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137 国からの遣い

「ここの主人は居るか!」


外から大声で叫んでいるのは大人の男のようで、子供たちが再び怖がってユリたちの背後へと隠れてしまった。

これは明らかに男性恐怖症なので今後の事も考えると少しずつでも治して行かないといけないだろう。

まあ、俺が大丈夫になっているので他の子供と遊ばせながらゆっくり治して行けば大丈夫なはずだ。

俺は表から聞こえてくる声に向かって歩き出すと頭を掻きながら顔を出した。


「聞こえてるよ。それで何か用でもあるのか?」

「お前が主人・・・か?」

「そうだけど。」


外に出るとこの時代で言う所のお役人みたいな服を着た男が問いかけて来た。

明らかに昨日の熊の件で俺達に問いかけて来た奴らよりも上の存在に見える。

さっきから大声を上げていたのもコイツで間違いないだろう。

そして、その後ろには槍を持った兵士たちが整列し、驚きの顔を向けて来る。

そう言えば今の俺は痩せた10歳程度に見える子供なのを忘れていた。

すると男は俺の後ろに一瞬視線を向けると脅しを含んだ言葉で再度確認をしてきた。


「嘘を言うとタメにならないぞ。お前が本当にここの主人か!?」

「だからそう言ってるだろ。ただし昨日の夜からだけどな。」

「前の者はどうした?」

「昨日の夜にいざこざがあってその時に死んだよ。俺に全てを譲るって書き残してな。それでアンタらのその物々しさは何だ?朝から女に相手してもらいたくて来た訳じゃ無さそうだけど。」


言ってしまえば明らかに全員が殺気を放っているので、まるでこれから殺し合いにでも出掛けるみたいだ。

今は俺の姿に意表を突かれて大人しくしているけど、場合によっては殺傷も辞さない雰囲気が伝わってくる。


「ならば名乗ろう。我は島津家の家臣 歩治アユジである。」


歩治って事は読み方を変えるとポチって事か。

確かに言う事は聞きそうなのでお使いをさせるには良さそうだな。

もし俺との関わりで歴史が変わるとコイツの像が駅前に出来たりして、きっとデートの待ち合わせとかに使われるのだろうな。


感じとしては


『それじゃ何時にポチの前で待ち合わせね。』

『ポチの前了解。』


みたいな感じかな。

・・・犬の像の前ならともかくオッサンの前だとちょっと嫌だ。

この可能性は忘却の彼方に消し去っておこう。


「自己紹介をどうも。俺はハルだ。それでポチ・・・。」

「ポチ?」

(おっと間違えた。アユジだったなよな。)

「それでアユジは今日ここに何をしに来たんだ?」

「何も知らない様だから教えてやろう。実はここへとある人物が定期的に人を寄こしている。調べさせたところによれば人を連れ去り何かに利用している様だ。それを確認するために来たのだ。」


それはダイゴが言っていた奴で間違いないだろう。

そうなるとコイツ等の目的は俺と同じという事になるので、待っていた連中とは違ったようだ。


「それなら少し待っててくれ。中の奴らに確認をしてくる。」

「こちらも事を荒立てるつもりは無い。穏便に片付くなら少しここで待たせてもらう。しかし、それほど時間は無いと思っておけ。俺達の掴んだ情報では今日にでもそいつらがこの町に到着する事になっているからな。」

「了解了解。」


俺はやる気なく手を振って中に戻ると、見えない所から一気に部屋へと戻りそこで事情を説明する。


「どうやら奴らは島津の当主から命令されて調査に来たらしい。お前らも定期的にここから人が連れて行かれてるのは知ってるな。」

「知ってるわ。戻ってきた子は1人も居ないけどね。次に選ばれてるのは私とさっきの子達。それと病気で寝てた子達よ。」


合わせて15人と言った所なので使えなくなった人間と客を取れない子供を処分しているのだろう。

そうなるとそれだけ今のこの時期は子供を手放す奴が多いという事になり、もしかすると冬を越せない者がそこら中の村に居るのかもしれない。


「よし、それならアイツ等が居ると邪魔になるからちょっと寝ててもらうか。」

「もしかして昨日みたいに暴れるの?」


すると少女たちは昨日の光景を思い出したのか恐怖に顔を染めている。

ただ今回に関してはそんな事をするとこの辺を統治している奴らに睨まれてしまう。

最悪そうなると攻め滅ぼす事になるかもしれないので俺としても遠慮したい。

なので外の奴らが暴れない内に屋内に引き込んで眠ってもらう事にした。


「よし、それならお前らには今から仕事をしてもらう。」

「私達にまた男の相手をしろって事なの?」

「いや、まずはテーブルの上の料理を綺麗に並べ直してくれ。そして、お前らにはアイツ等にこの酒を飲むように誘導してもらう。」


俺はフルメルト国に行く時の貨物から拝借した大量の酒を取り出した。

アルコール度数も30~40はあるキツめの奴だ。

上手くすればアイツ等を酔い潰す事も可能だろう。

もし酒豪が居れば後ろに回っとバキっとやれば良いだけだ。

そして俺の言っている意味を理解したのか全員が頷きを返してくる。


「それくらいなら任せてちょうだい。アイツら相手に毎日やってたからね。」


そう言って、それぞれに動き始め、ある物は豪華な大皿を持って来て残っていた料理を並べ直し、ある物は厨房に行って新しい料理を作り始める。

この際に材料を適当に追加しておき、ある程度の準備が終わった所で俺は外へと戻って行った。


「お待たせしました。遠くから来て空腹でしょう。中で料理などを準備しましたので目的の者達が現れるまで中でお待ちください。」


するとアユジは少し悩む様な仕草を見せると背後へと振り向いた。

そこでは緊張と疲労を浮かべる兵士達が待機しており、何も言わずに直立不動を貫いている。


「あまり気を張り続けると本番で力が出ませんよ。」


今は気を張っているので目立ってはいないけど少し休めば本人達も自覚が出来るだろう。

あの状態なら酒を飲むとすぐに眠たくなってくれそうなのでこちらとしても都合が良い。

そしてアユジも兵士たちの状態を理解すると俺の提案を受け入れた。


「なら、少しだけ世話になろう。すまないが目的の者達が現れた時は知らせてくれ。」

「お任せを。」


俺は丁寧に頭を下げ彼らを奥へと案内して行くと、料理の匂いに釣られて周囲から腹の虫が聞こえ始める。

そして通路を抜けて部屋に入るとそこにはたくさんの料理と、それを迎える少女たちが待ち構えていた。

彼女達はさっき飲ませたポーションのおかげで肌艶も良く、しっかり食べたおかげで昨日よりは体つきが良くなっている。

それに率いているアユジが休憩の許可を出しているので意識が緩んで鼻の下が伸びており視線が部屋の中に釘付けとなった。


「皆さんは助けに来てくれた大事な方々なので彼女達も歓迎したいと言う事です。どうぞ、少しの間ですがお寛ぎください。」

「分かった。感謝と言う事ならば受け取らない訳にもいかないだろう。」


すると少女たちは男達に駆け寄ると手を引いて席に座らせ料理を皿に盛り、その手で口へと運んで行く。

そして次第に酒を注いで飲ませ始め、甘い声と吐息で男達を堕落させ始めた。

流石こういう所で働かされていただけあって凄い手際が良く、半数以上が酔いが回って目が閉じ始めている。

残りの奴らも酔って酒を飲む速度が上がっており、最初は水割りで出していた物がストレートに変わり、あっという間に酔い潰れてしまった。


「私達に掛ればこんなものよ。」

「手慣れてるんだな。」

「身を守る為の一つの手段よ。男と違って女にはどうしても抱かれたくない時だってあるのよ。そういう時はこうやってなるべく飲ませてから事に及ぶの。」


そう言ってユリはお腹の辺りを撫でて苦笑を浮かべているので、生理や危険日の事を言っているのだろう。

遊女はそういう事には避妊薬や堕胎薬となる毒物を飲んだり食したりして対応していたと聞いた事があるけど、なるべくそんな物の世話にはなりたくないはずだ。

毒状態は慣れるまでが辛く、覚醒者である俺でもそうなんだから彼女達にはとても苦しい思いを味わって来たに違いない。


「今のところはその手の心配はないから新しい仕事を教える準備が整うまでのんびりしてて良いぞ。後は掛ける布団だけ準備しててくれ。」


そして俺は酔いつぶれている兵士たちを運んで床に寝かせると準備してもらった布団を掛けて行く。

すると布団を準備し終えたユリが俺の許へとやって来た。


「どうしたんだ?」

「ここの主人はアナタなんだから私達にやらせても良いのよ。」

「こんな重たい奴らをそんな細い手に運ばせる訳に行かないだろ。良いからお前らは適当な所でのんびりしてろ。」

「・・・変わった奴だよね。私達に優しくしてくれる男なんて初めてよ。」

「何か言ったか?」

「何でもない。ありがとね。」


するとユリは俺の背後から覆い被さると頬へと唇で触れさせてから逃げる様に何処かへと行ってしまった。

それを周りの少女たちは囃し立てて見送るとそれぞれに好きな様に過ごし始める。

大半は食事が途中だったので片付けを済ませて子供たちを再び呼び出すと朝食を再開している。

そして俺は最後の奴を寝かすとその場に腰を下ろして話しかけた。


「暴れるなよ。」

「分かっている。それにしても聞いていた情報とは大きく違うな。」


俺が話しかけているのは酔い潰れたフリをしていたアユジだ。

そして俺の指示に従い、今も目を瞑って口だけで話をしている。


「お前は組織の事は知ってるな。」

「噂くらいはな。この町にも支部があると聞いているが。」

「それに関しては1つを残して俺が壊滅させた。細かい事情は省くけど、ここの奴らはその被害者だ。おそらく今までに連れて行かれた奴らは既に殺されいるだろう。それで、お前は何でここに来た。さっき言ったのだけが理由じゃないだろ。」


ここは国境に近いと言っても特に目立った所のない場所だ。

海とも少し離れているし特に裕福と言う訳でもない。

ここが町としての維持が出来ているのも組織の支部があり、そこの奴らが金を落とすからだ。

そしてコイツ等は人買いが横行する世の中で、この店から人が連れて行かれているという情報を頼りに武装した兵士を当主自らが命じて送り込んでいる。

しかも、ここに来た奴らのあの覚悟を決めた顔から考えて明らかに何かを知っているのは間違いがないので俺としてはその情報を聞いておきたい。


「お前の言う事は嘘半分と聞いておこう。それと情報を聞き出したいなら俺と試合をして倒せば教えてやろう。」

「なら、ちょっとそこの庭で勝負するか。動いて良いから俺について来い。」


するとアユジは上半身を起こすと俺と一緒に立ち上がった。

それを見て周りはギョッとしたけど、俺が一緒なのですぐに表情が戻り、逆に観戦モードに移行したようだ。

俺達が庭に出たのを見るとこちらに視線を向けると面白そうに話をしている。

そして庭に出ると互いに向かい合い、アユジは鞘に入ったままの刀を構えた。


「お前も得物を持て!」

「俺は素手で良い。手加減してやるから本気でかかって来い。」

「ならば手加減はせんから覚悟しろ。」


刀が鞘に入っているとは言っても鉄を内包した棒で頭を殴られれば殺傷能力は十分にある。

普通なら体の何処で受け止めても10歳の子供だと骨折以上の重症だろう。

そして向かって来る攻撃に対して手を構えると、振り下ろされた軌道へと小指を立てて受け止めた。


「何だと!」

「これで終わりじゃないだろ。どんどん打ち込んで来い。」


するとアユジは渾身の一撃から速度重視の連撃へとスタイルを変えた。

俺はそれらの全てをその場から動かず片手の小指だけで受け止め、流し、僅かに体を逸らして躱して見せる。

それを見て室内の子供たちから楽しそうな歓声が巻き起こった。


「まさかお前も鬼の類か!?」


しかし連撃によって突然鞘が飛ばされ、抜身の刃が俺に向かって振り下ろされる。

奇しくも俺を魔物と間違えた直後の事で渾身の1撃を放った所だった。

アユジ自身も想定の外の事だったので、その表情に焦りが浮かべている。

そして振り下ろされた攻撃はそのまま俺の肩から横腹へと完全に振り下ろされた。

それを見た子供たちからは歓声が止み少女たちからは悲鳴にも似た声が上がる。

そしてアユジも剣先から視線があげられず、驚愕に顔を染め上げた。


「だから本気で来いって言っただろ。」

「やはりお前は鬼の類か。」

「最近はよく言われるな。でも違うから安心しろ。それよりも刀を折って悪かったな。」


切られる直前に親指と人差し指で刀身を掴んで指先の力だけで圧し折ったので刀身は俺の手の中にある。

あの勢いでもし刀が折れると何処に飛んで行くか分からなかったから仕方がないとして、一応は謝罪だけは口にしておく。


「兵士に刺さるなら良いけど、折角の人員に怪我でもあったら大変だ」

「おい、心の声が駄々洩れだぞ。」

「おっと。」

「何が「おっと」だ。まあ、それは置いておくか。それにしても支部を3つ潰したと言うのは本当みたいだな。」

「そう言えば支部長の奴が良さげな刀を持ってたな。ついでだから1本やるよ。俺は使わないからな。」


俺はあの時に拾った刀を3本取り出しそれをアユジに差し出した。

この中からなら好きに選んでもらっても構わないだろう。

俺の所で肥やしにするよりも実用的に使いそうな奴の所で活躍するのが一番だ。


「何処から出したのかはもう気にしないでおこう。それでは少し見せてもらう。」


しかし何故か軽く見て選ぶだけなのに中々答えを出さない。

刀の事は何も分からないけど不審に思い声を掛ける事にした。


「何か気になる事でもあるのか?」

「それがな、見立てが間違ってなければこの2つは鬼丸国綱と童子切安綱ではないかと思うのだ。こんな所にあっても良い刀ではないのだが。」


それなら確かアニメでもやってた気がするな。

確か天下五剣の内の2本で片方は信長が持ってるんじゃないのか?


「そうなるとお前が持ってると知られたらやばいよな。」

「恐らくは周囲が挙って攻めて来るだろうな。なのでこれは返しておこう。」

「そうなると後はこれ1つだけか。」

「そうだな。これは恐らく同田貫正国が作った刀だろう。飾り気は無いが実用的な良い刀だ。私の戦い方にも適しているのでこれを貰っておこう。」


アユジはそう言って刀を一つ選ぶと腰に下げて位置を調整する。

そして俺は残りの刀を受け取るとそれをアイテムボックスへと収納しようとして手を止めた。


「ん、何か居るのか?」


俺は先程から足元に見えた影が気になってそちらへと視線を向けた。

すると何か黒い靄が見え、目を凝らすと小さな小鬼の様に見える。


「ははは、もしかして小鬼でも見えるのか?」


まさにその通りなんだけどアユジには見えらしく今はその小鬼は移動してお前の足に蹴りを放ってる。


「もしかして、この刀には何か謂われがあるのか?」

「童子切の方は以前に斬った鬼の怨念が宿り、人を惑わす妖刀と聞いた事がある。鬼丸は不浄な物が手にすると刀身がさびると言われているな。そうなると力が発揮されず、力を取り戻すには清浄な者が手にする必要があるそうだ。」


そうなると足元に居る奴は童子切から現れた鬼か。

確かに刀を鑑定すると片方は呪われ、片方には能力使用不可となっている。

どうやら、この2つの刀には常識を超えた能力が秘められているみたいだ。


それにこの小鬼はゴブリンみたいで腹が立つ顔をしてる。

俺は他人に見えない事で好き勝手している小鬼に歩み寄ると容赦なく足を振り下ろした。


『ドン!・・・パラパラパラ。』


しかしちょっと強く踏み過ぎて地面が抉れてしまった。

揺れの方は火山も近いので地震と言う事で良しとしよう。

周りの家から人が騒いでいる声が聞こえるけど俺のせいではない。

きっと俺の振り下ろしと同時に偶然地震が起きただけなのでそうに違いない。

そして鬼を踏み潰して童子切を鑑定し直すと呪いは消え去っていた。

その代わりに良い能力が復活しているのでこれはアケかユウのどちらかに使ってもらおうと思う。

あの爺さんに頼めば剣術だって教えてくれそうなので刀を収納すると尻餅を付いているアユジへと手を差し伸べた。


「地震にも気を付けないとな。」

「地震?」


するとアユジは首を回して足元のクレーターを一瞥し俺を見上げて同じ事をもう1度呟いた。


「今のが地震か?」

「ああ、地震だな。きっとお山の機嫌が悪かったんだろ。」

「そ、そうだよな。きっとそうに違いない。『チラ!チラ!』」


なんだか納得して無さそうだけど人が簡単に地震を起こせる訳ないじゃないか。

ただし何故か爺さんにまで犯人扱いされてしまって後でこっぴどく叱られた。

ちょっと地面が揺れただけなのに解せぬ。

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