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107 クラタ家の真実

「そうだね。まずは私達に付いて話そうか。実はそこに居る彼女とは近しい存在でね。私達も神という言い方を変えると精神生命体なんだよ。遥か昔にこの世界へと訪れてそれからはずっとここで生活している。」

「なら、神という存在は全てが異世界人に当たるのか?」

「それは違うよ。中には僕たちの影響を受けて人から精神生命体へと進化を果たした者も居るからね。」


そうなると人でも神となる事があると言う事か。

それならもしかするとユカリもそうなのだろうか?


「それじゃあ、ユカリはどっちなんだ?」

「この子の場合は少し違うんだけどあえて言えば前者かな。邪神との大戦末期にちょっとした手違いで犠牲になってしまってね。なんとか命は取り留めたんだけど力と記憶を失ってしまったんだ。」


するとユカリは驚いた様な顔でアマテラスを見上げた。

どうやら本人はその事実を知らなかったようだけど、以前にどう生まれたのかと聞くと土地神になる前の記憶は一切ないと言っていた。

しかしそんなユカリを気に掛けずに話は続けられた。


「この国には昔から、ある一族が居てね。私達が力を分け与えて役目を果たしてもらっているんだ。」

「それが囮役と言う事か。」

「そうだよ。この世界を見えざる敵。今回の邪神の様に外の世界から来た脅威となる精神生命体から護るために彼女たちは居るのさ。世界を渡り疲弊した彼らから見ればそこの彼女はとても美味しそうな存在に見えるんだよ。」

「それだと確かに囮を使えば被害が一カ所に集まって少なく出来るし、隠蔽も簡単だろうな。」

「君はこう言う時だけは話が早いよね。それで今の囮がそこの2人と言う事なんだ。普通は1人が死んでから覚醒するんだけど君が殺して生き返らせてしまったからね。元々そこの彼女に関してはあの時に命を落とす運命だったんだよ。」


それを俺が連れ帰ったから2人に増えたという訳で、今年の初詣では両方とも鈴が落ちたのはそれが原因だろう。

アズサが死んで次が出てきていないのは引き継ぐ者が居ないか、アズサに子供が居ないからか。

それともあの時はこうなる前だったので認識されていなかったのかもしれない。

そうなると俺との間に子供を作ればまた同じような運命になる可能性がある。


「細かい事は後回しだな。それじゃあ、アズサは既に覚醒者なのか?」

「半分はね。囮としての側面もあるから力は何もないよ。疑似餌に食い付けないんじゃ獲物が逃げてしまうだろ。ただ、その副産物として周りに居る邪な人間も引き寄せてしまうけどね。」


誘蛾灯に引き寄せられるみたいに次々と男共が集まって来て起きたトラブルの原因はそっちのようだ。

もしかするとアズサの見た目が普通以下だったらそんな事は起きなかったかもしれないけど、残念ながらコイツは美人になってしまった。

それを今更変えるのは不可能なので、そこは諦めるしかなさそうだ。


「それなら、もしかしてユカリは・・・。」

「元々彼女達の管理はこの子の担当だったんだよ。でも今もこうして同じエリアにダンジョンが出来たんだから運命を感じるよ。」


それにしても・・・楽しそうに話をするコイツを見ていると、だんだんと斬りたくなってくる。

そんな殺気立っている俺に気付いているのか、突然それを消し去る言葉が発せられた。


「でもね。構造的にもそろそろ限界なんだよ。だから今回の事が終わればその任を無くそうと思ってるんだ。」

「その終わりというのは邪神の討伐か?」

「又は完全に封印するかだね。その技術は彼女が持ってると見てるんだけどな。」


そう言ってアマテラスの視線はハクレイへと向けられる。

するとその首は縦に振られ肯定を示した。


「確かに私はその手段を持っています。しかし、今の状況では使用は不可能です。」

「それは君のボロボロの体に理由があるのかな。」


もしかして、その為の機能を備えた体なのではとアマテラスは問いかける。

しかし、どうやらそう言う訳ではなさそうで、首を横に振って否定すると説明を続けた。


「今の・・・この世界での呼び名は邪神ですが、力を持ち過ぎていて封印は不可能です。もし成功したとしても短い期間で破られてしまい完全に復活してしまうでしょう。」

「それに人間にも問題があるみたいだね。」

「はい、この星には既に邪神へと力を供給している根が多く存在しています。まずはそれを絶たなければ事態は収束しません。このままでは魔物を狩って弱らせる作戦も破綻してしまうでしょう。」


どうやら以前の放火魔や自衛隊員の様な人間が世界中に広がっていると言う事らしい。

しかし、そんなのは見つけようが無いのが現状だ。

犯罪を犯したからと言って全ての人を死刑には出来ないだろう。


「見分けるための方法は無いのか?」

「そうですね。このような物があります。」


そう言って取り出したのは作業中に使う様なゴーグルだ。

ただフレームだけで目を覆う部分には何も付いてはいない。


「これを使えば私と同じように人の魂の輝きを見る事が出来ます。邪神の影響を受けている者は一目で分かる様にますよ。」

「ふ~ん。」


俺は受け取ったゴーグルを顔に付けて教えられたとおりに操作してみる。

すると目の前に半透明のスクリーンが表示され、そこに移る人の胸辺りが白く光っているのが見えた。


「白なら正常で黒いと既に邪神の影響を受けています。人によっては先程アケミがしてくれた行為で助けられますがそれも初期の段階に限られるでしょう。」

「そうなんだな。そう言えば人によって光の大きさが違うな。」


どうやらアケミとユウナの浄化はある程度は有効らしい。

ただし初期という言葉が示す通り、ダンジョンが出来て初期の段階で邪神に取り込まれた者は助けられないだろう。

それにしても魂の輝きは殆どが同じだけどハクレイは少し大きく光も強い。

もしかすると個人差でもあるのだろうか。


「私達は自身で制御できますからね。だから今のアズサはあまり見ない方が良いですよ。」

「え、どうしてだ?」


俺は言われて真先にアズサへと顔を向ける。

するとそこには太陽の様に光り輝く姿があり、俺の目を激しく殴りつけた。


「うおーーー!」


俺は途轍もない光に目をやられ叫び声をあげる。

それによってどうして見るなと言われたのかを身をもって体験する事が出来た。

確かに、これだとハクレイが最初にアズサを見た時に人かを確認するのは当然だ。

横にいるアイコさんも同様に光を放っているけどアズサに比べれば霞んでしまうだろう。

そして俺の叫びを聞いて最初の声を発したのはアマテラスだった。


「ハハハハハ!君を見てると本当に面白いね。」


そう言って大笑いをしながら腹を抱えており、なぜか横のユカリまで斜め下を向いて笑いを噛み殺しているので神のツボには嵌っているようだ。


「笑い事じゃねえ。マジで目が潰れるかと思ったぞ。」

「ねえお兄ちゃん。アズサ姉ってそんなに凄いの?」

「ああ、何て言うか凄く神々しく見える。まさに直視したら目が潰れそうだ。」

「そうなんだね。でもそれだとアズサ姉が近くに居たらその道具が使えないね。」


するとその指摘に今度は呆れた様にハクレイが溜息を吐いた。

これは明らかに他の誰でもない、俺に対する呆れを含んだものだろう。


「は~~~、それに関しては設定をしてアズサの反応値は下げておきます。それにしても言った直後に見るなんて思いませんでした。」

「ハルヤはアレだからな。後先を考えないのさ。」

「それなら仕方ないですね。」


すると横にいるツキミヤさんが要らない説明を付け加える。

しかし、異世界人であるはずのハクレイはそれで何故か納得してしまった。

どうして俺を見た誰もがアレで納得してしまうのだろうか。

俺は未だに笑い転げているアマテラスを軽く睨むといつもの様に溜息を零した。


しかし、その笑いが突然消え去りその姿をユカリと共に隠した。

そして動きはハクレイにもあり、立ち上がって俺の後ろに移動するとその姿が次第に消え始め、背景に完全に溶け込んでしまう。


「凄いわ!光学迷彩よ!」


それを見て母さんは大喜びで反応を返す。

この世界にもステルス機能は存在するけど光を屈折させて姿を隠す様なものではない。

肉眼で捉えれば見る事が出来る類のものなので、こうして完全なステルス機能を見ると興奮するのも何処となく分かる。

最近の近未来的なアニメだとよくあるから俺も以前なら大はしゃぎしていただろう。

そして少しすると今度はハルアキさんの表情が明らかに歪んだ。


「私の所と進藤家に誰かが忍び込もうとしてるね。結界があるから無理だろうけど誰がそんな事をしてるんだろう?」

「俺の方で逮捕しましょうか?」

「いや、アンドウさんが放置してるって事は国家権力があまり介入できない相手なのかもしれない。今はここで様子を見よう。」


他国のスパイならアンドウさんなら容赦なく処分するか捕まえて情報を聞き出すだろう。

それをしないと言う事はスパイではなく、身分が証明されているか国から何らかの保証を得ている人物が来ているのかもしれない。

それに両サイドの家に現れたのなら放っておいてもすぐにここへもやって来るだろう。


「その前にアズサとアイコさんを少し移そうか。ユカリは2人をそっちで預かっていてくれ。」

「分かったのじゃ。」


そして返事の直後に2人は光に包まれて神棚へと吸い込まれていった。

あそこならそう簡単には手を出せないだろうけど、神である2人も何故こうして隠れたのかが分からない。

ハクレイはその見た目から分かるのだけど、他の人間に見られるのを嫌ったのだろうか。

でもユカリは最近では買い物や散歩と色々と出歩いているので、恐らくはそう言った理由ではないはずだ。

そして気配を探っていると両隣の家に侵入する事を諦めた者達がこの家へと集まってくる。

しかし、その動きからすると素直に呼び鈴を鳴らす気は無さそうだ。

灯りが点いているので周囲を取り囲むように配置に着き、誰も逃がさない様に動いているのが分かる。

しかもその動きには迷いがなく、まるで訓練を重ねた軍隊のようだ。


「どうしたら良いかな?」


ここは家主である父さんにお伺いを立ててみる。

壊されたら直せば良いと言ってもそんな事で無駄なお金を使いたくない。

相手の数は10人程なので骨の2~3本程度なら下級で治せるとすればそちらの方が遥かに安く済みそうだ。

それに壊されたくない思い出の品も複数あるので喧嘩を売られるのを待つよりも売る方が安そうだ。

どちらにしても既に敷地内に不法侵入しているので問題は無いだろう。

そして僅かに考えるのに時間を使用して父さんは判断を下した。


「そうだな・・・やはりここは挨拶に出るべきだろう。俺は正面から行く事にする。」

「じゃあこちらは裏口のをどうにかするよ。」


スキルの望遠で確認しても持っている武器はナイフが数本だけだ。

流石に銃などの飛び道具は持っていないので何も問題は無いだろう。

服装は目元以外を隠す様な黒尽くめで忍者の様だけど少し違う。

黒革のスーツに身を包んでいるのでアサシンと言った方がしっくりくる。


それよりも覚醒者の集団が居る家に押しかけて来る馬鹿が何者なのかが分からない。

これ程の事をされる程に恨まれている記憶が無いので逆恨みか何かかもしれない。

まさか、助けた人達の中に遺産を狙われてる奴が居てそれを助けた報復・・・なんて、バカバカしい事じゃないだろう。


そして表から父さんが出て行ったタイミングから少し遅らせて、俺も扉を開けて外へと出た。

するとそこには突入直前と言った感じで3人の人間が手にナイフを構えて立ち尽くしている。

どうやらこちらから俺が出て来るとは思っていなかったみたいだ。

しかし、それも2秒と続かず、すぐに思考を切り替えて迷いなくナイフを突き出して来た。

どうやら狙いは心臓の様で明らかな殺意が感じられる。


「出て来たのがアズサだったらどうするんだ。」


アケミとユウナならこの程度の攻撃は難無く受け止められるだけでなく、受けてもダメージにすらならないのは明白だ。

しかしアズサなら確実に殺されてしまっていただろう。


そして、その場合に一番問題なのは俺の大事な存在に刃物を向けた事だ。

想像の上の過程にしか過ぎないけど僅かに怒りが湧いてくる。

俺は突き出される刃を素手で握って受け止めるとそのまま力ずくで奪い取り、相手の足へと投げ返した。


「クッ・・・。」


すると投げたナイフは見事に足に突き刺さり、そいつは呻き声と共に後ろによろめいて膝を付いた。

しかし、すぐにナイフを引き抜くとポーションを飲み干して傷を癒す。

そして自分の血で濡れたナイフを構え直し再び襲い掛かって来た。


「良い根性してるな。」


今の俺ならともかく覚醒前なら不可能な行動だろう。

これだけの事が出来ると言う事はそれだけ厳しい訓練を受けているか、実戦を生き抜いてきたと言う事になる。

それ故に増々襲われる理由が思い当たらない。

まあ、考えるのは頭の良い人たちに任せて素早く制圧してしまおう。


俺は向かって来る奴の腕にチョイ『バキ』チョイ『バキ』とチョップで軽く叩き、傍に居る1人へ向けて蹴り飛ばす。

すると、受け止められなかった様でそのまま後ろの壁に激しく激突して動かなくなった。

残った1人には素早く接近し腹へと拳をめり込ませ、血反吐をマスクから滲ませた男の顔面へと追い打ちをかけて地面に沈ませる。

すると壁にぶつかった男が動き出したのでそちらには蹴りを一撃入れて意識を完全に奪い制圧を終えた。


「覚醒者くらいは混ざってると思ったんだけどな。コイツ等は何がしたかったんだ。」


覚醒者を制圧できるのは覚醒者だけだ。

最近になって組織が作った特別製の武器という可能性も出て来たけど、今の俺達に対抗できるかと言えば無理な話だろう。

なので一人くらいは混ざっているかと思ったのだけど全員が普通の人間だった。

それに表でも父さんが7人の襲撃者を倒し終えて家に入ろうとしている。

やっぱり脅威になる様な奴は1人も居なかったようだ。


そして俺達が呼んだ訳でもないのにどうやら救急車がやって来たみたいだ。

きっと手配をしたのはアンドウさん達だろうから、そのまま病院に連れていってもらえるのかは分からないけど、後片付けは任せて放置することにした。


そして予定通りに救急車が到着するとその中には救急隊員のコスプレをしたアンドウさんが混ざっているのが目に入る。

なんだか最近そういう趣味に目覚めたのかとついつい聞きたくなってしまう。

その横ではミニスカナースのツバサさんが居るのだけど、それは変装になっていないだろうと声を大にして言いたい。

そして襲撃者はタンカへと厳重にベルトで固定されてから救急車に乗せられると、そのまま何処かへと消えて行った。


「最近のアンドウさんって変わった気がするね。」

「アケミもそう思うか?」

「うん。でも前よりはとっつき易くなったかな。」

「そうだよね。良く笑う様になったよね。」


確かに今までは仕事中に笑う事が無かったアンドウさんも自然と笑う事が増えて来た。

男は付き合う相手によって変わっていくと聞いた事があるけど、もしかして本当の事だったのかもしれない。


「なあ俺って昔と何か変わったか?」

「え、変わらないよ。」

「そうですね。何も変わらないですね。」


もしかして色々と関係が変わって俺自身にも変化があったのかもと思ったんだけど、どうやら気のせいだったようだ。

すると2人は俺を左右から挟み腕を取って笑顔を浮かべて来た。


「だってお兄ちゃんは昔から私の大好きなお兄ちゃんなんだから。」

「そうです。私にとっても素敵なお兄さんですよ。」

「まあ、そういう事にしておくよ。」


俺は口元を緩めながらそう告げると同時に頭を撫でてやる。

しかし、いまだにユカリたちが姿を現していない事から警戒だけは怠らない。

恐らく、まだ今回のトラブルは終わっていないと言う事だろう。

そして、しばらくすると家の前に新たな客人が現れ呼び鈴も鳴らさずに玄関の扉へと手を掛けた。

どうやら今日の客は礼儀というものを知らないようだ。

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