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100 生徒とダンジョン ①

4人の想いが通じ合った次の日から俺も教師として本格的に指導する事となった。

そして教える事というか、やる事は実戦で役に立つ様に訓練する事だ。

でも軍隊の様に限界まで走らせたり罵声を浴びせて精神を鍛えたりはしない。

出来ないと言う奴には辞めてもらい出来る奴だけに教えて行く。

なので現在は午後の授業を使ってダンジョンへとやって来た。


「それじゃあ説明するからな。」

「あ、あの。いきなりダンジョンに入るのですか?」


すると一人の女性が自信無さげに声を上げた。

現在は30人程の生徒を連れて来ているけど殆どの人が似た様な表情を浮かべている。


ちなみに、ここに居るのは全て18歳以上の大学生ばかりだ。

小・中学生は全員が既に覚醒者になっているので今日の様な選別は必要ない。

入りたければ彼らは既に政府が認めた人材なので自由に入る事が出来る。

それに名目上では彼らは放課後まで授業を受ける必要がある。

その為に九十九学園へと来ているので世間の目もあり非常事態でもない限りは普通の学生と同じ扱いとなる。

高校生も同じで時間が空くのは放課後か週末のみだ。


大学生だけは時間の融通が利かせられるのでこうして課外授業の一環としてダンジョンに来る事が出来る。

そんな事よりもまずは先程の質問に答えないといけない。


「う~んと・・・君は?」

「私は池田イケダです。」


名簿はタブレットにデータとして入っているけど未だに覚えられていない。

名札でも作ろうかとも考えているけど、もう少し頑張ってみるつもりだ。


「イケダさんか。まずは質問に答えるけど率直に言えばその通りだ。ただ、ここの1階層の魔物は弱いから大人の男性なら不意を突かれない限りは殺される事はないよ。」

「あの・・・それだと私達だとダメじゃないですか?」

「そうでもないよ。君たちは身体能力に優れた者が選ばれている。中には文武両道の人もいるね。敵は良くても中学1年生が死ぬ気で襲ってくるくらいの力しかないから冷静に対処すれば死ぬ事はない。たとえ死んでも蘇生させるから死ぬ気で頑張って。」


その辺の事は既にこの授業を受けるための説明で確認と了承は取れている。

それに授業でダンジョンに入った場合は必ず回収する事と蘇生させることは伝えてある。

ただし自分の意思で勝手に入った場合は含まれてはいない。

それで死んで出て来なければ俺達の誰かが回収に向かわないといけないことに変わりはないので覚醒者になる前に俺意外とダンジョンに入るのはなるべく控えてもらいたい。

すると、先程の事には納得したのか質問を変えて来た。


「分かりました。でもそれだと私達は今から魔物と戦うのですか?」

「そうなるね。それと戦うと言えば半分は不正解だ。正確には魔物を殺して貰わないといけない。道具は揃えてるからそれはこれから渡すよ。」


すると多くの生徒が顔から血の気が引いていくのが分かる。

やはり害虫を殺虫剤で殺す様に簡単には行かないみたいだ。

あれは嫌悪感が先に来るから容赦なく殺せるのであって大きな生き物や特に相手が人型だと殺すという行為の方に嫌悪感や躊躇いを感じてしまうのだろう。

この中で何人が手を汚す覚悟があるのか分からないけど、出来れば半分は残ってもらいたいとは思っている。

その為に彼らを元気付ける資料も準備してあるのだ。


「それと魔物を倒すとポーションなどのアイテムをドロップする事は知ってるな。」

「はい。今ではそのおかげで不運な死を遂げた人も助かる様になりました。」


俺達の売った蘇生薬の一部はそういった事に使われている。

中には昔の事故で手足を失っていても一度死んで生き返る事で体を取り戻した人も居るそうだ。

少し前まではダンジョンから魔物が溢れて暗い話が多かったので、メディアは挙ってそういった明るいニュースを取り上げている。

そのおかげで俺達のイメージは今の所は悪い様にはなってはおらず、そうでなければ九十九学園も今の様に覚醒者を受け入れたりはしなかっただろう。


「その通りだ。もし君たちが無事に覚醒できれば、そう言った人々を救う助けになれる。それにドロップ品を売れば良い小遣い稼ぎになるぞ。」


そう言って俺はポーションや蘇生薬の価格表を取り出した。

それを見て全員が目を見張り、配ったプリントに視線が釘付けになっている。

今の価格なら下級でも5~20万を簡単に稼ぐことができる。

中には学費を稼がないといけない人も居るだろうから当然と言えば当然だろう。

それに大学生となれば着ている服、持っている小物、化粧品に仲間との飲み会とお金はいくらでも必要なはずだ。

今の段階なら彼らへの撒き餌として申し分ない効果があるだろう。

ただし覚醒後にどうなるかは言わないでおく。

今までの自分と変わってしまうと聞けば確実に辞退する者が現れるからだ。


「質問をしても良いですか?」

「君は?」

「俺は西村ニシムラです。この下に書いてある売った金額の1割を収めると言うのは?」

「それは部費として使うためだ。実は新設で急いで作ったのが災いして予算が準備できなかった。」

「あの、それって大丈夫なんですか?」


その心配は最もで、予算が無ければ買いたい物も手に入らない。

なら、どうやって道具をそろえたかと言うと俺が予算を肩代わりしている。

2月と3月にちょっと頑張ってダンジョンを探索したので資金は潤沢だ。

それに俺達の装備品に関しては政府が予算を当ててくれているので最近では貯まる一方になっていた。

それでも材料の大半はこちらで準備し、余分な金属類も他国に売ったりしてその国の覚醒者を強化するのに使われるため政府も十分な利益を出している。

これが恐らくトップを走る国の強味なのだろうけど大国が日本に圧力を掛けてくるわけだ。


「それに関しては問題ない。学校からはお金は出てないけど皆で頑張れば大丈夫だ。ちなみに俺が代わりに部費を立て替えてある。それで装備などを整えて今日の交通費も出ている。」

「そうだったんですね。良かったです。」

「ああ、たったの3000万くらいだから30人も居ればすぐに稼げるよ。」

「「「・・・。」」」


すると何故か場が一気に静まり返ってしまった。

冗談を言ったつもりは無いのだけど何でだろうか。


「あの・・・覚醒者になるとそんなに稼げるのですか?」

「稼げるかはその人のやる気しだいだな。現在は世界規模でダンジョン産の物資が不足してるから今だけかもしれないぞ。まあ、簡単に言えば早い者勝ちって事だな」


すると直後に周りのやる気が上げって行くのが伝わってくる。

どうやらこれで何とか頑張ってくれそうだが問題がもう一つ残っている。

それをクリアしない限り覚醒者にはなる事が出来ないのだけど、それに関してだけはこの場で伝える必要がある。


「それでは最後に注意点を1つ伝えます。」


するとやる気になっている彼らの視線が此方へと集中する。

俺はそれに何ら反応を返さずにユカリから聞いた覚醒者の条件を伝える。


「覚醒者とは神、又はそれに類する存在に選ばれた人間の事だけど、別に特別な何かがある訳ではないのでそれは理解して欲しい。単純に大事な何かを持っているかが重要だからそれが無い人は覚醒できずに死ぬ可能性もある。。」


上げて落としてと悪いけど金に目が眩んだだけだと覚醒できない。

ちなみに一部の覚醒者の中には後になって覚醒した人が居るのだけど、あれはその在り様を見て後から神に選ばれた人達だ。

何処から見ていたかと言うと覚醒者の目を通して見ていたそうなので俺の目の前で覚醒者が多かったのはそう言った理由らしい。

例を挙げればウチの家族やユウナ達ががそれに当たる。


しかし実はこの条件に関してはあまり心配していない。

既にある程度の調査をしたうえでこうして集められた彼らには、それぞれに守りたい何かがあるはずだ。

その証明として俺の言葉に誰も怯んでいる者が居ない。

さっきは昨日の軽いランニングからいきなり実戦となったので驚いてしまっただけだろう。


「それなら覚悟が決まった所で武器を渡すから順番に受け取ってくれ。」


俺はそう言ってアイテムボックスから木刀を取り出した。

それを見て今度は誰もが首を傾げ、俺と木刀を交互に見て来る。

すると一人の男性が悩んだ末にそっと手を上げた。


「あの・・・すみません。もしかしてそれで魔物と戦うのですか?」

「そうだけど何か問題がある?着替えの服はあそこの家の中に置いてあるから今着ている服は着替えてくれ。」


あそこの家は政府が買い取って管理している物件だ。

住んでいた人はここから離れて新しい新築の家で暮らしているらしい。

ダンジョンを囲む壁の真横なので安全面の問題から住みたがる人は居ないだろう。

アンドウさん曰く、この周辺でゴネて移動を断った人は誰も居ないそうだ。

それと「住んでいる家に愛着が」と言い出す人にはアズサの所と同様に家ごと移動してもらったそうだ。

微妙に真新しい空き地が目立つのはその為らしい。


そして彼らは仕方なくと言った感じで男女に分かれてそれぞれの家に入って行った。

すると、その様子を見ていた見張りの警察官が苦笑を浮かべながらこちらへとやって来る。


「こんにちは。今日からですね。」

「はい。これから彼らも頻繁に来るのでよろしくお願いします。」

「お任せください。無謀な事をしない様に目を光らせておきます。」


とは言っても警官では覚醒者は止められないので声だけは掛け、その後に俺達の誰かに連絡が来る事になっている。

もし急を要する場合は母さん達も動いてくれるので大丈夫だろう。

そして、しばらくするとそれぞれに着替えを終えた生徒たちが姿を現した。


「サイズはみんな大丈夫だったか?」

「はい。でも、この迷彩柄は自衛隊の服ですよね。」

「俺達は自衛隊の所属になるんですか?」

「いや、この国の方針では覚醒者を雇用する形態は取ってないな。時々、依頼が来る事はあるけど、それ以外は普通の人と同じ扱いで生活もしている。ただ、一般常識に当てはめて周りに著しく迷惑を掛けたら普通の人よりも厳しく罰せられるかもな。服に関しては揃えて手に入りやすい丈夫な服で採用されただけだろう。」


罰則について曖昧なのは日本において覚醒者が問題を起こしたと聞いた事が無い。

ダンジョンに潜って戦えばお金は稼げるし、犯罪を犯すメリットがないからだ。

しかも俺達は基本的に何処からか監視されているので相手が罪を押し付けて来ても証人がいるので冤罪も無い。

監視員に関しても慣れてしまえば生活に干渉はしてこないので常に見られているのも悪い事ばかりじゃないだろう。

その辺の事を普通の人に話せば確実に引かれてしまうだろうから、これに関しても後で説明する事にしている。

都合の悪い事は力を手に入れて手遅れになってからにして、今はダンジョンの事だけに集中してもらおう。


「よし。準備が整ったなら10人のグループを作ってくれ。これは今だけだから後で自由に別のグループを作ってくれても良いからな。」

「そのグループに何か決まりはありますか?」

「出来れば必ず男が居る様にしてくれ。いざという時に盾に使える。」

「分かりました。」

「「「オイ!」」」


すると女性陣は笑いながら男女混合で3つに分かれてチームを作るために周りと相談し、ツッコミを入れて来た男性陣も苦笑しながら女性がチームに入った事でやる気を見せ始める。

そして士気が上がって来た所で最後の説明に移った。


「この3チームで順番にダンジョンへ入って魔物を倒してもらう。今日のノルマは1人1匹でドロップアイテムは一旦集めてお金に変えた後に分配する。それとゴブリンは卑猥な意味で女性が大好きなので注意するように。」


すると女性陣からは小さな悲鳴が上がりあからさまに表情を歪めた。

聞きようによってはハラスメントと言われそうだけど、これを言っておかなくて後で手遅れになった方が大変だ。

確実に一生分の傷になり下手をすれば心が折れる。

誰だって魔物の餌食になんてなりたくはないだろうから、こう言っておけば周りで最低限の連携はするだろう。

特殊性癖でもあれば別だけど実際に玩具にされている所を見た事のある俺としてはお勧めできない。


それにこの大学生たちってみんな見た目がそれなりに良いので、まるでオーディションでもして選んだみたいな印象を受ける。

もしかしてツクモ老は歌って踊れる覚醒者を育てるつもりなのだろうか?

職業に歌姫があるので不可能ではないけど、学園アイドルとかご当地アイドルは勘弁してほしい。

ただ全てが俺の妄想であるのでただの偶然なのだろう。

俺は育てるだけなので副案があるならあっちで勝手にやってもらおう。


そして俺はそれぞれに1班から3班と名前を付けて1班に声を掛けた。


「それじゃあ1班行くぞ。」

「え~なんだか名前が可愛くないです。もっとこう可愛らしい班名を希望します。」


すると何故か女性陣から班の名前についてクレームが入った。

これがユトリ教育の弊害と言うものか。

その最たる俺が言うのもなんだけど、他の名前と言われても急には浮いて来ない。

そう言えば少し前にニュースで最近は深海生物が水族館でも人気があると言っていたな。

その時の俺は見ても気持ち悪いだけだと思っていたけど、インタビューを受けていた女性は可愛いと言って笑っていたからアレで良いだろう。


「それなら1班はダイオウグソクムシチームとしよう。」

「「「・・・」」」


すると周囲の静まり俺に向かい可哀そうな者を見る様な目を向けて来る。

もしかしてこれもダメなのか?


「先生には名付けの才能が無いのですね・・・。」

「き、気にしないでください先生。最近は子供の名前は依頼すれば考えてくれる所が沢山ありますから。」

「お、おお。なんだか普通って良いよな。」

「俺も1班でも良い気がするぞ。」

「私も・・・今ならそっちも素敵に思えてきました。」


そして最初と違い沢山の哀れみと慰めの言葉を掛けてくれる。

そう言えば、元スナイパーの3人にも数字の順番で名前を付けたんだよな。

・・・それにオウカは頭の花から思い付いて名付けたけど、本当に気に入っているのだろうか!?

今の周りの反応から言ってなんだか心配になってきたので帰ったらすぐにでも確認をしてみよう。

しかし、それよりもまずは仕事が優先だ。


「班名が無事に確定した所でダンジョンに入るぞ。」

「「「はい。」」」


そして俺達は警備をしている警察官の人に言ってゲートを開けてもらい中へと入って行った。

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