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117 情報整理 ①

先程のサラスヴァティーという女神から受けた依頼で寄こして来た地図に書かれていたポイントは3点。

1つはこの国の北にある国境付近でそこには巨大な山脈群があるらしく、この国に流れている川の全てはそこが源流となっているそうだ。

しかし隣の国との緩衝地帯になっているらしく軍が管理しているので一般人の立ち入りは固く禁止されているそうだ。

何でも水を求めて多くの人が足を向けたらしいけど殆どの者が帰って来ていないらしい。

帰って来た者も現地に到着する前に引き返した者のみなので、なんで川の水が流れて来なくなったのかを知る者は居ないと教えてくれた。


そして次の1つは王都にあり、これに関しては話に聞いていた聖域となる泉の事を示しているのだろう。

これに関してはこの国の中央付近にあり、最後の目的地となりそうだ。


そして3つ目がこの国の西側になり、そこには海のある海岸が広がっているそうだ。

ただし、問題はそこではなく、この国の雨雲は西から吹く湿った風がもたらしてくれるらしい。

しかし、現在はそちらからの風が止み、反対に大陸内部からの乾いた風が吹き込むようになっている。

そのせいで今は殆ど雨が降らず、大陸全体が干上がる結果をもたらしているそうだ。


なので今回受けた依頼はかなりの量となった。

そのため、まずは受けた依頼をおさらいする事にする。


まずはこの国のダンジョンから溢れた魔物の討伐。

それと覚醒者の救出だ。


この2つがエリスから受けた表向きの依頼になる。

ただこれについて言えば敵を倒すだけなのでオメガが居れば達成は難しくない、

ただし魔物は強化されているだろうから弱い敵は居ないだろう。

エリスがここでどれだけレベルを上げられるか分からないけど厳しい戦いにはなりそうだ。


そして次がアマテラスから受けた裏の依頼で、まずはエリスをこの国の王にすること。

これに関しては現在エリスに国民の人心を掴んでもらうために頑張ってもらっている。

現王の子供で生き残っているのはエリスだけだなので国王を始末すれば自動的にアイツが次の王となる。


そしてもう一つがこの国の神への信仰を取り戻す事だけど、これについては少し難しい。

なにせ、ここ数十年の苦しい生活の中でこの国の人間は神へ祈る事への無意味さを身をもって体感している。

そのため誰もが祈る事を止めて今を生きる事だけに全力で取り組んでいる。

だからこれに関いて言えば、それだけ余裕が無いという事なのでそれさえあれば可能性が生まれる。

しかし、この信仰に関しては誰が口先で言ったとしても簡単にはいかない。

恐らくは昔見た宗教映画みたいに予言を行いそれを真実とするか、海を割るくらいの事は起こさないと誰も信じたりはしない。

それ程までにこの国の人々は崇めていた神に絶望している。


そして、ここへ最低でも3つの依頼が追加された

源流の調査と対処。

聖域の泉の調査と対処。

天候に関する調査と対処だ。


下手をしたら俺の様な人間の力だけでは対処できないかもしれない。

その場合は不本意だけど諦めるという選択をする事になる。

俺だけならばともかくアズサまで危険には晒したくないからだ。

いざとなったらオメガに無理やりにでもアズサを連れ帰らせる事も考慮しなければならない。


そして考えをまとめると最初の目的地はやはりダンジョンで決定だろう。

アソコから魔物が溢れ続けると対処が難しくなる。

それに相手の戦力が日を追うごとに強化されてしまうと思えばまずはそれを潰しておきたい。


そして考えが纏まった頃になるとアズサが浄化を終えて俺の許へと帰って来た。


「ただいまハルヤ!」


そう言ってアズサは飛行機の時を上回る速度で俺に飛び付いて来た。

どうやらこの短時間で瞬動が縮地に進化したみたいだ。

さすが天才の証を称号に持つだけはある。

本人は気付いてないみたいだけど他人にやると大変な事になるので後でその辺を伝えておこう。

ただ飛び付かれる直前に態勢が崩れて顔がアズサの胸に埋まってしまった。

いつもはこんな事は無いのに、あの忌まわしい称号がさっそく効力を発揮したみたいだ。

回避しようと思えばアズサを俺の5メートル以内に入れなければ良いのだけど、その選択肢を選ぶ事は一生ないだろう。

ただ俺の理性が何処まで持つかが一番の問題となるのは間違いない。

とっとと依頼を終わらせて帰る予定が余計な仕事を増やしやがって・・・。


そして何とか体勢を立て直して抱き留めるとアズサを地面に降ろして柔らかい感触から顔を離した。


「お帰り。もう大丈夫そうか?」

「うん。・・・ごめんねはしゃいじゃって。それに思ってたよりも落ち着いてないみたい。少し離れただけなのに凄く寂しくて急いで戻って来ちゃった。」

「気にしなくても良いよ。最初の頃はアケミとユウナも同じ様な感じだったから。数日すれば少しは収まるだろから、それまでは一緒に行動すれば良いよ。」

「ありがとう。でもそれでユウナがハルヤの家に入り浸ってるんだね。最初は驚いたけど今なら納得かな。」


そう言えばユウナが家に朝ご飯を作りに来る様になったのも覚醒してすぐだった。

今では落ち着いているけど最初はかなり辛かったのかもしれない。

聞いても答えてくれそうにないけどユウナとの時間も考えないといけないな。


「アズサは素直に言葉にしてくれるから助かるよ。俺は鈍いらしいから気付いてない事が有ったら教えてくれ。」

「そうだね。ハルヤは鈍いからこれからは皆で教えてあげる。」


自分で言っておいてなんだけど、ここまで肯定されるとは思わなかったけどアズサに言っておけばアケミとユウナにも上手く伝わるだろう。

出来れば互いの想いが通じ合ったこれからは、なるべく我慢せずに希望があるなら言ってもらいたい。

無理な事はあるけど出来るだけ叶えてやりたいというのが俺からの望みでもある。


「それならこれからもよろしく頼むな。」

「当然でしょ。ハルヤを教育できるのは私だけなんだからね。」


そして俺達は抱き合ったままで笑い合うと明るい空気を纏ってエリスの許へと歩き始める。

しかし到着するとそこには燃え尽きたボクサーの様に疲れ果てたエリスが椅子に腰を下ろして両手をプルプルと震わせていた。

しかし、まだ列は尽きておらず配給すら終わっていない。

どうやらエリスは思っていたよりも体力が無かったみたいで半数もこなせなかったようだ。

ポーションは渡していたけど、この国では貴重品になるので自分に使う事に躊躇っているのだろう。

でも、その為に下級ポーションを渡してあるので必要な時には使ってもらわなければ皆が困る。

別にエリクサーとかエリクシルの様な完全回復薬を使えと言っている訳では無いのでここで使える様に癖をつけてもらおう。


「エリス、ポーションを使って回復しろって言っておいただろ。」

「でも周りには怪我をしている人もたくさん居るのに私なんかに使うのが勿体なくて。」


確かに大小様々な怪我をしている人は居るけど逆に言えばここに無傷の人は一人も居ないだろう。

それに殆どが下級ポーションでは治らない怪我ばかりなので逆にそちらに使う方が今は勿体無い。

中級でも部位欠損は治らないのでエリスの言っている事は無駄と変わらないだろう。

それよりも重要なのは魂を浄化する事でこの作業を終わらせないと町から出れないし計画が進められない。

なので俺はポーションをエリスの口に突っ込んで無理やり飲ませてやる事にした。


「良いから飲め。そしてしっかりレベルを上げて明日からは実戦に入るぞ。」


そして容赦なくポーションの瓶を口に突っ込んで流し込むとそのまま飲み込むのを待った。

すると突然の事に驚いてジタバタし始めたけど、肩を抑えて椅子に固定し逃げられない様に押さえつける。


「ムグ~~~!」

「飲め。飲むまでこのまま逃がさないからな。」


そして観念したのかバタバタ暴れながらもゴクリと飲み込んだので瓶を引き抜いて解放してやる。

その途端に恨めしそうな顔を向けて来たけど逆に見下ろす様に睨み返してやった。


「ウ~、ハルヤが優しくありません。」

「手足が付いてるだけ有難く思え。それよりも回復したなら早く木刀を振って仕事を終えろ。」

「・・・はい。」


そしてポーションを飲んで回復したおかげでエリスは再び木刀を振り始める。

そのおかげで列は次第に解消され、その日の内に終わらせることが出来た。

その間にもゴーグルを通じて幾つかの情報が送られてくるのでそれを確認する作業をしておく。

どうやら衛星からの写真の様で魔物の分布が表示されているようだ。

こんな事が出来るのはハクレイくらいなので何処かの国の衛星でもハッキングして情報を集めてくれたのだろう。

この世界の化学力を大きく上回る世界から来た彼女にとっては雑作もないのかもしれない。

それにオーストラリアの時と違い、ここでは正確な情報を得られないのでとても助かる。

その情報によれば、現在ダンジョンの魔物は一塊になって移動を行っているようだ。

目的地はもちろんこの町で狙いはアズサの可能性が一番高い。

その次がエリスで3番目が反乱軍の壊滅だろう。


そして何故エリスの順位が高いのかと言うと、彼女がこの国の王となる運命を持っているからだ。

彼女が生まれる時にサラスヴァティーが神託を行ったらしく、もちろん現王もそれを知っている。

しかし現王は娘であり、女であるエリスが王になる事を認めなかった。

そのため名を与える事もせずに適当な所で殺すつもりだったようだ。

だが、なぜ殺されなかったかと言うとそれは彼女の母親の存在が大きく関わってくる。

彼女の母親はエリスが生まれて1年とせずに王宮から連れ出し、そのまま国外へと逃亡させた。

しかし、それを国王に勘づかれ、エリスの脱出には成功したけど本人は国内で逃亡者と成ってしまっている。


ちなみにこの母親に関しては生死不明で何処に居るのかも分かっていない。

恐らくはこの国での信仰が弱まり過ぎて把握すら出来なくなっているのだろう。

その後の事は分からなくなっているけど、結局は見つかってしまいどういう訳か俺の所へ来たみたいだ。

これもアズサとアイコさんの力が働いた結果かもしれないけど、そう考えるとあの2人の影響力は世界規模ということになる。


それにしても、なんでアマテラスが他国の事にこんなに詳しいのか疑問を感じていたけど、この国の神と弁才天が同一神なら納得できる。

きっと今回の依頼は元々アマテラスからではなく弁才天からのものだったのだろう。

最初から自分で来れば良いだろうに他人任せにするから混乱が起きるんだ。


まあ愚痴を言っても仕方ないので今は情報整理に没頭しよう。

もちろん問題は一つだけではなく他の映像には周辺国の地上を流れ川の他にも地下を流れる水脈まで映し出されている。

それによると全てが山脈の途中で進路を歪に変えて他へと流れて行っているようだ。

これは明らかに何らかの力が働いた結果だろうけど、それを示す様に写真には巨大な影が映し出されている。

見た目は蛇の様でオーストラリアで以前に戦ったゲイザーの蛇形態に似ている様にも見える。

しかし大きさが比較できない程にとにかくデカい。

ゲイザーも最初は30メートル程の蛇だったのにそれよりも遥かにとなると今までで最大級の魔物だになる。

しかも、その首は3つよりも明らかに多く5本は越えている。

恐らくはこれまでに多くの人間を喰らって自身を強化して来たのだろう。

確実に一筋縄ではいかない相手だ。


しかし問題はもう一つあり、西の海にも存在している。

そこには年間の降水量が書かれており、陸地は殆ど降っていのに海上は年中雨が降っている。

そして、こちらに関して言えば地上ではなく海中に巨大な影がある。

何が潜んでいるかは写されていないけど、こちらもかなりの大きさなのでここは本当に問題だらけの国だ。

あんな称号を付けられなければ途中で帰りたくなる様な状況なので、もしかすると電話の件が無くても途中で帰ろうとして付けられていたかもしれない。


まさかアマテラスはそれらを全て見越して今の状況を作り出したのだろうか?

アズサなら持ち前の粘り強さで諦めないだろうし、俺もアイツを置いて逃げ出す事はあり得ない。

そして、このタイミングで情報が届いた事に関しては偶然と言うよりも、弁才天がこの情報を俺が知る前に急いで対応したと見るべきだ。

だからアマテラスではなく、直接本人が通話をして来たのかもしれない。


「おのれ神共め!俺はまんまとハメられたって事か!。」

「どうしたのハルヤ?」

「いや、ちょっと考え事をな。最近はカルシウム不足みたいだ」

「フフ、その情報は古いよ。去年くらいにテレビ番組でカルシウムを取ってもイライラは収まらないって言ってたから。」

「そうなのか?なら俺はアズサニウムでも摂取して落ち着くとしようかな。」

「何それ、・・・でも良いよ。私はハルヤニウムを取る事にするから。」


そして俺達は互いに手を握って笑みを浮かべると不足気味な必須栄養素を補給し合った。

これで明日も頑張って戦えそうだ

ちょっと神共の思惑に乗せられている気がするけど、この手の温もりがそういった負の感情を消し去ってくれるのでアズサには本当に感謝しておかないといけない。

しかし、フと疑問を感じたのか首を傾げて問いかけて来た。


「そう言えば私達って何処で寝るのかな?」


確かに俺だけなら何処で寝ても問題ない。

しかしアズサには壁と屋根のある安全な場所で寝て欲しいと思うのは別におかしい事ではないはずだ。

それにアズサには人を惹き付ける性質もあるので人眼に触れる場所は避けておきたい。

たとえ襲われても対処できると言っても、それは俺が激怒しない理由にはならない。

そんな事が起きれば俺は問答無用でこの国を見捨てるか、魔物に滅ぼされる前にこの町を滅ぼすだろう。

それに年頃な奴が何人かアズサを気にしていた様なので国や人種の違いも関係は無さそうだ。

最悪の場合は町から少し離れた所でテントを張って休む事も考慮しないといけない。


「さてどうするか。」

「私はハルヤとなら何処でも良いけど。」

「ダメです!ちゃんとした場所を確保するから待ってなさい。」

「・・・なんだかお母さんみたいな口調になってるよ。」


一瞬アズサの言葉に感動して返す言葉が遅れてしまったけど、そう言えばアズサって見た目は清楚系なのに活発系なんだよな。

それで子供の時はグイグイと俺を引っ張って色々遊んだなと思い出した。

まあ、何かあった時に怒られていたのはいつも俺だけど後悔や反省をしたことがない。


「ちょっと、寝床を催促しに行くか。」

「そうだね。ハルヤは昨日寝てないからゆっくり出来る所じゃないとね。」


昨日はもしもに備えて寝ずに見張りをしていたけどアズサには気付かれていたみたいだ。

寝顔を見てるだけで眠気は吹き飛んでいたので苦ではなかったけど、今日は2~3時間でも寝ておきたい。

明日は恐らく大変な戦いになる筈なので精神を少し休ませてリセットしたいからだ。

それに部屋の中なら見張りはオメガに任せれば良いだろう。

ここに来た時にも腹を出して気持ち良さそうに寝ていたから文句はないはずだ。


そして俺達は覆面の許へ向かい、情報を共有するついでに何処かに寝床は無いかと問いかけた。


「それならあそこにある家が空き家になってるから使って構わないよ。」

「持ち主は居ないのか?」

「少し前に土に返ったところだよ。整理はしてないから置いてある物は好きに使いな。」


そう言って覆面は手を強く握り締めると背中を向けて去って行った。

恐らくはこういう事はこの国全体で日常的に起きているのだろう。

助けるにしても蘇生させた後の食料が足りず、また死なせてしまう事になる。

それを理解しているからこそ、俺達に何も言ってこないのだろう。


「有難く使わせてもらうよ。」


そして俺達は一夜の宿を得て指定された家へと入って行った。

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