誰かの支え
社長の声掛けのおかげでいつもの団結力を活かせるようになった『相談屋』に怖い物はないだろう。
動けるものが中心になって、その場の指示をしつつ、まとめていく。
状況が物語ること、妖力の流れ、久恩の過去を洗う者。
それぞれが手分けして、久恩を取り戻すために動いていた。
「社長! 乃愛です、入ります」
そんな中、私のお世話役を任されていた乃愛が社長室を訪れたという。
顔色は酷く、目元は赤くなっていた、と聞かされている。
「すいません、社長から仰せつかっていたことなのに……私、私っ!」
乃愛は大粒の涙をこぼしながら社長に謝ってくれたそうだ。
これもそれも、私が勝手な行動をとったばかりに、乃愛に気苦労をかけ、悲しませてしまった。
この書類を書くとき、私はずっと苛まれている。悔やまれている。
だけど、これが事実で、書き留めておかなければならないことで。
だからこそ、私はこうして向かい合い、苦しまなければならない。愚かで未熟な私自身と。
「美姫を一人で行かせてしまったみたいでっ!」
乃愛は何度も謝罪の言葉を口にした。
「もういい、止めろ」
社長が声をかける。
「だけど……だけどっ、私がもっとしっかりしていれば!」
社長の言葉すら、乃愛の耳には届かなかったらしい。
乃愛は泣きながら、訴えるばかりで。見てる側が痛々しい気持ちになるぐらい、泣きはらしていた。
「そんなこたぁねぇよ」
社長が乃愛の頭に手を置いた。
弾かれるようにして、乃愛が顔を上げる。社長が乃愛と視線を合わしてくれたそうだ。
「すまねぇな。こうなるこたぁ、最初から分かってたんだ。分かってて、お前さんに無理をさせちまった」
社長が低い声で言う。
乃愛の目じりから新しい涙がこぼれて落ちていった。
「だから、お前さんが必死に謝ることじゃねぇ」
社長がフッと笑って見せる。
「謝らにゃならねぇのは俺と、あのド阿保だ」
社長はにっこり笑いながら、確かにそう言い放った、と後々聞いた。
確かに今回のことは私が全体的に悪い。いや、全て悪い。
だけど、その時の社長の様子はリアルに想像したくなかった。きっと大層お怒りだったに違いないのだから。
「……はい」
乃愛は納得したわけではないらしいが、その言葉でだいぶ落ち着いたらしい。
涙を乱暴に拭って、社長を見据えた。
「目が腫れんぞ」
社長はそう言って、袖で乃愛の目元を拭ってやったという。
おかげで乃愛は落ち着いたようだった。頬を赤らめる余裕が出てきたようだった、と私に話してくれた誰かが言っていた。
「そしたら、あのド阿保を迎えに行こうぜ」
社長が立ち上がる。
周りにいた社員が動揺した。
「社長。まだ、久恩さんと美姫さんがどこにいるのかは分かっていません」
会議に参加していたはずの社員が言った。
社長はまあ、そうだろうよ、と言葉をこぼした。
だが、社長は歩き始める。社員は顔を見合わせて動き出した。
「いいか、こういうのは時間だ。会議してても解決方法は見つからなかっただろうが」
そう言いながら、社長はどんどん進んでいく。
「人間界に飛ぶ。ついて来い、乃愛。他は連絡があるまで待機。仕事は受けんなよ」
「はい!」
各々が返事をして動き出す。
久恩がいないことに誰もが不安を覚えながら。
久恩はこの『相談屋』の中心で、支えで柱のような存在で。
きっと、前の所属していたという百鬼夜行でもそんな存在だったのだろう。そういう予想は簡単にできる。
だからこそ、皆が必死になるのもうなずける。
そして、裏切られた、という想いが生まれてしまうのも無理はない、と思えてしまう。だからって傷つけることはしてはいけない。その一線を越えてしまったらきっと――。




