかし見て理解し覚えろとは中々にスパルタなので今までどれだけの弟子が育ったんだろうか。


「爺さんは弟子を取った事はあるのか?」

「ハッハッハ、そんな者は誰も居らんよ。昔は何人も儂の許を訪れたが最初の試験で脱落してばかりじゃったわ。」

「何をさせてたんだ?」


きっと弟子に志願したのは魔物ハンターをしている連中だろう。

そう簡単には音を上げたりしないはずだけど、全身に引っ掻き傷を作られて逃げ出す姿が容易く脳裏に浮かんでくる。

きっと何処かの老師の様に熊を倒して来いとか言ったに違いない。


「なに、ちょっとした力試しで森に行って素手で熊を生け捕って来いと行っただけじゃ。この程度なら何の問題も無かろう。」


やっぱり何処かで聞いた話でしかも素手で生け捕りと来たか。

ツクモ老も以前に同じような事をしていたと聞いた事があるけど実力者の間では昔から流行っている登竜門なのかもしれない。

それに2人の流派は似ているので最初の試験に設定されている可能性もある。

まあ、俺には生け捕りは容易いので大丈夫だろうけど、現に熊親子を連れて爺さんの前に現れたからな。

まあ捕まえたというよりもアケとユウに懐いて仲間になったんだけど。

そう考えるとあの2人は生け捕りよりも凄い事をやったのではないだろうか。


俺はそんな事を考えながら爺さんたちを真似て竿を手にすると川の縁へと足を向けた。

それに糸なんて持っていないので仕方なく竿だけで魚を取るしかなく、横に居る2人をじっくりと観察する所から入る。


「なら少し観察させてもらうよ。」

「好きなだけ見ておれ。ただしじゃ。」

「何かあるのか?」


そう言って爺さんはニヤリと笑ってミズメ達の方へと視線を向けた。

そして、その後ろには魚を入れる魚籠があり、それがガサゴソと動いている。

よく見れば3人とも好調に魚を釣っていて楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

どうやら、あちらに関してボウズになる心配はなさそうだけど、それがどうしたのかと視線を戻すと爺さんは言葉を続けた。


「もしお前が魚を取れなければ・・・。」

「取れなければ?」

「ボウズはお前1人じゃ。きっとアケとユウはそんなお前に魚を喜んで分けてくれるじゃろうな。」


するとその直後に雷に打たれたような衝撃を受けた。

何故なら保護者を名乗っている俺が、被保護者から魚を分けてもらう現実に行き着いたからだ。

それは俺の宿るハルの生い立ちから考えてありえず、そんな事になれば今晩の会話はこんな感じだろう。


『仕方ないから今日は私がお魚を分けてあげるよ。』

『兄さんは甲斐性が無いですね~。』

『強くても生活力は無いのね。』


なんだか最後にミズメが加わっているけどそれは良いとして、この想像の未来だけは回避しないといけない。

俺はこの瞬間から獲物を狙う虎の様に鋭い眼差しとなり、全スキルを総動員して2人の竿先へと全神経を集中させた。


「俺は虎だ!虎になるんだ!」

「馬鹿な子な雰囲気はあったけど面白い子なのね。」

「儂らの声が聞こえない程に集中しておるな。これは教えがいがありそうじゃ。」

(いえ、2人の会話はバッチリ聞こえてますよ。ただ返す余裕が無いだけです。)


そして見ていると竿先には気が送り込まれ、水に竿を振り下ろすと叩くというよりも斬り裂いている感じだ。

しかも、魚に触れる瞬間に形を変えて下に回り込みフックの様に引っ掛けているのが分かる。

更に魚の動きを完全に先読みしている事から相手の気の流れも同時に読み取っているのだろう。

言うなればこれは入学式でツクモ老が俺の攻撃を受け流す時に使っていた技の応用編だ。

こちらの方が緻密で工程も多いけど今の俺なら何とか出来るだろう。

ただし問題は俺は気によって相手の動きを先読みした経験が無いので、その辺は横の2人を見ながら経験を積むしかなさそうだ。

どんな事でも口だけで説明しただけでは理解できない事はあるからこのような教え方になっている・・・と、思いたい。


「よし、やり方は分かったから後は試すだけだな。」

「もう分かったのね。ちょっと驚いたわ。」


俺もアナタの気の扱い方の緻密さに驚きです。

まさに羊の皮を被った狼と言って良いだろうな。

俺はそれらを参考に竿を構えると何度か素振りをして硬さやしなり等の調子を確かめる。

恐らくは魔刃の応用でどうにかなるだろうけど形を瞬時に自由自在に変える必要がある。


「まあ、こんなもんか。」

「お前は飲み込みは早いのう。じゃがもう一つの関門が突破できるかの?」

「先読みの事だろ。それも以前に見せてもらった事がある。やるのは初めてだけど。」


相手の気の流れを見て次の動きを予想する。

これに関しては見切りが上手く仕事をしてくれるだろう。

2人の漁を見ながら魚の動きを見詰め、更に望遠で周囲に生息している魚の動きも同時に確認しながら膨大な情報を収集して行く。

そして準備が出来た所で竿を構え魚に向かって振り下ろした。


「・・・そこだ!」

「あら残念。」


しかし失敗する前からすでに桃花モモカさんからダメ出しを貰ってしまった。

するとその予告通り魚は逃げ去り、竿は得物の居なくなった場所を叩くだけだ。

どうやら、まだ俺には足りない何かがあるみたいだ。


「惜しかったけどもう少しね。気を使うと気配を放つからギリギリまで気配を消さないとダメよ。」

「こりゃ。そいつは儂のオモチャじゃぞ。」

「良いじゃない。こんな面白い子は滅多に居ないわよ。それに時間もそんなに無いならヒントくらいはあげないと。」


どうやらモモカさんの方が人に教えるのが上手のようだけど出来れば玩具であるのは否定して欲しかった。

でも2人して俺の事をどう思っているのかが分かる瞬間だったよ。

しかし気配を消すのは盲点だったので良いアドバイスを貰えたけど、今までは逆の事はやっていても消した経験はない。

きっと隠蔽か隠密のスキルを取れば簡単に出来る様になるんだろうけど今なら努力すれば出来そうだから頑張ってみることにした。


そして頑張ってみた結果どうやら気は抑え込もうとすると反発して逆に相手に察知され易くなる事が分かった。

なら如何にすれば良いのかと考えると、どうやら消すというのは少し感じが違うようだ。

観察していて分かったけど、この世界には全てに気が宿り、風にすらそれを感じる事が出来る。

すなわち自分の周りにあるそれらの変化を把握してそれに溶け込ませるのが気を消すという事らしい。

実際にこれをスキルの無い人間に教えようとすれば一体何年かかるのだろうか。

まさに2人がこれほどまでに気を扱えるようになっているのは奇跡としか言いようがない。


そして、それらを理解して竿を構えると自身の気を変化させて周りと波長を合わせていく。

言うなれば絵の具の色を変えるような感覚で今までの赤から緑や青に変化させる。

これで俺は周囲と完全に同化し魚からは見えなくなっているはずだ。

そして素早く竿を振り下ろして返す事により魚を見事に叩き上げた。


「フ、俺に掛ればこんなもんよ。」

「あ~・・・そうね。でも獲物が粉々よ。」

「え?」


見ると魚はミンチになって水面へとボタボタと落下しており最後の最後で力を入れ過ぎたようだ。

それと同時にミズメ達が魚籠いっぱいの魚を持ってこちらへとやって来た。


「ここの川はお魚が多いですね。こんなに釣れるとは思いませんでした。」

「あれ~お兄ちゃんの魚籠が空だよ?」

「し~アケちゃんそういう事は分かってても聞いちゃいけないんだよ。」


2人のセリフが俺の心へとパイルバンカーを突き立てる。

それに集中していて気付かなかたけど空を見るとそろそろ夕方なので戻って魚を調理しないといけない。


「フ!次こそは覚えていろよ。」

「まあ、そろそろ時間じゃから仕方なかろう。それにもう一つの仕事が現れたぞ。」


そう言って爺さんは川を指差すと下流から何かが水面を斬り裂きながらやって来る。

それは明らかに川魚としては大き過ぎ、まるで重量が300キロはある大マグロみたいだ。


「まさかこの川に魚が豊富なのはアイツが原因か?」

「そうじゃな。アイツがこの川を徘徊するせいで釣り人が減ってしまっての。魔物の一種じゃろうが水中と言う事で誰も手が出せん。」


それなら此方で処理をしておくのが一番だろう。

今後ミズメ達だけでも気軽に釣りが出来る様にしておかないと川遊びもさせられない。

俺は竿を片手に川に行くと水面を歩いて進路上へとたちはだかる。

すると魔物は顔を上げて深海魚の様に飛び出した目で俺を見て来る。


「ギョギョギョ~~~!」


そして何やら何処かの准教授の様な声を上げると真っ直ぐに向かって来た。

俺は竿を持っている手に力を込めると間合いに入るのを待ち構える。

すると魔物はまるで稲妻の様にジグザグに泳ぎ、こちらを翻弄しようとする動きに変わる。

しかし先程の修行のおかげで全てが手に取るように分かるため、振り下ろした竿は魔物に命中し体が真っ二つに切り裂かれた。

そしてそのまま川も数十メートルに渡って斬り裂かれ周囲に即席の雨と虹を作り出した。


「わ~い、きれ~。」

「さすが兄さんです。」


すると妹たちはその結果に喜びながら拍手と笑顔で称えてくれた。

まあ、こちらはこの程度で濡れる事が無いので当然だろう。

それに陸地には衝撃で打ち上げられた魚が幾らか転がっている。

結果的にボウズではあったけど、獲得数が0という不名誉は回避されたようだ。

しかし、俺はここである1つの事を失念してしまっていた。


「ハル・・・これは何かの罰なのかな?」

「うむ、見事ではあるが最後がよろしくない・・・。」

「人の服をこんなに濡らしてるようではまだまだダメね。次回は厳しく教えた方が良いかしら。」


そして俺の跳ね上げた水によって濡れネズミとなった3人は明らかにご機嫌斜めだ。

その結果、俺は30分ほどのお叱りを受ける事になってしまったけど魔物退治に事故は付きものなのに酷い仕打ちだと思う。

その後、俺達は日も暮れて来たので町へと向かって歩き始めた。

きっと日が高いと叱られる時間は2倍3倍と伸びていただろう。

そして帰っていると途中で10人程の集団が後方から追いついて来た。

全員が武器で武装しているけど敵意はないので野党ではなさそうだ。

それを証明する様に彼らは俺達に気が付くと手を振りながら声を掛けて来た。


「ゲンさん今帰ってきたよ。」

「おお、お前達か。そろそろ戻ると思っていたが全員無事の様じゃな。」


そういえば、この支部に他の人は居ないのかと聞いた時に全員が魔物狩りに出かけていると言っていた。

なんでも難易度の割に稼ぎの良い仕事を他の支部から譲られたらしい。

いつもは数と力で真先に奪って行く他の支部にしては珍しいと思っていたそうだけど、今になって思えば彼らを町から遠ざけるのが目的だったのだろう。

ヒルコは体調が不安定なハナの為に近場の仕事だけを引き受けていたそうだけど、そのおかげで俺達と出会う事が出来た。

もし他の仲間と出掛けていればツクヨミの言っていた様な未来が待っていたはずだ。


そして話しながら歩いていると彼らの視線は爺さんから俺達へと次第に移されていった。


「それでゲンさんが町から出るのも珍しいが知らない顔が多いな。コイツ等は誰なんだ?」


どうやらこの人たちは婆さ『ギロッ』・・・モモカさんやミズメを知らないようだ。

そうなるとミズメがここに来たのが去年の夏くらいと話して、モモカさんが死んだ時期から考えると彼等がこの支部に来て1年にも満たないという事になる。

もし贄としての役割を持つミズメが町に居ると知っていれば、顔くらいは見ていてもおかしくはない。

モモカさんも支部の間取りなどを把握していたので出入りもしていたはずだ。


それに日本の位置で言えばここは端っこにある辺境のド田舎なので、実力のある人は他所へ移動するか、玄武以外の組織へと移っているだろう。

聞いた限りだと入会・退会や移籍も自由みたいだし、ここに居るのは見た目からして全員が新人ぽい空気を纏っている。

年齢も若い様なのでベテランと言えるような人は居ないようだ。

すると彼らは聞きたい事が他にもあったらしく真剣な顔で爺さんに確認を取り始めた。


「それとおかしな話を聞いたんだけど、町に化物が出て支部が潰されたって本当なんですか?」

(なに!俺が少し留守にしている間にそんな恐ろしい怪物が現れていたのか!?ユリやハナ達は町に居るだろうから無事に逃げられたのか心配だ!せっかくアンドウさんに頼んで色々と動いてもらっていたのに無駄になってしまう!もしこの近くにまだ居るようなら絶対に見つけ出して始末してやるぞ!)

「それで、それは何処の者に聞いたんじゃ?」

「町から逃げて来た朱雀の連中ですよ!アイツ等、血相を変えて街道を走って行きましたよ。」


すると爺さんは化物に心当たりがあるのか納得した顔で頷いている。

どうやら何か心当たりがあるようだけど、それならすぐに言ってくれれば良いのに戻ってすぐだったから遠慮していたのだろうか。


「うむ、その者達が言っていた事は本当じゃ。」

「何だって!」

(何だと!)

「町に居た支部長の内3人がそいつに殺され今では壊滅状態じゃ。」

「それじゃあ、残っているのは玄武だけなのか!?」

(そんな非道な事をする奴が・・・あれ?なんだか身に覚えがある様な気がするぞ。)

「そうじゃな。しかし、その化物に関しては心配ない。」

「も、もしかして、ゲンさんが既に倒したんですか!?」


すると彼らは爺さんに尊敬を込めた視線を向けているので、この支部では結構慕われているみたいだ。

そして爺さんは俺の傍に移動し肩に手を乗せると軽く笑って答えた。


「ホッホッホ!その化物ならここに居るよ。コイツが3つの支部を壊滅させた張本人じゃ。」

「ち、ちょっと待ってくださいよ。本当にこんな子供がアイツ等を倒したって言うんですか!?俺達だと1人に手も足も出ないんですよ。」


すると彼らの視線が俺に集まり足先から頭の上まで観察してくる。

しかし今の俺の服装は浮浪児と変わらず、体も痩せ細っている。

幾ら爺さんに言われたからと言って「はいそうですね」とは信じられないだろう。

仕方なく俺は舐められないために平和的な方法で実力を示す事にした。


「爺さん、流石に言葉だけじゃ誰も信じないだろ。」

「そ、そうですよ。どう見ても痩せた子供にしか見えません!」

「な。だから少しだけ力を見せてやるよ。」


そう言って俺は傍にある木の前に行くと指を1本立てる。

そして、それを軽く構えると木に向かって素早く突き刺した。


『ドン!・・・バキバキバキ。』

「あ、力を入れ過ぎて倒してしまった・・・。まあ良いか。これはこれで後で使おう。」


世紀末を描いた漫画の主人公なら、ゆっくり突いても穴を開けれるんだろうけどそんな一子相伝の拳法は使えない。

なので素早く突いて穴を開けるだけのつもりが力を入れ過ぎて木まで倒してしまった。

しかし、それでも効果はあった様で彼らは俺の実力を理解してくれたようだ。


「もしかしてコイツは鬼か何かなのか?」

「どう見ても人間業じゃねえだろ。」


しかし、やっぱり少しやり過ぎたみたいで無駄に怖がらせてしまたようだ。

俺は倒れた木を収納して爺さんの許へと何食わぬ顔で戻って行く。

すると倒れた木が消えた事で更に大きな驚愕の声が上がったけど、最近は良くあるので気にする程の事は無いだろう。


そして俺達は町に帰り、その後にユリが居なくなった事を知らされた。

みんな必死に探してくれたらしいけど誰も見つけられず痕跡すら残っていなかったそうだ。

しかし、俺はその瞬間に一つの可能性が頭を掠めた。


「邪神のやろうか!!」


証拠も確証もないけどアイツはいつも俺から何かを奪おうとする。

最初が家族。

その次がアズサ。

そして、この時代ならせっかく見つけた大事な従業員。

それに纏め役をしてくれていたユリが消えた事でここに住む少女達も混乱しているようだ。

しかし、本当の事が分からないのでこの事を言う訳にはいかない。

もしかすると忍び達の目を盗んで他の誰かが誘拐した可能性もあるからだ。

でもここに居た忍たちの実力は本物なので彼らに気付かれる事なく侵入し、人を1人連れ出せるとするなら俺達の様な覚醒者か魔物の類だろう。

なので俺は恐らくは邪神の仕業だろうと確信して行動する事にした。


「この代償はデカいぞ。絶対に取り戻して見せるからな!」


俺は怒りで拳を握り小さな声で決意を胸に刻み込んだ。

そしてユリと最初に出会った時に身に付けていた髪留めの簪を手にすると、それを収納して部屋から立ち去っていく。

それにどうやら、この時代の邪神も俺を怒らせる才能に満ち溢れているようだ。

しかしこの時代なら今まで溜めに溜めて圧縮し、熟成させて来たこの怒りを直接叩きつけられるかもしれない。

俺はその時が来る事を望みながら、更なる鍛錬と成長のために皆の許へと戻って行った。

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