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125 王都攻略

食事の後にアズサをコテージに寝かせるとオメガを護衛に付けて俺は海に潜っていた。

もちろん、海の幸を取ってアズサを驚かせようと思っている訳では無い。

用事があるのはさっき助けたあのアメフラシだ。


(おっと、あの魚旨そうだな。アズサのお土産にするか。)


俺がここで海の幸を取りに来たのではない事を再度言っておこう。

しかし目の前に大物が来れば手を伸ばしてしまうのは仕方がない。

ここは日本ではないので漁業権を言って来る奴も居ないだろう。


そして目的のアメフラシを見つけると近寄って声を掛けた。


『おっす、さっきぶり。』

『どうしたのだ。既にここから離れたものと思っていたが。』

『ちょっと俺の連れを残して行くから護衛を頼めないか?数時間程度で帰って来るから。』

『それは構わないが何処へ行くのだ?』

『ちょっと王都までな。みんなが来る前に掃除だけ終わらせておこうと思ったんだ。』

『ならば喜んで請け負おう。私に任せてお前は行くが良い。陸の奥までは行けないが海岸付近なら問題ないからな。』


そう言ってアメフラシは軟体動物特有の這う様な動きで海底を移動し始めた。

しかし大きさがあるのでその速度は意外なほど早い。

恐らくマラソンランナーが走るくらいの速度は出てるだろう。


しかし、これでここから離れても大丈夫そうだ。

実を言うと食べている時に予想したように目がギンギンで眠れそうにない。

なのであのままアズサの寝顔を見続けると自分を抑えられそうにないので、この機会に予定を前倒しする事にしたのだ。

俺はアメフラシをアズサの居る海岸へと案内すると出発前にもう一度声を掛ける。


「しばらく任せたからな。」

「そちらも任せたぞ。」


そして俺はその場から走り出すとそのまま王都のある方向へと駆け出した。

すると体の中心から全身に熱が広がり、いつも以上に速く走る事が出来る。

それに先程の海の中でも最初に比べて自由に動く事が出来た。

もしかするとアズサの料理には他人を強化する効果があるのかもしれない。

しかし、もしこの予想が当たっていて、誰にでも効果があるならアズサの料理は世界的に人気が出そうだ。

売り出せば確実に買い手が・・・。

いや駄目だ。

そんな事をすると俺達の料理は誰が作るんだ。

もしそれで俺がアズサの料理を食べられなくなれば覚醒者を間引きたくなるだろう。

この事実はウチのメンバーだけの秘密にしておくとして、きっとツクモ老も揉み消しに協力してくれるはずだ。


俺はそんな事を考えながら駆けていると予想よりも早く目的地へと到着してしまった。

そしてそこには白く大きな宮殿があり、そちらは明るくライトで照らされているのに周囲の町は闇に閉ざされ家の窓からも明かりは殆ど見られない。

しかも、その見える光も電気とは違い蝋燭かランプのような弱々しい光ばかりだ。

これが、この国でもっとも大きな町と聞いた王都の夜の姿なのかと思ってしまう。


「それにしても闇に紛れて動いているクズ共がいるな。」


俺は最初の夜に起きた事が頭にフラッシュバックして気付けば両手に刀を握っていた。

そして地上に降りると敵の気配を探りそいつらの許へと向かって行く。

それにしても周りは日が落ちたばかりだというのに起きている者が殆ど居ないみたいだ。

道を歩く人間は誰も居らず、魔物だけが我が物顔で歩き回っている。

そして奴等は家の1つに標的を定めると音も立てずに中へと侵入して行く。

見た目はアレだけど動きだけを見れば訓練された戦士のようなので恐らくは魔物へと変貌し国王の傀儡となってしまった兵士たちだろう

しかし、だからと言って容赦するつもりは1ナノグラムもない。


俺は入って行った魔物を追って中に入ると1つのベットで眠る3人の家族を見つけた。

そしてそこにナイフを振り下ろそうとする魔物も同時に発見し、足音を殺して一瞬で間合いを詰めると容赦なく刀を横に一閃して魔物を消し去った。


「おっと危ない。」


しかし魔物が消えた事で持ち主を失ったナイフだけが手前で眠る父親へと向かっていたのでそれを指の間に挟んでギリギリでキャッチする。

そして、そのまま家から出ると再び空へと向かって行った。


「どうやら王都では少しづつ人が殺されて何処かに運ばれているみたいだな。」


周囲を探ると今のような凶行はここだけで起きている事ではないらしい。

他にも数カ所で先程のような事が行われ、死体を回収した魔物が空を飛んで城へと向かっている。

あれを追って行けば死体を何処に運んでいるのかを突き止める事が出来そうだ。


「全てを救えないなら大元を叩くしかなさそうだな。」


そのため俺は魔物の後を追跡して何処に向かっているのかを探ることにした。

そして、どうやら向かっているのは宮殿の正面にある巨大な扉のようだ。

ただし今は扉が大きく開け放たれおり、そこからは大量の水が流れ出している。

すると死体を持った魔物はそこへと入って行くと奥へと向かい姿を消した。


どうやらあそこがエリスが言っていた聖なる泉の入り口で間違いなさそうだ。

もっと離れた所にポツンとあるものだと思ってたけど宮殿の真下にあるとは探す手間が省けた


そして、もう1つ判明した事はゴーグルを使用した時にだけ見える国中へと広がっている糸の様な物がここへと集まっている。

もしかするとあれが何なのかがもうじき分かるかもしれない。


そして更に魔物を追って水路を辿る様に進んで行くと、そこは思っていたよりも明るくライトが幾つも設置してある。

そのおかげでかなり奥の方まで視界に収める事が出来る。

そして、どうやら魔物たちは奥にある部屋に入ると死体を泉へと投げ捨てているようだ。

恐らくはこの国の人々の死体を利用して泉を穢しているという事だろう。


(邪神のクセに全てを無駄にしないとは何というエコな思想をしてやがるんだ。)


すると先程中に入った魔物が一仕事を終て通路を辿ってこちらへと向かって来る。

ただ既に目的を果たしてアイツには用はなくなっているので向かって来る魔物に襲い掛かりドロップアイテムに変えた。

そして奥へと進むとそこにはドーム状の空間があり、その中央には泉が湧いている。


「ここが目的地か。でも、想像以上に酷い状況だな。」


周囲の壁は白いのにその上には血飛沫がまんべんなく付着し、まるで夕暮れ時を黒い星が侵食しているようだ。

そして泉の中には新旧の大量の死体が沈み、白骨から腐りかけや真新しい死体もある。その中でも体内にガスが溜まったのかブヨブヨの見た目で水面に浮いているものもあり室内は第三ダンジョンのような異臭を放っていた。

確かにこれは聖なる泉とはかけ離れた別の物で呪われたと表現した方が正しいだろう。


「この浄化はアズサに任せるしかないか。でもアイツは覚醒者としては優し過ぎるからこれを見せるのは気が引けるな。。」


すると泉に変化が生まれ、湧いている所とは別に水が盛り上がり数多の死体を押し退けて魔物が姿を現した。

そいつは糸の終着点でもあり、その体から外へ向かって大量の糸が伸びているのが見える。

やっぱりあれは何らかの意味があるモノの様だが、その魔物は泉よりも悪臭を放ち醜い姿をしている。


「貴様は何者だーーー!」

「他人に名を訪ねるならお前から名乗れ。ここはお前の様な奴が居て良い場所じゃないはずだ。」

「おのれ生意気な人間め。我をこの国の大王と知って言っているのか!?」


そして叫び声を上げて姿を見せたのは5メートルはある体躯をした大王様だったようだ。

手足は細くてカエルに似ていて、顔はナマズとカエルを足した様な見た目をしている。

体表には黒くドロドロとした粘液を纏い、それが更に泉に広がり穢れを酷くしているようだ。

そしてコイツの体からはまるで鎖の様な物が虚空へと伸びている。

もしかするとあれが邪神との繋がりを示しているのかもしれない。

あれを斬る事が出来れば何かを変える事が出来るのだろうか。

しかし今の俺には干渉ができないので今後の課題として倒すことだけに集中する事にした。


「お前がこの国の国王か。俺はお前に呼ばれてこの国に来た覚醒者だ。」

「ならば我に従え。それと我は王ではなく大王である!この世界の何よりも偉大で何者よりも優先される存在であるぞ!」


コイツは今の姿でも王のつもりなのか。

そう言えばダンジョンで出会った奴も自分が魔物である自覚が無いようだった。

何て言えば良いのか、違和感なく自分を受け入れていて欲望に忠実になっている様な感じだ。

もし、この国みたいな場所が増えても住んでいる人たちは自身の変化に最後まで気付けず、魔物として生きて行く事になるかもしれない。


それなら神たちが命懸けで対抗するのも頷ける話だ。

直接影響を与えられて生態系や思想まで変えられてしまうと全ての信仰を独占されてしまう。

そうなればこの世界に以前から住んでいる神たちはこの世界から出て他へ行くか、邪神に従って生きて行くしかない。

俺にとっては神が困るのは別に良いのだけど、その為に俺の大事な者が犠牲になるのが我慢できない。

それに人と世界が変化してしまえば今やっている漫画や小説だけでなく、その先にあるアニメまでも消えて無くなってしまう。


「お前がどんな存在だとしても俺には優先させる大事な存在が居るんでね。残念だけどお前にはこれから死んでもらう。」

「おのれ人間風情が吠えおって!今すぐに絶望と後悔を貴様の魂に教え込んでやろう!!」


そう言って口を開くとヘドロの様な黒い塊を飛ばして来た。

俺はそれを避けるとヘドロは壁に付着し、そこに混ざっていた残骸が床へと落ちて散乱する。

その中には明らかに人と思われるものが混ざっているのでコイツはここで人間の死体を喰い漁っていたみたいだ。


「お前は人間を食べて何とも思わないのか。」

「我は人を超越した存在である。故に劣等種となった人間と我とは根本的に違うのだ。今となっては人間を含む全ての生命が我の餌も同然。殺そうが喰おうが我にとって何らおかしな事は無い。」


どうやら精神が完全に邪神の影響で変異してしまっているようだ。

エリスの事もあるので遺言くらいは聞いといてやろうと思ったんだけど、どうやら碌な答えは帰って来そうにない。


「なら食物連鎖の頂点だと勘違いしてる裸の王様に引導を渡してやるよ。」

「何をほざくか!貴様も今の我からすれば餌も同然だ。腹の中で大言を口にした事を悔いるが良い!」


国王は口から次々とヘドロを吐き出して俺を攻撃してくる。

それによって周囲は汚れと臭いが更に酷くなり、壁に掛るライトの光も遮られて次第に暗くなり始めた。


「おのれちょこまかと動き回りおって。」


実は腹の中のヘドロが切れるのを待っているんだけど一向にその気配が無い。

これはそろそろ作戦を変更するしかなさそうだ。


「仕方ないから接近するか。」

「偉大なる我に近づけると思うでないわーーー!」


俺は大量に飛んでくるヘドロをジグザグに躱しながら国王を間合いに入れると手始めに片方の腕を斬り飛ばしてみる。

抵抗感はなく、再生する様子も無さそうなので能力的には大した事が無さそうだ。


「ギャーーー!き、貴様ーーー何をしたか分かっているのか!偉大なる大王の腕を切り落としたのだぞ!」

「僕ちゃんバカだからよく分かんない。」

「この愚か者めがーーー!」


もうコイツとの会話に得るものは何も無さそうだ。

俺は目の前の醜い魔物の残った腕を斬り飛ばし、首を切断する事で勝負を決めた。


「これでミッションコンプリートだな。」

「『ボコン』何がコンプリートだ。ここをこんなに汚しおって。」


俺が決め台詞を口にしていると、聞き覚えのある声と一緒に頭上から拳が降って来た。

それをサラリと躱して視線を向けると弁財手が額に青筋を浮かべて拳を握り目元を吊り上げて睨んでいる。

しかし俺の受けた依頼は『大地に恵みを取り戻せ』といった指示だけなので、ここを綺麗な状態で取り戻すようにとは言われていない。

言われてない以上はここからは追加料金だ。

何もなければ後でアズサに綺麗にしてもらおうと思っていたのに殴られそうになった事でその気が失せた。


「なら追加料金を寄こせ。それでなくてもあんな中途半端な指示でここまでやらされたんだ。ぶっちゃけ1度は明らかにヤバかったぞ。」


すると弁才天の奴は明らかに視線を逸らしやがった。

これで通じるという事は北の山脈から襲って来た大蛇について知っていると言う事なる。

どうやらコイツは本当に碌な神じゃないようでユカリの爪の垢でも煎じてガブ飲みさせてやりたい。


「海に居る奴はちゃんとお礼をくれたのに上司がこれだと下も大変だな~。」

「グググ、言いたい事を好き勝手に言いよって~。」

「まあ、それは置いておくとしてまずは俺の称号を変更してくれ。このままじゃ日本に帰れないぞ。」

「う~む・・・仕方ない。それに関しては明確に口にしているからな。」


すると、ステータスを見ていると弁才天が指を鳴らし同時に変化が現れた。

そして、『ラッキースケベ』の称号が『ラッキー男』へと変わる。

効果は名前の通り運が上昇するだけの平凡でありふれたものだ。

それがどの様な変化が生まれるのかは分からないけど、ある意味ではアズサとは反対の性質と言えるだろう。

これで一緒に傍に居れば少しはアズサの不幸を緩和できるかもしれない。

おっと、ついでにアイコさんもな。


「中々に良いスキルだな。」

「そう思うならオマケでお前の木刀をくれるとか無いのか?」


すると弁才天は怪しい感じに体を寄せて来ると木刀を寄こせと言って来た。

そして木刀と言われて思い付く物は、エント製の物とアマテラスから貰った物の2種類だけだ。

どちらも渡す事に問題は無いと思うけどタダで持って行こうとはコイツはまだまだ俺を理解していないという事だろう。


「なら、お前はこれにどれだけの価値を付けるんだ?」

「お前は本当に恐れを知らないのか。神が寄こせと言ったら普通はハイどうぞと渡す物だぞ。」

「なら、ここは自分で綺麗にするんだな。どうせ、木刀の浄化能力を使おうと思ってるんだろうけど、無ければ自分でするしかないよな。それに信仰は戻り始めているけどまだまだ少ないだろ。そんな状態でこの穢れ切った場所で俺に勝てるかな?」

「おのれアマテラスめ!要らない情報まで植え付けよってからに!」

「そういうことなら話はアマテラスとしてくれ。おそらくはあっちの方が報酬は大きくなるだろうけどな。」

「クッ!確かに貴様の言う通りだ・・・。」


アイツは綺麗な顔だけど中身は鬼というか悪魔だから弱みを見せれば絶対に付け込んでくる。

そこは不本意ではあるけど俺も同類なので嫌だけど理解が出来てしまう所だ。


「さあどうだ。観念して報酬を渡せ。」

「もはや脅迫だが仕方ない。それで、何が望みだ?」


そう言って胸元を隠してるけど気になるならもっとしっかりとした服を着れば良いのにな。

それに俺が男だと言っても女神に体を要求すると思うのは自意識が高すぎるだろう。

ハッキリ言ってこいつも美人ではあるけど全く興味が持てない。

それどころか『触るな危険』と札を張りたいくらいだ。

なので俺にとっては価値がある訳では無いので交換条件も簡単のものにする。


「別に大した物を要求するつもりは無い。そうだな、俺とアズサとオメガを日本に送ってくれるだけで良いぞ。」


すると弁才天は呆れた表情を浮かべると軽く咳ばらいをして気分を切り替える。

顔が少し赤くなっているのは俺が変な要求をすると考えていたからだろう。


「ゴホン。その程度なら可能だ。しかし、一度言った言葉は覆させんぞ。」

「問題ない。」


俺は頷いて返事をすると木刀と天羽々斬の剣レプリカを取り出した。


「それでどっちの木刀だ?」

「もちろんこちらだ。この木刀を使えばここを起点にして国全体を浄化できる。さあ、それでは日本に送ってやろう。」

「ちょっと待て!」

「さらばだ。縁があればまた会おう。」


そう言って弁才天は俺を強制的に日本へと送り返した。

まだ挨拶もしていないのにエリス達が慌てたりしないだろうか。


そして目を開けると俺の腕の中にはアズサが眠っていて、足元にはオメガが首を傾げながら周りを見回している。

そしてすぐそこに見慣れた俺の家があり、中から話声が聞こえて来た。

しかし、もう夜も遅いのにどうして皆は起きているんだろうか?

すると扉が勢いよく開かれ中からアケミとユウナが飛び出して来た。

しかし、その表情は俺が帰って来た喜びではなく何故か慌てているように見える。


「大変だよお兄ちゃん!」

「ユカリちゃんが居なくなってしまいました!」


そしてどうやら帰って早々に問題が発生しているみたいだ。

俺はアズサを抱えたまま家に入ると状況を確認するためにリビングへと向かって行った。

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