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116 追加の依頼

町に入ると、そこでは煮炊きの準備が進められ、配給が行われようとしていた。

そのため町中から人が集まり、果てしない長い列が形成されている。

ここまでの列を直接見るのは初めてだけど、銃を手にした反乱軍が目を光らせているので目立った混乱は無さそうだ。


そして配られようとしているのは水と小さなパンに加えて小指くらいの干し肉だけなので確かにあれだけしか無ければ彼らが痩せているのもよく分かる。

もしかすると俺達も太っている訳では無いけどあちらから見れば肥え太った豚と変わらないかもしれない。

彼らと比較するとラウドがどうして自分達が国側の人間に思われると言い切ったのかが理解できる。

3人とも無駄な脂肪は付いていなくてもこの町の人達の様に痩せ過ぎてはいない。

それに、ここに居る人は誰もがボロボロになった服を着ているのに、こちらは身形から違って真面な物を身に着けている。

しかもあまりにも服が傷み過ぎていて着ているというよりもなんとか羽織っているという感じだ。

反乱軍はもう少しマシな服を着ているけど裾や袖は擦り切れているしそれ程の違いは無いだろう。

それに怪我をしている者も多く片腕片足が無い者も目立つ。

それを見てアズサは視線を向けて来るけど、俺は首を横に振って考えているであろう事を否定した。


「今は手を出す時じゃない。食料にも限りはあるし俺達が飢えて戦えないと彼らを救えない。同じ理由で回復も無しだ。」


恐らくはアズサの回復魔法なら失われた手足も生やす事が出来るだろう。

しかし、それをするには準備が足りて無さすぎる。

欠損部の治療をするのにどれ程の魔力が必要かも分かっていないし、ポーションだって不足している。

それに俺達の今の状態は半分ボランティアの様なものだ。

助けても一銭にもならないうえに、感謝されるのがアズサになってしまう。

最低でも政府が落ち着いて国から正式に要請をされる必要がある。


そしてアズサもここは素直に引いてくれたので俺は配給が行われようとしている列の近くまで移動して行った。

そこではハバルとラウドの他に先に町に入っていた覆面とエリスも一緒に居る。

その周りを武装した数人の反乱軍が護衛を行い、周囲に目を光らせていた。


「この機会に一斉に町の人間を浄化するのか?」

「そうだよ。でもさっきみたいに何が起きるか分からないからね。こうして信用できる者で厳重に守りを固めているのさ。」


死ねば生き返らせることは可能だけど今の段階でそれはなるべく避けてもらいたい。

あちらも俺の蘇生薬が無尽蔵にあるとは思っていない様なので任せても大丈夫そうだ。


「アズサは念のためにここに居てくれ。周囲を見て来るから。」

「うん。気を付けてね。」

「分かってる。」


そして俺は配給が始まった列の先頭へと向かって行った。

あそこにアズサを置いて来たので危険が迫れば危機感知が反応するはずだからだ。

すると配給が終わった人たちが反乱軍に指示されながらこちらへと近づいてくる。

俺はゴーグルを起動させてそれらを見回し、危険な人間が混ざっていないかをチェックしているけど、ゴーグルが一つしかないのが悔やまれる。

恐らくはハクレイが対応策の一つとして出したくらいなので時間があれば増産も可能なのだろう。

でもあの時は時間が無かったので一つしか受け取って来なかった。

ただ、言わせてもらえば俺だけなら1つでも良かったんだけど、これも全てアマテラスがアズサを飛行機に乗せたからだ。

そして俺が心の中で準備の足りなさに愚痴っているとスキルに反応を感じ取った。


「小さいけど反応がある。」


こちらに向かっているのは怪我をして松葉杖を付いている男が1人に痩せた女が2人。

子供が1人に年老いた男が2人だ。

誰もが邪神の影響を受けているのは変わらないけどそんなに穢れてはいない。

しかも全員から同じような気配を感じると言う事は人ではなく別の何かに反応していると言う事だ。

俺は6人の共通点を探し、片っ端から鑑定を行ってみる。

するとその間に我慢が出来なくなったのか子供が手に持つパンを口へと放り込んだ。


その瞬間、魂の穢れが増加し黒へと近づき、それを見て俺の中にあの時の話が思い起こされた。


「そう言えば、水源は全て国王が管理していると言っていたな。」


もし、飲み水に何かされていれば普通の人間に気付く事は出来ないだろう。

どう見てもこの町には高性能の検査機器があるようには見えないし、覚醒者もいない様だ。

それに人が生きるには1日に1~2リットルの水が必要だと聞いた事がある。

そうなると彼らはそれを口にしなければこんな乾いた土地で生きる事は出来ない事になる。

今のところ危険そうな奴は居ないので俺は調査を継続させることにした。


「・・・やっぱり水が問題みたいだな。」


配っている水を鑑定してみると周囲に言い難い物が含まれているのが分かる。

簡単に言えば邪気とかいう現代科学だと検出できそうにないものと、人間の血液やその他色々だ。

実際には何処で混入させたのかは分からないけど、先代から立ち入りが制限されているという泉が怪しいだろう。

この調子だとかなり酷い状態になっていてもおかしくは無さそうだ。


しかし神聖な場所と聞いているけど、この国の神は何をやっているのだろうか。

確かサラスヴァティーとかいう神だとエリス達が話していたけど、先王からとなると何十年も前からこの国は邪神によって侵略を受けていたという事になる。

それに聖域は日本で言う所の社や神社と同じ所かもしれないし、信仰を失った神は力を発揮する事が出来なくなる。

人間で言えば衣食住の食と住を奪われるも同然なので仕方がないとは言えるけど、これは受けた依頼の一つは達成が困難かもしれないな。

でもアマテラスとハクレイが俺達から姿を消している間に話していた事で丁度良い物がある。

もしかするとそれを利用すれば信仰を取り戻す事も出来るかもしれない。


そして俺は調査を終えて戻っていると数人の町人が気を失い、少し離れた所で寝かされているのに気付いた。

どうやら栄養失調か脱水症状を起こした者が出てしまったみたいだ。

さっき『ボコ!ベキ!』と聞こえた気はするけど怪我が見当たらないので気のせいだろう。

周りの護衛の反乱軍たちがかなり怯えているのもきっとアズサの笑顔が神々しくて直視できないからに違いない。

俺は時々聞こえる音を完全にスルーしながら覆面の許へと向かい声を掛けた。

でも、なんだかこっちも少し体が引けている気がする。


「調査が終わったぞ。」

「それで・・・何か分かったのかい。」


なんだかアズサの方をチラチラ見ているけど何か気になる事でもあるのだろうか?

まあ、それよりも報告を優先させよう。

かなり重要な案件だからな。


「どうやら水が汚染されてるみたいだな。簡単に言えば人間の血肉が混入している。」


それ以外にも分かった事を伝え今後の事を話し合い、最後に最も重要な事を問いかけた。


「それで、この弾の製法は誰が知っているんだ?」

「それは私たちにも分からないよ。弾に関しては城に居る奴らに横流しさせてただけだからね。ただ、中央の研究所で対魔物用という名目で覚醒者にも効果がある武器の研究に力を入れていた事は調べが付いてるよ。」


中央と言う事は国王が居る王都の事を指しているのだろうから、軍人たちと同様にそいつ等も既に魔物になっているかもしれない。

それなら始末は楽なので今回に限ってはそうなっている事を期待しよう。

研究データはオメガとアズサに任せれば洩れはないだろうから、パソコンや資料に関しては纏めて回収すれば良い。


「それにしても混ざってるものに関しては気にしないんだな。」

「それに関しては見当が付いてたからね。見た奴の話だと入った数と出てきた数が合わない時が頻繁にあるらしいんだよ。きっと中で何かやってるんだろうねえ。」


反乱軍には俺が思っている以上に協力者と情報網があるみたいだけど、それも邪神の汚染が広がればいずれは完全に失われてしまう。

こんな反乱軍が拠点にしている様な場所でもここまで魂が濁っているのだとすればそれも遠い未来の事ではなさそうだ。

しかも、この覆面の正体はアイツのアレで間違いないだろう。

既に死んでいると聞いていたんだけど、それは誤った情報である可能性が高そうだ。


「それとあの水を飲み続けると人が魔物に変わる可能性がある。早めに対応しないと俺達でも殺す以外に対処ができなくなるから注意してくれ。」

「何で重要な事を先に言わないんだい!!」


優先度が高いのは確かだけど、これを言うと話も出来ずに飛んで行くだろうと思ったからだ。

それにこの話を最後に回したおかげである程度の話は聞く事が出来た。

情報が全て真実ではないかもしれないけど、鑑定で調べた情報を渡してもこれなら対価としては十分と言えるだろう。

そして覆面は急いで駆け出すと列の先頭へと向かって行ったけどアイツに出来るのは配給を一時的に止めるくらいだ。

それに飢えている人たちに目の前の食料を喰うなと言って聞くはずがない。

下手をすると暴動に発展する可能性もあるのでアズサの所に行ってこの町にある飲食物を全て浄化してもらう様に言って送り出した。


そして今日の戦闘ではハバルとラウドもレベルがそこそこ上がっているので魔物化もしていない者を相手に後れを取る事は無いだろう。


「後は明日にでも王都に向けて出発すれば思っていたよりも早く片付きそうだな。」

「あの、ダンジョンの件を忘れていませんか?」

「そう言えばそうだったな。ダンジョンはこの国の何処にあるんだ?」


言われて思い出したけど王都に行って敵を壊滅させて終わりでは無く、そもそも最初の目的はダンジョンの中に居る覚醒者の回収だった。

魔物も大量に居ると考えればエリス達に任せるのも心配だし、失敗すればお膳立てが台無しになるので再びこの国に来ないといけなくなる。

移動時間だって馬鹿にならないので可能な限り遠慮したいところだ。


「この国にあるダンジョンは日本と違い1つだけです。そして、その場所は王都とこの町との中間地点にあります。以前までオアシスがあった場所なのですがこの干魃によって失われてしまい今では町が有るだけになっています。」

「それなら人口も多いのか?」

「その辺は私では分からないのでハバルが詳しいと思います。」


そう言ってエリスは説明をハバルに引き継ぐと自身の作業に集中し黙々と木刀を振るい始めた。

俺への説明と同時作業で木刀を振っていたので時々手元を狂わせて空振りしていたようだ。

そのせいで溜まってしまった列を解消するのにしばらくは頑張ってもらわなければならない。

あれなら素振りの良い練習になりそうだな。

そしてエリスから引き継がれて今度はハバルが詳細を話し始める。


「正確な数値は分からんがこの町で2千人程の人間が居る。そして、ダンジョンのあるこの先の町には約5万人の人が居るだろう。」

「一応聞くけど、この国の人口ってどれくらいなんだ?」

「国がこんなになる前は5百万人は居たと聞いた事がある。しかし、今はこういった状況だ。多くの人々が国から抜け出し、今では百万人と言った所か。」

「もしかして、昔は緑豊かな国だったのか?」

「そうらしいな。俺が子供の時には今と比べてもう少しマシと言う程度の状況だった。ここ数年に限って言えば雨も碌に降らず、砂漠化も驚異的な速度で進んでいる。多くの国民は水が唯一手に入る町から抜け出せず、飢えと渇きで餓死者も急増している状況だ。」


恐らくは今のこの土地を見れば昔は緑に富んだ土地だったと言われてもピンとこないだろう。

こんな草木どころか水も碌にない状況から何百年も前から水の乏しい国だと思うはずだ。

それに異常気象がどうのと言われ始め、俺達の耳にもよく入る様になったのは西暦2000年を超えたあたりだ。

それよりもずっと前からこういった事が起きているならそれは自然だけの力では無いのかもしれない。


それにしてもここが日本でなくて良かった。

もし、これが日本で起きていれば、何処かの神が追加ミッションとか言って余計な仕事を増やしているかもしれない。

今はスマホも県外だし連絡手段もないのでアイコさんの時の様に厄介事は増えないだろう。


『ピピピ!ピピピ!』

「今何か鳴らなかったか?」

「そうだな。誰か携帯でも持ってるのか?」

「そんな物が有っても日本と違って基地局が無いのだ。長距離無線か衛星電話以外だと軍が使う様な無線機くらいしかないぞ。」


もちろん俺達はそんな大層な物は持っていない。

俺が身に付けているのも衣服と腰の刀。

そして、頭には・・・ハクレイから借りたゴーグル・・・。


そう思った瞬間にゴーグルが勝手に起動して目元を覆い隠す。

そして、そこに映像が浮かび上がると誰とも知れない女が姿を現した。


『お前がアマテラスの言っていた人間か?』

「さ~何の事でしょうか?全く記憶にございません。」

『うむ、どうやら人違いだった様だな。』


そう言って何故か女は右手を軽く振った。


『これで我の探している相手には人には言えない様な称号が与えられた。今一度聞くがお前は本当にハルヤという人間では無いのだな?』

「確認を行いますのでこのまま少々お待ち下さい。」


俺は丁寧にそれだけ答えてゴーグルを外すと空を見上げた。

するとそこには綺麗な星が瞬き、月が見守る様に見下ろしている。

そして何度かの深呼吸を終えると勇気を出してステータスを開くと称号を確認してみる。


「クッ・・・。なんて称号を付けてやがるんだ!」


そこには前回に見た時には無かった称号がその存在感を見せつけている。

それはとても危険でさっきの女の言う通り断じて人には見せられない称号だ。

俺はステータスを消すとゴーグルを掛け直し溜息を零した。


「何が目的だ。」

『ウム。ようやく話を聞く気になった様なので本題に入ろう。我が名は弁才天。既に知っておろうが我はお前達のステータスの一部を担当しておる。故にお前のステータスへと強制的に称号を与えたのだ。』

「そんな事よりもこの称号は消せるんだろうな!」


こんな称号は百害あって一利なしだ。

ハッキリ言って厨二戦士なんて比べ物にならない被害を俺にもたらすだろう。

それに被害は俺だけに止まらず周囲にも多大な迷惑を掛けることになる。

そして最大の問題としてそれに俺が耐えられる自信が持てない。


『それに関して結果だけ言えば不可能だと言っておこう。ステータスに追加された項目は魂に刻まれたものだ。消すにはその者が完全に消滅する以外に方法はない。』

「なら、俺はこれと一生付き合って行くのか!?」


それはかなりデンジャラスな人生を送る事になるだろう。

もしかすると俺はクレイジーボーイと呼ばれているけど、それが称号と同じ呼び名に変わってしまうかもしれない。


『ただし、お前が我の頼みを叶えてくれたならその称号を進化させ別の称号に変えてやろうではないか。』

「本当だな!それが変な称号なら、手段を択ばずにお前の所に乗り込むからな!」

『ウム、カミハウソツカナイ』

「どうして最後はそんなカタ言なんだ!?不安を煽るんじゃねえ!」

『冗談だ。それでは詳細はメールで送信しておく。くれぐれも失敗するでないぞ。』

「当然だ!完膚なきまでに完遂してやんよ!」


そしてテレビ電話の様な回線が切れると視界にはメールの表示が浮かび上がった。


「どうやって開くんだ?」


そう思っているとメールは勝手に開封され、そのタイトルと内容を表示してくれる。

さすがは精神生命体が使う道具だけあって思うだけで操作が可能になっているようだ。

試しにON/OFFをイメージすると手を使わなくても操作が可能で、その他の操作も可能である事が分かった。


「かなり便利だけどまずはメールの確認だな。」


見るとタイトルには『追加ミッション』と書かれていてどうやら俺は不用意にフラグを立ててしまっていたみたいだ。

ただ、それに関しては過ぎた事なので置いておくとして、問題はその内容にある。


『大地に恵みを取り戻せ。』


書いてあるのはそれだけで明確な事は何も書かれていない。

ただ一緒に送信されて来たデータにはこの国を示すであろう地図が有り、そこには幾つかの印がつけられている。

どうやら言葉は足りていないけど明確なヒントだけは授けてくれたみたいだ。

そして最後に『サラスヴァティー(弁財天)』と名前が書かれていた。


「これは連名って事か?」


残念だけど俺は神様については詳しくない。

ここは物知りなハバルに聞いてみる事にした。


「ハバル、サラスヴァティーと弁財天の関係性を何か知ってるか?」

「それについては日本に行く前に資料で読んでいる。ちなみにこの国で信仰の対象となっているサラスヴァティーはこの国での呼び名で、弁財天とは日本での呼び名だ。すなわち、名前は違うがこの2つの名前は同じ神を示している。」


それでこんな書き方をされているという訳か。

そう言えばユカリが弁才天がステータスの一部を担当してるって言ってたな。

それで、この国に居る俺にこんな依頼をしてきたってことか。

それならこの国の覚醒者にすれば良いのにどうして俺に依頼をしてくるんだ。


俺はステータスを開くとそこに書かれている称号をもう一度確認する。


「それにしても、コイツも現代に染まってる気がするよな。毘沙門天様と一緒で最近の小説か漫画にでも嵌ってるのか?」


見れば見る程に溜息が込み上げてくる。

そこには見事に『ラッキースケベ(仮)』と書いてあり、俺の頭を悩ましている。

ただ救いとしては俺に一定以上の好意が無ければ発動しないみたいだ。

しかしON/OFFは不能でランダム発動とある。

そして効果範囲は半径5メートルとかなり広い。

ここはトラブルを避けるために恥を忍んでアズサには事情を話しておいた方が良いかもしれない。


俺はその後ハバルに地図を書いて見せながらここに何があるのかを確認して一端の話を終えた。

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