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115 密かに歩み寄る影

俺達が町へと到着すると多くの兵士たちがバリケードの傍で銃を構え、俺達を出迎えてくれた。

しかし警戒している所に現れた俺達を歓迎してくれるほど、この国の人間に余裕は無いみたいだ。


『ダダダダダ!』

「そこの車止まれ!」

「馬鹿野郎、弾を無駄にするんじゃねえ。」


恐らく彼らが装備しているのは、さっき手に入れた弾と同じ物を使用しているのだろう。

譲る気は無いけど数に限りがあるのは間違いないだろう。

それにこの国の覚醒者は全員がダンジョンの魔物に殺されていて回収が出来ていないはずだ。

それでは新たな弾の製造も出来ないので無駄使いはしない方が良いだろう。


そしてこのまま進めば確実に車は鉢の巣にされる事になる。

俺とアズサは問題ないとして他の3人にはまだ効果があるかもしれない。

車に関しても廃車にはしたくないので一旦停止して指示に従う事にして今回も俺が車から降りると交渉の為に前に出た。

どうやらさっきの覆面女性は近くに見当たらないようだけどアイツが居ないと話が面倒になりそうだ。


「撃つな。撃つなよ。撃つんじゃない。」

「あれはフリって奴だね。きっと打って欲しいんだよ。」

「え!ハルヤはそんな趣味があるのですか!?」


イヤイヤ、そんな趣味なんてないからアズサも誤解を受ける様な事を言わないで欲しい。

聞いてる限りだとエリスが本気にしていそうで、しかもハバルとラウドの双子からは冷たい視線を向けられている気がする。

俺はそんなマゾ気質は一切持ち合わせていないのに、どうして冗談を真に受けちゃうのかな。


「そこで止まれ。お前たちは何者だ!なぜ魔物が来る方向から現れた!?」

「覆面を付けた奴に話を聞いていないのか?アイツなら事情を知ってるから連れてこい。」


すると小声で指示をして数人が走り去っていくので、どうやらこの町には留まっているようだ。

逃げ去っていれば面倒だったけど居るなら少しすれば現れるだろう。

しかし問題は相手がそれまでこの緊張感の中を耐えられるかだな。

それでなくてもこの国の気温は日中になると40度を超える。

空気が乾燥しているので日本ほど不快指数は高くないけど、普通の人間なら日差しの下で立っているだけでも体力と精神力を削られるだろう。

もちろんこんな状態で長時間の緊張に耐えられる訳も無く、あまり待たされれば故意では無いにしても誤射くらいは起きてしまいそうだ。


「お前らも銃くらい下ろしたらどうだ。」

「気遣いは無用だ。それ程時間は掛からないからな。」


そうは言っても大人ならともかく子供も混ざっている様でそちらはもうじき限界がきそうだ。

腕が疲れたのか頻りに持ち直したり、額から流れる汗を拭ったりしている。

あれだといつかは間違えて引き金を引いてしまいそうだ。

そして俺の懸念は当たり一発の銃声が鳴り響いた。


『タン!』

『ダダダダダ!』


するとその1発が引き金となり銃弾の雨が殺到してくる。

その表面は明らかに赤い染料が塗られており、俺達にもダメージを与えうる特殊弾頭である事が分かる。

ただ俺に関して言えば撃たれても小雨に打たれた程度なので問題はない。

それに先程話をしていた男が声を張り上げて発砲を止めてくれたので命中したのも100発程度だ。

どうやら変な設定は加わっていない様で一定時間でコンボダメージが発生してダメージが増加したりはしないみたいだ。

それにしても日本では試すのが難しい実験が出来たのでこちらとしては感謝したいくらいだ。


そしてどうやら銃弾の雨で乾いた地面から砂埃が舞ってしまい、俺の姿を隠しているので相手にはこちらの状況が分からないようだ。

こちらからは見えているけどあちらから声を掛けて来るまで少し待ってみる事にする。

どの道もうじき覆面女性も到着するだろうからこの場も沈静化してくれるだろう。

すると案の定さっきの覆面が到着し、さっき話していた男に確認を取っているようだ。


「分かった。こちらから確認をしてみるよ。お前は周りの奴が再度暴発しない様に気を配りな。」

「了解しました。・・・しかし、生きていると思いますか?」

「国王がわざわざ外から連れて来る様な奴だからね。これくらいでは死なないと信じたいところだよ。」


そう言って覆面は声を張り上げるとこちらに「生きているかー!」と語り掛けて来た。

もちろん生きているので間を置かずに返事を返す。


「こちらは無傷だから大丈夫だ。それよりもあれだけ気を使ったんだからもっと気を付けてくれよ。」

「ヒィ~!無傷だと!?『タタタタタ!』」


すると俺の声を聞くなり銃を乱射するおかしな奴が数人現れた。

しかし今回は周囲の者はそれに合わせず、命中する軌道で飛んでくる弾は疎らだ。

俺はその弾丸を気にせず前に進み、顔に飛んで来た弾は手で掴んで収納して行く。

そして、ゴーグルで確認するとその魂は灰色へと変わっており、邪神の影響を受けているのが分かる。


「このバケモンがー!」


すると発砲してくる者達の周囲が動き始め俺がしなくても対処を始めてくれた。

俺の方で始末しても良いけど、それは相手の心証が悪くなるので出来るだけ任せたい。

しかし発砲している奴には声も届かず下手に近寄ると危険かもしれない。

そのせいで取られた手段は容赦のないものとなった。


「止めろ!誰でも良いからそいつを止めるんだ。」

「手加減すれば被害が増える!仕方ないから撃ち殺せ!」


そしてその数人に関しては俺が手を下すまでも無く、周囲の仲間によってヘッドショットをくらい始末されてしまった。

彼らに関してはこのままだと勿体ないので後で実験に使わせてもらう事にする。


「もう良いのか?」

「すまない。それで魔物については・・・聞くだけ野暮だね。」


覚醒者だと確信を持っていた俺達が空を飛行する魔物よりも早く現れ、こうしてのんびり対処している時点で予想は付くだろう。

そして話が着いたのを見て車が此方へとゆっくり進んで来た。

俺はその間に別の武器を取り出し、それで覆面をコツンと軽く殴ってみる。

ただ、突然の事にその見えている眼に警戒と驚きが見て取れたけど、手にあるのが変わった形の木刀であるのを見ると頭を擦りながらホッと息を吐いた。


「何だいそれは?」

「ちょっとした秘密兵器かな。」


そして傍まで来たところで他の4人が車から降りて来たので俺は車を収納して片付ける。

今の発泡で数発の弾丸が車体に当たってしまい傷物になってしまったので、この車は今回みたいな事でもない限りあまり使い道がなさそうだ。


更に丁度良いので傍に来ているエリスへとその木刀を差し出した。


「あの、これは何でしょうか?」

「これはアマテラスの野郎から貰った天羽々斬の剣・・・のレプリカだ。これがあれば浄化が使えなくてもある程度の魂の穢れなら浄化できる。」

「本当ですか!」


ちなみに邪神の影響で魂が穢れていると言う事はそこには邪神の力が籠っている。

それを払えば少ないながらも経験値が得られるそうだ。

俺やアズサではほとんど意味のない程度の経験値でもレベルの低いエリスなら意味が出て来る。

ただし問題があるとすればここに居る全員の魂が輝きを失っていると言う事だ。

彼らがこの国の国王から影響を受ける程に頻繁な接触があるとは思えないので何かのカラクリが存在するはずだ。

それを調査する前にまずは覆面に話を通さないといけない。


「覆面、ちょっと良いか。」

「・・・。」

「おい大丈夫か?」

「あ、ああ。すまないね。それで何だい。」


覆面はエリスを見たまま、まるで時間が止まってしまったかの様に動きを止めていた。

もしかすると反乱軍に居るのにエリスの関係者なのだろうか?


「いや、ちょっとお前の仲間を一発アイツに殴らせて欲しいんだ。」

「それに何か意味があるのかい。」

「ああ、お前を含めて全員が邪神の影響を受けている。このままだといずれ全員が魔物になるぞ。それが嫌ならまずは全員を並ばせてくれ。こちらにはその症状を取り除く手段がある。」

「もしかして、それが今のアレかい。」


そう言って覆面はへっぴり腰で木刀を振るうエリスを指差した。

話を通し易くする為にコイツを先に浄化したけど何かを実感しているようだ。

俺は頷いて返すと覆面は指示を出し周囲に居る仲間に集合を掛けた。

そして、それによって周囲の人が移動し、さっき殺されてしまった少年兵たちの姿が見えるようになる。

どうやら彼らはこの町に住む子供だったらしく、その母親と思われる女性がその傍で涙を流している。

恐らく町の方から様子を窺い、無事を祈っていたのだろう。


「ねえ、ハルヤ・・・。」

「そうだな。丁度良いから実験に付き合ってもらおう。」


そして俺はアズサの手を引いてその内の1人に歩み寄るといつもの調子で声を掛けた。


「ちょっと良いか?」

「何アンタ!・・・お前達さえここに来なければこんな事にはならなかったのに!どうしてこの町に来たのよ!この子を返しなさいよ!」

「生き返らせてやっても良いぞ。その変わり俺達に協力しろ。」

「え・・・?」


まさか本当に生き返らせてもらえるとは思っていなかったのか女性からは間の抜けた声が返って来る。

しかし死んでいる少年兵の前にこの女性をどうにかしないといけないだろう。

どうやら邪神の影響を受けた者は強い怒りや悲しみによって進行が早まるようだ。

この女性に関して言えば最初は白よりの色をしていたのに、今では灰色を通り過ぎている。

このまま放置すれば数日中には真黒になって手遅れになるだろう。


「アズサはこの2人を浄化してくれ。」

「分かったよ。・・・浄化。」

「な、何この光りは?」

「落ち着け。人体に害はない。それよりも他の奴らも呼んで来てくれ。」

「わ、分かったわ。」


女性なので他人に従うのが癖にでもなっているのか、心配しながらも指示に従って走り去っていった。

この間に素早く実験を終わらせて確認をしてしまおうと思う。

ただ死んでいる状態だと魂が確認できないので生き返らせる必要がある。

その為にまずは蘇生薬を取り出し少年兵へと振り掛けて生き返らせる。

そしてゴーグルで確認すると魂はまだ灰色のままだ。

どうやら魂の浄化に関しては生きている状態でないと効果が無いらしい。


「アズサ、もう一度浄化してくれ。」

「分かった・・・浄化。」


すると先程の女性を浄化したように魂が輝きを取り戻したので、これならもう先程の様な事は起きないだろう。

最初から敵対するつもりなら別だけど、その場合は諦めて次の統治者になるまで幽閉してもらおう。


すると先程の女性が周りに居た女性たちを集めて戻って来た。

そして足元に倒れている子供へと駆け寄り傷がない事と息をしている事を確認する。


「生きてる!生き返ってるわ!」


そして我が子を抱き上げると胸に抱き再び泣き出してしまった。

俺達はそれを放置すると目の前に居る彼女達へと視線を向ける。


「話は聞いてるな。」

「ええ、お願い!息子を助けて!」

「何でもするからお願いだよ!」


そう言っている彼女たちの手には頭を撃ち抜かれて死んでしまった子供が抱えられている。

それに後ろの母子もそうだけどその手足は驚くほどに細く、それでどうやって子供を抱えているのかと疑問に思う程だ。

きっとこれが母親の強さと言うものなんだろう。


「それならまずは自分達の事を心配しろ。そのままだと子供の前に自分達が魔物に変わるぞ。」


そして、アズサは俺が言わなくてもすぐに魔法を放ち彼女たちを浄化してくれる。

その光を浴びながら彼女達は驚きの表情を浮かべてその場に座り込んだ。


「これでお前らは大丈夫だ。次は蘇生に入るぞ。」

「は、はい。」


そして子供を横に寝かせると1人ずつ蘇生させ、その直後に浄化をしてやる。

これで起きても大丈夫だろう。

余裕のない時には手間はかかるけど一度死んでもらってから対処する事にしよう。

それにこの町に何人の人間が居るか分からないけど手遅れでなければ助ける事が出来る。

あちらはエリスがやる事に意味があるので彼女にはしばらく頑張ってもらわなければならない。

例え体力が尽きて倒れてしまったとしてもポーションがあるし過労で死んでも生き返らせれば良いだけだ。


「これで終わったよ。」

「ありがとうございます!」

「どうして助けてくれたんですか?」


すると生き返った子供を抱き上げながら俺とアズサに問いかけて来る。

こういった場面では実験ですとは少しだけ言い難いのだけど、そこを言えるのが覚醒者クオリティーというものだ。


「実け・・・。」

「子供は世界の財産ですから。良ければその子たちが目を覚ました後にでも彼女を手伝ってあげてください。それでは。」


しかし俺が素直に言おうとするとアズサが割り込んできて一般的な答えを伝えてしまった。

そしてエリスを手伝う様にと告げると俺の手を引いてその場を離れてしまう。

すると少し離れて足を止めると俺の肩へと両手を乗せた。


「ハルヤ、お座り!」

「・・・はい。」


アズサは俺がその場で正座すると腕を組んで仁王立ちし鋭い視線を降らせてくる。

いったい俺の対応の何処に不備があったのだろうかと疑問に感じてしまう。


「ハルヤ!前も言ったけど真実は時として他人を傷つけるんだよ!」

「でも、後で勝手に頼られても・・・。」

「ん!!!」

「ごめんなさい・・・。」


こういう時に男の口応えは身を亡ぼすので素直に従うのがベストだと俺を構築する全てが叫びを上げている。

だから男のくせにとか情けないと笑いたい奴は好きなだけ笑え。

今の俺はアズサに仕える従順な猟犬なのだ。

そう自分に言い聞かせながらずっとアズサの甘い声に耳を傾け、しばらくするとお説教が終わったようだ。

声に集中し過ぎて話をほとんど覚えてないけどまあ良いだろう。


「それじゃあ分かりましたか?」

「はい。」

「なら何が分かった言ってみなさい。」

「う・・・。」

「それならもう一度最初から。」


そして先程を上回る長さで話は続き、周りに誰も居なくなり日が沈むまで俺が立ち上がる事は無かった。

その間にエリスは覆面に連れられて町に入り、反乱軍の人達もヒソヒソと内緒話をする様に居なくなってしまう。

ただ声は聞こえていたんだけどアズサの説教に集中していたので聞き逃してしまった。


そして話が終わると般若は天使へと無事に戻り、2人きりと言う事で腕を組んで町へと入って行く。

考えてみればこうして2人で過ごすのもいつ以来だろうか。

日本に居た時は殆ど他の誰かと一緒に居て2人だけで過ごす時間が無かった気がする。

もしかすると俺はアズサ達には凄い我慢をさせているのかもしれないので戻ったらこれからの事をもっと話し合う必要がありそうだ。


俺はアズサの笑顔を見ながらこれからの事を考え、一緒に日本へ帰る事を密かに誓った。

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