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112 フルメルト国へ到着

既に外には太陽が昇り始めており朝が来た事を知らせてくれる。

そして俺の左右には今も穏やかに眠る2人の女性が規則正しい寝息を立て、俺の肩を枕代わりにしていた。

しかし機内放送が鳴り、それによって目を覚ますと揃って視線を上げて俺に微笑みかけてくる。

エリスはともかくアズサの破壊力が凄まじい。

しかも最近は見る事の無かった寝起きの顔に空に居ると言うのに地震でも起きた様な錯覚に見舞われた。

そんな中で放送だけは鳴り響き外の状況を知らせてくれる。


「座標によればそろそろ国境を越えたから警戒をしてくれ。」

「・・・。」

「ハルヤ!聞こえてますか!?」


すると俺がアズサに見惚れていると、反対からエリスが肩を揺さぶりながら声を掛けて来た。

そして視線を向けると今度は立ち上がり、窓辺へと引っ張っていく。


「ここから外を見る事が出来ますから、まずはこの国の現状を確認ください。」

「ああ。」


ここがどういった土地なのかはアマテラスによって既に知らされている。

しかし、それは大まかな情報でそれを補うためにも空から地上を確認するのは良い手段だ。

そして俺とアズサは言われるままに窓から外を見渡すと、そこには木などの姿は何処にもなく草さえも疎らにしか生えていない。

それ以外は広大な荒れて乾燥した荒野が広がり、遠くに見える山脈も茶色い山肌を晒していた。

それに空から見れば蛇行した大きな凹みが大地を走っているので、昔には川が在ったみたいだけど涸れて干上がっているようだ。

そういう所が何カ所もあって昔は豊かな自然が存在していたのだろうと連想させる。


「どうして川に水が無いんだ?」

「先王の時代からこの国は酷い干ばつに見舞われ現在この国にある水源は王宮から湧き出る水だけになっているのです。そのため誰も王に逆らえず、目を覆いたくなる様な暴政が続いております。」


しかし、それならどうして王宮からだけ水が湧き出ているのかが一番の疑問だ。

地上の乾き具合から雨も滅多に降らないのだろうけど、地下水が流れているにしては水が一カ所からしか出てこないなんてありえない。

そこには明らかに何らかの秘密があるはずだ。


「その水脈については何か分かっているのか?」


するとエリスはゆっくりと首を横に振り表情を暗くさせた。


「いいえ。その場所には先王の時代から当代の王と許可を出された者以外には入る事が出来ません。もし侵入すれば王族だろうと死罪は免れないでしょう。言い伝えではこの国の神を祀った祭壇と泉があると言う事ですが資料の全ては先王が処分してしまい確かな事は分かりません。」


と言う事はその泉が水源で間違いは無さそうだ。

神の力が働いてでも居るのか尽きる事のない泉か・・・。

でも、そんな近くに神が祀られているならコイツの兄であるデトルがあそこまで邪神の影響を受ける筈はない。

でも、もしその神が別の何かに挿げ変わっているとすれば話は別だなので、その場所は確実に調査する必要がありそうだな。


「そう言えば、俺達は何処までこのまま移動するんだ?」


知識によればこの国はそんなに大きくはないらしく、面積は北海道よりも少し大きいくらいらしい。

それでも徒歩での移動は大変だし俺とアズサにはこの国に伝などない。

買うにしてもこの国のお金もないので手に入れるとすれば物々交換になる。

しかし相場も価値も知らない俺達ではぼったくられても気付く事が出来ない。

出来ればこのまま敵の本拠地になっていそうな王宮に飛行機ごと突撃して行くのが一番手っ取り早いだろう。


「はい。それに関しては現在はこの国で唯一の民間空港へと向かっています。もうじき到着すると思いますが・・・。」

『ブーブーブー!。』


しかし到着を目前にして貨物室内の赤ランプが光りを放ち警報が鳴り響いた。


『ガン!ガン!』

「きゃー!」


そして、何かが機体に衝突するような音が聞こえ始め、側面が音と共に変形しそれを傍で見ていたエリスが女性らしく甲高い悲鳴を上げる。

それにしても通常の衝突、バードアタックなら損傷は飛行機の前面に集中するはずだ。

しかも飛行機の装甲は厚くないと言っても普通に考えてこの状況は異常と言える。

するとさっき覗いていた窓に大きな影が映り込むと窓枠に何かが引っ掛かり、そいつは中を覗き込んできた。


「こんな所で魔物が襲撃してくるとはな。」

「何を落ち着いているのですか!このままでは飛行機が墜落してしまいます!」

「そうだな。それじゃあ、墜落する前に準備に入るか。」

「準備?」


俺は覗き込んでいる魔物を無視すると周囲にある貨物の回収を始める。

ついでに固定に使われていたネットの影には回収済みの死体をさりげなく入れて処分しておく。

持ってても邪魔だし、いつかは捨てる事になるからだ。

それなら墜落と同時に消し炭になってもらった方が良いだろう。


「あの、この状況でいったい何を?」

「このまま墜落したら勿体ないだろ。それなら俺が貰っても問題ないよな。」

「墜落するのが既に前提なんだね。」


エリスの質問に素直に答えるとアズサから鋭いツッコミが入る。

しかし今回は金銭的な報酬がゼロなのでこれくらいは良いだろう。

それに、これらの中に入っているのは全てが食料品だ。

俺には金を払わずにエリスを押し付けて来たくせに自分達の食べる物には値段にいとめを付けないとはけしからん。

酒は要らないんだけど高級肉に野菜や水などがあるので、どれを取ってもこれから必要になる物ばかりだ。

既に大量に持っていると言ってもアズサもいるから飢えさせない為にも一つも無駄には出来ない。

する、他の窓にも魔物が取り付き、ガラスを破壊して中に手を入れて来る。

しかし、窓の方が小さいので出来るのはそれくらいだ。


「これからどうするのですか!?このままでは墜落してしまいます!」

「焦るなエリス。この中で墜落して死ぬのはお前だけだから。」

「・・・それをどうやって落ち着けと言うのですか!」

「ん~それもそうだな。ハハハハハ~。」


俺は大量にある貨物を回収しながら笑い、エリスは逆に顔を青褪めさせていく。

すると機体が軽くなったからか次第に速度が上がり始め魔物を振り切り始めた。

それを見てエリスは希望を感じ取りったようで肩の力を抜いてホッと息を吐き出している。


『ボン!ガタガタガタ!!』

「エ、エンジンが!」


どうやら魔物がエンジン内に突っ込み、その衝撃を利用して内部を破壊したようだ。

それが3回連続し、残りのエンジンが1機のみとなってしまった。


「姫様パラシュートを付けてすぐにお逃げください!この機はもうじき墜落します!」


するとコクピットに居るはずのハバルがやって来て声を荒げた。

その後ろには同じように焦った顔のラウドも来ており、どうやら操縦は諦めたみたいだ。


「しかし外には魔物が居ます。ゆっくり降りていてはそれまでに襲われてしまいますよ!」

「それに関しては賭けるしかありません!なるべく地上に近づいてパラシュートを開いてください!」

「私にはそんな経験も知識もありません!このままどうにか着陸する方法はありませんか!?」


『ボン!』


すると問答をしている内に最後のエンジンも破壊されてしまい高度が下がり始めた。

その為、昨夜の様に機首が次第に前のめりに傾き、地面へと進路を変更する。


「「「ケケケケケ!」」」


すると魔物たちは窓の外から俺達を笑い機体から離れて飛行を始める。

どうやら後は空の上から墜落を眺めて楽しむようで魔物らしい姑息な手段を取っている。


「きゃあーーー!」

「姫様!」

「クソ、このままでは犬死だ!」


しかし、どうやらハバルとラウドには覚醒者としての知識があまり無いみたいだ。

ここはついでなので覚醒者がどういう存在なのかを身をもって体感してもらおうと思う。


「ハルヤ、そろそろ脱出した方が良いんじゃないかな?」

「そうだな。エリスもなんだか人生を諦めた様な顔になってるしそろそろ脱出するか。」


この状況でも俺達とそれなりに一緒に居るアズサは覚醒者がどんな存在なのかを知っている。

そのため焦る様子も無く俺に寄り添う様に体を預けて来る。


「それじゃあ、俺達は脱出するからお前らは墜落したら出て来いよ。」

「待て!どういう意味だ!?」

「すぐに分かるって。」


俺はアズサの腰に右手を回すと反対の手で刀を抜き、そのまま大きく機体を斬り裂き出口を作り出した。

しかし俺達4人はそれで生まれた気圧の変化や乱気流の影響を受けた程度で外に吸い出されるような存在ではない。

しかし、1人だけ例外が居る事を思い出したけど、その時には既に悲鳴と共に機外へと放り出された後だった。


「きゃーーー!」

「今日はアイツの悲鳴をよく聞くな。」

「もしかして厄年なのかな?」

「そんな事を言ってないで早く追いかけてくれ!」


俺達がほのぼのと話しているとツッコミ役のラウドから即座に怒号が飛んでくる。

そのため、仕方なく飛び出すとエリスを追ってスカイダイビングへと出発して行った。


「姫様を頼んだぞ!」

「善処する。」


別に落ちて死ねば死体は残る。

そうすれば中級蘇生薬で生き返らせれば問題ない。

飛行機と一緒に落ちれば骨すら残らず燃えてしまうかもしれないので最初から脱出はさせるつもりだったけど、今の状況は謂わば想定の範囲と言うよりも予定通りだ。

ただ、ここでエリスを死なせると後でラウドたちからグチグチと言われそうな気がする。

今後の事を考えればそういった蟠りは回避したいので今回は助けておく必要がある。

それに上空で高みの見物をしている魔物たちもエリスが悲鳴と共に地面の染みになるのが楽しみなのか、笑いながら手を出す気配はないのでこれなら余裕で助けられるだろう。


「アズサは大丈夫か?」

「うん、以前よりもハルヤを近くで感じられる気がして嬉しいくらいだよ。」

「俺もだ。」

「惚気てないで助けてください!」


既に目の前にエリスが居るので俺達の会話が聞こえたのか、それとも表情から読み取ったのか知らないけど、彼女は必死で手を伸ばして助けを求めて来る。

俺はそんなエリスの体をアズサと同じ様に抱えると地面に向かって減速を始める。

突然止まるとそれだけで色々な物が下から漏れたり、頭の中身が潰れたり、骨が変な感じになったりするかもしれないからな。

それに急激な減速は魔物に気付かれる恐れがある、そうなれば確実に攻撃を仕掛けて来るだろう。

その時はエリスを抱えたまま戦闘になるので結局は落とす事になり兼ねない。

ちなみにアズサを落とすという選択肢が無いのはいつもの事で、もし逆をやって自分よりもエリスを選んだとは思われたくもない。


「エリスは大丈夫か?」

「色々な物が飛び出しそうです。」


それは御姫様でなくても女性は言ってはいけないセリフではないだろうか。

まあ、聖女のアズサが居れば例え漏らし・・・ゲフンゲフン。

衣服が汚れたとしても綺麗にしてもらえるので問題ない。

覚醒して最初の魔法行使が汚れた服の浄化となると少し情けないけど、同じ女性として納得してくれるだろう。


そして何とか地面へ無事に到着するとエリスから手を離した。


「なんとか・・・耐え抜きました。乙女の矜持は守られ・・・オゲ~~~~。」


どうやら乙女の矜持とやらは守られた様だ。

代わりに上からは大量に垂れ流しているけどあれは乙女としては範囲内なのだろうか。

今はアズサが傍に行って背中を擦り、初めて使う回復魔法をかけているのであの様子ならすぐに立ち直るだろう。


『ドゴーーン!!』


そして地面に下りてすぐに俺達の乗っていた輸送機も無事に墜落し、激しい黒煙を上げながら炎を噴き上げている。

それを見てエリスは周りを見回すとさっきまで一緒に居た2人が見当たらない事に気付く。


「そう言えば、ハバルとラウドは何処ですか・・・。」

「それならあの中に居るんじゃないか。」


盛大に地面に激突したので機体の原型すら留めていないので、こちらに破片が飛んで来なかったのは完全な偶然だろう。

爆発の衝撃で機体の残骸が広範囲に散乱している事からどれだけの衝撃だったかが分かる。


「そんな。ハバル・・・ラウド・・・。」


そして燃え上がる炎を見ながら今度は口からでは無く目から涙を流し始めた。


「ハバルーーー!ラウドーーー!返事をして!!ウ、ウゥ。こんな所で2人を失うなんて・・・。」


なんだか勘違いをしている様だけど、この状況で真実を告げても良いのか迷ってしまう。

このまま放置して感動の再開に繋げるべきか、それとも早めに言って安心させてやるべきか。

しかし悩んでいる間に状況は刻一刻と変化し、上空を飛行している魔物たちが動き出した。

先程まではあまり気にして見る暇が無かったので気付かなかったけど、敵の正体は蝙蝠の様な翼を生やした人間のようだ。

ただしその体の殆どが魔物化していて人である部分はあまり残っていない。

体にはサイズが合っているとは言い難い、統一されたボロボロの服を着ているので恐らくはこの国の軍人だった奴らだろう。

日本を出る時に居たのはゴリラみたいな奴だったけど空を飛ぶのも居るということだ。

ただ以前に第三ダンジョンで出会った奴と違い理性や知能は高くなさそうで動きに統一性が無い。

見るからに100は居るのだけど群体ではなく個々で向かって来ている。

あの数を利用して一斉に向かって来られると速度の面から少し厄介だったけど、あれなら楽に処理できそうだ。

恐らくは統率できるリーダーの様な存在が居ないのだろう。

それにどうやら敵は飛翔の様なスキルではなく翼によって飛んでいるようなので、あれを失えば普通の魔物と何も変わらない。

地面に落としてしまえばアズサでも十分に処理が出来るだろう。


そして、この国に来て最初の戦闘の幕は入国直後という短い時間で切って落とされた。

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