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124 雨を取り戻せ

激しい波も深く潜ると穏やかになり、周囲は次第に闇へと覆われて行った。

それでなくても海上は夜の様に暗く、スキルの助けが無ければこの場所ですら何も見る事は出来ない。

俺が下へ向かっていると分かるのも背後に瞬く稲光のおかげだ。

そして、しばらく潜ると海底が見えてきたので向きを変えて足から着地する。


それにしても大気圏でも問題は無かったけど、こんな簡易ボンベでも問題は無さそうだ。

課題としては次までに水中でも使えるライトを買っておく事くらいか。

そして周囲を見回し目を凝らしても見える範囲は100メートル位だ。

そのため気配を探って先へと進み目的の存在を捜し歩く。

ただ、相手は巨大なので気配だけはハッキリとしているため、方向を間違える事は無い。

そして、しばらく進むと先の方が明るくなり始めたので、どうやら目的の相手は体が発光しているようだ。

考えてみればそうでなければ水深200メートルはある海の底に居る物体をカメラで捉える事は出来ないだろう。


そして光を頼りに進んで行くと数分でその存在の傍へと到着したので姿を確認できた。

どうやらコイツは50メートルを超える巨大なアメフラシの見た目のをしているようで、体からは常に青い光を放ち周囲の様子も照らしてくれている。


しかし途中から気付いてはいたけど何だか様子がおかしい。

てっきりあのアメフラシは魔物かと思っていたけど全く危機感知に反応が無い。

魔物なら余程雑魚でもない限りは反応があるはずなのにそれが無いと言う事は別の存在である可能性が高い。

それに体の至る所に杭を打ちこまれ海底へと固定されている。

そして、その周りには半魚人が泳ぎ回り、定期的に杭を大きな木槌で叩き付けて回っているようだ。

しかも、その度にアメフラシは声にならない叫びを上げる様に身を捩り、その度に海上で瞬く稲妻が酷くなっている気がする。


もしかしたらこの場で雨を降らせることでフルメルト国から雨を奪っているのがあのアメフラシなのかもしれない。

だだし、その行為自体はアイツの本意では無い可能性も出て来た。

魔物は自分以外を犠牲にする傾向があるので絶対ではないけど、まずはアイツを解放してから考えようと思う。

そしてアメフラシに近づくと周囲を回遊する魔物がこちらに気が付いて向かって来た。

その手には木槌や三叉のトライデントのような槍が握られている。


それにしても今までの魔物と違い姿が多彩と言える程に多い。

パッと見ただけでも鰹・カマス・太刀魚・アンコウ・金目鯛・ウツボ・鮫・イカ・蛸と色々な顔がある。

ただその下は人の体に近く手足に水掻きが付いていてあまり違いはない。

きっとアズサが見れば食材としてもドロップ品が無い事を嘆くことだろう。

そして魔物は次第に集まり始め、俺の周囲を回る様に泳ぎ始めた。

三連星もビックリな見事な連携と流れる様な動きで次々に俺へと迫り、下方向以外から攻撃を仕掛けて来る。


それにしても雑な動きなら雑魚めと冗談をかまそうと思っていたのに当てが外れてしまった。

まさかこんな見事な連携を駆使して僅かな時間差で攻撃を仕掛けて来るとは思わなかった。

そのおかげで魔物は纏めて海の藻屑となり、ドロップアイテムを残して消えていく。


そして、周囲に転がるアイテムを集めるとアメフラシの許へと向かって行った。


(確か、もう少ししたらプールも始まるからそこで使おうと思って便利な玩具を買ってたよな。お、あったあった。)


原理はよく分からないけどこれを使うと水中でも聞き取れる程度の声が出せる。

形は小さな拡声器に似ているけど、これを使えば少しは会話が出来るかもしれない。


「アーアー、テス、テス。」


少し聞き取り難いけど十分に会話が可能だと思える様な声が自分の耳に届いて来る。

思っていたよりも高性能でこれなら皆も楽しんで使ってくれるだろう。


『何をしているのだ?』

(あれ?頭に直接声が聞こえるぞ。)

『当然だ。私には陸上の生物が持つような声帯が無いからな。今はお前の精神に回線を繋いでいる。考えた事が直接伝わるはずだ。』

『便利だな。それで、単刀直入に聞くけどお前は何者なんだ?』

『私はサラスヴァティー様からこの周辺の天候の管理を任されている者だ。邪神の使役する強力な魔物に敗れてここに囚われていたのだが、それももうじき終わるだろう。私をここに縛り付ける戒めも急激に力を失っているからな。』


見ると先程まで根元まで突き刺さっていた杭が数本抜け落ちている。

どうやら、魔物たちが杭を打ち込んでいたのは痛みを与えるほかに抜けて行く杭を押し戻す意味もあったみたいだ。

しかし、そうなるともしかしてアイツを倒したの理由かもしれない。


『もしかして、その時の魔物は俺が倒した8本首の蛇の事か。』

『恐らくはそうだろうな。私と戦った時にはまだ5本しかなかったが、あれほどの魔物が早々いるとは思えん。私を倒した後から力を更に増していたのだろうが、あの魔物を倒せるとは人間も強く進化したのだな。』


やっぱり俺の予想通りあの大蛇は多くの人間を殺して力を増していたみたいだ。

それに雨を取り戻せとはそういう意味だったのだなとようやく理解できた。

しかし俺にとっての問題はそこではなく、コイツが弁才天の仲間だという事だ。

そうなると俺は受けた依頼以上の事をさせられたことになるので、これは抗議が必要だろう。


『うむ、あの方は人使いが荒いからな。どれ、ここは礼も兼ねて私から何かを送る事にしよう。』

『思考が漏れてたか。でも払ってくれるなら誰でも構わないから有難く貰うとしようか。』

『何とも、神をも恐れぬとはこの事か。』


すると何やら途轍もなく呆れている様な思念が届いた。

でも邪神に喧嘩を売られてそれ関係は無料で買取しているので今更な気もするけど、投資なら後でしっかり利息を着けて欲しい所だ。


『それで何をくれるんだ?』

『そうだな・・・。そうだこれをやろう。』


そう言ってアメフラシは体に力を入れると5つの光玉を体内から吐き出した。

それはゆっくりと頭上から舞い降り、俺の手の中へと収まって行く。


『これは何なんだ。真珠みたいに見えるけどお前って実は貝だったのか?でも真珠って貝から言えば不純物だよな。もしかしてこれってお前の○○コか?』

『何を失礼な事を言っている。断じて私のウ○○などではない。それは願いが叶えやすくなる立派な代償だ。』

『代償?なんだそれ?』

『代償とは何かを願う時に求められる物の事だ。所謂お前で言えば力を手にした時に感情が薄くなっている様だがそれも代償だ。それを持つ者が心から願った時にその真珠は砕け散り、願いを叶えてくれる・・・かもしれない。』


なんだか途中まで良い感じの説明だったのに最後に来て肩透かしを食らった気分だ。

まあ、ちょっとしたラッキーアイテムくらいに思っておいた方が良さそうだ。


『そう言えばお前を解放したから陸地に雨は戻って来るのか?』

『それに関しては問題ない。それに北の魔物も倒されて捻じ曲げられていた地脈も元に戻りつつある。後は国の中央にある泉を浄化すれば完全に元に戻る。ただし最後だからと言って油断するなよ。』

『もちろんそのつもりだ。」


俺は真珠を受け取ると海底を蹴って海上へと上がって行った。

そして海面に顔を出すとさっきまで空を覆っていた雨雲は霧散し、穏やかな海へと姿を変えている。

あのアメフラシが言っていた事が本当ならこれでこの国の気象は元に戻り、ナノマシンの協力もあるのでも昔以上に安定するはずだ。

後は王都を終わらせればそれで終了になるが、その前に1つやらなければならない事がある。

俺は海から上がるとアズサの許へと向かって行った。


「ただいま。こっちは無事に終わったよ。」

「おかえり。こっちも準備は終わってるよ。」


戻って来るとアズサが大量の料理と一緒に出迎えてくれた。

俺が海に居たのは1時間くらいなのにその時間で作ったとは思えない程の量だ。

鍋とフライパンくらいしかないのにどうやって煮込み料理まで作ったのだろうか?

周囲を見ると魔法で竈を作り、テーブルなど土で色々な物を作り出している。

もしかすると魔法と料理とは相性が良いのかもしれない。


「それじゃあ早速頂くか。」

「うん。昨日からあまり食べてなかったからお腹ペコペコだよ。」

「ワン!ワン!」

「あ、オメガも来たんだね。」

「・・・。」

(お前、自分から来れるならアズサが呼ぶ前に自分で来いよ。なにオヤツ貰って腹出して寝てるんだ。)


まあ、この話は食事を終えてからじっくりとさせてもらおう。

楽しい食事の前に言って気分を悪くする必要も無い。


「それじゃあ皆揃った所でいただきま~す。」

「いただきます。」

「ワオ~ン。」


そして食事を始めるとアズサにはアメフラシの事を説明しておいた。

昨日から小食で終わらせていたので集中して食べ始めると声が届かなくなる可能性があり、最初の内に言っておかないといけない。


「それならあと残ってるのは中央の泉だけになるのかな。」

「多分な。もしかすると、あっちは俺よりもアズサに頑張ってもらわないといけないかもしれない。」

「浄化が必要なら私の出番だもんね。でもその前に・・・ジャ~ン!」


するとアズサはニコニコ顔でテーブルの上に鍋を1つ取り出した。

そう言えば海に入る前に熱いスープをお願いしたので作ってくれていたようだ。

別に体が冷えている訳では無いけどアズサが作る辛い料理は初めてなので少しワクワクしてくる。

すると興味を持ったオメガがテーブルにジャンプし器用に前足だけを端に引っ掛けて何かと覗き込んだ。


「ワウ?・・・ギャン!ギャン!ギャン!」


その途端に湯気が顔に掛ったようで凄い叫び声を上げながら顔を前足で覆い転げ回る。

そして見ていると自分で水の入ったボトルと取り出し、器用に前足で挟むと顔へとぶちまけた。


「オメガって器用だったんだね。」

「そうだな。でもこれってよっぽど焦ってるんだな。」

「キャン!キャン!キャン!」


今の声を訳すなら「悠長な事を言ってないで助けろよ」と言った所だろうか。

しかし、ここまでとなると更に期待が湧いてくるので涎が垂れそうだ。


「さっそく頂こうか。」

「そうだね、しっかりと味わって食べてね。」


そう言ってアズサは何処で手に入れたのか防毒マスクを取り出すと顔に取り付けた。

もしかして作る時にもそれを装備して作っていたのだろうか?


「アズサ、それを何処で手に入れたんだ?」

「え、町に落ちてたから借りて来たの。あ、ちゃんと浄化をして綺麗にしてるから大丈夫だよ。そんな事よりもハイどうぞ。」


なんだか防毒マスクを着けた相手にスープを配膳されると新鮮な気持ちになる。

なんだか凄い危険物を渡されているような気がしてくるのでまだ食べていないのに汗が出て来た。


「それで、これには何が入ってるんだ?」

「昨夜泊った家に置いてあった調味料だよ。よく分からないけどこの国って辛い調味料が多いみたい。」


なんだかアズサが次々と現地調達した物を披露してくれる。

別に不安では無いのだけど覚醒前と違ってアグレッシブというかグイグイ来るようになっているのが伝わってくる。

それにアケミとユウナの料理同様にアズサの料理も食べないと言う選択肢は存在しない。

もちろん毒が入って行ようと完食するつもりだけど盛られた料理は赤ではなく緑色をしている。

感じとしてはスープのような緑カレーと言った感じだろうか。

更には激辛のキムチを前にしたような刺激を目と鼻に感じるので辛い事には間違いない。


「もしかして今の俺でもこれだと、普通の人が食べられないくらい凄く辛いんじゃないか?」

「だからこんな格好してるんだよ。でも、なんでこんなに辛くなったんだろう?やっぱり称号の影響かな。」

「そういえば料理する時に能力強化だったか。もしかして、それは食材の能力も強化可能なのかもしれないな。」


例えば辛く作りたいと思えば辛い食材が更に辛くなるとか。

まあ、これについては日本に帰ってから検証してみれば良いだろう。

そしてスプーンを手にするとお皿に注がれた緑の液体をすくい口へと流し込んだ。

すると最近ではあまり感じた事の無かった辛さを舌先に感じる。

それは次第に流れ込んだ胃へと続き、体中をポカポカと暖かくさせてくれる。

そしてまるで海の波が浜辺から引いて行くように爽快さだけを残して消えて行った。


「どうだった?」

「うん。凄く美味しいよ。さすがアズサだな。」

「それは良かったよ。味見が出来ないから少し心配だったんだ。」


そう言ってアズサは嬉しさを体を使って表現してくれる。

顔が見えないので仕方ないけど、やっぱり顔を見て食事をしたいので今後は安全な料理を作って貰おうと思う。

ちなみにあの後オメガは逃げる様に海に飛び込み、今は鮫と楽しそうに追い駆けっこをしている。

追いかけているのは鮫の方だけど怪我をする心配は無いので大丈夫だろう。

俺達は陸からその光景に笑みを浮かべ、アズサが周囲から辛味成分を除去してから顔を合わせて料理を堪能した。


ちょうど今は海の先にある地平線へと太陽が沈む絶好のロケーションだ。

もしここが立派なホテルならアズサと二人で朝までお楽しみと行く所だろう。

それにしても、色々な意味でなんだか元気が湧いてくるので、これだと今夜は寝られるかが心配になってくる。

もしかすると人生初の野獣となる時が来たのかもしれない。

俺はそんな馬鹿な事を考えながら美味しい料理をお腹にいっぱい食べるのだった。

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