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139 合戦場

俺はこの世界で10年も生きて来たアンドウさんに案内されて空を移動いている。

どうやら俺が住んでいた村の方向に目的地があるらしく、少しするとその上空を通過する事になった。

そして空から見ると村には幾つかの街道が通り、かなりの農地面積もあるのが分かる。

しかし、あの中で俺の管理していた面積なんてほんの一部だ。

今の俺ならともかく、普通の人間である10歳の子供が世話の出来る量なんてたかが知れている。

それでも今まで生きていたと言う事はどれだけ周りの人が気に掛けてくれていたかが分かる。

そうでなければアケとユウは俺がここに来るまでに売られていたし、俺自身も飢えて死んでいただろう。

それにしても収穫が終わっていないと言うのに居るのは女性ばかりで男性の姿が余り見当たらない。

いつもならこの時期は村を上げて米の収穫をしているはずなのにな。


そして、そのまま進むと少しして問題の場所へと到着した。

そこは近くに川が流れ、腰くらいの高さの草原が広がっている。

それらを挟んで互いに陣を張り、今は戦う前の英気を養っているようだ。

恐らくは俺達から見て近い方がアユジの所属する国の兵士だろう。

そして向かいの離れている方が敵の兵士と言った所か。


「意外と近くで戦っているんだな。」

「この戦国時代は他国との戦以外に内乱も多い。計略、裏切り、下克上を狙う奴らが幾らでも存在するからな。」


確かに俺も戦国時代のイメージもそれに近い。

なんだか夜も安心して眠れないと言うか誰が何時裏切ってもおかしくない感じだ。


「それで問題の奴らはどっちなんだ。俺には敵味方どころか良し悪しの見分けも付かないぞ。」

「それなら問題の奴らはあっちの方だ。よく見れば陣内には不要な物が設置されているだろ。」


俺は言われて目を凝らすと確かに変な物が設置されていた。

まるで磔に使う様な柱が置いてあり、その前には長槍を持った兵士が待機している。

そして柱は何本もあり、既に何人かの少女が服を剥がされて縛り付けられているようだ。

しかも何カ所かには血の流れた跡があり、何度か刺されているのも分かる。

生きてはいる様だけどその顔は苦痛と涙で歪められ、気を失おうとした瞬間に兵士は槍を突き出し痛みによって目を覚まさせている。


普通の奴ならこれだけ離れていると悲鳴は聞こえないだろうけど俺には彼女たちの悲痛な叫びが聞こえる。

彼女らは親や友に助けを求め、兵士たちに止めてくれるように懇願している。

しかし槍を構えている兵士はまるで玩具を弄ぶの様に少女たちの叫びを聞いて笑っているようだ。

そして、もしアイツ等がユリたちを連れて行けば同じ行為が行われていたのは間違いない。


それにあの光景は明らかに異常だ。

どう見ても罪人には見えない少女たちが磔にされて公開拷問を受けている。

しかも周りの兵士もそれを見て止めるどころか楽しそうに笑い、囃し立てる奴も居るみたいだ。


「それでアレを放置するのか?」

「まあ見てろ。」


そう言ってアンドウさんは銃を取り出してその場で構えを取った。

しかし、それはどう見ても火縄銃ではないし、現代の銃にしてはなんだか形が歪だ。

まるで火縄銃に無理やり弾倉を取り付けた様に見えるので、こちらに来てから作った物かもしれない。


「もしかしてアンドウさん・・・。」

「ああ、これは俺の知識を元にして作り上げた連射可能な火縄銃だ。完成に5年も掛ったが今では俺の相棒の一つだな。」


俺はアンドウさんの言葉に内心で焦りが生まれる。

もしかしてこの人は俺よりもここに来てはいけない人なんじゃないのだろうか?

このままだと技術が大きく進歩して歴史が変わるんじゃあ・・・。

すると俺の心配をよそにアンドウさんは自らのスキルについて語り出した。


「ちなみに投擲のスキルが進化すると射撃のスキルに変わる。そうなれば魔刃からの派生スキルで魔弾も使えるようになるぞ。」

「いや、そうじゃなくて誰でも使える技術を作り出して大丈夫なのか?」

「それなら心配ない。これは里の鍛冶師にも作れない様に俺が自ら錬成スキルを鍛えて武器生成で作り出している。そうでなければ5年も掛かるはずないだろう。」


すなわち図面に合わせて作らせるだけならもっと早く作れたって事か。

どうやらこの人はこの人なりに考えて行動しているようだ。

流石に未来に帰った時にこの銃が展示されてると明らかに異常に感じるだろう。

まさに近代のオーパーツに認定されそうだだけど、制作系のスキルにはそんな効果があったのか。

現代に帰ったら色々と試せそうなので今からでも色々と試作しても良いかもしれない。

ようは周りに流出しなければ良いので失敗したり不要になれば潰して壊してしまえば良いだけだ。


そしてアンドウさんが銃を構えて数秒すると銃声が木霊し、ニヤついた顔で槍を構えた兵士の頭を完全に粉砕した。

しかしそれを見て周りの奴らは驚くどころか手を叩いて煽り立てている。

そんな中で狙われるであろう槍を持った兵士は周りを警戒しているけどこの距離から狙っているとは思わないだろう。

スナイパーなどが使うライフルと違ってこの時代の種子島と言われる火縄銃は射程が短いはずだ。

あまり詳しくは覚えていないけど有効射程距離は200メートル程で、正確に命中させるにはもっと短い距離でないといけない。

その常識から考えて彼らの目が500メートル以上も離れた俺達を捉えられないのも仕方ない事だ。

それにしてもスキルの補正が効いているとは言ってもスコープも無しにこの距離を当てるとは凄い腕前だ。


「そう言えば、職業は何にしたんだ?」

「ゴ〇ゴ銃三ジュウゾウだ。」

「・・・。」


・・・またアイツの仕業か!恵比寿ーーー!

流石にそれはアウトだろ。

何でも伏字を使えば良いってもんじゃないんだぞ!


「こ、効果とか聞いても良いのかな?」

「問題ない。視覚強化、命中率上昇、射程増加、無音射撃だ。それにこの10年の訓練で俺の目は3キロ先の本でも読めて命中は必中に進化し射程は2キロに延びている。今の俺ならここに居るお前以外の全員を一発で仕留める事が可能だ。」


やっぱり10年の年月をかけると凄い成長をしているようだ。

俺なんて全てのスキルを使っても1キロ先の人の顔が判別できるくらいだ。


「それよりも早くアイツ等を回収して来い。俺はここで奴らの始末を継続させる。」

「分かったけど俺に当てるなよ。」

「当たりそうなら避けろ。お前になら簡単な芸当だろう。」


なんだか過大評価をされている気がするけど確かにこれくらいなら問題ない。

でも魔弾についてはまだ見ていないので不明な状態だ。

恐らくは実体弾に比べれば明らかに威力が高いだろし、もしかすると音速を越えて光速で飛んでくるかもしれない。

そうなると躱すのは不可能なので、これは危機感知に期待するしかないだろう。

今は互いに助けたい人が居るので裏切らないだろうけど、どちらかしか助けられないくなった時が問題だ。

今はそうならない事だけを祈ってユカリを探すしかない。


そして奴らの真上まで来ると俺は敵の中央へと飛び降りた。

すると笑っていた奴らも一斉に立ち上がり、こちらに武器を構える。

刀、槍、弓とそれなりに揃っているけど防具は殆ど付けていない。

そしてゴーグル越しに見た奴らの魂は既に黒く染まっていた。

すると兵士たちは体を震わせ始め、次第に人の姿を捨てると鬼へと変貌していく。


「コイツ等も手遅れだったか。」


もし魂の穢れが初期の段階なら骨の数本を折る程度で引くつもりだった。

しかし、こうなると俺には既に手の施しようがない。

黄泉へと行って貰って魂を直接浄化してもらうしかないだろう。


俺は刀を抜くと襲い来る鬼たちを容赦なく切り捨てて行く。

その手応えから、どうやら先日の熊型の魔物よりも更に雑魚の部類なようだ。

意識もハッキリしていない様でまるでゾンビの様に単調な動きで襲い掛かってくる。

それに痛みには鈍感な様で手足を斬り取った程度では動きが止まらない。

もしこれが集団同士の戦なら特攻兵として十分に効果が出るだろうからアユジが苦戦していると言うのも頷ける話だ。


すると少し後方にある天幕を開き、数名の兵士と何やら派手な鎧を着た男が飛び出して来た。


「何を騒いでいる!戦の刻限はまだ先だぞ。」


兵士たちは鬼となっている自軍の兵士の姿に驚く事は無く、まるでこれが当然の様に命令を下している。

しかし、その視線が俺に向くとその表情は驚愕に変わった。


「貴様は何者だ!」

「もしや組織の者か!?・・・いや、あそことは既に話が着いているはず!」

「ええい子供1匹に何をしているのだ!早く殺して神への供物にしてしまえ!」


すると鬼たちの動きが格段に良くなり敵意を以て襲い掛かって来た。

どうやら明確な命令が無ければ力を発揮できないみたいだけど、人間が使役するならこれくらいでなければ逆に殺されてしまうだろう。

ただ『神』や『供物』という言葉だけでなく、組織と話がついていると言った時点で神が何を示すのかは理解できた。

どうやらコイツ等は邪神に贄を捧げる代わりに、自軍の兵士へと力を貸してもらっていたようだ。

その結果その力に呑み込まれた兵士たちが魔物化してしまったのだろう。

このままでは人々を遅い続け強力な魔物になるのも時間の問題だ。


「これはちょっと歴史が変わっても先に誰かに頼んで九州を統一してもらわないといけないな。」

「貴様!もしやあちら側の者か!」

「あちらって誰の事だ?ハッキリ言わないと分からないぞ。」


アマテラスのようなこの世界の神側か、それとも少し離れている場所で休憩をしている敵軍側か。

まあ、何でもいいのでコイツ等にはあの世に行って反省してもらうのが一番だろう。

恐らくは浄化と言っても地獄の様な責め苦が待っているはずなので、仕事が増えて黄泉の連中も喜んで切り刻んでくれるだろう。


「おのれ子供程度に何という体たらくだ!すぐに他の供物も神に捧げ更なる力を貸して頂くのだ!」


すると槍を持っている鬼が磔にされている少女へと一直線に駆け出した。

しかし、その鬼は次の瞬間には頭部が粉砕して黒い霞となって消えて行く。

どうやらアンドウさんの援護射撃のようで先程から鬼たちの背後でも同じような事が起きている。

ただし全員が俺のスキルの効果でこちらに集中していて気付けないだけで殲滅速度は同じくらいだ。

そして俺は即座に磔台と奴らの間に立ち塞がると大きく息を吸い込んだ。


「ウオアーーーー!!!」


そして少し前に手に入れた咆哮のスキルを使うと目の前の敵を粉砕して行く。

今のように密集している状態だと避ける事も出来ないのでこのスキルはとても便利だ。

なんだかビーム砲で薙ぎ払っている気分になるおで、ちょっと楽しくなってくる。


「ええい!引け引けー!こんな化物が居るなんて聞いてないぞ!」

「お前達は俺達の盾に・・・『バシャ』。」


しかし命令を下そうとした直後に頭部が粉砕され彼らは揃って物言わない躯へとなり果てた。

どうやら指揮をしていた奴らだけは人間だったらしく死んだ後も地面に死体が残っている。

他人を魔物にしておいて自分達だけは人間のまま踏ん反り返っているとは邪神好みにゲスな奴らだ。

そして俺は残った鬼たちを始末すると少女達の許へと向かって行った。


「お前ら大丈夫か?」

「・・・たす・・・けて。」

「何・・で・も・・・する・・から。」


どうやら出血と痛みで意識が朦朧としているようだ。

未だに助けが来た事にも気付かず掠れた声で命乞いをしている。


「まあ、コイツ等は被害者だから助けとくか。」


俺は彼女らの前まで移動するとポーションを口に突っ込んで飲ませ、拘束を解いて地面へと降ろす。

すると精神的な疲労からか彼女達は揃って目を閉じて意識を失った。

でもこのまま裸という訳にはいかないのでタオルケットを取り出すとそれを彼女たちに掛けて体を隠してやる。

流石にこの時期にあの格好で寝ていると風邪をひいてしまい、重い病気を併発する恐れもある。

するとこちらにやって来たアンドウさんも俺を手伝い、落ち着いた所で戦利品を漁り始めた。


「この服なら着れそうだな。」

「魔物になった奴らが使ってたものだけどしょうがないよな。」


兵士たちは身に付けていた武器や服などを残してくれているので、それらを回収して使えそうな物は持って行く。

ちなみにアンドウさんも武器などを作る為には材料が必要不可欠だ。

なので彼らが装備していた金属類は全て譲る事にしてある。

代わりに服などの布類はこちらで貰い受けて今後の為に使わせてもらう。

それに今は寝ている彼女達にも衣類が必要だ。


「お前もそろそろ着替えたらどうだ。」

「ん?何か変か?・・・確かにこれは酷いな。」


言われてみると俺の着ている服はかなりボロボロだ。

袖も裾も擦り切れていて所々に穴が開いている。

この時期でも覚醒者は寒くは無いので腰蓑1つでも問題は無いのだけど、そんなのは子供でも明らかに変態だ。

これは帰ったら服を仕立て直した方が良いかもしれない。

するとアンドウさんがアイテムボックスから服を取り出しこちらに差し出して来る。

これは子供用の物で大人が着るにしてはかなり小さく、幾つか補強と言うか強化されている所がある。

それにどう見ても忍び装束と言う奴なのでアンドウさんが子供の時に使っていた物かもない。


「これは俺が子供の頃に使っていた物だ。こっちに来てから着てても痛まないから新品に近いがな。」


確かに見た限り新品同様で繕ったような所は何処にもない。

俺が着ている服と比べても雲泥の差があり、背に腹は代えられないので有難く使わせてもらう事にした。

それに浮いたお金はアケとユウに使えば良いだろうから何か欲しい物を聞いてプレゼントすれば良い。

それに2人の服も俺と同様にボロボロだったので、あの爺さんが既に着替えさせているだろう。

お婆さんも子供好きのようなで、ハナのお古がどうのと昨夜の内から話していたのを耳にしている。


なので服を受け取ると収納しておいて後で風呂に入ってから着替える事にした。

そうでないと体も汚れているから新しい服まで汚れてしまう。


そして俺達は少女たちに服を着させて腰を帯で止めるとそれぞれに担いで移動を始めた。

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