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泡沫  作者: 若葉 美咲
2.過去からの復讐者
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裏切り者には……


「久恩よ……あいつは、あいつは私を捨てた! 全てを捨てて裏切った! あいつが裏切らなければ私は!」

 小雪が言いながら、足を振り上げてきた。

 動きはゆっくりに見えるのに。

 “穢れ”てしまった私はすぐ動くことができない。これまで、小雪に蹴られてきた痛みも加算されて動きづらい。

「あの人が居なくなることもなかったのに!」

 話がつながらない。

 言葉の先が見えない。

 ただ、痛いくらいの後悔と憎しみが伝わってきた。

 どうにかしたくて。でも、どうしようもなくて。

 だから苦しくて。

「左だ!」

 シロの声に耳を傾けて、言われたままに体を倒す。

 私の顔の横を通り過ぎて、小雪の足が壁を蹴破った。


 久恩の見開かれた瞳、古ぼけた電気。

 斜めになっていく視界、慌てた様子のシロ。

 私を蹴るまではと恐ろしい顔で追ってくる、小雪。

 変な感じがした。

 どんどん下がっていく視界を散っていく木の破片。


「あ」


 久恩と目が合った。

 瞬間、時間の流れが不通に戻ったような気がした。

 体が倒れて、もんどりうって転がっていく。

 どれだけの力でのけぞったのだろう。いや、もしかしたら小雪の力だけで転がったのかもしれないが。

 ゴン、と音がするまで転がって頭を壁にぶつけた。

 これが中々に痛い。

 じんわりと涙が浮かんでくる。

 手をあてれば、ぬめり、と赤い液体がべったりと着いた。

「美姫? お主、何をやってるんじゃ?」

 困惑した顔で久恩が呼びかけてくる。

「えっと、あはは」

 苦笑いがこぼれた。

 だって、説明できないじゃないか。

 私がここにいる状況も、“穢れ”てしまった理由も。

「ほら、来るよっ!」

 シロの声に振り向けば、小雪の蹴りが目前まで迫っていた。

 咄嗟に腕を上げて、防ぐ。

 腕がもげるかと思うぐらいの衝撃。体が吹き飛ぶ感覚。

「美姫!」

 久恩の声か、それとも、シロの声なのか。聞き分けることは出来なかった。

 それを最後に強い衝撃を受け、私の意識はぼやけた。


 ずっと幸せになりたかった。

 私だって私自身を見てもらいたかった。

 だからこそ、努力をした。努力を惜しまなかった。

 だけど、両親は良い子にしていた私よりも姉の方を見続けていた。こっちを見て、という気持ちは日増しに強くなっていた。

 なのに。

 気持ちは届かなくて。

 恨んだ。

 姉のことを。両親のことを。クラスメイトを。先生を。

 自分を見失うくらいに。

 恨んで、恨んで、恨んで……。

 だけど、気が付いた。

 私は私であることを一番恨んでいた。一番、自分自身のことが嫌いだった。


「美姫っ!!」

 悲鳴染みた久恩の声で目が覚めた。

「クソ餓鬼っ!!」

 小雪の言葉が聞こえた。

 シロの手が伸びてくるが、間に合いそうにない。

 だけど、私はおかしくなってしまったのか、笑みを引っ込めることができなかった。


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