81 舞踏会
「ミナ!」
ファーストダンスを終えてアルフォンスと共にフロアから下がってきたミナにフランツィスカが声を掛けた。
「良かったわ。とても綺麗だったわ」
「…でも間違えちゃった…」
暗い表情のミナはそう呟いてアルフォンスへ向いた。
「ごめんなさい…」
「何、あれは私が上手くリード出来なかったせいだ。ミナは気にするな」
「そうだよ、初めての人前でのダンスがファーストダンスなんだ。緊張しない方がおかしいんだから」
フランツィスカと共にいたアルトゥールもそう言って妹を慰めた。
舞踏会で最初に踊るのは国王夫妻と決められている。
だが今年の主役であるアルフォンスとミナも共に踊る事になったのだ。
アルフォンスとは何度も練習を重ねてきた。
けれど大勢の注目を浴びて緊張しない訳もなく———ミナはステップを間違え、アルフォンスの足を踏んでしまったのだ。
「でも…」
「ほら見て、ミナ」
フランツィスカはミナの後ろを示した。
「みんな動きがぎこちないでしょう。ミナのダンスはあれよりずっと立派だったわ」
フロアでは社交界デビューした若者達が踊っていた。
皆やはり初めてという事で緊張しているのだろう、表情が強張っていたり動きが硬かったりと初々しい。
———確かに他から見れば微笑ましい光景だけれど、当人からすれば問題なのだ。
「ミナ」
失敗を思い出して暗くなっていると声を掛けられ、ミナは顔を上げた。
「シス…アンネリーゼ様」
「社交界デビューと婚約おめでとう。堂々としていて良かったわ」
笑顔のリゼがやってきた。
「でもダンスで失敗してしまって…」
「あれくらい大した事ないわ。私も初めての時は三回足を踏んだもの」
「…アンネリーゼ様も?」
「ああ、そういえば覚えていますね…」
思い出すようにアルトゥールが視線を宙へ向けた。
「ハルトヴィヒ殿下の顔が苦痛に歪んで。さぞ痛かったんでしょうね」
「…そんなに…」
「———最初の失敗は誰でも許されるわ。同じ過ちを繰り返さなければいいの」
そう言って、リゼはミナの姿を見渡して目を細めた。
「それにしても、初めてミナに会った時はお互いこんな事になるとは思わなかったわ」
「…そうですね…」
あの頃はミナもまだ魔法が使える事を知らなかった。
自分が貴族に戻るなど思いもよらなかったし…しかも女神の力を持ち、王太子の婚約者となるとは。
「アンネリーゼ様がいなかったら…私はここにいられませんでした」
リゼがミナに魔法を教えてくれたから学園に入る事ができた。
その後も何かとミナを支えてくれているし、最近ではお妃教育も助けてもらっている。
本当に、ミナにとってリゼの存在はどれだけ大きいだろう。
「私も、ミナに会えて良かったわ」
ミナの成長と変化を間近で見続けてきたからこそ、リゼもかつて自分を追放した貴族社会へ戻ろうと思えたのだ。
公爵家へ戻るにあたり、リゼは父親に条件をつけた。
シスターとして孤児院の子供達の面倒を見てきた経験と彼らへの思いを忘れたくないと、孤児院や親を失った子供たちへの支援を今後トラウトナー公爵家として行っていくという事を。
その話を聞いて自分も協力したいと言ったミナに、リゼは「未来の王妃として特定の対象だけでなくもっと多くの弱者に目を向けなさい」と返した。
邪神や魔物の脅威は減ったとはいえその傷跡はまだ多く残っているし、様々な理由で生活に困っている人も多い。
ミナはそれらに幅広く手を差し伸べなければならないのだと。
これまで目の前の事や自分の事だけで精一杯だったミナに、それが出来るのかどうか分からない。
けれどミナは一人ではない。
アルフォンスや家族、そしてリゼなど大勢の人達がミナを支えてくれる。
彼らと一緒ならばきっと出来るだろう。
何も出来ないで死んでしまった『未奈』のためにも。
その未奈に力を新しい命を与えてくれた女神のためにも。
ミナはこれからも、未知の世界へ歩き続けていくだろう。
「ミナ」
アルフォンスが手を差し出した。
「もう一曲踊ってくれるか」
「…はい」
差し出された手を取るとアルフォンスは嬉しそうに笑った。
そう、何よりもミナには彼がいる。
二人一緒ならば、怖くない。
ミナはアルフォンスと共にフロアへと向かっていった。
おわり
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
こんなに長く書く予定では無かったのですが…
無事書き上げる事ができて良かったです。
ミナの話は終わりですが、おまけが続きます。




